説明

冷凍機用潤滑油組成物

【課題】地球温暖化係数が低く、特に好適には、現行カーエアコンシステム、空調機器などに使用可能な冷媒である不飽和フッ化炭化水素化合物等特定の構造を有する冷媒を用いた冷凍機用として使用され、前記冷媒に対する優れた相溶性を有すると共に、熱・化学的安定性にも優れる冷凍機用潤滑油組成物を提供することである。
【解決手段】基油と、分子内に非共役二重結合を2つ以上有する有機化合物とを含む冷凍機用潤滑油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機用潤滑油組成物、さらに詳しくは、地球温暖化係数が低く、特に好適には、現行カーエアコンシステムなどに使用可能な冷媒である不飽和フッ化炭化水素化合物等特定の冷媒を用いた冷凍機用として使用される冷凍機用潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、圧縮型冷凍機は、少なくとも圧縮機、凝縮器、膨張機構(膨張弁など)、蒸発器、あるいは更に乾燥器から構成され、冷媒と潤滑油(冷凍機油)との混合液体がこの密閉された系内を循環する構造となっている。このような圧縮型冷凍機においては、装置の種類にもよるが、一般に、圧縮機内では高温、冷却器内では低温となるので、冷媒及び潤滑油は低温から高温まで幅広い温度範囲内で相分離することなく、この系内を循環することが必要である。一般に、冷媒と潤滑油とは低温側及び高温側に相分離する領域を有し、そして、低温側の分離領域の最高温度としては−10℃以下が好ましく、特に−20℃以下が好ましい。一方、高温側の分離領域の最低温度としては30℃以上が好ましく、特に40℃以上が好ましい。もし、冷凍機の運転中に相分離が生じると、装置の寿命や効率に著しい悪影響を及ぼす。例えば、圧縮機部分で冷媒及び潤滑油の相分離が生じると、可動部が潤滑不良となって、焼付きなどを起こして装置の寿命を著しく短くし、一方蒸発器内で相分離が生じると、粘度の高い潤滑油が存在するため熱交換の効率低下をもたらす。
【0003】
従来、冷凍機用冷媒としてクロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)などが主に使用されてきたが、環境問題(オゾン層破壊)の原因となる塩素を含む化合物であったことから、ハイドロフルオロカーボン(HFC)などの塩素を含有しない代替冷媒が検討されるに至った。このようなハイドロフルオロカーボンとしては、例えば1,1,1,2−テトラフルオロエタン、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン、1,1,1−トリフルオロエタン(以下、それぞれR134a、R32、R125、R143aと称せられる。)に代表されるハイドロフルオロカーボンが注目されるようになり、例えばカーエアコンシステムにはR134aが使用されてきた。
しかしながら、このHFCも地球温暖化の面で影響が懸念されることから、更に環境保護に適した代替冷媒として二酸化炭素などのいわゆる自然冷媒が注目されているが、この二酸化炭素は高圧を必要とするため、現行のカーエアコンシステムには使用することができない。
地球温暖化係数が低く、現行カーエアコンシステムに使用できる冷媒として、例えば不飽和フッ化炭化水素化合物(例えば、特許文献1参照)、フッ化エーテル化合物(例えば、特許文献2参照)、フッ化アルコール化合物、フッ化ケトン化合物など分子中に特定の極性構造を有する冷媒が見出されている。
【0004】
上記冷媒と共に用いた場合であっても、熱・化学的安定性や冷媒相溶性を高水準で達成することを目的として、基油にテルペン化合物や特定の脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物を含有させる技術が開示されている(例えば、特許文献3、4及び5参照)。
このような冷媒を用いる冷凍機用潤滑油に対しては、前記冷媒に対する優れた相溶性を有すると共に、安定性に優れることが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−503961号公報
【特許文献2】特表平7−507342号公報
【特許文献3】特表2008−524432号公報
【特許文献4】特開2008−208261号公報
【特許文献5】特開2009−74018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、既存の酸化防止剤や酸捕捉剤、さらには前記化合物を用いた場合では、現行以上の熱・化学安定性が得られず、またこれらの添加量を増量した場合にもその効果は低かった。
本発明は、このような状況下で、地球温暖化係数が低く、特に好適には、現行カーエアコンシステム、空調機器などに使用可能な冷媒である不飽和フッ化炭化水素化合物等特定の構造を有する冷媒を用いた冷凍機用として使用され、前記冷媒に対する優れた相溶性を有すると共に、熱・化学的安定性にも優れる冷凍機用潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、基油に特定の化合物からなる酸捕捉剤を含ませることにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
【0008】
(1) 基油と、分子内に非共役二重結合を2つ以上有する有機化合物とを含む冷凍機用潤滑油組成物、
(2) 前記分子内に非共役二重結合を2つ以上有する有機化合物が、1,4−ジエン構造を有する請求項1に記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(3) 前記分子内に非共役二重結合を2つ以上有する有機化合物が、橋かけ環式構造を有する(1)に記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(4) 前記分子内に非共役二重結合を2つ以上有する有機化合物の配合量が、組成物全量基準で0.1質量%以上10質量%以下である(1)〜(3)のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(5) 前記冷凍機用潤滑油組成物が用いられる冷凍機油が、冷媒として、下記の分子式(A)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物、または前記含フッ素有機化合物と飽和フッ化炭化水素化合物との組合せを含む(1)〜(4)のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、
pqrs ・・・(A)
(式中、RはCl、Br、I及びHのいずれかを示し、各々pは1〜6、qは0〜2、rは1〜14、sは0〜13の整数である。但し、qが0の場合は、pは2〜6であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。)
(6) 前記分子式(A)で表される化合物が、不飽和フッ化炭化水素化合物、フッ化エーテル化合物、フッ化アルコール化合物及びフッ化ケトン化合物の中から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物である(5)に記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(7) 前記不飽和フッ化炭化水素化合物が、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO1225ye)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO1234ze)及び2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)から選ばれる少なくとも1種である(6)に記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(8) 前記フッ化エーテル化合物が、フッ化ジメチルエーテルである(6)に記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(9) 前記フッ化アルコール化合物が、フッ化メチルアルコールである(6)に記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(10) 前記フッ化ケトン化合物が、フッ化アセトンである(6)に記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(11) 前記飽和フッ化炭化水素化合物が、ジフルオロメタン、1,1−ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン及びペンタフルオロエタンの中から選ばれる少なくとも1種である(5)〜(10)のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(12) 前記基油が、ポリオキシアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリ(オキシ)アルキレングリコールまたはそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、ポリオールエステル類及びポリカーボネート類の中から選ばれる少なくとも1種を主成分として含む(1)〜(11)のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(13) 前記基油の100℃における動粘度が、1mm2/s以上50mm2/s以下である(1)〜(12)のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(14) 前記基油の数平均分子量が、300以上3000以下である(1)〜(13)のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(15) 前記基油の粘度指数が、60以上である(1)〜(14)のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、
【0009】
(16) さらに極圧剤、油性剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、金属不活性化剤及び消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む(1)〜(15)のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(17) 冷凍機の摺動部分がエンジニアリングプラスチックからなるもの、または有機コーティング膜もしくは無機コーティング膜を有するものである(1)〜(16)のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(18) 前記有機コーティング膜が、ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜、ポリイミドコーティング膜、ポリアミドイミドコーティング膜、ポリヒドロキシエーテル樹脂とポリサルホン系樹脂とからなる樹脂基材及び架橋剤を含む樹脂塗料を用いて形成された熱硬化型絶縁膜のいずれかである(17)に記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(19) 前記無機コーティング膜が、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、スズ膜、クロム膜、ニッケル膜及びモリブデン膜のいずれかである(17)に記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(20) カーエアコン、電動カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機またはショーケースの給湯システム、及び冷凍・暖房システムのいずれかに用いられる(1)〜(19)のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、及び
(21) システム内の水分含有量が300質量ppm以下で、残存空気分圧が10kPa以下である(20)に記載の冷凍機用潤滑油組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地球温暖化係数が低く、特に好適には、現行カーエアコンシステムなどに使用可能な冷媒である不飽和フッ化炭化水素化合物等特定の構造を有する冷媒を用いた冷凍機用として使用され、前記冷媒に対する優れた相溶性を有すると共に、熱・化学的安定性にも優れる冷凍機用潤滑油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の冷凍機用潤滑油組成物は、基油と、分子内に非共役二重結合を2つ以上有する有機化合物とを含むことを特徴とする。
<分子内に非共役二重結合を2つ以上有する有機化合物>
本発明の冷凍機用潤滑油組成物には、基油に対して、分子内に非共役二重結合を2つ以上有する有機化合物が配合される。ここで、上記非共役二重結合とは、二重結合が2つ以上の単結合により隔てられた関係を意味する。また、上記二重結合は芳香環に含まれていても含まれていなくてもよい。なお、非共役ジエンの場合、非共役二重結合を2つとして数える。
