説明

冷凍ピザ生地

【課題】大型の急速冷凍装置を使わずに冷凍し、解凍なしで一般家庭においても手軽に一種類の調理機を使用し焼成と平行し同時に、イーストによる十分な発酵が行なわれる冷凍ピザ生地の提供。
【解決手段】小麦粉に耐冷凍性イーストを加えてピザ生地を形成し、イーストによる発酵が行なわれる前に冷凍し、特別な解凍装置や焼成装置を使用することなく解凍、発酵、焼成が同時に行なう。該生地の上には各種具材をトッピングすることも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦粉に耐冷凍性イーストを加えてピザ生地を形成し、イーストによる発酵が行なわれる前に冷凍し、特別な解凍装置や焼成装置を使用することなく解凍、発酵、焼成が同時に行なわれる冷凍ピザ生地に関する。
【背景技術】
【0002】
ピザ生地、或はこれに各種具材をトッピングした状態で冷凍したピザは、長期の保存が可能であり、解凍、再焼成するだけで、簡単にピザが楽しめることから業務用だけでなく一般家庭用としても広く流通している。このような冷凍ピザにおいて、特許文献1では、ピザ生地に使用する小麦粉にペクチンを0.4〜5%添加することにより、ピザ生地のエッジ部分のふくらみや、歯切れ、および焼き色を向上させることが提案され、また、特許文献2では、クリスビー感が長時間消失しないよう、小麦粉に30容量%以下の酸性エタノール水溶液を用いて小麦グルテンより分離したグルテンに富む成分を添加することが提案され、冷凍しないピザの食感に近づける改善がなされており、今後、さらに消費者の多様な需要に適合した製品の開発が期待される一方、安くておいしいピザを供給するために製造業者に対しては更なるコストの削減が求められている。
ところで、従来の冷凍ピザ商品は、何れも小麦粉にイーストを加えてピザ生地を発酵し形成、焼成が行なわれた後で冷凍されている。これは、通常のイースト菌の場合、発酵前に冷凍するとイースト菌が失活してしまい、解凍後の発酵が十分行なわれず、ピザの独特の食感が得られなかったからである。それゆえに現市場において流通しているものは発酵、焼成後の冷凍品に限られている。また業務用の冷凍ピザ生地の流通状況は、生地の発酵工程までは上既述と同様で、それを分割、固まり状(玉形状が多く見受けられる。)にし、大型の急速冷凍装置により冷凍し、末端所において長時間解凍を行い使用にいたっている。
【0003】
上記従来の発酵させた後に冷凍したピザ生地では、イーストによる発酵が行なわれると生地中に多数の気泡が生成し発酵前の容積の2〜2.5倍となるため、流通時の梱包容積が大きくなり、また家庭での保管においてもスペースを必要とした。また、発酵後は気泡が含まれるので生地の強度が低下し、流通時の破損率が大きいという問題もあった。
【0004】
近年、解凍後も活性を有する耐冷凍性に優れたイースト菌が実用化され、一部の食品に使用され始めたが、この菌を使用する場合、十分な商品としての特性を出すためには、大型の冷凍装置により急速に冷凍することを必須とした。これは、耐冷凍性に優れたイースト菌といえども、通常の冷凍装置による徐冷による冷凍ではイースト菌の生存率が下がってしまい、解凍後の発酵が十分に行われないからである。また、同様に解凍時も、イースト菌の生存率を維持するための温度調節を必要とし、一般消費者が家庭で手軽に解凍することは難しかった。
したがって、耐冷凍性イーストの使用は、このような冷凍・解凍設備が整った工場で製造される一部の製品に限られ、通常は、特許文献1や2に記載されるように発酵が行なわれた後で冷凍されていた。
【特許文献1】特開2003−274844号公報
【特許文献2】特開平10−66501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、大型の急速冷凍装置を使わずに冷凍し、解凍なしで一般家庭においても手軽に一種類の調理機を使用し焼成と平行し同時に、イーストによる十分な発酵が行なわれる冷凍ピザ生地を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、耐冷凍性イーストをピザ生地に使用した場合、大型の急速冷凍装置を使用しなくても、また、一般家庭用の焼成調理機(オーブンレンジ、オーブントースター、魚焼グリルなど)で、難しく煩わしい工程を省き、直接焼き上げたところ焼成解凍時にイーストの生存率が低下せず、焼成時のイーストによる発酵が十分行われることを発見し、本発明に至ったものである。
【0007】
本発明において、イーストの生存率が低下しないのは、ピザ生地を成形状態、すなわち形状は様々自由であるが底部厚は1〜10mmまでと薄い範囲にしたため、伝熱性に優れ、特別な冷凍・解凍設備を用いなくとも、冷凍・解凍時にイーストの死亡率が高くなるといわれている特定温度範囲を短時間に通過することができるためと考えられる。
【0008】
本発明において、上記成形状態のピザ生地に様々なトッピング具材、チーズ、ソースと共に冷凍したものは、焼成解凍発酵時に、それらとの焼き上がり時間差はほとんどなく、冷蔵生地から焼き上げた物と同等なものになり、生地だけの流通に限られず、様々な加工商品を市場において提供することが可能である。
冷凍ピザ生地の上に直接具材をトッピングして焼成してもよいが、生地と具材の調理時間差が生じ、若干、生地自体の食感が低下する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷凍するのに大型の急速冷凍装置を使用する必要がないので、製造コストが抑えられ、また一般家庭でも特別な解凍装置や焼成装置を使用することなく、従来流通の発酵後に冷凍した冷凍ピザと比べ、発酵、焼成が同時に行なわれるため、より店舗にての食する出来立ての自然のピザに近づき、食感、風味が向上する。
【0010】
また、発酵前の状態の冷凍ピザを、容積が小さい状態で保管・流通させることができるため、保管・流通コストを低減することができると共に、移動・流通時の破損率も低く抑えることができる。
また、一般家庭でもかさばらないので冷凍庫の保存スペースが少なくて済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のピザ生地の原料配合は、従来の冷凍ピザ生地と変わることはないが、イーストとして耐冷凍性に優れたものを使用する必要がある。
本発明に使用される耐冷凍性に優れたイーストとは、焼成する前の生地を凍結保存(1週間から3ヶ月程度)しても、生地の中で生存し、生地が解凍された段階で生地の中で発酵できるイーストをいい、現在入手可能な耐冷凍性イーストとしては、(表1)に記載した物などが挙げられる。
(表1)

