説明

冷媒注入方法、試料採取方法及び試料採取装置

【課題】 地盤などの試料採取に適した冷媒注入方法、試料採取方法及びその装置の提供。
【解決手段】 試料採取装置10は、試料を採取する被採取領域1に試料採取管11を貫入し(試料採取管貫入工程)、被採取領域1に貫入した試料採取管11の下端周辺に、下端を閉塞した冷媒注入管15を挿入し(冷媒注入管挿入工程)、試料採取管11及び冷媒注入管15を囲うように、被採取領域1に断熱管16を挿入し(断熱管挿入工程)と、冷媒注入管15内に湿気を捕捉できるフィルター材31を通して冷媒18を注入し(冷媒注入工程)、試料採取管11の下端近傍の被採取領域1bを凍結させて試料採取管11の下端を閉塞する(試料採取管閉塞工程)。これにより冷媒注入管15に冷媒注入管15を塞ぐ程度の霜の塊ができるのを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体窒素などの冷媒の注入方法、試料採取方法及び試料採取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤の強度や変形などの力学特性及び生態系、各種汚染などの地盤環境状況を調査するために行われる地盤中の試料は、熱や水を加えず、攪乱することなく不攪乱採取することが望ましい。一般に低強度粘性土地盤や砂質土の不攪乱試料採取は、サンプラーによる採取や、地盤全体を凍結させるロータリー式ボーリングでサンプリングする方法や、各種特殊サンプラーで行っている。しかし、地盤全体を液体窒素の注入で凍結させ、その状態でボーリングして試料採取するサンプリング法は、地盤全体を凍結させることによる地盤環境の変状が生じる不具合がある。
さらに、特殊サンプラーによる採取法を含め、採取のための設備が高コストになる、長時間採取となる、大型重量機器作業となる、といった諸問題がある。
また、採取した試料を調査に適した形状に成型する工数の多い成型作業が必要になる。
【0003】
これらの問題から、点吸引式ボーリングと液体窒素注入で地盤凍結させることにより不攪乱状態で試料を採取する装置が開発され、実用化されている(例えば、特許文献1参照)。この試料採取装置は、被採取領域である地盤に挿入して地盤中の試料を管内部に収容する試料採取管(内管)と、試料採取管の外周に隙間を持たせて配備した外管と、試料採取管と外管の間に配置した複数本の吸引管及び複数本の冷媒注入管を備えている。試料採取管の下端部を地盤に静的貫入させ、外管の下端を地盤に接触させて試料採取管との間の地盤表層部の土砂を吸引管で吸い込んで除去する。この土砂除去の動作を繰り返し行うことで、試料採取管をさらに地盤に静的貫入させ、試料採取管の内部に規定量の試料を不攪乱状態で収容する。地盤に試料採取管を所定深さまで静的貫入させ、試料採取管の下端より少し下方にある地盤に、冷媒注入管の下端部を挿入して冷媒注入管内に冷媒の液体窒素を注入する。冷媒注入管の上端に設けた冷媒注入口から液体窒素を定量ずつ何回かに分けて注入して、注入した所定のトータルの量の液体窒素で地盤を所定面積範囲で凍結させる。この凍結で試料採取管の下端近傍域の地盤全体を凍結させて凍結塊を形成し、この凍結塊で試料採取管の下端下部を閉塞する。試料採取管を下端部の凍結塊と共に地盤から引き上げて試料採取管内の不攪乱試料を採取する。
【特許文献1】特開2004−45308号公報(図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記冷媒注入管の冷媒注入口から液体窒素を注入して、冷媒注入管の下端部周辺から試料採取管下端下部の地盤を凍結させる場合、冷媒注入管の内壁に空気中の湿気が急冷されて霜として付着し、内壁の途中箇所で付着した霜が大きな塊に生長して管内を目詰まりさせることがある。このような内壁途中箇所の霜の塊は、湿度の高い夏場において特に発生し易くなる。冷媒注入管の管内で生じた霜の塊は、注入する液体窒素の流れを阻害して、冷媒注入管の下端部へと注入するべき液体窒素の量が不足し、凍結させたい試料採取管下端下部の地盤の凍結不足を招くことがある。