説明

冷却試料分析装置

【課題】真空中で水分やアルコールなど揮発成分を含む試料を分析する場合、試料を冷却し揮発成分を凍結させて揮発成分の蒸散を防ぎ分析を行う方法が知られている。試料を試料ホルダに固定し、試料ホルダを搬送させて真空中に搬送する場合、搬送部の試料ホルダと接触する領域の近傍では搬送部の温度が低下し、搬送部に霜状固体が付着する。この霜状固体が試料に再付着する現象が発生し、試料表面が汚染されるという課題がある。
【解決手段】搬送部としてトランスファーロッド41を用い、試料ホルダ14と接触する領域を、断熱性の高い断熱部43で構成する。断熱部43を設けることでトランスファーロッド41の低温化を抑制し、霜状固体の付着を防ぐ。または、トランスファーロッド41にヒーターを巻きつけて昇温可能とする。霜状固体が付着した場合にトランスファーロッド41を加熱することで霜状固体の除去が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却試料分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空中で試料表面の状態を分析する装置としては、例えば飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)装置が知られている。真空中での分析手法で、例えば水分やアルコールなど揮発成分を含む試料を扱う場合、常温での測定では揮発成分の蒸散により試料の表面が変質し、分析精度の低下、さらには分析不能となる場合がある。
【0003】
そこで、試料を冷却し揮発成分を凍結させて分析を行う方法が知られている。この方法については、例えば特許文献1に記載されている。凍結させて分析することで試料中の水分やアルコールなどの揮発成分が真空中へ蒸散する現象を防止し、揮発成分を保持した状態での試料の分析が可能となる。
【0004】
試料を冷却し、分析するための手順としては、例えば以下の手順が用いられる。まず、試料を固定した試料ホルダを、蓄冷剤容器中に蓄えられた液体窒素中に浸漬して冷却する。
次に、試料ホルダを気密状態に保った状態で分析装置のイントロチャンバー(予備排気室)内に位置するトランスファーロッドに装着した後、イントロチャンバーを気密封止する。
次に、イントロチャンバー内を排気し、減圧する。
次にイントロチャンバーと分析系を有するメインチャンバー(主測定室)とを分離している仕切弁を開ける。
次に、トランスファーロッドをメインチャンバー内に挿入し、例えば液体窒素循環装置などを用いた冷却機構を有し、予め冷却されている試料ホルダ設置部に装着する。
次に、トランスファーロッドをイントロチャンバー内に戻し、仕切弁を閉じ、メインチャンバー内で試料の分析を行う。
この手順を行うことで試料が真空中に晒されるのは、試料が冷却された(揮発成分の蒸気圧が低く抑えられた)状態に限定される。そのため、試料から真空中への揮発成分の揮発は抑制される。即ち、試料の変質を抑制して分析することが可能となる。
【0005】
【特許文献1】特開2002−214091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1での試料凍結方法や上記した試料の冷却手順を用いた場合では、低温の試料ホルダを支えるトランスファーロッドが、低温の試料ホルダにより冷却され、トランスファーロッドに試料由来の揮発(または昇華)成分や、試料ホルダの入出工程を行う場合などで侵入する水分などに起因する霜状固体が付着する場合がある。
霜状固体はイントロチャンバー内の減圧に伴い再揮発し、低温の試料ホルダに固定された試料に再付着する場合があり、この場合低温の試料ホルダに固定された試料表面に霜状固体が付着する。
例えば、TOF−SIMSや走査電子顕微鏡など、試料の表面を分析する場合に、この霜状固体の試料への再付着により分析精度の低下、さらには分析不能となる場合があるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る冷却試料分析装置は、試料を固定する試料ホルダと、減圧下で分析を行う分析装置と、前記試料ホルダの保冷機構と、を含むメインチャンバーと、前記メインチャンバーと前記試料ホルダの受け渡しを行うべく第1仕切弁を介して接続され、前記第1仕切弁を閉じた状態で開かれ、大気圧下にある前記試料ホルダの受け渡しを行う第2仕切弁と、前記試料ホルダの受け渡し終了後、前記第2仕切弁を閉じて予備排気を行い、内部を減圧する機構を有するイントロチャンバーと、揮発性の冷却液を蓄