説明

冷却液組成物

【課題】各種金属の腐食を抑制するとともに、チアゾール二量体(DM)の析出の抑制とゴムの劣化を抑制する。
【解決手段】1.0〜5.0質量%の脂肪族二塩基酸と、金属リン換算で0.05〜0.5質量%のリン酸と、0.1〜0.3質量%のチアゾール類と、を含み、水酸化ナトリウムにてpH値を7.0〜8.0に調整した。脂肪族二塩基酸とリン酸によって金属の腐食を抑制でき、チアゾール類と水酸化ナトリウムとによってDMの析出とゴムの劣化を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの内燃機関の冷却水中に混合され、冷却水の凍結を防止する冷却液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車エンジンの冷却水には、アルコール類やグリコール類などの融点降下剤を主成分とする冷却液が添加され、冬季の凍結が防止されている。ところがアルコール類やグリコール類には防錆作用が全くないばかりか、高温で循環中に酸素と接触することにより酸化され、生成した酸化物が冷却水流路を構成する金属の腐食を促進するという不具合がある。
【0003】
そこで冷却液には一般に、リン酸塩,ホウ酸塩,炭酸塩,硫酸塩,硝酸塩,モリブデン酸塩,安息香酸塩,ケイ酸塩,ベンゾトリアゾール,メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩,トリルトリアゾール,トリエタノールアミン塩などから選ばれる防錆剤が添加されている。このように防錆剤が添加された冷却液は冷却水に所定量混合され、使用時における金属の腐食が防止されている。
【0004】
またリン酸又はそのアルカリ金属塩は、アルミニウム及びアルミニウム合金の腐食抑制に大きく寄与し、キャビテーション下におけるアルミニウム防食性が大きく向上することが知られている。しかしリン酸塩は、硬水成分と反応して沈殿を生成するという問題があった。
【0005】
そこで再公表特許WO2005/033362号には、リン酸と、P-tert-ブチル安息香酸(PTBBA)と、硝酸マグネシウムと、2-ホスホノブタン-1,2,4トリカルボン酸と、トリルトリアゾールと、を含み、水酸化カリウムでpH値を8.0に中和した冷却液組成物が開示されている。また再公表特許WO2005/037951号には、リン酸と、P-tert-ブチル安息香酸と、セバシン酸と、モリブデン酸ナトリウムと、硝酸ストロンチウムと、2-ホスホノブタン-1,2,4トリカルボン酸と、トリルトリアゾールと、2-メルカプトベンゾチアゾールソーダとを含み、水酸化カリウムで中和した冷却液組成物が開示されている。
【0006】
これらの冷却液組成物によれば、高温時のアルミニウム合金の腐食防止性に優れるばかりでなく、硬水成分と反応して沈殿を生成することもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/033362号
【特許文献2】国際公開第2005/037951号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが従来の冷却液組成物においては、鉄、アルミニウム合金などに対する腐食抑制効果は高いものの、銅系金属用防錆剤の一つであるチアゾールを多量に配合すると、冷却液が日光(紫外線)に曝された時、チアゾールの二量体(DM)の沈殿が生成する。例えばリザーブタンク内でこの沈殿が生成すると、視認性が悪化したり、ホースに詰まりが生じるなどの不具合が生じる。一方、この不具合を回避するためにチアゾールの配合量をむやみに減らすと、ラジエータホースなどのゴム部品への適合性が悪化する恐れがある。チアゾールは、銅系金属用防錆剤として作用する一方、ゴムの劣化を抑制する作用も併せ持つためである。