このような凍結不足が発生すると、試料採取管を下端部の凍結塊と共に地盤から引き上げる際に凍結塊の凍結不足箇所が崩れ、試料採取管内の試料が落失したり、試料採取管内で試料が変動して採取される試料の品質を低下させることがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る冷媒注入方法は、冷媒注入口に、冷媒を通過させると共に湿気を霜として捕捉するフィルター材を配設し、このフィルター材を通して冷媒を注入することを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係る試料採取方法は、試料を採取する被採取領域に下端が開口した試料採取管を貫入する試料採取管貫入工程と、被採取領域に貫入した試料採取管の下端周辺に、下端を閉塞した冷媒注入管を挿入する冷媒注入管挿入工程と、試料採取管及び冷媒注入管を囲うように被採取領域に断熱管を挿入する断熱管挿入工程と、冷媒注入管の冷媒注入口に、冷媒を通過させると共に湿気を霜として捕捉するフィルター材を配設し、このフィルター材を通して冷媒注入管内に冷媒を注入する冷媒注入工程と、冷媒注入管に注入された冷媒により試料採取管の下端下部の被採取領域を凍結させて試料採取管の下端下部を閉塞する試料採取管閉塞工程とを備えたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る試料採取装置は、被採取領域に貫入する下端が開口した試料採取管と、試料採取管の下端周辺の外側に延在した下端を閉塞した冷媒注入管と、試料採取管及び冷媒注入管を囲うように配設した断熱管と、冷媒注入管の冷媒注入口に配設され、冷媒注入口に冷媒を注入する際に湿気を霜として捕捉するフィルター材とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る冷媒注入方法によれば、フィルター材を通して冷媒注入口に冷媒を注入する際に、冷媒注入口周辺の湿気がフィルター材に霜となって捕捉されるため、冷媒注入時に冷媒注入管の管内に侵入する湿気が減少し、冷媒注入管内壁への霜の付着、霜の塊の発生が軽減されて、冷媒注入管への冷媒注入量を安定させることができ、凍結量不足によるトラブル発生が回避できる。また、フィルター材に付着した霜やその塊は目視できるので、冷媒注入作業時の霜管理が容易、正確にでき、冷媒注入の作業性改善が図れる。
【0009】
また、本発明に係る試料採取方法によれば、フィルター材を通して冷媒注入管内に冷媒を注入することで、下端が閉塞した冷媒注入管の下端部に冷媒を規定量で注入することが容易になり、試料採取管の下端近傍の被採取領域を確実性良く凍結させることができ、採取される不攪乱試料の品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係る試料採取装置を図面に基づいて説明する。この試料採取装置には、本発明に係る冷媒注入方法が適用されている。
【0011】
試料採取装置10は、図1に示すように、被採取領域1に貫入する下端が開口した試料採取管11と、試料採取管11の下端周辺の外側に延在した、下端を閉塞した冷媒注入管15と、試料採取管11及び冷媒注入管15を囲うように配設した断熱管16と、冷媒注入管15の冷媒注入口15bに配設された、冷媒注入口15bに冷媒を注入する際に湿気を霜として捕捉するフィルター材31とを備えている。
【0012】
この試料採取装置10によれば、試料を採取する被採取領域1に試料採取管11を貫入し(試料採取管貫入工程)、被採取領域1に貫入した試料採取管11の下端周辺に、下端を閉塞した冷媒注入管15を挿入し(冷媒注入管挿入工程)、試料採取管11及び冷媒注入管15を囲うように、被採取領域1に断熱管16を挿入し(断熱管挿入工程)、冷媒注入管15の冷媒注入口15bに、冷媒を通過させると共に湿気を霜として捕捉するフィルター材31を配設し、このフィルター材31を通して冷媒注入管15内に冷媒を注入し(冷媒注入工程)、試料採取管11の下端近傍の被採取領域1を凍結させて試料採取管11の下端を閉塞する(試料採取管閉塞工程)。これにより試料採取管11に収容された試料を試料採取管11と一緒に引き上げることで、試料を採取することができる。
