説明

冷凍食品の製造方法

【課題】電子レンジ等のマイクロ波装置を用いて解凍加熱する場合に、解凍加熱に要する時間が調整された冷凍食品の製造方法、該製造方法により製造された冷凍食品、及び、該冷凍食品と該冷凍食品以外の冷凍食品の組み合わせ食品の提供。
【解決手段】加工処理済み野菜に、有機酸塩溶液を浸透させた後、凍結することを特徴とする冷凍食品の製造方法、該製造方法により製造された冷凍食品、及び、該冷凍食品と、該冷凍食品以外の冷凍食品と、の組み合わせからなる組み合わせ食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波装置による解凍加熱に要する時間が調整された冷凍食品の製造方法、該製造方法により製造された冷凍食品、及び、該冷凍食品と該冷凍食品以外の冷凍食品の組み合わせ食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、共稼ぎ世帯や一人世帯の増加という生活スタイルの変化に伴い、家庭内での調理の手間を省略し、より簡便に喫食することが可能な惣菜類や弁当類が好まれている。中でも、比較的長期保存が可能であり、かつ、電子レンジ等のマイクロ波装置による解凍加熱処理により手軽に喫食することが可能な調理済み冷凍食品の需要が急増している。
【0003】
近年の消費者の傾向として、特に、嗜好の多様化と健康志向が挙げられる。他の食品分野と同様に、冷凍食品の分野においても、これらの消費者の傾向に添った製品開発が行われている。例えば、消費者の嗜好の多様化に応え、よりバリエーションの豊富な調理済み冷凍食品を提供するために、複数種類の食品を組み合わせた調理済み冷凍食品の開発が盛んである。さらに、消費者の健康志向をも満たすべく、肉類だけではなく野菜を含む調理済み冷凍食品の開発が望まれている。
【0004】
調理済み冷凍食品は、手軽さの点から、一度の解凍加熱処理により喫食可能であることが望ましい。一方で、冷凍食品は、食品の品質及び衛生の点から、喫食前の解凍加熱処理時に75℃以上になるまで芯温を上げることが好ましい。しかしながら、適当な芯温となるまでに解凍加熱に要する時間(解凍所要時間)は、食品の種類によって大きく異なる。例えば、揚げ物等の解凍所要時間が短時間で済む冷凍食品と、野菜等の解凍所要時間により長時間を要する冷凍食品を組み合わせた冷凍食品を解凍加熱する場合には、解凍加熱時間が短いと、野菜等は加熱不十分となり易い。一方、野菜等が充分に加熱するまで解凍加熱処理を行うと、加熱され易い食品は、過加熱状態となり、品質が劣化してしまう、という問題がある。
【0005】
このような問題を解決し、解凍所要時間が異なる複数種類の冷凍食品の組み合わせからなる組み合わせ食品を、電子レンジ等の家庭用マイクロ波装置を用いて、一度の解凍加熱処理により均一に解凍加熱するためには、該組み合わせ食品中の全ての種類の冷凍食品の解凍所要時間をほぼ一定の時間に調整することが好ましい。特に、手軽さや食品の味品質保持の点から、解凍加熱時間はより短いほうが好ましく、より解凍所要時間の長い冷凍食品の解凍加熱時間を、最も解凍所要時間の短い冷凍食品と同程度まで短縮することが好ましい。
【0006】
冷凍食品の解凍加熱時間を短縮する方法として、種々の方法等が開示されている。例えば、(1)0〜−20℃の範囲で凍結時に水と共晶を形成しないアミノ酸またはその塩を添加してなる解凍時間の短縮された冷凍食品及びその製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、(2)ピログルタミン酸及びその塩から選ばれた1種以上を含有してなる冷凍食品類及びその製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。これらの製造方法は、食品またはその原料に、呈味の比較的低く、かつ、食品中の不凍水量を増加させる物質を添加することにより、冷凍食品の解凍加熱時間を短縮する方法である。
【特許文献1】特開平07−87948号公報
