説明

冷却板

【課題】部位別の温度偏差を減らすことができるように流路の改善された冷却板を提供すること。
【解決手段】発熱体の熱を吸収する冷却水の流路110が設けられた冷却板100において、流路は、冷却水が出入りする流入口110a及び流出口110b付近の体積に比べて流入口110a及び流出口110bの間の中央部112の体積が大きく、その中央部112を通過する冷却水の流量が流入口110a及び流出口110b付近に比べて相対的に多くなるようにした。これにより、部位別の温度偏差を最小限に抑えることができ、熱応力による変形を抑止することができる。また、燃料電池のような冷却対象体に抵抗変化のような悪影響を及ぼす可能性が低下し、安定した性能を保証できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却板に関し、特に、燃料電池などの冷却プロセスに使われる冷却板に係り、部位別の温度偏差を減らすことができるように流路が改善された冷却板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、燃料電池は、燃料の有する化学エネルギーを化学反応により直接電気エネルギーに変える装置であり、燃料が供給される限り続けて電気を作りだすことができる一種の発電装置である。
【0003】
図1は、かかる燃料電池のエネルギー転換構造を概略的に示したものであり、図面でのように、カソード1に酸素を含んだ空気が、アノード3に水素を含有した燃料が供給されれば、電解質膜2を介して水の電気分解と逆反応が進みつつ、電気が発生する。
【0004】
ところで、一般的にかかる単位セル10の一つから発生する電気は、有用に使われるほどにその電圧が高くないために、図2に示すように、いくつかのセル10を直列に連結したスタック20の形態で使用する。このスタック20に積層されている各セル10には、図3に図示されているように、バイポーラプレート4の面流路4aを備え、水素や酸素が各電極1,3に供給されて回収されるための流路が連結されている。
【0005】
従って、図2に示すように、スタック20のエンドプレート21を介して外部から水素と酸素とを供給すれば、各セル10の流路を介し、該当電極に該当物質が経由して循環する。もちろん、前述のように、水素は、化学燃料の状態で、酸素は空気の状態で供給される。
【0006】
一方、このような電気化学反応過程では、電気だけではなく、熱も共に発生するために、燃料電池の円滑な稼動のためには、この熱を継続して冷却する必要がある。このために、燃料電池には、図2でのような熱交換器30が共に備わっており、スタック20には、熱交換用の冷却水が通過するための冷却板5が5,6個のセル10ごとに設置されている。
【0007】
従って、冷却水がこの冷却板5の流路5a(図3)を通過しつつスタック20内の熱を冷却水が吸収し、このように熱を吸収した冷却水は、熱交換器30内で二次冷却水(副冷却水)により冷やされた後で、再びスタック20中へ循環する。
【0008】
ところで、かかる冷却が進むときの冷却板5の部位別温度を測定してみれば、図4に図示されているように、吸熱作用が最も活発な中央部5a−2の温度が最も高く、冷却水が入って出て行く流入口5a−1と流出口5a−3との周辺の温度は、相対的に低い分布を示す。これは、熱交換器30で冷やされた冷却水が流入口5a−1に入った後、中央部5a−2を通過しつつ最も多くの熱を吸収し、さらに中央部5a−2を通過して流出口5a−3に抜け出る間に若干冷えるために、当然のこととして予測される温度分布である。
【0009】
【特許文献1】特開平9−035726号公報
【特許文献2】特開平7−176654号公報
【特許文献3】特開平7−105960号公報
【特許文献4】特開平5−299549号公報
【特許文献5】大韓民国特許公開第2006−0044904号明細書
【特許文献6】米国特許第6492055号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、冷却板5の中央部と両端部との間の温度偏差が非常に大きくなるという問題がある。すなわち、実際に温度偏差を測定した結果によれば、図4に示すように、中央部の温度は約150℃に至り、流入口5a−1付近は約135℃、流出口5a−3付近は約140℃になり、同じ冷却板5内で、部位別に10℃〜15℃の非常に大きな温度偏差が生じることが示されている。このように、温度偏差が大きくなると、熱応力を受けて冷却板5が変形する場合があるばかりではなく、何よりも隣接したセル10での電気化学反応にも好ましくない影響を及ぼしうる。すなわち、温度偏差が大きくなると、セル10内の電解質膜2でも部位別に抵抗値が大きく異なるために、電流密度の偏差が激しくなり、この結果、安定した電圧を生成できなくなる。従って、かかる問題点を解決するためには、部位別温度偏差を最小化できる新しい形態の冷却板が要求されている。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、部位別の温度偏差を可能な限り減らすことが可能な、新規かつ改良された冷却板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、発熱体の熱を吸収する冷却水の流路が設けられた冷却板において、前記流路は、前記冷却水が出入りする流入口及び流出口付近の体積に比べて前記流入口及び流出口の間の中央部の体積が大きく、その中央部を通過する冷却水の流量が前記流入口及び流出口付近に比べて相対的に多くなることを特徴とする、冷却板が提供される。
【0013】
