説明

冷菓の製造方法、及び冷菓

【課題】凍結硬化時の温度、及び保管時の温度変動に拠らず、冷菓本来の口溶けの良さを有し、かつ喫食時にスプーンで掬いやすい冷菓を提供する。
【解決手段】卵白、乳清及び増粘多糖類を含有し、卵白及び乳清の蛋白質がそれぞれ一部凝集し重合体を形成しており、比重0.3〜0.7、粘度(20℃)10〜90Pa・sである気泡入り加工食品と、冷菓ミックスとを混合し、凍結して冷菓を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイスクリーム、シャーベット等の冷菓の製造方法、及びそれにより得られる冷菓に関する。
【背景技術】
【0002】
アイスクリーム、ラクトアイス等のアイスクリーム類や、フローズンヨーグルト、シャーベット等の冷菓には、喫食時に適度な硬さを有することが求められる。
【0003】
冷菓に硬さをもたらしているものは、微細な氷結晶からなるネットワークであるから、喫食時の硬さは、冷菓の製造時の凍結硬化あるいはその後の保管における製品温度によって左右される。具体的には、凍結硬化時の温度が低いと柔らかくなり、喫食時にスプーンで掬えるが、凍結硬化時の温度が高いと氷の粗大結晶ができるので硬くなり、喫食時にカチカチとなりスプーンで掬うことができない。また、保管温度の変動によっても氷結晶が成長して硬くなり、喫食時にカチカチとなりスプーンで掬うことができなくなる。
【0004】
これに対し、スプーンで掬いやすく、かつ喫食時に冷菓固有の食感が維持されるようにするため、冷菓生地と、特定の油脂原料を含む水中油型乳化エマルジョンの気泡物とを混合した後、凍結して冷菓を製造する方法(特許文献1)が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、保管温度の変動によって水中油型乳化物の乳化が壊れるためか、油分離が生じる場合がある。また、保管温度の変動によって氷結晶が成長してしまい、喫食時にスプーンが通らない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-86638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来技術に対し、本発明は、凍結硬化時の温度、及び保管時の温度変動に拠らず、冷菓本来の口溶けの良さを有し、かつ喫食時にスプーンで掬いやすい冷菓を提供できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、卵白、乳清及び増粘多糖類を含有するスラリーがメレンゲ様に泡立ち、かつ卵白と乳清の蛋白質がそれぞれ一部凝集し重合体を形成している気泡入り加工食品は、卵白を泡立てたメレンゲのような優れた口溶け感を有し、かつ、一般的な冷菓の製造温度(−15〜−30℃)に凍結しても泡を維持し、優れた口溶け感も維持すること、そして、この気泡入り加工食品と冷菓ミックスとを混合して凍結させることにより冷菓を製造すると、気泡入り加工食品が泡を維持することにより、冷菓は凍結硬化時の温度、及び保管時の温度変動に拠らずスプーンで掬いやすく、かつ本来の冷菓と同様に口溶けの良さを有することを見いだした。
【0009】
即ち、本発明は、卵白、乳清及び増粘多糖類を含有し、卵白及び乳清の蛋白質がそれぞれ一部凝集し重合体を形成しており、比重0.3〜0.7、粘度(20℃)10〜90Pa・sである気泡入り加工食品と、冷菓ミックスを混合し、凍結させる冷菓の製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、卵白、乳清及び増粘多糖類を含有し、卵白及び乳清の蛋白質がそれぞれ一部凝集し重合体を形成している気泡入り加工食品と、冷菓ミックスとが混合され、凍結している冷菓を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の冷菓で使用する気泡入り加工食品は、卵白と乳清と増粘多糖類を含有するスラリーが泡立ったメレンゲ様のもので、比重0.3〜0.7と嵩高く泡立っており、口溶け感に優れている。また、この泡では、卵白蛋白質と乳清蛋白質の双方が一部凝集し重合体を形成しているために泡の安定性が高く、この泡は、任意の冷菓ミックスと混合しても、さらに冷凍しても潰れにくいという冷凍耐性を有する。