【0012】
上記分子内に非共役二重結合を2つ以上有する有機化合物は、酸素捕捉剤として働く。すなわち、冷凍機系内に微量に存在する酸素を、二重結合のα位の水素との置換反応により除去する作用をする。
前記分子内に含まれる非共役二重結合の数は2つ以上である。二重結合数が1つであると、酸素との反応性が不十分となる。該非共役二重結合の上限は10程度である。
【0013】
このような分子内に非共役二重結合を2つ以上有する有機化合物が、1,4−ジエン構造を有するか、橋かけ環式構造を有することが好ましい。
ここで上記1,4−ジエン構造とは、1位及び4位の位置に二重結合を有する構造を意味し、また橋かけ環式構造とは、少なくとも1つの環内に該環を分断する結合(二重結合を有していてもよい)が存在する構造を意味する。
【0014】
前記1,4−ジエン構造を有する有機化合物としては、1,4−シクロヘキサジエン、2−ビニル−1−メチレンシクロプロパン、1,3−ジメチレンシクロブタン、4−メチレンシクロペンテン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、3−メチル−1,4−ペンタジエン、3−メチレン−1,4−シクロヘキサジエン、1,4−シクロヘプタジエン、3−ビニル−1,4−ペンタジエン、1,2,6−ヘプタトリエン、4−メチレンシクロヘキセン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、2,4−ジメチル1,4−ペンタジエン、1,4−シクロオクタジエン、2,3−ジメチル−1,4−ヘキサジエン、3−メチル−1,4−ヘプタジエン、1,4,7−シクロノナトリエン、1,3,5−トリメチル−1,4−シクロヘキサジエン、(Z)−1,4−ノナジエン、1,3,5−トリス(メチレン)シクロヘプタン、3,4−ジビニル−1,5−ヘキサジエン、3−エチル−1,4−オクタジエン、1,4−デカジエン、1,4−ウンデカジエン、2,4,5,6−ペンタメチル−1,4−シクロオクタジエン、7−エテニル−5−ウンデセン、2−ノニル−1,4−ペンタジエン、4−ペンチル−1,4−デカジエン、2−デシル−1,4−ペンタジエン、6,9−ペンタデカジエン、1,7,10−ヘキサデカトリエン、ジヒドロアプロタキセン、1,8,11−ヘプタデカトリエン、3,6,9−ヘプタデカトリエン、6,9−ヘプタデカジエン、3,6,9−オクタデカトリエン、6,9,12−オクタデカトリエン、6,9−オクタデカジエン、3,6,9−ノナデカトリエン、2,6−ジメチル−2,6,9−ヘプタデカトリエン、2,2−ジメチル−6−ペンチル−3,6−ドデカジエン、2,4,6,8,10,12−ヘキサメチル−1,12−トリデカジエン、7,11,15−トリメチル−1,4−ヘプタデカジエン、1,4−p−メンタジエンなどが挙げられる。これらの中では、酸素との反応性が高い1,4−p−メンタジエン、1,4−シクロヘキサジエン、1,4−ヘキサジエンがより好ましく用いられる。
【0015】
また前記橋かけ環状構造を有する有機化合物としては、2,5−ノルボルナジエン、ノルボルナジエン、ビシクロ[3.2.0]ヘプタ−2,6−ジエン、ホモトロピリデン、5−メチレンビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、ビシクロ[2.2.2]オクタ−2,5−ジエン、ビシクロ[3.2.1]オクタ−2,6−ジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネンなどが挙げられる。これらの中では、酸素との反応性が高い2,5−ノルボルナジエンがより好ましく用いられる。
【0016】
その他の分子内に非共役二重結合を2つ以上有する有機化合物としては、1,5−ヘキサジエン、1−メチル−1,4−シクロヘキサジエン、3−メチレン−1,5−ヘキサジエン、2−メチル−1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、3−メチル−1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,5−ヘプタジエン、4−ビニル−1−シクロヘキセン、1,5−シクロオクタジエン、1,4−ビスメチレンシクロヘキサン、1,7−オクタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン、3−エチル−1,4−ヘキサジエン、2,6−オクタジエン、1,6−オクタジエン、1−メチル−2,3−ジビニルシクロブタン、1−(1−メチルエテニル)−3−シクロヘキセン、1−メチル−5−ビニル−1−シクロヘキセン、1−メチル−1−エテニル−3−シクロヘキセン、3,5−ジメチル−1,6−ヘプタジエン、3,3−ジメチル−1,6−ヘプタジエン、4−メチル−2,6−オクタジエン、2,5−ジメチル−1,6−ヘプタジエン、3,6−ジメチル−1,5−ヘプタジエン、ミルセン、シクロデカ−1,6−ジエン、1,5−シクロデカジエン、2,7−ジメチル−2,6−オクタジエン、1,5,9−シクロドデカトリエン、1,1′−ビ[2−シクロヘキセン]、3−シクロヘキシル−1,5−ヘキサジエン、6−メチレン−1,10−ウンデカジエン、1,5−シクロドデカジエン、6,10−ジメチル−1,5,9−ウンデカトリエン、1,12−トリデカジエン、2,6−ジメチル−1,6−ウンデカジエン、1,8−シクロテトラデカジエン、8−シクロヘキシル−1,5−オクタジエン、2,6−ジメチル−10−ビニル−2,6−デカジエン、1,13−テトラデカジエン、3−イソプロピル−2,5,7−トリメチル−1,5−オクタジエン、4,5−ジプロピル−1,7−オクタジエン、1,9−シクロヘキサデカジエン、1,7−ヘキサデカジエン、2,4,6,8,10−ペンタメチル−1,10−ウンデカジエン、8,14−ヘプタデカジエン、1,11−オクタデカジエン、9−エチリデン−1,16−ヘプタデカジエン、1,11−シクロイコサジエン、1,9−イコサジエン、イコサ−7,13−ジエン、4,9−ジブチル−1,11−ドデカジエンなどが挙げられる。
【0017】
上述した分子内に非共役二重結合を2つ以上有する有機化合物の配合量は、組成物全量基準で0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。配合量が当該範囲にあると、冷媒との相溶性を維持しつつ酸素捕捉剤としての機能が十分に発揮される。
上記配合量は0.1質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることがさらに好ましい。
なお、本発明の冷凍機用潤滑油組成物には、上記分子内に非共役二重結合を2つ以上有する有機化合物が含まれていればよく、必要により他の酸素捕捉剤が含まれていてもよい。
【0018】
<基油>
本発明における基油としては、ポリオキシアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリ(オキシ)アルキレングリコールまたはそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、ポリオールエステル類及びポリカーボネート類の中から選ばれる少なくとも1種を主成分として含むものであることが好ましい。
【0019】
[ポリオキシアルキレングリコール類]
前記基油として用いることのできるポリオキシアルキレングリコール類としては、例えば一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
1−[(OR2m−OR3n ・・・(I)
(式中、R1は水素原子、炭素数1〜10の1価の炭化水素基、炭素数2〜10のアシル基、結合部2〜6個を有する炭素数1〜10の炭化水素基又は炭素数1〜10の酸素含有炭化水素基、R2は炭素数2〜4のアルキレン基、R3は水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又は炭素数2〜10のアシル基又は炭素数1〜10の酸素含有炭化水素基、nは1〜6の整数、mはm×nの平均値が6〜80となる数を示す。)
【0020】
上記一般式(I)において、R1及びR3の各々における炭素数1〜10の1価の炭化水素基は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。該炭化水素基はアルキル基が好ましく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などを挙げることができる。このアルキル基の炭素数が10を超えると冷媒との相溶性が低下し、粗分離を生じる場合がある。好ましいアルキル基の炭素数は1〜6である。
また、R1及びR3の各々における炭素数2〜10のアシル基の炭化水素基部分は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。該アシル基の炭化水素基部分は、アルキル基が好ましく、その具体例としては、上記アルキル基の具体例として挙げた炭素数1〜9の種々の基を同様に挙げることができる。該アシル基の炭素数が10を超えると冷媒との相溶性が低下し、相分離を生じる場合がある。好ましいアシル基の炭素数は2〜6である。
1及びR3が、いずれも炭化水素基又はアシル基である場合には、R1とR3は同一であってもよいし、たがいに異なっていてもよい。
【0021】
さらにnが2以上の場合には、1分子中の複数のR3は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
1が結合部位2〜6個を有する炭素数1〜10の炭化水素基である場合、この炭化水素基は鎖状のものであってもよいし、環状のものであってもよい。結合部位2個を有する炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基が好ましく、例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基などが挙げられる。その他の炭化水素基としては、ビフェノール、ビスフェノールF、ビスフェノールAなどのビスフェノール類から水酸基を除いた残基を挙げることができる。また、結合部位3〜6個を有する炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基が好ましく、例えばトリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、1,2,3−トリヒドロキシシクロヘキサン、1,3,5−トリヒドロキシシクロヘキサンなどの多価アルコールから水酸基を除いた残基を挙げることができる。
この脂肪族炭化水素基の炭素数が10を超えると冷媒との相溶性が低下し、相分離が生じる場合がある。好ましい炭素数は2〜6である。
【0022】
さらに、R1及びR3の各々における炭素数1〜10の酸素含有炭化水素基としては、エーテル結合を有する鎖状の脂肪族基や環状の脂肪族基などを挙げることができるが、特にテトラヒドロフルフリル基が好ましい。
本発明においては、上記R1及びR3は少なくとも一つがアルキル基、特に炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、とりわけメチル基であることが粘度特性の点から好ましい。更には、上記と同様の理由からR1及びR3の両方がアルキル基、特にメチル基であることが好ましい。
【0023】
前記一般式(I)中のR2は炭素数2〜4のアルキレン基であり、繰り返し単位のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。1分子中のオキシアルキレン基は同一であってもよいし、2種以上のオキシアルキレン基が含まれていてもよいが、1分子中に少なくともオキシプロピレン単位を含むものが好ましく、特にオキシアルキレン単位中に50モル%以上のオキシプロピレン単位を含むものが好適である。
前記一般式(I)中のnは1〜6の整数で、R1の結合部位の数に応じて定められる。例えばR1がアルキル基やアシル基の場合、nは1であり、R1が結合部位2,3,4,5及び6個を有する脂肪族炭化水素基である場合、nはそれぞれ2,3,4,5及び6となる。また、mはm×nの平均値が6〜80となる数であり、該平均値が80を超えると相溶性が低下し油戻り性が悪化する恐れがあるなど、m×nの平均値が前記範囲を逸脱すると本発明の目的は十分に達せられない。
【0024】
前記一般式(I)で表されるポリオキシアルキレングリコール類は、末端に水酸基を有するポリオキシアルキレングリコールを包含するものであり、該水酸基の含有量が全末端基に対して、50モル%以下になるような割合であれば、含有していても好適に使用することができる。この水酸基の含有量が50モル%を超えると吸湿性が増大し、粘度指数が低下するので好ましくない。なお、前述した不飽和フッ化炭化水素冷媒と組み合わせて使用する場合、該冷媒はオレフィン構造を有するため、安定性に劣ることから、基油は、水酸基価が5mgKOH/g以下であることが好ましく、3mgKOH/g以下であることがより好ましく、1mgKOH/g以下であることが特に好ましい。
また、ASTM色が1以下、灰分が0.1質量%以下であることが、基油の安定性の点から好ましい。
このようなポリオキシアルキレングリコール類としては、一般式(I−a)
【0025】
【化1】

