説明

冷却濃縮装置及びそれに用いる冷却用治具

【課題】分離カラムの液体窒素が噴射された部分を効率よく冷却でき、冷却される部分の氷結を確実に防止できると共に、液体窒素の流量を低減できる冷却濃縮装置を提供する。
【解決手段】冷却濃縮装置1は、試料導入部5から導入された試料を、気体案内管4を介して検出器6に案内して分析する際に、試料を気体案内管4に濃縮する。気体案内管4に対向して設けられたノズル14から液体窒素を噴射して冷却し試料を該部分に濃縮する冷却濃縮手段と、第1の筒状部材11と、その中央部に接続された第2の筒状部材12とを備え、第1の筒状部材11に緩挿された気体案内管4の一部分に、第2の筒状部材12に緩挿されたノズルが対向するように設けられる。筒状部材11の両端部に、外部雰囲気が筒状部材11内に侵入することを抑制する1対の障壁部材21a,21bを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフ等の気体分析装置で試料を分析する際に、該試料を冷却して濃縮する冷却濃縮装置及びそれに用いる冷却用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
キャピラリーカラム等の分離カラムの一方の端部から注入された複数の成分からなる試料を、成分毎に分離して検出する分析装置として、例えば、ガスクロマトグラフが知られている。
【0003】
前記ガスクロマトグラフでは、分析精度向上のため、単一成分が単一ピークとなり、しかも、幅の狭い、いわゆるシャープなピークとして検出されることが望まれる。しかし、前記分離カラムに導入された前記試料が、該分離カラム先端の広い範囲に分散すると、単一成分が複数のピークに分裂してしまい、シャープなピークとして検出することができない。
【0004】
また、前記試料の濃度が低い希薄な試料の場合には、分析に必要とされる濃度の試料を前記分離カラムに導入すること自体が困難であることがある。
【0005】
そこで、前記分離カラム先端に液体窒素を直接噴射してこの部分を冷却すると共に、冷却された部分に試料を吸着させて濃縮する試料の冷却濃縮装置が知られている。前記冷却濃縮装置によれば、前記冷却された部分を加熱して、該部分に濃縮されて吸着されている前記試料を熱脱着させることにより、前記試料中の各成分を単一のシャープなピークとして検出することができる。
【0006】
ところが、前記冷却濃縮装置では、該装置が設置された室内の湿度が高いと、前記試料中の単一成分が複数のピークに分裂することがあるという問題がある。前記問題は、前記冷却される部分に、高湿度の空気中の水分が凝縮して氷結することが原因と考えられる。前記冷却される部分に氷結が生じると、該部分を加熱して前記試料を熱脱着させる際に、不均一な解氷が起き、これにより該試料の熱脱着も不均一になるものと考えられる。
【0007】
そこで、前記問題を解決するために、第1の筒状部材と、第1の筒状部材の中央部に直交するように接続された第2の筒状部材とによりT字管を形成し、第1の筒状部材に前記分離カラムを緩挿すると共に、第2の筒状部材に緩挿されたノズルから該分離カラムに液体窒素を噴射するようにした冷却濃縮装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
前記冷却濃縮装置によれば、液体窒素を噴射したときに、前記T字管の内部が該液体窒素と、該液体窒素が気化して生じた極低温の窒素ガスとにより満たされることにより、分離カラムの液体窒素が噴射された部分を効率よく冷却することができる。また、前記液体窒素と窒素ガスとが前記第1の筒状部材の両端部から吹き出すことにより、高湿度の空気が前記T字管の内部に侵入することを阻止して、冷却される部分の氷結を確実に防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3290968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記従来の冷却濃縮装置では、前記T字管の内部を液体窒素と、該液体窒素が気化して生じた極低温の窒素ガスとにより満たすために、十分な流量の液体窒素を必要とするので、その低減が望まれる。