説明

冷却試薬保管庫及び核酸分析装置

【課題】各試薬容器ごとに、外部からアクセスでき、試薬容器空間の密閉状態を保ち、結露防止する、冷却試薬保管庫を提供する。
【解決手段】冷却試薬保管庫は、複数の試薬容器を収容する試薬容器収容部と、試薬容器収容部に収容された試薬容器204へアクセスするための保管庫蓋穴206を要する保管庫蓋203と、試薬容器収容部へ収容した試薬容器204を冷却する冷却ブロック205と、を有し、保管庫蓋203をスライドすることにより外部から試薬への開放及び閉栓を切り替えることができ、さらに、保管庫蓋203と試薬容器収容部との間に、試薬容器204へアクセスするための穴103を有し、かつ、保管庫蓋203に密着する、試薬保管庫パッキン101を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は核酸やタンパク質等を分離分析する際に用いる、冷却試薬保管庫及び核酸分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、通常用いられている電気泳動を利用した方法においては、予め配列決定用のDNA断片又はRNA試料から逆転写反応を行い合成したcDNA断片試料を調製し、周知のサンガー法によるジデオキシ反応を実行した後、電気泳動を行い、分子量分離展開パターンを計測して解析する。これに対し、近年、基板に試料となるDNA断片を数多く固定して、パラレルに数多くの断片の配列情報を決定する方法が提案されている。非特許文献1では、DNA断片を担持する媒体として微粒子を用い、微粒子上でPCRを行う。その後、微粒子のサイズに穴径を合わせた数多くの穴を設けたプレートに、PCR増幅されたDNA断片を担持した微粒子を入れてパイロシーケンス方式で読み出している。また、非特許文献2では、DNA断片を担持する媒体として微粒子を用い、微粒子上でPCRを行う。その後、微粒子をガラス基板上にばら撒いて固定し、ガラス基板上で酵素反応(ライゲーション)を行い、蛍光色素付き基質を取り込ませて蛍光検出を行うことにより各断片の配列情報を得ている。
【0003】
以上のように、平滑基板上に、核酸断片試料を数多く固定することにより、パラレルに数多くの断片の配列情報を決定する方法が開発され、実用化されつつある。
【0004】
これらのシステムに用いられる核酸分析に伴う化学的反応は、一般的に異なる試薬を用いた数多くのステップから成り立っており、ステップ毎に異なる試薬を含む溶液を供給する必要がある。また、シーケンス反応に必要な反応試薬量はより少ない方が望ましい。これらの反応には、低温高温を繰り返す温度サイクルが必要になり、反応には長時間を要する。また、ある反応ごとに、蛍光顕微鏡を用いて、検出を行うため、通常分析に1日〜1週間を要する。そのため、反応試薬を冷蔵保管するための機構が必要になる。
【0005】
シーケンス反応に使用される試薬を含む溶液は、高価な試薬であったり、貴重なDNAサンプルを含む溶液であったりすることが多く、反応試薬量はより少ない方が望ましい。そのため、装置の試薬冷却庫には、複数且つ少量の反応試薬や洗浄試薬類が保管されることが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature 2005, Vol. 437, pp. 376-380
【非特許文献2】Science 2005, Vol. 309, pp. 1728-1732
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
保管された複数の少量試薬は、各ステップごとに反応槽へ導入されることから、分注ノズル等を用いて、試薬つまり試薬容器にアクセスできる試薬保管庫が求められる。
【0008】
また、本願発明者が鋭意検討した結果、次のような課題が判明した。
【0009】
本核酸分析装置は、無人状態で長時間(1日〜1週間)運転されるため、試薬を長期保管する必要がある。その際、冷蔵されている試薬が、外気と接すると、結露のために希釈され分析性能が低下するという問題が生じる。
【0010】
