説明

冷メントール受容体TRPM8の低分子量モジュレーターの検出および使用

本発明は、冷メントール受容体TRPM8の新規なモジュレーター、上記モジュレーターを用いたTRPM8受容体のモジュレート方法;冷感を誘発するためのモジュレーターの使用;および上記モジュレーターを用いて生み出される目的および手段に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷メントール受容体TRPM8の新たな種類のモジュレーター、これらのモジュレーターを用いたTRPM8受容体のモジュレーション方法;冷感を誘発するための上記モジュレーターの使用;またこれらのモジュレーターを用いて製造される物品および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
「一過性受容体電位イオンチャネル」ファミリーに属する冷メントール受容体TRPM8(冷膜受容体(Cold Membrane Receptor (CMR))1とも呼ばれる)は、特定の神経群において特異的に発現し、また細胞膜に、Ca2+イオンを選択的に通過させる孔を形成する(いずれの場合も4単位が結合して四量体を与える)。このタンパク質は、6つの膜貫通ドメインならびに細胞質C末端およびN末端を有する。この受容体を低温(好ましくは10〜25℃)刺激するとシグナル伝達が生じ、これが神経系によって冷感と判断される。上記の受容体は、冷受容体として、多数の刊行物において2002年に初めて報告された(Peier AMら, .A TRP channel that senses cold stimuli and menthol.Cell. 2002 Mar 8;108(5):705-15;McKemy DDら Identification of a cold receptor reveals a general role for TRP channels in thermosensation. Nature. 2002 Mar 7; 416 (6876): 52-8;Zuker CS. Neurobiology: a cool ion channel. Nature. 2002 Mar 7;416 (6876): 27-8)。
【0003】
例えばメントールなどの冷感化合物は、長い間、香料および香水の産業において、爽やかさおよび清浄感を伴わせるために重要な役割を果たしてきた。メントール化合物については、受容体TRPM8の天然のモジュレーターとして作用することが示されている(McKemy D.D., Molecular Pain 1, 2005, 16; McKemy D.D., Nature 416, 2002, 52-58;Peier A.M., Cell 108, 2002, 705-715;Dhaka A., Annu. Rev. Neurosci. 29, 2006, 135-161)。メントールを適用するとTRPM8が活性化し、これが冷感神経へのCa2+の流入をもたらす。結果として生じる電気信号は、最終的には冷感として知覚される。メントール濃度が上昇すると、刺激および麻酔作用がもたらされる。さらに、各種の刊行物が、同様の作用を有するメントール誘導体について報告している(British Patent 1971#1315761;Watson H.R., J. Soc. Cosmet. Chem. 29, 1978, 185-200;Furrer S.M., Chem. Percept. 1, 2008, 119-126)。著しいTRPM8モジュレーションを生じさせる、メントールとは構造的に関連しない個別化合物(例えばイシリン(Wei E.T., J. Pharm. Pharmacol. 35, 1983, 110-112;WO 2004/026840)、WS-23または特許出願WO 2007/019719において挙げられる化合物など)も存在する。
【0004】
