説明

冷却水系の腐食ないし孔食の停止方法

【課題】排水規制などの理由でリンが使用できず、亜鉛のみを防食成分として使用している冷却水系において、水系内の金属部材に腐食ないし孔食の進行が認められた場合に、速やかに腐食ないし孔食を停止させる。
【解決手段】非リン、亜鉛処理を行う冷却水系において、金属部材の進行している腐食ないし孔食を停止させる方法であって、分子量200〜1000のポリエポキシコハク酸及び/又はその水溶性塩を、固形分として15〜100mg/Lとなるように、冷却水系循環水にバッチ添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水系において水処理を実施する場合に、排水規制などの理由でリンが使用できず、亜鉛のみを防食成分として使用している冷却水系において、水系内の金属部材に腐食ないし孔食の発生が認められた場合に、速やかに腐食ないし孔食を停止させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水系における金属腐食は、製品の生産効率の低下やプラントの緊急停止など経済的に大きな問題を引き起こす。そのため、従来、冷却水系における金属の防食方法については多くの方法が提案されており、金属の腐食を止める方法として、一般的にはリン・亜鉛の高濃度添加が実施されている。
しかし、近年の排水規制の強化により、冷却水系においてリンを使用できない場合が増えてきている。このため、リンを使用せず、亜鉛のみを防食成分として用いる冷却水系において、腐食ないし孔食が進行した場合に、腐食ないし孔食の進行を抑制する技術が望まれている。
【0003】
なお、本発明で用いるポリエポキシコハク酸類を用いた水系の処理については、特許文献1,2に提案されているが、特許文献1は、CaCOスケールの抑制に関するものであり、また、特許文献2は、防食効果についての記載はあるが、亜鉛併用時の進行中の腐食ないし孔食の停止に関する効果についての認識は全くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】USP5,062,962
【特許文献2】特開平4−166298
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の如く、近年の排水規制の強化により、冷却水系においてリンを使用できない場合が増えてきており、このリンを使用せず、亜鉛のみを防食成分として用いる冷却水系において腐食ないし孔食が発生した場合に、腐食ないし孔食の進行を抑制する技術が望まれている。
【0006】
本発明は、排水規制などの理由でリンが使用できず、亜鉛のみを防食成分として使用している冷却水系において、水系内の金属部材に腐食ないし孔食の進行が認められた場合に、速やかに腐食ないし孔食を停止させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の分子量のポリエポキシコハク酸及び/又はその水溶性塩(以下、これらを「ポリエポキシコハク酸(塩)」と称す場合がある。)が、非リン、亜鉛存在下の冷却水系において、進行している腐食ないし孔食を速やかに停止させることができることを知見した。
【0008】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、本発明(請求項1)の冷却水系の腐食ないし孔食の停止方法は、非リン、亜鉛処理を行う冷却水系において、金属部材の進行している腐食ないし孔食を停止させる方法であって、分子量200〜1000のポリエポキシコハク酸及び/又はその水溶性塩を、固形分として15〜100mg/Lとなるように、冷却水系循環水にバッチ添加することを特徴とする。
【0009】
請求項2の冷却水系の腐食ないし孔食の停止方法は、請求項1において、前記冷却水循環水が亜鉛を1〜3mg/L含むことを特徴とする。
【0010】
請求項3の冷却水系の腐食ないし孔食の停止方法は、請求項1又は2において、前記冷却水系に、スケール防止剤として低分子量ポリマーを固形分として5〜50mg/L添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リンを使用せず、防食成分として亜鉛を使用している冷却水系において、ポリエポキシコハク酸(塩)を高濃度でバッチ添加することにより、亜鉛を金属表面に効率よく薄く付着させると共に、ポリエポキシコハク酸(塩)のもつ防食力により、腐食ないし孔食の進行を速やかに抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例で用いた試験装置を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の冷却水系の腐食ないし孔食の停止方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
