説明

冷凍機油組成物、これを用いた冷凍機用圧縮機及び冷凍装置

【課題】スラッジ分散性と冷凍機用圧縮機のアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部における摩耗、焼付け防止との双方を満足し得る冷凍機用組成物、これを用いた圧縮機及び冷凍装置を提供する。
【解決手段】鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種である基油に、イミド化合物を冷凍機油組成物全量基準で0.01〜5質量%含むことを特徴とする冷凍機油組成物、これを用いた圧縮機及び冷凍装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機油組成物、これを用いた冷凍機用圧縮機及び冷凍装置に関し、さらに詳しくは、基油に特定の化合物を添加した冷凍機油組成物、これを用いた冷凍機用圧縮機であって、アルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部に有機コーティング膜又は無機コーティング膜を摺動材としてコーティングした冷凍機用圧縮機及び冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍機用として用いられる圧縮機の各摺動部の潤滑性は、冷媒と相溶性のある冷凍機油によって確保されるものであるが、アルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部における摩耗、焼付けの問題が依然としてあった。さらに、スラッジ分散性が低いことに因るキャピラリ詰まりの問題もあった。
これに対し、特許文献1において、特定のポリエーテル類からなる基油にアルキルホスフォロチオネート類、アリールホスフォロチオネート類等のホスフォロチオネート類を含む冷凍機油組成物を用いることが提案されている。
また、特許文献2において、鉱油及び/又は合成油に、チオールを0.05〜5重量%の割合で含有する摺動部材用潤滑油組成物が提案されている。
しかしながら、スラッジ分散性と摺動部における摩耗、焼付け防止性能との双方を満足するまでには至らなかった。
そこで、冷凍機油を更に改良することにより、あるいは冷凍機油と摺動材との双方を改良することにより、スラッジ分散性と摺動部における摩耗、焼付け防止性能との双方を満足する冷凍機潤滑システムを確立することが要望されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−17282号公報
【特許文献2】特開平5−117680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような状況下でなされたもので、スラッジ分散性と冷凍機用圧縮機のアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部における摩耗、焼付け防止との双方を満足し得る冷凍機用組成物、これを用いた圧縮機及び冷凍装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、特定の組成の冷凍機油組成物を用いることにより、さらに、特定の組成の冷凍機油組成物と、圧縮機構部を構成する部材の少なくとも一部の摺動部にコーティングする特定の摺動材とを組み合わせることによって、前記課題を解決し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は、
1.鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種である基油に、イミド化合物を冷凍機油組成物全量基準で0.01〜5質量%含むことを特徴とする冷凍機油組成物、
2.基油がナフテン鉱油、パラフィン鉱油、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリ−α−オレフィン、ポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンモノエーテル、ポリオキシアルキレンジエーテル、ポリビニルエーテル、ポリビニルエーテル−ポリアルキレングリコール共重合体、ポリオールエステル、ポリカーボネートからなる群から1種以上選ばれる上記1に記載の冷凍機油組成物、
3.基油の40℃の動粘度が2〜500mm2/sである上記1又は2に記載の冷凍機油組成物、
4.イミド化合物がモノイミド、ビスイミド及び分子内にイミド基を3個以上有するポリイミド化合物からなる群から1種以上選ばれる上記1〜3のいずれかに記載の冷凍機油組成物、
5.さらに、リン酸エステル類を含有する上記1〜4のいずれかに記載の冷凍機油組成物、
6.さらに、酸化防止剤及び酸捕捉剤から選ばれる少なくとも1種を含有する上記1〜5のいずれかに記載の冷凍機油組成物、
7.鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種である基油に、イミド化合物を冷凍機油組成物全量基準で0.01〜5質量%含む冷凍機油組成物を用いる圧縮機であって、圧縮機構部を構成する部材のアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部に、窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子を含む樹脂をバインダーとし、二硫化モリブデン、フッ素含有樹脂、黒鉛及びカーボンブラックから選ばれる少なくとも1種を含む潤滑皮膜形成用組成物がコーティングされていることを特徴とする冷凍機用圧縮機、