【0026】
(式中、xは6〜80の数を示す。)
で表されるポリオキシプロピレングリコールジメチルエーテル、一般式(I−b)
【0027】
【化2】

【0028】
(式中、a及びbは、それぞれ1以上で、かつそれらの合計が6〜80となる数を示す。)
で表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールジメチルエーテル、及び一般式(I−c)
【0029】
【化3】

【0030】
(式中、xは6〜80の数を示す。)
で表されるポリオキシプロピレングリコールモノブチルエーテル、さらにはポリオキシプロピレングリコールジアセテートなどが、経済性及び効果の点で好適である。
なお、上記一般式(I)で表されるポリオキシアルキレングリコール類については、特開平2−305893号公報に詳細に記載されたものをいずれも使用することができる。
本発明においては、このポリオキシアルキレングリコール類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
前記ポリオキシアルキレングリコール誘導体は、例えば、エチレンオキシドやプロピレンオキシドなど炭素数2〜4のアルキレンオキシドを水や水酸化アルカリを開始剤として重合させて、両末端に水酸基を有するポリオキシアルキレングリコールを得た後、この水酸基の両端をハロゲン化アルキルやハロゲン化アシルを用いてエーテル化又はエステル化して得ることができる。
また、炭素数1〜10の一価のアルコール又はそのアルカリ金属塩を開始剤とし、炭素数2〜4のアルキレンオキシドを重合させて、一方の末端にエーテル結合を有し、他方の末端が水酸基である、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルを得た後、この水酸基をエーテル化又はエステル化することによって製造することもできる。なお、一般式(I)でnが2以上の化合物を製造する場合は、一価のアルコールに換えて、2〜6価の多価アルコールを開始剤とすればよい。
このような方法でポリオキシアルキレングリコール誘導体を製造するに際し、エーテル化又はエステル化反応におけるポリオキシアルキレングリコール等とハロゲン化アルキルやハロゲン化アシルとの割合において、ハロゲン化アルキルやハロゲン化アシルの量が、化学量論的量より少ない場合は、水酸基が残存し、水酸基価が高まる。したがって、ポリオキシアルキレングリコール等とハロゲン化アルキルやハロゲン化アシルとのモル比は、最適にすることが望ましい。また、不活性ガス雰囲気で重合、エーテル化、エステル化反応を行うことにより、着色を抑制することができる。
【0032】
[ポリビニルエーテル類]
本発明の冷凍機油組成物において、基油として用いることのできるポリビニルエーテル類としては、一般式(II)
【0033】
【化4】

【0034】
で表される構成単位を有するポリビニル系化合物を主成分とするものである。
上記一般式(II)におけるR4,R5及びR6はそれぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよい。ここで炭化水素基とは、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基などのアリール基;ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基などのアリールアルキル基を示す。なお、これらのR4、R5、R6は水素原子あるいは炭素数3以下の炭化水素基が特に好ましい。
【0035】
一方、一般式(II)中のR7は、炭素数2〜10の二価の炭化水素基を示すが、ここで炭素数2〜10の二価の炭化水素基とは、具体的にはエチレン基、フェニルエチレン基、1,2−プロピレン基、2−フェニル−1,2−プロピレン基、1,3−プロピレン基、各種ブチレン基、各種ペンチレン基、各種ヘキシレン基、各種ヘプチレン基、各種オクチレン基、各種ノニレン基、各種デシレン基などの二価の脂肪族基;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素に2個の結合部位を有する脂環式基;各種フェニレン基、各種メチルフェニレン基、各種エチルフェニレン基、各種ジメチルフェニレン基、各種ナフチレンなどの二価の芳香族炭化水素基;トルエン、エチルベンゼンなどのアルキル芳香族炭化水素のアルキル基部分と芳香族部分にそれぞれ一価の結合部位を有するアルキル芳香族基;キシレン、ジエチルベンゼンなどのポリアルキル芳香族炭化水素のアルキル基部分に結合部位を有するアルキル芳香族基などがある。これらの中で炭素数2から4の脂肪族基が特に好ましい。また複数のR7Oは同一でも異なっていてもよい。
なお、一般式(II)におけるpは繰り返し数を示し、その平均値が0〜10、好ましくは0〜5の範囲の数である。
【0036】
さらに、一般式(II)におけるR8は炭素数1〜10の炭化水素基を示すが、この炭化水素基とは、具体的にはメチル基,エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種プロピルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基、各種プロピルフェニル基、各種トリメチルフェニル基、各種ブチルフェニル基、各種ナフチル基などのアリール基;ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基、各種フェニルプロピル基,各種フェニルブチル基などのアリールアルキル基を示す。この中で炭素数8以下の炭化水素基が好ましく、pが0のときは炭素数1〜6のアルキル基が、pが1以上のときは炭素数1〜4のアルキル基が特に好ましい。
【0037】
本発明のポリビニルエーテル系化合物は、対応するビニルエーテル系モノマ−の重合により製造することができる。ここで用いることのできるビニルエーテル系モノマ−は、一般式(III)
【0038】
【化5】

【0039】
(式中、R4 ,R5 ,R6 ,R7 ,R8及びpは前記と同じである。)
で表されるものである。このビニルエーテル系モノマ−としては、上記ポリビニルエーテル系化合物に対応する各種のものがあるが、例えばビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニル−n−プロピルエーテル、ビニル−イソプロピルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル、ビニル−イソブチルエーテル、ビニル−sec−ブチルエーテル、ビニル−tert−ブチルエーテル、ビニル−n−ペンチルエーテル、ビニル−n−ヘキシルエーテル、ビニル−2−メトキシエチルエーテル、ビニル−2−エトキシエチルエーテル、ビニル−2−メトキシ−1−メチルエチルエーテル、ビニル−2−メトキシ−プロピルエーテル、ビニル−3,6−ジオキサヘプチルエーテル、ビニル−3,6,9−トリオキサデシルエーテル、ビニル−1,4−ジメチル−3,6−ジオキサヘプチルエーテル、ビニル−1,4,7−トリメチル−3,6,9−トリオキサデシルエーテル、ビニル−2,6−ジオキサ−4−ヘプチルエーテル、ビニル−2,6,9−トリオキサ−4−デシルエーテル、1−メトキシプロペン、1−エトキシプロペン、1−n−プロポキシプロペン、1−イソプロポキシプロペン、1−n−ブトキシプロペン、1−イソブトキシプロペン、1−sec−ブトキシプロペン、1−tert−ブトキシプロペン、2−メトキシプロペン、2−エトキシプロペン、2−n−プロポキシプロペン、2−イソプロポキシプロペン、2−n−ブトキシプロペン、2−イソブトキシプロペン、2−sec−ブトキシプロペン、2−tert−ブトキシプロペン、1−メトキシ−1−ブテン、1−エトキシ−1−ブテン、1−n−プロポキシ−1−ブテン、1−イソプロポキシ−1−ブテン、1−n−ブトキシ−1−ブテン、1−イソブトキシ−1−ブテン、1−sec−ブトキシ−1−ブテン、1−tert−ブトキシ−1−ブテン、2−メトキシ−1−ブテン、2−エトキシ−1−ブテン、2−n−プロポキシ−1−ブテン、2−イソプロポキシ−1−ブテン、2−n−ブトキシ−1−ブテン、2−イソブトキシ−1−ブテン、2−sec−ブトキシ−1−ブテン、2−tert−ブトキシ−1−ブテン、2−メトキシ−2−ブテン、2−エトキシ−2−ブテン、2−n−プロポキシ−2−ブテン、2−イソプロポキシ−2−ブテン、2−n−ブトキシ−2−ブテン、2−イソブトキシ−2−ブテン、2−sec−ブトキシ−2−ブテン、2−tert−ブトキシ−2−ブテン等が挙げられる。これらのビニルエーテル系モノマ−は公知の方法により製造することができる。
【0040】
本発明の冷凍機油組成物に主成分として用いられる前記一般式(II)で表される構成単位を有するポリビニルエーテル系化合物は、その末端を本開示例に示す方法及び公知の方法により、所望の構造に変換することができる。変換する基としては、飽和の炭化水素基、エーテル基、アルコール基、ケトン基、アミド基、ニトリル基などを挙げることができる。
本発明の冷凍機油組成物における基油に用いられるポリビニルエーテル系化合物としては、次の末端構造を有するものが好適である。すなわち、
(1)その一つの末端が、一般式(IV)
【0041】
【化6】

【0042】
(式中、R9 ,R10 及びR11 は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、R12 は炭素数2〜10の二価の炭化水素基、R13は炭素数1〜10の炭化水素基、qはその平均値が0〜10の数を示し、R12 Oが複数ある場合には複数のR12 Oは同一であっても異なっていてもよい。)
で表され、かつ残りの末端が一般式(V)
【0043】
【化7】

【0044】
(式中、R14,R15及びR16は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、R17は炭素数2〜10の二価の炭化水素基、R18は炭素数1〜10の炭化水素基、rはその平均値が0〜10の数を示し、R17Oが複数ある場合には複数のR17Oは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される構造を有するもの、
(2)その一つの末端が上記一般式(IV)で表され、かつ残りの末端が一般式
(VI)
【0045】
【化8】

【0046】
(式中、R19、R20及びR21は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、R22及びR24はそれぞれ炭素数2〜10の二価の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、R23及びR25はそれぞれ炭素数1〜10の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、s及びtはそれぞれその平均値が0〜10の数を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、また複数のR22Oがある場合には複数のR22Oは同一であっても異なっていてもよいし、複数のR24Oがある場合には複数のR24 は同一であっても異なっていてもよい。)
で表される構造を有するもの、
(3)その一つの末端が前記一般式(IV)で表され、かつ残りの末端がオレフィン性不飽和結合を有するもの、
(4)その一つの末端が前記一般式(IV)で表され、かつ残りの末端が一般式 (VII)
【0047】
【化9】

【0048】
(式中、R26,R27及びR28は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される構造のものである。
該ポリビニルエーテル系混合物は、前記(1)〜(4)の末端構造を有するものの中から選ばれた二種以上の混合物であってもよい。このような混合物としては、例えば前記(1)のものと(4)のものとの混合物、及び前記(2)のものと(3)のものとの混合物を好ましく挙げることができる。
なお、前述した不飽和フッ化炭化水素冷媒と組み合わせて使用する場合、該冷媒はオレフィン構造を有するため、安定性に劣ることから、基油は、水酸基価が17mgKOH/g以下であることが好ましく、15mgKOH/g以下であることがより好ましく、10mgKOH/g以下であることが特に好ましい。
【0049】
上記ポリビニルエーテル系化合物としては、好ましい粘度範囲のポリビニルエーテル系化合物を生成するよう、前記原料、開始剤及び反応条件を選定することが好ましい。なお、上記動粘度範囲外のポリマーでも、他の動粘度のポリマーと混合することで、上記動粘度範囲内に粘度調整することも可能である。
本発明においては、このポリビニルエーテル系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
[ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体]
なお、ポリ(オキシ)アルキレングリコールとは、ポリアルキレングリコール及びポリオキシアルキレングリコールの両方を指す。
本発明の冷凍機油組成物において、基油として用いることのできるポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体としては、一般式(VIII)及び一般式(IX)
【0051】
【化10】

【0052】
で表される共重合体(以下、それぞれをポリビニルエーテル系共重合体I及びポリビニルエーテル系共重合体IIと称する。)を挙げることができる。
上記一般式(VIII)におけるR29、R30及びR31はそれぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一でも異なっていてもよく、R33は炭素数2〜4の二価の炭化水素基、R34は炭素数1〜20の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基、炭素数1〜20の置換基を有してもよい芳香族基、炭素数2〜20のアシル基又は炭素数2〜50の酸素含有炭化水素基、R32は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、R34,R33,R32はそれらが複数ある場合にはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
ここでR29〜R31のうちの炭素数1〜8の炭化水素基とは、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基、各種ジメチルフェニル基などのアリール基;ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基などのアリールアルキル基を示す。なお、これらのR29,R30及びR31の各々としては、特に水素原子が好ましい。
【0053】
一方、R33で示される炭素数2〜4の二価の炭化水素基としては、具体的にはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、各種ブチレン基などの二価のアルキレン基がある。
なお、一般式(VIII)におけるvは、R33Oの繰り返し数を示し、その平均値が1〜50、好ましくは1〜20、さらに好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜5の範囲の数である。R33Oが複数ある場合には、複数のR33Oは同一でも異なっていてもよい。
また、kは1〜50、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜2、特に好ましくは1、uは0〜50、好ましくは2〜25、さらに好ましくは5〜15、の数を示し、kおよびuはそれらが複数ある場合にはそれぞれブロックでもランダムでもよい。
【0054】
さらに、一般式(VIII)におけるR34は、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアシル基または炭素数2〜50の酸素含有炭化水素基を示す。
この炭素数1〜10のアルキル基とは、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種プロピルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基などを示す。
また、炭素数2〜10のアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピパロイル基、ベンゾイル基、トルオイル基などを挙げることができる。
さらに、炭素数2〜50の酸素含有炭化水素基の具体例としては、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、1,1−ビスメトキシプロピル基、1,2−ビスメトキシプロピル基、エトキシプロピル基、(2−メトキシエトキシ)プロピル基、(1−メチル−2−メトキシ)プロピル基などを好ましく挙げることができる。
【0055】
一般式(VIII)において、R32で示される炭素数1〜10の炭化水素基とは、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種プロピルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基、各種プロピルフェニル基、各種トリメチルフェニル基、各種ブチルフェニル基、各種ナフチル基などのアリール基;ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基、各種フェニルプロピル基、各種フェニルブチル基などのアリールアルキル基等を示す。
なお、R29〜R31,R34,R33及びv並びにR29〜R32は、それぞれ構成単位毎に同一であっても異なっていてもよい。
【0056】
前記一般式(VIII)で表される構成単位を有するポリビニルエーテル系共重合体Iは共重合体にすることにより、相溶性を満足しつつ潤滑性、絶縁性、吸湿性等を向上させることができる効果がある。この際、原料となるモノマーの種類、開始剤の種類並びに共重合体の比率を選ぶことにより、油剤の上記性能を目的レベルに合わせることが可能となる。従って、冷凍システムあるいは空調システムにおけるコンプレッサーの型式、潤滑部の材質及び冷凍能力や冷媒の種類等により異なる潤滑性、相溶性等の要求に応じた油剤を自在に得ることができるという効果がある。
【0057】
一方、前記一般式(IX)で表されるポリビニルエーテル系共重合体IIにおいて、R29〜R32、R33及びvは前記と同じである。R33,R32はそれらが複数ある場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。x及びyは、それぞれ1〜50の数を示し、xおよびyはそれらが複数ある場合にはそれぞれブロックでもランダムでもよい。X,Yは、それぞれ独立に水素原子、水酸基又は、1〜20の炭化水素基を示す。
【0058】
前記一般式(VIII)で表されるポリビニルエーテル系共重合体Iの製造方法については、それが得られる方法であればよく、特に制限はないが、例えば、以下に示す製造方法1〜3により製造することができる。
(ポリビニルエーテル系共重合体Iの製造方法1)
この製造方法1においては、一般式(X)
34−(OR33v−OH ・・・(X)
(式中、R33、R34及びvは前記と同じである。)
で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコール化合物を開始剤とし、一般式(XI)
【0059】
【化11】

【0060】
(式中、R29〜R32は前記と同じである。)
で表されるビニルエーテル系化合物を重合させることにより、ポリビニルエーテル系共重合体Iを得ることができる。
前記一般式(X)で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコール化合物としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの(オキシ)アルキレングリコールモノエーテル等が挙げられる。
また、前記一般式(XI)で表されるビニルエーテル系化合物としては、例えばビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニル−n−プロピルエーテル、ビニル−イソプロピルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル、ビニル−イソブチルエーテル、ビニル−sec−ブチルエーテル、ビニル−tert−ブチルエーテル、ビニル−n−ペンチルエーテル、ビニル−n−ヘキシルエーテル等のビニルエーテル類;1−メトキシプロペン、1−エトキシプロペン、1−n−プロポキシプロペン、1−イソプロポキシプロペン、1−n−ブトキシプロペン、1−イソブトキシプロペン、1−sec−ブトキシプロペン、1−tert−ブトキシプロペン、2−メトキシプロペン、2−エトキシプロペン、2−n−プロポキシプロペン、2−イソプロポキシプロペン、2−n−ブトキシプロペン、2−イソブトキシプロペン、2−sec−ブトキシプロペン、2−tert−ブトキシプロペン等のプロペン類;1−メトキシ−1−ブテン、1−エトキシ−1−ブテン、1−n−プロポキシ−1−ブテン、1−イソプロポキシ−1−ブテン、1−n−ブトキシ−1−ブテン、1−イソブトキシ−1−ブテン、1−sec−ブトキシ−1−ブテン、1−tert−ブトキシ−1−ブテン、2−メトキシ−1−ブテン、2−エトキシ−1−ブテン、2−n−プロポキシ−1−ブテン、2−イソプロポキシ−1−ブテン、2−n−ブトキシ−1−ブテン、2−イソブトキシ−1−ブテン、2−sec−ブトキシ−1−ブテン、2−tert−ブトキシ−1−ブテン、2−メトキシ−2−ブテン、2−エトキシ−2−ブテン、2−n−プロポキシ−2−ブテン、2−イソプロポキシ−2−ブテン、2−n−ブトキシ−2−ブテン、2−tert−ブトキシ−2−ブテンなどのブテン類が挙げられる。これらのビニルエーテル系モノマ−は公知の方法のより製造することができる。
【0061】
(ポリビニルエーテル系共重合体Iの製造方法2)
この製造方法2においては、一般式(XII)
【0062】
【化12】

【0063】
(式中、R29〜R34及びvは前記と同じである。)
で表されるアセタール化合物を開始剤とし、前記一般式(XI)で表されるビニルエーテル系化合物を重合させることにより、ポリビニルエーテル系共重合体Iを得ることができる。
前記一般式(XII)で表されるアセタール化合物としては、例えばアセトアルデヒドメチル(2−メトキシエチル)アセタール、アセトアルデヒドエチル(2−メトキシエチル)アセタール、アセトアルデヒドメチル(2−メトキシ1−メチルエチル)アセタール、アセトアルデヒドエチル(2−メトキシ−1−メチルエチル)アセタール、アセトアルデヒドメチル[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]アセタール、アセトアルデヒドエチル[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]アセタール、アセトアルデヒドメチル[2−(2−メトキシエトキシ)−1−メチルエチル]アセタール、アセトアルデヒドエチル[2−(2−メトキシエトキシ)−1−メチルエチル]アセタールなどが挙げられる。
また、前記一般式(XII)で表されるアセタール化合物は、例えば前記一般式(X)で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコール化合物1分子と、前記一般式(XI)で表されるビニルエーテル系化合物1分子とを反応させることにより、製造することもできる。得られたアセタール化合物は、単離して、又はそのまま開始剤として用いることができる。
【0064】
(ポリビニルエーテル系共重合体Iの製造方法3)
この製造方法3においては、一般式(XIII)
【0065】
【化13】

【0066】
(式中、R29〜R31、R33、R34及びvは前記と同じである。)
で表されるアセタール化合物を開始剤として、前記一般式(XI)で表されるビニルエーテル系化合物を重合させることにより、ポリビニルエーテル系共重合体Iを得ることができる。
前記一般式(XIII)で表されるアセタール化合物としては、例えばアセトアルデヒドジ(2−メトキシエチル)アセタール、アセトアルデヒドジ(2−メトキシ−1−メチルエチル)アセタール、アセトアルデヒドジ[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]アセタール、アセトアルデヒドジ[2−(2−メトキシエトキシ)−1−メチルエチル]アセタール等が挙げられる。
また、前記一般式(XIII)で表されるアセタール化合物は、例えば前記一般式(X)で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコール化合物1分子と、一般式(XIV)
【0067】
【化14】

【0068】
(式中、R29〜R31、R33、R34及びvは前記と同じである。)
で表されるビニルエーテル系化合物1分子とを反応させることにより、製造することもできる。得られたアセタール化合物は、単離して、又はそのまま開始剤として用いることができる。
一般式(VIII)で表されるビニルエーテル系共重合体Iは、その一つの末端が、一般式(XV)、(XVI)
【0069】
【化15】

【0070】
(式中、R29〜R34及びvは前記と同じである。)
で表され、かつ残りの末端が、一般式(XVII)又は一般式(XVIII)
【0071】
【化16】

