説明

冷媒輸送ホースおよびその製法

【課題】バリア性(耐冷媒透過性)と柔軟性の両立を図ることができ、屈曲時のホース割れの問題を解消することができる冷媒輸送ホースの提供を目的とする。
【解決手段】冷媒と接する管状の樹脂層1の外周に、ブチルゴム層7が形成され、さらにその外周にエチレン−プロピレン系ゴム層8が形成されてなる冷媒輸送ホースである。上記樹脂層1が、ポリアミド樹脂と変性ポリオレフィン系エラストマーとのブレンド物を主成分とする樹脂層用材料からなっていて、その内周面のみにスキン層6が形成され、このスキン層6の引張弾性率(A)と、上記スキン層6を除く樹脂層1の引張弾性率(B)と、ブチルゴム層7の引張弾性率(C)と、エチレン−プロピレン系ゴム層8の引張弾性率(D)とが、下記の式(α)の関係を満たすように構成されている。
(A)>(B)>(C)>(D) …(α)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒輸送ホースおよびその製法に関するものであり、詳しくは自動車等の車両に使用される冷媒輸送ホースおよびその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、オゾン層破壊ガスの蒸散規制強化に伴い、自動車等に使用される冷媒輸送ホース(エアコンホース)のバリア性(耐冷媒透過性)に対する要求が厳しくなっている。そのため、冷媒輸送ホース材料には、ポリアミド樹脂のような結晶性の高い樹脂が使用されている。
【0003】
このポリアミド樹脂はバリア性(耐冷媒透過性)には優れているが、柔軟性が劣るため、ホースが屈曲する際に割れやすいという欠点がある。そのため、冷媒輸送ホース材料としては、ポリアミド樹脂が単体で使用されることはなく、変性ポリオレフィン等のポリアミド樹脂に比べて柔らかい材料を、ポリアミド樹脂にブレンドしたものが使用されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4365454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の冷媒輸送ホースは、変性ポリオレフィンをブレンドすることにより、ポリアミド樹脂単体に比べて、ホースに柔軟性を付与することができるが、屈曲時(振動時)にホースが割れるという不具合を充分に解消することができないという問題が残されている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、バリア性(耐冷媒透過性)と柔軟性の両立を図ることができ、屈曲時のホース割れの問題を解消することができる、冷媒輸送ホースおよびその製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、冷媒と接する管状の樹脂層の外周に、ブチルゴム層が形成され、さらにその外周にエチレン−プロピレン系ゴム層が形成されてなる冷媒輸送ホースであって、上記樹脂層が、ポリアミド樹脂と変性ポリオレフィン系エラストマーとのブレンド物を主成分とする樹脂層用材料からなっていて、その内周面のみにスキン層が形成され、このスキン層の引張弾性率(A)と、上記スキン層を除く樹脂層の引張弾性率(B)と、ブチルゴム層の引張弾性率(C)と、エチレン−プロピレン系ゴム層の引張弾性率(D)とが、下記の式(α)の関係を満たすように構成されている冷媒輸送ホースを第1の要旨とする。
(A)>(B)>(C)>(D) …(α)
【0008】
また、本発明は、上記冷媒輸送ホースの製法であって、ポリアミド樹脂と変性ポリオレフィン系エラストマーとのブレンド物を主成分とする樹脂層用材料の押し出し工程によって得られた管状の樹脂層において、その内周面および外周面に形成された内側スキン層および外側スキン層のうち、外側スキン層に研磨処理を施して外側スキン層を除去した後、その外周にブチルゴム層を形成し、さらにその外周にエチレン−プロピレン系ゴム層を形成する冷媒輸送ホースの製法を第2の要旨とする。
【0009】
すなわち、本発明者らは、バリア性(耐冷媒透過性)と柔軟性の両立を図ることができ、屈曲時のホース割れの問題を解消することができる冷媒輸送ホースを得るため、鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、ポリアミド樹脂と、変性ポリオレフィン系エラストマーとのブレンド物を主成分とする樹脂層用材料をホース状に押し出すと、上記樹脂層用材料からなる管状の樹脂層1(図1参照)の内周面および外周面に、図2(図1のA部の拡大図)に示すように、ポリアミド樹脂4からなる、厚み3〜5μm程度の内側スキン層2および外側スキン層3が形成されることを突き止めた。これは、ポリアミド樹脂4の溶融粘度が、変性ポリオレフィン系エラストマー5の溶融粘度に比べて低く、溶融粘度が低いポリアミド樹脂4が、変性ポリオレフィン系エラストマー5よりも溶融しやすいため、ポリアミド樹脂4からなるスキン層2,3が形成されるものと思われる。しかしながら、先に述べたように、ポリアミド樹脂は、結晶性が高い樹脂で、柔軟性が劣るため、ポリアミド樹脂4からなるスキン層2,3も、柔軟性に劣る。