【0012】
本発明の冷凍ピザ生地は、小麦粉とイーストを練り合わせ、混捏後15分程度のベンチタイム後、形状は様々自由であるが、それを成形し、冷凍することによって製造される。
【0013】
本発明における、ピザ生地の形状としては、一般家庭用調理器具に合う様にするため、円盤形状ならば直径150mm〜400mm、トラック形状ならば100mm×60mm〜300mm×170mmの外形姿に成形し、厚さはエッジ部5mm〜30mm、また中央部を1mm〜2mmの範囲に仕上げることが好ましい。
【0014】
本発明における、ピザ生地の水分量は、通常のピザ場合60〜85%であるが、耐冷凍性イーストを使用した場合、55〜65%程度とすることが、その特性から生地が扱い易くなり好ましい。
【0015】
本発明において「イーストによる発酵が行なわれる前に冷凍し」とは、イーストによる発酵がほとんど生じていないうちに冷凍することをいい、通常、イースト菌に水分を加え混捏から成形・トッピングまでを30分以内に行い、すぐに冷凍することをいう。また、冷蔵保存5℃の条件であれば、混捏から36時間以内に冷凍することによりイーストによる発酵がほとんど生じていない状態での冷凍が可能となる。なお、常温、冷蔵を問わず、ピザ生地の成形はできるだけ短時間で行なう必要がある。
【0016】
本発明で使用される、冷凍装置としては−15℃程度の冷却性能を有するものであれば目的を達成することができる。好ましくは−25℃程度の冷却性能を有する冷凍装置を使用することが、イーストの高い生存率を維持できるので好ましい。
【0017】
本発明の冷凍ピザ生地は、ピザ生地の上に各種の具材をトッピングすることもできる。トッピングする具材としては、従来から使用されているものに限らず使用できるが、ピザ生地と同時に調理できるよう、ピザ生地の厚さに応じて具材の大きさも調整しておくことが好ましいが、上記例示したピザ生地の大きさおよび厚さであれば、家庭用の調理器によって、通常使用され程度の大きさの具材を、生地の解凍、発酵、焼成と同時に調理することができる。
【0018】
本発明における小麦粉とは、大きく分類し、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉をいうが、その何れも使用できる。
それらを用い実施例1においては、評価項目に値する特性として、ナポリ生地の、ふわふわもちもち感のでる配合を採用した。
実施例2に於いては、評価項目に値する特性としてローマ生地の、ひきの良い、さくさく感のでる配合を採用した。なお、ピザ生地の配合に関しては、これ限られるものではない。
【実施例1】
【0019】
一般的なパン生地、ナポリ、アメリカンタイプの粉配合し以下の条件で実施を行った。使用装置の機種及びメーカーは、混捏に株式会社愛工舎製作所のミキサーDAITO−SAMA、冷凍庫に星崎電気株式会社製HF−120S3−ML形、金属板としては1mm厚ステンレス板に両面セラミック加工を施した特注品とした。
強力粉100重量部に耐冷凍性イースト2重量部、塩3重量部、水60重量部を加え中速11分混捏し、得られたピザ生地を、油脂を薄く塗ったボール等容器に移し、ラップ等で乾燥を防ぎ室温25℃、湿度60%の条件下で15分間生地を休ませる。《ベンチタイムを摂る。》
その後150gずつに分割し厚さ1mmのテフロン(登録商標)加工した金属板上にて生地を成形、具材、チーズ、ソース等をトッピングし−25℃の冷凍庫で20〜30分間、緩慢冷凍を行い、1ヶ月間保存し経過日数ごとに冷凍庫から取り出し直ちに(表2)の焼成方法をとり、(表3)に示されるピザの品質評価を5名で行いまとめた。
【実施例2】
【0020】
一般的なクリスビー生地、ローマ、ミラノタイプの粉配合し以下の条件で実施を行った。使用装置の機種及びメーカーは混捏に株式会社愛工舎製作所のミキサーDAITO−SAMA、冷凍庫に星崎電気株式会社製HF−120S3−ML形、金属板としては1mm厚ステンレス板に両面セラミック加工を施した特注品とした。
強力粉100重量部に耐冷凍性イースト6重量部、塩0.6重量部、砂糖2重量部、油脂10重量部、水60重量部を加え中速5分混捏し、上記油脂を加えさらに中速10分混捏し、得られたピザ生地を、分量外の油脂を薄く塗ったボール等容器に移し、ラップ等で乾燥を防ぎ室温25℃、湿度60%の条件下で15分間生地を休ませる。《ベンチタイムを摂る。》
その後150gずつに分割し厚さ1mmのテフロン(登録商標)加工した金属板上にて生地を成形、具材、チーズ、ソース等をトッピングし−25℃の冷凍庫で20〜30分間、緩慢冷凍を行い、1ヶ月間保存し(表3)の経過日数ごとに冷凍庫から取り出し直ちに(表2)の焼成方法をとり、(表3)に示されるピザの品質評価を5名で行いまとめた。
なお、(表2)において使用調理器具2に下火力が存在しない場合に、使用調理器具1を利用してピザ生地の底部を先に焼成した。
【0021】
一般家庭調理機器の標準予熱及び焼成時間
(表2)