TRPM8受容体をモジュレートする物質および/またはその類似体のさらなる作用は、昆虫に対する忌避作用(WO 2002/015692;WO 2004/000023、US 2004/0028714)、また抗腫瘍療法における活性(例えば前立腺腫瘍に及ぼす影響)、炎症性疼痛/痛覚過敏の治療における活性および膀胱症候群すなわち過活動膀胱の治療におけるTRPM8アンタゴニストとしての作用(Beck B. Cell Calcium, 41, 2007, 285-294;Levine J.D. Biochim. Biophys. Acta, Mol. Basis Dis. 1772, 2007, 989-1003;Mukerji G., BMC Urology 6, 2006, 6;US 2003/0207904;US 2005/6893626;Dissertation Behrendt H.J. 2004, Universitaut Bochum;Lashinger E.S.R. Am. J. Physiol. Renal Physiol. Am J Physiol Renal Physiol. 2008 Jun 18. [Epub ahead of print];PMID:18562636)である。
【0005】
しかし、現在までに発見されたTRPM8モジュレーターの多くは、作用強度、作用持続時間、皮膚/粘膜刺激、匂い、味、溶解性および/または揮発性の点で不足している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】British Patent 1971#1315761
【特許文献2】WO 2004/026840
【特許文献3】WO 2007/019719
【特許文献4】WO 2002/015692
【特許文献5】WO 2004/000023
【特許文献6】US 2004/0028714
【特許文献7】US 2003/0207904
【特許文献8】US 2005/6893626;
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Peier AMら, .A TRP channel that senses cold stimuli and menthol.Cell. 2002 Mar 8;108(5):705-15
【非特許文献2】McKemy DDら Identification of a cold receptor reveals a general role for TRP channels in thermosensation. Nature. 2002 Mar 7; 416 (6876): 52-8
【非特許文献3】Zuker CS. Neurobiology: a cool ion channel. Nature. 2002 Mar 7;416 (6876): 27-8
【非特許文献4】McKemy D.D., Molecular Pain 1, 2005, 16
【非特許文献5】McKemy D.D., Nature 416, 2002, 52-58
【非特許文献6】Peier A.M., Cell 108, 2002, 705-715
【非特許文献7】Dhaka A., Annu. Rev. Neurosci. 29, 2006, 135-161
【非特許文献8】Watson H.R., J. Soc. Cosmet. Chem. 29, 1978, 185-200
【非特許文献9】Furrer S.M., Chem. Percept. 1, 2008, 119-126
【非特許文献10】Wei E.T., J. Pharm. Pharmacol. 35, 1983, 110-112
【非特許文献11】Beck B. Cell Calcium, 41, 2007, 285-294
【非特許文献12】Levine J.D. Biochim. Biophys. Acta, Mol. Basis Dis. 1772, 2007, 989-1003
【非特許文献13】Mukerji G., BMC Urology 6, 2006, 6
【非特許文献14】Dissertation Behrendt H.J. 2004, Universitaut Bochum;Lashinger E.S.R. Am. J. Physiol. Renal Physiol. Am J Physiol Renal Physiol. 2008 Jun 18. [Epub ahead of print];PMID:18562636
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、TRPM8受容体のモジュレーションを生じさせる、現在までに知られているモジュレーターの代替物質として使用し得る新規な物質を同定することである。このような化合物は、特に、化粧品(例えばヘアケア、スキンケア、口腔ケア)、栄養(飼料/食品)、織物、OTC製品(例えば火傷用軟膏)、医薬品(例えば腫瘍治療、膀胱虚弱)、包装の分野における使用、または殺虫剤もしくは忌避剤としての使用にも適していなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の詳細な説明:
1. 一般用語の定義:
文献中には、「TRPM8」の各種同義語:TRPP8、LTRPC6、CMR1、MGC2849、一過性受容体電位カチオンチャネル、サブファミリーM、メンバー8がある。本発明においては全ての名称が包含される。また、特にスプライス変異体、アイソフォーム(例えばTRPM8 CRA_a、TRPM8 CRA_bなど)のようなこの受容体の全ての機能的改変、およびヒト、マウス、ラットなどの様々な生物に由来する全ての類似の受容体も包含される。各種受容体のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列はそれ自体公知であり、配列データベースにリストされている。このように、例えばhTRPM8の配列情報は、番号NM_024080で登録されている。
【0010】
本発明において、「モジュレーター」とは、in vivoおよび/またはin vitroで、TRPM8受容体のアゴニストおよび/またはアンタゴニストとして作用し得る化合物である。
【0011】
ここで、好適なモジュレーターは、アンタゴニストまたはアゴニストのいずれかとしてのみ作用することも可能であるし、あるいはアンタゴニストおよびアゴニストの両方として作用することもできる。ここで、特にアゴニスト作用またはアンタゴニスト作用は、選択した特定のモジュレーター濃度に応じて確立し得る。
【0012】
ここで、「アゴニスト」とは、TRPM8受容体の活性化を媒介して冷感神経へのCa2+の移入をもたらすことによって冷感を媒介する化合物である。対照的に、「アンタゴニスト」とは、TRPM8受容体の活性化を妨げ得る化合物である。
【0013】
本発明によるメディエーターは、TRPM8受容体分子に対して、可逆的にまたは不可逆的に、特異的にまたは非特異的に結合することによってその作用を発揮することができる。通常、結合は、受容体分子とのイオン結合および/または非イオン結合(例えば疎水性相互作用など)を介して非共有結合的に起こる。ここで、「特異的」とは、1種以上の異なるTRPM8受容体分子(例えば、異なる由来のまたは様々なアイソフォームのTRPM8分子など)との排他的相互作用も包含する。対照的に、「非特異的」とは、モジュレーターの、機能および/または配列が異なる複数の様々な受容体分子との相互作用であるが、この場合、結果として、TRPM8受容体の所望のアゴニストおよび/またはアンタゴニストモジュレーション(上述のとおり)を確立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1a−1】図1a−1は、配列データバンク登録NM_024080によるhTRPM8受容体のmRNA配列を示す。
【図1a−2】(図1a−1の続き)
【図1b】図1bは、配列データバンク登録NM_024080によるhTRPM8受容体のmRNA配列に由来するアミノ酸配列を示す。
【図2】図2は、HEK293細胞のトランスフェクションのために使用した、hTRPM8をコードするプラスミドpInd_M8のベクターマップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
2. 好ましい実施形態
本発明は、第1に、冷メントール受容体TRMP8の(特にヒトTRPM8受容体)のin-vitroまたはin-vivoモジュレーション方法であって、該受容体を、ヒトTRPM8受容体を組換え発現する細胞を用いた(特に標準条件下における)細胞活性試験においてCa2+イオンに対するこれらの細胞の透過性をモジュレートする多核有機化合物から選択される少なくとも1種の化合物と接触させる、上記方法に関する。
【0016】
この文脈において、「標準条件」とは、ヒトTRPM8で形質転換してカルシウム感受性色素(例えばFluo-4AM、すなわちフルオ-4-アセトキシメチルエステルなど)を負荷したHEK293細胞に、その後試験化合物を添加して色の変化を検出して行う活性試験(この実験手順は、例えば以下の実施例3、またはBehrendtら(2004)(前掲)に記載のとおり、37℃で行われる)を意味するものとして理解される。
【0017】