【特許文献2】特開平08−47383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記(1)及び(2)の方法では、食品全体に、アミノ酸等の呈味の比較的低く、かつ、食品中の不凍水量を増加させ得る物質を添加することにより、冷凍食品の解凍加熱時間を短縮する方法である。例えば、ハンバーグ等の練り製品では、これらの不凍水量を増加させ得る物質を、添加物としてその他の原料と共に練りこむことにより添加することができる。また、グラタン等の一品物の冷凍食品の場合には、不凍水量を増加させ得る物質を、ソース類や餡類に調味料と共に添加することにより、製品全体に均一に添加することができる。
しかしながら、これらの方法では、野菜等のように、該不凍水量を増加させ得る物質を食品全体に均一に添加することが困難な食品に対しては、充分に解凍加熱時間を短縮することは困難である。
【0008】
本発明は、電子レンジ等のマイクロ波装置を用いて解凍加熱する場合に、解凍加熱に要する時間が調整された冷凍食品の製造方法、該製造方法により製造された冷凍食品、及び、該冷凍食品と該冷凍食品以外の冷凍食品の組み合わせ食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、加熱処理等の加工処理を行った野菜に、有機酸塩溶液を浸透させることにより、マイクロ波装置による解凍所要時間を短縮することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、加工処理済み野菜に、有機酸塩溶液を浸透させた後、凍結することを特徴とする冷凍食品の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、前記加工処理が、加熱処理及び/又は凍結処理であることを特徴とする冷凍食品の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、前記有機酸塩が、乳酸塩、グルコン酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩からなる群より選ばれる1以上の有機酸塩であることを特徴とする冷凍食品の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、前記加工処理済み野菜を、前記有機酸塩溶液に浸漬させることを特徴とする冷凍食品の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、前記加工処理済み野菜が、冷凍野菜であることを特徴とする冷凍食品の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載の冷凍食品の製造方法を用いて製造された冷凍食品を提供するものである。
また、本発明は、前記記載の冷凍食品と、前記冷凍食品以外の冷凍食品と、の組み合わせからなる組み合わせ食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の冷凍食品の製造方法により、マイクロ波装置を用いて解凍加熱する場合に、野菜の解凍所要時間を、従来になく効果的に短縮することができる。また、有機酸塩溶液の濃度や、浸透させる時間等を調節することにより、簡便に解凍所要時間を調整することができるため、揚げ物等の解凍所要時間が野菜よりも短い他の種類の冷凍食品と組み合わせた場合であっても、一度の解凍加熱処理により、野菜が加熱不十分となることや、他の種類の食品が過加熱状態になることもなく、均一に解凍し加熱することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において用いられる野菜は、特に限定されるものではなく、果菜類であってもよく、根菜類であってもよく、葉菜類であってもよい。果菜類として、例えば、アスパラガス、インゲン、ブロッコリー、トウモロコシ、オクラ、ピーマン、カボチャ、タマネギ、キノコ類、エンドウマメ等の豆類等がある。根菜類として、例えば、ニンジン、ゴボウ、ダイコン、カブ類、サツマイモ、サトイモ、ジャガイモ等のイモ類、レンコン等がある。葉菜類として、例えば、レタスやキャベツ、ほうれん草等がある。中でも、アスパラガス、インゲン、ブロッコリー等が好ましい。これらの野菜は、元々水分量が高く、マイクロ波装置により解凍加熱し難い野菜であるため、本発明の冷凍食品の製造方法による解凍加熱時間短縮効果がより効果的に発揮される。