【0072】
(式中、R29〜R34及びvは前記と同じである。)
で表される構造を有するポリビニルエーテル系共重合体Iとすることができる。
このようなポリビニルエーテル系共重合体Iの中で、特に次に挙げるものが本発明の冷凍機油組成物の基油として好適である。
(1)その一つの末端が一般式(XV)又は(XVI)で表され、かつ残りの末端が一般式(XVII)又は(XVIII)で表される構造を有し、一般式(VIII)におけるR29,R30及びR31が共に水素原子、vが1〜4の数、R33が炭素数2〜4の二価の炭化水素基、R34が炭素数1〜10のアルキル基及びR32が炭素数1〜10の炭化水素基であるもの。
(2)その一つの末端が一般式(XV)で表され、かつ残りの末端が一般式(XVIII)で表される構造を有し、一般式(VIII)におけるR29,R30及びR31が共に水素原子、vが1〜4の数、R33が炭素数2〜4の二価の炭化水素基、R34が炭素数1〜10のアルキル基及びR32が炭素数1〜10の炭化水素基であるもの。
(3)その一つの末端が一般式(XVI)で表され、かつ残りの末端が一般式(XVII)で表される構造を有し、一般式(VIII)におけるR29,R30及びR31が共に水素原子、vが1〜4の数、R33が炭素数2〜4の二価の炭化水素基、R34が炭素数1〜10のアルキル基及びR32が炭素数1〜10の炭化水素基であるもの。
【0073】
一方、前記一般式(IX)で表されるポリビニルエーテル系共重合体IIの製造方法については、それが得られる方法であればよく、特に制限はないが、以下に示す方法により、効率よく製造することができる。
(ポリビニルエーテル系共重合体IIの製造方法)
前記一般式(IX)で表されるポリビニルエーテル系共重合体IIは、一般式(XIX)
HO−(R33O)v−H ・・・(XIX)
(式中、R33及びvは前記と同じである。)
で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコールを開始剤とし、前記一般式(XI)で表されるビニルエーテル化合物を重合させることにより得ることができる。
前記一般式(XIX)で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができる。
なお、前述した不飽和フッ化炭化水素冷媒と組み合わせて使用する場合、該冷媒はオレフィン構造を有するため、安定性に劣ることから、基油は、水酸基価が15mgKOH/g以下であることが好ましい。
本発明においては、このポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
[ポリオールエステル類]
本発明の冷凍機油組成物において、基油として用いることのできるポリオールエステル類としては、ジオールあるいは水酸基を3〜20個程度有するポリオールと、炭素数1〜24程度の脂肪酸とのエステルが好ましく用いられる。
ここで、ジオールとしては、例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられる。
【0075】
前記ポリオールとしては、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜20量体)、1,3,5−ペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなどの多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレンジトースなどの糖類;並びにこれらの部分エーテル化物、及びメチルグルコシド(配糖体)などが挙げられる。これらの中でもポリオールとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールが好ましい。
【0076】
脂肪酸としては、特に炭素数は制限されないが、通常炭素数1〜24のものが用いられる。炭素数1〜24の脂肪酸の中でも、潤滑性の点からは、炭素数3以上のものが好ましく、炭素数4以上のものがより好ましく、炭素数5以上のものがさらにより好ましく、炭素数10以上のものが最も好ましい。また、冷媒との相溶性の点からは、炭素数18以下のものが好ましく、炭素数12以下のものがより好ましく、炭素数9以下のものがさらにより好ましい。
また、直鎖状脂肪酸、分岐状脂肪酸の何れであっても良く、潤滑性の点からは直鎖状脂肪酸が好ましく、加水分解安定性の点からは分岐状脂肪酸が好ましい。更に、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸の何れであっても良い。
【0077】
前記脂肪酸として具体的には、例えば、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、オレイン酸などの直鎖または分岐のもの;あるいはα炭素原子が4級であるいわゆるネオ酸などが挙げられる。さらに具体的には、吉草酸(n−ペンタン酸)、カプロン酸(n−ヘキサン酸)、エナント酸(n−ヘプタン酸)、カプリル酸(n−オクタン酸)、ペラルゴン酸(n−ノナン酸)、カプリン酸(n−デカン酸)、オレイン酸(cis−9−オクタデセン酸)、イソペンタン酸(3−メチルブタン酸)、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸などが好ましい。
なお、ポリオールエステルとしては、ポリオールの全ての水酸基がエステル化されずに残った部分エステルであっても良く、全ての水酸基がエステル化された完全エステルであっても良く、また部分エステルと完全エステルの混合物であっても良いが、完全エステルであることが好ましい。
【0078】
このポリオールエステルの中でも、より加水分解安定性に優れることから、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリト−ル、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールのエステルがより好ましく、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタンおよびペンタエリスリトールのエステルがさらにより好ましく、冷媒との相溶性及び加水分解安定性に特に優れることからペンタエリスリトールのエステルが最も好ましい。
【0079】
好ましいポリオールエステルの具体例としては、ネオペンチルグリコールと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのジエステル;トリメチロールエタンと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのトリエステル;トリメチロールプロパンと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのトリエステル;トリメチロールブタンと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのトリエステル;ペンタエリスリト−ルと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのテトラエステルが挙げられる。
なお、二種以上の脂肪酸とのエステルとは、一種の脂肪酸とポリオールのエステルを二種以上混合したものでも良く、二種以上の混合脂肪酸とポリオールのエステル、特に混合脂肪酸とポリオールとのエステルは、低温特性や冷媒との相溶性に優れる。
前述した不飽和フッ化炭化水素冷媒と組み合わせて使用する場合、該冷媒はオレフィン構造を有するため、安定性に劣ることから、基油は、酸価が0.02mgKOH/g以下で、かつ水酸基価が5mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価は0.01mgKOH/g以下であることがより好ましく、水酸基価は3mgKOH/g以下であることがより好ましい。
また、この基油としては、ASTM色が1以下、界面張力が20mN/m以上、抽出水pHが5.5以上、灰分が0.1質量%以下、体積抵抗値が109Ωm以上であることが
好ましい。このような性状を有する基油は安定性が良好で、優れた電気絶縁性を有し、好適である。
当該ポリオールエステル系化合物を製造するに際し、不活性ガス雰囲気でエステル化反応を行うことにより、着色を抑制することができる。また、反応させる多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との割合において、脂肪族モノカルボン酸の量が、化学量論的量より少ない場合は、水酸基が残存し、水酸基価が上昇し、一方化学量論的量より多い場合は、カルボン酸が残存し、酸価が上昇すると共に、抽出水のpHが低下する。したがって、多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのモル比は、最適にすることが望ましく、また、残存するエステル化触媒(灰分)の量は、できるだけ少なくする処理を施すことが望ましい。
【0080】
[ポリカーボネート類]
本発明の冷凍機油組成物において、基油として用いることのできるポリカーボネート類としては、1分子中にカーボネート結合を2個以上有するポリカーボネート、すなわち一般式(XX)
【0081】
【化17】

【0082】
(式中、Zは炭素数1〜12のe価のアルコールから水酸基を除いた残基、R35は炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基、R36は炭素数1〜12の一価の炭化水素基又はR38(O−R37f−(ただし、R38は水素原子又は炭素数1〜12の一価の炭化水素基、R37は炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基、fは1〜20の整数を示す。)で示すエーテル結合を含む基、cは1〜30の整数、dは1〜50の整数、eは1〜6の整数を示す。)
で表される化合物、及び(ロ)一般式(XXI)
【0083】
【化18】

【0084】
(式中、R39は炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基、gは1〜20の整数を示し、Z、R35、R36、c、d及びeは前記と同じである。)
で表される化合物の中から選ばれる少なくとも一種を好ましく挙げることができる。
前記一般式(XX)及び一般式(XXI)において、Zは炭素数1〜12の一価〜六価のアルコールから、水酸基を除いた残基であるが、特に炭素数1〜12の一価のアルコールから、水酸基を除いた残基が好ましい。
【0085】
Zを残基とする炭素数1〜12の一価〜六価のアルコールとしては、一価のアルコールとして、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n−又はイソプロピルアルコール、各種ブチルアルコール、各種ペンチルアルコール、各種ヘキシルアルコール、各種オクチルアルコール、各種デシルアルコール、各種ドデシルアルコールなどの脂肪族一価アルコール;シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコールなどの脂環式一価アルコール;フェノール、クレゾール、キシレノール、ブチルフェノール、ナフトールなどの芳香族アルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールなどの芳香脂肪族アルコールなどを、二価のアルコールとして、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチレングリコール、テトラメチレングリコールなどの脂肪族アルコール;シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式アルコール;カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ジヒドロキシジフェニルなどの芳香族アルコールなどを、三価のアルコールとして、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、トリメチロールブタン、1,3,5−ペンタントリオールなどの脂肪族アルコール;シクロヘキサントリオール、シクロヘキサントリメタノールなどの脂環式アルコール;ピロガロール、メチルピロガロールなどの芳香族アルコールなどを、四価〜六価のアルコールとして、例えばペンタエリスリトール、ジグリセリン、トリグリセリン、ソルビトール、ジペンタエリスリトールなどの脂肪族アルコールなどを挙げることができる。
このようなポリカーボネート化合物としては、前記一般式(XX)で表される化合物として、一般式(XX−a)
【0086】
【化19】

【0087】
(式中、R40は炭素数1〜12の一価アルコールから水酸基を除いた残基、R35、R36、c及びdは前記と同じである。)
で表される化合物、及び/又は一般式(XXI)で表される化合物が、一般式(XXI−a)
【0088】
【化20】

