説明

冷却塔補給水の水質調整装置

【課題】藻類、スライム、スケール等の発生を効果的に抑制すると共に、配管系の腐食を抑制することができる冷却塔補給水の水質調整装置を実現する。
【解決手段】まず、冷却塔本体に硬水を給水し(S1)、一定時間経過後、硬水の冷却塔本体への給水を禁止すると同時又は略同時に軟水器からの軟水の冷却塔本体への給水を許可する(S2→S3)。次いで、軟水の積算流量を計測し、第1の所定値に到達したか否かを判断する(S4)。そして、第1の所定値に到達すると、軟水の冷却塔本体への給水を禁止すると同時又は略同時に硬水の第1の補給路への流入を許可し、硬水の冷却塔本体への補給を可能とする(S5)。そして、積算流量が第2の所定値になると、再び冷却塔本体への給水を禁止すると同時又は略同時に軟水器からの軟水の冷却塔本体への給水を許可する(S6→S3)。以降、この動作を繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却塔補給水の水質調整装置に関し、より詳しくは冷却塔を循環する循環水の硬度を抑制するようにした冷却塔補給水の水質調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、商業用ビルや各種工場などの空調設備では、冷却水を循環させて熱交換器等の被冷却装置を冷却する水処理システムが広く採用されている。
【0003】
この種の水処理システムでは、冷却水を循環させているため、水分の蒸発によって循環水が濃縮され、循環水中には溶存塩類や栄養源が高濃度に含まれるようになる。そしてその結果、循環水の水質が悪化して藻類やスライムが発生し、通水性の悪化や冷却能力の低下を招くおそれがある。また、上記スライム等に起因してレジオネラ菌が繁殖し、繁殖したレジオネラ菌が蒸発水に同伴されて大気中に飛散されてしまうおそれがある。さらに、硬度成分やシリカの濃縮によってスケールが堆積して被冷却装置に付着し、熱効率の低下を招くおそれがある。
【0004】
そして、上述した藻類やスライム、スケールの発生防止に対しては循環水に軟水を使用するのが効果的である。
【0005】
しかしながら、この軟水は、通常、軟水器によってカルシウムイオン等の硬度成分が略完全に除去されており、したがって、実質的に硬度成分が含まれていないため、硬度成分を含んだ硬水に比べて配管腐食を招き易いという欠点がある。
【0006】
配管系における水の腐食性を評価する指標としては、従来より、下記数式(1)で示されるランゲリア指数Lが知られている。
【0007】
L=pH−pHs …(1)
ここで、pHは水の実測pH値を示している。また、pHsは水中に炭酸カルシウムが溶解も析出もしない平衡状態にあるときのpH値、すなわち理論pH値を示しており、このpHsは数式(2)で表される。
【0008】
pHs=(9.3+A+B)−(C+D)…(2)
ここで、Aは蒸発残留物の濃度により定まる数値、Bは水温により定まる数値、Cはカルシウム硬度により定まる数値、Dは総アルカリ度により定まる数値である。
【0009】
配管腐食は、水と金属との接触面、すなわち配管の内周面に炭酸カルシウムの皮膜を形成することにより抑制することができると考えられている。したがって、数式(1)において、ランゲリア指数Lが負値の場合、すなわち理論pH値であるpHsが実測pH値よりも大きい場合は、数式(2)から明らかなように、カルシウム硬度により定まる数値Cが相対的に小さく、このため水の腐食性は大きくなる。一方、ランゲリア指数Lが正値の場合、すなわち理論pH値であるpHsが実測pH値よりも小さい場合は、カルシウム硬度により定まる数値Cが相対的に大きく、水の腐食性を抑制することができると考えられる。
【0010】
すなわち、ランゲリア指数Lが、「0」を境界にして負値の場合は水の腐食性が大きくなり、正値の場合は水の腐食性が抑制される。したがって、配管腐食を抑制するためには、ランゲリア指数Lを少なくとも「0」か、正値とするのが望ましく、そのためには、カルシウムイオンを含んだ硬水を循環水中に含ませるのが望ましい。
【0011】
そして、特許文献1では、開放循環冷却水系において、原水の一部を陽イオン交換樹脂で処理して得られる軟化水の一部を冷却水系に供給すると共に、軟化水の他の一部を用いて調製した食塩水を電気分解して遊離残留塩素を生成させ、この遊離残留塩素含有水を冷却水系に添加するようにした冷却水の処理方法が提案されている。
【0012】
この特許文献1では、硬度成分を有する硬水(原水)と軟水との混合水を補給水として冷却塔に給水し、これによりスライムやスケールの発生を防止し、かつ金属の腐食をも抑制しようとしている。
