説明

冷却器用クラッド材および発熱素子用冷却器

【課題】良好なプレス成形性を有し、冷却器の天板形状に精度よく成形でき、冷却器を構成する各部とのろう付に十分量のろう材を供給でき、さらに、天板として優れた耐食性を発揮し、腐食孔の発生が抑えられる冷却器用クラッド材およびこの冷却器用クラッド材を用いた発熱素子用冷却器を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の冷却器用クラッド材20は、芯材21と、該芯材21の一方の面(冷却水の通路4側となる表面)を被覆する第1のろう材層22と、他方の面(冷却水の通路4と反対側となる表面)を被覆する第2のろう材層とを有する3層構成のクラッド素材を、3〜10%のひずみ付加を実施するか、あるいは10〜25%の最終圧延率で圧延し、必要により150〜400℃で1〜8時間の熱処理を施したクラッド材であり、ろう付前後においての特性項目が所定範囲に規定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車やハイブリッド自動車、各種電子機器回路等に搭載され、例えば半導体素子等の発熱素子を冷却する冷却器に適用される冷却器用クラッド材、および、この冷却器用クラッド材を用いた発熱素子用冷却器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車、各種電子機器回路には、半導体素子のような発熱素子を冷却する冷却器が搭載される。
このような冷却器としては、被冷却体が取り付けられるアルミニウム合金板からなる天板と、該天板との間に冷却水の通路を画成するアルミニウム合金板からなる底板と、これらアルミニウム合金板どうしの間に収容されたインナフィンとが互いにろう付されて構成され、冷却水の通路内を流れる冷却水と被冷却体との熱交換によって被冷却体を冷却する、いわゆる水冷方式のものが知られている。この冷却器では、冷却水と被冷却体との熱交換効率を高めるため、被冷却体が取り付けられる天板は、底板よりも十分薄く形成される。また、近年では、天板に、半導体素子(被冷却体)が接合される絶縁回路用基板(冷却素子基板)を取り付けたものも開発されている。この絶縁回路用基板は、AlNやSiなどの熱伝導絶縁セラミックスの両面に純アルミニウム等の金属板を貼り合わせたものであり、半導体素子と天板とを絶縁しつつ、半導体素子が発生する熱を天板に伝導させて冷却する機能がある。
【0003】
ところで、近年の環境志向の高まりから、自動車の軽量化が図られており、これに搭載される冷却器についても各構成部材の薄肉化が進行している。その一方で、半導体素子等の発熱量はより大きくなっており、これを冷却する冷却器に対しては、より大きな冷却性能が求められるようになっている。
このような背景において、以下の特許文献1に記載されている如く、半導体素子が薄板状のヒートシンクに金属板を介し当接させて装着され、該ヒートシンクを仕切壁にて複数の冷媒通路に区分けして構成された冷却器の構造が知られている。
【0004】
ここで、この種の冷却器の冷却性能を高めるには、冷却水を流すことが必要である。しかし、冷却水を流すと、冷却器の構成部材にとって厳しい腐食環境となり、特に薄肉化された天板では、冷却水の通路側からの腐食が板厚方向を貫通し、早期に腐食孔が形成されてしまう。このため、冷却器の薄肉化と冷却性能の向上を同時に達成するには、特に、天板の耐食性を改善することが必須となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−16295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の冷却器の天板用素材は、成形性との兼ね合いから耐食性を改善するのが難しく、冷却水を流す構造とした場合、薄い天板の耐食性向上には十分に対応できていないのが実情である。
すなわち、前述のような冷却器では、天板の素材として、例えばアルミニウム合金板の少なくとも一方の面(冷却水の通路側となる表面)に、Al−Si系ろう材をクラッドしたクラッド材が用いられ、これを所定の形状にプレス成形したものが天板として用いられる。クラッド材には、伸びが大きく、強度が小さいといったプレス成形に適した特性を有することから、展伸材を焼鈍した質別JIS規定のO材が用いられる。
【0007】
ここで、クラッド材を用いた冷却器の製造工程では、ろう付の昇温過程で芯材が再結晶するが、クラッド材が質別O材の場合、そのプレス成形による加工量の少ない領域では、再結晶が不完全となって亜結晶粒が残留する。このため、その後、溶融したろう材が亜結晶粒界に優先的に侵入する、いわゆるエロージョン(侵食)が発生する。
【0008】
ろう材が芯材を侵食すると、これにろう材の一部が消費されるため、底板やインナフィンとのろう付に供されるろう材量が不足し、十分な接合強度が得られないといった不都合が生じる。
また、天板の冷却水の通路側からの腐食は、ろう材組織から優先的に進行するため、芯材がろう材によって侵食されていると腐食が早期に深さ方向に進行するおそれがある。また、ろう材にZn等を添加して犠牲防食層としての機能を付与する構造とした場合であっても、防食効果が満足に得られず、優れた耐食性を得ることが難しい問題があった。
【0009】
また、天板の素材としては、芯材の一方の面(冷却水の通路側となる表面)に犠牲防食材がクラッドされ、他方の面にろう材がクラッドされた3層構成の質別O材も提案されている。
しかし、この構造のクラッド材であっても、他方の面にクラッドされたろう材が芯材を侵食するため、冷却水の通路側から深さ方向に進行した腐食が、他方の側からのろう侵食部に到達したところで腐食の進行が速くなり、やはり早期に腐食孔が発生してしまうおそれがある。
このように、天板の素材として質別O材を用いると、良好なプレス成形性が得られる反面、天板の耐食性を上げることが難しいという問題がある。
【0010】
さらに、天板の素材としては、質別O材以外にも、各種アルミニウム合金系クラッド材が用いられるが、いずれにおいても、下記の理由から腐食孔が発生し易い。
すなわち、冷却器の製造工程では、ろう付接合を行う前に、各部の被接合部どうしを仮止めする仮止め工程が行われる。例えば、プレス成形によって得られた天板に、レーザ溶接によって絶縁回路用基板を仮止めした後、天板、底板およびインナフィンを組み立て、その被接合部どうしを、レーザ溶接にて仮止めする。
【0011】
ここで、このレーザ溶接で過大な入熱が付与されて溶融面積が広がると、その溶接部は電気化学的に卑になるため腐食が進行し易く、腐食孔発生の原因となる。これを避けるには、付与される入熱量を、できるだけ小さくすることが必要であるが、アルミニウム合金は材料表面でレーザを反射するため、溶接初期に急激に材料が溶解し、入熱量が過大になり易い。このため、アルミニウム合金系クラッド材を天板として用いると、レーザ溶接による溶接部から深さ方向への腐食によって腐食孔が早期に発生してしまうおそれがあった。
【0012】