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、鉄、アルミニウム合金など各種金属の腐食を抑制できるとともに、ゴムの劣化の抑制とDMの析出も抑制できる冷却液組成物とすることを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決できる本発明の冷却液組成物の特徴は、アルコール類及びグリコール類から選ばれる融点降下剤を主成分とする冷却液組成物であって、組成物100質量%あたり、1.0〜5.0質量%の脂肪族二塩基酸と、金属リン換算で0.05〜0.5質量%のリン酸と、0.1〜0.3質量%のチアゾール類と、を含み、水酸化ナトリウムにてpH値が7.0〜8.0に調整されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の冷却液組成物によれば、鉄、アルミニウム合金など各種金属の腐食を抑制できるとともに、ゴムの劣化の抑制とDMの析出を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
融点降下剤であるアルコール類及びグリコール類としては、メタノール,エタノール,2−プロパノール,モノエチレングリコール,プロピレングリコール、1,3ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどを単独で、或いは2種以上混合して用いることができる。
【0013】
脂肪族二塩基酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピペリン酸、スベリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ブラシル酸、タプチン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸などが例示される。炭素数9〜12のものが好ましく、溶解性及び防食性に優れたセバシン酸が特に好ましい。炭素数が9未満の脂肪族2塩基酸では鉄に対する防食性が低下し、炭素数が13以上では溶解性が低く貯蔵安定性が低下する。
【0014】
脂肪族二塩基酸の添加量は、組成物100質量%あたり1.0〜5.0質量%とする。1.0質量%未満では鉄、鋼、黄銅、はんだの腐食を抑制することが困難となり、5.0質量%を超えて添加しても効果が飽和するとともに高価となる。
【0015】
リン酸としては、正リン酸、ピロリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸などが例示される。このリン酸はアルミニウム及びアルミニウム合金の腐食抑制に大きく寄与し、キャビテーション下におけるアルミニウム防食性が大きく向上する。リン酸は、組成物100質量%あたり金属リン換算で0.05〜0.5質量%含有される。金属リン換算で0.05質量%未満ではアルミニウム及び鉄の防食性が不十分となり、0.5質量%を超えて含有すると黄銅に対する防食性が低下する。
【0016】
チアゾール類は、主としてゴムの劣化を抑制する。チアゾール類としては、ベンゾチアゾール、ポリベンゾチアゾール、メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩、べんぞチアゾリルチオプロピオン酸などを挙げることができる。このチアゾール類の添加量は、組成物100質量%あたり0.1〜0.3質量%とする。チアゾール類の添加量が0.1質量%未満では、ゴムの劣化を抑制することが困難となり、0.3質量%を超えて添加すると、日光(紫外線)に曝された時、多量のDMが析出して沈殿する。例えばリザーブタンク内でこの沈殿が生成すると、視認性が悪化したり、ホースに詰まりが生じるなどの不具合が生じる。
【0017】
本発明の最大の特徴は、少なくともリン酸と脂肪族二塩基酸を水酸化ナトリウムで中和してなることにある。水酸化カリウムや水酸化リチウムで中和した場合には、チアゾールをより多く配合しないとゴムの劣化を抑制することができず、その背反としてDMが多量に析出する恐れがある。なお中和のpH値は7.0〜8.0である。pH値が7.0未満では各種金属の腐食抑制効果が低下し、pH値が8.0を超えるとアルミニウム及びアルミニウム合金の防食性が低下する。中和されることで、添加される各種薬剤が完全に溶解した状態となる。