【0013】
【特許文献1】特開2004−121969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1では、硬水と軟水との混合水を冷却塔に補給しているため、必要以上の硬水が冷却塔に補給されてしまうおそれがある。
【0015】
すなわち、スライムやスケールの発生を抑制して良好な水質を確保するためには、極力軟水を循環水として使用するのが好ましく、硬水は配管の腐食防止の観点から必要に応じて補給されれば十分である。
【0016】
また、特許文献1では、適正範囲の硬度でもって水質を安定させ、冷却塔を運転させているが、運転開始直後から軟水を硬水と共に冷却塔に補給しているため、適正範囲の硬度に達するまで一定時間を要する。すなわち、安定した水質での運転状態となるまで比較的長時間を要する。
【0017】
しかも、特許文献1では、軟水と硬水の混合水を補給しているため、濃縮が進み易く、このためスケールの発生防止の観点から定期的にブロー処理を行う必要があり、必然的にブロー頻度が多くなるという問題点があった。
【0018】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、藻類、スライム、スケール等の発生を効果的に抑制すると共に、配管系の腐食を抑制することができる冷却塔補給水の水質調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために本発明に係る冷却塔補給水の水質調整装置は、冷却塔に給水される補給水の水質を調整する冷却塔補給水の水質調整装置であって、 硬度成分を含有した硬水を軟水化して軟水を生成する軟水器と、該軟水器と前記冷却塔とを接続する第1の補給路と、前記軟水器をバイパスして前記第1の補給路に接続される硬水が通過する第2の補給路と、前記第2の補給路から前記第1の補給路への前記硬水の流入を制御する制御手段と、前記冷却塔と被冷却装置とを循環する循環水の水質管理を行う水質管理手段とを備え、前記制御手段は、前記水質管理手段によって管理される前記循環水の水質状態に応じて前記硬水の前記第1の補給路への流入を許可する流入許可手段を有していることを特徴としている。
【0020】
また、本発明の冷却塔補給水の水質調整装置は、前記水質管理手段が、前記第1の補給路を通過する前記軟水及び前記硬水の積算流量をそれぞれ計測する流量計測手段を備え、前記流入許可手段は、前記流量計測手段により前記軟水の積算流量が所定値を計測したときは、前記第1の補給路への前記硬水の所定積算流量の流入を許可することを特徴としている。
【0021】
また、本発明の冷却塔補給水の水質調整装置は、前記水質管理手段が、前記冷却塔に補給される前記軟水及び前記硬水の補給時間を計時する計時手段を備え、 前記流入許可手段は、前記計時手段により前記軟水の前記冷却塔への積算補給時間が第1の所定時間を計時したときは、前記冷却塔への硬水の積算補給時間が第2の所定時間に達するまで前記第1の補給路への前記硬水の流入を許可することを特徴とするのも好ましい。
【0022】
また、本発明の冷却塔補給水の水質調整装置は、前記制御手段が、前記制御手段は、前記流入許可手段により前記硬水の前記第1の補給路への流入が許可されたときは、前記軟水の前記冷却塔への供給を遮断して前記硬水のみを前記冷却塔に給水可能とすることを特徴としている。
【0023】
さらに、本発明の冷却塔補給水の水質調整装置は、前記冷却塔の運転開始直後は前記硬水が一定時間前記冷却塔に補給されると共に、前記一定時間経過後は前記軟水が前記冷却塔に供給され、その後は前記循環水の水質に応じて前記硬水と前記軟水とが交互に前記冷却塔に補給可能とされていることを特徴としている。
【0024】
また、本発明の冷却塔補給水の水質調整装置は、塩素系水溶液が、前記循環水に注入されることを特徴としている。
【0025】
また、本発明の冷却塔補給水の水質調整装置は、前記硬水は原水であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