本発明は、これら問題を解決するためになされたものであり、良好なプレス成形性を有し、冷却器の天板形状に精度よく成形することができるとともに、冷却器を構成する他の各部とのろう付に十分量のろう材を供給することができ、さらに、天板として優れた耐食性を発揮し、腐食孔の発生が抑えられる冷却器用クラッド材、および、この冷却器用クラッド材を用いた発熱素子用冷却器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが、天板の素材となるクラッド材のプレス成形性、ろう付性および耐食性を改善すべく検討を行った結果、最終圧延率およびろう付前後での特性項目を規定することにより、これらの特性が同時に向上するとの知見を得るに至った。
本発明は、かかる知見に基づいて成されたものであって、以下の構成を有する。
【0014】
本発明の冷却器用クラッド材は、芯材と、該芯材の一方の面を被覆する第1のろう材層と、該芯材の他方の面を被覆する第2のろう材層とを有する3層構成のクラッド素材を、10〜25%の最終圧延率で圧延加工してなり、
発熱素子用冷却器を構成する他の各部と、前記第1のろう材層側を作動流体通路側としてろう付される冷却器用クラッド材であって、前記芯材は、Mn、Cu、Siを下記の含有量で含有するとともに、Fe、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種または2種以上を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成され、
Mn:0.4〜1.5質量%、Cu:0.05〜0.8質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Fe:0.05〜0.5質量%、Ti:0.05〜0.20質量%、Zr:0.05〜0.15質量%、
前記第1のろう材層は、SiおよびZnを下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材によって構成されており、
Si:4.5〜11.0質量%、Zn:0.5〜5.0質量%、
前記第2のろう材層は、Siを下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材によって構成されており、Si:6.5〜12.6質量%、
前記冷却器を構成する他の各部とのろう付前において、伸びが10%以上、前記芯材の平均結晶粒径が10〜100μm、前記第1のろう材層および前記第2のろう材層に含まれるSi粒子の平均粒径(円相当径)が1.8μm未満であり、前記冷却器を構成する他の各部とのろう付後において、前記第1のろう材層表面と前記芯材との電位差が50mV以上、前記冷却器用クラッド材全厚に対する前記芯材の割合t/T(%)が下記式を満たすことを特徴とする。
/T(%)≧85%・・・式
T:冷却器用クラッド材の全厚、t:芯材の厚さ
【0015】
また、本発明の冷却器用クラッド材は、芯材と、該芯材の一方の面を被覆する犠牲材層と、該芯材の他方の面を被覆するろう材層とを有する3層構成のクラッド素材を、3〜10%のひずみ付加を実施するか、10〜25%の最終圧延率で圧延加工してなり、
発熱素子用冷却器を構成する他の各部と、前記犠牲材層側を作動流体通路側としてろう付される冷却器用クラッド材であって、前記芯材は、Mn、Cu、Siを下記の含有量で含有するとともに、Fe、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種または2種以上を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成され、
Mn:0.4〜1.5質量%、Cu:0.05〜0.8質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Fe:0.05〜0.5質量%、Ti:0.05〜0.20質量%、Zr:0.05〜0.15質量%、
前記犠牲材層は、Znを下記の含有量で含有するとともに、Si、Fe、Mn、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるAl合金系犠牲材によって構成されており、
Zn:0.5〜5.0質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Fe:0.05〜0.5質量%、Mn:0.05〜1.1質量%、Ti:0.05〜0.20質量%、Zr:0.05〜0.15質量%、
前記ろう材層は、Siを下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材によって構成されており、Si:6.5〜12.6質量%、
前記冷却器を構成する他の各部とのろう付前において、伸びが10%以上、前記芯材の平均結晶粒径が10〜100μm、前記ろう材層に含まれるSi粒子の平均粒径(円相当径)が1.8μm未満であり、前記冷却器を構成する他の各部とのろう付後において、前記犠牲材層表面と前記芯材との電位差が50mV以上、前記冷却器用クラッド材全厚に対する前記芯材の割合t/T(%)が下記式を満たすことを特徴とする。
/T(%)≧85%・・・式
T:冷却器用クラッド材の全厚、t:芯材の厚さ
【0016】
また、本発明において、3層構成のクラッド素材は、3〜10%のひずみ付加前、あるいは10〜25%の最終圧延前の焼鈍を昇温速度100〜10000℃/分で300℃〜550℃に昇温し、この温度で1秒〜4時間保持した後、冷却する焼純が施されたことを特徴とする。
本発明において、3層構造のクラッド素材は、3〜10%のひずみ付加後、あるいは10〜25%の最終圧延後に150〜400℃で1〜8時間保持の熱処理が施されたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の発熱素子用冷却器は、本発明の冷却器用クラッド材をプレス成形して得た天板と、該天板との間に作動流体通路を画成するように配設され、該天板よりも板厚の厚い底板と、前記天板と前記底板との間に収容されたインナフィンとを有し、これら各部の被接合部どうしがろう付されて構成され、前記天板の前記作動流体通路と反対側に取り付けられる発熱素子を、前記作動流体通路内を流動する冷却水との熱交換によって冷却することを特徴とする。
【0018】
また、本発明において、前記天板の前記作動流体通路と反対側の面に、前記発熱素子が接合される冷却素子用基板がろう付されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、冷却器用クラッド材は、芯材と、該芯材の一方の面(作動流体通路側となる表面)を被覆する第1のろう材層もしくは犠牲材層と、他方の面を被覆するろう材層とを有する3層構成のクラッド素材を、10〜25%の最終圧延率で圧延して構成され、ろう付前後での特性項目が所定範囲に規定されているため、良好なプレス成形性を有し、天板形状に精度よくプレス成形することができる。
【0020】
