説明

冷却液

【課題】自動車等に搭載される二次電池やキャパシタの熱を吸収させ、配管内を循環させ、或いは所定空間内で対流させ、放熱させることができかつ十分な絶縁性能を備えた冷却液を提供する。
【解決手段】15℃の密度が0.84g/cm3以下、40℃の動粘度が20mm2/s以下、引火点が190℃以上、導電率が10pS/m以下であることを特徴とする冷却液。さらに、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、腐食防止剤、或いは流動点降下剤のいずれか一つ以上の添加剤を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、建設機械、農機(トラクターなど)等に搭載され充電により繰り返し利用される二次電池或いはキャパシタの昇温を抑制する冷却液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境問題が重要視されている近年、温室効果ガスである二酸化炭素を排出しない電気自動車が注目されているが、その利用状況は試験的なものに限定されており、本格的な普及には至っていないのが実情である。
【0003】
電気自動車があまり普及していない理由の一つとして、電池の性能が未だ要求を満たすものとなっていないことが挙げられる。そして、問題となる電池の性能の一つとして、電池の発熱問題がある。電気自動車用として、現在使用されているリチウムイオン電池は、その使用時や充電時に発熱するが、温度が高くなると、劣化、故障につながるため適正温度に保つ必要がある。そこで、使用時(走行時)であれば空気にあてて冷却する措置を採る必要がある。また、充電時であれば、例えば、特開平10−290535号公報に開示されている措置を採ることが考えられている。具体的には、充電時には、所定の温度よりも高くなった場合に充電を一時中断し温度が下がってから充電を再開する。しかしながら、走行時の空冷を十分に行なうためには、設置場所や形状に制限を受け、充電時の一時中断は、充電完了を遅らせるという問題があった。
【0004】
このような問題を解決する手法として、電池を液体で強制的に冷却する方法が考えられる。そして、使用する液体として、水、或いは油などが考えられるが、電気部品等を油で冷却する思想はこれまでにも広く採用されている。例えば、キャパシタの冷却もその一つである。そして、その用途に使用できる様々な潤滑油や絶縁油が提案されている。
【0005】
例えば、特表2008−544458号公報には、様々な用途に対し十分な特性を有する絶縁油配合物が開示されている。この絶縁油配合物は、トランスにも使用することができ、その場合、自然対流によりトランスの昇温を抑制する冷却油としても機能することになる。
【0006】
また、特開2009−161604号公報や、特開2009−2425477号公報には、冷却性能を考慮した自動車用変速機油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−290535号公報
【特許文献2】特表2008−544458号公報
【特許文献3】特開2009−161604号公報
【特許文献4】特開2009−242547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の潤滑油や絶縁油は、自動車に搭載される二次電池の冷却用としての性状設計がなされておらず、二次電池用の冷却液として要求される性能を有するものは無かった。すなわち、冷却対象から発する熱を効率よく吸収し、かつ、配管内を円滑に循環させ、放熱させる機能について十分に考慮されたものは無かった。
【0009】
なお、熱を吸収させ、放熱させる機能は、二次電池に限らずキャパシタについても同様に必要になる。キャパシタの冷却には、冷却液の自然対流を利用するが、キャパシタ用の冷却液としても、これら熱の吸収しや放熱する機能に加え更に対流のし易さもあわせて十分に考慮されているものは無かった。
【0010】
一方、事故等により冷却液が漏洩した場合、二次電池やキャパシタのショートによる二次災害を防止するためには、導電性が低いこと、すなわち、絶縁性に優れていることも必要となる。そこで、本発明は、自動車等に搭載される二次電池やキャパシタの熱を吸収させ、配管内を循環させ、或いは所定空間内で対流させ、放熱させることができかつ十分な絶縁性能を備えた冷却液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る冷却液は、15℃の密度が0.84g/cm以下、40℃の動粘度が20mm/s以下、引火点が190℃以上、導電率が10pS/m以下である。
【0012】
15℃の密度は、JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容積換算表」による密度である。この値が大きくなると、比熱容量や熱伝導率が下がるため、十分な冷却性能を有さないものとなる。
【0013】