特に、本発明のモジュレーティング化合物は、互いに独立して単環もしくは多環の炭素環または複素環である少なくとも2個の4〜7員環を含み、この場合、これらの環の少なくとも2個は、場合により縮合またはスピロ結合していてもよい。好適な環結合の他の非限定的な例には、2〜6員の炭素架橋基(この場合、個々の炭素原子はN、OまたはSなどのヘテロ原子で置換されていてもよい)を介した環炭素原子および/または環複素原子間の化学的単結合が包含される。さらに上記の環基および架橋基は、場合によりケト基、-OH、-SH、-CN、-NO2、-C1-6-アルキル、またはC2-4-アルケニル(この場合、アルキル基またはアルケニル基において、1個以上のH原子は、F、Cl、BrまたはIなどのハロゲンで置換されていてよい)から選択される置換基を有していてもよい。
【0018】
ここで、炭素環は、4、5、6または7個の炭素原子を含み;複素環は、環炭素原子に加えて、1〜3個の同一のまたは異なる環へテロ原子(O、NおよびS原子など)を含む。ここで、環は、互いに独立して、飽和環、一価または多価不飽和環(例えば芳香環など)であってよい。
【0019】
ここで、本発明により用いられるモジュレーターは、細胞のCa2+イオン透過性に対するアゴニストまたはアンタゴニスト作用を有する。特に、モジュレーターは、以下の表1による下記の式1〜19から選択される少なくとも1種の化合物である。
【表1】




【0020】
この場合、化合物は、化学的に純粋なまたは富化された形態で、個々の立体異性体としてまたは立体異性体混合物の形態で存在し得る。さらに、化合物は、非荷電で、またはそれらの塩(例えば酸付加塩など)の形態で存在し得る。官能基は、場合により等価の化学基で置換されていてよく;従って、フッ素原子は、例えばCl、BrまたはIなどの他のハロゲン原子で置換されていてよく;酸素原子(例えばエーテル基など)は対応する硫黄基で置換されていてよく、その逆の場合も同じであり;ケト基は、対応するチオニル基で置換されていてよい。上記に特定した化合物は、市販の、または慣用の有機合成法を用いて入手し得る、それ自体公知の化学物質である。
【0021】
こうして、例えば下記の化合物が公知である:
化合物1(CAS番号:99602-94-5(3R-cis形態))
化合物2(CAS番号:165753-08-2)
化合物3(CAS番号:338771-57-6)
化合物4(CAS番号:878942-21-3)
化合物5(CAS番号:748783-13-3)
上記の改変形態または誘導体は、これらが所望の生物学的活性(受容体TRPM8モジュレーティング)をさらに示す場合、機能的類似体または機能的等価化合物とも呼ばれる。
【0022】
さらに、上記の具体的に開示された物質の固体担体への結合を可能とする特定の誘導体も本発明の文脈に包含され;様々な対応するリンカー/スペーサー基が当業者に公知である。ここで、誘導体化は、固相への結合の前に行うこともできるし、あるいは結合の結果として行うこともできる。
【0023】
さらに本発明は、ヒトおよび/または動物において、特に局所的に(すなわち皮膚または口に)冷感を誘発するための、上記に定義されるTRPM8受容体モジュレーター(特にアゴニスト)の使用に関する。「冷感の誘発」は、上記の細胞活性試験において、化合物がhTRPM8に対するアゴニスト作用を示す場合に生じる。
【0024】
さらに本発明は、医薬組成物の活性成分としての、上記に定義されるTRPM8受容体モジュレーターの使用に関する。
【0025】
さらに本発明は、前立腺癌の治療のための、膀胱虚弱の治療のための、または疼痛治療における、上記に定義されるTRPM8受容体モジュレーターの使用に関する。
【0026】
さらに本発明は、昆虫忌避剤または殺虫剤としての、上記に定義されるTRPM8受容体モジュレーターの使用に関する。
【0027】
さらに本発明は、極めて幅広い加工形態(例えば繊維、織物、成形品など)の(例えば紙製またはプラスチック製の)包装において冷感を誘発するための、上記に定義されるTRPM8受容体モジュレーターの使用に関し、この場合、特に包装材と接触すると冷感が感じられる。この文脈において本物質は、極めて多様な方法で、例えばマイクロカプセル化形態でのスピンコーティング、刷り込みにより、包装材への直接組み込み(例えば押し出し)により、(包装材への本分子の可逆的または不可逆的結合を助ける好適なスペーサー/リンカー基を介した)モジュレーターの好適な誘導体の共有結合によって、包装材と結合させることができる。好適な方法は当業者に公知である。
【0028】
さらに本発明は、織物において冷感を誘発するための、上記に定義されるTRPM8受容体モジュレーターの使用に関する。これに関して本物質は、極めて多様な方法で、例えばマイクロカプセル化形態でのスピンコーティング、刷り込みにより、織物材への直接組み込み(例えば押し出し)により、(織物材への本分子の可逆的または不可逆的結合を助ける好適なスペーサー/リンカー基を介した)モジュレーターの好適な誘導体の共有結合によって、包装材と結合させることができる。好適な方法は当業者に公知である。