※使用調理機器の熱量等
フライパン加熱に用いたガスコンロ熱量500kcal
オーブンレンジ280℃熱量
魚焼きグリル上火だけタイプ500kcal
オーブントースター810w
【0022】
保存期間2週間、1ヶ月焼成評価
(表3) ※品質評価1〜5段階とする。

※評価基準
5:非常に優れている
4:優れている
3:普通
2:劣っている
1:非常に劣っている
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明ピザ生地の焼成時における実施例1、実施例2より得られた特性の一つとしてとしては(表3)に示すように焼成後生地の水分含有量において業務用400℃熱量オーブンより280℃前後出力の家庭用調理機器での方が優れ、おいしいと思える感覚は、家庭用調理器では業務用の大容量のオーブンを使用して焼成したピザの食感は実現できないという、今までのピザにおいての慣習とは逆説を唱える結果になった。すなわち、本発明の冷凍ピザ生地によれば、家庭焼成調理の低温度域で、店舗での焼きたて出来立てのものと比べ遜色のないピザの提供が可能になった。それは食品流通においても革命的なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉に耐冷凍性イーストを加えてピザ生地を形成し、イーストによる発酵が行なわれる前に冷凍した冷凍ピザ生地。
【請求項2】
請求項1記載のピザ生地の上に具材をトッピングし、イーストによる発酵が行なわれる前に冷凍したことを特徴とする冷凍ピザ。