40℃の動粘度は、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」によって得られる動粘度である。この値が20mm/sより高くなると、二次電池やキャパシタが使用される温度環境において十分に循環させることができない。なお、循環には、モータなどで付与された外力による強制循環と、温度の違いで生じる密度差による自然対流とがある。キャパシタの冷却は、通常、自然対流によるものとなるが、この場合に動粘度が高いと、対流速度が低下して冷却効率が悪化する。また、自動車の二次電池については、強制循環を採用することが好ましいが、この場合に動粘度が高いと、配管抵抗が大きくなり冷却効率が悪化する。これらの理由から、40℃の動粘度は、小さいことが好ましく、13mm/s以下となることがより好ましい。
【0014】
引火点は、JIS K 2265−4「引火点の求め方−第4部:クリーブランド開放法」によって得られる引火点である。この値が190℃より小さくなると、事故などにより、冷却液用として設けられる配管から漏洩した場合に、発火するおそれがあり、安全性に問題が生じることになる。なお、油圧作動油も含めて潤滑油は、その多くが、消防法の危険物第四類の第三および第四石油類に分類されている。そして、第四類第三石油類では引火点70℃以上200℃未満、第四類第四石油類では、引火点200℃以上が分類基準となっている。従って、法で想定されている安全性を考慮すると、引火点は200℃以上とすることが好ましい。
【0015】
導電率は、JIS K 2276「石油製品−航空燃料油試験方法」により得られる導電率である。この値が大きいと、二次電池やキャパシタのショートによる二次災害が発生するおそれがあり、安全性に問題が生じることになる。
【0016】
なお、本発明に係る冷却液は炭化水素で構成することが好ましいため、原油及び石油製品の性状特定に使用される15℃の密度、40℃の動粘度、及び引火点により特定することとしているが、その構成を炭化水素に限定する必要はない。上記の性状を満たすものであれば、例えば、シリコーン油やフッ素油などの有機化合物、或いはその他の組成物により構成してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、自動車に搭載される二次電池や、キャパシタの冷却用として冷却液を提供することができる。従来の潤滑油や絶縁油は、高い温度領域(例えば、60〜80℃)で使用されることが想定されるものでは、二次電池やキャパシタを冷却する際に使用される低い温度領域、すなわち40℃程度の温度領域でその動粘度が高くなり、自動車内等の限られた空間に冷却液用として設けられる配管内などを循環させることが困難となる問題があった。また、寒冷地など低い温度領域で使用されることが想定されるものでは、低い温度領域での動粘度は低いものの、引火点が低くなり、安全性に問題があった。また、冷却性能を示す指標として、次の式(1)に示す熱浸透率がある。
【数1】

この熱浸透率を決める要素の一つである密度は、動粘度にも影響を与えるため、使用される温度領域での動粘度と熱浸透率の密度を介したバランスを考慮する必要がある。ところが、従来の潤滑油や絶縁油等では、自動車等に搭載される二次電池やキャパシタが使用される温度領域での動粘度と熱浸透率のバランスを考慮したものはなかった。更に、自動車等に搭載される二次電池やキャパシタの冷却用であれば、引火点及び導電率についても、安全性を考慮する必要がある。そこで、本発明者は、自動車等の二次電池やキャパシタを冷却するために必要となる性状を、潤滑油等の一般的な基油の利用を主として検討したところ、特定の性状を所定の範囲とすることにより、理論上、それらを満たすことができる事実を見出した。本発明は、この新たな知見に基づくものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る冷却液は、潤滑油等の一般的な基油により製造することができる。例えば、通常の潤滑油に使用される鉱油、合成油であって、硫黄含有量が約0.3質量%以下の高度精製油を使用することができ、特に、API(American Petroleum Institute,米国石油協会)基油カテゴリーでグループ2、グループ3、グループ4などに属する基油を、単独または混合物として使用することができる。なお、グループ2に属する基油のうち、その粘度指数のみが優れたものはグループ2プラスと呼ばれているが、グループ2プラスは、グループ3とほぼ同様の製法で得ることができる。従って、以下の説明では、グループ2プラスは、グループ3に含めるものとする。
【0019】
グループ2基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、水素化分解、脱ろうなどの精製手段を適宜組合せて適用することにより得られたパラフィン系鉱油や、天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)ワックスおよび脱ろうプロセスにて生成されるワックスをイソパラフィンに変換・脱ろうするISODEWAXプロセスにより精製された基油がある。ガルフ社法などの水素化精製法により精製されたグループ2基油は、全硫黄分が10ppm未満、アロマ分が5%以下であり、本発明に好適である。ただし、その粘度は、製品となる冷却油の40℃の動粘度が20mm/s以下となる範囲である必要がある。全硫黄分は700ppm未満、好ましくは500ppm未満、更に好ましくは10ppm未満がよい。全窒素分も10ppm未満、好ましくは1ppm未満がよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは100〜135℃のものを使用するのがよい。また、粘度指数は80以上120未満のものが適する。好ましくは100以上120未満のものである。