【0013】
本発明において、加工処理とは、通常、野菜に施される処理であって、野菜中の組織の少なくとも一部を破壊することができる処理であれば、特に限定されるものではない。生野菜には、通常、有機酸塩は浸透し難いが、該加工処理をすることにより、野菜の組織の少なくとも一部が破壊されるため、有機酸塩を効率よく野菜に浸透させることができる。該処理として、例えば、加熱処理、凍結処理、凍結乾燥処理等がある。食感に対する影響が少ないため、加熱処理や凍結処理であることが好ましい。加熱処理済み野菜として、例えば、ボイルした野菜や、炒めた野菜、焼いた野菜、蒸した野菜等がある。また、加熱処理と凍結処理を組み合わせてもよい。例えば、ボイルした後に凍結処理した野菜であってもよい。
【0014】
本発明において用いられる加工処理済み野菜として、特に冷凍野菜であることが好ましい。冷凍野菜は、生野菜をブランチング処理した後、急速凍結した冷凍食品を意味する。なお、ブランチングとは、野菜に含まれる酵素を不活性化し、貯蔵中の品質の低下や変色を防ぐための軽い湯通し加工である。すなわち、該冷凍野菜は、加熱処理と凍結処理を組み合わせた加工処理を行った野菜である。ブランチング処理のみでも、有機酸塩を浸透させるために充分に野菜中の組織を破壊することができるが、ブランチング処理後さらに凍結処理を行うことにより、より効率よく野菜中の組織を破壊し得るため、より有機酸塩を浸透し易くすることができる。
【0015】
また、本発明において用いられる加工処理済み野菜は、調味料等で味付けされた野菜であってもよいが、薄味の野菜であることが好ましく、調味料を使用せずに加工処理が施された野菜であることがより好ましい。塩や砂糖等の調味料で味付けされていない野菜は、味付けされた野菜よりも、マイクロ波装置により解凍加熱し難いため、本発明の冷凍食品の製造方法による解凍加熱時間短縮効果がより効果的に発揮されるためである。
【0016】
本発明の冷凍食品の製造方法は、加工処理済み野菜に、有機酸塩溶液を浸透させた後、凍結することを特徴とする。野菜に有機酸塩溶液を浸透させることにより、電子レンジ等のマイクロ波装置を用いて解凍加熱する場合の解凍所要時間を短縮することができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推察される。マイクロ波装置は、内部にある発振器から波長の極めて短いマイクロ波が発射される。該マイクロ波は、水に吸収される性質を有しているため、食品中の極性分子である水分子を激しく振動させ、摩擦熱を発生させて短時間で食品を内部から加熱する。食品中の塩は、通常、水分存在下で、陽イオンと陰イオンに分離して存在する。このため、該マイクロ波による水分子の振動を増強し、発生された摩擦熱の熱伝導を向上させる結果、食品中の塩濃度が低い場合よりも、高い場合のほうが、より短時間で食品の芯温を充分に上げることができると推察される。なお、本発明において、「解凍所要時間」とは、マイクロ波装置を用いて冷凍食品を解凍加熱する場合に、該冷凍食品が75℃程度の適当な芯温となるまでに要する時間を意味する。
【0017】
本発明において用いられる有機酸塩は、可食性であって、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、及びカルシウム塩のいずれかの有機酸塩であれば、特に限定されるものではない。該有機酸塩として、例えば、乳酸塩、グルコン酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、アスコルビン酸塩、クエン酸塩等がある。呈味に対する影響が小さいため、乳酸塩、グルコン酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩であることが好ましい。溶解性に優れるため、乳酸塩、グルコン酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩のナトリウム塩またはカリウム塩であることがより好ましく、乳酸ナトリウムであることが特に好ましい。
また、本発明において用いられる有機酸塩溶液は、1種類の有機酸塩からなる溶液であってもよく、複数種類の有機酸塩からなる溶液であってもよい。また、その他の調味液等との混合液であってもよい。
なお、有機酸塩溶液に代えて、食塩や塩化カルシウム等の無機塩溶液や、有機酸塩と無機塩の混合溶液等を用いた場合であっても、加工処理済み野菜の解凍所要時間を短縮することができるが、この場合には、野菜に塩味やえぐみ等の味が付加され易い。有機酸塩溶液を用いることにより、呈味に特段の影響を与えることなく、野菜の解凍所要時間を短縮し得る。
【0018】
本発明の冷凍食品の製造方法においては、用いられる有機酸塩溶液の濃度が高ければ高いほど、そして、浸透処理時間が長ければ長いほど、加工処理済み野菜に、該有機酸塩溶液が効率よく浸透するため、解凍所要時間をより短縮することができる。但し、該有機酸塩溶液の浸透しやすさは、野菜の種類や形状によっても大きく異なる。例えば、より小さく刻まれた野菜は、より大きな塊状の野菜よりも、該有機酸塩溶液が浸透し易い。したがって、本発明の冷凍食品の製造方法において、用いられる有機酸塩溶液の濃度や、浸透処理の時間は、加工処理済み野菜の種類、形状等を考慮して、所望の解凍所要時間となるように、適宜決定することができる。
【0019】
加工処理済み野菜に、有機酸塩溶液を浸透させる方法は、通常、食品に施される方法であって、野菜に有機酸塩を浸透させることが出来る方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、加工処理済み野菜を、有機酸塩溶液に浸漬させてもよく、有機酸塩溶液を調味液と共に添加して蒸してもよく、有機酸塩溶液を調味液と共に添加して炒めてもよい。また、生野菜を、蒸したり炒めたりする時に、有機酸塩溶液を調味液と共に添加してもよい。蒸したり炒めたりすることにより、生野菜は、野菜中の組織の一部が破壊された加工処理済み野菜とされ、その後、該加工処理済み野菜に、調味液と共に存在する有機酸塩溶液が浸透するためである。その他、加工処理済み野菜を、有機酸塩溶液を用いてブランチング処理を行ってもよい。これらの方法のうち、浸透処理中の有機酸塩溶液の濃度のコントロールが容易であるため、及び、浸漬処理後の野菜の食感がより良好であることから、加工処理済み野菜を、有機酸塩溶液に浸漬させる方法が好ましい。
【0020】
有機酸塩溶液に浸漬させる場合の温度は、特に限定されるものではなく、有機酸塩溶液の濃度のコントロールが可能である温度であれば、特に限定されるものではないが、30℃以下の温度であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましい。低温下で浸漬処理を行うことにより、加工処理済み野菜中の微生物の繁殖を抑えられ、食品衛生上、好ましいためである。
【0021】
加工処理済み野菜を、有機酸塩溶液に浸漬させる際の該有機酸塩溶液の濃度は、解凍所要時間短縮効果が得られる濃度であれば、特に限定されるものではなく、用いられる有機酸塩の種類や、処理対象である野菜の種類や形状等により、適宜決定することができる。例えば、食塩換算で3(重量/容量)%以上の塩濃度であることが好ましく、5(重量/容量)%以上の塩濃度であることがより好ましい。より短時間の浸漬処理でより効果的に解凍所要時間を短縮することができるためである。例えば、有機酸塩として乳酸ナトリウムを用いる場合には、加工処理済み野菜を、6(重量/容量)%以上の乳酸ナトリウム溶液に浸漬させることが好ましい。
【0022】
加工処理済み野菜を、有機酸塩溶液に浸漬させる際の該有機酸塩溶液の濃度や浸漬処理時間を調節することにより、解凍所要時間を調整することができる。つまり、本発明の冷凍食品の製造方法を用いることにより、単に解凍所要時間が短縮された冷凍野菜加工食品を製造することができるのみならず、所望の解凍所要時間を有する冷凍野菜加工食品を製造することができる。
【0023】
したがって、解凍所要時間がより短い他の種類の冷凍食品と、本発明の冷凍食品とを、マイクロ波装置を用いて同時に解凍加熱する場合に、本発明の冷凍食品の解凍所要時間を、該他の種類の冷凍食品の解凍所要時間と、ほぼ一致させるように調整することができる。この結果、本発明の冷凍食品を含む全ての種類の冷凍食品を、それぞれの味や食感を損なうことなく、一度の解凍加熱処理により解凍加熱することが可能となる。例えば、コロッケ等の揚げ物と、特別な味付けをしていないアスパラガス等の野菜を組み合わせた冷凍食品とする場合に、本発明の冷凍食品の製造方法により、該野菜の解凍所要時間を短縮し、該揚げ物の解凍所要時間とほぼ一致するように調整することにより、マイクロ波装置を用いて、該揚げ物を過加熱状態にすることなく、該野菜を適切に解凍加熱することができる。
【0024】
このような、少なくとも1種類が本発明の冷凍食品であり、同時に解凍加熱処理される複数種類の冷凍食品の組み合わせからなる組み合わせ食品として、例えば、本発明の冷凍食品と、本発明の冷凍食品以外の冷凍食品とからなる惣菜等が挙げられる。その他、本発明の冷凍食品や、本発明の冷凍食品を含む惣菜と、他の種類の惣菜を、同一容器内に入れた弁当類等が挙げられる。
【0025】
なお、本発明の冷凍食品は、加工処理済み野菜に、有機酸塩溶液を浸透させたものを、常法により凍結処理することにより、製造することができる。また、前記組み合わせ食品は、凍結処理後の本発明の冷凍食品と、凍結処理後の他の種類の冷凍食品とを組み合わせることにより製造してもよく、有機酸塩溶液を浸透させた後の野菜と、他の食品とを組み合わせた後に、凍結処理を施すことにより製造してもよい。
【実施例】
【0026】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
冷凍野菜のアスパラガスを、乳酸ナトリウム溶液に浸漬させることにより、該アスパラガスの電子レンジによる解凍加熱において、芯温が75℃以上になるまでに要する時間を短縮した。
具体的には、冷凍アスパラガスを4cm長に切ったものを、表1記載の条件の乳酸ナトリウム溶液に、4℃で1時間浸漬させた。乳酸ナトリウム溶液に浸漬させなかった冷凍アスパラガスを、コントロールとした。なお、冷凍アスパラガスの解凍は、流下した水道水中に約20分間放置することにより行った。
【0027】
その後、該アスパラガスと、常法により製造した冷凍ポテトコロッケとを、1の串に挿した惣菜を作成し、−18℃以下の冷凍機を用いて凍結処理を行い、冷凍組み合わせ食品を得た。
得られた冷凍組み合わせ食品を、電子レンジで500W、50秒間加熱した時点の、芯温を測定した。測定された芯温は、表1に示した。表中、「0(重量/容量)%」は、乳酸ナトリウム溶液を用いた浸漬処理を行わなかったコントロールを意味する。
【0028】
【表1】

【0029】
表1の結果から明らかであるように、乳酸ナトリウム溶液に浸漬させることにより、コントロールに比べて、冷凍アスパラガスの500W、50秒間加熱した時点の芯温を高くすることができた。すなわち、芯温が75℃以上になるまでに要する時間を短縮することができた。実際に、コントロールでは、50秒間の加熱では、芯温は41℃までしか上昇しなかったが、6.0(重量/容量)%の乳酸ナトリウム溶液に浸漬させることにより、50秒間の加熱でアスパラガスの芯温を75℃まで上げることができた。また、乳酸ナトリウム溶液を用いた浸漬処理による解凍加熱時間の短縮効果は、乳酸ナトリウム溶液の濃度が高いほど顕著であった。
【0030】
なお、電子レンジで500W、50秒間加熱することにより、該冷凍組み合わせ食品中のコロッケは、芯温が75℃以上まで上がり、充分に加熱されていた。さらに、良好な味特性を有していた。
一方で、コントロールの冷凍組み合わせ食品を、アスパラガスの芯温が75℃になるまで加熱するためには、電子レンジで500W、70秒間の加熱を要した。さらにこの時には、コロッケは、衣が湿っており、品質が劣化してしまっていた。これは、コロッケが過加熱状態となり、コロッケの内部及びアスパラガスから離水が生じ、この水分を衣が吸ってしまったためと推察される。
【0031】
(実施例2)
乳酸ナトリウム溶液を用いた浸透処理時間の、芯温が75℃以上になるまでに要する時間への影響を調べた。浸透処理として、乳酸ナトリウム溶液を用いたブランチング処理と、ブランチング後に乳酸ナトリウム溶液を用いた浸漬処理を行った。
具体的には、実施例1と同様にして解凍した冷凍アスパラガスを4cm長に切ったものに、表2記載の処理方法及び浸透処理時間で、9.0(重量/容量)%の乳酸ナトリウム溶液を浸透させた。