上記冷却塔補給水の水質調整装置によれば、硬度成分を含有した硬水(原水)を軟水化して軟水を生成する軟水器と、該軟水器と前記冷却塔とを接続する第1の補給路と、前記軟水器をバイパスして前記第1の補給路に接続される硬水が通過する第2の補給路と、前記第2の補給路から前記第1の補給路への前記硬水の流入を制御する制御手段と、前記冷却塔と被冷却装置とを循環する循環水の水質管理を行う水質管理手段とを備え、前記制御手段は、前記水質管理手段によって管理される前記循環水の水質状態に応じて前記硬水の前記第1の補給路への流入を許可する流入許可手段を有しているので、第1の補給路を介して通常は軟水を冷却塔に補給する一方、水質状態に応じて硬水を冷却塔に補給することが可能となる。したがって、藻類、スライム、スケール等の発生を抑制することができると共に、硬水が必要に応じて冷却塔に補給されることから、ランゲリア指数Lが低下してその状態が持続するのを避けることが可能となり、配管系の腐食を抑制することが可能となる。
【0027】
具体的には、流量計測手段により前記軟水の積算流量が所定値を計測したときは、前記第1の補給路への前記硬水の所定積算流量の流入を許可し、又は計時手段により前記軟水の前記冷却塔への積算補給時間が第1の所定時間を計時したときは、前記冷却塔への硬水の積算補給時間が第2の所定時間に達するまで前記第1の補給路への前記硬水の流入を許可することにより、軟水を循環水とした長時間の運転によってランゲリア指数Lが低下した時点で、硬水を冷却塔に補給することが可能となり、これによりランゲリア指数Lを上昇させることができ、配管系の腐食を抑制することが可能となる。
【0028】
また、流入許可手段により硬水の第1の補給路への流入が許可されたときは、軟水の冷却塔への供給を遮断して硬水のみを冷却塔に給水するので、軟水と硬水とは交互に補給される。すなわち、硬水が補給されているときは軟水が補給されないことから、硬水補給時には硬水に含有されるカルシウムイオン及び炭酸水素イオンにより炭酸カルシウムの皮膜が形成され易く、配管系の腐食を効果的に抑制することができる。
【0029】
また、冷却塔の運転開始直後は硬水が一定時間冷却塔に補給されると共に、前記一定時間経過後は軟水が冷却塔に供給され、その後は循環水の水質に応じて硬水と軟水とが交互に冷却塔に補給可能とされているので、運転開始直後において軟水と硬水の混合水が補給される場合に比べ、早期に安定した水質状態での運転が可能となる。
【0030】
また、塩素系水溶液が、前記循環水に注入されるので、配管腐食を防止しながら、同時に微生物類の発生及び繁殖を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づき詳説する。
【0032】
図1は、本発明に係る冷却塔補給水の水質調整装置を備えた水処理システムの一実施の形態(第1の実施の形態)を示す概略構成図であって、水質調整装置1の下流側には開放式冷却塔2が設けられている。
【0033】
冷却塔2は、具体的には、冷却塔本体3が、上部に開口部4を有すると共に、該開口部4にはファン5が配設され、さらに側面には外気を導入する通気孔としてのルーバー6が傾斜状に設けられている。
【0034】
また、冷却塔本体3の下部には循環水を貯留する貯留部7が設けられると共に、該貯留部7には循環水の水位を管理するボールタップ式給水栓(以下、「給水栓」という。)8が配設されている。そして、給水栓8は第1の補給管(第1の補給路)9に接続され、軟水又は硬水の冷却塔本体3への給水が可能となるように構成されている。
【0035】
ここで、本発明において、「硬水」とは、水道水、地下水、工業用水等を包含する硬度成分を含有した原水一般を意味するものとする。
【0036】
冷却塔本体3の底部にはブロー管10が接続され、該ブロー管10にはブローバルブ11が介装されている。そして、貯留部7内の循環水は、必要に応じてブロー管11から外部に排水される。
【0037】
冷却塔本体3の底部には循環パイプ12が接続されると共に、該循環パイプ12の先端は冷却塔本体3の上部に位置するように配され、かつ前記先端には多数のノズル13が装着されている。
【0038】
さらに、循環パイプ12の管路中には、循環水を冷却塔本体3の上部に還流させる循環ポンプ14と、循環水の電気伝導度を測定する電気伝導度測定装置15と、循環水の温度を検出する温度検出装置16と、熱交換器等の被冷却装置17とが、配設されている。
【0039】
電気伝導度測定装置15は、上述したように循環水の電気伝導度を測定し、循環水の濃縮倍率を管理している。すなわち、冷却塔本体3には希釈水給水管18が接続されており、該希釈水給水管18の管路に配された希釈水給水バルブ19を操作することにより、濃縮倍率が過度に大きくなると希釈水が冷却塔本体3に給水される。
【0040】