【0020】
グループ3基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、高度水素化精製により製造されるパラフィン系鉱油や、天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)ワックスおよび脱ろうプロセスにて生成されるワックスをイソパラフィンに変換・脱ろうするISODEWAXプロセスにより精製された基油や、モービルWAX異性化プロセスにより精製された基油も好適である。ただし、その粘度は、製品となる冷却油の40℃の動粘度が20mm/s以下となる範囲である必要がある。全硫黄分は、0〜100ppm、好ましくは10ppm未満がよい。全窒素分も10ppm未満、好ましくは1ppm未満がよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは110〜135℃のものを使用するのがよい。また、粘度指数は120以上のものが適する。好ましくは120以上160未満のものである。
【0021】
合成油としては、例えば、ポリオレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、含フッ素化合物(パーフルオロポリエーテル、フッ素化ポリオレフィン等)、シリコーン油などが挙げられる。
【0022】
上記ポリオレフィンには、各種オレフィンの重合物、又はこれらの水素化物が含まれる。オレフィンとしては任意のものが用いられるが、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、炭素数5以上のα−オレフィンなどが挙げられる。ポリオレフィンの製造にあたっては、上記オレフィンの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特にポリαオレフィン(PAO)と呼ばれているポリオレフィンが好適であり、これはグループ4基油である。これらの合成基油の粘度も、既述のように、製品となる冷却油の動粘度が20mm/s以下となる範囲である必要がある。
【0023】
天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)は、原油から精製された鉱油基油と比較して、硫黄分や芳香族分が極めて低く、パラフィン構成比率が極めて高いため、酸化安定性に優れ、蒸発損失も非常に小さいため、本発明の基油として好適である。通例全硫黄分は10ppm未満、全窒素分1ppm未満である。そのようなGTL基油商品の一例として、SHELL XHVI(登録商標)がある。ただし、その粘度は、既述のように、製品となる冷却油の40℃の動粘度が20mm/s以下となるものを選択する必要がある。
【0024】
本発明に係る冷却液である冷却油の基油成分における硫黄分含有量は、0.3質量%以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは100ppm以下、更に好ましくは10ppm以下がよい。本発明に係る冷却油における上記基油の含有量は特に制限されないが、冷却油の全量基準で60質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。
【0025】
本発明に係る冷却液である冷却油は、必要に応じて公知の添加剤が添加されたものであってもよい。添加剤としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0026】
酸化防止剤としては、以下に示す、一般に使用されるフェノール系、アミン系の酸化防止剤が使用可能である。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、オクタデシル‐3−(3,5−ジ−tert‐ブチル‐4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール);2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール);2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール;2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール;2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール;2,6−ジ−t−アミル−p−クレゾール;2