説明

冷却システムおよびその運転管理方法

【課題】冷却水循環型の冷却システムにおいて、補給水にスケール生成成分が混入する可能性がある場合にも、系内のスケール生成を効果的に抑制する。
【解決手段】系内を循環する循環水2の一部を試験水14として抽出し、補給水として用いる下水処理水7に混入し得るスケール生成成分を含有している海水16をその試験水14に添加し、海水16の添加量と、それを添加した試験水14中に溶解するスケール生成成分濃度との関係を取得し、その関係を用い、実際に循環水2が循環している系内のスケール生成リスクを判定する。これにより、下水への海水混入等によって下水処理水7にスケール生成成分が混入する可能性を考慮して、その系内のスケール生成リスクを把握することができ、そのような下水処理水7を補給水に用いる場合にも、系内のスケール生成を効果的に抑制することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却システムおよびその運転管理方法に関し、特に、冷却水を循環させて冷却を行う冷却システム、およびそのような冷却システムの運転管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電、石油精製、製鉄等の各種産業のプラントにおいては、工業用水等の冷却水を用いた冷却システムが不可欠である。現在広く利用されている冷却システムのひとつとしては、開放式冷却塔を用いたものがある。開放式冷却塔は、その上部から下部へと水を落とし、その間に大気と接触させることで、その水を冷却する装置である。冷却システムでは、通常、熱交換器等の対象物の冷却に用いられた水が、そのような冷却塔によって冷却されて、循環利用される。
【0003】
その場合、冷却塔においては、その冷却過程において冷却水(循環水)の一部が蒸発し、循環水が徐々に濃縮される。このような循環水の濃縮を伴う運転方法は、水の有効利用という観点等からは好ましい。しかし、その一方で、循環水が濃縮されることによって、その循環水中に含まれる塩類が濃縮され、冷却水が流通する配管内等にスケールが析出し、冷却性能の低下や配管の閉塞等の重大な障害が発生することがある。
【0004】
そのようなスケールの発生を回避するために、従来は、循環水や循環水として補給する補給水の電気伝導率や塩類のイオン濃度を測定し、循環水の濃縮倍率(補給水に対して何倍濃縮されているかを示す倍率)がスケール生成の許容値以下となるように循環水のブロー水量や補給水量の制御を行う方法や、分散剤やpH調整剤等の薬剤を循環水に添加する方法等が提案されている(特許文献1,2参照)。また、スケールの有無を検知する方法として、スケールの付着を確認すべき部分に所定のスケール検出器を設け、その目視観察によってスケールの付着状況を確認する方法や(特許文献3参照)、スケールが付着した場合に生じる熱抵抗の変化でスケールを検出する方法が提案されている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2002−282892号公報
【特許文献2】特開2004−177053号公報
【特許文献3】特開平07−253293号公報
【特許文献4】特開平08−015189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、上記のような開放式冷却塔を用いた冷却水循環型の冷却システムにおいては、その補給水に、水道水、工業用水、地下水等が用いられる。近年では、節水や省エネルギーの観点あるいは補給水のコスト削減の観点等から、下水等の排水を再生処理し、それを補給水として利用することも行われるようになってきている。
【0006】
しかし、そのような下水の集水エリアが沿岸部にあるような場合には、潮位の上昇等によって集水管が海水面以下になると、集水エリアに海水または海水を含んだ地下水が浸透して、集水エリアの下水に混入することが起こり得る。また、このような海水混入現象は、沿岸部の井水についても同様に起こり得る。
【0007】
海水には多種類の塩類が高濃度に含まれており、通常の下水処理では塩類の除去は行われないことから、下水に海水が混入すると、下水処理後の水(下水処理水)中の塩類濃度が突発的に増加することになる。海水が混入する可能性のある水を冷却システムの補給水に用いると、海水が混入したときには、冷却塔における循環水の冷却・濃縮に伴い、循環水中の塩類濃度が上昇し、スケールの生成リスクが増加することになる。
【0008】
従来補給水として用いられている水道水や工業用水等は、水質の変動は少ないことから、冷却システムの循環水中の塩類濃度は、その冷却塔での濃縮倍率から容易に予測することができる。したがって、濃縮倍率を所定の範囲内に制御することで、スケール生成を抑制することが可能である。また、水道水や工業用水等の場合、スケールを生成する成分もある程度わかっているため、そのような成分に対応した分散剤を用いてスケール生成を抑制することも可能である。