【0013】
以下、試料採取装置10及び試料採取方法を詳細に説明する。
【0014】
図1に示される試料採取装置10は、例えば、飽和地盤や含水量の多い不飽和地盤において、試料を採取する場合にも適用可能である。以下、ここでの被採取領域1を必要に応じて地盤1と称する。図1の試料採取装置10は、試料採取管(内管)11と、吸引掘進管(外管)12と、ガイド管13と、吸引管14と、冷媒注入管15と、断熱管16で構成している。ここでの試料採取管11は、被採取領域1に貫入するべく下端が開口したものであって、地盤1に静的貫入される略鉛直な円筒状のものを用いている。試料採取管11の下端部外周縁は、逆円錐状のテーパ面31に形成している。吸引掘進管12は、試料採取管11の外周に所定の隙間を持たせて同軸に配置した円筒状の外管である。吸引掘進管12の下端部外周にガイド管13が固定されている。ガイド管13の下端は、吸引掘進管12の下端より少し下方に位置する。
【0015】
試料採取管11は、上端に蓋板21が固定され、この蓋板21の上面中央に鉛直な支持ロッド22の下端部が固定されている。支持ロッド22は回転筒24を貫通するように装着しており、回転筒24の上方に延在した支持ロッド22の上端部に吊りワイヤ25を繋留している。吊りワイヤ25は、図示しない櫓で吊り下げられ、支持ロッド22を介して図1に示す試料採取装置10全体を上下動可能に吊り下げて支持している。回転筒24の下端には、蓋板23が固定されており、蓋板23の下面に、吸引掘進管12の上端を固定している。回転筒24と吸引掘進管12は蓋板23の上下面に同心軸上に固定している。回転筒24の上端部には略水平なハンドル26を固定している。回転筒24は支持ロッド22に対して周方向に回転自在に装着しており、ハンドル26を操作することにより、回転筒24、蓋板23及び吸引掘進管12が回動操作できる。回転筒24の途中の上下2箇所には保護枠27、28を連結している。上下の保護枠27、28には、吸引管14と冷媒注入管15を上下に貫通させている。吸引管14と冷媒注入管15は、試料採取管11と吸引掘進管12の間の周方向隙間に延在させている。
【0016】
吸引管14は、図2に示すように、試料採取管11と吸引掘進管12の間の周方向隙間Sに複数、例えば周方向等間隔(60°間隔)で6本が配設されている。吸引管14は、それぞれ保護枠27、28、及び、吸引掘進管12の内周面に固定している。吸引管14の下端は開口し、吸引掘進管12の下端とほぼ同じ高さまで延在している。吸引管14の上端はハンドル26上に固定した吸引手段29に連結している。吸引手段29は、例えば、吸引ポンプで構成できる。
【0017】
冷媒注入管15は、試料採取管11の下端周辺の外側に延在し、下端を閉塞した管で構成している。この実施形態では、冷媒注入管15は、試料採取管11と吸引掘進管12の間の周方向隙間Sに、周方向に複数配設している。図2に示す例では、冷媒注入管15は、吸引管14と同様に6本で、それぞれ周方向において吸引管14の中間に延在させ、保護枠27、28、及び、吸引掘進管12の内周面に固定している。冷媒注入管15は、下端が試料採取管11の下端より下方に15〜30mm突出するように、試料採取管11に対して軸方向に相対移動可能に配設している。
【0018】
冷媒注入管15は、少なくとも下端を熱伝導と耐久性に優れた金属製熱伝導管で構成するとよい。また、冷媒注入管15の下端部15aは、断熱部材を用いて閉塞してもよい。この実施形態では、図5に示すように、冷媒注入管15の下端部15aは、断熱部材17で閉塞している。断熱部材17は断熱性を備えた円柱状の硬質ゴムで、樹脂接着剤を付けて冷媒注入管15の下端開口部に圧入して定着させている。
【0019】