本発明においては、リンを使用せず、亜鉛を防食成分として用いる冷却水系において、発生している腐食ないしは孔食の進行を停止するためにポリエポキシコハク酸(塩)を添加する。
【0015】
本発明において、非リン、亜鉛処理を行っている冷却水系とは、リンを実質的に含まず、防食成分としての亜鉛を例えば硫酸亜鉛、塩化亜鉛等の亜鉛塩として添加している冷却水系であり、その水中の亜鉛濃度は1〜3mg/Lであることが好ましい。亜鉛濃度が低過ぎると亜鉛による防食効果が得られず、高過ぎるとスケール化が生じる。
【0016】
なお、この冷却水系のpHとしては特に制限はないが、通常7.0〜9.0程度である。
【0017】
本発明で用いるポリエポキシコハク酸(塩)としては、ポリエポキシコハク酸又はそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩などが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
ポリエポキシコハク酸(塩)の分子量は大き過ぎるとカルシウムとの間でスケール化が生じ、小さ過ぎると効果が不十分となる。従って、ポリエポキシコハク酸(塩)の分子量は200〜1000であることが好ましい。
【0019】
ポリエポキシコハク酸(塩)は、冷却水系の循環水に対して水中の固形分濃度として15〜100mg/L、好ましくは20〜50mg/Lとなるようにバッチ添加される。ここでバッチ添加とは、1回の添加濃度として15〜100mg/Lとなるように添加することをさす。ポリエポキシコハク酸(塩)の添加量が上記下限よりも少ないと十分な添加効果を得ることができず、腐食ないしは孔食の進行を防止し得ない。ポリエポキシコハク酸(塩)の添加量が上記上限を超えるとカルシウムとのスケール化が生じる。
なお、本発明においては、ポリエポキシコハク酸(塩)を上記の添加濃度でバッチ添加するが、ポリエポキシコハク酸(塩)を上記の添加濃度で添加することにより、通常、腐食ないし孔食の進行防止効果が十分に得られるため、ポリエポキシコハク酸(塩)を繰り返し添加する必要はなく、次回のポリエポキシコハク酸(塩)のバッチ添加としては、更なる腐食ないし孔食が発生したときでよい。
【0020】
本発明においては、非リン、亜鉛処理の冷却水系に所定量のポリエポキシコハク酸(塩)を添加することにより、十分な腐食ないし孔食の進行抑制効果を得ることができるが、更に、スケール防止剤として低分子量ポリマーを添加することが好ましく、低分子量ポリマーの添加によりスケール抑制効果が向上する。
【0021】
低分子量ポリマーとしては特に制限はなく、冷却水系のスケール防止剤として用いられているものをいずれも好適に用いることができる。例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、HAPS(2−ヒドロキシ−3−アリルオキシ−1−プロパンスルホン酸)、マレイン酸、AMPS(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、HEMA(2−ヒドロキシエチルメタアクリレート)、アクリル酸メチル、スチレンスルホン酸、イソブチレンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上のモノマーが重合又は共重合した、ホモポリマー又はコポリマー、好ましくはアクリル酸、メタアクリル酸、HAPS、マレイン酸、AMPSよりなる群から選ばれる1種又は2種以上のモノマーが重合又は共重合した、ホモポリマー又はコポリマーであって、平均分子量が5000〜50000の低分子量水溶性ポリマーが挙げられる。
【0022】
低分子水溶性ポリマーとしては、特にマレイン酸又はアクリル酸のホモポリマー或いは、アクリル酸とHAPSとのモル比20〜80:80〜20のコポリマー、アクリルアミドとAMPSとのモル比20〜80:80〜20のコポリマー、マレイン酸とイソブチレンとのモル比50〜80:50〜20のコポリマー等が好適である。
これらの低分子ポリマーは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0023】
低分子量ポリマーの添加量としては、冷却水系の循環水中の固形分濃度として5〜50mg/L、特に5〜20mg/Lとすることが好ましい。この添加濃度が低過ぎると、十分な添加効果が得られず、高過ぎるとカルシウムとのスケール化が生じる。
【0024】
本発明の冷却水系の腐食ないし孔食の停止方法は、非リン、亜鉛処理を行っている冷却水系であって、系内に鉄、銅、ステンレス鋼、ニッケルあるいはこれらの合金よりなる配管等に発生した腐食ないし孔食の更なる進行を停止させるために有効である。この冷却水系内の腐食ないし孔食の発生については、定期的な水質分析(鉄濃度の上昇)やモニタリングにより検知することができる。従って、冷却水系内の腐食ないし孔食の発生を検知した場合には、直ちにポリエポキシコハク酸(塩)を添加することにより、腐食ないし孔食の進行を速やかに停止させることができる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0026】
