説明

冷媒および蓄熱媒体としてのパラフィン/水‐エマルジョンならびにその製造方法

【課題】凝集傾向が無視し得るほど小さくかつ相変化の温度領域ができるだけ狭く限定された温度枠内にある冷媒および蓄熱媒体に適したエマルジョンを提供すること。
【解決手段】少なくとも1つの連続相中に分散された内部相を少なくとも1つ含むエマルジョンであって、前記内部相が、少なくとも1種の界面活性剤と少なくとも1種の核剤を含有すること、及び、前記連続相が少なくとも1種のチキソトロープ剤を含有するエマルジョン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒および蓄熱媒体としてのパラフィン/水‐エマルジョン、その製造方法ならびに用途に関する。
【0002】
上記エマルジョンは温度差が小さい場合に水に代わるものとして使用されるが、その場合、上記エマルジョンは水に比較して著しく高いエネルギー密度を有している。上記エマルジョンのこうした高いエネルギー密度は所定の温度領域におけるパラフィンの相変化に基づいている。水とは異なって上記エマルジョンによれば、温度差を介した顕熱が利用できるのみならず、相変化の潜熱も利用することができる。パラフィンの相変化は用途に応じて所望の温度領域に適合させることが可能である。
【背景技術】
【0003】
目下、従来の冷熱・低温熱供給網において、水が熱媒として使用されている。これらの供給網において熱輸送はもっぱら温度差を介した顕熱として行われ、その場合、達成可能な供給網輸送容量は熱媒の熱容量に直接比例している。
【0004】
冷熱蓄熱は通例、熱媒自体が畜熱媒体として利用される緩衝蓄熱材を用いて行われる。この場合にも、蓄熱材のエネルギー密度は熱媒の熱容量に直接比例している。緩衝蓄熱材に代わるものは“潜熱蓄熱材”である。“潜熱蓄熱材”では、蓄熱材の負荷・除荷に際して相変化を生ずる蓄熱媒体が使用される。相変化に際して吸収ないし放出された潜熱量は顕熱量を補い、こうして蓄熱材の熱容量を高める。潜熱畜熱材系の特性は、下記の非特許文献1に詳細に述べられている。所望の温度領域で相変化を生ずる利用可能な材料(英語ではPhase Change Material(相変化材料),PCMと称される)の一覧は、下記の非特許文献2に挙げられている。潜熱冷熱蓄熱材は数年前から流通されてきている。これらの蓄熱材系は通例の冷水蓄熱材よりも高いエネルギー密度を有している。ただし、使用される蓄熱媒体たとえば氷/水またはパラフィンは冷凍凝集状態では熱伝導率が劣るため、この蓄熱材の冷却能力は冷水蓄熱材に比較して明らかに低い冷却能力を有している。氷/水が蓄熱媒体として使用される場合には、さらに加えて、蓄熱材の負荷のために0℃を著しく下回る低温仕事が供されなければならないが、これは冷却器のエネルギー効率比に不適な結果をもたらす。
【0005】
数年来、潜熱蓄熱系と同様に、同じく相変化の潜熱を利用し、こうして、従来の媒体たる水または塩水に比較して高い熱輸送容量を有する冷熱媒体が論議されてきている。ただし、これらの液体の制約条件として、PCMの相変化後にもなおポンピング可能であるという点が重要である。これはPCMと分散母液との組み合わせによって達成される。この場合、PCMは分散媒中に分散され、こうして、固体状態でも“軟泥”いわゆるスラリーとして搬送可能である。それゆえ、これらの液体はPhase Change Slurry(相変化スラリー、PCS)とも称される。目下、3つの素材系つまりパラフィン/水・エマルジョン、パラフィン/水・サスペンションおよびクラスレート・水和物・スラリー(CHS)が提案されている。これらの素材系において、パラフィン類ないし塩類はPCMとして使用される。冷媒としての臭化テトラ−n−ブチルアンモニウム・ベース(TBAB)のCHSは、下記の非特許文献3に述べられている。この冷媒の使用はすでにいくつかの設備で実証されている。ただし、TBABは危険物で、毒性があり、極めて高い水質汚染度を有している。20%以上という所要のTBAB濃度については、Wasserhaushaltsgesetz[水管理法](WHG)§19に基づき、冷熱供給網の実現に際して顧慮され、講じられなければならない、追加的な装置技術的ならびに組織的な安全対策が不可欠である。加えてさらに、CHSは1.5〜3.5Kの好ましくない過冷却効果(つまり、凝固点は融点以下である)を有している。
【0006】