ここで、前記流路は、前記流入口付近の体積に比べて前記流出口付近の体積の方がより大きいものであってもよい。
【0014】
また、前記冷却板は、前記冷却水が前記流入口から流出口に至る少なくとも一部の領域で垂直に流れるように配置されたものであってもよい。
【0015】
また、前記発熱体は、燃料電池のスタックに装着されたセルであり、そのセルでのエネルギー変換過程中に発生する熱を冷却するために使用されるものであってもよい。
【0016】
また、前記流路は、前記流入口及び流出口付近の流路断面積に比べて前記流入口及び流出口の間の中央部の流路断面積が大きいものであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の冷却板は、以下のような効果を奏する。
第一に、冷却水が通過する流路を部位別に差別化して温度偏差を減らすことにより、熱応力による変形を抑えることができる。
第二に、温度偏差が減少するために、燃料電池のような発熱体を冷却する際に、温度偏差による抵抗変化などの発生を抑えることができる。従って、発熱体、すなわち、冷却対象体の安定した性能を保証できる。
第三に、バイポーラプレート内の均一な温度分布を介して熱的ストレスを減らすことにより、プレートまたはスタック構成要素の熱的耐久性の増大、MEA(Membrane Electrode Assembly)の耐久性増大のような効果を得ることができる。
第四に、MEAの温度偏差を既存のものより2倍以上減らすことにより、電流密度の安定性などを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
図5は、本発明の一実施形態による冷却板100が使用される燃料電池のスタック70を図示したものであり、図6は、その冷却板100を拡大して図示したものである。
【0020】
図示されているように、本実施形態の冷却板100も、例示された燃料電池のスタック70に装着されて冷却水を流路110に流しつつ、発熱体から熱を吸収する役割を行う。すなわち、各冷却板100の流入口110aを介して入った冷却水は、流路110を流れつつ、発熱体である燃料電池のセル10から熱を吸収し、流出口110bを介して抜け出した後、熱交換器30の副冷却水で冷却されて再び燃料電池のスタック70に戻ってくる循環を行う。
【0021】
ところで、本実施形態の冷却板100は、流路110が既存のように一直線型に形成されておらず、中央部112が両端部111,113に比べて冷却水をさらに多く収容できるように、体積が差別化された様子に形成されている。これは、冷却板100の中央部112が両端部111,113に比べてさらに多くの熱と接触するために、冷却能力をさらに高めるための措置であり、本実施形態では、流路110の幅を差別化して体積を区間別に異なって設けている。すなわち、中央部112の流路110の幅を、両端部である流入口110aの付近の領域111及び流出口110bの付近の領域113より広くし、冷却水が収容される空間を大きくすることにより、中央部112の冷却能力を相対的にさらに大きくしたのである。このように、本実施形態では、中央部112の流路110の体積が、両端部である流入口110aの付近の領域111及び流出口110bの付近の領域113の流路の体積よりも大きくなるように構成されている。この構成を実現するため、例えば、中央部112の流路断面積を、両端部である流入口110aの付近の領域111及び流出口110bの付近の領域113の流路断面積よりも大きくなるように構成することができる。また、中央部112の流路の体積を両端部の領域111及び領域113の流路の体積よりも大きくするため、流路110の幅を調整する他に、流路110の長さ、冷却板100の厚さ方向における流路110の深さを調整しても良い。これにより、中央部112を流れる冷却水の量が流入口110aの付近の領域111や流出口110bの付近の領域113に比べて多くなるために、相対的に熱が多く発生する領域が冷却水により接触することになり、多量の熱を吸収できるようになる。
【0022】
このように区間別に冷却能力が差別化された冷却板100を燃料電池に装着して使用した場合の区間別温度をシミュレーションした結果、図7のグラフのような結果を確認することができた。ここでは、流入口110aの付近の領域111−中央部112−流出口110bの付近の領域113の流路110の幅をそれぞれ3mm−7mm−4mmにした場合(実線)と、3mm−5mm−4mmにした場合(点線)とに設定してシミュレーションを実施したが、グラフに示されているように、いずれの場合にも従来に比べて中央部112の温度が大幅に低くなっているということが分かる。これは、中央部112の冷却能力増大によるものであり、冷却板100の部位別最高温度と最低温度との差も既存に比べて半分程度に小さくなっている。従って、部位別温度偏差が既存の1/2に減少するので、熱応力による変形発生の可能性や抵抗変化による電流密度偏差発生の可能性を顕著に減らすことができる。
【0023】
図8は、流入口110aの付近の領域111−中央部112−流出口110bの付近の領域113の流路110の幅をそれぞれ3mm−7mm−4mmにした場合において、冷却水の流量を最大水位の80%とした場合(実線)と、50%とした場合(点線)との冷却板100の温度分布をシミュレーションしたものである。ここでも、流量によって全体的に温度が増減することはあるが、同様に既存に比べて、部位別温度偏差は大きく減少するということを確認することができる。
【0024】