また、この冷却器用クラッド材では、レーザ溶接による仮止め工程で、入熱による溶融面積を小さく抑えることができるとともに、ろう付工程での昇温過程で、プレス成形による加工量が少ない領域と加工量が多い領域の双方で、芯材を確実に再結晶させることができるため、ろう材の芯材への侵食が抑えられ、被接合部どうしのろう付に十分量のろう材を供給することが可能である。さらに、作動流体通路側の表面付近に、電位勾配を有しており、これが犠牲陽極効果による防食性を発揮する。したがって、レーザ溶接部やろう材侵食に起因する腐食の進行が抑えられ、冷却器の天板として優れた耐食性が得られる。
【0021】
また、本発明によれば、発熱素子用冷却器は、このような冷却器用クラッド材を天板の素材として用いるため、冷却器を構成する各部の被接合部どうしおよび天板と冷却素子基板とが確実にろう付接合され、また、天板においてレーザ溶接部やろう材侵食に起因する腐食の進行が抑えられ、優れた耐食性が得られる。このため、冷却水を高速で流した場合でも腐食孔の発生を抑えることができ、さらなる冷却性能の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の冷却器用クラッド材を適用した発熱素子用冷却器(本発明の発熱素子用冷却器)の第1実施形態を示す概略縦断面図である。
【図2】図1に示す発熱素子用冷却器において、天板の素材として用いられる冷却器用クラッド材の一例を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施形態について説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の冷却器用クラッド材を適用した発熱素子用冷却器(本発明の発熱素子用冷却器)の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の冷却器用クラッド材を適用した発熱素子用冷却器の第1実施形態を示す概略縦断面図、図2は、図1に示す発熱素子用冷却器において、天板の素材として用いられる冷却器用クラッド材の一例を示す概略縦断面図である。
【0024】
図1に示す発熱素子用冷却器(以下、単に「冷却器」と言う。)10は、断面凹型に加工した部分を面方向に複数連結した形状の底板1と、底板1の凹型の部分に収容されたインナフィン3と、天板2とがこの順に積層され、底板1および天板2が有する各ろう材層12、22により、底板1および天板2の被接合部13、23どうし、および、各表面1a、2aとインナフィン3とがろう付接合されて構成されている。また、この形態の冷却器10には、天板2の外側面(冷却水の通路4と反対側の表面)2bに、被冷却体となる発熱素子が接合される冷却素子基板6がろう付接合されている。
【0025】
底板1および天板2は、冷却水5が流れる冷却水の通路(作動流体通路)4を画成する構造部材として機能する。
底板1は、板状をなし、その外縁部に天板2の被接合部13と接合される段差部(被接合部)23が形成されている。底板1は、後述する天板2よりも肉厚とされ、具体的には1.0〜4.0mm程度とされる。
天板2は、底板1と略同じ平面形状をなす板体であり、その外縁部に底板1の被接合部23と接合される段差部(被接合部)13が形成されている。天板2は、底板1よりも肉薄とされ、具体的には0.2〜2.0mm程度とされている。そして、本実施形態では、天板2は、本発明の冷却器用クラッド材20を素材として構成されている。この冷却器用クラッド材20の構成については、後に詳述する。
底板1と天板2とは、各段差13、23どうしがろう付接合されており、底板1と天板2との間には、段差部13、23の側壁によって封止された冷却水の通路4が画成されている。
【0026】
インナフィン3は、冷却水と発熱素子との熱交換に寄与する伝熱面として機能する。このインナフィン3は、蛇腹状をなし、冷却水の通路4内に収容されている。インナフィン3は、各折曲部(被接合部)33が、底板1または天板2の各表面(冷却水の通路側の表面)1a、2aにろう付されている。
【0027】
冷却素子基板6は、その表面(天板と反対側の面)6aに、半田層6bを介して半導体素子等の発熱素子7が接合され、該発熱素子7と天板2とを絶縁しつつ、該発熱体素子7が発生する熱を天板2に伝導する。この冷却素子基板としては、例えばAlNやSi等の熱伝導性セラミックス61の両面にアルミニウム層62を貼り合わせて構成された絶縁回路用基板等が挙げられる。
【0028】
この形態の冷却器10では、発熱素子7を、冷却水の通路4内を流動する冷却水によって、インナフィン3、天板2および冷却素子基板6を介して冷却する。
【0029】
また、この形態の冷却器10を製造するには、まず、後述する冷却器用クラッド材20を天板形状にプレス成形して成形体を得る(プレス成形工程)。次に、この成形体に、レーザ溶接によって冷却素子基板6を仮止めした後、成形体と、底板1およびインナフィン3とを組み立て、各被接合部13、23、33どうしをレーザ溶接にて仮止めする(仮止め工程)。そして、成形体、底板1、インナフィン3および冷却素子基板6に、例えばフッ化物系のフラックス(非腐食性のノコロックフラックスやZn置換フラックス等)を塗布し、高純度窒素ガス雰囲気等の不活性雰囲気となされた炉内で熱処理する。熱処理温度は590〜620℃程度である。
これにより、底板1および冷却器用クラッド材20が有するろう材層22が溶融、流動し、その後、炉内の温度を降下させることによって、ろう材が固化する。その結果、各被接合部13、23、33どうしおよび天板2の外側面2bと冷却素子基板6とがろう付接合され、冷却器10が得られる(ろう付工程)。
【0030】
次に、底板1、天板2およびインナフィン3の構成について詳述する。
「天板」
まず、天板2の構成について説明する。
本発明の冷却器10では、天板2が、本発明の冷却器用クラッド材20を素材として構成されている点に特徴がある。すなわち、天板2は、冷却器用クラッド材20を天板形状に成形し、この成形体を、冷却器10を構成する他の各部、底板1、インナフィン3、冷却素子基板6とろう付して構成されたものである。
【0031】
図2に示すように、冷却器用クラッド材20は、芯材21と、該芯材21の一方の面(冷却水の通路4側となる表面)を被覆する第1のろう材層22と、他方の面(冷却水の通路4と反対側となる表面)を被覆する第2のろう材層24とを有する3層構成のクラッド素材を、3〜10%のひずみ付加を実施するかあるいは10〜25%の最終圧延率で圧延したクラッド材であり、後述する特性項目が所定範囲に規定されている。
【0032】
以下、冷却器用クラッド材20の各部21、22、24の組成について説明する。
芯材21は、Mn、Cu、Siを含有するとともに、Fe、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成されている。各成分の含有量は、Mn:0.4〜1.5質量%、Cu:0.05〜0.8質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Fe:0.05〜0.5質量%、Ti:0.05〜0.20質量%、Zr:0.05〜0.15質量%である。また、各成分の作用は下記の通りである。