える蓄冷剤容器と、前記試料ホルダを格納した状態で前記冷却液を蓄える前記蓄冷剤容器と結合させる機構と、前記試料ホルダを前記冷却液に浸漬させるべく前記試料ホルダを移動させ、冷却後再び格納する機構と、前記試料ホルダを前記冷却液に浸漬させる場合に発生する前記冷却液由来の揮発ガスを排気する機構と、前記試料ホルダを格納後気密性を保持させるべく密閉させるための第3仕切弁と、前記イントロチャンバーと気密性を保つ状態で結合させる結合機構と、前記イントロチャンバー内に前記試料ホルダを搬送する機構と、を含む搬送用容器と、前記イントロチャンバーと前記メインチャンバーとの間で前記試料ホルダの受け渡しを行うトランスファーロッドであって、前記試料ホルダと接続される側に位置し、長さ方向に見て少なくとも一部の領域が断熱性素材を含む素材で構成される前記トランスファーロッドと、を含むことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、トランスファーロッドの試料ホルダに接する側に位置し、長さ方向に見て少なくとも一部の領域が断熱性素材を含むため、試料ホルダからの熱伝導によるトランスファーロッドの低温化を抑制することができる。そのため、トランスファーロッドへの霜状固体の付着が抑制され、霜状固体のトランスファーロッドからの再揮発、そして試料への再付着による試料表面の汚染を抑制することができる。
【0009】
また、本発明に係る冷却試料分析装置は、試料を固定する試料ホルダと、減圧下で分析を行う分析装置と、前記試料ホルダの保冷機構と、を含むメインチャンバーと、前記メインチャンバーと前記試料ホルダの受け渡しを行うべく第1仕切弁を介して接続され、前記第1仕切弁を閉じた状態で開かれ、大気圧下にある前記試料ホルダの受け渡しを行う第2仕切弁と、前記試料ホルダの受け渡し終了後、前記第2仕切弁を閉じて予備排気を行い、内部を減圧する機構を有するイントロチャンバーと、揮発性の冷却液を蓄える蓄冷剤容器と、前記試料ホルダを格納した状態で前記冷却液を蓄える前記蓄冷剤容器と結合させる機構と、前記試料ホルダを前記冷却液に浸漬させるべく前記試料ホルダを移動させ、冷却後再び格納する機構と、前記試料ホルダを前記冷却液に浸漬させる場合に発生する前記冷却液由来の揮発ガスを排気する機構と、前記試料ホルダを格納後気密性を保持させるべく密閉させるための第3仕切弁と、前記イントロチャンバーと気密性を保つ状態で結合させる結合機構と、前記イントロチャンバー内に前記試料ホルダを搬送する機構と、を含む搬送用容器と、前記イントロチャンバーと前記メインチャンバーとの間で前記試料ホルダの受け渡しを行うトランスファーロッドであって、霜状固体を揮発除去させるための昇温機構と測温機構とを含む前記トランスファーロッドと、を含むことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、トランスファーロッドは昇温機構を含むので、霜状固体がトランスファーロッドに付着した場合、トランスファーロッドを昇温させることで霜状固体を揮発除去することができる。そのため、トランスファーロッドからの、試料への霜状固体の再付着を抑制することができる。
【0011】
また、公知技術であるイントロチャンバー全体を昇温し霜状固体を除去する方法と比較した場合、トランスファーロッド単体の熱容量はイントロチャンバーの熱容量と比べ小さく抑えることができる。
【0012】
そのため、イントロチャンバー全体の熱容量と比べ小さい熱容量を持つトランスファーロッドのみを加熱する方法を用いることで昇温と降温に要する時間を短縮することができ、短い時間間隔で連続して試料を分析することができる。また、測温機構を有しているため、過剰な温度上昇による分析に要する時間間隔の長時間化や、霜状固体の残留物に起因する試料表面の汚染などを防止することができる。
【0013】
また、本発明に係る冷却試料分析装置は、試料の表面状態に敏感な二次イオン質量分析装置を用いる分析に対し好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<第1の実施形態>
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
(試料ホルダ冷却部、試料搬送部の構成)
図1は、例えば液体窒素を含む冷却液10を蓄える、蓄冷剤容器11を含む試料ホルダ冷却部20aと、試料ホルダ14の冷却後、大気と遮断し、冷却状態を保持して搬送を行う試料ホルダ搬送部20bとの模式側面図である。この模式側面図では蓄冷剤容器11及び搬送用容器30を透過させた状態での側面図を示している。