パラフィン・ベースのPCSの場合、パラフィンはマイクロカプセルに封入されて水性懸濁液としてかまたは界面活性剤を用いて分散されて水性エマルジョンとして存在している。文献中では、目下、表1及び表2にリストアップされたパラフィン/水‐系が論じられている。特に水性エマルジョンは、製造が容易であると共に、たとえば下記の非特許文献4に述べられているような極端な流れ条件下で破損するおそれのあるカプセルが欠落していることにより、冷熱供給および蓄熱用の熱媒として有望であると論じられている。ここで論じられているエマルジョンは水中に分散された5〜20μmの液滴直径を有するパラフィンである。相変化温度はパラフィンの選択によるかあるいはまたさまざまなパラフィンの混合によっても事後の使用分野に適合させることができる。エマルジョンの安定化にはさまざまな界面活性剤が使用される。パラフィン/水・エマルジョンは危険物ではなく、エマルジョン製造に必要とされる界面活性剤濃度は通例非常に僅かであるため、この素材混合物は水質汚染度1(冷却ゾルもこの汚染度に挙げられている)に分類される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Fischer, N.; Kuebler, R.: Waermespeicher. Beine Informationspaket. Fachinformationszentrum Karlsruhe, ISBN 3-88585-798-7, Verlag TUEV Rheinland GmbH, Koeln 1991
【非特許文献2】Zalba, B.; Martin, J.; Cabeza, L.; Mehling, H.: Review on thermal energy storage with phase change: materials, heat transfer analysis and applications, Applied Thermal Engineering pp. 251-283, 23, 2003
【非特許文献3】Ogoshi, H.; Tako, S.: Air-conditioning system using clathrate hydrate slurry, JFE Technical Report No. 3, 2004
【非特許文献4】Gschwander, P.; Schossig, P.; Henning, H.-M.: Development of Phase Changing Slurries based on micro-encapsulated Paraffin, Second Conference on Phase Changing Material & Slurry. Scientific Conference & Business Forum, Yverdon-les-Bains, Switzerland, June 2005
【0008】
ただし、これまで提案されてきたエマルジョンは、後の技術的使用の点でなお一連の不都合な特性を有している。たとえば、パラフィンは通例、相変化が水とは異なって一定の温度点ではなく、一定の温度領域で生ずる、複数種のパラフィンからなる混合物として存在している。短所となるのは、パラフィン混合物次第で相変化の温度領域が非常に大きくなることがあり、そのため、後の使用にあたってパラフィンの融解熱が不十分にしか利用されないことである。加えてさらに、実際の調査に際して、エマルジョンの過冷却効果が確認された。これはつまりPCMの冷凍に際してエマルジョンの温度はパラフィンの本来の融解温度以下に引き下げられなければならないということを意味している。この引下げは冷却器のエネルギー効率比を悪化させる。この過冷却効果は目下提案されている素材系にあっては添加剤によって部分的に抑止可能であるにすぎない。
【0009】
これまで提案されてきたエマルジョンのさらにもう一つの問題はその安定性である。これまで、使用期間と負荷に応じて、常に、粒度分布の変化が確認されてきた。特に、粒子直径の増大はエマルジョンの不安定性を示唆している。こうした場合、最悪のケースでは、内部相と連続相へのエマルジョンの分解が生ずるにいたる。エマルジョンの分解は特に、エマルジョンが冷凍状態で、たとえばポンプ、付属器具類を通って流れるときのように、せん断力に曝露される場合に観察される。エマルジョンの長期使用については、さらに、パラフィンと水との密度差に起因するエマルジョンのいわゆるクリーミング(つまり、エマルジョン内のパラフィン液滴の浮上)が重大である。これを回避するため、上記文献中には、密度差の補償を意図した多様な添加物が挙げられている。濃度に関する記載は提案された添加剤に応じてさまざまである。ただし、信頼し得る記述は行われていない。レオロジーに関しては、目下、矛盾した結果が発表されている。たとえば、粘弾性特性が指摘される一方で、一部、エマルジョンはほぼニュートン流体として述べられている。エマルジョンが種々相違した組成で構成可能であるため、個々の測定結果の転用の可能性は非常に限定的でしかない。最重要な応用技術的側面が満足すべき程度まで十分に調査された冷媒としての、最適なエマルジョンはこれまでのところまだ開発されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、凝集傾向が無視し得るほど小さくかつ相変化の温度領域ができるだけ狭く限定された温度枠内にあるエマルジョンを提供することである。また、この種のエマルジョンの製造方法を供すると共に、この種のエマルジョンの用途を挙げることも同じく本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、エマルジョンについては請求項1記載の特徴により、エマルジョンの製造方法については請求項16記載の特徴により、さらに、エマルジョンの用途については請求項17記載の特徴によって達成される。その他の従請求項は有利な発展態様を記載している。
【0012】
したがって、本発明によれば、少なくとも1つの連続相中に分散された少なくとも1つの内部相を含み、前記内部相は少なくとも1種の界面活性剤ならびに少なくとも1種の核剤(Keimbildner)を含み、前記連続相は少なくとも1種のチキソトロープ剤を含むように構成したエマルジョンが提供される。
【0013】
この場合、好ましいのは、もっぱら前記内部相は前記少なくとも1種の界面活性剤と少なくとも1種の核剤とを含み、他方、もっぱら前記連続相は前記少なくとも1種のチキソトロープ剤を含んでいることである。
【0014】
本発明によって提案された素材系は、特に従来公知のエマルジョンとは熱力学的特性および流動学的特性の点で相違し、冷熱供給網で使用するための冷媒または蓄熱媒体として改善されたエマルジョンを提供する。このエマルジョン自体は危険物ではなく、従来の冷却ゾルが分類される水質汚染度1に区分される。
【0015】
提案された上記エマルジョンは、基本的に“クリーミング”傾向を示すその他のエマルジョンに比較して、非常に優れた長期安定性を有している。従来論じられてきたエマルジョンの場合には、“クリーミング”を回避するために、密度調整添加物たとえば砂、粘土、金属粉末などが提案されている。だが、これらの添加物を以ってしてもパラフィン液滴の“クリーミング”を完全には排除することはできず、物質的になお非常に大きなパラフィンとの相違からして、特にエマルジョンの安定性の点で問題が生ずると思われる。本願明細書で提案されたエマルジョンにおいて、“クリーミング”はチキソトロープ化によって抑止される。チキソトロープ化がもたらす利点は、パラフィンが異物によって不純化される必要がなく、安定性の問題が未然に回避されることである。
【0016】
エマルジョンは冷凍された状態でせん断力に曝露される場合に特別な安定性問題を生ずる。従来提案されてきたエマルジョンは、冷凍された状態での機械負荷に応じて、融解時にそれらの成分に分裂する傾向を有している。おそらく相応した機械負荷に曝される場合には冷凍パラフィン粒子が破壊されるに至ると思われる。こうして生ずる破片は界面活性剤によって十分速やかに湿潤されることのない破面を有しており、凝集のおそれがある。ただし、乳化の前に界面活性剤が連続相中ではなく、パラフィン中に溶解されれば、上記の不適な効果は抑止することが可能である。本願明細書で提案されたエマルジョンは著しく改善された安定性を有している。エマルジョンの不安定性は、エマルジョン中のパラフィン粒子が凝集し、こうして、その直径が増大するため、基本的に粒度分布の変化によって検証することができる。本願明細書で提案されたエマルジョンにあっては、頻繁な相変化ならびに機械負荷に際しても、もはや粒度分布の高まりを確認することはできない。
【発明の効果】
【0017】
したがって、本発明によるエマルジョンによって得られる重要な利点は、従来の技術から公知のエマルジョンに比較して、臨界パラメータである安定性と過冷却効果に関する著しい改善がもたらされることである。
【0018】
この場合、内部相の総重量を基準にした、内部相中の前記少なくとも1種の界面活性剤の好ましい重量パーセンテージは0.1〜15重量%、好ましくは1〜10重量%、特に好ましくは2〜8重量%である。
【0019】
さらに別の有利な実施形態は、上記少なくとも1種の界面活性剤が8〜20、好ましくは12〜18の範囲内のHLB値(hydrophilic-lipophilic-balance)を有する場合にもたらされる。
【0020】
この場合、上記少なくとも1種の界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤ならびにマイクロまたはナノ粒子、特に界面活性マイクロまたはナノ粒子、および/またはそれらの混合物からなるグループから、好ましくは非イオン性界面活性剤またはイオン性および非イオン性界面活性剤からなる混合物から選択されていれば、特に有利である。
【0021】
この場合、好ましい非イオン性界面活性剤または、イオン性および非イオン性界面活性剤からなる混合物は、脂肪アルコールポリグリコールエーテル、脂肪アルコールアルコキシレート、特に、脂肪アルコールエトキシレートおよび/または脂肪アルコールプロポキシレート、アルキルグルコシド、アルキルポリグルコシド、アルキルフェノールエトキシレートたとえばオクチルフェノールエトキシレート、ノニルフェノールエトキシレート、セチルステアリルアルコール、ナトリウムセチルステアリルスルフェート、ナトリウムラウリルスルフェートおよび/またはドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DDAB)からなるグループから選択されている。
【0022】
この場合、内部相の重量パーセンテージは、エマルジョンの総重量を基準にして、有利には5〜55重量%であり、したがって、連続相は好ましくは95〜45重量%の重量パーセンテージを有している。
【0023】
この場合、特に、内部相として適切と考えられる物質は、純粋なパラフィンまたはパラフィン混合物、ワックスおよび/またはそれらの混合物からなるグループから選択されている。
【0024】
この場合、分散された内部相の粒度d50の範囲は有利には0.5〜20μm、好ましくは3〜10μmである。
【0025】
本発明によって使用されるチキソトロープ剤は、有利な実施形態において、内部相の総重量を基準にして以下の重量パーセンテージつまり0.1〜5.0重量%、好ましくは0.2〜2.0重量%、特に好ましくは0.5〜1.5重量%で含まれている。
【0026】
特に、上記チキソトロープ剤が高分散性ケイ酸ならびにポリサッカリド、特にキサンタンおよび/またはそれらの混合物からなるグループから選択されていれば、優れた貯蔵性あるエマルジョンが得られる。
【0027】
核剤の使用により、あらゆるエマルジョンの場合に生ずる過冷却効果に影響を及ぼし、これを極小に抑止することができる。従来提案されてきたエマルジョンの場合にはまったく異なった物質が核剤として提案されている。核剤の所要量については、具体的な配合にとって一般的に転用し得るように述べることはほとんど不可能であり、あるいは極めて一般的に述べることが可能であるにすぎない。本願明細書に記載されたエマルジョンについては、さまざまなアルカン混合物が提案される。アルカン混合物の選択ならびに配合は、内部相として使用されるパラフィンないしパラフィン混合物と最大許容過冷却効果とに応じて行われる。
【0028】
上記少なくとも1種の核剤は、上記少なくとも1つの内部相の融点よりも少なくとも20℃以上高い融点を有するアルカン、アルケンまたはそれらの混合物からなるグループから選択されているかおよび/またはそれらの混合物であれば、さらにその他の利点が得られる。
【0029】
上記核剤として使用されるアルカン、アルケンまたはそれらの混合物は、それらの融点が上記少なくとも1つの内部相の融点よりも25〜100℃だけ、好ましくは30〜70℃だけ、特に好ましくは35〜60℃だけ高ければ、特に有利である。
【0030】
そのため、特に、相対的に長鎖のアルカン、アルケンまたはそれらの混合物が使用されるが、その際、これらの炭化水素の鎖長は好ましくは炭素原子20個以上である。
【0031】
この場合、上記核剤は前記内部相の総重量を基準にして有利には重量比1〜15重量%、好ましくは2〜10重量%、特に好ましくは3〜5重量%で使用される。
【0032】
上記連続相は水であれば、特に有利なエマルジョンが得られる。
【0033】
本発明により同じく、分散される少なくとも1つの内部相が少なくとも1つの連続相中に分散される本発明によるエマルジョンの製造方法が提供されるが、この製造方法においては、分散される上記内部相または上記連続相、好ましくは上記内部相に少なくとも1種の界面活性剤が添加されると共にこの内部相に少なくとも1種の核剤が添加され、上記連続相に分散前および/または分散後に少なくとも1種のチキソトロープ剤が添加される。
【0034】
貯蔵保管に際してのエマルジョンの長期安定性に関してはチキソトロープ化方式が使用される。このチキソトロープ化によって、比較的長期にわたる場合にも、上記水性相中におけるパラフィン液滴の均一な分布が保証される。水性相中のパラフィン液滴が浮上して凝集し得るいわゆる“クリーミング(Aufrahmen)”はこれによって防止され、貯蔵保管時のエマルジョンの長期安定性が向上する。
【0035】
さらに、上記界面活性剤が乳化前に、上記連続相にではなく上記パラフィンに添加されると、エマルジョンの安定性が著しく向上することが確認された。こうしてかつ適切な界面活性剤を使用して製造されたエマルジョンは冷凍状態において機械負荷に曝される場合にも向上した安定性を示した。
【0036】