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール);4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール);ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)スルフィド;ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド;n−オクチル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート;2,2’−チオ[ジエチル−ビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ジ−t−ブチルフェノールなどが挙げられる。
これらの中で、特にビスフェノール系およびエステル基含有フェノール系のものが好適である。
【0027】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、p,p’−ジオクチル−ジフェニルアミン、p,p’−ジ−α−メチルベンジル−ジフェニルアミン、N−p−ブチルフェニル−N−p’−オクチルフェニルアミン、モノ−t−ブチルジフェニルアミン、モノオクチルジフェニルアミンなどのアルキルジフェニルアミン類、またはスチレン化ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、さらにはメチルフェニル−1−ナフチルアミン、エチルフェニル−1−ナフチルアミン、ブチルフェニル−1−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−1−ナフチルアミン、オクチルフェニル−1−ナフチルアミン、N−t−ドデシルフェニル−1−ナフチルアミンなどのフェニル−α−ナフチルアミン類、ジ(2,4−ジエチルフェニル)アミン、ジ(2−エチル−4−ノニルフェニル)アミンなどのビス(ジアルキルフェニル)アミン類、1−ナフチルアミン、フェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、N−ヘキシルフェニル−2−ナフチルアミン、N−オクチルフェニル−2−ナフチルアミンなどのアリール−ナフチルアミン類、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミンなどのフェニレンジアミン類、フェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジンなどのフェノチアジン類などが挙げられる。
これらのうち、特にフェニル−α−ナフチルアミン、アルキルジフェニルアミンの一種単独でまたは二種を組み合わせて使用するのが好ましく、ジオクチルジフェニルアミンとN−(p−オクチルフェニル)−1−ナフチルアミンとを組み合わせて使用することが、酸化安定性の観点から特に好ましい。
【0028】
酸化防止剤は、冷却油全量基準で0.01〜5質量%となるように配合することが好ましい。配合量が5質量%以下の範囲であると、冷却油への溶解性、経済性と酸化防止性能との調和がとれたものとなる。より好ましい配合量は、冷却油全量基準で0.05〜4質量%、特に好ましくは、0.1〜3質量%である。
【0029】
腐食防止剤(金属不活性剤)としては、ベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。ベンゾトリアゾール系化合物を前記基油成分、若しくは基油成分及び酸化防止剤と併用することで、金属元素、特にCu、Al、Niなどへの腐食防止効果をさらに向上させることができる。ここで用いられるベンゾトリアゾール系化合物としては、下記一般式(I)で表されるベンゾトリアゾール及びこれの誘導体が挙げられる。また、該誘導体としては、下記一般式(II)で表されるアルキルベンゾトリアゾール、一般式(III)で表されるN−アルキルベンゾトリアゾール、及び一般式(IV)で表されるN−(アルキル)アミノアルキルベンゾトリアゾールを含むものが挙げられる。なお、式中のa、b、cは、それぞれ、0、1、2又は3であり、式中のR3は一般式(V)で表される構造である。また、R1、R2、R4は直鎖又は分岐鎖のC1〜C4アルキル基、R5はメチレン又はエチレン基、R6、R7は水素、あるいは同じか又は異なる、直鎖又は分岐鎖の炭素原子1〜18のアルキル基、好ましくは炭素原子1〜12の分岐鎖アルキル基、R8及びR9は同じか又は異なる炭素原子数3〜15のアルキル基である。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【0030】