【0016】
冷却試料分析装置20は、試料ホルダ冷却部20aと、試料ホルダ14の冷却状態を保ち、試料ホルダ14を搬送する試料ホルダ搬送部20bと、イントロチャンバー40(後述する)を含む予備排気部20c(後述する)と、試料13をメインチャンバー50(後述する)に搬送し分析する分析部20d(後述する)と、を含む。
【0017】
試料ホルダ冷却部20aの構成要素である蓄冷剤容器11には、例えば液体窒素を含む冷却液10が蓄えられている。液体窒素はその沸点が77Kであり、室温中では常に窒素ガスを放出しており、蓄冷剤容器11への大気雰囲気からの水分の侵入は抑えられている。
【0018】
試料ホルダ14は、低温を保った状態で試料13を搬送可能とするよう、蓄積熱量が大きく、また後述する分析装置から受ける電荷を逃がすべく電気的な導体として、例えば真鍮などの素材により形成されている。また、試料ホルダ14は、受けねじ部34、固定部12、ロッド固定部36を含む。
【0019】
受けねじ部34は搬送棒32のねじ部31とかみ合わされ、搬送棒32と試料ホルダ14との脱着が制御される。また、固定部12は弾性を有しており、試料13を試料ホルダ14に固定する機能を有している。そして、ロッド固定部36は、イントロチャンバー40(後述する)に試料ホルダ14を搬送する場合に試料ホルダ14をトランスファーロッド41(後述する)によって支える機能を有している。
【0020】
試料ホルダ搬送部20bは試料ホルダ14を搬送する機能を有し、搬送用容器30、第3仕切弁33、搬送棒32、ねじ部31、逆止弁35と、を含む。
【0021】
搬送用容器30には、第3仕切弁33が配置されており、第3仕切弁33を開いた状態では搬送棒32の上下動により搬送用容器30外への試料ホルダ14の授受が行われる。第3仕切弁33を閉じた状態では、搬送用容器30内は機密に保たれ、例えば大気からの水分汚染を防止することを可能としている。
【0022】
第3仕切弁33は、例えばゲートバルブ状の構造を有しており、第3仕切弁33を開放する場合には搬送用容器30内部と外部との間での試料ホルダ14の授受を可能とし、第3仕切弁33を遮断する場合には搬送用容器30内部への大気の侵入を防ぐべく搬送用容器30を密閉する。
【0023】
搬送棒32は、試料ホルダ14を、搬送用容器30の内側と外側との間を搬送するために配置されており、搬送棒32はその長さ方向及び同軸に回転する方向に対して可動性を有するよう構成されている。
【0024】
ここで、試料ホルダ14の挿抜を行わせるために搬送棒32を斜めに動かす方向に可動性を与えるように構成し、搬送棒32にフック状の固定機構(図示せず)を配置し、試料ホルダ14に受け口(図示せず)を配置しても良い。
【0025】
ねじ部31は試料ホルダ14を保持するために搬送棒32に配置されている。ねじ部31は試料ホルダ14に配置される受けねじ部34と組となり、試料ホルダ14を固定/開放する。
【0026】
(試料ホルダ14の冷却手法)
次に、試料ホルダ冷却部20aを用いて試料13が固定された試料ホルダ14を冷却して搬送する手法について説明する。
【0027】
まず、常温に戻した試料ホルダ14と試料13とを弾性を有する固定部12を用いて固定する。この状態では第3仕切弁33は開放されている。ここで、試料13を試料ホルダ14に固定する場合には、弾性を有する金属片での固定に代えて導電性固定剤を用いて固定する方法を用いても良い。
次に、搬送用容器30が有する搬送棒32のねじ部31と試料ホルダ14の受けねじ部34とを固定する。
次に、搬送棒32を操作して試料ホルダ14を搬送用容器30内に搬入する。次に、搬送用容器30を液体窒素を含む冷却液10を蓄えた蓄冷剤容器11上に固定する。固定機構としては、搬送用容器30が蓄冷剤容器11から落下しないように溝や滑り止めなどの機構を有する構成をとることができる。また、ねじやクランプなどを用いて強固に固定する構成を用いても良い。また、大きな力が掛かることはないので、単に蓄冷剤容器11上に搬送用容器30を置いても良い。
【0028】
ここで、搬送用容器30には、冷却液10中に試料ホルダ14を挿入冷却する場合に発生する冷却液10が沸騰して発生するガス(例えば窒素ガス)を逃がすために搬送用容器30には逆止弁35が備えられていることが好ましい。また、蓄冷剤容器11の内部は、内蔵する冷却液10由来のガス排出により正圧に保たれるため、蓄冷剤容器11側に冷却液10の液面よりも高い位置に空隙を形成する構成を用いても良い。