8.圧縮機が、二酸化炭素、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロカーボン及びアンモニアから選ばれる冷媒を圧縮するものである上記7に記載の冷凍機油組成物、
9.圧縮機の圧縮機構が、スクロール、ロータリー、スイング及びピストン式からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記7又は8に記載の冷凍機用圧縮機、及び
10.圧縮機、放熱器、膨張機構及び蒸発器を含む冷凍回路に、二酸化炭素、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロカーボン及びアンモニアから選ばれる冷媒を循環させる冷凍装置であって、圧縮機に用いる冷凍機油組成物が、鉱油及び合成油から選ばれる40℃の動粘度2〜500mm2/sである基油に、イミド化合物を組成物全量基準で0.01〜5質量%含む冷凍機油組成物を使用し、かつ、バインダーとしてポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリベンゾアゾール、ポリフェニレンスルフィド及びポリアセタールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む樹脂と、二硫化モリブデン、フッ素含有樹脂、黒鉛及びカーボンブラックから選ばれる少なくとも1種とを含有する潤滑皮膜形成用組成物をアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部にコーティングした圧縮機であることを特徴とする冷凍装置、を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の冷凍機油組成物によれば、スラッジ分散性と冷凍機用圧縮機のアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部における摩耗、焼付け防止との双方を満足することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の冷凍機油組成物は、基油として、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種が用いられる。鉱油としては、ナフテン鉱油、パラフィン鉱油が挙げられる。一方、合成油としては、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリ−α−オレフィン、ポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンモノエーテル、ポリオキシアルキレンジエーテル、ポリビニルエーテル、ポリビニルエーテル−ポリアルキレングリコール共重合体、ポリオールエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。
これらの鉱油又は合成油の内、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンモノエーテル、ポリオキシアルキレンジエーテル、ポリビニルエーテル−ポリアルキレングリコール共重合体、ポリオールエステル及びポリカーボネートが好ましい。
【0008】
本発明の冷凍機油組成物に用いる基油の40℃の動粘度は、2〜500mm2/sが好ましく、3〜300mm2/sがさらに好ましい。2mm2/s以上であれば潤滑性が良好であり、500mm2/s以下であれば粘性抵抗が小さく省エネルギー性に優れると共に油戻りも良好である。
【0009】
本発明の冷凍機油組成物に配合されるイミド化合物として、モノイミド、ビスイミド及び/又分子内にイミド基を3個以上有するポリイミド化合物が好ましい。
本発明の冷凍機油組成物は、これらのイミド化合物の1種以上を冷凍機油組成物全量基準で0.01〜5質量%、好ましくは0.1〜4質量%、特に好ましくは0.2〜2質量%含むものである。0.01質量%未満では潤滑性やスラッジ分散性が劣り、5質量%を超えると安定性が劣るからである。
【0010】
モノイミドとしては、フタルイミド、グルタルイミド、コハク酸イミド、ノニルフタルイミド、ノニルグルタルイミド、ラウリルグルタルイミド、ノニルコハク酸イミド、ラウリルコハク酸イミド、オレイルコハク酸イミド、ステアリルコハク酸イミド、ポリブテニルコハク酸イミド、N−((1,2−エチレンジアミン)モノエチレン)−3−(2−ノニル)スクシンイミド、N−((1,2−エチレンジアミン)モノエチレン)−3−(2−ラウリル)スクシンイミド、N−((1,2−エチレンジアミン)モノエチレン)−3−(2−オクタデセニル)スクシンイミド、N−(ピペラジンモノエチレン)−3−(2−ラウリル)スクシンイミド、N−(ピペラジンモノエチレン)−3−(2−ヘキサデセニル)スクシンイミド、N−((1,2−エチレンジアミン)モノエチレン)−3−(2−ノニル)スクシンイミドのホウ酸塩、N−((1,2−エチレンジアミン)モノエチレン)−3−(2−ラウリル)スクシンイミドのホウ酸塩及びN−((1,2−ビス−ジヒドロキシボロエチレンジアミノ)モノエチレン)−3−(2−オクタデセニル)スクシンイミドが好適に挙げられる。