なお、ベンゾトリアゾール及びその誘導体の具体例としては、以下のものを挙げることができる。まず、ベンゾトリアゾール、4−メチル−ベンゾトリアゾール、4−エチル−ベンゾトリアゾールなどの4−アルキル−ベンゾトリアゾール類、5−メチル−ベンゾトリアゾール、5−エチル−ベンゾトリアゾールなどの5−アルキル−ベンゾトリアゾール、1−ジオクチルアミノメチル−2,3−ベンゾトリアゾールなどの1−アルキル−ベンゾトリアゾール類、1−ジオクチルアミノメチル−2,3−トルトリアゾールなどの1−アルキル−トルトリアゾール類等のベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール、2−(オクチルジチオ)−ベンゾイミダゾール、2−(デシルジチオ)−ベンゾイミダゾール、2−(ドデシルジチオ)−ベンゾイミダゾールなどの2−(アルキルジチオ)−ベンゾイミダゾール類、2−(オクチルジチオ)−トルイミダゾール、2−(デシルジチオ)−トルイミダゾール、2−(ドデシルジチオ)−トルイミダゾールなどの2−(アルキルジチオ)−トルイミダゾール類等のベンゾイミダゾール誘導体がある。
【0031】
また、インダゾール、4−アルキル−インダゾール、5−アルキル−インダゾールなどのトルインダゾール類等のインダゾール誘導体、ベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール誘導体(千代田化学社製:チオライトB−3100)、2−(ヘキシルジチオ)ベンゾチアゾール、2−(オクチルジチオ)ベンゾチアゾールなどの2−(アルキルジチオ)ベンゾチアゾール類、2−(ヘキシルジチオ)トルチアゾール、2−(オクチルジチオ)トルチアゾールなどの2−(アルキルジチオ)トルチアゾール類、2−(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジブチルジチオカルバミル)−ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジヘキシルジチオカルバミル)−ベンゾチアゾールなど2−(N,N−ジアルキルジチオカルバミル)ベンゾチアゾール類、2−(N,N−ジエチルジチオカルバミル)トルチアゾール、2−(N,N−ジブチルジチオカルバミル)トルチアゾール、2−(N,N−ジヘキシルジチオカルバミル)トルチアゾールなどの2−(N,N−ジアルキルジチオカルバミル)−トルゾチアゾール類等のベンゾチアゾール誘導体がある。
【0032】
さらに、2−(オクチルジチオ)ベンゾオキサゾール、2−(デシルジチオ)ベンゾオキサゾール、2−(ドデシルジチオ)ベンゾオキサゾールなどの2−(アルキルジチオ)−ベンゾオキサゾール類、2−(オクチルジチオ)トルオキサゾール、2−(デシルジチオ)トルオキサゾール、2−(ドデシルジチオ)トルオキサゾールなどの2−(アルキルジチオ)トルオキサゾール類等のベンゾオキサゾール誘導体、2,5−ビス(ヘプチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(ドデシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(オクタデシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾールなどの2,5−ビス(アルキルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール類、2,5−ビス(N,N−ジエチルジチオカルバミル)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(N,N−ジブチルジチオカルバミル)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(N,N−ジオクチルジチオカルバミル)−1,3,4−チアジアゾールなどの2,5−ビス(N,N−ジアルキルジチオカルバミル)−1,3,4−チアジアゾール類、2−N,N−ジブチルジチオカルバミル−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−N,N−ジオクチルジチオカルバミル−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾールなどの2−N,N−ジアルキルジチオカルバミル−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール類等のチアジアゾール誘導体、1−ジ−オクチルアミノメチル−2,4−トリアゾールなどの1−アルキル−2,4−トリアゾール類等のトリアゾール誘導体などが挙げられる。
【0033】
流動点降下剤は、例えばポリアルキルメタクリレート,ポリブテン,ポリアルキルスチレン,ポリビニルアセテート,ポリアルキルアクリレート,エチレン−酢酸ビニル系共重合体,エチレン−アルキルアクリレート系共重合体,塩素化ポリエチレン,アルケニルこはく酸アミド系化合物等が挙げられる。これらの流動点降下剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。流動点降下剤の配合量は、冷却油全量基準で0.01〜2.0質量%が好ましく、0.05〜1.0質量%がさらに好ましい。
【0034】
上記した添加剤の他に、消泡剤、粘度指数向上剤等の添加剤も使用することが可能である。
【実施例】
【0035】
以下に示す鉱油を基油として、冷却油を調整した。得られた冷却油の性状を表1に示す。なお、表1には、参考例として、市販の熱媒体油の性状を併せて示す。