次に、搬送棒32を操作し、試料ホルダ14を蓄冷剤容器11中に蓄積された冷却液10中に挿入する。図1には、この状態にある試料ホルダ冷却部20aと、試料ホルダ搬送部20bとの位置関係が示されている。
次に、冷却液10中で冷却された試料ホルダ14を搬送棒32を操作し、搬送用容器30内に収める。
次に、第3仕切弁33を閉じて搬送用容器30の内部と大気との接触を防止する。次に、搬送用容器30を蓄冷剤容器11から離す。図2は、この状態での搬送用容器30の模式側面図である。この処理により、試料ホルダ14を低温の状態で大気と分離し、搬送することが可能となる。
【0029】
(予備排気部20cの構成)
図3は、試料ホルダ搬送部20bを接続させた予備排気部20cの模式側面図である。この模式側面図ではイントロチャンバー40及び搬送用容器30を透過させた状態での側面図を示している。以下、図3を用いて試料ホルダ14を試料ホルダ搬送部20bから予備排気部20cに搬送する構成について説明する。
【0030】
予備排気部20cはイントロチャンバー40と、トランスファーロッド41、断熱部43、第2仕切弁42とを含む。
【0031】
イントロチャンバー40は図示せぬ予備排気装置を含み、イントロチャンバー40内を大気圧からメインチャンバー50(後述する)への試料ホルダ14の搬送が行えるよう予備排気する構成を有している。
【0032】
トランスファーロッド41は、試料ホルダ14と接する側に、例えばポリエチレンやテフロン(登録商標)など断熱性素材を用いた断熱部43を含む。ここで、トランスファーロッド41の素材として全て断熱性素材を用いて構成しても良い。
【0033】
第2仕切弁42には、例えばゲートバルブが用いられる。第2仕切弁42にゲートバルブを用いることで、イントロチャンバー40内の気密性保持と、試料ホルダ14の移動とが容易に行えるため好適である。
【0034】
(試料ホルダ14の予備排気部20cへの搬送手法)
次に、予備排気部20cからの試料ホルダ14の搬送手法について説明する。
【0035】
まず、イントロチャンバー40内の圧力が大気圧と同等になるようリークを行う。この場合、窒素ガスなど露点の低いガスを用いてリークすることが好ましい。
次に、第3仕切弁33が閉じられ、その内部と大気との接触が防止された搬送用容器30を、イントロチャンバー40に含まれる第2仕切弁42と気密性を保つ状態で結合させるよう密着させる。
次に、第3仕切弁33と第2仕切弁42を開ける。
次に、搬送棒32を操作しイントロチャンバー40内に試料ホルダ14を搬送する。図3はこの状態を示している。
次に、トランスファーロッド41を操作し、トランスファーロッド41を試料ホルダ14に差し込む。
次に、搬送棒32を操作し、ねじ部31と受けねじ部34とを離す。
次に、搬送棒32を操作し、搬送棒32を搬送用容器30中に引き戻す。
次に、第3仕切弁33と第2仕切弁42を閉じ、搬送用容器30を外す。
次に、イントロチャンバー40内を排気し、真空状態にする。図4は、上記した工程を行いイントロチャンバー40内に試料ホルダ14が搬送された状態での模式側面図である。
【0036】
この場合、トランスファーロッド41の少なくとも低温の試料ホルダ14と接する側の一部に断熱性が高いポリエチレンやテフロン(登録商標)を用いた断熱部43を有しているため、トランスファーロッド41の低温化が抑制される。そのため、トランスファーロッド41への試料13からの昇華物や雰囲気中の水分などに起因する霜状固体の着霜を抑制することができる。従って、次の試料13をイントロチャンバー40内に搬送する場合に発生する、トランスファーロッド41の霜状固体の再揮発・再付着に起因する試料13の表面への霜状固体の付着を抑制することができ、連続して分析する場合においても試料13の表面状態を良好に保つことが可能となる。
【0037】
(分析部20dの構成)
図5は、分析部20dと予備排気部20cとが第1仕切弁52を介して接続された構成を示す模式側面図である。この模式側面図ではイントロチャンバー40及びメインチャンバー50を透過させた状態での側面図を示している。
【0038】
分析部20dは、メインチャンバー50と、第1仕切弁52、分析ステージ51とを含む。
【0039】
メインチャンバー50は、真空中での分析を行うための図示せぬ排気機構を有しており、例えば電子線やイオンビームを試料13に照射可能な真空度を保たせている。
【0040】