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑み、分離カラムの液体窒素が噴射される部分を効率よく冷却することができ、冷却される部分の氷結を確実に防止することができると共に、これに要する液体窒素の流量を低減することができる冷却濃縮装置及びそれに用いる冷却用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために、本発明は、試料導入部から導入された複数の成分からなる試料を、気体案内管を介して検出器に案内して分析する際に、該試料を該気体案内管の上流側の一部分に濃縮する装置であって、該気体案内管の上流側の一部分に対向して設けられたノズルから液体窒素を噴射して該部分を冷却し該試料を該部分に濃縮する冷却濃縮手段と、第1の筒状部材と、第1の筒状部材の中央部に接続された第2の筒状部材とを備え、該第1の筒状部材に緩挿された該気体案内管の一部分に、該第2の筒状部材に緩挿されたノズルが対向するように備えられている冷却濃縮装置において、該第1の筒状部材の両端部に、外部の雰囲気が該第1の筒状部材内に侵入することを抑制する1対の障壁部材を設けることを特徴とする。
【0013】
前記気体案内管は、分離能を備えた分離カラムであってもよく、分離能を備えていない単なる導管であってもよい。
【0014】
本発明の冷却濃縮装置は、前記試料導入部から導入された複数の成分からなる試料を、前記気体案内管を介して前記検出器に案内して分析する際に、前記ノズルから液体窒素を噴射し、前記気体案内管の上流側の一部分を冷却する。この結果、前記気体案内管の前記部分に前記試料を濃縮して保持させることができる。
【0015】
ここで、本発明の冷却濃縮装置は、第1の筒状部材と、第1の筒状部材の中央部に接続された第2の筒状部材とを備え、該第1の筒状部材に緩挿された前記気体案内管の一部分に、該第2の筒状部材に緩挿されたノズルが対向するように設けられている。従って、前記ノズルから液体窒素を噴射することにより、前記第1の筒状部材内の前記気体案内管を冷却し、該気体案内管に導入された試料を冷却された部分に濃縮するすることができる。
【0016】
また、前記ノズルから液体窒素を噴射したときに、液体窒素と、該液体窒素が気化して生じた極低温の窒素ガスで第1及び第2の筒状部材の内部を満たし、さらに該液体窒素と該窒素ガスとを第1の筒状部材の両端部から外部に吹き出させることができる。従って、前記ノズルから液体窒素を噴射している間、外部の雰囲気が第1及び第2の筒状部材の内部に侵入することを阻止して、前記第1の筒状部材に緩挿されている前記気体案内管に対する氷結を確実に防止することができる。
【0017】
さらに、本発明の冷却濃縮装置は、第1の筒状部材の両端部に前記1対の障壁部材を備えているので、該障壁部材により、外部の雰囲気が第1及び第2の筒状部材の内部に侵入することを妨げることができる。従って、第1及び第2の筒状部材の内部を液体窒素と、該液体窒素が気化して生じた極低温の窒素ガスで満たすために要する液体窒素の流量を低減することができる。
【0018】
本発明の冷却濃縮装置では、前記ノズルからの液体窒素の噴射が停止されると、前記第1及び第2の筒状部材に外部の雰囲気が流入し、前記気体案内管の上流側の一部分に濃縮された前記試料は、該雰囲気により加熱されて熱脱着する。ところが、このとき、前記障壁部材が設けられていると、前記ノズルからの液体窒素の噴射が停止されても、前記第1及び第2の筒状部材に外部の雰囲気が流入しにくく、前記試料の熱脱着が不均一になる虞がある。
【0019】
そこで、本発明の冷却濃縮装置において、前記障壁部材は、前記第1の筒状部材の横断面の半面を遮蔽する第1の障壁と、該第1の障壁から離間する位置で該第1の筒状部材の横断面の残り半面を遮蔽する第2の障壁と、該第1の障壁の最大幅部と該第2の障壁の最大幅部とを接続する接続部と、該第1の障壁から該接続部を介して該第2の障壁まで延在し、前記気体案内管が該第1及び第2の障壁と該接続部との間に間隙を存して挿通される長孔部とを備えることが好ましい。