また、温度検出装置16は、循環水の温度を検出し、ファン5を駆動するモータ20をインバータ制御する。具体的には、循環水の温度が高くなるとモータ20の回転数を高くしてルーバー6から冷却塔本体3に供給される風量を増やし、冷却効果を増大させる。一方、循環水の温度が低い場合は、モータ20の回転数を低くしてファン5から冷却塔本体3に供給される風量を減らし冷却効果を低減させると共に、電力消費を抑制する。
【0041】
このように本実施の形態では、温度検出装置16の検出結果に応じてモータ20をインバータ制御し、これにより冷却塔本体3内に供給される吸引風量、すなわちファン5からの吐出風量を管理している。
【0042】
そして、冷却塔2の上流側には電解槽21が配設されると共に、該電解槽21は塩水供給管22を介して塩水タンク23に接続されている。
【0043】
塩水タンク23は、食塩と食塩水とを仕切る仕切板(不図示)と該塩水タンク23内の水位を調整するフロート弁(不図示)とが内蔵されている。塩水タンク23には硬度成分が略完全に除去された軟水が貯留されると共に、人手により食塩が所定期間(例えば、3〜4日)毎に投入される。そして、食塩は軟水中で撹拌されて溶解し、これにより飽和食塩水が生成される。
【0044】
電解槽21は、筒状に形成された電解槽本体24の上方側面及び下方側面に第1及び第2の水位センサ25a、25bが配設されると共に、前記電解槽本体24の下部には電極ユニット(不図示)が配設され、該電極ユニットは、電源装置26と電気的に接続されている。
【0045】
また、電解槽本体24に接続された前記塩水供給管22には第1のバルブ27aが介装されている。また、電解槽本体24は、軟水供給管28に接続されると共に、該軟水供給管28には第2のバルブ27bが介装されている。
【0046】
さらに、電解槽本体24には第3のバルブ27cが介装された排水管29が接続され、電解槽本体24に貯留された電解水の排水を可能にしている。
【0047】
また、電解槽本体24の上部には第4のバルブ27dが介装された電解水送出管30が接続され、さらに第5のバルブ27eが介装された通気管31が接続されている。
【0048】
このように構成された電解槽21では、第5のバルブ27eを開弁して外気との通気を可能状態とした後、第1のバルブ27aを開弁すると、塩水供給管22を介して塩水タンク23から飽和食塩水が供給される。次いで、第2のバルブ27bを開弁すると軟水供給管28を介して後述する軟水器から軟水が供給され、飽和食塩水が希釈され、1〜3重量%程度の希釈食塩水が生成される。そして、この状態で電源装置26から所定の電流密度でもって電極ユニットに通電が行われると、電解槽本体24内では希釈食塩水が電気分解され、これにより遊離残留塩素濃度が6000mgCl/L程度の高濃度の次亜塩素酸ナトリウム(塩素系水溶液)が生成される。そして、電解槽本体24で生成された次亜塩素酸ナトリウムは電解水送出管30を介して循環パイプ12に適宜注入される。
【0049】
また、水質調整装置1は、図2に示すように、硬水(原水)に含まれる硬度成分を略完全に除去して軟水を生成する軟水器32を備えている。そして、送水ポンプ38に接続された原水吐出管46は、点Aで原水供給管33と第2の補給管(第2の補給路)34とに分岐されている。原水供給管33は、送水バルブ39、及び流量計40が介装されて軟水器32に接続される一方、第2の補給管34は、前記軟水器32をバイパスし、軟水器32に接続された第1の補給管9と点Bで合流されている。尚、第1の補給管9は、点Bの上流側に位置する点Cで希釈水給水管18と合流している。
【0050】
そして、第1の補給管9のB〜C間には第1の切替バルブ35が介装されると共に、第2の補給管34には第2の切替バルブ36が介装されている。また、第1の補給管9の点Bより下流側には軟水又は硬水の積算流量をそれぞれ計測する積算流量計37が介装されている。
【0051】
尚、軟水器32には排水管41が接続されると共に、該排水管41には排水バルブ42が介装されている。
【0052】
そして、軟水器32にはナトリウム型の陽イオン交換樹脂(不図示)が内有されており、原水が原水供給管33を介して供給されると、原水に含まれるカルシウムイオン及びマグネシウムイオンの硬度成分が、陽イオン交換樹脂のナトリウムイオンとイオン交換されて除去され、これにより原水は軟水化されて処理水となる。また、陽イオン交換樹脂の交換能力が飽和状態になると、塩水タンク23に貯留された飽和食塩水が塩水供給管43を介して供給され、陽イオン交換樹脂の再生が行われる。尚、再生に使用された食塩水は排水管41から排出される。
【0053】
図3は上記水処理システムの制御系を示すブロック構成図である。
【0054】
