説明

冷却システム、冷却システムを備える車両

【課題】本発明は、車両に搭載される抵抗器などの発熱部を冷却するための冷却システムを備える車両において、車両の走行効率の向上を図ることを目的とする。
【解決手段】車両に搭載される発熱部を冷却するための冷却システムは、冷却水を収容するための冷却タンクと、自身の回転によって冷却タンクの冷却水を吸い上げて発熱部に供給するためのポンプと、所定の慣性モーメントを有する回転体を有する慣性装置と、ポンプの回転と回転体の回転とを連動させるポンプ側回転軸と、車両の駆動部と連動する駆動側回転軸と、ポンプ側回転軸と駆動側回転軸との間に配置されるクラッチと、クラッチの動作を制御する制御部と、を備え、制御部は、車両の制動時にクラッチを接続して、車両の慣性力を用いて回転体とポンプを回転させ、回転体が回転するとクラッチを開放して、回転体の回転エネルギーを用いてポンプを回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される発熱部を冷却するための冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃料電池車両などモータによって駆動する車両において、制動時の回生ブレーキによってモータによる発電をおこない、発電により生じた回生電流によってバッテリーの充電をおこなう技術が知られている。この技術に関して、FCバスなど大型のモータを使用する車両では、発電により生じる回生電流が大きくなるため、そのままバッテリーの充電に利用すると、バッテリーの劣化を早める問題があった。
【0003】
この問題を解決するために、回生電流の一部を抵抗器によって消費する技術が知られている。また、この回生電流を消費する抵抗器を備える車両には、冷却ファンなど、抵抗器を冷却するための冷却装置が搭載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−294116号公報
【特許文献2】特開2006−310327号公報
【特許文献3】特開2004−320967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、冷却ファン等の冷却装置は、駆動に電力を要するため、バッテリーの消費電力が増大し、走行効率が低下する問題があった。なお、これらの問題は、モータによって駆動する車両に限られず、抵抗器などの発熱体を冷却する冷却システムを備えた車両に共通の問題であった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、車両に搭載される抵抗器などの発熱部を冷却するための冷却システムを備える車両において、車両の走行効率の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本願発明は、以下の態様または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
車両に搭載される発熱部を冷却するための冷却システムであって、
冷却水を収容するための冷却タンクと、
自身の回転によって前記冷却タンクの冷却水を吸い上げて前記発熱部に供給するためのポンプと、
所定の慣性モーメントを有する回転体を有する慣性装置と、
前記ポンプの回転と前記回転体の回転とを連動させるポンプ側回転軸と、
前記車両の駆動部と連動する駆動側回転軸と、
前記ポンプ側回転軸と前記駆動側回転軸との間に配置されるクラッチと、
前記クラッチの動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記車両の制動時に前記クラッチを接続して、前記車両の慣性力を用いて前記回転体および前記ポンプを回転させ、前記回転体が回転すると前記クラッチを開放して、前記回転体の回転エネルギーを用いて前記ポンプを回転させる、冷却システム。
【0009】
この構成によれば、車両の慣性力を用いて発熱部を冷却するポンプを駆動させるため、発熱部の冷却に電力を要しない。よって、発熱部の冷却を要する車両に上記構成の冷却システムを適用することにより、車両の走行効率の向上を図ることができる。
【0010】
[適用例2]
車両であって、
前記車両を駆動させるための動力源であり、前記車両の制動時に回生電力を発生させるモータと、
前記車両の駆動時に前記モータに電力を供給し、前記車両の制動時に前記回生電力により充電されるバッテリーと、
前記回生電力を消費するための発熱部と、
前記発熱部を冷却するための冷却システムと、を備え、
前記冷却システムは、