【0089】
(式中、R35、R36、R39、R40、c、d及びgは前記と同じである。)
で表される化合物を挙げることができる。
前記一般式(XX−a)及び一般式(XXI−a)において、R40で示される炭素数1〜12の一価のアルコールから水酸基を除いた残基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基などの脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、デカヒドロナフチル基などの脂環式炭化水素基;フェニル基、各種トリル基、各種キシリル基、メシチル基、各種ナフチル基などの芳香族炭化水素基;ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチル基、各種ナフチルメチル基などの芳香脂肪族炭化水素基等を挙げることができる。これらの中で、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基が好ましい。
【0090】
35は炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基であるが、中でも炭素数2〜6のものが好ましく、特にエチレン基及びプロピレン基が、性能及び製造の容易さなどの点から好適である。さらに、R36は炭素数1〜12の一価の炭化水素基又はR38(O−R37f−(ただし、R38は水素原子又は炭素数1〜12、好ましくは1〜6の一価の炭化水素基、R37は炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基、fは1〜20の整数を示す。)で示されるエーテル結合を含む基であり、上記炭素数1〜12の一価の炭化水素基としては、前記R40の説明で例示したものと同じものを挙げることができる。また、R37で示される炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基としては、前記R35の場合と同様の理由から、炭素数2〜6のものが好ましく、特にエチレン基及びプロピレン基が好ましい。
【0091】
このR36としては、特に炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基が好ましい。
一般式(XXI−a)において、R39で示される炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基としては、前記R35の場合と同様の理由から、炭素数2〜6のものが好ましく、特にエチレン基及びプロピレン基が好ましい。
このようなポリカーボネート化合物は、各種の方法により製造することができるが、通常炭酸ジエステル又はホスゲンなどの炭酸エステル形成性誘導体とアルキレングリコール又はポリオキシアルキレングリコールを、公知の方法に従って反応させることにより、目的のポリカーボネート化合物を製造することができる。
本発明においては、このポリカーボネート類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
本発明の冷凍機油組成物においては、基油として、前述のポリオキシアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、ポリオールエステル類及びポリカーボネート類の中から選ばれる少なくとも1種の含酸素化合物を主成分として含むものが用いられる。ここで、主成分として含むとは、当該含酸素化合物を50質量%以上の割合で含むことを指す。基油中の当該含酸素化合物の好ましい含有量は70質量%以上、より好ましい含有量は90質量%以上、さらに好ましい含有量は100質量%である。
【0093】
本発明においては、基油の100℃の動粘度は、好ましくは1mm2/s以上50mm2/s以下であり、より好ましくは3mm2/s以上40mm2/s以下、さらに好ましくは4mm2/s以上30mm2/s以下である。該動粘度が1mm2/s以上であれば良好な潤滑性能(耐荷重性)が発揮されると共に、シ−ル性もよく、また50mm2/s以下であれば省エネルギ−性も良好である。
また、基油の数平均分子量は、300以上3000以下以上であることが好ましく、500以上3000以下より好ましく、700以上2500以下がさらに好ましい。基油の引火点は150℃以上であることが好ましく、基油の数平均分子量が300以上3000以下であれば、冷凍機油としての所望の性能を発揮することができると共に、基油の引火点を前記範囲にすることができる。
【0094】
また本発明における基油の粘度指数は、60以上であることが好ましく、80以上であることがより好ましい。ただし粘度指数の上限は製造上の制限等から300程度である。
上記粘度指数が60以上であることにより、高温での動粘度の低下を抑制することができる。
なお、前記基油の粘度指数は、JIS K 2283に準拠して測定される。
【0095】
本発明においては、基油として、前記の性状を有していれば、当該含酸素化合物と共に、50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下の割合で、他の基油を含むものを用いることができるが、他の基油を含まないものがさらに好ましい。
当該酸素化合物と併用できる基油としては、例えば他のポリエステル類、α−オレフィンオリゴマ−の水素化物、さらには鉱油、脂環式炭化水素化合物、アルキル化芳香族炭化水素化合物などを挙げることができる。
【0096】
<冷媒>
本発明の冷凍機用潤滑油組成物が適用される冷媒としては、飽和フッ化炭化水素化合物(HFC)、二酸化炭素(CO2)、低沸点炭化水素(HC)、あるいはアンモニアなども挙げられるが、下記の分子式(A)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物、または前記含フッ素有機化合物と飽和フッ化炭化水素化合物との組み合せを含む冷媒であれば、地球温暖化係数が低い点で好ましい。
pqrs ・・・(A)
(式中、Rは、Cl、Br、IまたはHを示し、pは1〜6、qは0〜2、rは1〜14、sは0〜13の整数である。但し、qが0の場合は、pは2〜6であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。)
【0097】
以下、前記分子式(A)で示される冷媒について詳細に説明する。
前記分子式(A)は、分子中の元素の種類と数を表すものであり、式(A)は、炭素原子Cの数pが1〜6の含フッ素有機化合物を表している。炭素数が1〜6の含フッ素有機化合物であれば、冷媒として要求される沸点、凝固点、蒸発潜熱などの物理的、化学的性質を有することができる。
該分子式(A)において、Cpで表されるp個の炭素原子の結合形態は、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合等の不飽和結合、炭素−酸素二重結合などが含まれる。炭素−炭素の不飽和結合は、安定性の点から、炭素−炭素二重結合であることが好ましく、その数は1以上であるが、1であるものが好ましい。
また、分子式(A)において、Oqで表されるq個の酸素原子の結合形態は、エーテル基、水酸基またはカルボニル基に由来する酸素であることが好ましい。この酸素原子の数qは、2であってもよく、2個のエーテル基や水酸基等を有する場合も含まれる。
また、Oqにおけるqが0であり分子中に酸素原子を含まない場合は、pは2〜6であって、分子中に炭素−炭素二重結合等の不飽和結合を1以上有する。すなわち、Cpで表されるp個の炭素原子の結合形態の少なくとも1つは、炭素−炭素不飽和結合であることが必要である。
また、分子式(A)において、Rは、Cl、Br、IまたはHを表し、これらのいずれであってもよいが、オゾン層を破壊する恐れが小さいことから、Rは、Hであることが好ましい。
上記のとおり、分子式(A)で表される含フッ素有機化合物としては、不飽和フッ化炭化水素化合物、フッ化エーテル化合物、フッ化アルコール化合物及びフッ化ケトン化合物などが好適なものとして挙げられる。
以下、これらの化合物について説明する。
【0098】
[不飽和フッ化炭化水素化合物]
本発明において、冷凍機の冷媒として用いられる不飽和フッ化炭化水素化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが2〜6、qが0、rが1〜12、sは0〜11である不飽和フッ化炭化水素化合物が挙げられる。
このような不飽和フッ化炭化水素化合物として好ましくは、例えば、炭素数2〜6の直鎖状または分岐状の鎖状オレフィンや炭素数4〜6の環状オレフィンのフッ素化物を挙げることができる。
具体的には、1〜3個のフッ素原子が導入されたエチレン、1〜5個のフッ素原子が導入されたプロペン、1〜7個のフッ素原子が導入されたブテン類、1〜9個のフッ素原子が導入されたペンテン類、1〜11個のフッ素原子が導入されたヘキセン類、1〜5個のフッ素原子が導入されたシクロブテン、1〜7個のフッ素原子が導入されたシクロペンテン、1〜9個のフッ素原子が導入されたシクロヘキセンなどが挙げられる。
【0099】
これらの不飽和フッ化炭化水素化合物の中では、炭素数2〜3の不飽和フッ化炭化水素化合物が好ましく、トリフルオロエチレンなどのエチレンのフッ化物及び各種プロペンのフッ化物が挙げられるが、プロペンのフッ化物がより好ましい。このプロペンのフッ化物としては、例えば、3,3,3−トリフルオロプロペン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン及び2,3,3,3−テトラフルオロプロペンなどを挙げることができるが、特に、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO1225ye)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO1234ze)及び2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)が低地球温暖化係数である点で好適である。
本発明においては、この不飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0100】
[フッ化エーテル化合物]
本発明において、冷凍機の冷媒として用いられるフッ化エーテル化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが2〜6、qが1〜2、rが1〜14、sは0〜13であるフッ化エーテル化合物が挙げられる。
このようなフッ化エーテル化合物として好ましくは、例えば、炭素数が2〜6で、1〜2個のエーテル結合を有し、アルキル基が直鎖状または分岐状の鎖状脂肪族エーテルのフッ素化物や、炭素数が3〜6で、1〜2個のエーテル結合を有する環状脂肪族エーテルのフッ素化物を挙げることができる。
具体的には、1〜6個のフッ素原子が導入されたフッ化ジメチルエーテル、1〜8個のフッ素原子が導入されたフッ化メチルエチルエーテル、1〜8個のフッ素原子が導入されたフッ化ジメトキシメタン、1〜10個のフッ素原子が導入されたフッ化メチルプロピルエーテル類、1〜12個のフッ素原子が導入されたフッ化メチルブチルエーテル類、1〜12個のフッ素原子が導入されたフッ化エチルプロピルエーテル類、1〜6個のフッ素原子が導入されたフッ化オキセタン、1〜6個のフッ素原子が導入されたフッ化1,3−ジオキソラン、1〜8個のフッ素原子が導入されたフッ化テトラヒドロフランなどを挙げることができる。
【0101】
これらのフッ化エーテル化合物としては、例えばヘキサフルオロジメチルエーテル、ペンタフルオロジメチルエーテル、ビス(ジフルオロメチル)エーテル、フルオロメチルトリフルオロメチルエーテル、トリフルオロメチルメチルエーテル、ペルフルオロジメトキシメタン、1−トリフルオロメトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、ジフルオロメトキシペンタフルオロエタン、1−トリフルオロメトキシ−1,2,2,2−テトラフルオロエタン、1−ジフルオロメトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−ジフルオロメトキシ−1,2,2,2−テトラフルオロエタン、1−トリフルオロメトキシ−2,2,2−トリフルオロエタン、1−ジフルオロメトキシ−2,2,2−トリフルオロエタン、ペルフルオロオキセタン、ペルフルオロ−1,3−ジオキソラン、ペンタフルオロオキセタンの各種異性体、テトラフルオロオキセタンの各種異性体などが挙げられる。
本発明においては、このフッ化エーテル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
[フッ化アルコール化合物]
本発明において、冷凍機の冷媒として用いられるフッ化アルコール化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが1〜6、qが1〜2、rが1〜13、sは1〜13であるフッ化エーテル化合物が挙げられる。
このようなフッ化アルコール化合物として好ましくは、例えば、炭素数が1〜6で、1〜2個の水酸基を有する直鎖状または分岐状の脂肪族アルコールのフッ素化物を挙げることができる。
具体的には、1〜3個のフッ素原子が導入されたフッ化メチルアルコール、1〜5個のフッ素原子が導入されたフッ化エチルアルコール、1〜7個のフッ素原子が導入されたフッ化プロピルアルコール類、1〜9個のフッ素原子が導入されたフッ化ブチルアルコール類、1〜11個のフッ素原子が導入されたフッ化ペンチルアルコール類、1〜4個のフッ素原子が導入されたフッ化エチレングリコール、1〜6個のフッ素原子が導入されたフッ化プロピレングリコールなどを挙げることができる。
【0103】
これらのフッ化アルコール化合物としては、例えばモノフルオロメチルアルコール、ジフルオロメチルアルコール、トリフルオロメチルアルコール、ジフルオロエチルアルコールの各種異性体、トリフルオロエチルアルコールの各種異性体、テトラフルオロエチルアルコールの各種異性体、ペンタフルオロエチルアルコール、ジフルオロプロピルアルコールの各種異性体、トリフルオロプロピルアルコールの各種異性体、テトラフルオロプロピルアルコールの各種異性体、ペンタフルオロプロピルアルコールの各種異性体、ヘキサフルオロプロピルアルコールの各種異性体、ヘプタフルオロプロピルアルコール、ジフルオロブチルアルコールの各種異性体、トリフルオロブチルアルコールの各種異性体、テトラフルオロブチルアルコールの各種異性体、ペンタフルオロブチルアルコールの各種異性体、ヘキサフルオロブチルアルコールの各種異性体、ヘプタフルオロブチルアルコールの各種異性体、オクタフルオロブチルアルコールの各種異性体等のフッ化アルコール;ノナフルオロブチルアルコール、ジフルオロエチレングリコールの各種異性体、トリフルオロエチレングリコール、テトラフルオロエチレングリコール、さらにはジフルオロプロピレングリコールの各種異性体、トリフルオロプロピレングリコールの各種異性体、テトラフルオロプロピレングリコールの各種異性体、ペンタフルオロプロピレングリコールの各種異性体、ヘキサフルオロプロピレングリコールなどのフッ化プロピレングリコール;及びこのフッ化プロピレングリコールに対応するフッ化トリメチレングリコールなどが挙げられる。
本発明においては、これらのフッ化アルコール化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0104】
[フッ化ケトン化合物]
本発明において、冷凍機の冷媒として用いられるフッ化ケトン化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが2〜6、qが1〜2、rが1〜12、sは0〜11であるフッ化ケトン化合物が挙げられる。
このようなフッ化ケトン化合物として好ましくは、例えば、炭素数が3〜6で、アルキル基が直鎖状または分岐状の脂肪族ケトンのフッ素化物を挙げることができる。
具体的には、1〜6個のフッ素原子が導入されたフッ化アセトン、1〜8個のフッ素原子が導入されたフッ化メチルエチルケトン、1〜10個のフッ素原子が導入されたフッ化ジエチルケトン、1〜10個のフッ素原子が導入されたフッ化メチルプロピルケトン類などが挙げられる。
【0105】
これらのフッ化ケトン化合物としては、例えばヘキサフルオロジメチルケトン、ペンタフルオロジメチルケトン、ビス(ジフルオロメチル)ケトン、フルオロメチルトリフルオロメチルケトン、トリフルオロメチルメチルケトン、ペルフルオロメチルエチルケトン、トリフルオロメチル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルケトン、ジフルオロメチルペンタフルオロエチルケトン、トリフルオロメチル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルケトン、ジフルオロメチル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルケトン、ジフルオロメチル−1,2,2,2−テトラフルオロエチルケトン、トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルケトン、ジフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルケトンなどが挙げられる。
本発明においては、これらのフッ化ケトン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