すなわち、システム制御部47は、制御対象となる構成部材との間でインターフェース動作を司る入出力部48と、所定の演算プログラム等が格納されたROM49と、演算結果を記憶したりワークエリアとして使用されるRAM50と、タイマ51aが内蔵されると共にシステム全体の制御を司るCPU51とを備えている。
【0055】
そして、水質調整装置1においては、積算流量計37及び流量計40の出力信号が入出力部48に入力されると共に、送水ポンプ38、送水バルブ39、第1及び第2の切替バルブ35、36、及び排水バルブ42に出力信号を送信する。そして、本第1の実施の形態では、積算流量計37の積算流量によって冷却塔本体3に供給される循環水の水質状態を管理し、前記積算流量計37の計測値に応じて第1の切替バルブ35及び第2の切替バルブ36が切替制御されるように構成されている。
【0056】
また、入出力部48には水処理システムのその他の構成部材52(電気伝導度測定装置15、温度検出装置16、モータ20の回転数をインバータ制御するインバータ装置、第1及び第2の水位センサ25a、25b、電源装置26、循環ポンプ14、各バルブ27a〜27e、11、19、39、42)が電気的に接続され、これら各構成部材との間で信号の授受を行い、これら各構成部材はCPU51により制御される。
【0057】
このように構成された水処理システムは、以下のように運転駆動される。
【0058】
まず、インバータを介してモータ20を駆動させ、ファン5を回転させる。そしてこれにより、矢印D方向からルーバー6を介して冷却塔本体3内部に外気が流入し、また、この外気は冷却塔本体3の内部を循環して矢印Eに示すように、外部に排出される。
【0059】
一方、送水ポンプ38を駆動させ、第1の切替バルブ35を閉弁状態とし、第2の切替バルブブ36を所定時間(例えば、24時間)開弁すると、水道水や工業用水等、硬度成分を含有した硬水(原水)が第2の補給管34を介して第1の補給管9に流入し、該硬水は冷却塔本体3に補給される。そして、貯留部7に貯留された硬水は、循環ポンプ14の駆動により、循環水として循環パイプ12を循環する。
【0060】
また、送水バルブ39を開弁すると、原水は流量計40を通過して軟水器32に供給される。そして、該軟水器32では陽イオン交換樹脂のナトリウムイオンとのイオン交換により、原水中の硬度成分が略完全に除去された軟水が生成される。
【0061】
そして、本第1の実施の形態では、上述したように積算流量計37の積算流量によって冷却塔本体3に供給される循環水の水質状態を管理し、積算流量計37の計測値に応じて第1及び第2の切替バルブ35、36を切替制御している。すなわち、積算流量計37によって計測される軟水又は硬水の積算流量に基づいて循環水の硬度を推測し、軟水器32からの軟水又は第2の補給管34を通過する硬水のいずれか一方を冷却塔本体3に補給水として供給し、これにより循環水がランゲリア指数Lが「0」未満の負値とならないような適度な硬度範囲を有するように水質調整を行っている。
【0062】
図4は、水質調整処理ルーチンの第1の実施の形態を示すフローチャートであって、本プログラムは水処理システムの運転により起動し、その停止により終了する。
【0063】
まず、運転開始により送水ポンプ38が駆動する。そして、ステップS1では、システム制御部47が硬水給水信号を発し、第1の切替バルブ35を閉弁状態とすると共に第2の切替バルブ36を開弁し、第1の補給管9を介して硬水の冷却塔本体3への補給を開始する。次いで、ステップS2ではタイマ51aが一定時間t1を計時したか否かを判断する。
【0064】
そして、タイマ51aが一定時間t1を計時すると、ステップS3に進み、第2の切替バルブ36を閉弁して硬水の冷却塔本体3への給水を禁止すると同時又は略同時に第1の切替バルブ35を開弁し、軟水器32からの軟水の冷却塔本体3への給水を許可する。
【0065】
このように本第1の実施の形態では、運転開始時に硬水を冷却塔本体3に補給し、一定時間t1経過後に軟水を補給することにより、循環水は早期に目標とする硬度まで濃縮される。このため、循環水のランゲリア指数Lを炭酸カルシウム皮膜の形成が促進される正値(例えば0.1〜1.5)に短時間で調整することができる。
【0066】
そして、ステップS4では第1の補給管9を通過する軟水の積算流量を積算流量計37で計測し、第1の所定値Q1に到達したか否かを判断する。ここで、第1の所定値Q1は、軟水が冷却塔本体3に長時間補給された結果、すなわち循環水の蒸発や飛散に伴う軟水の補給により循環水中の硬度成分が希釈された結果、炭酸カルシウム皮膜が維持できないような状態、例えば、ランゲリア指数Lが0となるような積算流量値に設定される。
