説明

冷蔵庫

【課題】冷蔵庫において、光源や熱源を必要とすることなく、メチルメルカプタン等のイオウ系の臭気ガス及びこのイオウ系の臭気ガス以外のアンモニア等の臭気ガスを短時間で脱臭できると共に長期的に脱臭できるようにすること。
【解決手段】冷蔵庫は冷蔵庫内に脱臭フィルター13を設置している。この脱臭フィルター13は、物理吸着剤にマンガン系触媒と電荷移動型触媒の両方を担持して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷蔵庫に係り、特に冷蔵庫内に貯蔵している食品から発生する臭気を吸着、分解できる脱臭フィルターを備えた冷蔵庫に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
冷蔵庫内では、保存している食品のそれぞれ特有の臭気成分や食品の劣化、腐敗により、臭気成分が発生する。冷蔵庫内は密閉空間であることから、食品から発生する臭気成分は、外部に漏れることがなく、冷気の循環路を通して貯蔵室内に充満してしまう。特に、冷蔵室においては色々な食品が保存されることから、臭気成分の強い食品から発生する臭気成分が冷蔵室内に充満すると、他の食品への臭い移りが発生する。
【0003】
冷蔵庫内から発生するガスとしては、食品の腐敗臭成分であるメチルメルカプタン(硫黄系の臭気ガス)が主成分であり、特有の刺激臭があるため、これまで脱臭フィルターによるメチルメルカプタンの脱臭検討が行われてきた。その中で、マンガン系触媒が脱水素反応によりメチルメルカプタンをジメチルジサルファイドにすることで臭い強度を下げる働きがあり、多くの冷蔵庫に用いられてきた(従来技術1)。
【0004】
また、別の従来の冷蔵庫では、冷蔵庫内に貯蔵している食品から発生した臭気成分が充満するのを防止するために、冷気の循環路に光触媒の脱臭フィルターや活性炭、化学吸着剤等の脱臭フィルターを用いることが行われている(従来技術2)。
【0005】
一方、光や熱を必要としない電荷移動型触媒が検討され、電荷移動型触媒の性能をより向上させるために、電荷移動型触媒と活性炭等の多孔質触媒とからなる複合触媒が案出されている(従来技術3:特開2006−68633号公報(特許文献1))。
【0006】
【特許文献1】特開2006−68633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来技術1のマンガン系触媒の脱臭フィルターを用いた冷蔵庫では、硫黄系の臭気ガスに効果があるものの、冷蔵庫内から発生する硫黄系のガス以外のガス、例えば魚の腐った臭気であるアンモニアについては有効な効果が得られなかった。
【0008】
また、従来技術2の光触媒の脱臭フィルターを用いた冷蔵庫では、光触媒と臭気成分とが接触して酸化、還元反応をする際に光が必要であるが、実際の冷蔵庫内においては光量が少なく、脱臭フィルターにLED等の光を発する装置を取り付けなくてはならなかった。
【0009】
また、従来技術2の活性炭の脱臭フィルターを用いた冷蔵庫では、吸着容量に限界があり、吸着能力を回復させるためには熱を加えたりする必要があった。
【0010】
さらには、従来技術3の電荷移動型触媒と多孔質触媒とからなる複合触媒では、冷蔵庫に適用できることが開示されているものの、冷蔵庫の適用場所については開示されておらず、少なくとも冷蔵庫内に設置する脱臭フィルターに適用することは開示されていない。仮に、この複合触媒を脱臭フィルターに適用したとしても、冷蔵庫内から発生する腐敗臭ガスの主成分であるメチルメルカプタン(硫黄系の臭気ガス)を有効に脱臭できないという問題が残る。
【0011】
本発明の目的は、光源や熱源を必要とすることなく、メチルメルカプタン等のイオウ系の臭気ガス及びその他の臭気ガスを、短時間で脱臭できると共に、長期にわたってその脱臭性能を保持できる冷蔵庫を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の目的を達成するために、本発明では、冷蔵庫内に脱臭フィルターを設置した冷蔵庫において、物理吸着剤にマンガン系触媒と電荷移動型触媒の両方を担持して前記脱臭フィルターを形成したことにある。