加えてさらに、パラフィンの結晶化は不均一核生成によって誘導されるため、“過冷却効果”は最小限に抑止される。不均一核生成のための核剤の選択は使用されるパラフィンに応じて定まる。核剤の所要量はパラフィンと核剤との組み合わせから決定される。
【0037】
さらに、上述したエマルジョンの本発明による用途が提供されるが、その場合、上記エマルジョンは特に冷媒および/または熱媒および/または熱エネルギー用蓄熱媒体として使用される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】1週間の貯蔵期間後のキサンタン濃度の異なる連続相を有した比較エマルジョンを示す図である(キサンタン濃度は左から0;0.05;0.1;0.2;0.3および0.4重量%である)。
【図2】せん断速度の関数としての比較エマルジョンの粘性を示す図である。
【図3】種々の界面張力に関する過冷却と相関した結晶核の臨界直径を示す図である。
【図4a】加熱/冷却速度5K/minによる、核剤(核形成剤)としての種々相違したアルカン混合物を含んだパラフィンの混合物のDSC測定を示す図である。
【図4b】加熱/冷却速度5K/minによる、核剤としての種々相違したアルカン混合物を含んだパラフィンの混合物のDSC測定を示す図である。
【図5】乳化後および約1年間の貯蔵保管後における、パラフィン30重量%、融点10℃、界面活性剤1.5重量%のエマルジョンの粒度分布を示す図である。
【図6】加熱/冷却速度2K/minによる、核剤を含んだ/核剤を含まないエマルジョンのDSC測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
下記記載ならびに添付図面に基づいて本発明を詳細に説明する。ただし本発明は同所に挙げた特定のパラメータに制限されるものではない。
【0040】
チキソトロープ化を図るため、エマルジョンの連続相(例えば水)にキサンタン・ベースのチキソトロープ剤が添加される。チキソトロープ化によって液体中に、パラフィン液滴を固定すると共に粘性を高めてパラフィン液滴の“クリーミング”を防止する架橋構造が作りだされる。液体中にせん断力が生ずると、この架橋構造は再び破壊されるが、この場合に、決定的なのはせん断力の高さではなく、せん断力の作用持続時間である。その場合にもなお、エマルジョンの粘性はチキソトロープ化の行われないエマルジョンよりも高いレベルのままである。相対的に高い粘性はその後の使用にあたって相対的に高い圧力損失を意味することから、キサンタン濃度はできるだけ低く選択されなければならない。最適キサンタン量を求めるため、キサンタン濃度の種々相違したエマルジョン試料が作製され、図1に示したように、相対的に長期間にわたって“クリーミング”が観察され、さらに、図2のグラフに示したように、粘性が測定された。これらの結果によれば、濃度は少なくとも約0.2重量%でなければならない。
【0041】
乳化剤として非イオン性界面活性剤が乳化前に、通例の製造方法とは相違して、連続相中ではなくパラフィン中に溶解される。使用されるのはセチルステアリルアルコール・ベースの高HLB値の界面活性剤である。水に対する界面活性剤の親水部の結合は水素架橋結合によって行われる。界面活性剤の親油部とパラフィンとの間にはファンデルワールス力が作用する。
【0042】
上記に従って作製されたエマルジョンは、通例の方法に従って作製されたエマルジョンに比較して、特に冷凍された状態で機械負荷に対する安定性の向上を示した。分散パラメータおよび界面活性剤濃度は乳化に際して3〜7μmの粒度d50が生ずるように選択される必要がある。エマルジョンの粒度が過度に小さい場合には、付加的な核剤によっては部分的にしか補償することのできない過度の過冷却効果が生ずる。この過冷却効果は粒子が結晶核の発生を制限するような体積しか有していないために生ずる。結晶核は結晶化を開始させ、こうして、相変化をスタートさせる。そもそも結晶核が成長し得るためには、粒子直径は結晶核の臨界直径よりも大きくなければならない。結晶核の臨界直径は温度の関数であり、温度が上昇すると共に低下する。その結果、相対的に小さな粒子は相変化を開始させるために強力に過冷却されなければならないことになる。結晶核の臨界直径と過冷却との関係は図3のグラフから理解される。粒子が過大であれば、エマルジョンの安定性は低下する。
【0043】
エマルジョンの過冷却効果に影響を及ぼして、それを最小化するため、“相対的に長鎖”のアルカン混合物が核剤としてパラフィンに混合される。これらの“相対的に長鎖”のアルカン混合物は以下、本願明細書においてそれらの相変化温度と共に挙示される。アルカン、アルケンまたはそれらの混合物の相変化温度領域がパラフィンの相変化温度領域と著しく相違する場合には、基本的に、“相対的に長鎖”のアルカン、アルケンまたはそれらの混合物が核剤として適している。これは例えば動的示差熱測定(DSC測定)によってチェックすることができる。当該測定の、図4a及び4bに示したグラフにおいて、双方の融解領域は明白に分離したピークとして現れる。この場合、核剤の配量には以下の2つの原則が当てはまる。