【0067】
そして、積算流量計37が第1の所定値Q1に到達すると、ステップS5に進み、システム制御部47は、第1の切替バルブ35を閉弁して軟水の冷却塔本体3への給水を禁止すると同時又は略同時に第2の切替バルブ36を開弁し、これにより硬水の第1の補給路9への流入を許可し、硬水の冷却塔本体3への補給を可能とする。
【0068】
次いで、ステップS6に進み、積算流量計37が第2の所定値Q2を計測したか否かを判断する。ここで、第2の所定値Q2は、循環水のランゲリア指数Lが再び正値となるような硬水の積算流量値に設定される。
【0069】
そして、積算流量計37が第2の所定値Q2に到達すると、ステップS3に戻り、システム制御部47は、第2の切替バルブ36を閉弁して硬水の冷却塔本体3への給水を禁止すると同時又は略同時に第1の切替バルブ35を開弁し、再び軟水器32からの軟水の冷却塔本体3への給水を許可する。
【0070】
以下、ステップS3〜ステップS6の動作を繰り返し、硬水と軟水とを交互に冷却塔本体3に補給し、ランゲリア指数Lが持続して長時間「0」以下となるのを回避し、配管腐食が生じるのを抑制している。
【0071】
尚、冷却塔本体への硬水又は軟水の補給は給水栓8で制御されることから、システム制御部47は硬水又は軟水の給水許可信号を発しても、貯留部7に貯留されている循環水の水量が蒸発や飛散により低下したときのみ、硬水又は軟水は冷却塔本体3に補給される。
【0072】
このように本第1の実施の形態では、第1及び第2の切替バルブ35、36を切替制御することにより、硬水と軟水とが交互に補給可能としているので、軟水によりスライムやスケールの発生が抑制される一方、必要に応じて硬水が補給されることから、循環水の水質はランゲリア指数Lが長期間「0」以下とならないような適度な範囲に管理することができ、配管系の腐食を効果的に抑制することができる。
【0073】
特に、冷却塔2の運転中、電解槽24で生成された次亜塩素酸ナトリウム水溶液を適宜循環水に注入し、細菌類の繁殖を抑制しているが、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の注入により遊離残留塩素が発生し、腐食し易くなるおそれがある。しかしながら、本第1の実施の形態では、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を循環水に注入した場合であっても、硬度成分を有する原水(硬水)を必要に応じて補給することにより、配管系の耐腐食性を改善することができる。
【0074】
図5は、冷却塔2への軟水又は硬水の補給可能状態を示すタイムチャートである。
【0075】
まず、運転開始時には一定時間t1だけ硬水が補給され、その後、給水は硬水から軟水に切り替わり、軟水の積算流量が第1の所定値Q1に相当する時間t2になると、ランゲリア指数Lが低下したと判断して補給水は硬水に切り替わる。その後、積算流量が第2の所定値Q2に相当する時間t3になると、硬水の補給によりランゲリア指数Lは腐食のおそれのない程度に上昇したと判断し、再び軟水に切り替わる。以後、軟水(時間t2)と硬水(時間t3)とが交互に補給されることとなる。
【0076】
図6は、運転時間と循環水の硬度との関係を示す概念図であって、破線は比較例(特許文献1)、実線が本発明を示している。尚、横軸が運転時間、縦軸が循環水の硬度である。
【0077】
配管系の腐食を抑制するためには、目標硬度H(例えば、ランゲリア指数Lが0.1〜1.5となるような硬度)を設定し、この目標硬度H近傍の水質で安定運転する必要がある。
【0078】
しかしながら、比較例では、運転開始直後から硬水と軟水の混合水を冷却塔に補給しているため、循環水が目標硬度Hに到達するのに時間を要し、このため安定運転に達するまでに時間を要する。
【0079】
しかも、比較例では、上述したように硬水と軟水の混合水を補給しているため、硬度成分の濃縮が進み易く、スケールの発生防止の観点から、図中Bで示すように定期的なブロー処理が必要となる。
【0080】
これに対し、本発明では運転開始直後の一定時間は硬水を補給しているので、早期に目標硬度Hに到達させることができる。そして、一定時間t1が経過した時点で補給水を硬水から軟水に切替えており、早期に安定運転に突入することができる。
【0081】
しかも、本発明では、必要な時のみ硬水を補給しているので、運転中に過度の濃縮が進行するのを回避することができ、ブロー処理の頻度を減少させることが可能となる。
【0082】