したがって、この気泡入り加工食品と冷菓ミックスとを混合し、凍結することにより得られる本発明の冷菓は、凍結硬化時の温度、及び保管時の温度変動に拠らず、気泡入り加工食品に由来する泡を保持していることにより、容易にスプーンで掬うことができ、かつ、冷菓本来の優れた口溶け感を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例1の冷菓に使用する気泡入り加工食品の原料スラリーの加熱前後のドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)による電気泳動写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」をそれぞれ意味する。
【0014】
本発明の冷菓は、特定の気泡入り加工食品と任意の冷菓ミックスとを混合し、凍結したものである。ここで、冷菓ミックスは、通常、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓を製造する際に使用されるもので、例えば、砂糖、水飴、ブドウ糖等の糖類と、生乳、生クリーム、バター、全脂練乳、脱脂練乳、脱脂粉乳、ヨーグルト等の乳類、ジュース、果物片等の果実類、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤、ゼラチン、カラギナン、グアガム、キサンタンガム等の安定剤等を適宜配合したものをあげることができる。
【0015】
一方、気泡入り加工食品は、卵白、乳清及び増粘多糖類を含有するスラリーがメレンゲ様に泡立ち、卵白蛋白質及び乳清蛋白質の双方が加熱により一部凝集し重合体を形成しているものである。
【0016】
本発明で使用する気泡入り加工食品の中でも2−メルカプトエタノール等の還元剤で処理することなく行ったSDS-PAGEにより、卵白の主要な蛋白質であるオボアルブミン(分子量約45,000)と乳清の主要な蛋白質であるβラクトグロブリン(分子量約18,000)が検出され、かつ分子量21万以上の高分子量の重合体が検出されることが好ましい。オボアルブミンとβラクトグロブリンの全てが凝集し重合体を形成すると、即ち、SDS-PAGEにおいてオボアルブミンとβラクトグロブリンの位置にバンドが観察されなくなると、口溶け感が低下する。
【0017】
卵白蛋白質は、卵白蛋白質全体の50〜60%を占めるオボアルブミン(分子量約45000)に加え、オボトランスフェリン(分子量約78000)、リゾチーム(分子量約14300)等からなり、乳清蛋白質は、乳清蛋白質全体の40〜50%を占めるβラクトグロブリン(分子量約18000)に加え、αラクトアルブミン(分子量約14000)、血清アルブミン(分子量約66300)等からなる。このように、オボアルブミンとβラクトグロブリンは、それぞれ卵白及び乳清の蛋白質の約半分を占める主要な蛋白質であるため、これらの全てが凝集して重合すると、気泡入り加工食品の口溶け感が低下し、これを用いて得られる冷菓の食感も低下するものと考えられる。
【0018】
なお、凝集していない卵白及び乳清の蛋白質の3次構造は、疎水基同士の疎水結合により、蛋白質の疎水基を内側にしまい込む形で折り畳まれた構造を有している。そして、加熱等の凝集が生じる処理を施した場合、蛋白質の疎水基が外側に露出し、別の蛋白質と疎水結合やジスルフィド結合を形成することにより重合体が形成される。本発明において、卵白及び乳清の蛋白質がそれぞれ一部凝集し重合体を形成しているとは、例えば、オボアルブミンの一部と血清アルブミンの一部が上述の重合体を形成し、残りの蛋白質が重合体を形成していない状態を指す。
【0019】
卵白蛋白質の一部と、乳清蛋白質の一部とが凝集し重合体を形成していることは、下記2種類の分析方法のいずれかを行なうことにより、確認することができる。
【0020】
<分析方法I>
分析試料として、気泡入り加工食品を形成するスラリーの加熱前と加熱後のものを用意し、これらを2−メルカプトエタノール等の還元剤で処理せずに分析に供する。分析方法は、後述するSDS-PAGEの手順に従う。以下、1)〜3)の全ての条件を満たす場合、本発明で使用する気泡入り加工食品に該当する。
1)加熱後の試料は、卵白の少なくともオボアルブミンのバンドが検出され、かつオボアルブミン、オボトランスフェリン及びリゾチームの少なくとも一つのバンドが加熱前に比して薄く観察される。
2)加熱後の試料は、乳清の少なくともβラクトグロブリンが検出され、かつβラクトグロブリン、αラクトアルブミン及び血清アルブミンの少なくとも一つのバンドが加熱前に比して薄く観察される。