【0033】
Mn:Mnは、金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の天板2の強度を向上させる作用がある。また、Al−Mn−Si系化合物を形成することにより、マトリックスのSi固溶度を低くし、マトリックスの融点を向上させる効果がある。
Mnの含有量が0.4質量%未満であると、これらの効果が十分に得られない。また、Mnの含有量が1.5質量%を超えると、クラッド素材の鋳造性や加工性(圧延性)が低下してしまう。
【0034】
Si:Siは、Al−Mn−Si系化合物として分散あるいはマトリックスに固溶して存在し、芯材21の強度を向上させる作用がある。
Siの含有量が0.05質量%未満であると、このような効果が十分に得られない。また、Siの含有量が1.0質量%を超えると、芯材21の融点が低下し、ろう付時に芯材21が溶融する可能性がある。
【0035】
Cu:Cuは、マトリックス中に固溶して存在し、芯材21の強度を向上させる作用がある。
また、Cuは、芯材21から通路側のろう材に向けて、濃度勾配を形成し、防食上有効な電位勾配を形成してクラッド材の耐孔食性を向上させる。
Cuの含有量が0.05質量%未満であると、このような効果が十分に得られない。また、Cuの含有量が0.8質量%を超えると、ろう材表面に拡散したCuがろう材の電位を貴にするため、後述する電位勾配層の犠牲陽極効果を低減させ、その防食効果を損なってしまう。また、Cuの含有量が多過ぎると、芯材21の融点が低下し、ろう付時に芯材21が溶融する可能性がある。
【0036】
Fe:Feは、金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の天板2の強度を向上させる作用がある。また、Al−Mn−Fe系、Al−Fe−Si系、Al−Mn−Fe−Si系の化合物を形成することによって、マトリックス中のMnやSiの固溶度を低下させ、マトリックスの融点を向上させる効果がある。
Feの含有量が0.05質量%未満であると、これらの効果が十分に得られない。また、Feの含有量が0.5質量%を超えると、芯材21の腐食速度が速くなってしまう。また、巨大晶出物が出現し、これによってクラッド素材の鋳造性や圧延性が低下してしまう。なお、0.05質量%未満のFeは不可避不純物とする。
【0037】
Ti、Zr:TiおよびZrは、ろう付後に微細な金属間化合物として分散し、天板2の強度を向上させる作用がある。
これらの含有量が0.05質量%未満であると、このような効果が十分に得られない。また、Ti含有量が0.20質量%を超えた場合、あるいは、Zr含有量が0.15質量%を超えた場合には、芯材21の自己耐食性および加工性が低下してしまう。なお、0.05質量%未満のTiおよびZrは不可避不純物とする。
【0038】
第1のろう材層22は、冷却器用クラッド材20(天板2)の被接合部13と底板1の被接合部13、および、冷却器用クラッド材20(天板2)の表面2aとインナフィン3の折曲部33とをろう付するろう材を供給する。
この第1のろう材層22は、SiおよびZnを含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材によって構成されている。SiおよびZnの含有量はSi:4.5〜11.0質量%、Zn:0.5〜5.0質量%であり、各成分の作用は下記の通りである。
【0039】
Si:Siは、ろう付工程の熱処理によって溶融、流動した後、固化することによって、被接合部13、23どうし、および、天板2の表面2aとインナフィン3の折曲部33とをろう付接合する。また、Siは、ろう材の融点を低下させ、その溶融状態での流動性を高める作用がある。
Siの含有量が4.5質量%未満であると、ろう付性が不十分となる。また、Siの含有量が11.0質量%を超えると、Siが芯材21あるいは被接合部材1、3を大きく侵食するようになる。
【0040】
Zn:Znは、ろう付工程の熱処理によって芯材21中に拡散し、冷却器用クラッド材20(天板2)の表面2aから深さ方向にZnの濃度勾配を形成する。Znは、比較的電位が卑であるため、そのような濃度勾配が形成されることによって、天板2の表面2aから深さ方向に電位勾配が生じる。
このような電位勾配層が形成された天板2では、その犠牲陽極効果によって、冷却水5による腐食が面方向に優先的に進行し、深さ方向への腐食の進行が抑制される。このため、腐食孔の発生を抑えることができる。
Znの含有量が0.5質量%未満であると十分な電位勾配が形成されず、また、Znの含有量が5.0質量%を超えると電位勾配層の自己腐食速度が速くなりすぎ、天板2の深さ方向への腐食を十分に抑えることができない。
【0041】
第2のろう材層24は、天板2の外側面2bと冷却素子基板6とをろう付するろう材を供給する。
第2のろう材層24は、Siを6.5〜12.6質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材によって構成されている、
Siの含有量が6.5質量%未満であると、ろう付性が不十分となる。また、Siの含有量が12.6質量%を超えると、粗大なSi粒子が出現して、圧延加工性が低下するとともに、芯材21あるいは冷却素子基板6を大きく侵食するようになる。
【0042】
次に、冷却器用クラッド材20のクラッド素材、ひずみ付加および圧延加工について説明する。
この冷却器用クラッド材20は、以上のような組成を有する3層構成のクラッド素材を3〜10%のひずみ付加を実施するか、あるいは、10〜25%の最終圧延率で圧延したものである。
冷却器用クラッド材20では、このような圧延加工が施されていることにより、これをプレス成形してろう付工程を行ったとき、その昇温過程で、プレス成形による加工量の多い領域と加工量の少ない領域の双方で、芯材を確実に再結晶させることができる。このため、溶融したろう材が芯材に侵入するエロージョンが抑えられ、被接合部13、23どうし、表面2aとインナフィン3の折曲部33、外側面2bと冷却素子基板6とのろう付に、十分量のろう材を供給することができる。また、天板2において、芯材21のろう侵食に起因する腐食の進行が抑えられ、優れた耐孔食性を得ることができる。なお、ひずみ付加とは、材料の圧延方向と平行な方向に引張りのひずみ付加をかける工程で、工業的にはテンションレベラーなどで付加される。ひずみ付加率とは材料の伸び率である。
【0043】
ここで、クラッド素材は、最終圧延前の焼鈍を昇温速度100〜10000℃/分で300℃〜550℃に昇温し、この温度で1秒〜4時間保持した後、冷却する焼純が行われた後に、3〜10%のひずみ付加を実施するか、あるいは10〜25%の圧延を行うことが好ましい。これにより芯材の結晶粒を微細化することができ、優れたプレス成形性を得ることができる。