本核酸分析装置のシステムとして、逐次、サンプル分注ノズルは、試薬容器にアクセスし、試薬を分注や混合する作業が行われる。そのため、試薬保管庫は、各試薬容器ごとに開閉をする構造でなければならない。試薬冷却および外気との密閉と、外部アクセスの両方を満たす構造が必要になる。複数の外部アクセス用の穴を要する平面蓋が、2次元上で逐次スライドすることで、各試薬容器ごとに、外部からアクセスできる構造が考えられているものの、結露を防ぐほど密閉状態を保つには、非常に困難を要する。
【0011】
通常、平面蓋は金属材料等の物質で形成され、かつ、それぞれの試薬容器は冷却保管庫に保管した状態でバラツキがあり、平面蓋で全ての密閉状態を維持するのは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、試薬の冷却保管庫内、試薬容器周辺に設置され、試薬がなるべく外気と触れないように密閉空間を作成し、かつ試薬保管庫の平面蓋が開いた際に、試薬容器へのアクセスを可能にする密閉部材であるパッキンを提供する。
【発明の効果】
【0013】
上記密閉パッキンにより試薬容器内部での結露を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施例に試薬保管庫用パッキンの概略図である。
【図2】本発明の実施形態である冷却保管庫の概略図である。
【図3】本発明の実施形態である試薬保管状態の概略図である。
【図4】本発明の実施形態である核酸分析装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、上記及びその他の本発明の新規な特徴と利益を、図面を参酌して説明する。ただし、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0016】
図4を用いて核酸分析装置401の概要を説明する。核酸分析装置401は、複数の試薬容器を収容する試薬冷却保管庫201と、試薬容器の反応試薬送液機構402と、サンプル及び試薬の反応を行う流路を有する反応デバイス403と、反応デバイスでの反応を検出する検出部404とを有する。試薬保管庫から搬送されたサンプルと試薬は、反応デバイス内で伸長反応をし、蛍光発する。検出部にて、蛍光検出を行い、塩基配列の決定を行う。反応後の余分なサンプルや試薬は、廃液タンク405に収容される。通常、試薬冷却保管庫は、金属ブロックに複数の試薬容器を設置し、その金属ブロックがペルチェ素子等を冷却源として、冷却され、冷却ブロックに試薬容器を挿入することで、試薬が冷蔵保存される。試薬容器内に結露を起こす要因は、そもそも冷却庫内の空気および冷却庫外から流入する外気の湿気である。それらの空気が、冷却庫内にて冷やされ、飽和水蒸気となり、結露が発生する。しかし、反応プロセスごとに試薬にアクセスすることから、完全に試薬冷却庫を密閉することは不可能であり、外気の侵入は避けられない。
【0017】
そこで、1)試薬容器外での積極的な結露発生、2)蓋をしているときの外気との密閉を実施することで、試薬容器内での結露を対策する。上記1),2)を実施するために、試薬容器の周辺を覆いながら、試薬アクセス用の穴を要し、試薬保管庫の蓋を密閉するための構造体を持つパッキンを提供する。
【0018】
本パッキンは、直接試薬容器に接しはせず、冷却ブロックと試薬庫蓋とパッキンにて、試薬容器周辺に空間を設ける。試薬庫蓋の外部アクセス用穴から入り込む外気が、試薬容器入り口のみではなく、冷却ブロックに接する面積を増やし、冷却ブロック部にて積極的に結露を発生させ、試薬容器内での結露を極力防ぐ構造となっている。
【0019】
また、本パッキンは、試薬にアクセスしない時は、試薬保管庫蓋の外部アクセス用穴を塞ぎ、さらに、試薬保管庫蓋の穴部の位置に支柱が設けられ、密閉度を強化している。
【実施例1】
【0020】
図1は、本実施例にかかる試薬保管庫用パッキンの概略図である。以下、図1を参照して、本発明の構成について説明する。
【0021】
試薬保管庫用のパッキン101は、パッキンベース102を元にした平面状のパッキンである。パッキンベース102には、試薬にアクセスできるように、各試薬容器位置に対応したパッキン穴103が設けられている。また、試薬容器が位置するパッキン部位では、試薬容器周辺の空間を設けるためのパッキン支柱104が存在し、パッキン外枠105とともに、パッキン空間106を構成している。