管状の樹脂層1の内周面側の内側スキン層2は、ホースの屈曲に追従しやすく、ホースの内面樹脂割れの問題は生じることがないが、管状の樹脂層1の外周面側の外側スキン層3は、ホースの屈曲(振動)に追従しにくく、ホース屈曲時に局部的に応力が集中するため、外側スキン層3が起点となって樹脂層1の割れが生じることを突き止めた。そこで、本発明者らは、この問題を解決するためさらに研究を続けたところ、上記外側スキン層3に研磨処理を施し、樹脂層1の外周面から外側スキン層3を完全に除去し(図3参照)、その外周面(除去面)1aに、樹脂層1よりも引張弾性率が小さいブチルゴム層を形成し、さらにその外周に、ブチルゴム層よりも引張弾性率が小さいエチレン−プロピレン系ゴム層を形成することを想起した。樹脂層1の内周面に形成されたスキン層2は、ポリアミド樹脂4により形成されており、スキン層2の外周面の樹脂層1は、ポリアミド樹脂4に、変性ポリオレフィン系エラストマー5をブレンドした材料からなるため、スキン層2の引張弾性率は、樹脂層1の引張弾性率よりも大きい。このように、最内層となる内側スキン層2から、外側の樹脂層1、ブチルゴム層、エチレン−プロピレン系ゴム層にかけて、各層の引張弾性率(硬度)が、順次低下するように構成すると、ホース割れの不具合を解消することができることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の冷媒輸送ホースは、樹脂層表面から、ホース屈曲時のホース変形に追従することができない外側スキン層を除去している。そして、最内層となる内側スキン層から、外側の樹脂層、ブチルゴム層、エチレン−プロピレン系ゴム層にかけて、各層の引張弾性率(硬度)が、順次低下するように構成されている。そのため、ホース屈曲時の応力の集中を緩和することができ、ホース変形に追従することができるようになり、結果、ホース割れという不具合を解消することができる。また、管状の樹脂層は、バリア性(耐冷媒透過性)に優れたポリアミド樹脂と、柔軟性のある変性ポリオレフィン系エラストマーとのブレンド物を主成分とする樹脂層用材料からなるため、バリア性(耐冷媒透過性)と柔軟性の両立を図ることができる。
【0011】
また、変性ポリオレフィン系エラストマーの変性が、無水マレイン酸変性およびエポキシ変性の少なくとも一方であると、ホースの柔軟性が向上するようになる。
【0012】
そして、ポリアミド樹脂(a)と、変性ポリオレフィン系エラストマー(b)とのブレンド比が、重量比で、(a)/(b)=90/10〜60/40の範囲であると、バリア性(耐冷媒透過性)に優れたポリアミド樹脂と、柔軟性のある変性ポリオレフィン系エラストマーとにより、バリア性(耐冷媒透過性)と柔軟性のバランスが良好となる。
【0013】
また、外側スキン層に研磨処理を施して外側スキン層を除去した後、その外周にブチルゴム層を形成し、さらにその外周にエチレン−プロピレン系ゴム層を形成して、本発明の冷媒輸送ホースを製造する場合には、研磨処理により、図3に示すように、樹脂層1の外周面(除去面)1aは、凹凸に形成されているため、いわゆる投錨効果により、樹脂層1とブチルゴム層との接着性が向上するようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】押し出し工程によって得られた管状の樹脂層を示す模式図である。
【図2】図1に示す管状の樹脂層のA部を拡大した模式図である。
【図3】研磨処理後の本発明の冷媒輸送ホースの一部を示す模式図である。
【図4】本発明の冷媒輸送ホースの断面構成を示す図である。
【図5】ホイップ試験の内容を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0016】
本発明の冷媒輸送ホースは、例えば、図4に示すように、管状の樹脂層1の内周面のみにスキン層6(図2の内側スキン層2に相当する)が存在し、上記樹脂層1の外周面にブチルゴム層7が形成され、さらにその外周面に、補強層9を介して、エチレン−プロピレン系ゴム層8が形成されて構成されている。なお、本発明の冷媒輸送ホースにおいては、管状の樹脂層1の外周面側の外側スキン層3(図2参照)は、研磨により除去されている。
【0017】
本発明においては、最内層となるスキン層6から、外側の樹脂層1、ブチルゴム層7、エチレン−プロピレン系ゴム層8にかけて、各層の引張弾性率(硬度)が、順次低下するように構成されている、すなわち、スキン層6の引張弾性率(A)と、上記スキン層6を除く樹脂層1の引張弾性率(B)と、ブチルゴム層7の引張弾性率(C)と、エチレン−プロピレン系ゴム層8の引張弾性率(D)とが、下記の式(α)の関係を満たすように構成されている。これが本発明の最大の特徴である。
(A)>(B)>(C)>(D) …(α)
【0018】
スキン層6の引張弾性率(A)は3000〜2000MPaの範囲が好ましく、特に好ましくは2600〜2400MPaの範囲である。樹脂層1の引張弾性率(B)は2000MPa未満で500MPa以上の範囲が好ましく、特に好ましくは1000〜600MPaの範囲である。ブチルゴム層7の引張弾性率(C)は500MPa未満で10MPa以上の範囲が好ましく、特に好ましくは20〜10MPaの範囲である。エチレン−プロピレン系ゴム層8の引張弾性率(D)は10MPa未満が好ましく、特に好ましくは7MPa以下である。
【0019】