第1仕切弁52は、例えばゲートバルブを用いて構成されている。第1仕切弁52はイントロチャンバー40との境界に配置されており、イントロチャンバー40が十分高い真空度に達した状態で試料ホルダ14をイントロチャンバー40からメインチャンバー50に搬送する場合に開けられる。
【0041】
分析ステージ51は、例えば液体窒素をその内部に循環させることで冷却を行う構成を含んでいる。また、分析ステージ51を銅やアルミニウムなどの熱伝導性の高い金属部材で構成し、予め液体窒素などで分析ステージ51を冷却することで試料ホルダ14の冷却状態を保つ構成を含んでいる。
【0042】
(試料ホルダ14の分析部20dへの搬送手法)
次に、試料ホルダ14を予備排気部20cから分析部20dへ搬送する手法について説明する。
まず、イントロチャンバー40内を排気して、メインチャンバー50の汚染が抑制できる真空度を有する状態にする。
次に、第1仕切弁52を開ける。
次に、トランスファーロッド41を操作して、試料ホルダ14をメインチャンバー50内に位置する分析ステージ51に設置する。図5は、この状態での模式側面図である。
次に、トランスファーロッド41を引き戻す。この場合、例えば分析ステージ51をトランスファーロッド41の動きと交差する向きに可動となるよう構成しておくことで、分析ステージ51に試料ホルダ14を引っ掛けるように設置することができる。また、分析ステージ51は、例えば液体窒素をその内部に循環させることで冷却を行う構成を含んでいる。また、分析ステージ51は銅やアルミニウムなどの熱伝導性の高い金属部材で構成し、予め液体窒素などで分析ステージ51を冷却することで試料ホルダ14の冷却状態を保つ構成を含んでいる。
次に、試料ホルダ14を設置した後、トランスファーロッド41を引き戻す。
次に、第1仕切弁52を閉じる。図6は、上記した工程を行いメインチャンバー50内の分析ステージ51上に試料ホルダ14が搬送された状態での模式側面図である。
次に、メインチャンバー50の排気を行い、さらに減圧した状態で入射プローブ55と検出部56を備えた分析装置57を用いて分析を行う。
【0043】
上記したように、トランスファーロッド41は少なくとも冷却された試料ホルダ14と接触する側に断熱部43が配置されているため、トランスファーロッド41への、雰囲気中の水分や試料13の昇華物などに起因する霜状固体の付着が抑制される。そのため、試料13表面への霜状固体の再付着を抑制することが可能となり、清浄な表面状態を保持して分析装置57を用いて分析を行うことが可能となる。分析装置57は、例えばTOF−SIMS、通常のSIMS、SEMその他の分析装置を含む。また、分析装置57の配置は図6に示したレイアウトに限定されることなく配置することが可能である。例えばSIMS分析ではメインチャンバー50に例えばフランジ等を介して検出部56を設けても良い。
【0044】
<変形例>
以下、変形例について図7を用いて説明する。図7は予備排気部20cの模式側面図であり、イントロチャンバー40を透過させた状態で記載している。第1の実施形態との差異は大きく分けて2点あり、その1点は、トランスファーロッド41の、試料ホルダ14が接続される側の少なくとも一部に断熱性素材を含む断熱部43を必須としない点である。そして、第2点は、トランスファーロッド41の試料ホルダ14が接続される側の少なくとも一部にシーズヒーターを用いた昇温機構53を熱結合させ、さらに熱電対を用いた測温機構54をトランスファーロッド41の試料ホルダ14が接続される側に熱結合させている点である。図7では、断熱部43を組みこんだ構成について説明している。このように昇温機構53を用いる場合においても断熱部43を介することで霜状固体の付着抑制に対しては有効である。
【0045】
トランスファーロッド41に霜状固体が付着した場合には、試料ホルダ14を外した状態で第1仕切弁52、第2仕切弁42を閉じてトランスファーロッド41を昇温しながらイントロチャンバー40内を排気する。昇温しながら排気することで、トランスファーロッド41に付着する霜状固体を除去することができる。また、イントロチャンバー40を全て加熱する場合と比べ熱容量の小さいトランスファーロッド41のみを加熱するため、短時間で再度分析を開始することができる。また、温度を測定するための測温機構54をトランスファーロッド41と熱結合させて配置しているため、昇温不足や過剰昇温の発生を防止し、最適な昇温量でトランスファーロッド41に付着した霜状固体を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】冷却液を蓄える試料ホルダ冷却部と、試料ホルダ搬送部との模式側面図。
