説明

冷え症改善剤

【課題】 冷え症を有する者に対して、冷え症を改善し、充実した生活を創出させる医薬品、栄養食品等が望まれている。すなわち、本発明の目的は、冷え症改善剤、冷え症改善用飲食品または食品添加剤を提供することにある。
【解決手段】 本発明によれば、オルニチンまたはその塩を有効成分として含有する冷え症改善剤、冷え症改善用飲食品または食品添加剤を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルニチンまたはその塩を有効成分として含有する、冷え症改善剤、冷え症改善用飲食品および食品添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
女性の半数以上が冷え症を訴えていると言われている。人間の体は、通常、寒さを感じると体の表面の毛細血管を収縮させて体温が外へ逃げないようにするが、ある程度の時間で今度は血液を送り込み、体表の温度が下がりすぎないように調節している。ところが冷え症の場合、いつまでも血管が収縮しているために手足の冷えを感じる。さらに、周囲が暖かくなってもなかなか血管が広がらず回復するのに時間がかかる。運動不足や食習慣、血管の収縮と拡張を受け持っている自律神経の調節機能がうまく機能しないことが冷え症の原因のひとつと考えられている。
【0003】
冷え症を改善する方法としては、入浴、運動、食生活の見直し、マッサージなどが知られている。
オルニチンは、成長ホルモンを分泌させ筋肉合成を増強する、あるいは基礎代謝を高め肥満を予防する食品素材として、米国を中心に用いられている。また、オルニチンは、欧州では肝臓障害を改善する医薬品としてL-オルニチンL-アスパラギン酸塩の形態で用いられている。
【0004】
オルニチンと代謝上近い関係にあるアルギニンには血管拡張作用や血液流動性改善作用等が報告されている一方で、オルニチンはアルギニン不足を補う作用はない(非特許文献1)。また、オルニチンは、ヒト前腕で血管拡張作用を示さないことが知られており(非特許文献2)、オルニチンを前駆体として合成されるポリアミンは発熱への関与が否定されている(非特許文献3)。
【非特許文献1】「ジャーナル・オブ・ニュートリション(Journal of Nutrition)」、1994年、124巻、10号、p1950-1960
【非特許文献2】「ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲイション(European Journal of Clinical Investigation)」、1996年、26巻、4号、p325-31
【非特許文献3】「ジャーナル・オブ・ファーマシー・アンド・ファーマコロジー(Journal of Pharmacy & Pharmacology)」、1985年、37巻、5号、p365-366
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冷え症を有する者に対して、冷え症を改善し、充実した生活を創出させる医薬品、栄養食品等が望まれている。すなわち、本発明の目的は、冷え症改善剤、冷え症改善用飲食品または食品添加剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下(1)〜(4)に関する。
(1)オルニチンまたはその塩を有効成分として含有する冷え症改善剤。
(2)オルニチンまたはその塩を有効成分として含有する冷え症改善用飲食品または食品添加剤。
(3)オルニチンまたはその塩を含有し、かつ冷え症改善のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品。
(4)本体、包装、説明書、宣伝物または宣伝用電子的情報に冷え症改善作用を表示した、オルニチンまたはその塩を含有する飲食品。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、オルニチンまたはその塩を有効成分として含有する、安全で効果的な冷え症改善剤、冷え症改善用飲食品または食品添加剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いられるオルニチンとしては、L-オルニチンおよびD-オルニチンがあげられるが、L-オルニチンが好ましい。
オルニチンは、化学的に合成する方法、発酵生産する方法等により取得することができる。また、オルニチンは、市販品を購入することにより取得することもできる。
L-オルニチンを化学的に合成する方法としては、例えば、Coll.Czechoslov.Chem.Commun.,24,1993(1959)に記載の方法があげられる。
【0009】
L-オルニチンを発酵生産する方法としては、例えば、特開昭53−24096号公報、特開昭61−119194号公報に記載の方法があげられる。
また、L-オルニチンおよびD-オルニチンは、シグマ−アルドリッチ社等より購入することもできる。
オルニチンの塩としては、酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等があげられる。
【0010】
酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、α−ケトグルタル酸塩、グルコン酸塩、カプリル酸塩等の有機酸塩があげられる。
金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等があげられる。
【0011】
アンモニウム塩としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩があげられる。
有機アミン付加塩としては、モルホリン、ピペリジン等の塩があげられる。
アミノ酸付加塩としては、グリシン、フェニルアラニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の塩があげられる。
【0012】
上記のオルニチンの塩のうち、塩酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、α−ケトグルタル酸塩、アスパラギン酸塩が好ましく用いられるが、他の塩、または2以上の塩を適宜組み合わせて用いてもよい。
本発明の冷え症改善剤、飲食品または食品添加剤には、オルニチンまたはその塩に加え、適宜、各用途に適した添加剤を含有させることができる。
【0013】
該添加剤としては、例えば、バリン、ロイシン、イソロイシン、アルギニン、リジン、グルタミン、アラニン、セリン、グリシン、システイン、スレオニン等のアミノ酸等があげられる。
本発明の冷え症改善剤、飲食品または食品添加剤を投与または摂取することにより冷え症を改善することができる。
【0014】
冷え症は、手足が冷たい、腰が冷えるといった症状をいうが、本発明の冷え症改善剤、飲食品または食品添加剤を投与または摂取することにより、手足、腰の冷えを改善することができる。
本発明の冷え症改善剤は、オルニチンまたはその塩を含有し、必要に応じて薬理学的に許容される一種または二種以上の担体、さらに必要に応じて他の治療のための有効成分を含有していてもよい。
【0015】
本発明の冷え症改善剤は、オルニチンまたはその塩を必要に応じ担体等と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造することができる。
投与経路は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口または、例えば静脈内等の非経口をあげることができるが、経口が好ましい。
投与形態としては、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、注射剤等があげられる。
【0016】
経口投与に適当な、例えばシロップ剤のような液体調製物は、水、蔗糖、ソルビット、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油等の油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を使用して製造できる。また、錠剤、散剤および顆粒剤等は、乳糖、ブドウ糖、蔗糖、マンニット等の賦形剤、澱粉、アルギン酸ソーダ等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を用いて製造できる。
【0017】
非経口投与に適当な製剤は、好ましくは受容者の血液と等張である、オルニチンまたはその塩を含む滅菌水性剤からなる。例えば、注射剤の場合は、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩水とブドウ糖溶液の混合物からなる担体等を用いて注射用の溶液を調製する。
また、これら非経口剤においても、経口剤で例示した希釈剤、防腐剤、フレーバー類、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、可塑剤等から選択される1種またはそれ以上の補助成分を添加することもできる。
【0018】
本発明の冷え症改善剤として経口剤を使用する場合、当該経口剤中のオルニチンまたはその塩の濃度は、経口剤の種類、投与により期待する効果等に応じて適宜選択されるが、オルニチンまたはその塩として、通常は0.1〜90重量%、好ましくは0.5〜80重量%、特に好ましくは1〜70重量%である。
本発明の冷え症改善剤の投与量は、投与形態、投与される者の年齢、体重等に応じて異なるが、経口投与の場合、通常成人に対し一日あたりオルニチンまたはその塩として、50mg〜30g、好ましくは100mg〜10g、特に好ましくは200mg〜3gであり、1日に1回または数回に分けて投与する。投与期間は、特に限定はないが、通常は1日間〜1年間、好ましくは1週間〜3ケ月間である。
【0019】
本発明の食品添加剤は、上記の冷え症改善剤と同様な方法により調製することができる。該食品添加剤は、通常、必要に応じて他の食品添加剤を混合または溶解し、例えば粉末、顆粒、ペレット、錠剤、各種液剤の形態に加工製造される。
本発明の飲食品としては、飲食品中にオルニチンもしくはその塩、または本発明の食品添加剤を添加したものがあげられる。
【0020】
本発明の飲食品は、飲食品中にオルニチンもしくはその塩、または本発明の食品添加剤を添加する以外は、一般的な飲食品の製造方法を用いることにより、加工製造することができる。
本発明の飲食品は、例えば流動層造粒、攪拌造粒、押し出し造粒、転動造粒、気流造粒、圧縮成形造粒、解砕造粒、噴霧造粒、噴射造粒等の造粒方法、パンコーティング、流動層コーティング、ドライコーティング等のコーティング方法、パフドライ、過剰水蒸気法、フォームマット方法、マイクロ波加熱方法等の膨化方法、押出造粒機やエキストルーダー等の押出方法等を用いて製造することもできる。
【0021】
本発明の飲食品は、ジュース類、清涼飲料水、茶類、乳酸菌飲料、発酵乳、冷菓、バター、チーズ、ヨーグルト、加工乳、脱脂乳等の乳製品、ハム、ソーセージ、ハンバーグ等の畜肉製品、蒲鉾、竹輪、さつま揚げ等の魚肉練り製品、だし巻き、卵豆腐等の卵製品、クッキー、ゼリー、チューインガム、キャンデー、スナック菓子等の菓子類、パン類、麺類、漬物類、燻製品、干物、佃煮、塩蔵品、スープ類、調味料等、いずれの形態のものであってもよい。
【0022】
また、本発明の飲食品は、例えば粉末食品、シート状食品、瓶詰め食品、缶詰食品、レトルト食品、カプセル食品、タブレット状食品、流動食品、ドリンク剤等の形態のものであってもよい。
本発明の飲食品は、冷え症改善用の健康食品、機能性食品、栄養補助食品、特定保健用食品等の飲食品として用いることができる。
【0023】
本発明の飲食品または食品添加剤には、一般的に飲食品に用いられる食品添加剤、例えば甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色料、漂白料、防かび剤、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料、香辛料抽出物等が添加されてもよい。