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0083】
本第2の実施の形態では、積算流量計37に代えてCPU51に内蔵されたタイマ51aで循環水の水質状態を管理している、すなわち、タイマ51aで軟水又は硬水の冷却塔本体3への積算給水時間を計時し、その計時結果に応じて間第1及び第2の切替バルブ35、36を切替制御し、これにより、第1の実施の形態と同様、循環水の水質調整を行っている。
【0084】
図7は 水質調整処理ルーチンの第2の実施の形態を示すフローチャートであって、本プログラムは水処理システムの運転により起動し、その停止により終了する。
【0085】
まず、運転が開始されると送水ポンプ38が駆動する。そして、ステップS11では、第1の実施の形態と同様、硬水を第1の補給管9を介して冷却塔本体3に給水し、ステップS12では一定時間t1が経過するのを待機する。
【0086】
そして、一定時間t1が経過すると、ステップS13に進み、第2の切替バルブ36を閉弁して硬水の冷却塔本体3への給水を禁止すると同時又は略同時に第1の切替バルブ35を開弁し、軟水器32からの軟水の冷却塔本体3への給水を許可する。
【0087】
そして、ステップS14では第1の補給管9を介して冷却塔本体3に補給される軟水の積算補給時間をタイマ51aで計時し、補給積算時間が第1の所定時間T1を経過したか否かを判断する。ここで、第1の所定時間T1は、軟水が冷却塔本体3に長時間補給された結果、すなわち循環水の蒸発や飛散に伴う軟水の補給により循環水の硬度成分が希釈された結果、炭酸カルシウム皮膜が維持できないような状態、例えば、ランゲリア指数Lが0となるような時間に設定される。
【0088】
そして、第1の所定時間T1が経過すると、ステップS15に進み、システム制御部47は、第1の切替バルブ35を閉弁して軟水の冷却塔本体3への給水を禁止すると同時又は略同時に第2の切替バルブ36を開弁し、硬水の第1の補給路9への流入を許可し、冷却塔本体3への給水を可能とする。
【0089】
次いで、ステップS16に進み、硬水の補給積算時間が第2の所定時間T2を経過したか否かを判断する。ここで、第2の所定時間T2は、循環水のランゲリア指数Lが再び正値となるような硬水の通水時間に設定される。
【0090】
そして、第2の所定時間T2が経過すると、ステップS13に戻り、システム制御部47は、第2の切替バルブ36を閉弁して硬水の冷却塔本体3への給水を禁止すると同時又は略同時に第1の切替バルブ35を開弁し、軟水器32からの軟水の冷却塔本体3への給水を許可する。
【0091】
以下、ステップS13〜ステップS16の動作を繰り返し、硬水と軟水とを交互に冷却塔本体3に補給し、ランゲリア指数Lが持続して長時間「0」以下となるのを回避して配管腐食が生じるのを抑制している。
【0092】
このように本第2の実施の形態では、タイマ51aの計時時間に応じて第1及び第2の切替バルブ35、36を切替制御し、硬水と軟水とを交互に補給している。そしてこれにより、第1の実施の形態と同様、循環水として主に軟水が補給されてスライムやスケールの発生が抑制される一方、必要に応じて硬水が補給されることから、水質硬度は適度な範囲に管理することができ、配管系の腐食を効果的に抑制することができる。
【0093】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。上記第1の実施の形態では積算流量計37の計測値に基づいて軟水と硬水を交互補給し、上記第2の実施の形態ではタイマ51aの積算補給時間に基づいて軟水と硬水を交互補給しているが、軟水の補給時間については積算流量計に基づいて制御し、硬水の補給時間についてはタイマに基づいて制御してもよく、或いは逆に軟水の補給時間についてはタイマに基づいて制御し、硬水の補給時間については積算流量計に基づいて制御してもよい。また、上記第1及び第2の実施の形態では、運転開始直後の硬水の補給時間をタイマ51aで管理しているが、流量計で管理してもよい。
【0094】
また、上記第1及び第2の実施の形態では、軟水又は硬水の給水タイミング(は必要に応じて可変としてもよい。
【0095】
また、水処理システムでは、希薄食塩水の電気分解処理を定電圧制御で行っているが、定電流制御で行ってもよい。
【0096】
さらに、図1の水処理システムでは、開放式冷却塔を例示したが、密閉式冷却塔についても同様に適用できるのはいうまでもない。
【0097】