【0022】
本実施例の一つの重要な構成は、このパッキン空間106を設けた点である、本実施例では保管庫蓋203との密着を実現させ、結露を防止することである。しかしながら、完全に結露を防止させることは困難である。特に、保管庫蓋203をスライドさせ、外部からのアクセスが可能になった試薬容器204は、より結露し易い。そこで、わざとパッキン空間106を設け、この空間での結露を起こすことで、外部からのアクセスが可能になった試薬容器(及びその試薬容器近傍の試薬容器)204内での結露を抑えることができるという効果を奏する。
【0023】
パッキン101は、密閉空間を構成するために、独立発泡体といった柔らかい材質でできている。そのため、密閉効果のみではなく、断熱効果も要している。また、パッキン101を二重構造にし、保管庫蓋203側を摩擦の少ない樹脂材を用い、冷却ブロック205側を冷却材で構成してもよい。これにより保管庫蓋203のスライドを妨げることなく、保管庫蓋203との密着を実現させ、かつ、試薬の冷却を維持することができる。
【0024】
パッキン穴103が、試薬へのアクセス順番などに依存して、不等間隔で開いているため、パッキン支柱104も不等間隔に配置される。このパッキン支柱の位置は、本実施例において重要な効果を奏するがこれについては後述する。
【0025】
パッキン外枠105は、沢山の試薬容器が保存される複数のパッキン空間において、外部との密閉度を強化するために、パッキン支柱105より平面方向の幅は広くなっている。
【0026】
図2に、試薬保管庫用パッキン101が、試薬保管庫に実装された状態を示す。試薬冷却保管庫201は、主に、冷却用ペルチェユニット202,保管庫蓋203,冷却ブロック205から構成されている。試薬容器204は、金属部材である冷却ブロック205に設置される。冷却源であるベルチェユニット202が、冷却ブロック205を冷却することで、冷却ブロック205の温度が下がり、試薬容器が低温のまま長期間保管される。通常、試薬容器204内は、2℃から8℃に制御され、試薬容器204内の反応試薬(酵素や蛍光色素など)を冷蔵保存する。試薬容器204内の試薬を、外気と遮断するために、試薬冷却庫には、本発明である試薬保管庫用パッキン101と、保管庫蓋203が設けられる。試薬容器204の上下を、保管庫蓋203と冷却ブロック205で構成され、試薬容器204の側面を覆うように試薬保管庫用のパッキン101が配置され、3層構造により、試薬容器204の冷却および密閉保管を行う。保管庫蓋203には、保管庫蓋穴206が有り、試薬容器204に外部からアクセスする際は、保管庫蓋203を2次元上に水平移動させて、目的となる試薬容器204位置と同じ位置に、保管庫穴206を移動させ、保管庫穴206を介して、試薬にアクセスする。一方で、各試薬容器204に、個別にアクセスし、その他の試薬の密閉状態を失わないために、試薬容器204の配置とは異なるピッチで保管庫蓋穴206は配置されている。
【0027】
以下、図3を用いて、各反応試薬容器204へのアクセスおよび密閉状態を説明する。
【0028】
図3(a)に、外部からのアクセスが無く、試薬が密閉された状態の概略断面図を示す。試薬保管庫蓋203に設けられた外部アクセス用の保管庫蓋穴206は、試薬容器204とは異なる場所に配置される。試薬保管庫パッキン101上のパッキン穴103は、試薬容器204と同一に配置される。その際、試薬保管庫パッキン101のパッキン支柱104は、保管庫蓋穴206と同じ位置になる。これにより、試薬保管庫パッキン101の上面は、保管庫蓋穴206に押しあてられ、パッキン空間106は、十分な密閉状態を確保することができる。補足すると、支柱104が設けられている位置と、それ以外の位置(支柱がない分厚みが小さい)を比較すると、パッキン101は後者の方が撓む(保管庫蓋203とパッキン101との間に隙間ができる)可能性が高い。上記のように、支柱104が保管庫蓋206の直下に位置するように設計することにより、より一層密閉度を高めることができる。
【0029】