<基油1>
フィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL基油で、API(米国石油協会)基油分類によりグループ2(Gp2)に分類されるもの。(特性:100℃における動粘度;2.64mm/s、40℃における動粘度;9.34mm/s、粘度指数;119、硫黄分含有量(硫黄元素換算値);10質量ppm未満、窒素分含有量(窒素元素換算値);1質量ppm未満、アニリン点;113℃、15℃密度;0.807g/cm、20℃密度:0.803g/cm、20℃屈折率:1.449、引火点:202℃)
<基油2>
フィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL基油で、API(米国石油協会)基油分類によりグループ3(Gp3)に分類されるもの。(特性:100℃における動粘度;3.98mm/s、40℃における動粘度;17.2mm/s、粘度指数;131、硫黄分含有量(硫黄元素換算値);10質量ppm未満、窒素分含有量(窒素元素換算値);1質量ppm未満、アニリン点;121℃、15℃密度;0.817g/cm、20℃密度:0.813g/cm、20℃屈折率:1.454、引火点:226℃)
<基油3>
原油を常圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、水素化分解、水素化脱ろうなどの精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られたパラフィン系鉱油で、API(米国石油協会)基油分類によりグループ2(Gp2)に分類されるもの。(特性:100℃における動粘度;3.08mm/s、40℃における動粘度;12.2mm/s、粘度指数;111、硫黄分含有量(硫黄元素換算値);10質量ppm未満、窒素分含有量(窒素元素換算値);1質量ppm未満、アニリン点;108℃、15℃密度;0.833g/cm、20℃密度:0.830g/cm、20℃屈折率:1.459、引火点:194 ℃)
<基油4>
原油を常圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、水素化分解、水素化脱ろうなどの精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られたパラフィン系鉱油で、API(米国石油協会)基油分類によりグループ3(Gp3)に分類されるもの。(特性:100℃における動粘度;4.25mm/s、40℃における動粘度;19.5mm/s、粘度指数;125、硫黄分含有量(硫黄元素換算値);10質量ppm未満、窒素分含有量(窒素元素換算値);1質量ppm未満、アニリン点;116℃、15℃密度;0.835g/cm、20℃密度:0.832g/cm、20℃屈折率:1.461、引火点:224℃)
<基油5>
原油を常圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、脱ろうなどの精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られたパラフィン系鉱油で、API(米国石油協会)基油分類によりグループ1(Gp1)に分類されるもの。(特性:100℃における動粘度;4.59mm/s、40℃における動粘度;24.3mm/s、粘度指数;103、硫黄分含有量(硫黄元素換算値);4500質量ppm、窒素分含有量(窒素元素換算値);20質量ppm、アニリン点;100℃、15℃密度;0.864g/cm、20℃密度:0.861g/cm、20℃屈折率:1.475、引火点:218℃)
<基油6>
原油を常圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、脱ろうなどの精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られたナフテン系鉱油で、API(米国石油協会)基油分類によりグループ5(Gp5)に分類されるもの。(特性:100℃における動粘度;2.25mm/s、40℃における動粘度;8.70mm/s、粘度指数;49、15℃密度;0.884g/cm、アニリン点;77℃、引火点148℃)
【0036】
【表1】

【0037】
なお、表1に示す各性状の測定方法は以下の通りである。
<動粘度(@40℃)、動粘度(@100℃)、粘度指数>
JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法および粘度指数算出方法」によって得られる動粘度及び粘度指数。
<密度(@15℃)>
JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容積換算表」による密度である。なお、表中の数値は、上記式(1)の単位kg/mで表示されている。
<引火点>
JIS K 2265−4「引火点の求め方−第4部:クリーブランド開放法」によって得られる引火点。
<流動点>