3)加熱前の試料は、分子量21万以上のバンドが観察されないのに対し、加熱後の試料は、分子量21万以上のバンドが検出される。
なお、1)、2)より、卵白及び乳清の両方の蛋白質のバンドが薄くなっていることから、加熱後の試料に観察される分子量21万以上のバンドは、卵白及び乳清の薄くなったバンドの蛋白質からなる重合体であると考えられる。
【0021】
<分析方法II>
分析試料として気泡入り加工食品を2−メルカプトエタノール等の還元剤で処理したものと処理していないものを用意する。分析方法は、後述するSDS-PAGEの手順に従う。以下、1)〜3)の全ての条件を満たす場合、本発明で使用する気泡入り加工食品に該当する。
1)還元剤処理をしていない試料は、卵白の少なくともオボアルブミンのバンドが検出され、かつオボアルブミン、オボトランスフェリン及びリゾチームの少なくとも一つのバンドが、還元剤処理した試料に比して薄く観察される。
2)還元剤処理をしていない試料は、乳清の少なくともβラクトグロブリンのバンドが検出され、かつβラクトグロブリン、αラクトアルブミン及び血清アルブミンの少なくとも一つのバンドが還元剤処理をした試料に比して薄く観察される。
3)還元剤処理をしていない試料は、分子量21万以上のバンドが観察されるのに対し、還元剤処理をした試料は、分子量21万以上のバンドが観察されない。
【0022】
さらに、上述の分析方法I,IIにおいて、分子量21万以上の蛋白質が、卵白蛋白質と乳清蛋白質の双方に由来することは、ウエスタンブロット法により、分子量21万以上のバンドが、卵白及び乳清にそれぞれ抗原抗体反応を示すことから確認することができる。また、卵白蛋白質のオボアルブミン(分子量約45000)をはじめとして、SDS-PAGEにおける特定のバンドが特定の蛋白質のバンドであることは、分子量マーカーにより分子量を確認する他、そのバンドを常法によりアミノ酸配列分析することにより確認することができる。
【0023】
卵白、乳清及び増粘多糖類を含有するスラリーにより形成された泡において卵白蛋白質及び乳清蛋白質の双方が一部凝集し重合体を形成していることにより、泡は安定性が向上し、気泡入り加工食品の口溶けの良いものとなり、これを用いて得られる冷菓の食感も向上する。これに対し、卵白及び乳清の双方の蛋白質が全く凝集せずに重合体を形成していない場合、即ち、上述の<分析方法I>の加熱後の試料において、分子量21万以上のバンドが観察されない場合、又は<分析方法II>の還元剤で処理しなかった試料において分子量21万以上のバンドが観察されない場合には、泡の安定性が低く、泡に耐冷耐熱性を付与することができない。そのため、得られる冷菓はスプーンで掬いにくいものとなる。反対に、上述の<分析方法I>の加熱後の試料において、分子量21万以上のバンドは検出されるが、卵白の主要な蛋白質であるオボアルブミンのバンドが検出されないか、又は乳清の主要な蛋白質であるβラクトグロブリンのバンドも検出されないことにより、卵白蛋白質の全て又は乳清蛋白質の全てが凝集していると評価できる場合には泡が硬くなり、ふわっとしたメレンゲ様の食感と口溶けを得ることができない。そのため、得られる冷菓の食感も低下してしまう。
【0024】
また、この気泡入り加工食品ではスラリーに卵白及び乳清が含まれていることにより、スラリーが比重0.3〜0.7に嵩高く泡立ち、泡の安定性に優れている。そのため、この気泡入り加工食品を混合した本発明の冷菓は凍結硬化時の温度、及び保管時の温度変動に拠らず、気泡入り加工食品に由来する泡を保持していることにより、容易にスプーンで掬うことができ、かつ、冷菓本来の口溶けに優れたものとなる。
【0025】
気泡入り加工食品のスラリーの材料となる卵白としては、常法により、鶏卵を割卵して卵黄と分離することにより得られた液卵白、冷凍卵白を解凍したもの、乾燥卵白等が挙げられる。
【0026】
乳清としては、生乳や脱脂粉乳からチーズや酸カゼイン、レンネットカゼインを製造する際に副生する酸ホエイ、スイートホエイを原料とし、これを精製したものを使用することができる。精製した乳清の他に、市販の乳清に濃縮、希釈、ペースト化、乾燥等の処理を行ったものも使用することができる。なお、一般に、乳清蛋白質はカゼインを実質的に含まないが、乳蛋白と称されるものはカゼインを主成分として含む点で乳清蛋白質と異なる。また、乳清に代えて全粉乳や脱脂粉乳を使用すると、カゼインを含むためか泡の安定性が損なわれてスプーンで掬いにくい冷菓となってしまうので好ましくない。そのため、カゼインの含有量は乳蛋白質全体の5%以下が好ましく、カゼインを全く含まないものがより好ましい。