また、さらに3〜10%のひずみ付加後、あるいは10〜25%の圧延後に150〜400℃で1〜8時間保持の熱処理を施すことにより、上述の溶融したろう材の芯材への侵入を抑えながら、プレス成形性をさらに向上させることが可能となる。150℃未満では成形性改善の効果が得られず、400℃を超えるとプレス成形時に加工が付与された領域で溶融ろうによる芯材への侵食が激しくなってろう付性が低下すると共に、耐食性が低下する。熱処理時間が1時間未満では所望の効果が得られず、8時間を超えると効果が飽和する。
【0044】
次に、この冷却器用クラッド材20について規定する特性項目を説明する。
この冷却器用クラッド材20では、ろう付前の特性として、伸び、芯材21の平均結晶粒径、各ろう材層22、24に含まれるSi粒子の平均粒径(円相当径)を規定し、ろう付後の特性として、第1のろう材層22表面2aと芯材1との電位差、冷却器用クラッド材全厚に対する芯材21の占める割合を規定する。ここで、ろう付後の冷却器用クラッド材20の特性は、冷却器10における天板2としての特性に相当する。
【0045】
[1]ろう付前の特性
A.ろう付前の伸び、および、ろう付前の芯材の平均結晶粒径
ろう付前の冷却器用クラッド材20の伸びは10%以上に規定し、芯材21の平均結晶粒径は10〜100μmに規定する。前述のように冷却器用クラッド材20は、圧延加工が施されている。ここで、圧延加工を施すと強度が増大し、プレス成形性が損なわれる場合があるが、圧延加工を施したものであっても、伸びおよび芯材21の平均結晶粒径が前記範囲である場合には、優れたプレス成形性が得られ、天板形状に精度よく成形することができる。
本発明において平均結晶粒径は、圧延方向と平行な断面を研磨し、バーカー氏液などを用いて電解エッチング後、結晶組織の観察を行ない、結晶組織の写真撮影を実施した後に、JISG0551に記載の「直線切断法」にて測定した。
【0046】
伸びが10%未満のクラッド材は、伸びが小さいため、プレス成形すると割れが発生し、成形することができない。また、伸びの上限は特に規定されないが、35%以下であるのが好ましい。クラッド材のプレス成形性は、伸びが大きい程向上する傾向があるが、伸びが35%を超えると、その効果は飽和する。
【0047】
芯材21の平均結晶粒径が100μmを超えた場合には、十分なプレス成形性が得られず、プレス成形工程で割れが発生してしまう。また、クラッド材のプレス成形性は、芯材21の平均結晶粒径が小さい程向上するが、平均結晶粒径を10μm未満にすると、そのような効果は飽和する。
【0048】
B.ろう付前の各ろう材層に含まれるSi粒子の平均粒径(円相当径)
ろう付前の各ろう材層22、24に含まれるSi粒子の平均粒径(円相当径)は1.8μm未満に規定する。これにより、レーザ溶接による仮止め工程で、各ろう材層22、24へのレーザの入射が緩慢になり、その入熱量の制御が容易になるため、溶接部を小さく抑えることができる。その結果、得られた冷却器10の天板2において、溶接部からの腐食が生じ難くなり、溶接部から腐食が進行することに起因する腐食孔の発生を抑止することができる。また、平均粒径が1.8μm未満のSi粒子は微細であるため、各ろう材層22、24全体で、その溶融が均一に進行する。これにより、ろう付性が向上し、特に天板2と冷却素子基板6とのろう付の際、ボイド等のろう付欠陥が発生し難くなる。
本発明において、Si粒子の平均粒径は、圧延方向と平行な断面を研磨し、0.5%HF(フッ化水素酸)によりエッチング後、Si粒子の観察を行ない、写真撮影を実施した後に、画像解析装置により、円相当径を測定した。倍率は100倍とし、測定は10視野の平均とした。
【0049】
各ろう材層22、24に含まれるSi粒子の平均粒径が1.8μmを超えると、レーザ溶接の際、各ろう材層22、24への入熱が急速に進行し、溶融面積が増大してしまう。その結果、得られた冷却器10の天板2において、溶接部から腐食が進行して腐食孔が発生するとともに、天板2と冷却素子基板6とのクリアランスが増大して熱交換効率が低下する、各ろう材層22、24のろう材量が不足して十分なろう付性が得られないなどの問題が生じる。
Si粒子の平均粒径の下限は、特に規定されないが、0.5μm以上であるのが好ましい。前述のようなレーザ入射を緩和する効果やろう付性を向上させる効果は、Si粒子の平均粒径が微細であるほど向上する傾向があるが、Si粒子の平均粒径が0.5μm未満になると、効果は飽和する。
【0050】
[2]ろう付後の特性
C.ろう付後の第1のろう材層表面と芯材との電位差
ろう付後の第1のろう材層21の表面2aと芯材21との電位差は、50mV以上に規定する。
冷却器用クラッド材20(天板2)が、このような電位差(電位勾配)を有していると、その表面2a付近で犠牲陽極効果が得られ、深さ方向への腐食の進行が抑制される。このため、腐食孔の発生を抑えることができる。
電位差が50mV未満の場合には、このような犠牲陽極効果が得られず、深さ方向への腐食の進行を抑制する効果が得られない。また、電位差の上限は、特に規定されないが、300mV以下であるのが好ましい。電位勾配による防食効果は、その電位差が大きい程向上する傾向があるが、電位差を300mVを超える範囲としても、それ以上の効果は得られず、却って腐食速度が速くなり過ぎるなどの不都合が生じる。
電位差の測定は、40℃、2.67%AlCl溶液、0.5mV/sの電位掃引速度でアノード分極測定を実施して、孔食電位を測定する。芯材について測定する際は、50℃、5%NaOHでエッチング後、板中央部付近を測定する。
【0051】
D.ろう付後の全厚に占める芯材の割合
ろう付後の全厚に占める芯材21の割合t/T(%)は下記式を満たすように規定する。
/T(%)≧85%・・・式
T:天板の全厚
:芯材の厚さ
全厚に占める芯材の割合は、圧延方向と平行な断面を研磨し、バーカー氏液にて電解エッチング後、芯材とろう材の界面を特定し、測定する。界面は視野の中で平均的な位置とし、測定は10視野の平均とした。
【0052】
天板2の腐食は、ろう材の共晶組織で進行し易いため、芯材厚に対するろう材厚の割合(芯材クラッド率)が大きいと、深さ方向への腐食が進行し易くなり、腐食孔が早期に発生する。これに対して、全厚に占める芯材21の割合が所定の条件式を満たしていると、芯材厚に対するろう材厚の割合が小さいため、深さ方向への腐食の進行が抑えられ、腐食孔の発生を抑制することができる。
【0053】
以上のように構成された冷却器用クラッド材20は、芯材21と、該芯材21の一方の面(冷却水の通路4側となる表面)を被覆する第1のろう材層22と、他方の面(冷却水の通路4と反対側となる表面)を被覆する第2のろう材層24とを有する3層構成のクラッド素材を、10〜25%の最終圧延率で圧延して構成され、ろう付前後での特性項目が所定範囲に規定されているため、良好なプレス成形性が得られ、天板形状に精度よくプレス成形することができる。
【0054】