冷却水を収容するための冷却タンクと、
自身の回転によって前記冷却タンクの冷却水を吸い上げて前記発熱部に供給するためのポンプと、
所定の慣性モーメントを有する回転体を有する慣性装置と、
前記ポンプの回転と前記回転体の回転とを連動させるポンプ側回転軸と、
前記車両の駆動部と連動する駆動側回転軸と、
前記ポンプ側回転軸と前記駆動側回転軸との間に配置されるクラッチと、
前記クラッチの動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記車両の制動時に前記クラッチを接続して、前記車両の慣性力を用いて前記回転体および前記ポンプを回転させ、前記回転体が回転すると前記クラッチを開放して、前記回転体の回転エネルギーを用いて前記ポンプを回転させる、車両。
【0011】
この構成によれば、車両は、慣性力を用いて発熱部を冷却するポンプを駆動させるため、発熱部の冷却に電力を要しない。よって、バッテリーの電力をよりモータの駆動に利用することができるため、車両の走行効率の向上を図ることができる。
【0012】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、車両に搭載される発熱部を冷却するための冷却方法や、冷却システムの制御方法や、冷却システムの製造方法、および、これらの方法を装置に実行させるための制御プログラムなどの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施例における燃料電池搭載車両の概略構成を説明するための説明図である。
【図2】本実施例のポンプの概略構成を説明するための説明図である。
【図3】本実施例の抵抗器および発熱面の概略構成を説明するための説明図である。
【図4】本実施例のパワーサーバの概略構成を説明するための説明図である。
【図5】本実施例の冷却システムの動作の流れを説明するための説明図である。
【図6】変形例のポンプの概略構成を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【0015】
A.第1実施例:
図1は、第1実施例における燃料電池搭載車両の概略構成を説明するための説明図である。燃料電池搭載車両10は、例えば、FCバスなどのように、燃料電池による発電のほか、制動時の回生ブレーキによって発電をおこない、得られた電力によってモータを駆動させて動力を得る車両である。燃料電池搭載車両10は、燃料電池システム100と、冷却システム200と、モータ310と、バッテリー320と、抵抗器330と、トランスアクスル340と、ECU350と、を備えている。
【0016】
燃料電池システム100は、燃料電池110と、水素タンク120と、コンプレッサー130と、ラジエータ140と、を備えている。
【0017】
燃料電池110は、水素ガスと空気に含まれる酸素との電気化学反応によって発電をおこなう。本実施例では、燃料電池110として固体高分子型燃料電池を使用しているが、固体高分子型燃料電池以外の種々の燃料電池を使用することが可能である。燃料電池110は、複数のセル111がセパレータ(図示しない)を介して積層されたスタック構造を有している。セル111は、燃料電池110における発電を行う単位モジュールであり、電解質膜の各面にアノードおよびカソードの電極が形成された膜電極接合体(MEAとも呼ばれる)を含んでいる。各セル111は、さらに、MEAを挟むように配置され、反応ガスとしての水素ガスおよび空気を拡散させつつMEAに供給するガス拡散層(図示せず)を含んでいる。
【0018】
水素タンク120は、水素ガス供給路121を介して燃料電池110のアノードに水素ガスを供給する。水素タンク120から水素ガス供給路121に放出された水素ガスは、水素ガス供給路121に設けられた図示しない減圧弁や圧力調整弁によって所定の圧力に減圧・調整された後に燃料電池110のアノードに供給される。
【0019】
コンプレッサー130は、酸化ガス導入路131を介して外部から取り込まれた酸化ガスとしての空気を加圧し、酸化ガス供給路132を介して燃料電池110のカソードに供給する。燃料電池110に供給される空気は、図示しない加湿部によって加湿されてもよい。
【0020】
ラジエータ140は、燃料電池110から冷却媒体流路141に排出された冷却媒体を冷却する。ラジエータ140によって冷却された冷却媒体は、図示しない循環ポンプによって、再度、燃料電池110に供給される。
【0021】