【0011】
また、ビスイミドとしては、ノニルコハク酸ビスイミド、ラウリルコハク酸ビスイミド、オレイルコハク酸ビスイミド、ステアリルコハク酸ビスイミド、ポリブテニルコハク酸ビスイミド、2,2'−ビス(3−(2−ノニル)スクシンイミノ)ジエチルアミン、2,2'−ビス(3−(2−ラウリル)スクシンイミノ)ジエチルアミン及び2,2'−ビス(3−(2−オクタデセニル)スクシンイミノ)ジエチルアミンが好適に挙げられる。
さらに、分子内にイミド基を3個以上有するポリイミド化合物を用いてもよい。
【0012】
これらのイミド化合物の内、ノニルフタルイミド、ラウリルグルタルイミド、オレイルコハク酸イミド、ポリブテニルコハク酸イミド、ノニルコハク酸ビスイミド、オレイルコハク酸ビスイミド、N−((1,2−エチレンジアミン)モノエチレン)−3−(2−ラウリル)スクシンイミド、N−((1,2−エチレンジアミン)モノエチレン)−3−(2−ラウリル)スクシンイミドのホウ酸塩、N−(ピペラジンモノエチレン)−3−(2−ラウリル)スクシンイミド及び2,2'−ビス(3−(2−ラウリル)スクシンイミノ)ジエチルアミンが、潤滑性とスラッジ分散性に優れ、特に好ましい。
【0013】
本発明の冷凍機油組成物は、必要に応じ公知の各種の添加剤を配合することができる。本発明の冷凍機油組成物においては、極圧剤としてリン酸エステル類を含有することが好ましい。ここで、リン酸エステル類とは、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル、及びそれらのアミン塩を包含する。
【0014】
リン酸エステルとしては、トリアリールホスフェート,トリアルキルホスフェート,トリアルキルアリールホスフェート,トリアリールアルキルホスフェート,トリアルケニルホスフェート等があり、具体的には、例えばトリフェニルホスフェート,トリクレジルホスフェート,ベンジルジフェニルホスフェート,エチルジフェニルホスフェート,トリブチルホスフェート,エチルジブチルホスフェート,クレジルジフェニルホスフェート,ジクレジルフェニルホスフェート,エチルフェニルジフェニルホスフェート,ジエチルフェニルフェニルホスフェート,プロピルフェニルジフェニルホスフェート,ジプロピルフェニルフェニルホスフェート,トリエチルフェニルホスフェート,トリプロピルフェニルホスフェート,ブチルフェニルジフェニルホスフェート,ジブチルフェニルフェニルホスフェート,トリブチルフェニルホスフェート,トリヘキシルホスフェート,トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート,トリデシルホスフェート,トリラウリルホスフェート,トリミリスチルホスフェート,トリパルミチルホスフェート,トリステアリルホスフェート,トリオレイルホスフェート等を挙げることができる。
【0015】
酸性リン酸エステルとしては、具体的には、例えば2−エチルヘキシルアシッドホスフェート,エチルアシッドホスフェート,ブチルアシッドホスフェート,オレイルアシッドホスフェート,テトラコシルアシッドホスフェート,イソデシルアシッドホスフェート,ラウリルアシッドホスフェート,トリデシルアシッドホスフェート,ステアリルアシッドホスフェート,イソステアリルアシッドホスフェート等を挙げることができる。
【0016】
亜リン酸エステルとしては、具体的には、例えばトリエチルホスファイト,トリブチルホスファイト,トリフェニルホスファイト,トリクレジルホスファイト,トリ(ノニルフェニル)ホスファイト,トリ(2−エチルヘキシル)ホスファイト,トリデシルホスファイト,トリラウリルホスファイト,トリイソオクチルホスファイト,ジフェニルイソデシルホスファイト,トリステアリルホスファイト,トリオレイルホスファイト等を挙げることができる。
【0017】
酸性亜リン酸エステルとしては、具体的には、例えばジブチルハイドロゲンホスファイト,ジラウリルハイドロゲンホスファイト,ジオレイルハイドゲンホスファイト,ジステアリルハイドロゲンホスファイト,ジフェニルハイドロゲンホスファイト等を挙げることができる。以上のリン酸エステル 類の中で、オレイルアシッドホスフェート,ステアリルアシッドホスフェートが好適である。
【0018】
上述のリン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル又は酸性亜リン酸エステルアミン塩に用いられるアミンを以下に例示する。
モノ置換アミンの例としては、ブチルアミン,ペンチルアミン,ヘキシルアミン,シクロヘキシルアミン,オクチルアミン,ラウリルアミン,ステアリルアミン,オレイルアミン,ベンジルアミン等を挙げることができ、ジ置換アミンの例としては、ジブチルアミン,ジペンチルアミン,ジヘキシルアミン,ジシクロヘキシルアミン,ジオクチルアミン,ジラウリルアミン,ジステアリルアミン,ジオレイルアミン,ジベンジルアミン,ステアリル・モノエタノールアミン,デシル・モノエタノールアミン,ヘキシル・モノプロパノールアミン,ベンジル・モノエタノールアミン,フェニル・モノエタノールアミン,トリル・モノプロパノール等を挙げることができる。また、トリ置換アミンの例としては、トリブチルアミン,トリペンチルアミン,トリヘキシルアミン,トリシクロヘキシルアミン,トリオクチルアミン,トリラウリルアミン,トリステアリルアミン,トリオレイルアミン,トリベンジルアミン,ジオレイル・モノエタノールアミン,ジラウリル・モノプロパノールアミン,ジオクチル・モノエタノールアミン,ジヘキシル・モノプロパノールアミン,ジブチル・モノプロパノールアミン,オレイル・ジエタノールアミン,ステアリル・ジプロパノールアミン,ラウリル・ジエタノールアミン,オクチル・ジプロパノールアミン,ブチル・ジエタノールアミン,ベンジル・ジエタノールアミン,フェニル・ジエタノールアミン,トリル・ジプロパノールアミン,キシリル・ジエタノールアミン,トリエタノールアミン,トリプロパノールアミン等を挙げることができる。