【0018】
本発明の冷却液組成物には、組成物100質量%あたり1.0〜5.0質量%のアルキル安息香酸をさらに含むことが好ましい。アルキル安息香酸を添加することで、鉄及びはんだの腐食をさらに抑制することができる。アルキル安息香酸としては、p-トルイル酸、p-エチル安息香酸、p-プロピル安息香酸、p-イソプロピル安息香酸、p-tertブチル安息香酸などが挙げられる。カリウムやリチウムなどナトリウム以外のアルカリ金属の塩として添加するのは好ましくなく、アルキル安息香酸として添加し上述の水酸化ナトリウムで中和することでナトリウム塩とすることが好ましい。
【0019】
アルキル安息香酸の添加量が1.0質量%未満では添加した効果が得られず、5.0質量%を超えて添加しても効果が飽和し他の成分の添加量が制限されるため好ましくない。なおアルキル安息香酸を添加することで脂肪族二塩基酸の添加量を低減することができ、コストを安価とすることができる。また後述のモリブデン酸塩と併用することで、鉄の防食性がさらに向上する。
【0020】
本発明の冷却液組成物には、組成物100質量%あたり0.05〜1.0質量%のトリアゾール類をさらに含むことも好ましい。トリアゾール類を添加することで銅の腐食をさらに抑制することができる。トリアゾール類としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、4-フェニル-1,2,3-トリアゾール、2-ナフトトリアゾール、4-ニトロベンゾトリアゾールなどが例示される。トリアゾール類の添加量が0.05質量%未満では添加した効果が得られず、1.0質量%を超えて添加しても効果が飽和し他の成分の添加量が制限されるため好ましくない。
【0021】
本発明の冷却液組成物には、組成物100質量%あたり0.05〜1.0質量%の硝酸塩を含むことも好ましい。硝酸塩を添加することでアルミニウム及びアルミニウム合金の孔食をさらに抑制することができる。この硝酸塩は、カリウムやリチウムなどナトリウム以外のアルカリ金属の塩は好ましくなく、硝酸ナトリウムが特に好ましい。硝酸塩の添加量が0.05質量%未満では添加した効果が得られず、1.0質量%を超えて添加しても効果が飽和し他の成分の添加量が制限されるため好ましくない。
【0022】
本発明の冷却液組成物には、組成物100質量%あたり0.1〜0.2質量%のモリブデン酸塩を含むことも好ましい。モリブデン酸塩を添加することで鉄の腐食をさらに抑制することができる。このモリブデン酸塩としては、カリウムやリチウムなどナトリウム以外のアルカリ金属の塩は好ましくなく、ナトリウム塩が特に好ましい。モリブデン酸塩の添加量が0.1質量%未満では添加した効果が得られず、0.2質量%を超えて添加しても効果が飽和し他の成分の添加量が制限されるため好ましくない。
【0023】
本発明の冷却液組成物には、組成物 100質量%あたり金属換算で0.0001〜0.1質量%のアルカリ土類金属化合物を含むことも好ましい。アルカリ土類金属化合物は、高温時におけるアルミニウム及びアルミニウム合金の腐食を大きく抑制する作用をもつ。したがってウォータポンプのアルミハウジングに対するキャビテーション、エロージョン、コロージョンが防止され、高温のアルミニウム鋳物伝熱面防食性がさらに向上する。
【0024】
アルカリ土類金属化合物としては、酸化物,水酸化物,過マンガン酸塩,クロム酸塩,フッ化物,ヨウ化物,炭酸塩,硝酸塩,硫酸塩,チタン酸塩,タングステン酸塩,ホウ酸塩,リン酸塩,リン酸二水素塩,蟻酸塩,酢酸塩,プロピオン酸塩,酪酸塩,吉草酸塩,ラウリン酸塩,ステアリン酸塩,オレイン酸塩,グルタミン酸塩,乳酸塩,コハク酸塩,リンゴ酸塩,酒石酸塩,マレイン酸塩,クエン酸塩,シュウ酸塩,マロン酸塩,セバシン酸塩,安息香酸塩,フタル酸塩,サリチル酸塩,マンデル酸塩などを用いることができる。
【0025】