断熱管16は、試料採取管11及び冷媒注入管15を囲うように配設した断熱性を有する管体である。断熱管16は、厚さ0.5mm〜5.0mm程度のアクリル製の円筒で、冷媒注入管15に取り付けられ、冷媒注入管15の下端より下方に5.0mm程度突出させている。冷媒注入管15と断熱管16は、試料採取管11に対して軸方向に相対移動可能に配設し、かつ、試料採取管11に対する進退操作可能に配設している。
【0020】
冷媒注入管15の上部は、図1に示すように、保護枠28を貫通しており、その上端が開口した冷媒注入口15bにしてある。冷媒注入口15bから冷媒注入管15に規定量の冷媒18を注入すると、冷媒18は冷媒注入管15内を流下して下端部15a内に貯留される。冷媒18には、例えば、液体窒素を用いることができる。なお、冷媒18には液体窒素以外の二酸化炭素などを使用することもできるが、液体窒素を用いるのが安全性の点で優位である。以下、冷媒18を、必要に応じて液体窒素18と称する。
【0021】
この実施形態では、冷媒注入管15の冷媒注入口15bには、図8に示すように、漏斗30を取付け、漏斗30の内側にフィルター材31を着脱可能に設置している。漏斗30は、冷媒注入管15に挿入される円筒部30aと、円筒部30aの開口上端から逆円錐状に延在した漏斗部30bを有する。フィルター材31は、冷媒注入口に冷媒を注入する際に湿気を霜として捕捉するものである。この実施形態では、フィルター材31として、網目が0.4mm程度のステンレス製の金網を、漏斗30に納まるように円錐形状にした成形を行い、漏斗部30bに設置している。なお、フィルター材31は、耐冷却性メッシュなどで、網目が0.2〜0.8mmの金属メッシュ(金網)やグラスファイバーメッシュ、その他の耐冷却性能のよいフィラメントメッシュ、織物類が適用できる。また、フィルター材31は、冷媒注入口に冷媒を注入する際に湿気を霜として捕捉できるものであればよく、目の粗さは上記実施形態に限定されない。
【0022】
図1の試料採取装置10で試料を採取する際は、まず、試料採取管11を地盤1に貫入させる(試料採取管貫入工程)。試料採取管11を地盤1に貫入させる際は、図3の状態で試料採取管11に重り(図示せず)などで静的貫入力Pv(等分布荷重)を掛け、吸引手段29を作動させ、吸引管14で地盤1の表層部を吸引除去することにより行う。試料採取管11の下端部外周を逆円錐状のテーパ面31に形成しているため、試料採取管11を地盤1に貫入させると、図4(A)に示すように、試料採取管11の下端部31が地盤1に初期貫入量h貫入した状態で安定する。すなわち、この際、試料採取管11に作用する静的貫入力Pvは、図3に示すように、試料採取管11の下端部外周縁のテーパ面31から地盤1に斜め外方に作用する力Piと、試料採取管11の下端部内周面から地盤1に内方に作用する力Po及び剪断力Fvに分力される。これに対して試料採取管11のテーパ面31に作用する地盤1の反力及び摩擦力が釣り合うように、試料採取管11のテーパ面31が地盤1に貫入する。
【0023】
この初期貫入で安定している状態において、図4(B)に示すように、試料採取管11の下端部外側に延在した吸引管14で地盤1の表層部を吸引し除去(除荷)する。この除荷は、ハンドル26を手動で回転させて6本の吸引管14を試料採取管11の回りに旋回させながら行い、試料採取管11の外周全周にわたって吸引管14で地盤1の表層部を吸引し除去していく。試料採取管11の外周において地盤1の表層部を除去すると、上記釣り合いが崩れ、これに対して再度、試料採取管11に対して作用する静的貫入力Pvと、地盤1の反力及び摩擦力が釣り合うように、深さHxだけ試料採取管11が地盤1に静的に再貫入する。このように吸引管14により地盤1の表層部を吸引除去することにより、試料採取管11の貫入が進行する。
【0024】
そして、図4(C)に示すように、再貫入毎に試料採取管11の中に試料1aが取り込まれる。試料採取管11の静的貫入が終了すると、所定量の試料1aが試料採取管11内に収容される。吸引管14で試料採取管11周囲の地盤1の表層部を除去しながら試料採取管11を貫入させるので、試料採取管11が所定の深さに達したときには、試料採取管11の周囲に穴20が形成される。
【0025】