本発明の飲食品中へのオルニチンもしくはその塩、または本発明の食品添加剤の添加量は、飲食品の種類、当該飲食品の摂取により期待する効果等に応じて適宜選択されるが、オルニチンまたはその塩として、通常は0.1〜90重量%、好ましくは0.5〜80重量%、特に好ましくは1〜70重量%含有するように添加される。
【0024】
本発明の飲食品の摂取量は、摂取形態、摂取者の年齢、体重等に応じて異なるが、通常成人に対し一日あたりオルニチンまたはその塩として、50mg〜30g、好ましくは100mg〜10g、特に好ましくは200mg〜3gであり、1日に1回または数回に分けて摂取する。摂取期間は、特に限定はないが、通常は1日間〜1年間、好ましくは1週間〜3ケ月間である。
【0025】
以下に、オルニチンの冷え症改善効果を調べた試験例を示す。
試験例
健常な45歳から64歳までの男女14名を7名ずつ2つの群に分け、実施例1の錠剤(オルニチンを含有する錠剤)または比較例1の錠剤(オルニチンを含有しない錠剤)を1日当たり6錠ずつ3週間摂取させる試験を行った。試験開始時および試験終了時における被験者の手足の冷えについて、線分スケール(VAS)法を用いて評価した。
【0026】
すなわち、線分の両端に基準となる表現を記し、被験者に、図1に示される質問項目の内容に関して線分のどのあたりに相当するかをチェックしてもらった。線分の左端からチェックした部分までの距離(mm)を測定して、試験前と試験後の差を求めた。この差が試験前の値に占める割合を百分率で表し、群毎の平均値および標準偏差を求めた。さらに、オルニチン群の平均値からプラセボ群の平均値を引いて平均改善率(%)とした。なお、試験開始時に2群間で差がないことを確認している。
【0027】
また、試験は無作為割付とし、二重盲検並行群間比較を行った。2群間の統計学的有意差検定は、試験開始時と試験終了時の差から両側分布のunpaired-t検定を行った。
結果を図2に示す。オルニチン摂取により、手足の冷えが顕著に改善した。この結果から、オルニチンの冷え症改善効果が示された。
以下に、本発明の実施例を示す。
【実施例1】
【0028】
オルニチンを含有する錠剤の製造
オルニチン塩酸塩136.2kg(製品名:L-オルニチン塩酸塩、協和発酵工業社製)、微結晶セルロース36.0kg(製品名:アビセルFD101、旭化成ケミカルズ社製)、ショ糖脂肪酸エステル6.6kg(製品名:DKエステルF-20W、第一工業製薬社製)、リン酸カルシウム1.2kg(製品名:リン酸三カルシウム、太平化学産業社製)およびβ-シクロデキストリン20.0kg(製品名:セルデックスB-100、日本食品化工社製)を、コニカルブレンダー(CB-1200ブレンダー、日本乾燥機株式会社製)を用いて混合した。得られた混合物をロータリー圧縮成形機(VIRGO524SS1AY、菊水制作所社製)を用いて、圧縮成形圧10kNで圧縮成形して、直径8mm、250mgの錠剤を製造した。
【実施例2】
【0029】
オルニチンを含有する腸溶カプセルの製造
実施例1で調製した混合物20kgと0.2kgの二酸化ケイ素とを混合攪拌して得られた混合物をカプセル充填機に投入し、ゼラチン製2号ハードカプセル20000錠に充填し、ハードカプセルを得た。得られたハードカプセルの表面を、ハイコーターHCT-48型(フロイント産業社製)により、ツェイン溶液を用いてコーティングし、オルニチン塩酸塩を含む腸溶カプセル20000錠を製造した。
【実施例3】
【0030】
オルニチンを含有する腸溶錠剤の製造
実施例1で調製した錠剤の表面を、ハイコーターHCT-48型(フロイント産業社製)により、シェラック溶液を用いてコーティングし、腸溶錠剤を製造した。
【実施例4】
【0031】
オルニチンを含有する飲料の製造
オルニチン塩酸塩1.28kg(製品名:L-オルニチン塩酸塩、協和発酵社製)、エリスリトール3kg(日研化学社製)、クエン酸0.05kg(協和ハイフーズ社製)、人工甘味料3g、香料0.06kgを液温70℃で水50Lに攪拌溶解し、クエン酸でpHを3.3に調整後、プレート殺菌を用いて滅菌して瓶に充填後、パストライザー殺菌し、オルニチン飲料を製造した。
【0032】
比較例1
実施例1におけるオルニチン塩酸塩の代りに同量の乳糖を使用して、オルニチンを含有しない錠剤を製造した。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、線分スケール法を用いた評価における質問事項を表す図面である。線分の両端に基準となる表現を示す。
【図2】図2は、オルニチンの冷え症改善効果を表すグラフである。縦軸は、手足の冷えに関する指標の平均改善率(%)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルニチンまたはその塩を有効成分として含有する冷え症改善剤。
【請求項2】
オルニチンまたはその塩を有効成分として含有する冷え症改善用飲食品または食品添加剤。
【請求項3】
オルニチンまたはその塩を含有し、かつ冷え症改善のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品。
【請求項4】
本体、包装、説明書、宣伝物または宣伝用電子的情報に冷え症改善作用を表示した、オルニチンまたはその塩を含有する飲食品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−119348(P2007−119348A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309195(P2005−309195)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年(平成17年)5月7日 「日本経済新聞(夕刊)」に発表
【出願人】(000001029)協和醗酵工業株式会社 (276)
【Fターム(参考)】