【0019】
また、本発明の冷凍機油組成物は、酸化防止剤、酸捕捉剤を含有することが好ましい。
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系の酸化防止剤が挙げられ、具体的には、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(DBPC)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール等のフェノール系、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、N.N’−ジ−フェニル−p−フェニレンジアミン等のアミン系の酸化防止剤を配合するのが好ましい。酸化防止剤は、効果及び経済性などの点から、組成物中に通常0.01〜5質量%、好ましくは0.05〜3質量%配合する。
【0020】
酸捕捉剤としては、例えばフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシド、エポキシ化大豆油などのエポキシ化合物を挙げることができる。中でも相溶性の点でフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシドが好ましい。
このアルキルグリシジルエーテルのアルキル基、及びアルキレングリコールグリシジルエーテルのアルキレン基は、分岐を有していてもよく、炭素数は通常3〜30、好ましくは4〜24、特に6〜16のものである。また、α−オレフィンオキシドは全炭素数が一般に4〜50、好ましくは4〜24、特に6〜16のものを使用する。本発明においては、上記酸捕捉剤は1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、効果及びスラッジ発生の抑制の点から、組成物に対して、通常0.005〜5質量%、特に0.05〜3質量%の範囲が好ましい。
【0021】
その他、本発明の冷凍機油組成物には、従来潤滑油に用いられる公知の添加剤を含有することができ、例えば、上記記載以外の極圧剤を含有することができる。該極圧剤としては、例えば、モノスルフィド類、ポリスルフィド類、スルホキシド類、スルホン類、チオスルフィネート類、硫化油脂、チオカーボネート類、チオフェン類、チアゾール類、メタンスルホン酸エステル類等の有機硫黄化合物系のもの、チオリン酸トリエステル類等のチオリン酸エステル系のもの、高級脂肪酸,ヒドロキシアリール脂肪酸類,多価アルコールエステル類,アクリル酸エステル類等のエステル系のもの、塩素化炭化水素類,塩素化カルボン酸誘導体等の有機塩素系のもの、フッ素化脂肪族カルボン酸類、フッ素化エチレン樹脂、フッ素化アルキルポリシロキサン類、フッ素化黒鉛等の有機フッ素化系のもの、高級アルコール等のアルコール系のもの、ナフテン酸塩類(ナフテン酸鉛等)、脂肪酸塩類(脂肪酸鉛等)、チオリン酸塩類(ジアルキルジチオリン酸亜鉛等)、チオカルバミン酸塩類、有機モリブデン化合物、有機スズ化合物、有機ゲルマニウム化合物、ホウ酸エステル等の金属化合物系のもの等が挙げられる。
その他、ベンゾトリアゾールやその誘導体等の銅不活性化剤等を適宜配合することができる。また、耐荷重添加剤、塩素捕捉剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、油性剤、防錆剤、腐食防止剤、流動点降下剤、消泡剤等を所望に応じて添加することができる。これらの添加剤は、通常、冷凍機油組成物全量基準で0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜10質量%含有される。
【0022】
本発明においては、冷凍機用圧縮機の圧縮機構部を構成する部材の少なくとも一部のアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部に、摺動材をコーティングすることを特徴とする。この摺動材として、有機コーティング膜又は無機コーティング膜が好適に用いられる。
【0023】
上述の有機コーティング膜が、熱変形温度が100℃以上の樹脂をバインダーとし、固体潤滑剤を含む潤滑皮膜形成用組成物からなることが更に好ましい。
ここで、熱変形温度(HDT:Heat Distortion Temperature)とは、一定の荷重をかけた状態で、一定速度で昇温したときにプラスチックが変形する温度をいい、本発明においては、熱変形温度試験ASTM D648(1.8MPa)による温度で示す。
【0024】