次に、図5に示すように、冷媒注入管15と断熱管16を、試料採取管11の周囲に形成された周方向の穴20に進入させ、斯かる穴20の底において、それぞれ地盤1に押し込み、試料採取管11の下端より少し深い位置まで挿入する(冷媒注入管挿入工程、断熱管挿入工程)。そして、冷媒注入管15内に冷媒の液体窒素18を注入し(冷媒注入工程)、試料採取管11の下端近傍の地盤43を凍結させて試料採取管11の下端下部を閉塞する(図7の試料採取管閉塞工程)。
【0026】
この試料採取装置10は、冷媒注入管15の冷媒注入口15bに霜取り用フィルター材31を設置しており、液体窒素18を注入する際は、このフィルター材31を通して冷媒注入口15bに液体窒素18を注入する。これにより、液体窒素がフィルター材31を通過する際に湿気を霜として捕捉することができる。フィルター材31を通した冷媒注入口15bへの液体窒素18の注入は、図1に示すように、定量の液体窒素18を収容する容器35を使用して手作業で行えばよい。
【0027】
すなわち、図5に示すように、フィルター材31を通して液体窒素18を注入すると、注入される液体窒素18で冷媒注入口15b近くの湿気が急冷されてフィルター材31に霜として付着する。液体窒素18がフィルター材31を通過する間に、湿気がフィルター材31に霜として捕捉されるので、冷媒注入管15内に流入する空気に含まれる湿気が減少する。そのため、冷媒注入管15の管内を流下する液体窒素18で管内の湿気が急冷されても、冷媒注入管15の内壁に霜が形成され難く、また霜が形成されても微量である。その結果、冷媒注入管15の内壁において、冷媒注入管15を塞ぐ程度に、霜が成長することがない。これにより、注入された液体窒素18を冷媒注入管15内において良好に流通させることができる。
【0028】
なお、冷媒の注入過程において、フィルター材31には湿気が霜となって付着するが、フィルター材31に付着した霜が目詰まりを起こす程度に成長した場合には、フィルター材31を別のものに交換するとよい。霜で目詰まりを起こした使用済みのフィルター材は、常温下で放置しておけば短時間で霜が蒸発して目詰まりが無くなるので、再使用することができる。
【0029】
このようにして、冷媒注入管15の下端部15a内に液体窒素18を注入すると、下端部15aの管壁を介して試料採取管11の下端近傍の地盤1bが冷やされ、地盤1bの凍結が始まる。また、冷媒注入管15の下端部15aに注入された液体窒素18は、試料採取管11の下端近傍の地盤1bから熱を吸収することにより蒸発する。蒸発した液体窒素18は、冷媒注入管15の冷媒注入口15bから大気に放出される。このような冷媒注入を試料採取管11の下端近傍の地盤1bが完全に凍結するまで、実験データに基づく回数だけ繰り返し行う。
【0030】
図6に基づいて試料採取管11の下端近傍における地盤43の凍結の進行状況を説明する。図6及び図2に示すように、冷媒注入管15の外側には断熱管16があるので、断熱管16の外側の地盤に対しては、凍結はほとんど進まない。また、液体窒素18の吸熱作用は、断熱管16の内側の地盤1bに対して集中して作用し、凍結は断熱管16の内側で進行していく。さらに、冷媒注入管15の下端部15aを断熱部材17で閉塞しているので、冷媒注入管15から下方の地盤に対しては凍結があまり進まず、地盤1bの凍結は半径方向内側に進行する。
【0031】
なお、6本の冷媒注入管15に対しては、6本同時に冷媒を注入して、断熱管16の内側の地盤を6本の冷媒注入管15により6方向から同時に凍結させことができる。また、試料採取管11の外側に周方向等間隔に配設された6本の冷媒注入管15に対して、タイミングを少しずらして所定の順番に冷媒を注入してもよい。その具体例を図7(A)〜(C)で説明する。
【0032】