アルカリ土類金属化合物としては、カルシウム化合物及びマグネシウム化合物の少なくとも一種を用いることが望ましい。カルシウム化合物及びマグネシウム化合物は、一方のみを配合してもよいし、両者を共に配合することもできるが、カルシウム化合物の方がマグネシウム化合物より防食効果が大きいので、少なくともカルシウム化合物を配合することが望ましい。なお、併用の場合におけるカルシウム化合物とマグネシウム化合物の混合割合は、金属換算の質量比でカルシウム化合物/マグネシウム化合物=1/2が望ましい。
【0026】
アルカリ土類金属化合物の添加量が金属換算で0.0001質量%未満では添加した効果が得られず、0.1質量%を超えて添加しても効果が飽和し他の成分の添加量が制限されるため好ましくない。
【0027】
本発明の冷却液組成物には、イオン封鎖剤として、組成物 100質量%あたり0.01〜1.0質量%の2-ホスホノブタン-1,2,4トリカルボン酸を含むことも好ましい。2-ホスホノブタン-1,2,4トリカルボン酸を含むことで、アルミニウム鋳物伝熱面防食性がさらに向上する。2-ホスホノブタン-1,2,4トリカルボン酸の添加量が0.01質量%未満では添加した効果が得られず、1.0質量%を超えて添加しても効果が飽和し他の成分の添加量が制限されるため好ましくない。2-ホスホノブタン-1,2,4トリカルボン酸は、カリウムやリチウムなどナトリウム以外のアルカリ金属の塩として添加するのは好ましくなく、ナトリウム塩として添加することが好ましい。
【0028】
ところでアルカリ土類金属化合物の添加により、冷却水流路にスケール状の堆積物を形成する恐れがある。この場合には、さらに2-ホスホノブタン-1,2,4トリカルボン酸を添加することにより、アルカリ土類金属化合物の添加量を低減しても、アルカリ土類金属化合物の添加量が多い場合と同等以上の防食性能が得られ、かつ堆積物の形成を防止することができる。
【0029】
本発明の冷却液組成物は、冷却水中に通常20〜60体積%混合されて使用される。したがって貯蔵安定性及び取り扱い性の観点から、冷却液組成物の原液状態で各薬剤は完全に溶解している必要があり、本発明の冷却液組成物は原液状態でも希釈状態でも完全に溶解した均一な状態となっている。
【0030】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。なお以下の「%」は全て「質量%」を意味する。
【実施例1】
【0031】
表1にも示すように、セバシン酸4.0%、リン酸を金属リン換算で0.15%、チアゾール0.2%、硝酸ナトリウム0.3%、トリアゾール0.5%、水4.0%、エチレングリコール残部を混合し、水酸化ナトリウムでpH値を7.7に調整して、実施例1の冷却液組成物とした。
【実施例2】
【0032】
セバシン酸の添加量を1.0%としたこと以外は実施例1と同様である。
【実施例3】
【0033】
セバシン酸の添加量を5.0%としたこと以外は実施例1と同様である。
(比較例1)
セバシン酸の添加量を0.5%としたこと以外は実施例1と同様である。
<試験・評価>
実施例1、2及び比較例1の冷却液組成物について、 JIS K2234 に規定された金属腐食性試験に準拠した高温金属腐食試験を行った。ただし液温を120℃とし、空気を通気せず加圧密閉容器中にて行った。結果を表1に示す。なお以下の表には、JIS K2234 に規定された各金属の重量増減の合格範囲を併せて示している。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から、比較例1は各実施例に比べて鋳鉄、鋼、黄銅、はんだの重量減少が大きいことがわかる。また試験片の目視観察によると、比較例1ではアルミニウムが黒変し、はんだには肌荒れが生じていた。したがって脂肪族二塩基酸(セバシン酸)の添加量は、1.0〜5.0質量%が好ましいことが明らかである。
【実施例4】
【0036】
リン酸の添加量を金属リン換算で0.50%としたこと以外は実施例1と同様である。
【実施例5】
【0037】
リン酸の添加量を金属リン換算で0.05%としたこと以外は実施例1と同様である。
(比較例2)
リン酸の添加量を金属リン換算で0.60%としたこと以外は実施例1と同様である。
(比較例3)
リン酸の添加量を金属リン換算で0.01%としたこと以外は実施例1と同様である。