また、上記実施の形態では1個の軟水器を使用した場合について説明したが、複数の軟水器を接続し、適宜軟水化処理を切替えるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明に係る冷却塔補給水の水質調整装置を備えた水処理システムの一実施の形態(第1の実施の形態)を示す概略構成図である。
【図2】上記水質調整装置の拡大構成図である。
【図3】水処理システムの制御系を示すブロック構成図である。
【図4】水質調整処理ルーチンの第1の実施の形態を示すフローチャートである。
【図5】硬水と軟水と補給タイミングを示すタイムチャートである。
【図6】運転時間と循環水の硬度との関係を比較例と共に示した概念図である。
【図7】水質調整処理ルーチンの第2の実施の形態を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0099】
9 第1の補給管(第1の補給路)
32 軟水器
34 第2の補給管(第2の補給路)
35 第1の切替バルブ(制御手段)
36 第2の切替バルブ(制御手段)
37 流量計(水質管理手段)
47 システム制御部(制御手段)
51a タイマ(水質管理手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却塔に給水される補給水の水質を調整する冷却塔補給水の水質調整装置であって、
硬度成分を含有した硬水を軟水化して軟水を生成する軟水器と、該軟水器と前記冷却塔とを接続する第1の補給路と、前記軟水器をバイパスして前記第1の補給路に接続される硬水が通過する第2の補給路と、前記第2の補給路から前記第1の補給路への前記硬水の流入を制御する制御手段と、前記冷却塔と被冷却装置とを循環する循環水の水質管理を行う水質管理手段とを備え、
前記制御手段は、前記水質管理手段によって管理される前記循環水の水質状態に応じて前記硬水の前記第1の補給路への流入を許可する流入許可手段を有していることを特徴とする冷却塔補給水の水質調整装置。
【請求項2】
前記水質管理手段は、前記第1の補給路を通過する前記軟水及び前記硬水の積算流量をそれぞれ計測する流量計測手段を備え、
前記流入許可手段は、前記流量計測手段により前記軟水の積算流量が所定値を計測したときは、前記第1の補給路への前記硬水の所定積算流量の流入を許可することを特徴とする請求項1記載の冷却塔補給水の水質調整装置。
【請求項3】
前記水質管理手段は、前記冷却塔に補給される前記軟水及び前記硬水の補給時間を計時する計時手段を備え、
前記流入許可手段は、前記計時手段により前記軟水の前記冷却塔への積算補給時間が第1の所定時間を計時したときは、前記冷却塔への硬水の積算補給時間が第2の所定時間に達するまで前記第1の補給路への前記硬水の流入を許可することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の冷却塔補給水の水質調整装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記流入許可手段により前記硬水の前記第1の補給路への流入が許可されたときは、前記軟水の前記冷却塔への供給を遮断して前記硬水のみを前記冷却塔に給水可能とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の冷却塔補給水の水質調整装置。
【請求項5】
前記冷却塔の運転開始直後は、前記硬水が一定時間前記冷却塔に補給されると共に、前記一定時間経過後は前記軟水が前記冷却塔に供給され、その後は前記循環水の水質に応じて前記硬水と前記軟水とが交互に前記冷却塔に補給可能とされていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の冷却塔補給水の水質調整装置。
【請求項6】
塩素系水溶液が、前記循環水に注入されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の冷却塔補給水の水質調整装置。
【請求項7】
前記硬水は原水であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の冷却塔補給水の水質調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−41844(P2009−41844A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207555(P2007−207555)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】