[飽和フッ化炭化水素化合物]
この飽和フッ化炭化水素化合物は、前記の分子式(A)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物に、必要に応じて混合することのできる冷媒である。
この飽和フッ化炭化水素化合物としては、炭素数1〜4のアルカンのフッ化物が好ましく、特に炭素数1〜2のメタンやエタンのフッ化物であるトリフルオロメタン、ジフルオロメタン、1,1−ジフルオロエタン、1,1,1−トリフルオロエタン、1,1,2−トリフルオロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタンが好適である。また、飽和フッ化炭化水素化合物としては、上記アルカンのフッ化物を、さらにフッ素以外のハロゲン原子でハロゲン化したものであっても良く、例えば、トリフルオロヨードメタン(CF3I)などが例示できる。これらの飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0107】
本発明では、炭素数1〜3の飽和フッ化炭化水素化合物と炭素数2〜3の前記不飽和フッ化炭化水素化合物との組み合わせが特に好適に用いられる。
上記炭素数1〜3の飽和フッ化炭化水素化合物としては、例えばR32、R125、R134a、R143b、R152a、R245faなどを挙げることができるが、これらの中でR32、R134a、R152aが好適である。これら飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記炭素数1〜3の飽和フッ化炭化水素化合物と炭素数2〜3の不飽和フッ化炭化水素化合物との組み合わせとしては、例えばCH22(HFC32)と前記HFO1225ye、HFO1234yfあるいはHFO1234zeとの組み合わせ、CHF2CH3(HFC152a)とHFO1225ye、HFO1234yfあるいはHFO1234zeとの組み合わせ、及びCF3Iと前記HFO1234yfとの組み合わせなどを挙げることができる。
などを挙げることができる。
また、当該飽和フッ化炭化水素化合物の配合量は、冷媒全量に基づき、通常10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。
【0108】
さらに本発明における冷媒としては、前記の分子式(A)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物に、必要に応じて、前記二酸化炭素(CO2)、低沸点炭化水素(HC)、あるいはアンモニアなども混合することができる。
上記二酸化炭素等の配合量は、冷媒全量に基づき、通常10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。
【0109】
[その他添加剤]
本発明の冷凍機油組成物には、極圧剤、油性剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、金属不活性化剤及び消泡剤などの中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有させることができる。
(極圧剤)
極圧剤としては、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩などのリン系極圧剤を挙げることができる。
これらのリン系極圧剤の中で、極圧性、摩擦特性などの点からトリクレジルホスフェート、トリチオフェニルホスフェート、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト、2−エチルヘキシルジフェニルホスファイトなどが特に好ましい。
【0110】
また、極圧剤としては、カルボン酸の金属塩が挙げられる。ここでいうカルボン酸の金属塩は、好ましくは炭素数3〜60のカルボン酸、さらには炭素数3〜30、特に好ましくは12〜30の脂肪酸の金属塩である。また、前記脂肪酸のダイマー酸やトリマー酸並びに炭素数3〜30のジカルボン酸の金属塩を挙げることができる。これらのうち炭素数12〜30の脂肪酸及び炭素数3〜30のジカルボン酸の金属塩が特に好ましい。
一方、金属塩を構成する金属としてはアルカリ金属またはアルカリ土類金属が好ましく、特に、アルカリ金属が最適である。
また、極圧剤としては、さらに、上記以外の極圧剤として、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チオカーバメート類、チオテルペン類、ジアルキルチオジプロピオネート類などの硫黄系極圧剤を挙げることができる。
上記極圧剤の配合量は、潤滑性及び安定性の点から、組成物全量に基づき、0.001〜5質量%が好ましく、0.005〜3質量%の範囲がより好ましい。前記の極圧剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0111】
(油性剤)
油性剤の例としては、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアルコール、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族飽和および不飽和モノアミン、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸アミド、グリセリン、ソルビトールなどの多価アルコールと脂肪族飽和または不飽和モノカルボン酸との部分エステル等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、組成物全量に基づき、0.01〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%の範囲で選定される。
【0112】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)等のフェノール系、フェニル−α−ナフチルアミン、N.N’−ジ−フェニル−p−フェニレンジアミン等のアミン系の酸化防止剤を配合するのが好ましい。酸化防止剤は、効果及び経済性などの点から、組成物中に0.01〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜3質量%配合する。
【0113】
(酸捕捉剤)
酸捕捉剤としては、例えばフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシド、エポキシ化大豆油などのエポキシ化合物を挙げることができるが、酸捕捉剤としては、特にグリシジルエステル、グリシジルエーテル及びα−オレフィンオキシドの中から選ばれる少なくとも1種が好適に用いられる。
【0114】
グリシジルエステルとしては、炭素数が、通常3〜30、好ましくは4〜24、より好ましくは6〜16の直鎖状、分岐状、環状の飽和若しくは不飽和の脂肪族カルボン酸又は芳香族カルボン酸のグリシジルエステルが挙げられる。前記脂肪族カルボン酸や芳香族カルボン酸は、モノカルボン酸であってもよく、ポリカルボン酸であってもよい。ポリカルボン酸の場合、潤滑油組成物の安定性のために、酸価の上昇を抑制する観点から、カルボキシル基の全てが、グリシジルエステル化されていることが好ましい。
これらの中で、特に炭素数6〜16の直鎖状、分岐状、環状の飽和脂肪族モノカルボン酸のグリシジルエステルが好ましい。このようなグリシジルエステルとしては、例えば2−エチルヘキサン酸グリシジルエステル、3,5,5−トリメチルヘキサン酸グリシジルエステル、カプリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、バーサチック酸グリシジルエステル、ミリスチン酸グリシジルエステルなどを挙げることができる。
【0115】
グリシジルエーテルとしては、炭素数が、通常3〜30、好ましくは4〜24、より好ましくは6〜16の直鎖状、分岐状、環状の飽和若しくは不飽和の脂肪族モノ又は多価アルコール、あるいは水酸基1個以上含有する芳香族化合物由来のグリシジルエーテルが挙げられる。脂肪族多価アルコールや水酸基2個以上含有する芳香族化合物の場合、潤滑油組成物の安定性のために、水酸基価の上昇を抑える観点から、水酸基の全てがグリシジルエーテル化されていることが好ましい。
これらの中で、特に炭素数6〜16の直鎖状、分岐状、環状の飽和脂肪族モノアルコール由来のグリシジルエーテルが好ましい。このようなグリシジルエーテルとしては、例えば2−エチルエチルグリシジルエーテル、イソノニルグリシジルエーテル、カプリノイルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ミリスチルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0116】
一方、α−オレフィンオキシドとしては、炭素数が一般に4〜50、好ましくは4〜24、より好ましくは6〜16のものが用いられる。
本発明においては、前記酸捕捉剤は1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、効果及びスラッジ発生の抑制の点から、組成物全量に基づき、通常0.005〜10質量%、特に0.05〜6質量%の範囲が好ましい。
【0117】
(金属不活性化剤、消泡剤)
金属不活性化剤としては、例えばN−[N,N’−ジアルキル(炭素数3〜12のアルキル基)アミノメチル]トリアゾ−ルなどの銅不活性化剤などを挙げることができ、消泡剤としては、例えばシリコ−ン油やフッ素化シリコ−ン油などを挙げることができる。
【0118】
[冷凍機用潤滑油組成物を使用する冷凍機の潤滑方法]
本発明の冷凍機用潤滑油組成物は、前記分子式(A)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物、または前記含フッ素有機化合物と飽和フッ化炭化水素化合物との組み合わせを含む冷媒を用いた冷凍機に好適に適用される。特に不飽和フッ化炭化水素化合物を含む冷媒を用いた冷凍機用に適している。
本発明の冷凍機用潤滑油組成物を使用する冷凍機の潤滑方法において、前記各種冷媒と冷凍機用潤滑油組成物の使用量については、冷媒/冷凍機用潤滑油組成物の質量比で99/1〜10/90、更に95/5〜30/70の範囲にあることが好ましい。冷媒の量が上記範囲よりも少ない場合は冷凍能力の低下が見られ、また上記範囲よりも多い場合は潤滑性能が低下し好ましくない。本発明の冷凍機用潤滑油組成物は、種々の冷凍機に使用可能であるが、特に、圧縮型冷凍機の圧縮式冷凍サイクルに好ましく適用できる。
【0119】
[冷凍機]
本発明の冷凍機用潤滑油組成物が適用される冷凍機は、圧縮機、凝縮器、膨張機構(膨張弁など)及び蒸発器、あるいは圧縮機、凝縮器、膨張機構、乾燥器及び蒸発器を必須とする構成からなる冷凍サイクルを有するとともに、冷凍機油として前述した本発明の冷凍機用潤滑油組成物を使用し、また冷媒として前述の各種冷媒が使用される。
ここで乾燥器中には、細孔径0.33nm以下のゼオライトからなる乾燥剤を充填することが好ましい。また、このゼオライトとしては、天然ゼオライトや合成ゼオライトを挙げることができ、さらにこのゼオライトは、25℃、CO2ガス分圧33kPaにおけるCO2ガス吸収容量が1%以下のものが一層好適である。このような合成ゼオライトとしては、例えばユニオン昭和(株)製の商品名XH−9、XH−600等を挙げることができる。
本発明において、このような乾燥剤を用いれば、冷凍サイクル中の冷媒を吸収することなく、水分を効率よく除去できると同時に、乾燥剤自体の劣化による粉末化が抑制され、したがって粉末化によって生じる配管の閉塞や圧縮機摺動部への進入による異常摩耗等の恐れがなくなり、冷凍機を長時間にわたって安定的に運転することができる。
【0120】
本発明の冷凍機用潤滑油組成物が適用される冷凍機においては、圧縮機内に様々な摺動部分(例えば軸受など)がある。本発明においては、この摺動部分として特にシ−ル性の点から、エンジニアリングプラスチックからなるもの、または有機コーティング膜もしくは無機コーティング膜を有するものが用いられる。
前記エンジニアリングプラスチックとしては、シール性、摺動性、耐摩耗性などの点で、例えばポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアセタール樹脂などを好ましく挙げることができる。
また、有機コーティング膜としては、シール性、摺動性、耐摩耗性などの点で、例えばフッ素含有樹脂コーティング膜(ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜など)、ポリイミドコーティング膜、ポリアミドイミドコーティング膜、さらには、ポリヒドロキシエーテル樹脂とポリサルホン系樹脂からなる樹脂基材及び架橋剤を含む樹脂塗料を用いて形成された熱硬化型絶縁膜などを挙げることができる。
一方、無機コーティング膜としては、シール性、摺動性、耐摩耗性などの点で、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、ニッケル膜、モリブデン膜、スズ膜、クロム膜などが挙げられる。この無機コーティング膜は、メッキ処理で形成してもよいし、PVD法(物理的気相蒸着法)で形成してもよい。
なお、当該摺動部分として、従来の合金系、例えばFe基合金、Al基合金、Cu基合金などからなるものを用いることもできる。
【0121】
[冷凍機油組成物使用システム]
本発明の冷凍機用潤滑油組成物は、例えばカーエアコン、電動カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機またはショーケースなどの各種給湯システム、あるいは冷凍・暖房システムに用いることができる。
本発明においては、前記システム内の水分含有量は、300質量ppm以下が好ましく、200質量ppm以下がより好ましい。また該システム内の残存空気分圧は、10kPa以下が好ましく、5kPa以下がより好ましい。
本発明の冷凍機用潤滑油組成物は、基油として、特定の含酸素化合物を主成分として含むものであって、粘度が低くて省エネルギ−性の向上を図ることができ、しかもシール性に優れている。
【実施例】
【0122】
次に、本発明を、実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、基油の性状及び冷凍機用潤滑油組成物の諸特性は、以下に示す要領に従って求めた。
【0123】
<基油の性状>
(1)100℃動粘度
JIS K2283−1983に準じ、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定した。
(2)数平均分子量
数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した。GPCは、HLC−8120GPC、SC−8020(東ソー(株)社製)を用い、THF(テトラヒドロフラン)を溶離液として、IR検出器を用いて測定を行った。その結果から、polystylene標準試料による検量線から数平均分子量を求めた。
(3)引火点
JIS K 2265(COC法)に準拠して測定する。
(4)粘度指数
JIS K 2283に準拠して測定する。
【0124】
<冷凍機用潤滑油組成物の熱安定性試験>
内容量200mLのオートクレーブに、油/冷媒(30g/30gの比率、油中の水分含有量500ppm)、及び鉄、銅、アルミニウムからなる金属触媒を充填して封管し、空気圧18.7kPa、温度175℃の条件にて336時間保持後、油外観、触媒外観、スラッジの有無を目視観察すると共に、酸価を測定した。なお、酸価はJIS K 2501に規定される「潤滑油中和試験方法」に準拠し、指示薬法により測定した。
【0125】
<配合成分>
冷凍機用潤滑油組成物の調製に用いた各成分の種類を以下に示す。
(1)基油
・A1:ポリエチルビニルエーテル、(100℃動粘度:15.97mm2/s、引火点:222℃、数平均分子量:1250、粘度指数:85)
・A2:ポリプロピレングリコールジメチルエーテル(100℃動粘度:9.25mm2/s、引火点:212℃、数平均分子量:1139、粘度指数:207)
・A3:ポリプロピレングリコール(PPG)/ポリエチルビニルエーテル(PEV)共重合体(PPG/PEVモル比7/11)(100℃動粘度:9.56mm2/s、引火点:218℃、数平均分子量:1200、粘度指数:140)
・A4:ペンタエリスリト−ルオクタン酸(C8酸)ノナン酸(C9酸)エステル(C8酸/C9酸モル比1/1.1)(100℃動粘度:9.64mm2/s、引火点:268℃、数平均分子量:670、粘度指数:126)
【0126】
(2)酸素捕捉剤(分子内に二重結合を2つ以上有する有機化合物)
・B1:1,4−p−メンタジエン
・B2:1,4−シクロヘキサジエン
・B3:1,4−ヘキサジエン
・B4:2,5−ノルボルナジエン
【0127】
(3)その他の添加剤
以下の各成分を用い、組成物全量中の配合量をおのおの( )内に示す量(質量%)として、全体で0.70質量%となるように添加した。
・酸捕捉剤:2−エチルヘキシルグリシジルエーテル(0.3質量%)
・酸化防止剤:2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノ−ル(0.3質量%)
・消泡剤:シリコ−ン系消泡剤(0.1質量%)
【0128】
<実施例1〜7及び比較例1〜6>
第1表に示す組成の冷凍機油組成物を調製し、冷媒としてHFO1234yf(2,3,3,3−テトラフルオロプロペン)を用いて、前記組成物の熱安定特性を評価した。その結果を第1表に示す。
【0129】
【表1】