【図2】搬送用容器の模式側面図。
【図3】試料ホルダ搬送部を接続させた予備排気部の模式側面図。
【図4】イントロチャンバー内に試料ホルダが搬送された状態での模式側面図。
【図5】分析部と予備排気部とが接続された構成を示す模式側面図。
【図6】メインチャンバー内の分析ステージ上に試料ホルダが搬送された状態での模式側面図。
【図7】予備排気部の模式側面図。
【符号の説明】
【0047】
10…冷却液、11…蓄冷剤容器、12…固定部、13…試料、14…試料ホルダ、20…冷却試料分析装置、20a…試料ホルダ冷却部、20b…試料ホルダ搬送部、20c…予備排気部、20d…分析部、30…搬送用容器、31…ねじ部、32…搬送棒、33…第3仕切弁、34…受けねじ部、35…逆止弁、36…ロッド固定部、40…イントロチャンバー、41…トランスファーロッド、42…第2仕切弁、43…断熱部、50…メインチャンバー、51…分析ステージ、52…第1仕切弁、53…昇温機構、54…測温機構、55…入射プローブ、56…検出器、57…分析装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を固定する試料ホルダと、
減圧下で分析を行う分析装置と、前記試料ホルダの保冷機構と、を含むメインチャンバーと、
前記メインチャンバーと前記試料ホルダの受け渡しを行うべく第1仕切弁を介して接続され、前記第1仕切弁を閉じた状態で開かれ、大気圧下にある前記試料ホルダの受け渡しを行う第2仕切弁と、前記試料ホルダの受け渡し終了後、前記第2仕切弁を閉じて予備排気を行い、内部を減圧する機構を有するイントロチャンバーと、
揮発性の冷却液を蓄える蓄冷剤容器と、
前記試料ホルダを格納した状態で前記冷却液を蓄える前記蓄冷剤容器と結合させる機構と、前記試料ホルダを前記冷却液に浸漬させるべく前記試料ホルダを移動させ、冷却後再び格納する機構と、前記試料ホルダを前記冷却液に浸漬させる場合に発生する前記冷却液由来の揮発ガスを排気する機構と、前記試料ホルダを格納後気密性を保持させるべく密閉させるための第3仕切弁と、前記イントロチャンバーと気密性を保つ状態で結合させる結合機構と、前記イントロチャンバー内に前記試料ホルダを搬送する機構と、を含む搬送用容器と、
前記イントロチャンバーと前記メインチャンバーとの間で前記試料ホルダの受け渡しを行うトランスファーロッドであって、前記試料ホルダと接続される側に位置し、長さ方向に見て少なくとも一部の領域が断熱性素材を含む素材で構成される前記トランスファーロッドと、
を含むことを特徴とする冷却試料分析装置。
【請求項2】
試料を固定する試料ホルダと、
減圧下で分析を行う分析装置と、前記試料ホルダの保冷機構と、を含むメインチャンバーと、
前記メインチャンバーと前記試料ホルダの受け渡しを行うべく第1仕切弁を介して接続され、前記第1仕切弁を閉じた状態で開かれ、大気圧下にある前記試料ホルダの受け渡しを行う第2仕切弁と、前記試料ホルダの受け渡し終了後、前記第2仕切弁を閉じて予備排気を行い、内部を減圧する機構を有するイントロチャンバーと、
揮発性の冷却液を蓄える蓄冷剤容器と、
前記試料ホルダを格納した状態で前記冷却液を蓄える前記蓄冷剤容器と結合させる機構と、前記試料ホルダを前記冷却液に浸漬させるべく前記試料ホルダを移動させ、冷却後再び格納する機構と、前記試料ホルダを前記冷却液に浸漬させる場合に発生する前記冷却液由来の揮発ガスを排気する機構と、前記試料ホルダを格納後気密性を保持させるべく密閉させるための第3仕切弁と、前記イントロチャンバーと気密性を保つ状態で結合させる結合機構と、前記イントロチャンバー内に前記試料ホルダを搬送する機構と、を含む搬送用容器と、
前記イントロチャンバーと前記メインチャンバーとの間で前記試料ホルダの受け渡しを行うトランスファーロッドであって、霜状固体を揮発除去させるための昇温機構と測温機構とを含む前記トランスファーロッドと、
を含むことを特徴とする冷却試料分析装置。
【請求項3】
前記分析装置は二次イオン質量分析装置であることを特徴とする請求項1または2に記載の冷却試料分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−268100(P2008−268100A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113833(P2007−113833)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】