【0013】
係る本発明のより好ましい具体的な構成例は次の通りである。
(1)冷蔵庫内に冷蔵室、野菜室、冷凍室からなる複数の貯蔵室を備え、前記複数の貯蔵室を冷却する冷気の循環路に前記脱臭フィルターを配置したこと。
(2)前記(1)において、前記冷蔵室から冷却器室に冷気を戻す戻り流路に前記脱臭フィルターを配置したこと。
(3)前記(2)において、前記物理吸着剤をハニカム状活性炭で形成したこと。
(4)前記(3)において、前記ハニカム状活性炭におけるセル数を1インチ当たり60前後としたこと。
(5)前記(3)において、前記ハニカム状活性炭に5質量%の電荷移動型触媒と50質量%の二酸化マンガンからなるマンガン系触媒とを担持させたこと。
(6)前記物理吸着剤はハニカム状活性炭、スポンジ状活性炭、網状活性炭、繊維状活性炭、板状活性炭、粒状活性炭の何れかであること。
【発明の効果】
【0014】
係る本発明の冷蔵庫によれば、光源や熱源を必要とすることなく、メチルメルカプタン等のイオウ系の臭気ガス及びその他の臭気ガスを、短時間で脱臭できると共に、長期にわたってその脱臭性能を保持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態の冷蔵庫について、図1から図6を用いて説明する。
【0016】
まず、図1〜図4を参照しながら、本実施形態の冷蔵庫の全体に関して説明する。図1は本実施形態の冷蔵庫の扉を外した状態の正面図、図2は図1のA−A断面拡大断面図、図3は図2の仕切り部材纏め品を正面から見た斜視図、図4は図3の仕切り部材纏め品を裏側から見た斜視図である。
【0017】
図1において、冷蔵庫は、冷蔵庫本体1と冷蔵庫扉とを備えて構成されている。冷蔵庫本体1は、内部に上から冷蔵室2、冷凍室3、野菜室4を有し、これらによって冷蔵庫内を形成している。冷蔵庫扉は、上記冷蔵室2、冷凍室3、野菜室4からなる各貯蔵室の前面開口部に、各貯蔵室を開閉できるように設置されている。なお、冷凍室3、野菜室4の前面開口部を閉塞する扉は、引き出し式の扉で構成されており、後述する容器を扉とともに引き出せるようになっている。
【0018】
冷凍室3は、製氷室3a、急速冷凍室3b、及び冷凍室3cに区画され、各室の全面開口部にそれぞれ引き出し式の扉が設置されている。製氷室3a内には自動製氷装置15及び貯氷容器16が備えられている。貯氷容器16は引き出し式の扉を引き出すことによって扉と供に引き出される構成となっている。また、急速冷凍室3bには急速冷凍室容器17が設置され、冷凍室3cには複数の冷凍室容器5〜7が設置され、各扉を引き出すことによって内部の容器5、6が引き出される構成となっている。
【0019】
特に、冷凍室3cには、上下3個の容器5〜7が収納され、具体的には、下段からそれぞれ下段冷凍室容器5、中段冷凍室容器6、上段冷凍室容器7が配設されている。下段冷凍容器5及び中段冷凍容器6は、冷凍室扉の引き出し枠に装着され、この冷凍室扉の開閉に連動して冷凍室3c内を出入する。上段冷凍室容器7は冷凍室3cの側壁を構成する内箱側面に設けられたレールを利用し冷凍室3cに対して引き出し可能な構成としている。なお、各容器5、6、7は互いに深さ寸法が異なる容器であり、大きさの異なる各種の食品の収納に適したものとなっている。
【0020】
図2〜図4において、冷凍室3の背部には、冷却器室8が形成されている。この冷却器室8内には、冷凍サイクルの一部を構成する冷却器9と、この冷却器9で作られた冷気を冷凍室3、冷蔵室2、野菜室4に強制循環するための冷気循環ファン10と、前述の冷却器9で作られた冷気を冷蔵室2、野菜室4へ分配するためのダンパー11とが設けられている。なお、冷凍サイクルは、圧縮機、凝縮器、減圧装置、冷却器9(蒸発器)、圧縮機の順にこれらの機器を冷媒配管で接続することにより構成されている。
【0021】