まず、図7(A)に示すように、直径方向で対向する2本の冷媒注入管15に冷媒を入れて、2本の冷媒注入管15を配設した方向から地盤1bを凍結させる。次に、図7(B)に示すように、先の2本の冷媒注入管15のそれぞれ右回り方向に隣接する別の2本の冷媒注入管15に冷媒を注入して、この2本の冷媒注入管15を配設した方向から地盤1bを凍結させる。最後に、図7(C)に示すように残り2本の冷媒注入管15に冷媒を注入して、この最後2本の冷媒注入管15を配設した方向から地盤を凍結させる。このように、試料採取管11の周囲に配設された複数の冷媒注入管15に対して、タイミングを少しずらして所定の順番に液体窒素18を注入して、試料採取管11の下端近傍の地盤1bを所定の方向から所定の順番に凍結させると、試料採取管11の下端下部の地盤1bが効率よく、確実に凍結して、試料採取管11の下端下部を閉塞することができる。
【0033】
このように試料採取管11の下端近傍における地盤1bを凍結させると、試料採取管11の下端を閉塞して凍結した地盤1bの塊は、各冷媒注入管15の下端部15aと試料採取管11の下端部に食い込むように強固に固着する。そして、斯かる試料採取管11を冷媒注入管15及び断熱管16と一緒に引き上げると、その下端部に凍結した地盤1bの塊が固着した状態で引き上げられる。これにより、試料採取管11内に収容された試料1aは、試料採取管11から脱落せずに採取される。このように試料採取管11により採取された試料1aは、試料採取管11により形状と量が規定されるため、この形状と量を地盤調査に使用される形状と量に予め規定しておくことで、後の地盤調査のための成型作業を簡易にすることができる。
【0034】
この試料採取装置10によれば、冷媒注入管15の冷媒注入口15bに、冷媒注入口15bに冷媒を注入する際に湿気を霜として捕捉するフィルター材31を配設している。そして、フィルター材31を通して液体窒素18を注入しているので、湿気がフィルター材31によって捕捉され、冷媒注入管15の内壁において、冷媒注入管15を塞ぐ程度に、霜が成長することがない。これにより、注入された液体窒素18を冷媒注入管15内において良好に流通させることができる。
【0035】
なお、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0036】
例えば、図9(A)(B)にフィルター材31の変形例を示す。図9(A)のフィルター材31は、冷媒注入管15の直管状の上端部の冷媒注入口15bに直接に装着したものである。このフィルター材31は平常時は平坦な金属メッシュで、冷媒注入口15bに押し込むことで袋状となり、冷媒注入口15bに係合する。図9(B)は、冷媒注入管15の上端に一体に逆円錐状の漏斗部15cを形成し、この漏斗部15cにフィルター材31を図9(A)と同じ要領で装着したものである。
【0037】
また、冷媒注入工程においては、適宜に冷媒注入管の内壁に霜取り用具を摺動させて冷媒注入管の内壁に付着した霜を取るとよい(霜取り工程)。例えば、1本の冷媒注入管15に適宜にフィルター交換しながら液体窒素18を何回かに分けて注入する冷媒注入工程の場合、必要に応じて注入工程の途中で冷媒注入管15の内壁の霜付着状況を検査し、霜取りをするとよい。この霜取り工程は、例えば図10(B)に示すような霜取り用具40を使用して手作業で行えばよい。この実施形態では、霜取り用具40は、例えば冷媒注入管15より長い棒41の先端部に、布などの吸湿性を備えた吸湿材42を巻回したものである。
【0038】
霜取り工程の途中において、冷媒注入管15内の液体窒素18が蒸発して無くなると、冷媒注入管15の冷媒注入口15bからフィルター材31と漏斗30を取り外し、図10(A)に示すように、棒41を手にして吸湿材42を冷媒注入管15の内壁に摺動させながら冷媒注入管15に挿入するとよい。このとき、冷媒注入管15から取り出した吸湿材42を手で触って湿気ているかどうかを検査する。引き上げた吸湿材42が湿気ていると、吸湿材42が冷媒注入管15の内壁に水分が付着していたことが分かる。引き上げた吸湿材42が湿気ていないと、冷媒注入管15の内壁に霜が付着していないことが分かる。いずれにせよ、この霜取り具40で冷媒注入管15の内壁に付着した水分を取り除くことにより、以後の冷媒注入がより良好に行えるようになる。
【0039】