【0130】
【表2】

【0131】
<実施例8〜11及び比較例7〜9>
第2表に示す組成の冷凍機油組成物を調製し、冷媒としてHFO1234ze(1,3,3,3−テトラフルオロプロペン)を用いて、前記組成物の熱安定特性を評価した。その結果を第2表に示す。
<実施例12〜15及び比較例10〜12>
第3表に示す組成の冷凍機油組成物を調製し、冷媒としてHFO1234yf(2,3,3,3−テトラフルオロプロペン)50質量%と、CH22(HFC32)50質量%との混合冷媒を用いて、前記組成物の熱安定特性を評価した。その結果を第3表に示す。
【0132】
【表3】

【0133】
【表4】

【0134】
第1表、第2表及び第3表から、以下に示すことが分かる。
本発明の冷凍機用潤滑油組成物を、冷媒としてHFO1234yfを使用した系に用いた実施例1〜7では、いずれも熱安定性試験において、油外観、触媒外観が良好であり、スラッジの発生はない。
また、冷媒としてHFO1234zeを使用した系に用いた実施例8〜11においても、いずれも熱安定性試験において、油外観、触媒外観が良好であり、スラッジの発生はなかった。
これに対し、比較例1、4〜5は、本発明における酸素捕捉剤用いていないので、酸価が高いだけでなく、油外観が黄色または橙色を呈し、かつスラッジ生成となった。また、本発明とは異なる共役二重結合を有する有機化合物や酸素捕捉剤を用いた比較例2、3では、やや油外観が黄緑色を呈し、酸価も高かった。
また、冷媒としてHFO1234zeを使用した系の比較例8〜10では、スラッジ生成し、酸価が高かった。
さらに、HFO1234yf及びCH22の混合冷媒を使用した実施例12〜15及び比較例10〜12においては、HFO1234zeを使用した系と同様な結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の冷凍機用潤滑油組成物は、地球温暖化係数が低く、特に現行カーエアコンシステムなどに使用可能な冷媒である不飽和フッ化炭化水素化合物等特定の構造を有する冷媒を用いる冷凍機用として使用され、かつ前記冷媒に対する優れた相溶性を有すると共に、安定性に優れ、熱安定性試験において、スラッジの生成が認められない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、分子内に非共役二重結合を2つ以上有する有機化合物とを含む冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記分子内に非共役二重結合を2つ以上有する有機化合物が、1,4−ジエン構造を有する請求項1に記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項3】
前記分子内に非共役二重結合を2つ以上有する有機化合物が、橋かけ環式構造を有する請求項1に記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項4】
前記分子内に非共役二重結合を2つ以上有する有機化合物の配合量が、組成物全量基準で0.1質量%以上10質量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項5】
前記冷凍機用潤滑油組成物が用いられる冷凍機油が、冷媒として、下記の分子式(A)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物、または前記含フッ素有機化合物と飽和フッ化炭化水素化合物との組合せを含む請求項1〜4のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
pqrs ・・・(A)
(式中、RはCl、Br、I及びHのいずれかを示し、各々pは1〜6、qは0〜2、rは1〜14、sは0〜13の整数である。但し、qが0の場合は、pは2〜6であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。)
【請求項6】
前記分子式(A)で表される化合物が、不飽和フッ化炭化水素化合物、フッ化エーテル化合物、フッ化アルコール化合物及びフッ化ケトン化合物の中から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物である請求項5に記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項7】
前記不飽和フッ化炭化水素化合物が、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO1225ye)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO1234ze)及び2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)から選ばれる少なくとも1種である請求項6に記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項8】
前記フッ化エーテル化合物が、フッ化ジメチルエーテルである請求項6に記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項9】
前記フッ化アルコール化合物が、フッ化メチルアルコールである請求項6に記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項10】
前記フッ化ケトン化合物が、フッ化アセトンである請求項6に記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項11】
前記飽和フッ化炭化水素化合物が、ジフルオロメタン、1,1−ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン及びペンタフルオロエタンの中から選ばれる少なくとも1種である請求項5〜10のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項12】
前記基油が、ポリオキシアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリ(オキシ)アルキレングリコールまたはそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、ポリオールエステル類及びポリカーボネート類の中から選ばれる少なくとも1種を主成分として含む請求項1〜11のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項13】
前記基油の100℃における動粘度が、1mm2/s以上50mm2/s以下である請求項1〜12のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項14】
前記基油の数平均分子量が、300以上3000以下である請求項1〜13のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項15】
前記基油の粘度指数が、60以上である請求項1〜14のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項16】
さらに極圧剤、油性剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、金属不活性化剤及び消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む請求項1〜15のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項17】
冷凍機の摺動部分がエンジニアリングプラスチックからなるもの、または有機コーティング膜もしくは無機コーティング膜を有するものである請求項1〜16のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項18】
前記有機コーティング膜が、ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜、ポリイミドコーティング膜、ポリアミドイミドコーティング膜、ポリヒドロキシエーテル樹脂とポリサルホン系樹脂とからなる樹脂基材及び架橋剤を含む樹脂塗料を用いて形成された熱硬化型絶縁膜のいずれかである請求項17に記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項19】
前記無機コーティング膜が、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、スズ膜、クロム膜、ニッケル膜及びモリブデン膜のいずれかである請求項17に記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項20】
カーエアコン、電動カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機またはショーケースの給湯システム、及び冷凍・暖房システムのいずれかに用いられる請求項1〜19のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項21】
システム内の水分含有量が300質量ppm以下で、残存空気分圧が10kPa以下である請求項20に記載の冷凍機用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2011−202031(P2011−202031A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71108(P2010−71108)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】