また、この冷却器用クラッド材20では、レーザ溶接による仮止め工程で、入熱による溶融面積を小さく抑えることができるとともに、ろう付工程での昇温過程で、プレス成形による加工量が少ない領域と加工量が多い領域の双方で、芯材21を確実に再結晶させることができるため、ろう材の芯材21への侵食が抑えられ、被接合部13、23どうし、表面2aとインナフィン3の折曲部33、外側面2bと冷却素子基板6とのろう付に十分量のろう材を供給することが可能である。さらに、その表面2a付近に電位勾配を有しており、これが犠牲陽極効果による防食性を発揮する。したがって、レーザ溶接部やろう材侵食に起因する腐食の進行が抑えられ、冷却器10の天板2として優れた耐食性が得られる。
【0055】
[底板]
底板1としては、この種の冷却器10で通常用いられているクラッド材やベア材が、いずれも使用可能である。具体的には、以下のようなものを挙げることができる。
図1に示すように、クラッド材としては、芯材11と、該芯材11の一方の面(冷却水の通路4側となる表面)を被覆するろう材層12とを有するもの等を用いることができる。
【0056】
芯材の構成材料としては、Al−Mn系合金、Al−Mn−Cu系合金等のアルミニウム合金を用いることができ、具体的にはJIS規格で3203合金、3003合金等が挙げられる。これらアルミニウム合金において、各成分の含有量はMn:1.0〜1.5質量%、Cu:0.1〜0.7質量%であるのが好ましい。
ろう材層のろう材としては、Al−Si−Zn系合金ろう材等のアルミニウム合金ろう材が挙げられ、各成分の含有量はSi:4〜11質量%、Zn:0〜5質量%であるのが好ましい。
【0057】
また、インナフィン3がろう材層を有する場合には、芯材と、該芯材の一方の面(冷却水の通路4側となる表面)を被覆する犠牲材層とを有するクラッド材、もしくは、クラッド層を有しないベア材等も用いることができる。
ここで、犠牲材層を有するクラッド材の芯材およびベア材の構成材料としては、前述のろう材層を有するクラッド材の芯材と同様のものを挙げることができる。
犠牲材層の犠牲材としては、Al−Zn系合金等のアルミニウム合金が挙げられ、Znの含有量は0〜5質量%であるのが好ましい。また、Al−Zn系合金は、必要に応じてMn、Si、Feを含有していてもよい。
【0058】
[インナフィン]
インナフィン3としては、この種の冷却器10で通常用いられているベアフィン材やクラッドフィン材が、いずれも使用可能である。具体的には、以下のようなものを挙げることができる。
ベアフィン材としては、アルミニウム合金によって構成されたもの、純アルミニウムによって構成されたもの等が挙げられる。
【0059】
アルミニウム合金としては、Al−Mn系合金、Al−Mn−Cu系合金、Al−Mn−Zn系合金、Al−Mn−Cu−Zn系合金等を用いることができ、具体的にはJIS規格で3003合金、3203合金等が挙げられる。これらのアルミニウム合金は、Znを0.5〜3.0質量%の含有量で含有していても良い。また、Al−Zn系合金を用いてもよく、このZnの含有量は0.5〜2.0質量%であるのが好ましい。
また、純アルミニウムとしては、JIS規格で1050、1100、1200等が挙げられる。
【0060】
クラッドフィン材としては、芯材と、該芯材の少なくとも一方の面を被覆するろう材層とを有するもの等を用いることができる。
芯材の構成材料としては、ベアフィン材と同様のアルミニウム合金、純アルミニウム等を用いることができる。
ろう材層の構成材料としては、前述の底板1のろう材層と同様のアルミニウム合金ろう材等を用いることができる。
【0061】
以上のように構成された冷却器10は、天板1の構成として、芯材21と、該芯材21の一方の面(冷却水の通路4側となる表面)を被覆する第1のろう材層22と、他方の面(冷却水の通路4と反対側となる表面)を被覆する第2のろう材層24とを有する3層構成のクラッド素材を、10〜25%の最終圧延率で圧延して構成され、ろう付前後での特性項目が所定範囲に規定された冷却器用クラッド材20を用いていることにより、被接合部13、23どうし、表面2aとインナフィン3の折曲部33、外側面2bと冷却素子基板6とが確実にろう付接合され、また、天板2においてレーザ溶接部やろう材侵食に起因する腐食の進行が抑えられ、優れた耐食性が得られる。このため、冷却水を高速で流した場合でも腐食孔の発生を抑えることができ、さらなる冷却性能の向上を図ることが可能となる。
【0062】
<第2実施形態>
次に、本発明にかかる冷却器用クラッド材の他の例を適用した発熱素子用冷却器(本発明の発熱素子用冷却器)の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態においては、前記第1実施形態と同様の構成についてはその説明を省略する。
第2実施形態の発熱素子用冷却器は、天板2の素材として用いる冷却器用クラッド材20の構成が異なる以外は、前記第1実施形態と同様の構成されている。
【0063】
本実施形態では、冷却器用クラッド材は、第1のろう材層22の代わりに犠牲材層を有しており、この他の構成、すなわち、芯材およびろう材層(第1実施形態における第2のろう材層24)の組成、最終圧延率およびろう付前後での特性項目は、前記第1実施形態の冷却器用クラッド材20と同様である。この場合、インナフィンは、芯材と、該芯材の片面(天板側)あるいは両面をろう材層で被覆したクラッド材となる。
以下、犠牲材層の構成について説明する。
【0064】
犠牲材層は、ろう付工程で冷却器用クラッド材20(天板2)の冷却水の通路側に電位勾配層を形成し、その犠牲陽極効果によって天板2に耐食性を付与する。
この犠牲材層は、芯材21の一方の面(冷却水の通路4側の表面)を被覆するように設けられ、Znを含有するとともに、Si、Fe、Mn、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成されている。各成分の含有量は、Zn:0.5〜5.0質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Fe:0.05〜0.5質量%、Mn:0.05〜1.1質量%、Ti:0.05〜0.20質量%、Zr:0.05〜0.15質量%である。各成分の作用は以下の通りである。
【0065】
Zn:Znは、ろう付工程の熱処理によって冷却器用クラッド材20(天板2)の表面2aから深さ方向にZnの濃度勾配を形成する。Znは、比較的電位が卑であるため、そのような濃度勾配が形成されることによって、天板2の表面2aから深さ方向に電位勾配が生じる。
このような電位勾配層が形成された天板2では、その犠牲陽極効果によって、冷却水による腐食が面方向に優先的に進行し、深さ方向への腐食の進行が抑制される。このため、腐食孔の発生を抑えることができる。
Znの含有量が0.5質量%未満であると十分な電位勾配が形成されず、また、Znの含有量が5.0質量%を超えると電位勾配層の自己腐食速度が速くなりすぎ、天板2の深さ方向への腐食を十分に抑えることができない。
【0066】