仕切り部材12は冷凍室3と冷却器室8間を仕切るものである。仕切り部材12の正面には、冷凍室3内に配置された各容器5〜7、16、17に冷却器9で冷却された冷気を送るための吐出口12a〜12dが設けられている。仕切り部材12の上面には、冷蔵室2へ冷気を送るための吐出口12eが設けられている。仕切り部材12の正面下部には、冷凍室3から冷気を吸い込む吸入口12fが設けられている。仕切り部材12の背面の左右方向の一側には、冷蔵室2から冷気を冷却器室8の下部へ導く戻り流路12gが上下に延びるように設けられている。この戻り流路12gは冷却器室8と左右に区画されて形成されている。戻り流路12gの一側は冷蔵室2に連通され、戻り流路12gの他側である下端部は冷却器室8の下端部に連通されている。
【0022】
また、この仕切り部材12の裏側には、冷却器9、冷気循環ファン10、ダンパー11、脱臭フィルター13等が部組みされており、これらによって仕切り部材纏め品20が構成されている。脱臭フィルター13は冷気の循環路である戻り流路12fの途中に設置されている。このように脱臭フィルター13を配置し、冷蔵室2や野菜室4を循環する空気を通過させることで、効率的に脱臭を行うことができる。
【0023】
脱臭フィルター13は、物理吸着剤にマンガン系触媒と電荷移動型触媒の両方を担持して形成されている。これによって、光源や熱源を必要とすることなく、メチルメルカプタン等のイオウ系の臭気ガス及びこのイオウ系の臭気ガス以外のアンモニア等の臭気ガスを短時間で脱臭できると共に長期的に脱臭性能を保持でき、臭いの少ない冷蔵庫内空間を保つことができる冷蔵庫を提供することができる。
【0024】
戻り流路12fの途中に設けられた脱臭フィルター13の通風抵抗が大きいと、冷気の循環量が減少し、圧縮機に負荷がかかり、冷蔵庫の温度が設定値よりも高くなってしまう。そこで、本実施形態では、物理吸着剤としてハニカム状活性炭を用いている。これによって、脱臭フィルター13の通風抵抗を低くして、圧縮機の負荷を軽減し冷蔵庫の温度を設定値とすることができると共に、脱臭フィルター13の表面積を多くして、マンガン系触媒及び電荷移動型触媒の脱臭性能を向上することができる。ここで、ハニカム状活性炭におけるセル数を1インチ当たり60としている。このセル数は1インチ当たり60前後(54〜66の範囲内)であることが好ましい。なお、必要に応じて、スポンジ状活性炭、網状活性炭、繊維状活性炭、板状活性炭、粒状活性炭の何れかを物理吸着剤として用いてもよい。
【0025】
また、本実施形態では、マンガン系触媒として二酸化マンガンを用いている。具体的には、ハニカム状活性炭に、5質量%の電荷移動型触媒と、50質量%の二酸化マンガンからなるマンガン系触媒とを担持させている。
【0026】
次に、図5及び図6を参照しながら、本実施形態の脱臭フィルター13の脱臭性能について説明する。図5は本実施形態の脱臭フィルター及び比較例の脱臭フィルターのアンモニア残存率の経時変化を示す図、図6は本実施形態の脱臭フィルター及び比較例の脱臭フィルターのアンモニア濃度の経時変化示す図である。ここで、比較例の脱臭フィルターは本実施形態と同一形状のハニカム状活性炭に二酸化マンガンのみを担持したものである。
【0027】
図5では、3リットルの容積のテドラーバック内に、悪臭であるアンモニアを充填した後、本実施形態の脱臭フィルター13及び比較例の脱臭フィルターを設置して、10分間経過する際のテドラーバック内のアンモニア残存率の変化を示したものである。比較例1のマンガン系触媒のみを担持した脱臭フィルターでは、その残存率特性14aから明らかなように10分経過後のアンモニア残存率が35%と極めて高い値であるのに対し、本実施形態のマンガン系触媒及び電荷移動型触媒を担持した脱臭フィルター13では、その残存率特性15aから明らかなように10分経過後のアンモニア残存率が21%と極めて低い値に改善でき、短時間でアンモニアを低減できることが分かった。
【0028】