JIS K 2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」によって得られる流動点。
<熱浸透率>
上記密度に基づいて、以下の式(2)より比熱容量を、式(3)より熱伝導率を算出し、既述の式(1)より熱浸透率を算出した。なお、式(2)及び式(3)中の温度tは、15℃として算出した。
【数2】

【数3】

<アニリン点>
J I S K 2256「石油製品−アニリン点及び混合アニリン点試験方法」によって得られるアニリン点。
<導電率>
JIS K 2276「石油製品−航空燃料油試験方法」により得られる導電率。
【0038】
表1に示すように実施例1〜4は、比較例1、2よりも、40℃の動粘度が低い一方で熱浸透率は変わらず、自動車等に搭載される二次電池やキャパシタの使用温度環境における熱運搬能力が高いものと推察される。すなわち、自動車等に搭載される二次電池やキャパシタの冷却油に好適であるといえる。そして、これらの冷却油を、一般的な基油を利用して製造でき、GTLワックスは、基油として、特に好ましいことが確認できた。一方、比較例1、2の結果から、従来の絶縁油の基油として採用されているAPI基油カテゴリーのグループ1に属する基油5と、従来の潤滑油の基油として採用されている同グループ5に属する基油6は、本発明に係る冷却油の基油として適さないことが確認された。なお、参考例の熱媒体油は、実施例の冷却油と熱浸透率が同程度で、引火点、導電率のいずれにおいても安全性を満たす数値となっているが、高い温度領域での使用が想定されているため、40℃の動粘度が高く、自動車等に搭載される二次電池やキャパシタの冷却用には不適である。
【0039】
次に、基油1〜基油6に、以下に示す市販の腐食防止剤、フェノール系酸化防止剤、及び流動点降下剤を添加し、表2に示す冷却油を調製した。また、表3に、比較例5として表1に参考例として挙げた熱媒体油の、比較例6、7、8として市販の絶縁油の、比較例9として市販の潤滑油の、比較例10として市販のATFの性状を示す。
<酸化防止剤A>
以下の一般式(VI)に示す構造をもつ、ベンゼンプロパン酸3,5−ビス(1,1−ジメチル−エチル)−4−ヒドロキシ−C7〜C9側鎖アルキルエステルで構成されるフェノール系酸化防止剤。なお、構造式のRはC7〜C9である。
【化6】

<酸化防止剤B>
以下の一般式(VII)に示す構造をもつ、2,2’−メチレンビス(4−エチル,6−t−ブチルフェノール)で構成されるフェノール系酸化防止剤。
【化7】

<酸化防止剤C>
2,4−ジ−t−ブチルフェノールで構成されるフェノール系酸化防止剤。
<腐食防止剤>
以下の一般式(VIII)に示す構造をもつ、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-(4又は5)-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メチルアミンで構成される腐食防止剤。なお、構造式のRは2-エチルヘキシルである。
【化8】

<流動点降下剤>
以下の性状のポリメタクリレート。
Mn(数平均分子量) 32434 (標準物質 ポリスチレン)
Mw(重量平均分子量) 60093 (標準物質 ポリスチレン)
Mw/Mn 1.85279 (標準物質 ポリスチレン)
なお、分子量の測定条件は以下の通りである。
クロマト Shodex GPC101
カラム Shodex GPC KF-805L ×2
温度 40℃
流量 1ml/min
キャリアー THF
検出器 RI
【0040】
【表2】

【表3】

【0041】
表2に示すように、通常使用される添加剤を通常の範囲で添加することによる熱浸透率や40℃の動粘度の悪化は確認されず、添加剤の使用が冷却性能に影響を及ぼさないことが確認できた。また、引火点及び導電率にも影響はなく、自動車等の内部を循環させる場合の安全性にも影響の無いことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
15℃の密度が0.84g/cm以下、40℃の動粘度が20mm/s以下、引火点が190℃以上、導電率が10pS/m以下であることを特徴とする冷却液。
【請求項2】
15℃の密度が0.81g/cm以下である請求項1に記載の冷却液。
【請求項3】
引火点が200℃以上である請求項1又は2に記載の冷却液。
【請求項4】
40℃の動粘度が13mm/s以下である請求項1〜3に記載の冷却液。
【請求項5】
40℃の動粘度が13〜20mm/sである請求項1〜3に記載の冷却液。
【請求項6】
さらに、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、腐食防止剤、或いは流動点降下剤のいずれか一つ以上の添加剤を含有する請求項1〜5に記載の冷却液。



【公開番号】特開2011−201953(P2011−201953A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68220(P2010−68220)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】