斯かる試料採取装置は、試料採取管で地盤中の試料を不攪乱状態で採取するのに用いることができるが、他の用途として、地盤に埋設された物品を撤去する装置として、また、河川や湖底、海底の汚泥地層の試料を採取する汚泥試料採取装置などにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係る試料採取装置を示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る試料採取装置の底面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る試料採取装置における冷媒注入管の下端部の断面図である。
【図4】(A)〜(C)は本発明の一実施形態に係る試料採取装置における試料採取管貫入工程の各動作時の概要を示す斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る試料採取装置における冷媒注入工程と試料採取管閉塞工程の状態を示す部分断面図である。
【図6】試料採取管閉塞工程の状況を示す断面図である。
【図7】(A)〜(C)は、それぞれ試料採取管閉塞工程の地盤の凍結状態を示す図である。
【図8】図5の冷媒注入管にフィルター材を取付ける際の側面図である。
【図9】(A)(B)は他の実施形態に係る冷媒注入管とフィルター材の断面図である。
【図10】(A)は他の実施の形態に係る霜取り用具の使用時の冷媒注入管の側面図、(B)は霜取り用具の側面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 地盤(被採取領域)
10 試料採取装置
11 試料採取管
12 吸引堀進管
14 吸引管
15 冷媒注入管
15b 冷媒注入口
16 断熱管
17 断熱部材
18 液体窒素(冷媒)
30 漏斗
31 フィルター材
40 霜取り用具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒注入口に、冷媒を通過させると共に湿気を霜として捕捉するフィルター材を配設し、このフィルター材を通して冷媒を注入することを特徴とする冷媒注入方法。
【請求項2】
試料を採取する被採取領域に下端が開口した試料採取管を貫入する試料採取管貫入工程と、
前記被採取領域に貫入した試料採取管の下端周辺に、下端を閉塞した冷媒注入管を挿入する冷媒注入管挿入工程と、
前記試料採取管及び前記冷媒注入管を囲うように、被採取領域に断熱管を挿入する断熱管挿入工程と、
前記冷媒注入管の冷媒注入口に、冷媒を通過させると共に湿気を霜として捕捉するフィルター材を配設し、このフィルター材を通して冷媒注入管内に冷媒を注入する冷媒注入工程と、
前記冷媒注入管に注入された冷媒により前記試料採取管の下端近傍の被採取領域を凍結させて試料採取管の下端下部を閉塞する試料採取管閉塞工程と、
を備えたことを特徴とする試料採取方法。
【請求項3】
前記冷媒注入工程は、適宜に前記冷媒注入管の内壁に霜取り用具を摺動させて冷媒注入管の内壁に付着した霜を取る霜取り工程を含むことを特徴とする請求項2に記載の試料採取方法。
【請求項4】
被採取領域に貫入する下端が開口した試料採取管と、
前記試料採取管の下端周辺の外側に延在した、下端を閉塞した冷媒注入管と、
前記試料採取管及び前記冷媒注入管を囲うように配設した断熱管と、
前記冷媒注入管の冷媒注入口に配設され、前記冷媒注入口に冷媒を注入する際に湿気を霜として捕捉するフィルター材と、
を備えたことを特徴とする試料採取装置。
【請求項5】
前記冷媒注入管内に挿脱可能に挿入される霜取り用具を備えたことを特徴とする請求項4に記載の試料採取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−263870(P2007−263870A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91750(P2006−91750)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】