なお、各層の引張弾性率(硬度)は、JIS K 7127に準じて、引張速度が毎分5±1.0mmの条件で測定した値を示す。各層の引張弾性率(硬度)は、例えば、ユニバーサル硬度計、マイクロ硬度計等を使用して測定することができる。
【0020】
つぎに、本発明の冷媒輸送ホースの各層の形成材料について説明する。
【0021】
《樹脂層》
本発明の冷媒輸送ホースにおける樹脂層1は、ポリアミド樹脂と、変性ポリオレフィン系エラストマーとのブレンド物を主成分とする樹脂層用材料を用いて形成されている。
【0022】
〈ポリアミド樹脂〉
ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド12(PA12)、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド92(PA92)、ポリアミド99(PA99)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド912(PA912)、ポリアミド1010(PA1010)、ポリアミド6とポリアミド12との共重合体(PA6/12)、ポリアミド6とポリアミド66との共重合体(PA6/66)、芳香族系ナイロン等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、バリア性(耐冷媒透過性)、層間接着性に優れることから、ポリアミド6が好ましい。
【0023】
〈変性ポリオレフィン系エラストマー〉
変性ポリオレフィン系エラストマーは、例えば、エチレン,プロピレン,ブタジエン等のオレフィンやジエンモノマーを単独重合または共重合したポリオレフィン系エラストマーに、無水マレイン酸、シリコーン(シラン)、塩素、アミン、アクリル、エポキシ化合物等でポリマー側鎖および末端を化学修飾することによって得られる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、接着性や加工性に優れる点で、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴム(EPDM)あるいはグリシジルメタクリレートとエチレンとのコポリマー(エポキシ変性ポリオレフィン系エラストマー)が好ましい。
【0024】
上記ポリアミド樹脂(a)と、変性ポリオレフィン系エラストマー(b)とのブレンド比は、重量比で、(a)/(b)=90/10〜60/40の範囲が好ましく、特に好ましくは(a)/(b)=85/15〜70/30の範囲である。すなわち、ポリアミド樹脂(a)のブレンド比が高すぎると、柔軟性が悪くなる傾向がみられ、逆にポリアミド樹脂(a)のブレンド比が低すぎると、バリア性(耐冷媒透過性)が悪くなる傾向がみられるからである。
【0025】
上記ポリアミド樹脂と、変性ポリオレフィン系エラストマーとのブレンド物としては、例えば、ポリアミド樹脂と、変性ポリオレフィン系エラストマーとをアロイ化したもの等があげられる。
【0026】
なお、上記樹脂層1用形成用材料(樹脂材料)には、上記ポリアミド樹脂と、変性ポリオレフィン系エラストマーとのブレンド物以外にも、充填剤、可塑剤、老化防止剤等の添加剤を必要に応じて適宜に配合することができる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0027】
《スキン層》
図4に示したように、管状の樹脂層1の内周面には、厚み3〜5μm程度のスキン層6が存在する。このスキン層6は、流通媒体である冷媒と直接接する最内層となる。上記スキン層6は、ポリアミド樹脂と、変性ポリオレフィン系エラストマーとのブレンド物を主成分とする樹脂層用材料の押し出し工程において樹脂層1を形成する際に、変性ポリオレフィン系エラストマーよりも溶融粘度が低いポリアミド樹脂が溶融して形成されたものである。
【0028】
なお、先にも説明したが、上記樹脂材料の押し出し工程により、管状の樹脂層1の外周面には、外側スキン層3(図2参照)が存在しているが、本発明においては、後述する研磨処理等により、外側スキン層3を除去している。したがって、最終製品である冷媒輸送ホースにおいては、管状の樹脂層1の内周面の内側スキン層2(図4のスキン層6に相当)のみ存在し、樹脂層1の外周面の外側スキン層3は存在しない。
【0029】
《ブチルゴム層》
図4に示したように、管状の樹脂層1の外周面(すなわち、外側スキン層の除去面)には、冷媒遮断作用や水分遮断作用の点から、ブチル系ゴムをゴム基材とするブチルゴム層7が形成されている。上記ブチルゴム層7を形成するブチルゴム組成物としては、ブチル系ゴムの他、樹脂架橋剤、加工助剤、カーボンブラック、充填剤、軟化剤、酸化亜鉛、接着剤成分(レゾルシン系化合物、メラミン系化合物等)等を、必要に応じて適宜に配合することができる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0030】
〈ブチル系ゴム〉
ブチル系ゴムとしては、例えば、ブチルゴム(IIR)や、ハロゲン化ブチルゴム等が用いられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。上記ハロゲン化ブチルゴムとしては、例えば、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)、臭素化ブチルゴム(Br−IIR)等が用いられる。