表中記載の処理方法のうち、「ブランチング」とは、冷凍アスパラガスを4cm長に切ったものを、90℃の9.0(重量/容量)%の乳酸ナトリウム溶液を用いて、30秒〜1分間、ブランチング処理(湯通し処理)を行ったことを意味する。
また、表中記載の「浸漬」とは、冷凍アスパラガスを4cm長に切ったものを、4℃の9.0(重量/容量)%の乳酸ナトリウム溶液に、30分〜1時間30分間、浸漬させたことを意味する。
【0032】
その後、前記アスパラガスを用いて、実施例1と同様にして、冷凍組み合わせ食品を得た。得られた冷凍組み合わせ食品を、電子レンジで500W、50秒間加熱した時点の、芯温を測定した。測定された芯温は、表2に示した。
【0033】
【表2】

【0034】
表2の結果から明らかであるように、乳酸ナトリウム溶液を浸透させることにより、コントロールに比べて、冷凍アスパラガスの500W、50秒間加熱した時点の芯温を高くすることができ、芯温が75℃以上になるまでに要する時間を短縮することができた。実際に、50秒間の加熱で芯温は、コントロールでは41℃までしか上昇しなかったが、9.0(重量/容量)%の乳酸ナトリウム溶液を用いた浸透処理を、ブランチング処理では少なくとも45秒間以上、浸漬処理では少なくとも45分間以上行うことにより、500W、50秒間の加熱でアスパラガスの芯温を75℃に上げられることが分かった。また、ブランチング処理と浸漬処理のいずれであっても、解凍加熱時間の短縮効果は、乳酸ナトリウム溶液の浸透処理時間が長いほど顕著であった。すなわち、有機酸塩溶液の浸透処理時間を適宜調節することにより、所望の解凍所要時間にすることができることが明らかである。
【0035】
(参考例1)
有機酸塩溶液を用いて浸透処理を行った場合と、無機塩溶液を用いて浸透処理を行った場合の、野菜の解凍加熱時間の短縮効果について調べた。
具体的には、実施例1と同様にして解凍した冷凍アスパラガスを4cm長に切った後、表3記載の塩溶液を用いて、1分間、ブランチング処理(湯通し処理)を行った。なお、表中、「%」は「(重量/容量)%」を意味する。
その後、前記アスパラガスを用いて、実施例1と同様にして、冷凍組み合わせ食品を得た。得られた冷凍組み合わせ食品を、電子レンジで500W、50秒間加熱した時点の、芯温を測定した。測定された芯温は、表3に示した。
【0036】
【表3】

【0037】
表3の結果から明らかであるように、乳酸カルシウムのような有機酸塩と食塩のような無機塩を混合した塩溶液を用いた場合や、食塩や塩化カルシウム等の無機塩を組み合わせた塩溶液を用いた場合であっても、有機酸塩溶液を用いた場合と同様に、冷凍アスパラガスの500W、50秒間加熱した時点の芯温を75℃以上にすることができた。特に、1% の乳酸カルシウム溶液と5%の塩化カルシウム溶液は、ほぼ同程度の解凍加熱時間の短縮効果が得られることが分かった。
解凍加熱処理後のアスパラガスを食してみたところ、塩化カルシウム溶液を用いて浸透処理を行ったアスパラガスは、強い塩味とえぐみを有しており、食用には不適当であったが、乳酸カルシウム溶液を用いて浸透処理を行ったアスパラガスは、塩味が少し強いものの、食することができた。このことから、有機酸塩を用いることにより、呈味に問題を生ずることなく、野菜の解凍加熱時間を短縮し得ることが明らかである。
【0038】
(実施例3)
種々の有機酸塩溶液を用いて浸透処理を行った冷凍アスパラガスの、電子レンジで500W、50秒間加熱した時点の芯温を調べた。
具体的には、実施例1と同様にして解凍した冷凍アスパラガスを4cm長に切った後、表4記載の有機酸塩溶液に、4℃で1時間浸漬させた。なお、表中、「%」は「(重量/容量)%」を意味する。
その後、前記アスパラガスを用いて、実施例1と同様にして、冷凍組み合わせ食品を得た。得られた冷凍組み合わせ食品を、電子レンジで500W、50秒間加熱した時点の、芯温を測定した。測定された芯温は、表4に示した。
【0039】
【表4】

【0040】
表4の結果から明らかであるように、乳酸ナトリウム溶液以外の有機酸塩溶液を用いて浸透処理を行った場合であっても、同様に、冷凍アスパラガスの500W、50秒間加熱した時点の芯温を75℃以上にすることができた。
【0041】
(実施例4)