【0020】
前記障壁部材は、前記気体案内管が前記第1及び第2の障壁と前記接続部との間に間隙を存して前記長孔部に挿通されることにより、該間隙が気体の流通路となる。この結果、前記ノズルから液体窒素が噴射されるときには、窒素ガスが前記間隙から流出することにより、前記第1及び第2の筒状部材に外部の雰囲気が侵入することを防止する。また、前記ノズルからの液体窒素の噴射が停止されると、前記間隙から前記第1及び第2の筒状部材に外部の雰囲気が流入する。
【0021】
従って、前記接続部の長さにより、窒素ガスの流出量と、外部の雰囲気の流入量とを調整することができ、前記試料の熱脱着を均一に行うことができる。
【0022】
また、本発明の冷却濃縮装置において、前記障壁部材は、前記第1または第2の障壁に前記第1の筒状部材の側壁側で連接すると共に、該第1の筒状部材の先端部の側壁を内外両面から挟持する挟持部と、該挟持部の該筒状部材外面側の先端に連設され該筒状部材の外周面に嵌着される嵌着部とを備えることが好ましい。前記障壁部材は、前記挟持部により前記第1の筒状部材の先端部側壁に着脱自在に装着することができ、前記嵌着部により確実に支持することができる。
【0023】
さらに、本発明の冷却濃縮装置において、前記第1の筒状部材は前記第2の筒状部材に直交する方向に接続されてT字管を形成していることが好ましい。前記第1の筒状部材と前記第2の筒状部材とが前記T字管を形成していることにより、前記ノズルは前記気体案内管に対して直交する方向から液体窒素を噴射することができ、該気体案内管を効率よく冷却することができる。
【0024】
また、本発明の冷却用治具は、第1の筒状部材と、第1の筒状部材の中央部に接続された第2の筒状部材とを備え、気体案内管が該第1の筒状部材に緩挿自在とされ、液体窒素を噴射して該気体案内管を冷却するノズルが該気体案内管に対向するように該第2の筒状部材に緩挿自在とされると共に、該第1の筒状部材の両端部に、外部の雰囲気が該第1の筒状部材内に侵入することを抑制する1対の障壁部材を設けることを特徴とする。
【0025】
本発明の冷却濃縮装置は、本発明の冷却用治具を用い、前記気体案内管を前記第1の筒状部材に緩挿すると共に、前記ノズルを該気体案内管に対向するように前記第2の筒状部材に緩挿することにより、容易に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の冷却濃縮装置を用いるガスクロマトグラフ装置の一例を示す説明的断面図。
【図2】本発明の冷却濃縮装置の一構成例を示す説明的断面図
【図3】図2に示す障壁部材の構成を示す斜視図。
【図4】本発明の実施例1と比較例1とにおける冷却時間と、分離カラムの冷却部の温度との関係を示すグラフ。
【図5】本発明の実施例1と比較例1とにおいて得られたクロマトグラム。
【図6】本発明の実施例2、実施例3において得られたクロマトグラム。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0028】
図1に示すように、本実施形態の冷却濃縮装置1は、例えば、ガスクロマトグラフ装置2において、試料を濃縮するために用いられる。
【0029】
ガスクロマトグラフ装置2は、恒温槽3内に収容された気体案内管としての分離カラム4と、分離カラム4の一方の端部に接続された試料導入部5と、分離カラム4の他方の端部に接続された検出器6とを備えている。恒温槽3は、図示しないヒータ及びファンによりその内部を所定の温度に加熱することができる。分離カラム4としては、例えばキャピラリーカラム等を用いることができる。また、検出器6としては、四重極型質量分析計、磁場偏向型質量分析計等の質量分析計、水素炎イオン化検出器等を用いることができる。
【0030】