燃料電池システム100は、図示しないインバータを介してモータ310と接続されていると共に、図示しないDC/DCコンバータを介してバッテリー320と接続されている。燃料電池システム100から出力される電力は、モータ310に供給されてモータ310を駆動させる。燃料電池搭載車両10は、モータ310の駆動を、トランスアクスル340を介して車輪RWに伝える。燃料電池システム100から出力される電力は、バッテリー320にも供給される。燃料電池搭載車両10では、バッテリー320の残存容量が所定値以下になった場合等に、燃料電池システム100からバッテリー320への充電が行われる。バッテリー320の電力は、電力不足時におけるモータ310の駆動等に使用される。
【0022】
燃料電池搭載車両10では、制動時の回生ブレーキによっても、バッテリー320の充電がおこなわれる。具体的には、モータ310は、燃料電池搭載車両10の制動時に発電器として機能し、回生電流を発生させる。モータ310によって生じた回生電流は、一部が充電電流としてバッテリー320に供給され、残りが余剰電流として抵抗器330に供給される。本実施例の燃料電池搭載車両10のように、大型の車両に使用されるモータ310は大型となり、制動時に大きな回生電流を発生させる。そのため、発生した回生電流のすべてを充電電流としてバッテリー320に供給すると、バッテリー320の劣化を早めてしまうため、一部を余剰電流として抵抗器330に供給している。抵抗器330に供給された余剰電流は、抵抗器330の発熱によって消費される。
【0023】
冷却システム200は、抵抗器330を冷却するための装置であり、燃料電池搭載車両10の制動エネルギーを利用して冷却水を汲み上げて抵抗器330を冷却する。冷却システム200は、冷却タンク210と、調圧バルブ215と、ポンプ220と、ポンプ側シャフト230と、回転計235と、電磁クラッチ240と、パワーサーバ250と、を備えている。
【0024】
冷却タンク210は、抵抗器330を冷却するための冷却水を貯留するためのタンクであって、内部に抵抗器330からの熱を伝導する発熱面212を備えている。発熱面212は、冷却水による冷却時に抵抗器330が冷却される構成であれば、冷却タンク210の一部であってもよいし、抵抗器330の一部であってもよい。
【0025】
本実施例の冷却システム200は、燃料電池110のカソードから排出される生成水waを冷却水として利用する。冷却タンク210は、燃料電池110のカソードから生成水waが流入する構成を備えている。調圧バルブ215は、冷却タンク210の内部圧力Ptを検出し、内部圧力Ptが大気圧(101KPa−abs)よりも大きい場合には、生成水waを排出し、内部圧力Ptを一定に保つ。
【0026】
ポンプ220は、冷却タンク210の内部に配置され、冷却タンク210の内部に貯留している生成水waを吸い上げて、発熱面212に供給する。ポンプ220は、自身が回転することによって、生成水waを吸い上げる構造を備えている。ポンプ220の具体的な構成については、図2を用いて後述する。
【0027】
ポンプ側シャフト230は、モータ310の駆動による軸動力や、燃料電池搭載車両10の慣性力により生じる軸動力をポンプ220に伝えるための回転軸であり、一方の端部は、ポンプ220と回転が連動するように構成され、他方の端部は、パワーサーバ250を介して電磁クラッチ240と接続されている。ポンプ側シャフト230は、電磁クラッチ240を介して、モータ310や車輪RWからの軸動力を伝達するトランスアクスル340から延びる駆動側シャフト341(図4参照)からの軸動力をポンプ220に伝える。また、ポンプ側シャフト230は、パワーサーバ250から得られる軸動力についても同様にポンプ220に伝える。回転計235は、ポンプ側シャフト230の回転数を検出する。燃料電池搭載車両10は、駆動側シャフト341(図4参照)の回転数を検出する図示しない回転計を備えている。
【0028】
電磁クラッチ240は、ポンプ側シャフト230と、駆動側シャフト341(図4参照)との接続/開放をおこなう。電磁クラッチ240は、電磁石によって、ポンプ側シャフト230と、駆動側シャフト341との接続/開放の切り換えをおこなう。
【0029】
パワーサーバ250は、モータ310の駆動や燃料電池搭載車両10の慣性力から得られる回転エネルギーを、自身が有する回転軸の回転エネルギーに変換する装置である。パワーサーバ250は、自身が有する回転軸の回転エネルギーを利用して、ポンプ側シャフト230に軸動力を提供することができる。パワーサーバ250の具体的な構成は、図4を用いて後述する。
【0030】