生野菜を、乳酸ナトリウム溶液に浸漬させることにより、該生野菜の電子レンジによる解凍加熱において、芯温が75℃以上になるまでに要する時間を短縮した。生野菜として、ブロッコリーとニンジンを用いた。
具体的には、まず、生野菜を適当な大きさに切ったものを、90℃の湯を用いて、1分間、ブランチング処理を行い、加工処理済み野菜を得た。その後、浸透処理方法1として、該加工処理済み野菜を、4℃の9.0(重量/容量)%の乳酸ナトリウム溶液に、1時間浸漬させた後、−18℃以下の冷凍機を用いて凍結処理を行って、冷凍食品を得た。
これとは別に、浸透処理方法2として、ブランチング処理後に得られた加工処理済み野菜を、−18℃以下の冷凍機を用いて凍結後、常温(15℃)で1時間放置することにより自然解凍し、4℃の9.0(重量/容量)%の乳酸ナトリウム溶液に、1時間浸漬させた後、−18℃以下の冷凍機を用いて凍結処理を行って、冷凍食品を得た。
ブランチング処理後に得られた加工処理済み野菜を、−18℃以下の冷凍機を用いて凍結して得られた冷凍食品を、コントロールとした。
得られた冷凍食品を、電子レンジで500W、50秒間加熱した時点の、芯温を測定した。測定された芯温は、表5に示した。
【0042】
【表5】

【0043】
表5のうち、浸透処理方法1の結果から明らかであるように、生野菜を用いた場合であっても、冷凍野菜を用いた場合と同様に、有機酸塩溶液を浸透させることにより、コントロールに比べて、500W、50秒間加熱した時点の芯温を高くすることができ、芯温が75℃以上になるまでに要する時間を短縮することができた。
また、浸透処理方法1と浸透処理方法2の結果の比較から、生野菜をブランチング処理した後に有機酸塩溶液を浸透させたものよりも、一度凍結処理した冷凍野菜に有機酸塩溶液を浸透させたものの方が、より顕著な解凍加熱時間短縮効果が得られることが分かった。このような効果が得られる理由は明らかではないが、野菜を凍結及び解凍処理することによって、野菜組織内の空隙が大きくなり、該空隙に有機酸塩溶液が入り込むことにより、解凍加熱時の温度上昇効果及び解凍加熱時間短縮効果が顕著になるのではないかと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の冷凍食品の製造方法により、野菜を加工した冷凍食品のマイクロ波装置による解凍加熱に要する時間を短縮することや、該時間を調整することができるため、冷凍食品の製造分野で利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工処理済み野菜に、有機酸塩溶液を浸透させた後、凍結することを特徴とする冷凍食品の製造方法。
【請求項2】
前記加工処理が、加熱処理及び/又は凍結処理であることを特徴とする請求項1記載の冷凍食品の製造方法。
【請求項3】
前記有機酸塩が、乳酸塩、グルコン酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩からなる群より選ばれる1以上の有機酸塩であることを特徴とする請求項1又は2記載の冷凍食品の製造方法。
【請求項4】
前記加工処理済み野菜を、前記有機酸塩溶液に浸漬させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の冷凍食品の製造方法。
【請求項5】
前記加工処理済み野菜が、冷凍野菜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の冷凍食品の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の冷凍食品の製造方法を用いて製造された冷凍食品。
【請求項7】
請求項6記載の冷凍食品と、前記冷凍食品以外の冷凍食品と、の組み合わせからなる組み合わせ食品。

【公開番号】特開2009−39003(P2009−39003A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205507(P2007−205507)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000004569)日本たばこ産業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】