[試験方法]
図1に示す試験装置を用いて、以下の手順で金属の腐食面に対する防食効果を調べる試験を行った。
【0027】
(1) Mアルカリ度の調整に5重量%重炭酸ナトリウム水溶液を用い、低分子量ポリマーとしてアクリル酸/HAPS(分子量10000,アクリル酸:HAPS=2:8(モル比))を用い、カルシウム硬度の調整に10重量%塩化カルシウム水溶液を用い、塩化物イオン濃度の調整に10重量%塩化ナトリウム水溶液を用い、硫酸イオン濃度の調整に硫酸ナトリウム水溶液を用い、また、pH調整に硫酸を用いると共に、亜鉛溶液として10重量%硫酸亜鉛水溶液を用いて、これらを純水に添加して、下記水質の合成水を調製した。
【0028】
<合成水水質>
Mアルカリ度:200mg/L as CaCO
低分子量ポリマー濃度:15mg/L(固形分)
カルシウム硬度:500mg/L as CaCO
塩化物イオン濃度:500mg/L
硫酸イオン濃度:500mg/L
亜鉛濃度:2mg/L
pH:8.6
【0029】
(2) 上記合成水を母液タンク1に入れ、母液タンク1内の合成水を試験タンク(保有水量50L)2に移送し、試験タンク2からポンプ3により、流速0.5m/秒で装置内を循環通水させ、滞留時間が80時間となるようにオーバーフローさせた。循環系には予め腐食部を形成させた炭素鋼チューブ4を取り付け、炭素鋼チューブ4と炭素鋼センサー5との間に流れる電流を孔食電流計測部6で測定し、10μA以上の電流が流れていることを確認した。
なお、炭素鋼センサーとは、特開平2−310452、特開平5−142140に記載された腐食モニタリングセンサー(装置)である。
【0030】
(3) その後、分子量500のポリエポキシコハク酸を、固形分として所定の濃度となるように添加した。
【0031】
(4) ポリエポキシコハク酸添加から4日後に炭素鋼チューブ4と炭素鋼センサー5との間に流れる電流を孔食電流計測部6で測定し、低下率を算出した。
【0032】
(5) 更に14日後に炭素鋼チューブ4を引き上げ、孔食深さを測定し、一年当たりの孔食深さとしての換算値を算出した。
【0033】
[実施例1〜3]
上記試験方法において、ポリエポキシコハク酸を表1に示す濃度で添加して試験を行った。
【0034】
[比較例1]
上記試験方法において、ポリエポキシコハク酸を添加せずに試験を行った。
【0035】
[比較例2]
上記試験方法において、合成水の調整の際に硫酸亜鉛水溶液を添加せず、また、ポリエポキシコハク酸を添加せずに試験を行った。
【0036】
[比較例3〜5]
上記試験方法において、合成水の調整の際に亜鉛を添加せずに、ポリエポキシコハク酸を表1に示す濃度で添加して試験を行った。
【0037】
[試験結果]
実施例1〜3及び比較例1〜5の結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
[考察]
表1より次のことが分かる。
・亜鉛が存在する系にポリエポキシコハク酸を添加することで、孔食電流値が大幅に低下する。
・亜鉛を使用しない系にポリエポキシコハク酸を添加した場合、孔食電流値の低下率は小さい。
・ポリエポキシコハク酸の添加濃度を増やすことで、孔食電流の低下が促進される。
・孔食深さ進行速度も亜鉛存在系にポリエポキシコハク酸を15〜100mg/L添加することで小さくなる。
【符号の説明】
【0040】
1 母液タンク
2 試験タンク
3 循環ポンプ
4 炭素鋼チューブ
5 炭素鋼センサー
6 孔食電流計測部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非リン、亜鉛処理を行う冷却水系において、金属部材の進行している腐食ないし孔食を停止させる方法であって、分子量200〜1000のポリエポキシコハク酸及び/又はその水溶性塩を、固形分として15〜100mg/Lとなるように、冷却水系循環水にバッチ添加することを特徴とする冷却水系の腐食ないし孔食の停止方法。
【請求項2】
請求項1において、前記冷却水循環水が亜鉛を1〜3mg/L含むことを特徴とする冷却水系の腐食ないし孔食の停止方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記冷却水系循環水系に、スケール防止剤として低分子量ポリマーを固形分として5〜50mg/L添加することを特徴とする冷却水系の腐食ないし孔食の停止方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−207281(P2012−207281A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74620(P2011−74620)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】