<試験・評価>
実施例4、5及び比較例2、3の冷却液組成物について、JIS K2234 に規定された金属腐食性試験に準拠した高温金属腐食試験を行った。ただし液温を120℃とし、空気を通気せず加圧密閉容器中にて行った。結果を実施例1の結果と共に表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2から、実施例4、5に比べて比較例2は黄銅の重量減少が大きく、比較例3は鋳鉄、鋼、黄銅、はんだの重量減少が大きいことがわかる。また試験片の目視観察によると、比較例2、3ではアルミニウムが黒変し、はんだには肌荒れが生じていた。また実施例4では、黄銅に変色が認められた。したがってリン酸の添加量は、0.05〜0.5質量が好ましいことが明らかである。
【実施例6】
【0040】
チアゾールの添加量を0.1%としたこと以外は実施例1と同様である。
【実施例7】
【0041】
チアゾールの添加量を0.3%としたこと以外は実施例1と同様である。
(比較例4)
チアゾールを添加しなかったこと以外は実施例1と同様である。
(比較例5)
チアゾールの添加量を0.5%としたこと以外は実施例1と同様である。
(比較例6)
チアゾールの添加量を0.3%とし、水酸化ナトリウムに代えて水酸化カリウムを用いてpHを7.7に調整したこと以外は実施例1と同様である。
(比較例7)
チアゾールの添加量を0.3%とし、水酸化ナトリウムに代えて水酸化リチウムを用いてpHを7.7に調整したこと以外は実施例1と同様である。
<試験・評価>
実施例1、実施例6、7及び比較例4〜7の冷却液組成物について、ゴムに対する作用を試験した。各冷却液組成物をイオン交換水にて濃度50容量%に希釈して密閉容器内に入れ、液温を120℃に保持した状態でEPDMからなるゴム材を1200時間浸漬した。その後ゴム材を取り出し、JIS K6253に規定するゴム硬度をそれぞれ測定して浸漬前のゴム硬度との差を算出した。硬度変化が+10ポイント未満のものを○と評価し、硬度変化が+10ポイント以上のものを×と評価して、結果を表3に示す。
【0042】
また、各冷却液組成物をイオン交換水にて濃度30容量%に希釈し、無職透明なガラス製100mlメスシリンダーにそれぞれ100ml入れた。これらを室内の日光が当たる場所に置き、室温で7日間静置した。その後の各冷却液組成物の状態を目視で観察し、DMの析出量が10容量%未満のものを○と評価し、DMの析出量が10容量%以上のものを×と評価して、結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
比較例4、6、7ではゴムが硬化する劣化が認められた。また比較例5では、冷却液組成物に沈殿が認められた。したがってチアゾールの添加によりゴムの劣化を防止することができ、チアゾールの添加量は0.1〜0.3質量%が好ましいことが明らかである。そして実施例6と比較例6、7との比較から、水酸化カリウム又は水酸化リチウムで中和した場合にはチアゾールを添加してもゴムの劣化がさけられないが、水酸化ナトリウムで中和することでチアゾールとの協同によってゴムの劣化を確実に防止できることが明らかである。
【実施例8】
【0045】
水酸化ナトリウムによる中和前の冷却液組成物に、さらにアルキル安息香酸(PTBBA)を2.0%添加したこと以外は実施例1と同様である。
【実施例9】
【0046】
水酸化ナトリウムによる中和前の冷却液組成物に、さらにアルキル安息香酸(PTBBA)を5.0%添加したこと以外は実施例1と同様である。
【実施例10】
【0047】
水酸化ナトリウムによる中和前の冷却液組成物に、さらにアルキル安息香酸(PTBBA)を1.0%添加したこと以外は実施例1と同様である。
【実施例11】
【0048】
水酸化ナトリウムによる中和前の冷却液組成物に、さらにアルキル安息香酸(PTBBA)を0.5%添加したこと以外は実施例1と同様である。
<試験・評価>