【0009】
一方、下水処理水は、従来の水道水や工業用水等と比較して水質の変動が大きい。また、下水処理水中には様々な塩類が溶解しており、そのような下水処理水が濃縮された場合に、それら塩類の相互作用によるスケール生成を予測することは困難である。加えて、前述のように下水に非定常的に海水が混入する場合には、その水質変動はさらに大きくなり、冷却塔での濃縮倍率の制御や、特定成分に対応した分散剤の添加のみでは、スケール生成を抑制することは困難である。
【0010】
また、地下水は、通常は水質変動が少ないが、それに海水が混入する可能性がある場合には、その塩類濃度が大きく変化することから、下水処理水の場合と同様、スケール生成を予測あるいは抑制することが困難である。
【0011】
なお、従来提案されているスケールの検知方法は、生成後のスケールを検知するものであり、スケールの生成を未然に防ぐ、冷却システムの予防的運転管理には不向きである。
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、スケール生成を効果的に抑制することのできる冷却システムおよびその運転管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、上記課題を解決するために、冷却水を循環させ、循環する前記冷却水の減少分を補給水によって補給する、冷却水循環型の冷却システムにおいて、系内を循環する前記冷却水の一部を抽出する手段と、抽出した前記冷却水に対し、前記補給水に混入し得る、スケールを生成する成分を添加し、前記成分の添加量と、添加した前記成分の前記冷却水中の濃度との関係を取得する手段と、取得した前記関係を用い、前記系内でスケールが生成するリスクを判定する手段と、を有することを特徴とする冷却システムが提供される。
【0013】
このような冷却システムによれば、系内を循環する冷却水の一部を定期的にサンプリングして、その冷却水に対して、補給水に混入し得る、スケールを生成する成分を添加して、そのような成分の混入によりスケール析出が起こり易い状態であるかを、把握できる。スケールが発生するまでの成分添加量が多いほど、スケールが発生しにくい循環水の状態であるので、スケール生成リスクが低いことになる。
【0014】
これにより、スケールを生成する成分が補給水に混入する可能性を考慮して、実際に冷却水を循環させている系が、スケール生成リスクの高い状態にあるのか、低い状態にあるのかが把握されるようになる。
【0015】
また、本発明では、上記課題を解決するために、冷却水を循環させ、循環する前記冷却水の減少分を補給水によって補給する、冷却水循環型の冷却システムの運転管理方法において、系内を循環する前記冷却水の一部を抽出し、抽出した前記冷却水に対し、前記補給水に混入し得る、スケールを生成する成分を添加し、前記成分の量と、添加した前記成分の前記冷却水中の濃度との関係を取得し、取得した前記関係を用い、前記系内でスケールが生成するリスクを判定する、ことを特徴とする冷却システムの運転管理方法が提供される。
【0016】
このような冷却システムの運転管理方法によれば、スケールを生成する成分が補給水に混入する可能性を考慮して、実際に冷却水を循環させている系が、スケール生成リスクの高い状態にあるのか、低い状態にあるのかが把握されるようになる。
【0017】
すなわち、あらかじめ、注目するスケール生成成分をサンプリングした循環冷却水中に添加することで、析出が開始される添加量の管理基準値(例えば、スケール生成成分が海水の場合は、海水の添加量あるいは電気伝導率の管理基準値C0と記載)を決めておく。
【0018】
そして、この基準値の量までは、スケール生成成分の混入が起こっても直ちにスケール発生が起こることが無いので、そのままの状態で運転を継続できる許容量となる。
循環水をサンプリングして、スケール生成成分を添加しながら、スケール発生ポイントを調べる。
【0019】
スケール発生が起こるスケール生成成分添加量が、管理基準値より多い状態であれば、循環水はそのままの状態で運転して良いと判断する。
管理基準値より少ないスケール生成成分添加量で、スケールの発生が起こる場合は、設定した許容量よりも少量のスケール生成成分混入でスケール析出が起こる危険性があるので、循環水のブロー水量を増やし補給水供給量を増やすことで、循環水中のスケール生成成分濃度を下げる等の措置を施すものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、系内を循環する冷却水の一部を抽出し、その冷却水に対して、補給水に混入し得る、スケールを生成する成分を添加し、その添加量と、添加した冷却水中に溶解するその成分の濃度との関係を取得し、その関係を用いて、その系内のスケール生成リスクを判定するようにした。これにより、スケールを生成する成分が補給水に混入する可能性を考慮して、その系内のスケール生成リスクを把握することができるようになる。したがって、そのような成分が混入し得る補給水を用いる場合であっても、スケール生成を効果的に抑制することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は冷却システムの構成例を示す図である。
図1に示す冷却システム1は、冷却水循環型のシステムであり、冷却水(循環水)2を熱交換器3に流通させ、熱交換器3通過後の循環水2を冷却塔4によって冷却し、それを再び熱交換器3に流通させる構成になっている。
【0022】
冷却塔4には、開放式冷却塔が用いられ、冷却塔4から循環水ポンプ5を用いて熱交換器3へ送られた後に再び冷却塔4に戻された循環水2は、冷却塔4の上部から下部へと落ちる間に大気と接触して冷却されるようになっている。その際、循環水2は、その一部が蒸発し、濃縮される。
【0023】
冷却塔4には、内部の循環水2を排出するためのブロー弁6が設けられている。また、冷却塔4には、循環水2が循環する系内におけるその循環水2の減少分、例えばブロー弁6によって排出した量や冷却塔4で蒸発した量を補うための補給水が供給されるようになっている。
【0024】
この冷却システム1では、そのような補給水として、下水処理水7が用いられるようになっていて、下水処理後の下水処理水7が補給水水槽8に貯留されている。補給水水槽8内の下水処理水7は、補給水ポンプ9を用い、補給水弁10を備えたラインを通って冷却塔4内に供給されるようになっており、それにより、系内の循環水2と混合される。
【0025】
下水処理水7は、前述のように、水道水等と比較して水質変動が大きく、また、下水の集水エリアが沿岸部にあるような場合には、集まった下水に海水が混入することがあり、下水処理の際に塩類の除去を行わなければ、下水処理水7の塩類濃度が増加する。本実施例における冷却システム1では、このように海水等のスケール生成成分が混入する可能性のある下水を処理して得られる下水処理水7が、補給水として用いられる。
【0026】
なお、補給水水槽8には、水道水等の清浄な水を供給することもできるようになっている。冷却システム1では、下水処理水7が貯留されている補給水水槽8に対して清浄な水を供給することにより、補給水水槽8内のスケール生成成分濃度(海水の場合は塩類濃度)を希釈することが可能になっている。
【0027】
また、この冷却システム1は、冷却塔4内の循環水2の一部を採水するための、試験水ポンプ11および試験水弁12が設けられた採水ライン13を有している。採水された循環水2の一部(試験水)14は、このような採水ライン13を通って、海水ポンプ15を用いて海水16を添加することができるようにした海水添加槽17に供給されるようになっている。
【0028】
海水16は、補給水水槽8の下水処理水7に混入する可能性のある、カルシウム、マグネシウム、シリカ、亜鉛、リン酸、硫酸等、循環水2が循環する系内にスケールを生成する溶解性成分(スケール生成成分)を試験水14に添加する目的で用いられる。なお、海水16は、下水処理水7に用いる下水に実際に混入し得るものと同じものが好ましいが、水質の変動が少なく採取しやすい場所のものを用いることもできる。
【0029】
海水16が添加される海水添加槽17には、そこに一定量の試験水14を貯留するためのレベルセンサ18、および試験水14(海水16が添加されたものを含む。)を撹拌するための撹拌機19が設けられている。さらに、この海水添加槽17には、試験水14に完全に浸漬される位置に、金属性の管20が設けられており、その管20内には、恒温水循環装置21によって熱交換器3における高温水と同じ水温の液体が流通されるようになっている。
【0030】
なお、このような管20および恒温水循環装置21に替えて、海水添加槽17内に、外表面が金属性のヒータを挿入し、そのヒータ表面が熱交換器3における高温水が流れる配管温度と同じになるように加温を行ってもよい。
【0031】
海水添加槽17内の試験水14の一部は、そこに溶解するスケール生成成分の濃度を測定するための濃度計22に供給されるようになっている。また、海水添加槽17には、海水添加槽17内の試験水14を排出するためのドレンバルブ23が設けられている。
【0032】
また、冷却システム1は、海水添加槽17に添加した海水16の量と、濃度計22により測定されたスケール生成成分濃度を用い、海水16の添加量とスケール生成成分濃度の関係を取得し、その関係を基に系内のスケール生成リスクを判定するリスク判定処理部24を有している。換言すれば、リスク判定処理部24は、試験水14に対するスケール生成成分の添加量(海水16の添加量に対応。)と、試験水14中に溶解しているスケール生成成分の濃度との関係を取得し、その関係を基に系内のスケール生成リスクを判定する。
【0033】
このリスク判定処理部24での判定に用いられる海水16の添加量は、例えば、海水ポンプ15に定流量ポンプを使用し、海水添加槽17への海水16の添加時間から算出される。あるいは、海水16の添加量は、海水添加槽17内に電気伝導率計(図示せず。)を設け、海水16添加前後の試験水14の電気伝導率と、あらかじめ測定しておいた海水16の電気伝導率を用いて、海水16の添加による電気伝導率の変化から算出される。なお、これらの算出機能は、リスク判定処理部24が備える構成とすることができる。また、海水16の添加量として、そのようにして測定される電気伝導率自体を用いるようにしてもよい。
【0034】
続いて、上記のような構成を有する冷却システム1の運転の流れについて述べる。
まず、補給水水槽8の下水処理水7が冷却塔4に供給される。冷却塔4の下部の循環水2は、循環水ポンプ5を用いて熱交換器3へと送られ、熱交換器3を通過後、冷却塔4の上部へと戻される。熱交換器3では、循環水2の通過により、熱交換器3を流れる高温水が冷却される。また、冷却塔4では、その上部に戻された熱交換器3通過後の循環水2が下部へと落ちる間に冷却・濃縮される。
【0035】
そのような濃縮に伴う循環水2の減少分は、補給水水槽8の下水処理水7を補給することによって補われる。ただし、循環水2の減少分を下水処理水7によって補給するのみでは、循環水2のスケール生成成分濃度が高まっていき、循環水2が循環する系内にスケールが生成しやすくなる。そのため、下水処理水7の補給時には、一定量の循環水2がブロー弁6から排出され、その排出分と濃縮に伴う減少分を補う量の下水処理水7が補給されることで、系内の循環水2の水量がコントロールされると共に、循環水2の濃縮倍率がコントロールされる。
【0036】
冷却システム1では、循環水2が循環する系について、1日1回あるいは数時間ごと等、適当なタイミングで、そのスケール生成リスクが高い状態にあるのか、低い状態にあるのかが判定され、その結果を基に、運転管理が行われる。
【0037】
そのような運転管理を行うため、冷却システム1は、まず、冷却塔4の下部に貯まっている循環水2の一部を、所定のタイミングで、試験水ポンプ11を用いて採水ライン13から海水添加槽17に試験水14として抽出する。
【0038】
その際は、試験水14の水位をレベルセンサ18で検知し、海水添加槽17が一定量の循環水2で満たされたら、試験水弁12を閉止し、試験水ポンプ11を停止して、海水添加槽17への循環水2の供給を停止する。供給停止後、海水添加槽17内の試験水14は、撹拌機19によって撹拌する。撹拌時には、その試験水14を、例えば恒温水循環装置21によって所定温度の液体が流れる管20により、熱交換器3を通過する循環水2と同等の温度状態にする。
【0039】
そして、海水添加槽17の試験水14の一部を濃度計22に供給し、そのスケール生成成分の濃度を測定する。また、必要に応じ、海水添加槽17内に電気伝導率計を設け、このときの試験水14の電気伝導率を測定する。試験水14のスケール生成成分の濃度測定値、あるいは試験水14の電気伝導率の測定値は、リスク判定処理部24へと送られる。
【0040】
次いで、海水添加槽17の試験水14に対し、例えば定流量で送液が可能な海水ポンプ15を用い、補給水水槽8の下水処理水7に混入し得るスケール生成成分を含んだ海水16を添加していき、それにより、試験水14に対してスケール生成成分を添加していく。さらに、その間、海水16が添加された試験水14の一部を濃度計22に供給していき、そのスケール生成成分の濃度を連続的に測定していく。また、必要に応じ、海水添加槽17内に設けた電気伝導率計により、海水16を添加していったときの試験水14の電気伝導率を連続的に測定していく。試験水14のスケール生成成分の各濃度測定値、あるいは試験水14の電気伝導率の各測定値は、リスク判定処理部24へと送られる。
【0041】
なお、海水16の添加前後の試験水14に含まれるスケール生成成分は、通常は複数種であり、濃度計22でのスケール生成成分の濃度測定では、それらの成分の濃度をすべて測定することが好ましい。ただし、必要に応じて、特定のスケール生成成分のみの濃度を測定するようにしてもよい。
【0042】
試験水14のスケール生成成分(溶解性)の濃度は、海水16の添加すなわちスケール生成成分の添加に伴って変化する。
図2および図3は海水添加量とスケール生成成分濃度の関係の例を示す図である。図2および図3において、横軸は海水16の添加量(添加した海水16の液量(実際に添加した量、または電気伝導率から求めた量。)、または海水16を添加した試験水14の電気伝導率自体。)を表し、縦軸はスケール生成成分の濃度を表している。
【0043】
図2の場合、スケール生成成分Xの濃度は、海水16を添加していくと、ある添加量C1までは増加していき、以後、一定となる。また、スケール生成成分Y,Zの濃度は、海水16の添加量増加に伴って増加していく。スケール生成成分Xのように、ある添加量C1に達した時点でその濃度が一定になる場合には、その時点からスケールが生成し始めていると言うことができる。
【0044】
また、図3の場合は、スケール生成成分Xの濃度は、海水16を添加していくと、ある添加量C2までは増加していき、以後、一定となる。また、スケール生成成分Yの濃度は、海水16の添加量増加に伴って増加していく。また、スケール生成成分Zの濃度は、ある添加量C2までは増加していき、以後、減少する。スケール生成成分X,Zのように、ある添加量C2に達した時点でその濃度が一定になる、あるいは減少する場合には、その時点からスケールが生成し始めていると言うことができる。
【0045】
冷却システム1のリスク判定処理部24は、海水16の添加量、およびスケール生成成分濃度の測定値を用い、まず、この図2および図3のような関係を取得する。そして、液中に溶解しているスケール生成成分の濃度増加が飽和した時点(濃度が一定あるいは減少し始める時点)の海水16の添加量を特定し、その特定した添加量を基に、試験水14のスケール生成リスク、すなわち循環水2が循環している系内のスケール生成リスクを判定する。
【0046】
その際は、海水16の添加量について、あらかじめ基準値(管理基準値)C0を設定しておき、リスク判定処理部24は、例えば図2に示したように、スケール生成成分の濃度変化から特定した添加量C1が管理基準値C0より高い場合には、循環水2が循環している系内に下水処理水7からスケール生成成分が混入しても直ちにスケールが生成される可能性は低いとして、その系内のスケール生成リスクが低い状態にあると判定する。
【0047】
また、リスク判定処理部24は、例えば図3に示したように、スケール生成成分の濃度変化から特定した添加量C2が管理基準値C0より低い場合には、循環水2が循環している系内に下水処理水7からスケール生成成分が混入するとスケールが生成される可能性が高いとして、その系内のスケール生成リスクが高い状態にあると判定する。
【0048】
なお、このようなスケール生成リスクの判定に用いる管理基準値C0は、冷却システム1の運転条件や運転管理基準、冷却システム1が適用されるプラントの運転条件や運転管理基準等に基づいて設定される。
【0049】
上記のような海水16の添加試験により、スケール生成リスクが低い状態にあると判定された場合、冷却システム1は、そのまま運転を継続する。一方、スケール生成リスクが高い状態にあると判定された場合には、冷却システム1は、系内を循環する循環水2の濃縮倍率を下げるような処理を実行する。
【0050】
例えば、そのようにスケール生成リスクが高いと判定された場合に、冷却システム1は、冷却塔4のブロー弁6を開いて循環水2の一部を排出し、さらに、補給水弁10を開いて下水処理水7を補給することで、系内を循環する循環水2の濃縮倍率を下げ、スケール生成リスクを低減する。その際、たとえ補給する下水処理水7にスケール生成成分が混入していたとしても、そのような混入の可能性は、スケール生成リスクの判定に海水16を用いたことですでに考慮されている。なお、一般的には、系内における循環水2は、一定の水量に管理される。
【0051】
また、スケール生成リスクが高いと判定された場合に、冷却システム1は、補給水水槽8の下水処理水7に水道水等の清浄な水を添加して希釈することで、補給水として用いる下水処理水7のスケール生成成分濃度を下げ、スケール生成を予防するようにしてもよい。さらにまた、冷却塔4への補給前の下水処理水7に対し、イオン交換樹脂を用いたイオン交換処理等の前処理を行い(図示せず。)、下水処理水7のスケール生成成分濃度を下げ、スケール生成を予防するようにしてもよい。
【0052】
上記のような海水16の添加試験による冷却システム1の運転管理は、少なくとも1日1回行うのが好ましく、数時間ごとあるいは連続的に行うことがより好ましい。海水16の添加試験終了後は、海水ポンプ15を停止して海水16の添加を止めると共に、撹拌機19を停止し、ドレンバルブ23を開いて海水添加槽17から試験水14を排出する。
【0053】
なお、以上述べたような冷却システム1を構成する各要素の処理動作や、冷却システム1の運転管理は、コンピュータ(図示せず。)を用いて制御することができる。
また、冷却システム1の運転管理は、次のようにして行うこともできる。すなわち、採水ライン13から循環水2の一定量(例えば1L)をビーカ等のガラスあるいは金属製の容器に量り取り、それを試験水とする。その試験水に、スターラあるいは撹拌翼等による撹拌と、所定の加温を行いながら、あらかじめ採取しておいた海水を一定量ずつ添加していく。その間、その試験水中のスケール生成成分の濃度を測定していき、海水添加量とスケール生成成分濃度との関係を取得し、スケール生成が始まる時点の海水添加量を特定する。そして、特定した海水添加量とその管理基準値との比較を行い、循環水2が循環している系内のスケール生成リスクを判定すればよい。
【0054】
なお、冷却システム1では、循環水2による冷却対象物として熱交換器3を用いた場合を例示したが、勿論、そのような冷却対象物は熱交換器3に限定されるものではない。
以上説明したように、海水等によってスケール生成成分が非定常的に混入する下水処理水等の水を補給水として利用する冷却システムの運転管理を行うために、実際にその系内を循環している循環水を用い、その混入し得るスケール生成成分を含有する海水等の水の添加試験を行い、その添加量を基にその系内のスケール生成リスクを判定する。そして、その判定結果から、その系内を循環する循環水の濃縮倍率の変更や、補給水の水質制御等を行う。これにより、水質変動のある補給水を用いる場合であっても、系内のスケール生成を抑制する運転管理を容易かつ確実に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】冷却システムの構成例を示す図である。
【図2】海水添加量とスケール生成成分濃度の関係の例を示す図(その1)である。
【図3】海水添加量とスケール生成成分濃度の関係の例を示す図(その2)である。
【符号の説明】
【0056】
1 冷却システム
2 循環水
3 熱交換器
4 冷却塔
5 循環水ポンプ
6 ブロー弁
7 下水処理水
8 補給水水槽
9 補給水ポンプ
10 補給水弁
11 試験水ポンプ
12 試験水弁
13 採水ライン
14 試験水
15 海水ポンプ
16 海水
17 海水添加槽
18 レベルセンサ
19 撹拌機
20 管
21 恒温水循環装置
22 濃度計
23 ドレンバルブ
24 リスク判定処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水を循環させ、循環する前記冷却水の減少分を補給水によって補給する、冷却水循環型の冷却システムにおいて、
系内を循環する前記冷却水の一部を抽出する手段と、
抽出した前記冷却水に対し、前記補給水に混入し得る、スケールを生成する成分を添加し、前記成分の添加量と、添加した前記成分の前記冷却水中の濃度との関係を取得する手段と、
取得した前記関係を用い、前記系内でスケールが生成するリスクを判定する手段と、
を有することを特徴とする冷却システム。
【請求項2】
前記リスクを判定する手段は、添加した前記成分の前記冷却水中の濃度が飽和あるいは増加が減少に転じた時点の前記添加量を、前記系によりあらかじめ設定された前記成分添加量としての基準値と比較し、前記成分の濃度が前記飽和あるいは増加が減少に転じた時の添加量と前記基準値との大小関係によって、前記リスクを判定することを特徴とする請求項1記載の冷却システム。
【請求項3】
冷却水を循環させ、循環する前記冷却水の減少分を補給水によって補給する、冷却水循環型の冷却システムの運転管理方法において、
系内を循環する前記冷却水の一部を抽出し、
抽出した前記冷却水に対し、前記補給水に混入し得る、スケールを生成する成分を添加し、前記成分の添加量と、添加した前記成分の前記冷却水中の濃度との関係を取得し、
取得した前記関係を用い、前記系内でスケールが生成するリスクを判定する、
ことを特徴とする冷却システムの運転管理方法。
【請求項4】
前記リスクを判定する際には、添加した前記成分の前記冷却水中の濃度が飽和あるいは増加が減少に転じた時点の前記添加量を、前記系によりあらかじめ設定された前記成分添加量としての基準値と比較し、前記成分の濃度が前記飽和あるいは増加が減少に転じた時の添加量と前記基準値との大小関係によって、前記リスクを判定することを特徴とする請求項3記載の冷却システムの運転管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−309370(P2008−309370A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156045(P2007−156045)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)