1.アルカン混合物の炭素鎖が長ければ長いほど、所要の当該素材量はますます減少する、および
2.核剤の濃度が高ければ高いほど、相変化の温度領域はますます大きくなる。
【0044】
上記双方の原則に基づき、できるだけ融点の高いアルカン混合物が選択され、同時に、濃度はできるだけ低く保たれる。核剤の具体的な最小量を求めるために、さらなるDSC測定が実施され、その際、パラフィンは種々異なった濃度のアルカン混合物と混合される。通例、濃度5重量%以下の核剤を選択することができる。
【実施例】
【0045】
実施例においては、パラフィン割合が30重量%の水性エマルジョンが取り上げられている。PCMとしては、融点が10℃のパラフィン混合物が使用され、この組成は表3から読み取ることができる。代わりに、工業的に純粋なパラフィン、例えばテトラデカンやヘキサデカンがPCMとして使用されても良い。この場合には、相変化の温度範囲が幅狭く、必要な場合には特殊な使用に最適に合わせることができるという利点がある。チキソトロピー化のために、キサンタン0.2重量%の連続相を混合し、そして、乳化を行なう前にパラフィンに、セチルステアリルアルコール(界面活性剤)1.5重量%と、54℃の融点を有したアルカン混合物(核剤)1.5重量%を添加する。乳化工程では、ローター‐固定子‐装置を、20000回転/分で10分間使用する。乳化後、このエマルジョンは、図5のグラフに示される粒子サイズ分布を有しており、時間経過後のエマルジョンの粒子サイズ分布のグラフも併記されている。
【0046】
不均質な核生成のために添加される核剤として必要なアルカン混合物を決定するために、エマルジョンを製造する前に、ここに挙げられているパラフィンや、核剤としての、いろいろなアルカン混合物を含む混合試料についてDSC‐測定を行った。先の検討内容及び、図4a及び4bに示されたDSC‐測定を考慮すると、ここで使用したパラフィンについては、54℃、65℃及び80℃の融解温度を有したアルカン混合物が核剤として適していた。引き続き、更なるDSC‐測定によって、核剤についての必要量を決定した。ここで使用されたパラフィン及び調査されたアルカン混合物に関しては、表4に示された最小量から明らかである。実施例においては、融解温度が54℃のアルカン混合物を使用した。核剤の量は、パラフィンの量に対して5重量%である。図6には、加熱‐及び冷却速度が2K/分の場合の、核剤を含まないエマルジョンと核剤を含むエマルジョンのDSC‐測定が示されている。過冷却効果は、核剤によって明らかに減少させることができる。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの連続相中に分散された内部相を少なくとも1つ含むエマルジョンであって、前記内部相が、少なくとも1種の界面活性剤と少なくとも1種の核剤を含有すること、及び、前記連続相が少なくとも1種のチキソトロープ剤を含有することを特徴とするエマルジョン。
【請求項2】
前記内部相中の少なくとも1種の界面活性剤が、当該内部相の総重量に対して0.1〜15重量%、好ましくは1〜10重量%、特に好ましくは2〜8重量%の重量割合にて含有されていることを特徴とする請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項3】
前記の少なくとも1種の界面活性剤が、8〜20の間、好ましくは12〜18の間のHLB‐値(親水性‐疎水性バランス)を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のエマルジョン。
【請求項4】
前記の少なくとも1種の界面活性剤が、非イオン性界面活性剤、アニオン性、カチオン性、両性界面活性剤並びに、マイクロ‐又はナノ粒子、特に境界面活性なマイクロ‐又はナノ粒子、及び/又はこれらの混合物、好ましくは非イオン性界面活性剤又は、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤との混合物から成るグループより選ばれたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエマルジョン。
【請求項5】