Si、Fe、Mn:これらの成分は、金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の天板2の強度および耐エロージョン性、耐コロージョン性を向上させる作用がある。
各成分の含有量が上限より少ない場合には、これらの効果が十分に得られない。また、各成分の含有量が上限を超えると、犠牲材層の腐食速度が速くなりすぎ、芯材の腐食を十分に抑えることができない。なお、それぞれの元素についていずれも0.05%未満を不可避不純物の範囲とする。
【0067】
Ti、Zr:これらの成分は、ろう付後に微細な金属間化合物として分散し、天板2の強度を向上させる作用がある。
これらの含有量が0.05質量%未満であると、このような効果が十分に得られない。また、Ti含有量が0.20質量%を超えた場合、あるいは、Zr含有量が0.15質量%を超えた場合には、犠牲材層の加工性が低下してしまう。なお、0.05質量%未満のTiおよびZrは不可避不純物とする。
【0068】
第2実施形態の構造において、先の第1実施形態の場合と同様、ろう付後の犠牲材層の表面と芯材21との電位差は、50mV以上に規定する。
冷却器用クラッド材20(天板2)が、このような電位差(電位勾配)を有していると、その表面2a付近で犠牲陽極効果が得られ、深さ方向への腐食の進行が抑制される。このため、腐食孔の発生を抑えることができる。
【0069】
電位差が50mV未満の場合には、このような犠牲陽極効果が得られず、深さ方向への腐食の進行を抑制する効果が得られない。また、電位差の上限は、特に規定されないが、300mV以下であるのが好ましい。電位勾配による防食効果は、その電位差が大きい程向上する傾向があるが、電位差を300mVを超える範囲としても、それ以上の効果は得られず、却って腐食速度が速くなり過ぎるなどの不都合が生じる。
【0070】
以上のように構成された冷却器用クラッド材20は、芯材21と、該芯材21の一方の面(冷却水の通路4側となる表面)を被覆する犠牲材層と、他方の面(冷却水の通路4と反対側となる表面)を被覆するろう材層とを有する3層構成のクラッド素材を、10〜25%の最終圧延率で圧延して構成され、ろう付前後での特性項目が所定範囲に規定されているため、良好なプレス成形性が得られ、天板形状に精度よくプレス成形することができる。
【0071】
また、この冷却器用クラッド材20では、レーザ溶接による仮止め工程で、入熱による溶融面積を小さく抑えることができるとともに、ろう付工程での昇温過程で、プレス成形による加工量が少ない領域と加工量が多い領域の双方で、芯材を確実に再結晶させることができるため、ろう材の芯材への侵食を抑えることができ、その外側面2bと冷却素子基板6とのろう付に十分量のろう材を供給することが可能である。さらに、その表面2a付近に電位勾配を有しており、これが犠牲陽極効果による防食性を発揮する。このため、レーザ溶接部やろう材侵食に起因する腐食の進行が抑えられ、冷却器10の天板2として優れた耐食性が得られる。
【0072】
したがって、以上のような冷却器用クラッド材20を天板2の素材として用いる冷却器は、天板2と冷却素子基板6とが確実にろう付接合され、また、天板2においてレーザ溶接部やろう材侵食に起因する腐食の進行が抑えられ、優れた耐食性が得られる。このため、冷却水を高速で流した場合でも腐食孔の発生を抑えることができ、さらなる冷却性能の向上を図ることが可能となる。
以上、本発明の熱交換器の実施形態について説明したが、前記熱交換器を構成する各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【実施例】
【0073】
以下に、本発明の具体的実施例について説明するが、本願発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す組成の厚さ3mmのアルミニウム合金芯材に表1に示す組成の厚さ150μmのろう材層をクラッド圧着してなる図1に示す断面形状のクラッド材(厚板クラッド材)からなる底板と、表2に示す組成の厚さ0.6mmのアルミニウム合金芯材の一方の面に表2に示す組成の厚さ60μmのろう材層(通路側ろう材)を、他方の面に表2に示す組成の厚さ60μmのろう材層(通路と反対側ろう材)をクラッド圧着してなる図1に示す断面形状の3層構造のクラッド材(薄板クラッド材)からなる天板を用意した。天板を100mm×200mm、角筒絞り形状、深さ約2mm、フランジ部10mmの図1に示す断面構造にプレス成形した。底板を100mm×200mm、角筒絞り形状、深さ約10mm、フランジ部10mmの図1に示す断面構造にプレス成形した。インナフィンとして高さ60mm×幅170mmの形状のものを用いた。インナフィンは後述の表3に示す組成の各インナフィン試料を用意した。
底板と天板とインナフィンを図1に示す如く組み付け、高純度窒素ガス雰囲気中(O濃度20ppm以下)において平均昇温速度25℃/分にて昇温し、炉内設定温度および保持時間を変量して天板温度を制御してろう付けし、熱交換器を製造した。
また、表2に示す構造の薄板クラッド材に代えて、表3に示す内面犠牲材(通路側犠牲材)を有する薄板クラッド材を用いて上述と同様にして熱交換器を製造した。
得られた熱交換器について腐食試験を行った。腐食試験は、イオン交換水+(Cl:100ppm、SO2−:300ppm、Cu++:200ppm)NaCl、NaSO、CuClに調整した腐食液を使用した。この腐食液を熱交換器の内部を循環(80℃×8h)させた後、室温×16h(循環停止)とする試験について流量(L/min)を変化させる試験とした。
焼鈍条件、ひずみ付加率、伸び、芯材粒径、Si粒子径、ろう付け後の芯材率、電位差、腐食試験のそれぞれの測定結果を表4と表5にまとめて示す。
なお、表4に示すひずみ付加率とは、10%未満のひずみ付加を引張ひずみで、10%以上のひずみ付加を圧延でそれぞれ行うことを示す。これは、10%未満のひずみ付加を圧延で行うには圧延荷重が小さすぎて圧延そのものが難しく、また、10%以上のひずみ付加を引張で行うには、材料が破断してしまうので、上述のように使い分けて引張か圧延により所定のひずみを導入している。なお、引張ひずみ付加と圧延は、その加工率で同等の加工硬化特性を示す。例えば、15%以下の加工率であれば(引張で破断しない範囲ならば)、「引張ひずみ10%負荷後の強度」=「圧延率10%で圧延後の強度」の関係が成立するとして、ひずみの導入を行った。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【0079】
薄板クラッド材のMn含有量を本発明の範囲外とした比較例1の試料は電位差が適正にならず、天板にて漏れが発生し、比較例2の試料は接合部にて漏れが発生し、Cu含有量を少なくした比較例3の試料はフィンろう付け不良となった。通路側ろう材のSi量を多くしすぎた比較例4の試料はプレス成形性に問題があり、電位差が適正にならず、天板にて漏れが発生し、Zn量が少ない比較例5の試料はフィンのろう付け不良により天板にて漏れが発生した。通路側犠牲材のZn量が少ないか、多すぎる比較例6、7は天板か接合部において漏れが発生した。