【0029】
さらに本発明は、TRPM8受容体のメディエーター(特にアゴニストおよび/またはアンタゴニスト)として使用するための、上記の定義による物質自体に関する。
【0030】
さらに本発明は、上記の定義による少なくとも1種の化合物を含む組成物に関する。特に、かかる組成物は、
a) 抗癌剤組成物、膀胱疾患の治療用の組成物、鎮痛剤などの医薬組成物、
b) アイスクリーム、ムース、クリーム、飲料、菓子などの食品、
c) 歯磨剤、マウスウォッシュ、チューインガム、ブレスフレッシュナーなどの口腔ケア組成物、
d) サンクリーム、サンバーンクリーム、ローション、シャンプー、プラスター、マウスウォッシュ、ローション、シェービングクリーム、コンディショナー、フェイスクレンザー、石鹸、バスオイルおよびバスフォーム、制汗剤、デオドラントなどのスキンケアまたはヘアケア組成物、
e) 昆虫忌避剤、殺虫剤
から選択される。
【0031】
いずれの場合も、特定の組成物用の慣用の成分に加えて、かかる組成物は、少なくとも1種の本発明によるモジュレーターの有効量を含む。これに関して、「有効」とは、本組成物を適用(例えば皮膚へ適用)すると、例えば薬理作用または知覚作用(例えば嗅覚の冷感作用)などの所望の作用を生じさせるのに十分なモジュレーターの濃度を意味する。
【0032】
必要に応じて、本発明による化合物は、他の公知の活性成分と組み合わせることが可能であり、同等の作用を有する他の公知の活性成分と組み合わせることもできる。例えば、これらは、公知の冷感化合物(例えばメントール、メントン、N-エチル-p-メンタンカルボキサミド(WS-3)、N-2,3-トリメチル-2-イソプロピルブタンアミド(WS-23)、乳酸メンチル(Frescolat(登録商標) ML)、メントングリセロールアセタール(Frescolat(登録商標) MGA)、コハク酸モノメンチル(Physcool (登録商標))、グルタル酸モノメンチル、O-メンチルグリセロール、メンチルN,N-ジメチルスクシナメートなど)と組み合わせることができる。
【0033】
さらに本発明は、少なくとも1種の上記の定義による化合物(特に表面が)で仕上げられた、例えばシャツ、ズボン、ソックス、タオルなどの織物製品に関する。
【0034】
さらに本発明は、少なくとも1種の上記の定義による化合物を結合させた包装材に関する。
【0035】
ここで本発明を、下記の非限定的な実施例を参照して説明する。
【実施例】
【0036】
実験項:
実施例1-ヒトTRPM8のクローニング
ヒトTRPM8受容体のクローニングの出発点は、LnCaP cDNAライブラリーである。このライブラリーは、例えば市販されており(例えばBioChain, Hayward, USA)、またはアンドロゲン感受性ヒト前立腺癌細胞株LnCaP(例えばATCC、CRL1740またはECACC、89110211)から、標準的なキットを使用して作成することができる。
【0037】
コーディングTRPM8配列(図1A;および
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?db=nuccore&id=109689694を参照)は、PCR増幅し、標準的な方法を用いてクローン化することができる。この方法で単離したヒトTRPM8遺伝子は、プラスミドpInd_M8を作成するために使用した。プラスミドpInd_M8の構造は、図2に記載のプラスミドマップによって示される。
【0038】
別法として、TRPM8遺伝子を合成的に作成することができる。
【0039】
実施例2-HEK293試験細胞の作成
試験細胞系として、ヒトTRPM8 DNA(上記のプラスミドpInd-M8を参照)で安定にトランスフェクトしたHEK293細胞株を作成する。ここで好ましいのは、導入されたプラスミドを介して、テトラサイクリンによるTRPM8発現の誘導という選択肢を与えるHEK293である。
【0040】