前記の非イオン性界面活性剤又は、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤との混合物が、脂肪アルコールポリグリコールエーテル、脂肪アルコールアルコキシレート、特に脂肪アルコールエトキシレート及び/又は脂肪アルコールプロポキシレート、アルキルグルコシド、アルキルポリグルコシド、アルキルフェノールエトキシレート、例えばオクチルフェノールエトキシレート、ノニルフェノールエトキシレート、セチルステアリルアルコール、ナトリウムセチルステアリルスルフェート;ナトリウムラウリルスルフェート及び/又はドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DDAB)から成るグループより選ばれたものであることを特徴とする請求項4に記載のエマルジョン。
【請求項6】
前記内部相が、前記エマルジョンの総重量に対して5〜55重量%の重量割合であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のエマルジョン。
【請求項7】
前記内部相が、パラフィン、パラフィン混合物又はワックス及び/又はこれらの混合物から成るグループより選ばれたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のエマルジョン。
【請求項8】
前記内部相が、0.5〜20μmの間、好ましくは3〜10μmの間の平均粒子径d50を有していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のエマルジョン。
【請求項9】
前記の少なくとも1種のチキソトロープ剤が、前記内部相の総重量に対して0.1〜5.0重量%、好ましくは0.2〜2.0重量%、特に好ましくは0.5〜1.5重量%の重量割合であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のエマルジョン。
【請求項10】
前記の少なくとも1種のチキソトロープ剤が、高分散化された珪酸並びにポリサッカリド、特にキサンタン及び/又はこれらの混合物から成るグループより選ばれたものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のエマルジョン。
【請求項11】
前記の少なくとも1種の核剤が、前記の少なくとも1つの内部相の融点よりも少なくとも20℃以上高い融点を有するアルカン、アルケン又はそれらの混合物、及び/又はこれらの混合物から成るグループより選ばれたものであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のエマルジョン。
【請求項12】
前記アルカン、アルケン又はこれらの混合物が、前記の少なくとも1つの内部相の融点よりも25〜100℃、好ましくは30〜70℃、特に好ましくは35〜60℃高い融点を有していることを特徴とする請求項11に記載のエマルジョン。
【請求項13】
前記アルカン、アルケン又はこれらの混合物が、好ましくは20個以上の炭素原子である鎖長を有していることを特徴とする請求項11又は12に記載のエマルジョン。
【請求項14】
前記の少なくとも1種の核剤が、前記内部相の総重量に対して1〜15重量%、好ましくは2〜10重量%、特に好ましくは3〜5重量%の重量割合にて含有されていることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載のエマルジョン。
【請求項15】
前記連続相が水であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載のエマルジョン。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載のエマルジョンを製造するための方法で、この際、少なくとも1つの連続相中に、少なくとも1つの分散されるべき内部相が分散されるものにおいて、分散される前記内部相又は連続相の分散を行なう前に、好ましくは内部相に少なくとも1種の界面活性剤が添加され、しかも、前記内部相に少なくとも1種の核剤が添加され、前記分散の前及び/又は後に、少なくとも1種のチキソトロープ剤が前記連続相に添加されることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載のエマルジョンの製造方法。
【請求項17】
冷却‐及び/又は加熱媒体及び/又は熱エネルギー用蓄熱媒体としての、請求項1〜15のいずれか1項に記載のエマルジョンの使用。

【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−287025(P2009−287025A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119730(P2009−119730)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(503306168)フラウンホーファー・ゲゼルシャフト・ツール・フェルデルング・デア・アンゲヴァンテン・フォルシュング・エー・ファウ (38)
【Fターム(参考)】