【0031】
〈樹脂架橋剤〉
樹脂架橋剤としては、例えば、アルキルフェノールのホルムアルデヒド縮合体等があげられる。上記樹脂架橋剤としては、具体的には、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド縮合体(田岡化学工業社製、タッキロール201MB35)等があげられる。
【0032】
上記樹脂架橋剤の含有量は、上記ブチル系ゴム100重量部に対して20〜40重量部が好ましい。
【0033】
〈加工助剤〉
加工助剤としては、例えば、ステアリン酸等があげられる。
【0034】
上記加工助剤の含有量は、上記ブチル系ゴム100重量部に対して、0.5〜2重量部が好ましい。
【0035】
〈カーボンブラック〉
カーボンブラックとしては、例えば、SAF級、ISAF級、HAF級、MAF級、FEF級、GPF級、SRF級、FT級、MT級等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、ISAF級カーボンブラックが好ましい。
【0036】
上記カーボンブラックの含有量は、上記ブチル系ゴム100重量部に対して10〜40重量部の範囲が好ましい。
【0037】
〈充填剤〉
充填剤としては、例えば、タルク、マイカのような鉱物由来の無機化合物等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0038】
上記充填剤の含有量は、上記ブチル系ゴム100重量部に対して1〜200重量部の範囲が好ましい。
【0039】
〈軟化剤〉
軟化剤としては、例えば、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリン等の石油系軟化剤、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油等の脂肪油系軟化剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリン等のワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0040】
上記軟化剤の含有量は、上記ブチル系ゴム100重量部に対して0.5〜10重量部が好ましい。
【0041】
〈酸化亜鉛〉
上記酸化亜鉛の含有量は、上記ブチル系ゴム100重量部に対して1〜10重量部が好ましい。
【0042】
〈接着剤成分〉
上記接着剤成分としては、例えば、レゾルシノール系化合物や、メラミン系化合物等があげられ、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0043】
〈レゾルシノール系化合物(接着剤成分)〉
上記レゾルシノール系化合物としては、主に接着剤として作用するものが好ましく、例えば、変性レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン、レゾルシン・ホルムアルデヒド(RF)樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、蒸散性、ゴムとの相溶性の点で、変性レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂が好適に用いられる。
【0044】
上記変性レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂としては、例えば、下記の一般式(1)〜(3)で表されるものがあげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、特に一般式(1)で表されるものが好ましい。
【0045】
【化1】

【0046】
【化2】

【0047】
【化3】

【0048】
〈メラミン系化合物(接着剤成分)〉
上記メラミン系化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド・メラミン重合物のメチル化物、ヘキサメチレンテトラミン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらは、架橋の際の加熱下で分解し、ホルムアルデヒドを系に供給する。これらのなかでも、低揮発性、ゴムとの相溶性が優れるという点で、ホルムアルデヒド・メラミン重合物のメチル化物が好ましい。
【0049】
上記ホルムアルデヒド・メラミン重合物のメチル化物としては、例えば、下記の一般式(4)で表されるものが好ましい。特に、一般式(4)中、n=1の化合物が43〜44重量%、n=2の化合物が27〜30重量%、n=3の化合物が26〜30重量%の混合物が好ましい。
【0050】
【化4】

【0051】
上記接着剤成分(レゾルシン系化合物、メラミン系化合物等)の含有量は、上記ブチル系ゴム100重量部に対して、5重量部以下が好ましい。
【0052】
上記ブチルゴム組成物は、各成分を配合し、これらをニーダー,バンバリーミキサー,ロール等の混練機を用いて混練することにより、調製することができる。
【0053】
《エチレン−プロピレン系ゴム層》