また、無機コーティング膜としては、黒鉛、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、炭化チタン(TiC)、窒化ボロン(BN)等の無機材料膜及び/又は金属メッキ膜が好適に用いられる。金属メッキ膜としては、ニッケルメッキ、モリブデンメッキ、スズメッキ、クロムメッキ、カニフロンメッキ、カニゼンメッキ、鉄系合金メッキ、アルミニウム系合金メッキ及び銅系合金メッキからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
これらの無機材料膜及び金属メッキ膜の製法としては、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法として、プラズマCVD方式等の化学蒸着(CVD)法や、イオンプレーティング方式やスパッター方式等の物理蒸着(PVD)法が挙げられる。また、金属メッキ膜の製法としては、電解メッキや無電解メッキを用いてもよい。
【0025】
本発明において、摺動材として、上述の潤滑皮膜形成用組成物を用いれば、上述のイミド化合物との交互作用により冷凍機用圧縮機の起動時及び運転時におけるアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部の潤滑性が大幅に向上し、特に好ましい。
【0026】
上述の潤滑皮膜形成用組成物に用いるバインダーとしては、熱変形温度が100℃以上の樹脂であることが好ましく、熱変形温度が150℃以上であることがより好ましく、さらには200℃以上、特には250℃以上であることが好ましい。
具体的には、窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子を含む樹脂が好ましく、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素含有樹脂、不飽和ポリエステル、ポリアセタール、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンゾアゾール等が挙げられるが、特に、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾアゾール、ポリフェニレンスルフィド及びポリアセタールが熱安定性に優れている点で好ましい。
ポリアミドとしては、芳香族ポリアミド、ポリエーテルアミド及びこれらの変性体等が挙げられ、ポリイミドとしては、芳香族ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びこれらの変性体等が挙げられ、ポリアミドイミドとしては、芳香族ポリアミドイミド及びこれらの変性体等が挙げられる。また、ポリベンゾアゾールとしては、ポリベンゾイミダゾール等が好適に挙げられる。これらの樹脂は1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
本発明において好適には、上記バインダーは潤滑被膜形成用組成物に含有され、圧縮機構部を構成する部材の少なくとも一部のアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部にコーティングされる。該潤滑被膜形成用組成物中のバインダーの含有量は、該組成物全量基準で20〜100質量%の範囲であることが好ましい。20質量%以上であると、後述する固体潤滑剤を潤滑被膜中に強固に保持することができ、十分な潤滑性が得られる。なお、固体潤滑剤を配合する上では、潤滑被膜形成用組成物中のバインダーの含有量は、20〜80質量%の範囲であることがさらに好ましい。
【0027】
次に、固体潤滑剤としては、固体状態で潤滑性を示すものであれば特に制限はなく、具体的には、黒鉛、カーボンブラック、二硫化モリブデン、硫化タングステン、フッ素含有ポリマー(特に、フッ素含有樹脂)、窒化ホウ素、グラファイト等が挙げられ、これらのうち、二硫化モリブデン、フッ素含有樹脂、黒鉛及びカーボンブラックが好ましい。これらの固体潤滑剤は、1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
固体潤滑剤の潤滑被膜中における平均粒子径は特に限定されるものではないが、1〜100μmの範囲が緻密な潤滑皮膜を形成する点から好ましい。
固体潤滑剤の含有量は、上記バインダー樹脂100質量部に対して、20〜80質量部の範囲であることが好ましい。20質量部以上であると十分な潤滑性が得られ、80質量部以下であると、バインダーの含有量が減少することによる、潤滑被膜中での固体潤滑剤の保持性が低下せず、固体潤滑剤の摩耗や剥離が生じない。さらに好ましくは、固体潤滑剤の含有量が、バインダー樹脂100質量部に対して、30〜70質量部の範囲である。
【0028】
また、潤滑被膜形成用組成物には、皮膜形成補助剤を添加することが好ましい。皮膜形成補助剤としては、例えば、エポキシ基を持つ化合物、シランカップリング剤等が好適に挙げられ、固体潤滑剤の保持性を向上させることができる。
前記バインダー樹脂に対する皮膜形成補助剤の含有量は、バインダー樹脂と皮膜形成補助剤の質量比として、99:1〜70:30の範囲が好ましい。
【0029】