好適な試験細胞系の作成方法は、当業者に公知である。例えば、本発明により用いられる細胞の作成の詳細は、http://www-brs.ub.ruhr-uni-bochum.de/netahtml/HSS/Diss/BehrendtHansJoerg/diss.pdf.からアクセス可能なBehrendt H.J.ら, Br. J. Pharmacol. 141, 2004, 737-745、またはBehrendtによる論文“Vergleichende funktionale Untersuchungen des Hitze-Capsaicin-Rezeptors (TRPV1) und des Kaulte-Menthol-Rezeptors (TRPM8) in rekombinanten und nativen Zellsystemen”(組換え細胞系およびネイティブ細胞系における熱カプサイシン受容体(TRPV1)と冷メントール受容体(TRPM8)との比較機能研究)による論文中に見出すことができる。これらの文献の開示は明示的に参照される。
【0041】
実施例3-TRPM8モジュレーターのアッセイ
Behrendt H.J.ら, Br. J. Pharmacol. 141, 2004, 737-745による文献に既述された試験と同等の試験を行う。これらの受容体のアゴニスト化またはアンタゴニスト化は、Ca2+感受性色素(例えばFURA、Fluo-4等)を用いて定量化することができる。それら自身で、アゴニストはCa2+シグナルの増加をもらし;アンタゴニストは、例えばメントールの存在下でCa2+シグナルの低下をもたらす(いずれの場合も、Ca2+の結果として異なる蛍光特性を有する色素Fluo-4によって検出される)。
【0042】
a) 試験手順:
最初に細胞培養フラスコ中で、形質転換したHEK細胞の新鮮な培養物を、それ自体公知の方法で調製する。この試験細胞HEK293-TRPM8細胞を、細胞培養フラスコからトリプシンを用いて剥離し、40,000細胞/ウェルを、100μlの培地と共に96ウェルプレート(ポリ-D-リシンでコーティングしたGreiner # 655948)に播種した。受容体TRPM8を誘導するため、テトラサイクリンを成長培地(DMEM/HG、10% FCSテトラサイクリン非含有、4mM L-グルタミン、15μg/ml ブラストサイジン、100μg/ml ハイグロマイシンB、1μg/ml テトラサイクリン)に加える。翌日、細胞にFluo-4AM色素を負荷し、試験を行う。この試験手順は以下のとおりである:
- いずれの場合も、100μl/ウェルの色素溶液Ca-4キット(RB 141(Molecular Devices社))を、100μlの培地(DMEM/HG、10% FCSテトラサイクリン非含有、4 mM L-グルタミン、15μg/ml ブラストサイジン、100μg/ml ハイグロマイシンB、1μg/ml テトラサイクリン)に添加する
- ハッチングキャビネット中で、30分間/37℃/5% CO2、30分間/室温(RT)でインキュベーションする
- 試験物質(200μlのHBSSバッファー中で各種濃度)、ならびに陽性対照(200μlのHBSSバッファー中で各種濃度のメントール、イシリンおよびイオノマイシン)および陰性対照(200μlのHBSSバッファーのみ)も調製する
- 50μl/ウェル量の試験物質を添加し、(例えば、アッセイ装置FLIPR(Molecular Devices社)またはNovoStar(BMG社)中で)485nm励起、520nm発光で蛍光の変化を測定し、様々な物質/濃度の有効性を評価し、EC50値を測定する。
【0043】
このアッセイにおいて、試験物質は、濃度0.1〜200μMで3組使用した。通常、化合物はDMSO溶液中に準備され、アッセイ用に最大DMSO濃度の2%まで希釈される。
【0044】
b) 試験結果
本発明によるモジュレーターについて測定したEC50値は、以下の表2にまとめられる。
【表2】

【0045】
本発明によれば、この評価は、驚くべきことに、現在までに知られているアゴニスト(例えば、Br. J. Pharmacol. 141, 2004, 737-745(この中の表1を参照)においてBehrendt H.J.らによって記載された(-)メントール、イシリンおよび他のモジュレーター)とは構造の点で顕著に異なり、さらに、場合によっては(-)メントールより優れた活性を示し、あるいはイシリンと同程度に有効な、TRPM8のアゴニストの調製が初めてできたことを明らかにする。
【0046】
実施例4-マウスウォッシュの調製
下記の組成のマウスウォッシュを調製する:
エタノール 95% 177ml
ソルビトール 70% 250g
表2に記載のTRPM8アゴニスト
(エタノール中の1%溶液として) 50ml
ハッカ油 0.30g
サリチル酸メチル 0.64g
オイカリプトール 0.922g
チモール 0.639g
安息香酸 1.50g
Pluronic(登録商標)F127