図4に示したように、ブチルゴム層7の外周面には、補強層9を介して、エチレン−プロピレン系ゴムをゴム基材とするエチレン−プロピレン系ゴム層8が形成されている。上記エチレン−プロピレン系ゴム層8を形成するエチレン−プロピレン系ゴム組成物としては、エチレン−プロピレン系ゴムの他、加工助剤、酸化亜鉛、粘着付与剤、カーボンブラック、加硫助剤、軟化剤、加硫促進剤、加硫剤等を、必要に応じて適宜に配合することができる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0054】
〈エチレン−プロピレン系ゴム〉
エチレン−プロピレン系ゴムとしては、例えば、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴム(EPDM)、エチレン−プロピレン共重合ゴム(EPM)等があげられ、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0055】
上記エチレン−プロピレン系ゴムとしては、高温高圧化での安定性に優れる点で、ヨウ素価が16〜28の範囲、エチレン比率が48〜70重量%の範囲のものが好ましく、特に好ましくはヨウ素価が6〜26の範囲、エチレン比率が48〜75重量%の範囲のものである。
【0056】
上記EPDMに含まれるジエン系モノマー(第3成分)としては、炭素数5〜20のジエン系モノマーが好ましく、具体的には、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン、1,4−オクタジエン、1,4−シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン(DCP)、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)、5−ブチリデン−2−ノルボルネン、2−メタリル−5−ノルボルネン、2−イソプロペニル−5−ノルボルネン等があげられる。これらジエン系モノマー(第3成分)のなかでも、ジシクロペンタジエン(DCP)、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)が好ましい。
【0057】
〈加工助剤〉
加工助剤としては、例えば、ステアリン酸等があげられる。
【0058】
上記加工助剤の含有量は、上記エチレン−プロピレン系ゴム100重量部に対して、0.5〜2重量部が好ましい。
【0059】
〈酸化亜鉛〉
上記酸化亜鉛の含有量は、上記エチレン−プロピレン系ゴム100重量部に対して1〜10重量部が好ましい。
【0060】
〈粘着付与剤〉
上記粘着付与剤の含有量は、上記エチレン−プロピレン系ゴム100重量部に対して0.5〜4重量部が好ましい。
【0061】
〈カーボンブラック〉
カーボンブラックとしては、押出加工性や補強性に優れたものが好ましく、例えば、SAF級、ISAF級、HAF級、MAF級、FEF級、GPF級、SRF級、FT級、MT級等のものがあげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、FEF級カーボンブラックが好ましい。
【0062】
上記カーボンブラックの含有量は、上記エチレン−プロピレン系ゴム100重量部に対して、50〜150重量部が好ましい。
【0063】
〈加硫助剤〉
加硫助剤としては、例えば、亜鉛華(ZnO)、酸化マグネシウム等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0064】
上記加硫助剤の含有量は、上記エチレン−プロピレン系ゴム100重量部に対して、0.5〜2重量部が好ましい。
【0065】
〈軟化剤〉
軟化剤としては、例えば、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリン等の石油系軟化剤、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油等の脂肪油系軟化剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリン等のワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0066】
上記軟化剤の含有量は、上記エチレン−プロピレン系ゴム100重量部に対して50〜90重量部が好ましい。
【0067】
〈加硫促進剤〉
加硫促進剤としては、例えば、チウラム系,ジチオカルバミン酸塩系,スルフェンアミド系等の加硫促進剤があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0068】
上記加硫促進剤の含有量は、エチレン−プロピレン系ゴム100重量部に対して、0.2〜2重量部が好ましい。
【0069】
上記チウラム系加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド(TT)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TET)、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD)、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBZTD)等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0070】