潤滑被膜形成用組成物には、必要に応じ公知の各種の添加剤を配合することができる。例えば、トリクレジルホスフェート(TCP)等のリン酸エステルやトリ(ノニルフェニル)ホスファイト等の亜リン酸エステル等の極圧剤;フェノール系、アミン系の酸化防止剤;フェニルグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、エポキシ化大豆油等の安定剤;ベンゾトリアゾールやその誘導体等の銅不活性化剤等を適宜配合することができる。これらの他、耐荷重添加剤、塩素捕捉剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、油性剤、防錆剤、腐食防止剤、流動点降下剤等を所望に応じて添加することができる。これらの添加剤は、通常、潤滑被膜形成用組成物全量基準で0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜10質量%含有される。
【0030】
潤滑被膜の膜厚に関しては、本発明の効果を奏する範囲で特に限定されないが、2〜50μmの範囲であることが好ましい。2μm以上であると十分な潤滑性が確保され、50μm以下であると耐疲労性が維持される。以上の観点から、潤滑被膜の膜厚は4〜25μmの範囲であることがさらに好ましい。
上記潤滑被膜形成用組成物は、圧縮機構部を構成する少なくとも一部の部材のアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部にコーティングされるが、コーティング方法としては特に限定はなく、例えば、有機溶媒に前記バインダーを溶解させ、固体潤滑剤を分散させて潤滑被膜形成用組成物を調製した後、該組成物をアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部に直接塗布する方法、該組成物にアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部を浸漬する方法等が挙げられる。アルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部に塗布等された組成物は溶媒を、乾燥等の方法により除去して、潤滑皮膜が形成される。
【0031】
本発明の冷凍機油は、種々の冷媒に用いることができる。二酸化炭素冷媒、ハイドロカーボン系冷媒、アンモニア系冷媒、ハイドロフルオロカーボン系冷媒等に好適に使用することができる。これらの冷媒のうち、特に二酸化炭素冷媒に好適に用いられる。
【0032】
次に、本発明において冷凍機用圧縮機は、上述の冷凍機油組成物を用いる圧縮機であって、圧縮機構部を構成する部材のアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部に、窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子を含む樹脂をバインダーとし、二硫化モリブデン、フッ素含有樹脂、黒鉛及びカーボンブラックから選ばれる少なくとも1種を含む潤滑皮膜形成用組成物がコーティングされていることが好ましい。ここで、圧縮機構部を構成する部材とは、例えば、往復動ピストン式圧縮機にあっては、ピストン、シリンダー等をいい、これらの部材のアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部に前記潤滑皮膜形成用組成物をコーティングし、前記冷凍機油組成物を用いることで、これらのアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部の潤滑性を確保するものである。
【0033】
また、本発明は上記圧縮機、放熱器、膨張機構及び蒸発器を含む冷凍回路に二酸化炭素、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロカーボン及びアンモニアから選ばれる冷媒を循環させる冷凍装置をも包含するものである。
そして、この冷凍装置のシステム内の水分含有量が300ppm以下であることが、加水分解や腐食を抑えるためにより好ましい。また、残存空気が50ppm以下であることが、酸化劣化を抑えるためにより好ましい。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
冷凍機油組成物の評価は、以下の方法により行った。
(1)密閉ブロックオンリング摩耗試験
荷重100N、回転数1000rpm、時間20分、温度50℃、冷媒:二酸化炭素、冷媒圧:1MPa、ブロック/リング=A4032/モニクロ鋳鉄の条件で、ブロック摩耗巾(mm)を評価した。
(2)分散性試験
各供試油にバリウムスルホネート系防錆剤0.5%を混合し、−5℃に保持し、析出の有無を比較した。
【0035】
実施例1〜15及び比較例1〜3
表1に示す配合内容により、18種類の冷凍機油組成物を調製した。上記方法に従って評価した結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1により明らかなごとく、本発明の冷凍機油組成物は、冷凍機用圧縮機のアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部における摩耗、焼付け防止性能とスラッジ分散性との双方に優れるものである。
【0038】