また、本発明で使用する気泡入り加工食品において、カゼインの含有量は1%以下が好ましく、カゼインを全く含まないものがより好ましい。
【0027】
気泡入り加工食品において、卵白と乳清の好ましい含有量は、それぞれ固形分換算で1〜5%とすることが好ましく、さらに卵白と乳清の含有量比を1:5〜5:1とすることがより好ましい。卵白が少なすぎると泡の安定性が低下し、スプーンで掬いにくい冷菓となってしまう。反対に多すぎると泡が硬くなり過ぎてはんぺん様となり、冷菓ミックスと混合しにくくなり、得られる冷菓の食感が低下する。一方、乳清が少なすぎると泡立ちが不十分となり、比重が大きくなってふわっとしたメレンゲ様にならず、冷菓ミックスと混合しにくく、また、得られる冷菓の食感も低下する。乳清が多すぎても泡が硬くなりやすいため、冷凍ミックスと混合しにくく、得られる冷菓の食感が低下する。
【0028】
一方、本発明で使用する気泡入り加工食品において、増粘多糖類は、スラリーの泡立ちを向上させると共に、泡の押圧に対して潰れにくくするために配合されている。増粘多糖類としては、アルギン酸ナトリウム、発酵セルロース、キサンタンガム、グアガム、ローカストビーンガム、カラギナン、タラガム、ジェランガム、タマリンドシードガム等を使用することができる。中でも、スラリーの撹拌時の剪断抵抗を減少させて泡立ちを向上させる点からシュードプラスチック性を有するキサンタンガム、ローカストビーンガム、カラギナン、タラガム、ジェランガム等が好ましく、特にキサンタンガムが好ましい。
【0029】
気泡入り加工食品において、増粘多糖類の含有量は、0.3〜2%とすることが好ましい。増粘多糖類が少なすぎると泡と液状部分とが分離する場合があり、多すぎると口溶けが悪く、ねとねとした粘稠性の食感が強くなる。
【0030】
また、本発明で使用する気泡入り加工食品としては、卵白、乳清及び増粘多糖類を含有するスラリーを好ましくは加熱する前、より好ましくは泡立てる前に、このスラリーに添加されたアルギン酸アルカリ金属塩と水溶性カルシウム塩によるアルギン酸カルシウムを含有するものが好ましい。ここで、アルギン酸アルカリ金属塩とは、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等を挙げることができる。また、水溶性カルシウム塩とは清水への溶解度(25℃)が1%以上のものをいい、塩酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等をあげることができる。中でも、気泡入り加工食品にメレンゲ特有の口溶けの良さに加え、風味も向上し、得られる冷菓の食感も向上することから、乳酸カルシウムが好ましい。
【0031】
スラリーにアルギン酸アルカリ金属塩と水溶性カルシウム塩を添加して泡立て、泡立ったスラリー中でアルギン酸カルシウムを生成させると、泡の安定性を高め、増粘多糖類特有の粘稠性の食感を抑制し、メレンゲ特有の口溶けの良さを向上させることができる。そのため、冷菓ミックスと混合し得られる冷菓は、スプーンで掬い易く、ふわっとした口溶けのよい食感のものとなる。なお、卵白、乳清及び増粘多糖類を含有するスラリーを泡立て、卵白及び乳清の蛋白質のそれぞれ一部凝集させて重合体を形成させた後にアルギン酸カルシウムを添加しても、泡の安定性を高めたり、増粘多糖類特有の粘稠性の食感を抑制したり、口溶けの良さを向上させたりすることはできないため、得られる冷菓は、スプーンで掬いにくく、ふわっとした口溶けのよい食感が損なわれてしまう。
【0032】
また、アルギン酸カルシウムは増粘多糖類ではなく、粘稠性を示さないことから、スラリー中にアルギン酸アルカリ金属塩が添加されていても、水溶性カルシウムも添加されることにより、水溶性カルシウム塩と反応してアルギン酸カルシウムを生成した分については、アルギン酸アルカリ金属塩は増粘多糖類として作用しない。よって、本発明で使用する気泡入り加工食品を形成するスラリー中には、アルギン酸アルカリ金属塩と水溶性カルシウム塩を添加すると共に、前述の増粘多糖類を添加することが好ましく、特に、アルギン酸ナトリウムと水溶性カルシウム塩とキサンタンガムを併用することがより好ましい。