上記スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(NOBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CM)、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾイルスルフェンアミド(BBS)、N,N′−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾイルスルフェンアミド等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0071】
〈加硫剤〉
加硫剤としては、例えば、硫黄、過酸化物加硫剤(パーオキサイド加硫剤)等が、単独でもしくは併用される。このなかでも、貯蔵安定性、コストの点で、硫黄が好ましい。
【0072】
上記加硫剤の含有量は、上記エチレン−プロピレン系ゴム100重量部に対して、0.5〜2重量部が好ましい。
【0073】
上記エチレン−プロピレン系ゴム組成物は、各成分を配合し、これらをニーダー,バンバリーミキサー,ロール等の混練機を用いて混練することにより、調製することができる。
【0074】
《補強層》
上記ブチルゴム層7と、エチレン−プロピレン系ゴム層8との界面には、補強層9が形成されている。補強層9の形成材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN),アラミド,ポリアミド,ビニロン,レーヨン,金属ワイヤ等の補強線材を用いることができる。上記補強層8は、上記補強線材をスパイラル編組,ブレード編組,ニット編組等により編組することにより作製することができる。
【0075】
つぎに、本発明の冷媒輸送ホースの製法について説明する。すなわち、まず、ポリアミド樹脂と、変性ポリオレフィン系エラストマーとのブレンド物を主成分とする樹脂層用材料を、マンドレル(図示せず)上でホース状に押し出して、管状の樹脂層1を形成する(図1参照)。つぎに、上記管状の樹脂層1において、その内周面および外周面に形成された内側スキン層2および外側スキン層3のうち(図2参照)、外側スキン層3に、ワイヤーブラシ等を用いて研磨処理を施し、樹脂層1表面から外側スキン層3を完全に除去する(図3参照)。
【0076】
つぎに、外側スキン層3を除去した樹脂層1の外周面(除去面)1aに、ブチルゴム層用材料(ブチルゴム組成物)を押し出し成形して、図4に示すように、ブチルゴム層7を形成した後、その外周面に補強糸をブレード編組等して補強層9を形成する。さらに、上記補強層9の外周面に、エチレン−プロピレン系ゴム層用材料(エチレン−プロピレン系ゴム組成物)を押し出し成形して、エチレン−プロピレン系ゴム層8を形成する。そして、これを所定の条件(例えば、170℃×30分)で加硫した後、マンドレルを抜き取る。このようにして、管状の樹脂層1の内周面にスキン層6が存在し、上記樹脂層1の外周面にブチルゴム層7が形成され、さらにその外周面に、補強層9を介して、エチレン−プロピレン系ゴム層8が形成されてなる冷媒輸送ホース(図4参照)を得ることができる。なお、冷媒輸送ホースの層間接着性向上のため、各層間には接着剤を塗布しても差し支えない。
【0077】
上記研磨処理は、例えば、ワイヤーブラシ等の研磨用ブラシもしくは研磨用やすりを使用して行うことができる。本発明における研磨処理は、例えば、らせん状になった研磨用ブラシもしくは研磨用やすりを、所定の回転数、回転速度で回転させ、この中に、管状の樹脂層1(図1参照)を連続的に送り出し、管状の樹脂層1の外側スキン層3(図2参照)を除去することにより行うことができる。
【0078】
上記ワイヤーブラシ等の研磨用ブラシもしくは研磨用やすりの材質としては、例えば、ステンレススチール、カーボン等があげられる。
【0079】
本発明の冷媒輸送ホースにおいて、ホース内径は5〜40mmの範囲が好ましい。また、上記樹脂層1の厚みは、0.01〜0.5mmの範囲が好ましく、特に好ましくは0.10〜0.20mmの範囲であり、スキン層6の厚みは、1〜7μmの範囲が好ましく、特に好ましくは3〜5μmの範囲である。また、ブチルゴム層7の厚みは、通常、1〜2mmの範囲、エチレン−プロピレン系ゴム層8の厚みは、通常、0.5〜2mmの範囲である。
【実施例】
【0080】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0081】
〔実施例1〕
〈樹脂層用材料の調製〉
ポリアミド樹脂であるポリアミド6(PA6)(宇部興産社製、ナイロン6 1030B)に、変性ポリオレフィン系エラストマーである無水マレイン酸変性EPDM(三井化学社製、タフマーMH7020)を2軸混練機(JSW社製)を使用し、ポリアミド樹脂の融点以上(250℃)の設定温度でブレンドして準備した。なお、ポリアミド樹脂(a)と、変性ポリオレフィン系エラストマー(b)とのブレンド比(重量比)は、(a)/(b)=70/30である。
【0082】
〈ブチルゴム層用材料(ブチルゴム組成物)の調製〉
塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)(JSR社製、ブチルHT1066)100重量部と、ステアリン酸(花王社製、ルーナックS30)1重量部と、FEF級カーボンブラック(東海カーボン社製、シーストSO)20重量部と、タルク(日本タルク社製、ミクロエースK−1)100重量部と、軟化剤であるナフテンオイル(出光興産社製、ダイアナプロセスNM−300)10重量部と、樹脂加硫剤(田岡化学工業社製、タッキロール201−35M/B)30重量部とを配合し、バンバリーミキサー(神戸製鋼社製)およびロール(日本ロール社製)を用いて混練してブチルゴム組成物を調製した。
【0083】
〈エチレン−プロピレン系ゴム層用材料(エチレン−プロピレン系ゴム組成物)の調製〉
EPDM(住友化学工業社製、エスプレン532T)100重量部と、ステアリン酸(花王社製、ルーナックS30)1重量部と、酸化亜鉛(三井金属鉱業社製、酸化亜鉛2種)5重量部と、FEF級カーボンブラック(東海カーボン社製、シーストSO)100重量部と、軟化剤であるナフテンオイル出光興産社製、ダイアナプロセスNM−300)70重量部と、チウラム系加硫促進剤(三新化学工業社製、サンセラーTT−G)1重量部と、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤(三新化学工業社製、サンセラーBZ−G)1重量部と、加硫剤(硫黄)(大都産業社製、イオウPTC)1重量部とを配合し、バンバリーミキサー(神戸製鋼社製)およびロール(日本ロール社製)を用いて混練して、エチレン−プロピレン系ゴム組成物を調製した。
【0084】
〈ホースの作製〉
TPX(三井化学社製)製のマンドレル(外径12mm)を準備し、マンドレル上に、上記樹脂層用材料をホース状に押し出し成形して、内側スキン層(厚み4μm)および外側スキン層(厚み4μm)を有する、管状の樹脂層(厚み0.15mm)を形成した。つぎに、上記外側スキン層に、ワイヤーブラシ(ステイト工業社製)を使用して研磨処理し、外側スキン層を完全に除去した。続いて、上記樹脂層の外周面上に、上記で調製したブチルゴム組成物を押し出し成形して、ブチルゴム層を形成した後、その外周面にポリエステル糸のブレード編組により補強層を形成した。さらに、上記補強層の外周面に、上記で調製したエチレン−プロピレン系ゴム組成物を押し出し成形して、エチレン−プロピレン系ゴム層を形成した。つぎに、これを加硫(170℃×30分)した後、マンドレルを抜き取り、長尺の積層ホースを所望の長さに切断することにより、スキン層(厚み4μm)、樹脂層(厚み0.15mm)、ブチルゴム層(厚み2.0mm)、補強層、EPDM層(厚み1.0mm)が順次形成されてなるホースを作製した。
【0085】
〔実施例2〕
〈樹脂層用材料の調製〉
ポリアミド樹脂であるポリアミド66(PA66)(宇部興産社製、ナイロン66 2015B)に、変性ポリオレフィン系エラストマーである無水マレイン酸変性EPDM(三井化学社製、タフマーMH7020)を2軸混練機(JSW社製)を使用し、ポリアミド樹脂の融点以上(270℃)の設定温度でブレンドして準備した。なお、ポリアミド樹脂(a)と、変性ポリオレフィン系エラストマー(b)とのブレンド比(重量比)は、(a)/(b)=70/30である。
そして、上記樹樹脂層用材料を用いる以外は、実施例1に準じて、ホースを作製した。
【0086】
〔実施例3〕
〈樹脂層用材料の調製〉
ポリアミド樹脂であるポリアミド6(PA6)(宇部興産社製、ナイロン6 1030B)に、グリシジルメタクリレートとエチレンとのコポリマー(住友化学社製、ボンドファースト2C)を2軸混練機(JSW社製)を使用し、ポリアミド樹脂の融点以上(250℃)の設定温度でブレンドして準備した。なお、ポリアミド樹脂(a)と、変性ポリオレフィン系エラストマー(b)とのブレンド比(重量比)は、(a)/(b)=80/20である。
そして、上記樹樹脂層用材料を用いる以外は、実施例1に準じて、ホースを作製した。
【0087】
〔実施例4〕
〈樹脂層用材料の調製〉
芳香族ポリアミド樹脂であるポリアミド6T(PA6T)(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ナイロン6T レニー6002)に、変性ポリオレフィン系エラストマーである無水マレイン酸変性EPDM(三井化学社製、タフマーMH7020)を2軸混練機(JSW社製)を使用し、ポリアミド樹脂の融点以上(250℃)の設定温度でブレンドして準備した。なお、ポリアミド樹脂(a)と、変性ポリオレフィン系エラストマー(b)とのブレンド比(重量比)は、(a)/(b)=90/10である。
そして、上記樹樹脂層用材料を用いる以外は、実施例1に準じて、ホースを作製した。
【0088】
〔実施例5〕
〈樹脂層用材料の調製〉
ポリアミド樹脂であるポリアミド6(PA6)(宇部興産社製、ナイロン6 1030B)に代えて、ノナンジアミンと蓚酸ジブチルとの重縮合体(ポリオキサミド樹脂)であるポリアミド92(PA92)(宇部興産社製、400B)を使用する以外は、実施例1に準じて、樹脂層用材料を調製した。
そして、上記樹樹脂層用材料を用いる以外は、実施例1に準じて、ホースを作製した。
【0089】
〔比較例1〕
研磨処理による外側スキン層の除去を行わない以外は、実施例1に準じて、ホースを作製した。すなわち、実施例1に準じて、内側スキン層(厚み4μm)、樹脂層(厚み0.15mm)、外側スキン層(厚み4μm)、ブチルゴム層(厚み2.0mm)、補強層、EPDM層(厚み1.0mm)が順次形成されてなるホースを作製した。