冷却濃縮装置1では、図1に示すように、第1の筒状部材11と、第1の筒状部材11の中央部に接続された第2の筒状部材12とを備え、第2の筒状部材12が第1の筒状部材11に直交する方向に接続されることにより、冷却用治具としてのT字管13が形成されている。冷却用治具としてのT字管13では、分離カラム4が第1の筒状部材11に緩挿されると共に、ノズル14が第2の筒状部材12に緩挿されて、分離カラム4の一部分に対向するように設けられている。
【0031】
ノズル14は、窒素導管15により、電磁弁16、流量制御器17を介して、窒素ガス源としての窒素ボンベ18に接続されている。ノズル14と電磁弁16との間には液体窒素貯留槽19が設けられており、窒素導管15が浸漬されている。この結果、窒素ボンベ18から供給される窒素ガスが液体窒素貯留槽19を通過する間に液化されて液体窒素となり、該液体窒素がT字管13内においてノズル14から分離カラム4に噴射される。
【0032】
T字管13は、図2及び図3に拡大して示すように、第1の筒状部材11の両端部に、恒温槽3内の雰囲気が第1の筒状部材11内に侵入することを抑制する1対の障壁部材21a,21bを備えている。障壁部材21a,21bは、それぞれ、第1の筒状部材11の横断面の下半面を遮蔽する第1の障壁22と、第1の障壁22から離間する位置で第1の筒状部材11の横断面の上半面を遮蔽する第2の障壁23と、第1の筒状部材11の横断面の中央部で、第1の障壁22の最大幅部と第2の障壁23の最大幅部とを水平方向に接続する接続部24とを備えている。また、障壁部材21a,21bは、第1の障壁22から接続部24を介して第2の障壁23まで延在し、分離カラム4が挿通される長孔部25を備えている。このとき、分離カラム4は、第1の障壁22、接続部24、第2の障壁23との間に間隙を存して長孔部25に挿通されている。
【0033】
また、障壁部材21a,21bは、第1の筒状部材11の側壁を内外両面から挟持する断面視ヘアピン形状の挟持部26と、第1の筒状部材11の外面側の挟持部26の先端に連設され第1の筒状部材11の外周面に嵌着される嵌着部27とを備えている。そして、第1の筒状部材11の内面側の挟持部26の先端に第1の障壁22が連設されている。
【0034】
尚、分離カラム4は、ノズル14から液体窒素が噴射される部分に外套管7を備えている。外套管7は、分離カラム4よりも熱伝導性の高い材料からなる。例えば、分離カラム4が内面にジメチルポリシロキサン等からなる被覆層を備えるステンレス管のからなる場合、外套管7は金、銀、銅、鉄、白金、アルミニウム、タングステン、黄銅、白金パラジウム、白金ロジウム、黒鉛等からなるものを用いることができる。
【0035】
外套管7は、分離カラム4よりも熱伝導性の高い材料からなるので、液体窒素が噴射されると、容易に該液体窒素の温度に冷却される。この結果、分離カラム4は外套管7が設けられている範囲では、外套管7を介して容易に均一に冷却される。
【0036】
また、本実施形態では、気体案内管として、複数の気体成分を各成分毎に分離する分離能を備える分離カラム4を用いる場合を例として説明しているが、気体案内管は分離能を備えていない単なる導管であってもよい。
【0037】
次に、本実施形態の冷却濃縮装置1の作動について説明する。
【0038】
本実施形態の冷却濃縮装置1では、まず、電磁弁16を開弁することにより、窒素ガスボンベ18から流量制御器17を介して所定流量の窒素ガスが窒素導管15に供給される。窒素導管15に供給された窒素ガスは、液体窒素貯留槽19を通過する間に液化されて液体窒素となり、該液体窒素がT字管13内においてノズル14から分離カラム4の外套管7が嵌着されている部分に噴射される。この結果、分離カラム4の外套管7が嵌着されている部分は、前記液体窒素及び該液体窒素の気化により生じる極低温の窒素ガスにより、液体窒素の温度、例えば約−196℃に冷却される。
【0039】
一方、分離カラム4には、試料導入部5から、例えば複数の成分からなる気体試料がマイクロシリンジ等により導入されている。このとき、恒温槽3内は、例えば−20〜200℃の範囲の温度に加熱されており、通常の場合、前記気体試料は気体のまま分離カラム4に案内され、成分毎に分離される。
【0040】
ところが、本実施形態の冷却濃縮装置1によれば、分離カラム4の外套管7が嵌着されている部分が前記のように冷却されているので、前記気体試料はこの部分にトラップされることにより濃縮される。
【0041】
またこのとき、T字管13を形成する第1の筒状部材11には障壁部材21a,21bが装着されている。このため、T字管13の内部は、障壁22,23及び接続部24により外部から画成された空間となっており、該空間は容易に前記液体窒素及び極低温の窒素ガスにより満たされる。また、前記液体窒素及び極低温の窒素ガスの一部は、前記空間から、長孔部25と分離カラム4との間隙を介して、T字管13の外部に流出している。
【0042】
この結果、前記範囲の温度に加熱されている恒温槽3内の雰囲気がT字管13内に侵入することが阻止され、T字管13内の分離カラム4に対する氷結を確実に防止することができる。また、ノズル14から噴射される液体窒素の流量を低減することができる。
【0043】
T字管13の内部を満たすために必要とされる窒素ガスの流量は、T字管13の内径にもよるが、例えば、T字管13の内径の最大値を10mmとすると、障壁部材21a,21bを装着しない場合には、10リットル/分以上である。これに対し、障壁部材21a,21bを装着した場合には、窒素ガスの流量を7リットル/分以下とすることができる。
【0044】
前記のようにしてノズル14から液体窒素を噴射すると、障壁22,23が押圧され、障壁部材21a,21bがT字管13から脱落することが懸念される。このとき、障壁部材21a,21bは、嵌着部27により第1の筒状部材11の外周面に嵌着されているので、例えば、嵌着部27自体の弾性により第1の筒状部材11の外周面に保持されて、抜け止めされるようにすることができる。
【0045】
また、第1の筒状部材11を、中心部を形成する小径部11aと、小径部11aの両端に連接され小径部11aから外方に向かって次第に拡径するテーパ部11bと、テーパ部11bに連接する大径部11cとから形成するようにしてもよい。この場合、障壁部材21a,21bは、嵌着部27が小径部11aの外周面に嵌着され、小径部11aとテーパ部11bとの段差部に係合されることにより、確実に抜け止めされるようにすることができる。
【0046】
次に、本実施形態の冷却濃縮装置1では、所定量の前記気体試料の濃縮が完了したならば、電磁弁16を閉じることにより、ノズル14からの液体窒素の噴射を停止する。
【0047】
このようにすると、前記範囲の温度に加熱されている恒温槽3内の雰囲気がT字管13内に侵入し、該雰囲気により分離カラム4の前記のように冷却されている部分が加熱され、濃縮された気体試料が熱脱着される。そして、熱脱着された前記気体試料は、分離カラム4に案内され、分離カラム4で個々の成分毎に分離され、検出器6で検出される。
【0048】
このとき、本実施形態の冷却濃縮装置1では、障壁部材21a,21bの障壁22,23及び接続部24により、恒温槽3内の雰囲気がT字管13内に侵入しにくい構成となっている。しかし、障壁22,23及び接続部24に長孔部25を設け、接続部24の長さを変えることにより長孔部25の長さ、長孔部25と分離カラム4との間隙の大きさを調整することができる。
【0049】
従って、ノズル14から液体窒素を噴射するときにはT字管13内を容易に前記液体窒素及び極低温の窒素ガスにより満たすことができ、液体窒素の噴射を停止したときには、恒温槽3内の雰囲気を長孔部25と分離カラム4との間隙からT字管13内に速やかに侵入させることができる。この結果、前記気体試料の熱脱着を均一に行うことができ、検出器6により該気体試料中の各成分のそれぞれを単一のシャープなピークとして検出することができる。
【0050】
次に本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0051】
〔実施例1〕
本実施例では、図1に示すガスクロマトグラフ装置2において、T字管13の第1の筒状部材11に障壁部材21a,21bを装着し、冷却濃縮装置1を構成した。
【0052】
次に、電磁弁16を開弁し、窒素ガスボンベ18から流量制御器17を介して7リットル/分の流量の窒素ガスを窒素導管15に供給し、ノズル14から分離カラム4の外套管7が嵌着されている部分に液体窒素を噴射し、10分間に亘り該部分の冷却を行った。
【0053】
このとき、冷却開始時を0分とし、分離カラム4の外套管7が嵌着されている部分(冷却部分)の温度の経時変化を測定した。冷却開始時の恒温槽3内の雰囲気は40℃であった。結果を図4に示す。
【0054】
また、前記冷却の間に、ポリエチレンを200℃から600℃まで40℃/分の昇温速度で昇温加熱して生成した熱分解生成ガスを試料導入部5から導入して、分離カラム4の外套管7が嵌着されている部分に濃縮した。そして、前記冷却後、恒温槽3内の雰囲気で加熱して熱脱着し、分離カラム4で分離された成分を検出器6で検出した。得られたクロマトグラムを図5(a)に示す。
【0055】
〔比較例1〕
本比較例では、図1に示すガスクロマトグラフ装置2において、T字管13の第1の筒状部材11に障壁部材21a,21bを装着しなかった以外は、実施例1と全く同一にして、分離カラム4の外套管7が嵌着されている部分の温度の経時変化を測定した。結果を図4に示す。
【0056】
また、図1に示すガスクロマトグラフ装置2において、T字管13の第1の筒状部材11に障壁部材21a,21bを装着しなかった以外は、実施例1と全く同一にして、前記ポリエチレンの熱分解生成ガスの分析を行った。得られたクロマトグラムを図5(b)に示す。
【0057】
図4から、冷却濃縮装置1を用いた実施例1の場合には、冷却終了後、直ちに温度が上昇し、0℃までの昇温速度は800℃/分以上である。また、0℃における温度の停滞もほとんど観測されない。従って、冷却濃縮装置1を用いた場合には、分離カラム4に対する氷結が防止されていることが明らかである。
【0058】
一方、冷却濃縮装置1を用いた実施例1の場合には、冷却終了後、5秒ほど温度上昇が認められず、その後も0℃までの昇温速度は400℃/分程度である。また、0℃では40秒程度の温度の停滞が観測され、これは氷の溶解時の潜熱のためと考えられる。従って、冷却濃縮装置1を用いない場合には、分離カラム4に対して氷結が生じていることが明らかである。
【0059】
また、図5(a)から、実施例1の場合には、検出器6による検出時間の全範囲に亘って、前記ポリエチレンの熱分解生成ガスのうち、n−Cからn−C1836までの各成分がそれぞれ単一のシャープなピークとして検出されることが明らかである。従って、実施例1の場合には、分離カラム4に対する氷結が無いために、濃縮された気体成分の熱脱着が均一に行われたものと考えられる。
【0060】
一方、図5(b)から、比較例1の場合には、検出器6による検出時間の8〜10分の範囲において検出されるピークは他のピークに比較して幅が広く、n−C1734及びn−C1836のピークは隣接するピークと十分に分離されていないことが明らかである。従って、比較例1の場合には、分離カラム4に対する氷結のために、濃縮された気体成分の熱脱着が不均一になったものと考えられる。
【0061】
〔実施例2〕
本実施例では、窒素ガス流量を5リットル/分とし、濃縮される成分をn−C12までとした以外は、実施例1と全く同一にして前記ポリエチレンの熱分解生成ガスの分析を行った。得られたクロマトグラムを図6(a)に示す。
【0062】
〔実施例3〕
本実施例では、窒素ガス流量を3.5リットル/分とし、濃縮される成分をn−C1020までとした以外は、実施例1と全く同一にして前記ポリエチレンの熱分解生成ガスの分析を行った。得られたクロマトグラムを図6(b)に示す。
【0063】
図6(a)、図6(b)から、図6(a)の場合にはn−C12からn−C1938までの各成分が、図6(6)の場合にはn−C1020からn−C1938までの各成分が、それぞれ単一のシャープなピークとして検出されることが明らかである。
【0064】
従って、本発明の冷却濃縮装置1によれば、窒素ガスの流量を調整することにより分離カラム4を任意の温度に冷却することができ、分析目的に応じて最適な冷却温度で濃縮を行うことができることが明らかである。