【0033】
スラリーにおけるアルギン酸アルカリ金属塩と水溶性カルシウム塩との添加量は、アルギン酸アルカリ金属塩0.1〜1%、水溶性カルシウム塩0.1〜1%とすることが好ましい。アルギン酸アルカリ金属塩と水溶性カルシウム塩の含有量が少なすぎるとアルギン酸カルシウムの生成が十分に行われず、泡の安定性が損なわれ、また粘稠性の食感を抑制できない。そのため、冷菓ミックスと混合し得られた冷菓は、スプーンで掬いにくく、ふわっとした口溶けの良さが得られにくい。反対に、これらの含有量が多すぎるとアルギン酸カルシウムの生成が過剰となって苦みが感じられ、食品の風味が損なわれるので好ましくない。
【0034】
気泡入り加工食品には、さらに、pH調整材及び糖類を含有させることが好ましい。pH調整材は、気泡入り加工食品のpHを4.5〜6とするために使用する。pHが低すぎると蛋白質の酸変性により泡立ちが悪くなり、pHが高すぎると泡が柔らかくなり、泡の安定性が劣る場合がある。上述のpH4.5〜6の範囲の中でも、特に卵白蛋白質の等電点4.6及び乳清蛋白質の等電点4.9の近傍(pH4.5〜5.0)が泡の安定性が向上し、スプーンで掬い易い冷菓を得る点から好ましい。
【0035】
pH調整材としては、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸、リン酸等の無機酸、レモン、オレンジ、リンゴ等の果汁、食酢、ヨーグルト等の酸性発酵食品等が挙げられる。
【0036】
糖類は、スラリー中のジスルフィド結合を抑制する効果があることから、加熱により、スラリー中の蛋白質の全てが凝集するという過度の熱変性が生じないようにするために使用する。
【0037】
糖類としては、グルコース、フラクトース等の単糖類、マルトース、シュークロース、トレハロース等の二糖類、オリゴ糖、これらの混合物、これらに水素添加した還元糖類が挙げられる。中でも、蛋白質の過度の変性を抑制する点から還元水飴及びトレハロースが好ましい。
【0038】
気泡入り加工食品において、糖類の含有量は、少なすぎると泡の安定性が低下し、得られる冷菓がスプーンで掬いにくいものとなり、多すぎると泡立ちが低下し、得られる冷菓にふわっとした食感が得られないことから、還元水飴2.5〜20%及びトレハロース2.5〜20%を含有させることが好ましく、糖類の合計として5〜50%とすることが好ましい。
【0039】
本発明で使用する気泡入り加工食品には、以上の各成分の他、必要に応じて、スクラロース、ソーマチン、アセスルファムカリウム、アスパルテーム等の高甘味度甘味料、クエン酸カルシウム、フマル酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム等の有機酸塩、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、レシチン、ポリソルベート等の乳化剤、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK等のビタミン類、鉄、マグネシウム等の各種ミネラル類、香料、着色料、調味料及び保存料等を配合することができる。
【0040】
気泡入り加工食品において、泡立ちは、比重が0.3〜0.7、好ましくは0.3〜0.6となる程度である。比重がこれよりも小さいと泡の安定性が低く、これを用いて製造した冷菓がスプーンで掬いにくくなる。反対に比重が大きいと泡立ちが足りず、これを用いて製造した冷菓もスプーンで掬いにくくなる。
【0041】
また、気泡入り加工食品の粘度は、粘度(20℃)10〜90Pa・sであり、好ましくは、30〜80Pa・sである。これにより、冷菓ミックスと混ぜやすいものとなる。なお、本発明において粘度は、BH型粘度計を用い、回転数:4rpm、ローター:No.6、品温:20℃の測定条件で、2回転後の示度から換算した値である。
【0042】
気泡入り加工食品は、上述した卵白、乳清及び増粘多糖類、その他必要に応じて配合される各成分を混合してスラリーとし、そのスラリーを撹拌や気体の吹き込みなどにより泡立て、品温75〜85℃で0.5〜5分加熱し、必要に応じて冷凍することにより製造することができる。この場合、スラリーの泡立ては、加熱後の比重が0.3〜0.7となるように適宜調整する。過度に加熱温度を高くしたり、加熱時間を長くしたりすると、卵白中の蛋白質の全て、又は乳清中の蛋白質の全てが凝集してしまい、メレンゲ様のふわっとした口溶け感が損なわれ、これを用いて製造した冷菓も口溶けが損なわれる。反対に、加熱温度が低すぎたり加熱時間が短すぎたりすると卵白及び乳清の凝集が不十分となり、泡の安定性が低くなり、耐冷耐熱性を得にくくなる。そのため、得られる冷菓はスプーンで掬いにくいものとなる。スラリーの泡立てと加熱後には、それを冷凍保存しておき、解凍して使用してもよい。
【0043】
気泡入り加工食品のより具体的な製造方法としては、例えば、上述のスラリーを形成する各成分を脱気機能付き撹拌ミキサーに入れ、脱気撹拌してスラリーを得る。次に、このスラリーに空気、窒素ガス等の気体を吹き込みながらこのスラリーを撹拌して泡立て、次いでチューブ式熱交換器に通し、加熱する。これによりメレンゲ様の気泡入り加工食品を得ることができる。
【0044】
本発明の冷菓を、上述した気泡入り加工食品と冷菓ミックスとから製造するにあたり、それらの混合割合は、目的とする冷菓の種類、冷菓ミックスの組成などに応じて定めるが、気泡入り加工食品の割合が少なすぎると、品温が低い場合のスプーンの掬いやすさを改善することが難しく、多すぎると冷菓ミックスの味が過度に希釈化される。そこで、例えば、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイスといったアイスクリーム類の冷菓を得る場合には、気泡入り加工食品と冷菓ミックスとの混合割合(質量比)を1:9〜1:1にすることが好ましい。シャーベット系の冷菓を製造する場合には、気泡入り加工食品と冷菓ミックスとの混合割合(質量比)を1:9〜2:1にすることが好ましい。
また、気泡入り加工食品と冷菓ミックスとの混合に際しては、混合により得られる冷菓がpH4.5〜6、比重0.3〜0.7、より好ましくは比重0.3〜0.5となるように、それらの混合比を調整することが好ましい。
【0045】
気泡入り加工食品と冷菓ミックスとの混合方法としては、(i)冷菓ミックスのスラリーをフリーザーに通し、オーバーランを50〜100%となるように含気させ、−2〜−8℃で気泡入り加工食品と混合することにより本発明の冷菓を得る。この冷菓は、−18℃以下で凍結硬化させる。
あるいは、(ii)冷菓ミックスのスラリーを含気させることなく気泡入り加工食品と混合し、それを−2〜−8℃でフリーザーに通し、送気により含気させつつ水分を凍結させて本発明の冷菓を得、それを−18℃以下で凍結硬化させる。
スプーンでより掬い易い冷菓を得る点からは、(i)の方法が好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
実施例1〜9及び比較例1〜9
(1)気泡入り加工食品の製造
表1に示す組成で各原料を脱気機能付き撹拌ミキサーで攪拌混合し、真空度0.1MPaで脱気撹拌を行い、スラリーを得た。
このスラリーを攪拌ミキサーに投入し、空気を吹き込みながら攪拌し、泡立てた。次いで、チューブ式熱交換器に通し、表1に示す条件で加熱した。こうして得られた気泡入り加工食品を、室温に冷却した。
【0047】
(2)冷菓ミックスの製造
表1に示す組成で各原料を二重釜に投入し、70℃で10分間加熱混合し、150Kg/cm2の圧力で乳化し、5℃に冷却した。次いで、−2〜−8℃でアイスクリームフリーザーを用いてオーバーラン54%の塑性状態の冷菓ミックスを得た。
【0048】
(3)冷菓の製造
(1)で得た気泡入り加工食品と(2)で得た冷菓ミックスとを表1に示す比率で、−3℃にて、撹拌ミキサーにより混合し、180mLのカップに充填し、−30℃の冷凍庫で凍結硬化させて冷菓を得た。その後、−20℃の冷凍庫で保存した。
【0049】
(4)評価
(1)で得られた気泡入り加工食品、及び(3)で得られた冷菓を試料とし、それらの性状を次のように測定し、評価した。これらの結果を表1に示す。
【0050】
(4-1)比重
(1)で得られた気泡入り加工食品について、品温20℃にて、90mlメスシリンダーに空気を抱き込まないように各試料を満注して、質量を測定した。メスシリンダーの容積(90ml)および測定した試料の質量から比重(水に対する試料の質量比)を算出した。
【0051】
(4-2)粘度
(1)で得られた気泡入り加工食品について、BH型粘度計を用い、回転数:4rpm、ローター:No.6、品温:20℃の測定条件で、2回転後の示度から換算した値を採用した。
【0052】
(4-3)蛋白質の一部凝集