次に、圧縮機構部を構成する部材のアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部に、ポリアミドイミドをバインダーとし、固体潤滑剤として二硫化モリブデン及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、ポリアミドイミド/二硫化モリブデン/PTFE=100/25/25(質量部)の比率で用いた潤滑皮膜形成用組成物を、厚さが30μmとなるように塗布した後、膜厚を10〜20μm、表面粗さRz(10点平均粗さ)を3.2μm以下となるように加工した冷凍機用圧縮機に実施例1〜15の15種類の冷凍機油組成物を夫々用いて運転し、冷凍機用圧縮機の起動時及び運転時におけるアルミニウム摺動部及び鉄摺動部の潤滑性を評価した所、いずれの摺動部においても、実施例1〜15の冷凍機油組成物は優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の冷凍機油組成物、これを用いた圧縮機及び冷凍装置は、開放型、半密閉型及び密閉型冷凍機に用いられ、カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調設備、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース等の冷凍システム、給湯システム及び床暖房システムに好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種である基油に、イミド化合物を冷凍機油組成物全量基準で0.01〜5質量%含むことを特徴とする冷凍機油組成物。
【請求項2】
基油がナフテン鉱油、パラフィン鉱油、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリ−α−オレフィン、ポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンモノエーテル、ポリオキシアルキレンジエーテル、ポリビニルエーテル、ポリビニルエーテル−ポリアルキレングリコール共重合体、ポリオールエステル、ポリカーボネートからなる群から1種以上選ばれる請求項1に記載の冷凍機油組成物。
【請求項3】
基油の40℃の動粘度が2〜500mm2/sである請求項1又は2に記載の冷凍機油組成物。
【請求項4】
イミド化合物がモノイミド、ビスイミド及び分子内にイミド基を3個以上有するポリイミド化合物からなる群から1種以上選ばれる請求項1〜3のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
【請求項5】
さらに、リン酸エステル類を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
【請求項6】
さらに、酸化防止剤及び酸捕捉剤から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
【請求項7】
鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種である基油に、イミド化合物を冷凍機油組成物全量基準で0.01〜5質量%含む冷凍機油組成物を用いる圧縮機であって、圧縮機構部を構成する部材のアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部に、窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子を含む樹脂をバインダーとし、二硫化モリブデン、フッ素含有樹脂、黒鉛及びカーボンブラックから選ばれる少なくとも1種を含む潤滑皮膜形成用組成物がコーティングされていることを特徴とする冷凍機用圧縮機。
【請求項8】
圧縮機が、二酸化炭素、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロカーボン及びアンモニアから選ばれる冷媒を圧縮するものである請求項7に記載の冷凍機油組成物。
【請求項9】
圧縮機の圧縮機構が、スクロール、ロータリー、スイング及びピストン式からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項7又は8に記載の冷凍機用圧縮機。
【請求項10】
圧縮機、放熱器、膨張機構及び蒸発器を含む冷凍回路に、二酸化炭素、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロカーボン及びアンモニアから選ばれる冷媒を循環させる冷凍装置であって、圧縮機に用いる冷凍機油組成物が、鉱油及び合成油から選ばれる40℃の動粘度2〜500mm2/sである基油に、イミド化合物を組成物全量基準で0.01〜5質量%含む冷凍機油組成物を使用し、かつ、バインダーとしてポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリベンゾアゾール、ポリフェニレンスルフィド及びポリアセタールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む樹脂と、二硫化モリブデン、フッ素含有樹脂、黒鉛及びカーボンブラックから選ばれる少なくとも1種とを含有する潤滑皮膜形成用組成物をアルミニウム及び/又は鉄からなる摺動部にコーティングした圧縮機であることを特徴とする冷凍装置。

【公開番号】特開2007−169396(P2007−169396A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−367051(P2005−367051)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】