図3(b)に、試薬Aと試薬Bに、試薬分注ノズル301がアクセスする場合の概略断面図を示す。保管庫蓋203が右側にスライド移動し、試薬Aと試薬Bの試薬容器上に、保管庫蓋穴206を配置し、試薬容器204およびパッキン穴と位置を合わせる。その際、試薬Cの試薬容器上に、保管庫蓋穴206は位置しないので、試薬Cは密閉された状態が継続する。
【0030】
一方で、図3(c)に、試薬Cに、試薬分注ノズル301がアクセスする場合の概略断面図を示す。保管庫蓋203が左側にスライド移動し、試薬Cの試薬容器上に、保管庫蓋穴206を配置し、試薬容器およびパッキン穴と位置を合わせる。その際、試薬AとBの試薬容器上に、保管庫蓋穴206は位置しないので、試薬AとBは密閉された状態が継続する。
【0031】
以上、本発明の例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々な変更が可能であることは当業者に理解される。各実施例を適宜組み合わせることも、本発明の範囲である。
【符号の説明】
【0032】
101 試薬保管庫パッキン
102 パッキンベース
103 パッキン穴
104 パッキン支柱
105 パッキン外枠
106 パッキン空間
201 試薬冷却保管庫
202 冷却用ペルチェユニット
203 保管庫蓋
204 試薬容器
205 冷却ブロック
206 保管庫蓋穴
301 試薬分注ノズル
401 核酸分析装置
402 反応試薬送液機構
403 反応デバイス
404 検出部
405 廃液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の試薬容器を収容する試薬容器収容部と、
試薬容器収容部に収容された試薬容器へアクセスするための穴を要する閉栓部材と、
試薬容器収容部へ収容した試薬容器を冷却する冷却部と、を有し、
閉栓部材をスライドすることにより外部から試薬への開放及び閉栓を切り替えることができ、
さらに、閉栓部材と試薬容器収容部との間に、試薬容器へアクセスするための穴を有し、かつ、蓋に密着する、密閉部材を備えていることを特徴とする、冷却試薬保管庫。
【請求項2】
請求項1において、
前記密閉部材は、前記冷却部に接する支柱を有することを特徴とする、冷却試薬保管庫。
【請求項3】
請求項2において、
前記支柱は前記閉栓部材により試薬容器が閉栓された状態で閉栓部材に設けられた蓋の下方に位置するように設けられていることを特徴とする、冷却試薬保管庫。
【請求項4】
請求項2において、
前記支柱は前記試薬容器収容部からは離れており、前記試薬容器収容部の周囲には空間が設けられていることを特徴とする、冷却試薬保管庫。
【請求項5】
請求項2において、
閉栓部材をスライドさせる方向により、外部からアクセス可能な試薬容器が切り替わるように、閉栓部材の穴及び試薬容器収容部が位置していることを特徴とする、冷却試薬保管庫。
【請求項6】
請求項5において、
前記支柱は少なくとも一つが不等間隔に設けられていることを特徴とする、冷却試薬保管庫。
【請求項7】
請求項1において、
前記密閉部材は樹脂材と断熱部材の二重構造であることを特徴とする、冷却試薬保管庫。
【請求項8】
請求項1において、
前記密閉部材の材料は独立発砲体であることを特徴とする、冷却試薬保管庫。
【請求項9】
請求項1において、
前記密閉部材の材料はゴムであることを特徴とする、冷却試薬保管庫。
【請求項10】
前記支柱は密閉部材の外周部にも設けられ、外周部に設けられた支柱はその他の部分に設けられた支柱よりも幅が広いことを特徴とする、冷却試薬保管庫。
【請求項11】
複数の試薬容器を収容する試薬容器収容部と、試薬容器収容部に収容された試薬容器へアクセスするための穴を要する閉栓部材と、試薬容器収容部へ収容した試薬容器を冷却する冷却部を有する冷却試薬保管庫と、
サンプル及び試薬の反応を行う流路を有する反応デバイスと、
反応デバイスでの反応を検出する検出部とを有する、核酸分析デバイスと、
閉栓部材をスライドすることにより外部からアクセス可能な試薬容器を切り替えることができ、
冷却試薬保管庫は、さらに、閉栓部材と試薬容器収容部との間に、試薬容器へアクセスするための穴を有し、かつ、蓋に密着する、密閉部材を備えていることを特徴とする、核酸分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate