説明

冷凍保存容器

【課題】
本発明は、冷凍保存容器においてガラス化したチューブの破損事故を防止することを課題とする。
【解決手段】
生体試料を冷凍保存するための容器であって、前記容器は、耐寒性材料からなる容器本体、チューブ、容器本体内部とチューブを連通するための接続部、及び、耐寒性材料からなる保護部を備えた冷凍保存容器。好ましくは、前記保護部は、前記接続部の周囲に、前記接続部からチューブが延出する方向と同方向に前記容器本体から延出するように設けた態様である。また、他の好適な例としては、容器本体と保護部が一体となった態様である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍保存容器及び冷凍保存バッグに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療、細胞含有医薬及び不妊治療などの細胞医療分野がめざましい発展を遂げている。これらの細胞医療分野において、生物試料を凍結保存する技術は全ての当業者が実施する必要不可欠な技術である。
【0003】
細胞を凍結保存するための容器として、本出願人は超高分子量ポリエチレン層と低密度ポリエチレン層との積層フィルムにより形成したバッグの発明が開示されている(特許文献1)。この発明の実施品は、近年のわが国における臍帯血バンクの発展に貢献している。また、前記凍結保存バッグ以外にも、ポリイミドフィルムとフッ素化エチレンプロピレン重合体フィルムとの積層フィルムからなるもの(特許文献2)や、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体フィルムからなるもの(特許文献3)等が提案されている。
【0004】
ところで、冷凍保存容器に備えるチューブは、採取された生体試料を導入した後、チューブシーラー等の溶断器具により溶断される。これは、凍結保存容器に収容した生体試料の漏洩防止だけではなく、保存における省スペース化にも貢献する。けれども、チューブの一部は凍結保存容器の構造上、どうしても当該凍結保存容器に残ってしまう。
【0005】
チューブの原材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル及びポリ(エチレン−酢酸ビニル)コポリマー(以下、EVAとも言う)等が使用される。チューブの製造は、通常、押出成形により行われるが、耐寒性材料は成形加工性に乏しいため、チューブの材料としては使用できないからである。
【0006】
その中でも、EVAは、液体窒素環境下でも耐えうる優れた材料である。しかしながら、EVAは、極低温下においてはガラス化してしまう。すると、何らかの衝撃により、ガラス化したチューブの材料が破損し、収容した生体試料が漏洩してしまうという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特許第2876588号公報
【特許文献2】特公昭49−8079号公報
【特許文献3】実公昭55−55069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、冷凍保存容器においてガラス化したチューブの破損事故を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、生体試料を冷凍保存するための容器であって、容器は、耐寒性材料からなる容器本体、チューブ、容器本体内部とチューブを連通するための接続部、及び、耐寒性材料からなる保護部を備えた冷凍保存容器に関する。
【0010】
上記保護部は、前記接続部の周囲に、前記接続部からチューブが延出する方向と同方向に前記容器本体から延出するように設けることが好ましい。
【0011】
さらに、好ましい態様としては、容器本体が、バッグ形状である冷凍保存容器である。
【0012】
さらに、好ましい態様としては、容器本体と、前記保護部が一体である冷凍保存容器である。
【0013】
さらに、好ましい態様としては、保護部がループ形状である冷凍保存容器である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の冷凍保存容器によれば、冷凍保存後において、衝撃などにより容器に残ったチューブが破損することがない。したがって、貴重な生体試料を損なうこともなければ、感染の心配もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の冷凍保存容器は、生体試料を内部に収容し、当該生体試料を冷凍保存するための容器をいう。当該生体試料としては、生体由来のものであれば、特に限定されるものではなく、動物組織や微生物が含まれる。例えば、
i)全血、赤血球、白血球、血漿、血小板及び多血小板血漿などの血液成分
ii)骨骸単核細胞、造血幹細胞、ES細胞、間葉系幹細胞、精子細胞及び卵子細胞などの希少な細胞、
iii)薬剤耐性結核菌などの微生物変異体などを含む微生物
iv)精子及び卵子
などが挙げられる。
【0016】
本発明において「冷凍保存」とは、0度以下での環境下で保存することをいうが、長期にわたって保存できる観点から、好ましくは−20度以下(極低温下)、さらに好ましくは−80度以下、特に好ましくは−196度(液体窒素温度)の環境下で保存することをいう。冷凍保存を行う方法としては、例えば、市販のディープフリーザーなどの装置を用いて行う方法、及び、ドライアイス、液体窒素及び液体ヘリウムなどの冷却物質を用いて行う方法などが挙げられる。これらの冷凍保存方法の中でも長期にわたって保存できる観点から、液体窒素が好ましい。
【0017】
以下、本発明を図面を参照して説明する。図1は、本発明の冷凍保存容器の一実施態様を示す図である。本発明の冷凍保存容器は、容器本体1、チューブ2、接続部3、及び、保護部4を備える。
【0018】
本発明において容器本体とは、生物試料を収容するための空間(ハウジング)を備えた汎用的な容器の形状を有するものをいう。容器本体の形状は、主に、立体成型容器及びバッグなどが挙げられる。特に製造コストが安価であり、生体試料の保存の際に取り扱い易い観点から、バッグが望ましい。
【0019】
本発明においてバッグとは、2枚のフィルムで構成されるものであって、周辺部を溶着することにより成形される容器をいう。その容量は、収容する生体試料に応じて当業者が適宜設計できるので、特に限定されるものではない。例えば、生体試料が全血、赤血球、白血球、血漿及び血小板などの血液試料である場合は、約5〜400ml、好ましくは約50〜300mlの容量であることが好ましい。
【0020】
容器本体1は、耐寒性材料からなる。耐寒性材料とは、0度以下、好ましくは−20度以下(極低温下)、さらに好ましくは−80度以下、特に好ましくは−196度(液体窒素温度)においても、材料の物性が損なわれない材料をいう。例えば、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレン−プロピレン)コポリマー、ポリエチレン並びにポリプロピレンのポリマーアロイ、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン及びポリ(エチレン−テトラフルオロエチレン)コポリマーなどが挙げられる。特に、液体窒素温度でも材料の物性が損なわれず、バッグの材料として適切である観点から、超高分子量ポリエチレンが好ましいが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
上記超高分子量ポリエチレンとは、低圧法により重合されたポリエチレンであり、重量平均分子量が粘度法で100万以上、または光散乱法で300万以上のいずれかを満たすポリエチレンをいう。分子量の上限は特に決められていないが、現時点では約600万程度(粘度法)が当業者の製造しうる限界であるといわれている。
【0022】
上記超高分子量ポリエチレンのフィルムは、インフレーション成形又は切削加工などにより成形することができる。フィルムの厚みは、当業者が適宜設定できるので、特に限定されるものではない。但し、ピンホールの発生を抑え、シール強度を有し、急速な冷凍及び解凍に耐えうる観点から、約25〜250μmが好ましく、さらに好ましくは約50〜150μmである。
【0023】
また、上記超高分子量ポリエチレンのフィルムは、耐寒性に優れているものの、ピンホールの発生を完全に抑えることが困難であり、溶着温度が高いという短所がある。しかしながら、超高分子量ポリエチレンのフィルムの両面に、当該超高分子量ポリエチレンよりも融点が低く、且つ、当該超高分子量ポリエチレンと相溶性のある材料でラミネートすることによりこの短所は克服できる。このような材料としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、ポリ(エチレン−酢酸ビニル)コポリマー、ポリ(エチレン−メタクリル酸エステル)コポリマー、スチレンブタジエンゴムの水素添加物とポリエチレンとのポリマーアロイ、スチレンブタジエンゴムの水素添加物とポリプロピレンとのポリマーアロイなどが挙げられる。特に材料費が安価である観点から、低密度ポリエチレン及びエチレン−酢酸ビニルコポリマーが好ましく、さらに好ましくは直鎖状低密度ポリエチレンである。ここで、低密度ポリエチレンの密度範囲は、約0.910〜0.925g/cmである。
【0024】
ラミネート層の厚さに関しても当業者が適宜設定できるため、特に限定されるものではない。但し、成形されるバッグを取り扱い易くする観点から、約12.5〜125μm好ましく、好ましくは約25〜75μmである。
【0025】
ラミネート方法は、熱溶着法にて行われる。具体的には、超高分子量ポリエチレンフィルムの両面に上記熱可塑性樹脂を熱ローラなどで加熱溶融しながら押し出すことにより行われる。熱ローラの温度は、ラミネート層の材料が低密度ポリエチレンの場合、約150〜250℃が好ましく、より好ましくは約170〜200℃である。
【0026】
チューブ2は、医療用途に適した素材であれば特に限定されるものではない。例えば、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン及びポリ(エチレン−酢酸ビニル)コポリマーなどが挙げられる。但し、極低温下でも材料の物性が損なわれない観点から、ポリ(エチレン−酢酸ビニル)コポリマーを選択することが望ましい。
【0027】
接続部3とは、上記容器本体1の内部と、上記チューブ2とを液密に連通する手段をいう。接続部3に使用されず材料は、特に限定されるものではないが、容器本体1及びチューブ2との接着性(容器本体1がバッグの場合は、溶着性ともいえる)よく、耐寒性を備える材料であることが好ましい。本発明において耐寒性は、冷凍環境下から取り出した直後の樹脂フィルムについて、自由落下のダート方による衝撃試験方法(ステアケース法(JIS K 7124−1))を用いて評価することができる。当該試験において、液体窒素温度における50%破壊エネルギー(E50)が0.1以上、好ましくは0.2以上、さらに好ましくは1.0以上である。また、液体窒素温度において、ガラス化しないものが望ましい。このような材料の例としては、例えば、ポリプロピレン、ポリ(エチレン−プロピレン)コポリマー、ポリエチレン並びにポリプロピレンのポリマーアロイ、ポリテトラフルオロエチレン及びポリ(エチレン−テトラフロオロエチレン)コポリマー等が挙げられる。
【0028】
保護部4は、耐寒性材料からなり、チューブ2を溶断した際に容器本体2に残ったチューブ2(以下、残存チューブともいう)を保護するための部材をいう。言い換えれば、冷凍保存によりガラス化したチューブ2が、衝撃などにより破損することを防止する構造であればよい。チューブ2を溶断する作業は、当業者による個人差はあるが、通常はチューブ2のつけ根、言い換えれば、上記接続部3付近で溶断する。このことから、保護部4は、最終的に容器本体1に残存チューブの周囲に配置され、衝撃等から当該残存チューブを保護するような構造であれば、容器本体1のどの位置に配置してもよい。但し、原材料費を抑える観点から、接続部3の周囲に、接続部3からチューブ2が延出する方向と同方向に前記容器本体1から延出するように設けることが好ましい。
【0029】
保護部4が耐寒性材料からなる理由は、極低温下でも材料の物性が損なわれないことを目的としているからである。耐寒性材料は、上述の超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレン−プロピレン)コポリマー、ポリエチレン並びにポリプロピレンのポリマーアロイ、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン及びポリ(エチレン−テトラフルオロエチレン)コポリマーなどが挙げられる。このような耐寒性材料は、冷凍保存環境下においてガラス化はしないが、ある程度硬化する。すると、本発明の冷凍保存容器を冷凍保存環境下から取り出した直後は、保護部4は、ガラス化した残存チューブを保護するのにほどよい硬さとなる。
【0030】
また、保護部4は、原材料費を抑える観点から、例えば、図1に示すように、容器本体1と一体であることが好ましい。ここで、容器本体1がバッグである場合、2枚のフィルムの両方に保護部を形成する部分を設け、バッグ製造時における溶着作業において保護部4を形成してもよいし、1枚のフィルムのみ保護部4を設けてもよい。但し、保護部4の強度が強くなる上、製造時において1種類のフィルムのみ用意すればよいという観点から、2枚のフィルムの両方に保護部を形成する部分を設け、バッグ製造時における溶着作業において保護部4を形成する態様が好ましい。
【0031】
さらに、保護部4は、チューブ2の溶断を容易にする観点から、図1に示すように、ループ形状であることが好ましい。これは、チューブ2の溶断の際に、保護部4が邪魔にならないからである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の冷凍保存容器によれば、冷凍保存後において、衝撃などにより容器に残ったチューブが破損することがない。したがって、貴重な生体試料を損なうこともなければ、感染の心配もない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の1実施態様を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 容器本体
2 チューブ
3 接続部
4 保護部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料を冷凍保存するための容器であって、
前記容器は、耐寒性材料からなる容器本体、チューブ、容器本体内部とチューブを連通するための接続部、及び、耐寒性材料からなる保護部
を備えた冷凍保存容器。
【請求項2】
前記保護部は、前記接続部の周囲に、前記接続部からチューブが延出する方向と同方向に前記容器本体から延出するように設けた請求項1に記載の冷凍保存容器。
【請求項3】
前記容器本体が、バッグである請求項1に記載の冷凍保存容器。
【請求項4】
前記容器本体と、前記保護部が一体である請求項1に記載の冷凍保存容器。
【請求項5】
前記保護部がループ形状である請求項1に記載の冷凍保存容器。

【図1】
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【公開番号】特開2008−195443(P2008−195443A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35020(P2007−35020)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】