なお、実施例5と同等材料を用いた構成であっても、焼鈍の際の昇温速度、焼鈍温度、焼鈍時間、ひずみ付加率(圧延率)、伸び、芯材粒径、Si粒子の平均粒径、ろう付け後の芯材率のいずれかが本発明の範囲外では、表5に示す如く問題を生じた。
これらの試料に対し、本発明の条件を満足した熱交換器試料は問題を生じなかった。
【符号の説明】
【0080】
1…底板、6…発熱素子冷却器、2…天板、2a…冷却水の通路側の表面、2b…冷却水の通路と反対側の表面、3…インナフィン、11…芯材、12…ろう材層、13…被接合部、21…芯材、22…第1のろう材層、23…被接合部、24…第2のろう材層、33…折曲部(被接合部)、61…熱伝導性セラミックス、62…アルミニウム層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材と、該芯材の一方の面を被覆する第1のろう材層と、該芯材の他方の面を被覆する第2のろう材層とを有する3層構成のクラッド素材を、3〜10%の引張ひずみ付加を実施するか、あるいは10〜25%の最終圧延率で圧延加工してなり、発熱素子用冷却器を構成する他の各部と、前記第1のろう材層側を作動流体通路側としてろう付される冷却器用クラッド材であって、
前記芯材は、Mn、Cu、Siを下記の含有量で含有するとともに、Fe、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種または2種以上を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成され、
Mn:0.4〜1.5質量%
Cu:0.05〜0.8質量%
Si:0.05〜1.0質量%
Fe:0.05〜0.5質量%
Ti:0.05〜0.20質量%
Zr:0.05〜0.15質量%
前記第1のろう材層は、SiおよびZnを下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材によって構成されており、
Si:4.5〜11.0質量%
Zn:0.5〜5.0質量%
前記第2のろう材層は、Siを下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材によって構成されており、
Si:6.5〜12.6質量%
前記冷却器を構成する他の各部とのろう付前において、伸びが10%以上、前記芯材の平均結晶粒径が10〜100μm、前記第1のろう材層および前記第2のろう材層に含まれるSi粒子の平均粒径(円相当径)が1.8μm未満であり、
前記冷却器を構成する他の各部とのろう付後において、前記第1のろう材層表面と前記芯材との電位差が50mV以上、前記冷却器用クラッド材全厚に対する前記芯材の割合t/T(%)が下記式を満たすことを特徴とする冷却器用クラッド材。
/T(%)≧85%・・・式
T:冷却器用クラッド材の全厚
:芯材の厚さ
【請求項2】
芯材と、該芯材の一方の面を被覆する犠牲材層と、該芯材の他方の面を被覆するろう材層とを有する3層構成のクラッド素材を、3〜10%の引張ひずみ付加を実施するか、あるいは10〜25%の最終圧延率で圧延加工してなり、発熱素子用冷却器を構成する他の各部と、前記犠牲材層側を作動流体通路側としてろう付される冷却器用クラッド材であって、
前記芯材は、Mn、Cu、Siを下記の含有量で含有するとともに、Fe、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種または2種以上を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金によって構成され、
Mn:0.4〜1.5質量%
Cu:0.05〜0.8質量%
Si:0.05〜1.0質量%
Fe:0.05〜0.5質量%
Ti:0.05〜0.20質量%
Zr:0.05〜0.15質量%
前記犠牲材層は、Znを下記の含有量で含有するとともに、Si、Fe、Mn、Ti、Zrのうちから選ばれる少なくとも1種または2種以上を下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるAl合金系犠牲材によって構成されており、
Zn:0.5〜5.0質量%
Si:0.05〜1.0質量%
Fe:0.05〜0.5質量%
Mn:0.05〜1.1質量%
Ti:0.05〜0.20質量%
Zr:0.05〜0.15質量%
前記ろう材層は、Siを下記の含有量で含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金ろう材によって構成されており、
Si:6.5〜12.6質量%
前記冷却器を構成する他の各部とのろう付前において、伸びが10%以上、前記芯材の平均結晶粒径が10〜100μm、前記ろう材層に含まれるSi粒子の平均粒径(円相当径)が1.8μm未満であり、
前記冷却器を構成する他の各部とのろう付後において、前記犠牲材層表面と前記芯材との電位差が50mV以上、前記冷却器用クラッド材全厚に対する前記芯材の割合t/T(%)が下記式を満たすことを特徴とする冷却器用クラッド材。
/T(%)≧85%・・・式
T:冷却器用クラッド材の全厚
:芯材の厚さ
【請求項3】
3層構成のクラッド素材は、3〜10%のひずみ付加前、あるいは10〜25%の最終圧延前の焼鈍を昇温速度100〜10000℃/分で300℃〜550℃に昇温し、この温度で1秒〜4時間保持した後、冷却する焼純が施されたことを特徴とする請求項1および請求項2に記載の冷却器用クラッド材
【請求項4】
3層構造のクラッド素材は、3〜10%のひずみ付加後、あるいは10〜25%の最終圧延後に150〜400℃で1〜8時間保持の熱処理が施されたことを特徴とする、請求項1〜3に記載の冷却器用クラッド材。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の冷却器用クラッド材をプレス成形して得た天板と、該天板との間に作動流体通路を画成するように配設され、該天板よりも板厚の厚い底板と、前記天板と前記底板との間に収容されたインナフィンとを有し、これら各部の被接合部どうしがろう付されて構成され、前記天板の前記作動流体通路と反対側に取り付けられる発熱素子を、前記作動流体通路内を流動する冷却水との熱交換によって冷却することを特徴とする発熱素子用冷却器。
【請求項6】
前記天板の前記作動流体通路と反対側の面に、前記発熱素子が接合される冷却素子用基板がろう付されていることを特徴とする請求項5に記載の発熱素子用冷却器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−36098(P2013−36098A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174193(P2011−174193)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)