実施例8−11の冷却液組成物について、JIS K2234 に規定された金属腐食性試験に準拠した高温金属腐食試験を行った。ただし液温を120℃とし、空気を通気せず加圧密閉容器中にて行った。結果を実施例1の結果と共に表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
表4から、実施例1の冷却液組成物にさらにアルキル安息香酸(PTBBA)を添加することで、はんだに対する防食性がさらに向上していることがわかる。アルキル安息香酸の添加量が多くなるほどこの効果も大きいが、実施例11のようにアルキル安息香酸の添加量が0.5%では、この効果が実施例1とほぼ同等であるので、アルキル安息香酸の添加量は1.0〜5.0質量%が望ましい。
【0051】
なお表1から、セバシン酸を添加してもはんだに対する防食性が向上しているが、セバシン酸は高価であるので、セバシン酸の一部をアルキル安息香酸で置換することでコストの低減を図ることができる。
【実施例12】
【0052】
さらにモリブデン酸ナトリウムを0.2%添加したこと以外は実施例1と同様である。
【実施例13】
【0053】
水酸化ナトリウムによる中和前の冷却液組成物において、セバシン酸の添加量を2.0%に低減し、さらにアルキル安息香酸を2.0%添加し、モリブデン酸ナトリウムを0.2%添加したこと以外は実施例1と同様である。
<試験・評価>
実施例12−13の冷却液組成物について、JIS K2234 に規定された金属腐食性試験に準拠した高温金属腐食試験を行った。ただし液温を120℃とし、空気を通気せず加圧密閉容器中にて行った。結果を実施例1の結果と共に表5に示す。
【0054】
【表5】

【0055】
実施例12、13の冷却液組成物によれば、実施例1に比べて各金属の重量増減量がきわめて少ない。また試験片の目視によれば、実施例1に比較して実施例12、13では試験後も鋳鉄の光沢が維持されていることが認められた。さらに実施例13では、高価なセバシン酸の添加量を低減したにも関わらず防食性に優れていることから、安価な冷却液組成物となっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール類及びグリコール類から選ばれる融点降下剤を主成分とする冷却液組成物であって、
組成物100質量%あたり、1.0〜5.0質量%の脂肪族二塩基酸と、
金属リン換算で0.05〜0.5質量%のリン酸と、
0.1〜0.3質量%のチアゾール類と、を含み、
水酸化ナトリウムにてpH値が7.0〜8.0に調整されてなることを特徴とする冷却液組成物。
【請求項2】
カリウム塩及びリチウム塩を含まない請求項1に記載の冷却液組成物。
【請求項3】
組成物100質量%あたり1.0〜5.0質量%のアルキル安息香酸を含む請求項1又は請求項2に記載の冷却液組成物。
【請求項4】
組成物100質量%あたり0.05〜1.0質量%のトリアゾール類を含む請求項1〜3のいずれかに記載の冷却液組成物。
【請求項5】
組成物100質量%あたり0.05〜1.0質量%の硝酸塩を含む請求項1〜4のいずれかに記載の冷却液組成物。
【請求項6】
組成物100質量%あたり0.05〜1.0質量%のモリブデン酸塩を含む請求項1〜5のいずれかに記載の冷却液組成物。
【請求項7】
組成物100質量%あたり金属換算で0.0001〜0.1質量%のアルカリ土類金属化合物を含む請求項1〜6のいずれかに記載の冷却液組成物。
【請求項8】
組成物100質量%あたり0.01〜1.0質量%の2-ホスホノブタン-1,2,4トリカルボン酸を含む請求項1〜7のいずれかに記載の冷却液組成物。
【請求項9】
前記脂肪族二塩基酸は炭素数が9〜12の脂肪族二塩基酸である請求項1〜8のいずれかに記載の冷却液組成物。

【公開番号】特開2011−74181(P2011−74181A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226325(P2009−226325)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(591125289)日本ケミカル工業株式会社 (25)
【Fターム(参考)】