【0090】
このようにして得られた実施例および比較例のホースを用いて、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。これらの結果を、下記の表1に併せて示した。
【0091】
〔各層の引張弾性率〕
各層の引張弾性率(硬度)を、ユニバーサル硬度計(明伸工機社製)を用いて測定した。なお、各層の引張弾性率(硬度)は、JIS K 7127に準じて、引張速度が毎分5±1.0mmの条件で測定した値を示す。
【0092】
〔層間接着性〕
各ホースから接着評価用試料(幅20mm、長さ100mm)を切り出し、これを引張試験機(JIS B 7721)に取り付けて、ブチルゴム層側を固定して樹脂層側を毎分50mmの速度で引張り、ゴム層と樹脂層の剥離状態を目視により観察した。評価は、ゴム層が破壊したものを「ゴム破壊」とした。
【0093】
〔屈曲疲労性〕
各ホースの屈曲疲労性を評価するため、以下のようにしてホイップ試験を行った。すなわち、図5に示すように、試験長(ホース長)300mmのホース11の一端12を固定し、縦9mm、横18mmの楕円振動、圧力3.5MPa、試験温度130℃の条件で、100万回ホイップ試験を行った。評価は、樹脂層に割れが生じたものを×、割れが生じなかったものを○とした。
【0094】
【表1】

【0095】
上記表1の結果から、実施例品は、研磨処理により外側スキン層が除去されているため、各層の引張弾性率(硬度)が、順次低下するように構成されている。そのため、実施例品は、屈曲疲労試験において樹脂層の割れが生じなかった。
【0096】
これに対して、比較例1は、樹脂層の外周面に、樹脂層よりも引張弾性率(硬度)が高い外側スキン層が存在しているため、各層の引張弾性率(硬度)が、順次低下するように構成されていない。そのため、比較例1は、外側スキン層を起点として応力が集中し、屈曲疲労試験において樹脂層の割れが生じた。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の冷媒輸送用ホースは、エアコン・ラジエーター等に用いられる二酸化炭素,フロン,代替フロン,プロパン等の冷媒の輸送用ホースに使用される。そして、上記冷媒輸送用ホースは、自動車用のみならず、その他の輸送機械(飛行機,フォークリフト,ショベルカー,クレーン等の産業用輸送車両、鉄道車両等)等にも用いることができる。
【符号の説明】
【0098】
1 樹脂層
6 スキン層
7 ブチルゴム層
8 エチレン−プロピレン系ゴム層
9 補強層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒と接する管状の樹脂層の外周に、ブチルゴム層が形成され、さらにその外周にエチレン−プロピレン系ゴム層が形成されてなる冷媒輸送ホースであって、上記樹脂層が、ポリアミド樹脂と変性ポリオレフィン系エラストマーとのブレンド物を主成分とする樹脂層用材料からなっていて、その内周面のみにスキン層が形成され、このスキン層の引張弾性率(A)と、上記スキン層を除く樹脂層の引張弾性率(B)と、ブチルゴム層の引張弾性率(C)と、エチレン−プロピレン系ゴム層の引張弾性率(D)とが、下記の式(α)の関係を満たすように構成されていることを特徴とする冷媒輸送ホース。
(A)>(B)>(C)>(D) …(α)
【請求項2】
スキン層の引張弾性率(A)が3000〜2000MPaの範囲、樹脂層の引張弾性率(B)が2000MPa未満で500MPa以上の範囲、ブチルゴム層の引張弾性率(C)が500MPa未満で10MPa以上の範囲、エチレン−プロピレン系ゴム層の引張弾性率(D)が10MPa未満である請求項1記載の冷媒輸送ホース。
【請求項3】
変性ポリオレフィン系エラストマーの変性が、無水マレイン酸変性およびエポキシ変性の少なくとも一方である請求項1または2記載の冷媒輸送ホース。
【請求項4】
ポリアミド樹脂(a)と、変性ポリオレフィン系エラストマー(b)とのブレンド比が、重量比で、(a)/(b)=90/10〜60/40の範囲である請求項1〜3のいずれか一項に記載の冷媒輸送ホース。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の冷媒輸送ホースの製法であって、ポリアミド樹脂と変性ポリオレフィン系エラストマーとのブレンド物を主成分とする樹脂層用材料の押し出し工程によって得られた管状の樹脂層において、その内周面および外周面に形成された内側スキン層および外側スキン層のうち、外側スキン層に研磨処理を施して外側スキン層を除去した後、その外周にブチルゴム層を形成し、さらにその外周にエチレン−プロピレン系ゴム層を形成することを特徴とする冷媒輸送ホースの製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−92959(P2012−92959A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56921(P2011−56921)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】