(1)で得られた気泡入り加工食品について、加熱前後の気泡入りスラリーを試料としてドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)分析をLaemmli法に基づき、以下の測定条件で行った。この場合、試料は、蛋白質のジスルフィド結合を切断する還元剤で処理することなく、電気泳動分析に供した。また、比較のために生卵白と乳清も同時に展開した。
SDS-PAGEの測定条件
ポリアクリルアミドゲル(SDS-PAGE mini,4-20%(テフコ(株)製)):4〜20%のグラジエントゲル、分子量の検出範囲6500〜205000
試料の蛋白質濃度:1mg/ml
染色液:クマシーグリリアントブルーG250(CBB)染色液濃度:1g/L
染色時間:40rpm 1時間
脱色時間:40rpm 6時間
【0053】
実施例1で得られた気泡入り加工食品について、SDS-PAGEの泳動写真を図1に示す。
加熱前後の泳動パターンの対比から、蛋白質の一部が凝集し重合体を形成しているかを確認した。なお、この泳動パターンにおいて、ポリアクリルアミドゲルの最上部に位置するバンドは、ポリアクリルアミドゲルの検出範囲を超えた分子量21万以上の蛋白質ということになる。
【0054】
また、実施例1については、加熱後の気泡入りスラリーを試料とし、上述と同様の電気泳動分析を、試料を予め2−メルカプトエタノールで処理して行った。その結果、分子量21万以上の蛋白質は観察されなかった。また、2−メルカプトエタノールで処理した場合に比して、2−メルカプトエタノールで処理しない場合には、分子量約45000〜78000のバンドが薄かった。
【0055】
(4-4)泡安定性
(1)で得られた気泡入り加工食品を−20℃に冷凍した。そして、冷凍前の気泡入り加工食品の比重と、冷凍した気泡入り加工食品を5℃で解凍し、5℃にて1週間放置した後の比重とを比較して、次の基準で泡安定性を評価した。
【0056】
〔評価基準〕
◎:冷凍前の気泡入り加工食品の比重と比較して、比重の変化率が10%未満の場合
○:冷凍前の気泡入り加工食品の比重と比較して、比重の変化率が10%以上20%未満の場合
×:冷凍前の気泡入り加工食品の比重と比較して、比重の変化率が20%以上の場合
【0057】
(4-5)掬いやすさ
(3)で得られた冷菓について、−20℃の冷凍庫から取り出した直後の冷菓に薄いプラスチック片のスプーンをさし、掬いやすさを次の基準で評価した。
【0058】
〔評価基準〕
A:冷菓が柔らかく、スプーンで掬いやすかった。
B:冷菓が若干硬く、スプーンで掬い難いが問題のない程度であった。
C:冷菓が硬く、スプーンで掬いにくかった。
【0059】
(4-6)食感
(1)で得られた気泡入り加工食品を−20℃に冷凍後、5℃で解凍し、喫食して次の基準で口溶け感を評価した。
〔評価基準〕
◎:メレンゲ特有の口溶けの良さに優れ好ましい。
○:メレンゲ特有の口溶けの良さを有している。
×:メレンゲ特有の口溶けの良さが損なわれていた。
【0060】
(3)で得られた冷菓を喫食し、食感を次の基準で評価した。
〔評価基準〕
A:口溶けがよく、冷菓本来の優れた食感であった。
B:やや口溶けが悪いが、冷菓として問題のない程度であった。
C:口溶けが悪く、冷菓本来の食感が損なわれていた。
【0061】
【表1】


【0062】
図1の電気泳動写真から、以下1)〜3)の点を確認できた。従って、実施例1で使用した気泡入り加工食品は、段落番号[0020]の<分析方法I>の1)〜3)の全ての条件を満たしていることが理解できる。
1)加熱後の試料では、オボアルブミンのバンドが検出され、かつオボアルブミン、オボトランスフェリン、リゾチームのバンドが加熱前に比して薄く観察された。
2)加熱後の試料では、βラクトグロブリンのバンドが検出され、かつ血清アルブミンのバンドが加熱前に比して薄く観察された。
3)加熱前の試料では、分子量21万以上のバンドが観察されないのに対し、加熱後の試料では、ポリアクリルアミドゲルの最上部に位置するバンド、即ち分子量21万以上のバンドが検出された。
【0063】
図1の結果は、実施例1の加熱後の気泡入りスラリーを2−メルカプトエタノールで処理した試料のSDS-PAGEでは分子量21万以上の蛋白質が観察されず、2−メルカプトエタノールで処理しなかった試料のSDS-PAGEでは、2−メルカプトエタノールで処理した場合に比して分子量約45000〜78000のバンドが薄くなり、分子量21万以上の蛋白質が観察されたことと整合する。