ECU350は、図示しないCPUや、メモリなどを備えたコンピュータである。ECU350は、回転計235や図示しないセンサ等からの信号を受領し、受領した信号に基づいて、燃料電池搭載車両10全体の制御をおこなう。ECU350は、例えば、ブレーキペダルが踏まれたことを検出すると、電磁クラッチ240に対して接続信号を送信してポンプ側シャフト230と駆動側シャフト341とを接続させる。また、回転計235から取得した信号に含まれる回転数が所定以下となったときに、電磁クラッチ240に対して開放信号を送信してポンプ側シャフト230と駆動側シャフト341との接続を解除させる。
【0031】
図2は、本実施例のポンプの概略構成を説明するための説明図である。ポンプ220は、噴射管221と、噴射管ケース222と、噴射口223とを備えている。噴射管221は、筒状の外形を備え、冷却タンク210の壁面211に固定された軸受511によって、軸方向が鉛直方向に沿うようにして回転可能に固定されている。噴射管221は、下端221beが冷却タンク210に貯留されている生成水waと接触し、上端221ueに噴射管ケース222が取り付けられている。噴射管221は、内部にスクリュ構造を備えている。
【0032】
噴射管ケース222は、噴射管221よりも径の大きい筒状の外形を有する筒状部222tと、筒状部222tと噴射口223との間に配置された漏斗状の外形を有する漏斗部222iとを備えている。噴射口223は、筒状の外形を備え、噴射管ケース222の筒状部222tと漏斗部222iの境界付近に配置されている。噴射口223の数は任意に設定することができる。
【0033】
上記構成によって、ポンプ220は、自身の回転することにより噴射管221の下端221beから吸い上げた生成水waを噴射口223から噴射(排出)することができる。具体的には、噴射管ケース222は、自身が回転することで、遠心力により内部の空気を噴射口223から噴射管ケース222の外部に排出する。これにより、噴射管ケース222の内部圧力Ppは、冷却タンク210の内部圧力Ptと比較して相対的に低圧となる。冷却タンク210の内部圧力Ppが冷却タンク210の内部圧力Ptよりも低圧になることにより、噴射管221の下端221beから吸い上げられた生成水waは上端221ueまで搬送される。噴射管221の上端221ueまで搬送された生成水waは、遠心力によって漏斗部222iを上昇し、噴射口223から噴射管ケース222の外部に排出される。
【0034】
以下にポンプ220の一例を示す。
(1)筒状部222tの半径r1=0.1m
(2)筒状部222tの高さh1=0.15m
(3)噴射管ケース222の容積=0.00471m3(3.14×r1×r1×h1)
(4)噴射管ケース222の内部の空気質量m=0.00471kg(空気1m3≒1kg)
(5)噴射管221の半径r2=0.03m
(6)噴射管221の高さh2=2m
【0035】
このポンプ220を、回転数RX=6700rpm、角速度ω=701rad/sec(2×3.14×RX/60)で回転させると、噴射管ケース222の内部の遠心力Fは、以下の式(1)から、F=232Nとなる。
F(N)=m(kg)×r1(m)×ω2(rad/sec) ・・・(1)
また、噴射管221の吐出圧Peは、以下の式(2)から、Pe=82(kPa−abs)となる。
Pe(kPa)=F(N)/π×r22・・(2)
【0036】
水は真空によって10mの高さまで吸い上げられることから、生成水waを噴射管221の高さh2(2m)まで吸い上げるためには、噴射管221の内部圧力Ppを202hPa(20kPa)以下とする必要がある。上述したように、噴射管221の回転数RXが6700rpm以上であれば、噴射管221の吐出圧Peが82(kPa−abs)以上となるため、噴射管221の内部圧力Ppが20kPa以下となり、生成水waを高さh2まで吸い上げることができる。
【0037】
図3は、本実施例の抵抗器および発熱面の概略構成を説明するための説明図である。図3は、抵抗器330と発熱面212を横から見た構成を模式的に示している。発熱面212は、ポンプ220側を上方側とする勾配のついた斜面状に構成されている。これにより、噴射口223から噴射された生成水は、発熱面212においてポンプ220から遠ざかる方向に移動しつつ加熱されて蒸発する。生成水waの蒸発により発熱面212は冷却され、発熱面212の冷却により抵抗器330が冷却される。気化した生成水waは、冷却タンク210の内部の空気によって冷却されて再度、液体となり、冷却タンク210の底部に貯留される。
【0038】