【符号の説明】
【0065】
1…冷却濃縮装置、 2…ガスクロマトグラフ装置、 3…恒温槽、 4…分離カラム、 5…試料導入部、 6…検出器、 11…第1の筒状部材、 12…第2の筒状部材、 13…T字管、 14…ノズル、 21a,21b…障壁部材、 22…第1の障壁、 23…第2の障壁、 24…接続部、 25…長孔部、 26…挟持部、 27…嵌着部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料導入部から導入された複数の成分からなる試料を、気体案内管を介して検出器に案内して分析する際に、該試料を該気体案内管の上流側の一部分に濃縮する装置であって、
該気体案内管の上流側の一部分に対向して設けられたノズルから液体窒素を噴射して該部分を冷却し該試料を該部分に濃縮する冷却濃縮手段と、第1の筒状部材と、第1の筒状部材の中央部に接続された第2の筒状部材とを備え、該第1の筒状部材に緩挿された該気体案内管の一部分に、該第2の筒状部材に緩挿されたノズルが対向するように設けられている冷却濃縮装置において、
該第1の筒状部材の両端部に、外部の雰囲気が該第1の筒状部材内に侵入することを抑制する1対の障壁部材を設けることを特徴とする冷却濃縮装置。
【請求項2】
請求項1記載の冷却濃縮装置において、前記障壁部材は、前記第1の筒状部材の横断面の半面を遮蔽する第1の障壁と、該第1の障壁から離間する位置で該第1の筒状部材の横断面の残り半面を遮蔽する第2の障壁と、該第1の障壁の最大幅部と該第2の障壁の最大幅部とを接続する接続部と、該第1の障壁から該接続部を介して該第2の障壁まで延在し、前記気体案内管が該第1及び第2の障壁と該接続部との間に間隙を存して挿通される長孔部とを備えることを特徴とする冷却濃縮装置。
【請求項3】
請求項2記載の冷却濃縮装置において、前記障壁部材は、前記第1または第2の障壁に前記第1の筒状部材の内壁側で連接すると共に、該第1の筒状部材の先端部の側壁を内外両面から挟持する挟持部と、該挟持部の該筒状部材外面側の先端に連設され該筒状部材の外周面に嵌着される嵌着部とを備えることを特徴とする冷却濃縮装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の冷却濃縮装置において、前記第1の筒状部材は前記第2の筒状部材に直交する方向に接続されてT字管を形成していることを特徴とする冷却濃縮装置。
【請求項5】
第1の筒状部材と、第1の筒状部材の中央部に接続された第2の筒状部材とを備え、気体案内管が該第1の筒状部材に緩挿自在とされ、液体窒素を噴射して該気体案内管を冷却するノズルが該気体案内管に対向するように該第2の筒状部材に緩挿自在とされると共に、該第1の筒状部材の両端部に、外部の雰囲気が該第1の筒状部材内に侵入することを抑制する1対の障壁部材を設けることを特徴とする冷却用治具。
【請求項6】
請求項5記載の冷却用治具において、前記障壁部材は、前記第1の筒状部材の横断面の半面を遮蔽する第1の障壁と、該第1の障壁から離間する位置で該第1の筒状部材の横断面の残り半面を遮蔽する第2の障壁と、該第1の障壁の最大幅部と該第2の障壁の最大幅部とを接続する接続部と、該第1の障壁から該接続部を介して該第2の障壁まで延在し、前記気体案内管が該第1及び第2の障壁と該接続部との間に間隙を存して挿通される長孔部とを備えることを特徴とする冷却用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−220323(P2012−220323A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85736(P2011−85736)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(392013224)フロンティア・ラボ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】