【0064】
なお、加熱前後の泳動パターンにおける各バンドの特定の蛋白質への帰属は、対照として泳動させた卵白及び乳清の泳動パターンとの対比により行った。バンドが薄くなっていることが認められる卵白のオボトランスフェリン、オボアルブミン、及び乳清の血清アルブミンは熱に弱い蛋白質であると考えられる。また、一部凝集した蛋白質の多くは卵白蛋白質に由来していることから、実施例1の気泡入り加工食品の泡の安定性には、卵白蛋白質の一部凝集が大きく寄与していると考えられる。
【0065】
表1の結果から、実施例で使用した気泡入り加工食品は、いずれも卵白、乳清及び増粘多糖類を含有し、蛋白質が一部凝集して重合体を形成していることにより泡安定性に優れており、この気泡入り加工食品を用いて製造した冷菓はスプーンで掬いやすく、口溶け感が優れたものとなっているが、気泡入り加工食品を使用せずに製造した比較例9の冷菓はスプーンで掬い難いことがわかる。さらに、乳清を含有しない気泡入り加工食品(比較例1)や、卵白を含有しない気泡入り加工食品(比較例2)や、増粘多糖類を含有せず加熱処理もしていない気泡入り加工食品(比較例3)や、増粘多糖類は含有するが加熱処理をしていない気泡入り加工食品(比較例7)は泡安定性が低く、これらを使用して製造した冷菓はスプーンで掬いにくいことがわかる。また、過度の加熱処理により蛋白質が完全に凝集している比較例8の気泡入り食品を使用した場合には、その気泡入り加工食品自体の泡安定性は良好であるが、冷菓の食感が劣っていた。
【0066】
さらに、実施例1、4から、冷菓に掬いやすさと口溶けのよい食感を与えるには、気泡入り加工食品として、アルギン酸アルカリ金属塩と水溶性カルシウムを増粘多糖類と併用したものを使用するのが有効であること、さらに実施例1、3から、冷菓の掬いやすさをより一層改善するには、気泡入り加工食品として、増粘多糖類にキサンタンガムを使用することにより泡安定性を高めたものを使用するのが好ましいことがわかる。
【0067】
実施例1、5、6、7及び比較例4、5、6から、気泡入り加工食品を比重が0.3〜0.7となるように泡立てることにより、それを用いた冷菓の掬いやすさが改善され、食感が良好であることがわかる。
【0068】
気泡入り加工食品の製造において、実施例1に対して脱脂粉乳を5%使用した実施例8は、脱脂粉乳の使用により気泡入り加工食品中にカゼインを1.4%含有することとなり、実施例1よりも気泡入り加工食品自体の泡安定性が低くなっていることから、冷菓の掬いやすさや食感も実施例1ほど優れてはいない。気泡入り加工食品の泡安定性をより高めて冷菓の掬いやすさや食感を向上させるには、カゼインを含有しない気泡入り加工食品が好ましいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵白、乳清及び増粘多糖類を含有し、卵白及び乳清の蛋白質がそれぞれ一部凝集し重合体を形成しており、比重0.3〜0.7、粘度(20℃)10〜90Pa・sである気泡入り加工食品と、冷菓ミックスを混合し、凍結させる冷菓の製造方法。
【請求項2】
気泡入り加工食品が、卵白、乳清及び増粘多糖類を含有するスラリーを泡立て、75〜85℃で0.5〜5分加熱して製造されたものである請求項1記載の冷菓の製造方法。
【請求項3】
気泡入り加工食品が、該気泡入り加工食品の加熱前のアルギン酸アルカリ金属塩及び水溶性カルシウム塩の添加により生成したアルギン酸カルシウムを含有する請求項2記載の冷菓の製造方法。
【請求項4】
気泡入り加工食品が、該気泡入り加工食品を還元剤で処理することなくドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)で分析することにより、少なくとも卵白蛋白質のオボアルブミン、乳清蛋白質のβラクトグロブリン、及び分子量21万以上の重合体が検出されるものである請求項1〜3のいずれかに記載の冷菓の製造方法。
【請求項5】
増粘多糖類がキサンタンガムである請求項1〜4のいずれかに記載の冷菓の製造方法。
【請求項6】
卵白、乳清及び増粘多糖類を含有し、卵白及び乳清の蛋白質がそれぞれ一部凝集し重合体を形成している気泡入り加工食品と、冷菓ミックスとが混合され、凍結している冷菓。

【図1】
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