図4は、本実施例のパワーサーバの概略構成を説明するための説明図である。図4(a)は、パワーサーバ周辺の概略構成を説明するための説明図である。図4(b)は、パワーサーバ250を上方側から見た構成を例示した説明図である。図4(a)では、パワーサーバ250を構成する一部の図示を省略している。
【0039】
パワーサーバ250は、回転軸251と、回転ギア252と、羽部材253と、内部筺体254と、流体255と、球体256と、外部筺体257と、とを備えている。回転軸251は、上端部に接続された回転ギア252によって、ポンプ側シャフト230と回転が連動するように構成されている。回転軸251の下端部には、複数の羽部材253が放射状に取り付けられ、回転軸251の回転により円筒状の内部筺体254に収容された流体255を回転させるように構成されている。内部筺体254は、図4(b)に示すように、円筒状の外部筺体257の内側に配置され、外部筺体257の内周面と内部筺体254の外周面との間に複数の球体256が配置されている。この構成により、回転軸251と流体255の回転にともなって内部筺体254が回転したときに外部筺体257との間の摩擦抵抗を低減することができる。
【0040】
パワーサーバ250は、上記構成を備えることによって、モータ310の駆動や燃料電池搭載車両10の慣性力から得られる回転エネルギーを、回転軸251の回転エネルギーに変換する。具体的には、回転軸251は、自身の回転により、流体255や内部筺体254を回転させるため、回転時の慣性モーメントが大きくなるように構成されている。よって、モータ310の駆動により生じる軸動力や、燃料電池搭載車両10の慣性力による車輪RWの回転運動から得られる軸動力によって所定の慣性モーメントを有する回転軸251を回転させることで回転エネルギーを蓄えることができる。パワーサーバ250は、蓄えた回転エネルギーによってポンプ側シャフト230に軸動力を与え、ポンプ220を回転させることができる。
【0041】
以下にパワーサーバ250の一例を示す。内部筺体254の半径r3を0.5m、高さh3を0.2mとすると、容積は、0.157m3(3.14×r3×r3×h3)となる。流体255の比重を2とすると、内部筺体254の内部の流体255の質量Mfは314kgとなる。回転ギア252のギア比を、ポンプ側シャフト230:回転軸251=10:1とすると、ポンプ側シャフト230の回転数が6700rpmのとき、回転軸251の回転数は670rpm、角速度70rad/secとなる。このときの回転軸251の慣性モーメントIeは、以下の式(3)からIe=79kg・m2となる。
Ie=Mf×r32・・・(3)
また、回転エネルギーEeは、以下の式(4)からEe=193,022となる。
Ee=Ie×ω2/2・・・(4)
【0042】
ポンプ220の容積を0.005m3、生成水waの比重を1とすると、ポンプ220の内部の生成水waの質量Mwは4.7kgとなる。ポンプ220の回転数を6700rpm、角速度701rad/secとすると、ポンプ220の慣性モーメントIpは、式(3)からIp=0.05kg・m2となり、回転エネルギーEpは、式(4)からEp=11,581となる。パワーサーバ250の回転エネルギーEeとポンプ220の回転エネルギーEpとの比(Ee/Ep)からパワーサーバ250の回転持続時間を算出すると、パワーサーバ250は17秒程度継続してポンプ220を回転させることができる。
【0043】
図5は、本実施例の冷却システムの動作の流れを説明するための説明図である。燃料電池搭載車両10の走行時に運転者によってブレーキペダルが踏まれると(ステップS100)、ECU350は、電磁クラッチ240に対して接続信号を出力する(ステップS105)。このとき、モータ310によって発電がおこなわれ、生じた回生電流が、バッテリー320と抵抗器330に供給される。
【0044】
電磁クラッチ240は、ECU350から接続信号を受信すると、駆動側シャフト341とポンプ側シャフト230とを接続する(ステップS110)。駆動側シャフト341とポンプ側シャフト230とが接続されると、燃料電池搭載車両10の慣性力による車輪RWの回転運動から得られる軸動力によって、パワーサーバ250の回転軸251が回転する。回転軸251の回転にともなって内部筺体254の内部の流体255が回転することにより、燃料電池搭載車両10の運動エネルギーが回転軸251の回転エネルギーとして蓄積される(ステップS115)。また、ポンプ側シャフト230の回転と連動してポンプ220が回転する。
【0045】