また、図6では、ハニカム状活性炭を用いた脱臭フィルターの吸脱着作用による、アンモニアのバランスするまでの時間を測定したものである。活性炭は一定のガス量を吸着すると、周囲とのガス濃度差により吸脱着を繰り返すようになる。そこで、テドラーバック内に本実施形態の脱臭フィルター13及び比較例の脱臭フィルターを設置し、アンモニアガスを5000ppm入れ、24時間放置した後、それぞれを別のテドラーバックに入れ替えてハニカム状活性炭の吸脱着作用によりアンモニア濃度が安定するまでの時間を測定した。その結果、比較例のマンガン系触媒のみを担持した脱臭フィルターでは、そのアンモニア濃度特性14bから明らかなように90分後にハニカム状活性炭の吸脱着が安定し、そのアンモニア濃度が65ppmと高い値になったが、本実施形態のマンガン系触媒及び電荷移動型触媒を担持した脱臭フィルター13では、そのアンモニア濃度特性15bから明らかなように120分後にハニカム状活性炭の吸脱着が安定し、そのアンモニア濃度が55ppmと低い値になった。これにより、本実施形態の脱臭フィルター13では、ハニカム状活性炭の吸着能力が低下した後でも電荷移動型触媒によりアンモニアの脱臭することができ、長期間にわたって脱臭性能を保持することができる。
【0029】
本実施形態によれば、冷蔵庫内に保存した食品から発生した主な臭気成分である硫黄系のガスのメチルメルカプタンをマンガン系触媒で脱臭し、電荷移動触媒で硫黄系のガス以外のガスを脱臭することができ、貯蔵室に臭気成分が充満するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態の冷蔵庫の扉を外した状態の正面図である。
【図2】図1のA−A断面拡大断面図である。
【図3】図2の仕切り部材纏め品を正面から見た斜視図である。
【図4】図3の仕切り部材纏め品を裏側から見た斜視図である。
【図5】本実施形態の脱臭フィルター及び比較例の脱臭フィルターのアンモニア残存率の経時変化を示す図である。
【図6】本実施形態の脱臭フィルター及び比較例の脱臭フィルターのアンモニア濃度の経時変化示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1…冷蔵庫本体、2…冷蔵室、3…冷凍室、3a…製氷室、3b…急速冷凍室、3c…冷凍室、4…野菜室、5…下段冷凍室容器、6…中段冷凍室容器、7…上段冷凍室容器、8…冷却器室、9…冷却器、10…冷気循環ファン、11、ダンパー、12…仕切り部材、12a〜12d…冷凍室容器への吐出口、12e…冷蔵室への吐出口、12f…冷気の戻り流路、12g…冷気の吸入口、13…脱臭フィルター、15…自動製氷装置、16…貯氷容器、17…急速冷凍室容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷蔵庫内に脱臭フィルターを設置した冷蔵庫において、
物理吸着剤にマンガン系触媒と電荷移動型触媒の両方を担持して前記脱臭フィルターを形成した
ことを特徴とした冷蔵庫。
【請求項2】
請求項1において、冷蔵庫内に冷蔵室、野菜室、冷凍室からなる複数の貯蔵室を備え、前記複数の貯蔵室を冷却する冷気の循環路に前記脱臭フィルターを配置したことを特徴とする冷蔵庫。
【請求項3】
請求項2において、前記冷蔵室から冷却器室に冷気を戻す戻り流路に前記脱臭フィルターを配置したことを特徴とする冷蔵庫。
【請求項4】
請求項3において、前記物理吸着剤をハニカム状活性炭で形成したことを特徴とする冷蔵庫。
【請求項5】
請求項4において、前記ハニカム状活性炭におけるセル数を1インチ当たり60前後としたことを特徴とする冷蔵庫。
【請求項6】
請求項4において、前記ハニカム状活性炭に5質量%の電荷移動型触媒と50質量%の二酸化マンガンからなるマンガン系触媒とを担持させたことを特徴とする冷蔵庫。
【請求項7】
請求項1において、前記物理吸着剤はハニカム状活性炭、スポンジ状活性炭、網状活性炭、繊維状活性炭、板状活性炭、粒状活性炭の何れかであることを特徴とする冷蔵庫。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−287828(P2009−287828A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140634(P2008−140634)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】