図9は、発熱量の尺度のヒートフラックス(heat flux)の多い場合(実線)と少ない場合(点線)とでの温度分布を、既存と比較してシミュレーションしたものであり、同様に発熱量による全体的な温度の増減はあるが、部位別温度偏差が減少するパターンはそのまま示されている。
【0025】
従って、かかるシミュレーション結果を総合してみれば、本実施形態のように中央部112の冷却水収容体積を両端部111,113に比べて大きくした場合、さまざまな変数が作用しても、冷却板100の部位別温度偏差を、既存に比べて1/2レベルに減らすことができるということには、変わりないということが分かる。
【0026】
一方、上述した実施形態では、流入口110aの付近の領域111と流出口110bの付近の領域113とのうちで、流出口110bの付近の領域113の体積をさらに大きくした場合を例示したが、もちろん反対に流入口110aの付近の領域111がさらに大きくなるように設けることも可能である。ところで、そのようにする場合には、図10のシミュレーション結果に示されているように、流出口110bの付近の領域113の温度が高まり、全体的な温度偏差が8〜9℃ほど生じるということが分かる。これは、流入口110aの付近の領域111は、冷えた冷却水が通過する区間であり、流出口110bの付近の領域113が中央部112を通過した吸熱状態の冷却水が通過する区間であるので、相対的に流出口110bの付近の領域113の温度が高いのであるが、反対に流出口110bの付近の領域113の流路110を小さくしたために示される現象と判断される。もちろん、中央部112の温度が低くなるので、既存に比べては全体的な温度偏差が多少減るが、望ましくは、流路110の体積を「中央部112>流出口110bの付近の領域113>流入口110aの付近の領域111」の順序にすることが温度偏差を最小化するにおいて最も効果的である。
【0027】
なお、前記の実施形態では流路110の幅を異にして冷却水が収容される体積を変化させたが、それ以外に、流路の深さや長さを差別化して体積を調整することが可能であることはいうまでもない。
【0028】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の流路の改善された冷却板は、例えば、燃料電池関連の技術分野に幅広く効果的に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】一般的な燃料電池の発電原理を示した図である。
【図2】従来の冷却板が採用された燃料電池のスタック構造を図示した図である。
【図3】図2に図示された燃料電池のスタック中の単位セルでの物質循環構造を示した図である。
【図4】図2に図示された冷却板の部位別温度分布を示した図である。
【図5】本発明の冷却板が採用された燃料電池のスタック構造を図示した図である。
【図6】図5に図示された冷却板を拡大して図示した図である。
【図7】図5に図示された冷却板の部位別温度分布を、さまざまな変数を調整してシミュレーションした結果を表した特性図である。
【図8】図5に図示された冷却板の部位別温度分布を、さまざまな変数を調整してシミュレーションした結果を表した特性図である。
【図9】図5に図示された冷却板の部位別温度分布を、さまざまな変数を調整してシミュレーションした結果を表した特性図である。
【図10】図5に図示された冷却板の部位別温度分布を、さまざまな変数を調整してシミュレーションした結果を表した特性図である。
【符号の説明】
【0031】
1 カソード
2 電解質膜
3 アノード
4 バイポーラプレート
4a バイポーラプレートの面流路
5,100 冷却板
5a 冷却板の流路
5a−1,110a 冷却板の流入口
5a−2,112 冷却板の中央部
5a−3,110b 冷却板の流出口
10 セル
20,70 スタック
21 スタックのエンドプレート
30 熱交換器
110 流路
111 冷却板の端部(流入口付近)
113 冷却板の端部(流出口付近)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体の熱を吸収する冷却水の流路が設けられた冷却板において、
前記流路は、前記冷却水が出入りする流入口及び流出口付近の体積に比べて前記流入口及び流出口の間の中央部の体積が大きく、その中央部を通過する冷却水の流量が前記流入口及び流出口付近に比べて相対的に多くなることを特徴とする、冷却板。
【請求項2】
前記流路は、前記流入口付近の体積に比べて前記流出口付近の体積の方がより大きいことを特徴とする、請求項1に記載の冷却板。
【請求項3】
前記冷却水が前記流入口から前記流出口に至る少なくとも一部の領域で垂直に流れるように配置されたことを特徴とする、請求項1又は2に記載の冷却板。
【請求項4】
前記発熱体は、燃料電池のスタックに装着されたセルであり、そのセルでのエネルギー変換過程中に発生する熱を冷却するために使用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の冷却板。
【請求項5】
前記流路は、前記流入口及び流出口付近の流路断面積に比べて前記流入口及び流出口の間の中央部の流路断面積が大きいことを特徴とする、請求項1に記載の冷却板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−21652(P2008−21652A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181229(P2007−181229)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】