ポンプ220が回転すると、噴射管ケース222の内部の空気は、遠心力によって噴射口223から排出される。これにより、噴射管ケース222の内部圧力Ppは、冷却タンク210の内部圧力Ptと比較して相対的に低圧となる(ステップS120)。冷却タンク210の内部圧力Ppが冷却タンク210の内部圧力Ptよりも低圧になると、噴射管221により冷却タンク210の底部に貯留されている生成水waが吸い上げられる。噴射管221によって吸い上げられた生成水waは、遠心力によって噴射口223から発熱面212に排出される(ステップS130)。
【0046】
発熱面212に生成水waが供給されると、生成水waの気化熱により抵抗器330が冷却される(ステップS135)。抵抗器330や発熱面212は、200℃以上の高温であるため、抵抗器330は、生成水waの気化熱により冷却される。発熱面212によって加熱されて気化した生成水waは、冷却タンク210の壁面等によって冷却され液化し、タンクの底部に貯水させる(ステップS140)。調圧バルブ215は、冷却タンク210の内部圧力Ptを検出し、内部圧力Ptが101kPa以上か否か判定する(ステップS145)。
【0047】
冷却タンク210の内部圧力Ptが101kPaより大きいとき(ステップS145:YES)、調圧バルブ215は、バルブを開放して生成水waの排出をおこなう(ステップS150)。一方、冷却タンク210の内部圧力Ptが101kPa以下のとき(ステップS145:NO)、調圧バルブ215は、バルブの開放をおこなわない。上記の燃料電池システム100による抵抗器330の冷却動作(ステップS120〜ステップS140)は、ポンプ側シャフト230が回転している限り継続される。
【0048】
ECU350は、駆動側シャフト341の回転数Ndとポンプ側シャフト230の回転数Npを継続して検出し、駆動側シャフト341の回転数Ndがポンプ側シャフト230の回転数Np以上(Nd≧Np)の間は、電磁クラッチ240によって、駆動側シャフト341とポンプ側シャフト230とを接続した状態を維持する。このときには、燃料電池搭載車両10の慣性力によって得られる駆動側シャフト341の軸動力によって、パワーサーバ250への回転エネルギーの蓄積(ステップS115)、および、ポンプ220の回転(ステップS120〜ステップS135)が継続される。
【0049】
燃料電池搭載車両10の減速により、駆動側シャフト341の回転数Ndがポンプ側シャフト230の回転数Npよりも小さくなると(Nd<Np)、ECU350は、電磁クラッチ240に対して開放信号を出力し、電磁クラッチ240を開放状態にする。このときには、パワーサーバ250からの軸動力によって、ポンプ220の回転(ステップS120〜ステップS135)が継続される。
【0050】
なお、ECU350は、ポンプ側シャフト230の回転数Npが0のときには、電磁クラッチ240を開放状態で維持する。これにより電磁クラッチ240による電力消費を抑制することができる。また、ECU350は、燃料電池搭載車両10の加速時など、燃料電池搭載車両10が制動時以外の状態のときには、電磁クラッチ240を開放状態で維持する。一方、ECU350は、燃料電池搭載車両10が制動時以外の状態であっても、抵抗器330の温度が耐用温度以上となった場合には、電磁クラッチ240に対して接続信号を出力して、駆動側シャフト341とポンプ側シャフト230とを接続する。これにより燃料電池搭載車両10の走行時においてもポンプ220により抵抗器330を冷却することができる。
【0051】
以上説明した、本実施例の冷却システムよれば、燃料電池搭載車両10の制動時に、燃料電池搭載車両10の慣性力を用いて抵抗器330を冷却するためのポンプ220を駆動させるため、抵抗器330を冷却するための電力を要しない。よって、燃料電池搭載車両10が走行時に消費する電力のうち、燃料電池搭載車両10の動力に使用される電力の割合を増やすことができるため、消費電力に対する走行効率の向上を図ることができる。
【0052】
上記実施例において、水1滴の質量を0.04g、水1gの蒸発で0.58kcalの熱が奪われるものとし、また、噴射口223から生成水waが1秒間に10滴噴射されるものとすると、本実施例の冷却システム200による熱吸収量(J)は、970J/secとなる。通常の冷却装置は、1Wの電力で1J/secの冷却能力があるものすると、本実施例の冷却システム200は、970W程度の冷却能力を有している。一方、従来の冷却方法では、抵抗器の表面積を0.25m2(0.5m×0.5m)、表面温度を200℃、外気温度を30℃とすると、熱吸収量(J)が600J/sec程度、冷却能力は600W程度となる。よって、本実施例の冷却システム200を使用することにより、冷却能力が1.6倍程度向上することがわかる。
