説明

冷凍食品のドリップ抑制剤及びそれが被膜された冷凍食品

【課題】ドリップ抑制効果を十分に得ることが可能な冷凍食品のドリップ抑制剤及びそれが被膜された冷凍食品を提供することである。
【解決手段】冷凍前に食品の表面に被膜され、冷凍後解凍時のドリップを抑制可能な冷凍食品のドリップ抑制剤において、タマリンドガムと、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、カシアガム及びコンニャクマンナンのうちいずれか一以上の糊料とが含まれていることを特徴とする。また、そのドリップ抑制剤が被膜された冷凍食品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍畜肉や冷凍魚肉など冷凍食品の解凍時に肉汁や魚汁などのドリップが生じるのを抑制する冷凍食品のドリップ抑制剤及びそれが被膜された冷凍食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、畜肉や魚肉は、鮮度を保つため、冷凍状態で流通されているが、近年、消費者や流通業者の利便性のため、冷凍する前に骨が外されたり、切断された状態で冷凍され、流通されている。このように骨が外され、切断された冷凍畜肉や冷凍魚肉などの冷凍食品は、冷凍変性しているため、解凍時に肉汁や魚汁などのドリップが生じやすく、畜肉や魚肉の旨みが少なくなってしまうという問題がある。
【0003】
このような解凍時のドリップを防止する方法として、急速冷凍により冷凍変性を少なくしたり、解凍方法を工夫することによって、解凍時に生じるドリップ量を少なくすることが行なわれている。
【0004】
また、特許文献1には、化工澱粉・増粘多糖類・ゼラチンの水溶液を食品の表面にコーティングすることによって、解凍時のドリップ量を少なくすることが記載されている
【0005】
【特許文献1】特開2002−219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、急速冷凍による冷凍変性の改善や解凍方法の工夫などによっては、ドリップ抑制の効果を十分に得ることができず、また特許文献1に記載されたものも、加糖することで冷凍解凍後のドリップを抑制しているので、用途が限定されるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、ドリップ抑制効果を十分に得ることが可能な冷凍食品のドリップ抑制剤及びそれが被膜された冷凍食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、タマリンドガムと、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、カシアガム及びコンニャクマンナンのうちいずれか一以上の糊料とを冷凍前に食品の表面に被膜させることによって、冷凍後解凍時のドリップの抑制に関して、十分な効果を得ることができることを見出した。すなわち、本発明は、冷凍前に食品の表面に被膜され、冷凍後解凍時のドリップを抑制可能な冷凍食品のドリップ抑制剤において、タマリンドガムと、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、カシアガム及びコンニャクマンナンのうちいずれか一以上の糊料とが含まれていることを特徴とする。また、本発明は、このドリップ抑制剤が被膜された冷凍食品である。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、ドリップ抑制効果を十分に得ることが可能な冷凍食品のドリップ抑制剤及びそれが被膜された冷凍食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係るドリップ抑制剤において、タマリンドガムの含有量は、0.05〜4.0重量%であることが好ましく、0.2〜2.0重量%であることがより好ましい。ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、カシアガム及びコンニャクマンナンのうちいずれか一以上の糊料の含有量は、0.1〜4.0重量%であることが好ましく、0.2〜1.0重量%であることがより好ましい。タマリンドガムとローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、カシアガム及びコンニャクマンナンのうちいずれか一以上の糊料の比率が95:5〜5:95の範囲であることが好ましい。
【0011】
本発明に係るドリップ抑制剤は、粉末状態又は水溶液状態のものを用意することができる。この水溶液状態ものは、そのまま畜肉や魚肉など冷凍される食品を浸漬させることによって、冷凍食品の表面に被膜(コーティング)させて使用することができる。また、粉末状態又は水溶液状態のものは、たれや液体調味料などの液体に溶解又は混合させ、その液体状態のものに畜肉や魚肉など冷凍される食品を浸漬させることによって、冷凍食品の表面に被膜(コーティング)させて使用することができる。そのコーティングされたドリップ抑制剤は、冷凍により水分子が氷晶化するのに合わせて構造転移し、ゲル化または増粘し、より安定した皮膜を形成する。この皮膜は、冷凍前の水溶液よりも吸水しやすい網目構造を持ち、解凍時に冷凍食品の中から出てくるドリップを吸水保持することで、冷凍解凍を行なう魚肉、畜肉製品の品質が向上する。
【実施例】
【0012】
実験例1
タラガム(伊那食品工業製:タラガムA)及びタマリンドガム(大日本住友製薬製:グリロイド3S)を表1の割合で混合して水溶液を作製し,冷凍前と冷凍解凍後の水溶液粘度を20℃でB型粘度計(60rpm、ローターNo3)により測定した。
【0013】
【表1】

【0014】
タラガムとタマリンドガムを混合した水溶液は、冷凍により構造転移し増粘することが示された。
【0015】
実施例2
実施例2に係るドリップ抑制剤として、ローカストビーンガム(伊那食品工業製:L−75)及びタマリンドガム(大日本住友製薬製:グリロイド3S)を1:1の割合で混ぜ合わせることによって実施例1に係るドリップ抑制剤を得た。比較例1として、ローカストビーンガム、比較例2として、タマリンドガム、比較例3として、ゼラチン(伊那食品工業製:A−81)、キサンタンガム(伊那食品工業製:V−10)及び加工澱粉(松谷化学工業製:ファリネックスCA)を5:1:43の割合で混ぜ合わせたものを用意した。次に、表2に示すよう配合で、実施例2に係るドリップ抑制剤を水に分散して加熱溶解を行い、醤油とグラニュー糖を加えることによって、サンプル1及び2に係る醤油漬けのたれを作製した。同様に比較例1乃至3に係る多糖類についても比較サンプル1乃至6に係る醤油漬けのたれを作製した。
【0016】
【表2】

【0017】
これらたれを100g計量して定型の容器に流し入れ冷凍庫で凍結し、翌日凍ったたれの上部に水10gを加え、冷蔵庫で解凍させた後のたれの吸水量を測定した。これらの結果を表3に示す。
【0018】
【表3】

【0019】
表3から明らかなように、実施例2によって得られたサンプル1及び2に係る醤油漬けのたれの吸水量は、グラニュー糖の添加量にかかわらず、良好であった。比較サンプル1、2、4及び5に係る醤油漬けのたれについては、吸水が弱く、実施例2のようにローカストビーンガムとタマリンドガムを組み合わせることにより吸水の効果が高まることが分かった。比較サンプル3及び6に係る醤油漬けのたれは、比較サンプル6のように糖度の高い条件(Brix50)での吸水は良いが、糖度の低い条件(Brix25)における吸水が弱かった。
【0020】
実験例3
次に、サンプル1及び2、並びに比較サンプル1乃至6に係る醤油漬けのたれをマグロの切身にからめ、冷凍解凍してマグロの切身からでるドリップを観察した。結果を表4に示す。
【0021】
【表4】

【0022】
表4から明らかなように、実施例2によって得られたサンプル1及び2に係る醤油漬けのたれは、冷凍解凍後にマグロの切身から出るドリップを抑制して、外観が良好であった。比較サンプル1、2、4及び5に係る醤油漬けのたれについては、抑制が不十分であり、マグロの切身からドリップが生じていた。また、比較サンプル3及び6に係る醤油漬けのたれでは、比較サンプル6のように糖度の高い条件(Brix50)でドリップ抑制効果がみられたが、糖度の低い条件(Brix25)におけるドリップの抑制効果は不十分であった。
【0023】
実験例4
実施例4に係るドリップ抑制剤として、グァーガム(伊那食品工業製:GR−10)及びタマリンドガム(大日本住友製薬製:グリロイド3S)を1:1の割合で混ぜ合わせることによって実施例4に係るドリップ抑制剤を得た。比較例7として、グァーガム、比較例8として、タマリンドガム、比較例9として、ゼラチン(伊那食品工業製:A−81)、キサンタンガム(伊那食品工業製:V−10)及び加工澱粉(松谷化学工業製:ファリネックスCA)を5:1:43の割合で混ぜ合わせたものを用意した。次に、表5に示すよう配合で、実施例4に係るドリップ抑制剤を水に分散して加熱溶解を行い、うまみ調味料と醤油、味噌、食塩、グラニュー糖を加えることによって、サンプル3に係る液体調味料を作製した。同様に比較例7乃至9に係る多糖類についても比較サンプル7乃至9に係る液体調味料を作製した。
【0024】
【表5】

【0025】
これらたれを豚のスライス肉にからめ、冷凍解凍して豚のスライス肉からでるドリップを観察した。結果を表6に示す。
【0026】
【表6】

【0027】
表6から明らかなように、実施例4によって得られたサンプル3に係る液体調味料は、冷凍解凍後の豚のスライス肉から出るドリップを抑制して、外観が良好であった。比較サンプル7乃至9に係る液体調味料について、冷凍解凍後のドリップの抑制が不十分であり、豚のスライス肉からドリップが生じていた。
【0028】
実験例5
実施例4に係るドリップ抑制剤として、コンニャクマンナン(伊那食品工業製:マンナン100)及びタマリンドガム(大日本住友製薬製:グリロイド3S)を1:1の割合で混ぜ合わせることによって実施例4に係るドリップ抑制剤を得た。比較例7として、グアーガム、比較例8として、タマリンドガム、比較例9として、ゼラチン(伊那食品工業製:A−81)、キサンタンガム(伊那食品工業製:V−10)及び加工澱粉(松谷化学工業製:ファリネックスCA)を5:1:43の割合で混ぜ合わせたものを用意した。次に、表7に示すよう配合で、実施例4に係るドリップ抑制剤を水に分散して加熱溶解を行い、うまみ調味料と醤油、味噌、食塩、豆板醤、グラニュー糖を加えることによって、サンプル4に係る液体調味料を作製した。同様に比較例10乃至12に係る多糖類についても比較サンプル10乃至12に係る液体調味料を作製した。
【0029】
【表7】

【0030】
これらたれをラムのスライス肉にからめ、冷凍解凍してラムのスライス肉からでるドリップを観察した。結果を表6に示す。
【0031】
【表8】

【0032】
表8から明らかなように、実施例4によって得られたサンプル4に係る液体調味料は、冷凍解凍後の豚のスライス肉から出るドリップを抑制して、外観が良好であった。比較サンプル10乃至12に係る液体調味料について、冷凍解凍後のドリップの抑制が不十分であり、ラムのスライス肉からドリップが生じていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍前に食品の表面に被膜され、冷凍後解凍時のドリップを抑制可能な冷凍食品のドリップ抑制剤において、
タマリンドガムと、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、カシアガム及びコンニャクマンナンのうちいずれか一以上の糊料とが含まれていることを特徴とする冷凍食品のドリップ抑制剤。
【請求項2】
請求項1記載のドリップ抑制剤が被膜された冷凍食品。

【公開番号】特開2008−29309(P2008−29309A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209384(P2006−209384)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)