非イオン性界面活性剤 5.00g
サッカリンナトリウム 0.60g
クエン酸ナトリウム 0.30g
クエン酸 0.10g
水 適量1リットル
マウスウォッシュを調製するため、上記の成分を記載の量で一緒に混合する。
【0047】
本明細書において引用される文献の開示は、明示的に参照される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷メントール受容体TRMP8のin-vitroまたはin-vivoモジュレーション方法であって、該受容体を、ヒトTRPM8受容体を組換え発現する細胞を用いた細胞活性試験においてCa2+イオンに対するこれらの細胞の透過性をモジュレートする多核有機化合物から選択される少なくとも1種の化合物と接触させる、前記方法。
【請求項2】
モジュレーティング化合物が、互いに独立して単環もしくは多環の炭素環または複素環である少なくとも2個の4〜7員環を有し、且つこれらの環の少なくとも2個が場合により縮合していてもよい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
モジュレーターが、細胞のCa2+イオン透過性に対するアゴニストまたはアンタゴニスト作用を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
モジュレーターが、以下の式1〜19:
【表1】




で表される化合物から選択される化合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ヒトおよび/または動物において冷感を誘発するための、請求項1〜4のいずれか1項に定義されるTRPM8受容体モジュレーターの使用。
【請求項6】
医薬組成物の活性成分としての、請求項1〜4のいずれか1項に定義されるTRPM8受容体モジュレーターの使用。
【請求項7】
前立腺癌の治療のための、膀胱虚弱の治療のための、または疼痛治療における、請求項1〜4のいずれか1項に定義されるTRPM8受容体モジュレーターの使用。
【請求項8】
昆虫忌避剤または殺虫剤としての、請求項1〜4のいずれか1項に定義されるTRPM8受容体モジュレーターの使用。
【請求項9】
包装において冷感を誘発するための、請求項1〜4のいずれか1項に定義されるTRPM8受容体モジュレーターの使用。
【請求項10】
織物において冷感を誘発するための、請求項1〜4のいずれか1項に定義されるTRPM8受容体モジュレーターの使用。
【請求項11】
TRPM8受容体のメディエーターとして使用するための、請求項1〜4のいずれか1項に定義される物質。
【請求項12】
少なくとも1種の請求項1〜4のいずれか1項に定義される化合物を含む組成物。
【請求項13】
以下:
a) 抗癌剤、膀胱疾患の治療用薬剤、鎮痛剤などの医薬組成物、
b) アイスクリーム、ムース、クリーム、飲料、菓子などの食品、
c) 歯磨剤、マウスウォッシュ、チューインガムなどの口腔ケア組成物、
d) サンクリーム、サンバーンクリーム、ローション、シャンプー、プラスターなどのスキンケアまたはヘアケア組成物、
e) 昆虫忌避剤、殺虫剤
から選択される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
少なくとも1種の請求項1〜4のいずれか1項に定義される化合物で仕上げられた、例えばシャツ、ズボン、ソックス、タオルなどの織物製品。
【請求項15】
少なくとも1種の請求項1〜4のいずれか1項に定義される化合物を結合させた包装材。

【図1a−1】
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【図1a−2】
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【図1b】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−500828(P2012−500828A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524370(P2011−524370)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【国際出願番号】PCT/EP2009/061019
【国際公開番号】WO2010/026094
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】