【0053】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0054】
B−1.変形例1:
本実施例では、冷却システム200は、FCバスなどの大型の燃料電池搭載車両に搭載されるものとして説明したが、冷却システム200は、大型以外の燃料電池搭載車両に搭載されてもよい。また、冷却システム200は、発熱部を有する車両であれば、燃料電池を搭載していない電気駆動車両や、内燃機関を有する車両などに搭載されてもよい。
【0055】
B−2.変形例2:
図6は、変形例のポンプの概略構成を説明するための説明図である。本実施例では、ポンプ220は、遠心力によって内部の空気を排出することで噴射管221から生成水waを吸い上げて噴射口223から噴射する構成を備えているものとして説明した。しかし、ポンプは、回転によって生成水waを吸い上げる構成であれば、実施例で示した構成以外の構成を備えていてもよい。例えば、図6に示すポンプ720のように、内部にスクリュ構造を備える噴射管721を傾斜して配置し、ポンプ側シャフト230の回転によって噴射管721を回転させることにより、アルキメディアン・スクリュの原理で噴射管721の下端721beから水を汲み上げて上端721ueから発熱面212に向かって生成水waを排出する構成としてもよい。
【0056】
B−3.変形例3:
本実施例では、パワーサーバ250の流体255は、比重が一定の液体として説明したが、流体255は、印可される電圧によって粘性が変化するER流体(電気粘性流体)であってもよい。ER流体を使用することにより、回転軸251の回転開始時の粘性を下げることができるので、電磁クラッチ240を接続したときの衝撃を緩和することができる。
【0057】
B−4.変形例4:
本実施例では、パワーサーバ250は、流体255を備える構成として説明したが、燃料電池搭載車両10の運動エネルギーを回転軸251の回転エネルギーとして蓄積可能な構成であれば、フライホイールのように流体255を備えない構成としてもよい。
【符号の説明】
【0058】
10…燃料電池搭載車両
100…燃料電池システム
110…燃料電池
111…セル
120…水素タンク
121…水素ガス供給路
130…コンプレッサー
131…酸化ガス導入路
132…酸化ガス供給路
140…ラジエータ
141…冷却媒体流路
200…冷却システム
210…冷却タンク
211…壁面
212…発熱面
215…調圧バルブ
220…ポンプ
221…噴射管
222…噴射管ケース
223…噴射口
230…ポンプ側シャフト
235…回転計
240…電磁クラッチ
250…パワーサーバ
251…回転軸
252…回転ギア
253…羽部材
254…内部筺体
255…流体
256…球体
257…外部筺体
310…モータ
320…バッテリー
330…抵抗器
340…トランスアクスル
341…駆動側シャフト
350…ECU
511…軸受
720…ポンプ
721…噴射管
RW…車輪
wa…生成水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される発熱部を冷却するための冷却システムであって、
冷却水を収容するための冷却タンクと、
自身の回転によって前記冷却タンクの冷却水を吸い上げて前記発熱部に供給するためのポンプと、
所定の慣性モーメントを有する回転体を有する慣性装置と、
前記ポンプの回転と前記回転体の回転とを連動させるポンプ側回転軸と、
前記車両の駆動部と連動する駆動側回転軸と、
前記ポンプ側回転軸と前記駆動側回転軸との間に配置されるクラッチと、
前記クラッチの動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記車両の制動時に前記クラッチを接続して、前記車両の慣性力を用いて前記回転体および前記ポンプを回転させ、前記回転体が回転すると前記クラッチを開放して、前記回転体の回転エネルギーを用いて前記ポンプを回転させる、冷却システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−196014(P2012−196014A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56743(P2011−56743)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】