説明

冷間圧接方法及び冷間圧接装置

【課題】 金属板材の接合強度をダイスの押圧力に基づいて正確に管理する。
【解決手段】 ダイス50と、ダイス50に押圧方向への駆動力を付与する油圧シリンダ60(駆動手段)との間に、ロードセル65(荷重計測手段)を介在させる。ダイス50を端子金具10に侵入させると、端子金具10のうちダイス50と対応する接合領域では、ダイス50からの押圧力に抗する反力が端子金具10及びバスバー20の接合領域11a,21a側からダイス50側に作用し、この反力がロードセル65で計測される。この接合領域11a,21aからの反力は、接合領域11a,21aにおける接合強度を示すものであるから、接合強度を正確に管理することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧接方法及び冷間圧接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の金属板材を重ね合わせて一体化させことで金属接合体を製造する方法として、図5及び図6に示すように、重ね合わせた複数の金属板材100,101を、その板面と交差する方向にダイス102で押圧することで、表面側に凹部103が形成されるように変形させつつ接合して金属接合体104を製造することが行われている。この冷間圧接方法によれば、ダイス102が金属板材100,101を押圧すると、金属板材100,101が凹まされるように変形しつつ、金属板材100,101の板面のうちダイス102で押圧される領域100a,101a同士が密着して接合される。尚、金属同士を冷間圧接によって接合する手段については、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平2−280979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
接合済みの金属板材100,101の接合強度は、接合領域100a,101aにおける密着強度によって決まる。この接合領域100a,101aの密着強度を変化させる要因としては、ダイス102の金属板材100,101内への侵入速度、侵入量、ダイス102が最も侵入した状態を維持する保圧時間、金属板材100,101に対するダイス102の押圧力があり、その中でも、特にダイス102の押圧力が大きく影響を与える。
【0004】
ダイス102の押圧力を管理する手段としては、ダイス102とは反対側に位置する下側の治具105を重量計に載せ、その重量計の計測値に基づいて金属板材100,101に対するダイス102の侵入量を調整、設定する方法が考えられる。しかしながら、この方法の場合、金属板材100,101が変形を生じない剛体であれば、重量計の計測値をそのままダイス102の押圧力と見做すことができるのであるが、ダイス102の押圧によって金属板材100,101を変形させる冷間圧接では、重量計の計測値が、ダイス102から接合領域100a,101aに実際に付与される押圧力よりも小さい値を示すことになる。したがって、治具105を重量計に載せて計測する方法では、接合領域100a,101aの接合強度を正確に管理することができない。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、金属板材の接合強度をダイスの押圧力に基づいて正確に管理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、重ね合わせた複数の金属板材を、その板面と交差する方向にダイスで押圧することで、表面側に凹部が形成されるように変形させつつ接合して金属接合体を製造する冷間圧接方法であって、前記ダイスと、前記ダイスに押圧方向への駆動力を付与する駆動手段との間に、荷重計測手段を介在させ、前記荷重計測手段の計測値に基づいて前記ダイスの前記金属板材への侵入量を管理する構成としたところに特徴を有する。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記金属板材がそのダイス押圧方向に視た投影形状を拡大させるように変形することを規制する規制部を備えた治具を用い、前記治具にセットした前記複数の金属板材を前記ダイスで押圧することにより、前記金属接合体を製造するところに特徴を有する。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のものにおいて、硬度が異なる2枚の前記金属板材のうち、硬度が高い方の金属板材を前記ダイスで押圧される表面側に配置するところに特徴を有する。
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のものにおいて、前記複数の金属板材が前記凹部の周囲において前記ダイスの押圧方向とは反対側に反り返るように変形することを規制する規制部を備えた治具にセットされた状態で前記ダイスにより押圧されることで接合するところに特徴を有する。
【0008】
請求項5の発明は、重ね合わせた複数の金属板材を、その板面と交差する方向にダイスで押圧することで、表面側に凹部が形成されるように変形させつつ接合して金属接合体を製造するための冷間圧接装置であって、前記ダイスと、前記ダイスに押圧方向への駆動力を付与する駆動手段との間に、荷重計測手段を介在させ、前記荷重計測手段の計測値に基づいて前記ダイスの前記金属板材への侵入量を管理する構成としたところに特徴を有する。
【0009】
請求項6の発明は、請求項5に記載のものにおいて、前記金属板材がそのダイス押圧方向に視た投影形状を拡大させるように変形することを規制する規制部を有する治具を備えているところに特徴を有する。
【0010】
請求項7の発明は、請求項5または請求項6に記載のものにおいて、前記ダイスにおける前記金属板材との対向面が、押圧方向と略直角な平坦な押圧面とされており、前記ダイスの外周面と前記押圧面とが弧状面を介して連なっているところに特徴を有する。
【0011】
請求項8の発明は、請求項5ないし請求項7のいずれかに記載のものにおいて、前記ダイスの表面が鏡面加工されているところに特徴を有する。
請求項9の発明は、請求項5ないし請求項8のいずれかに記載のものにおいて、前記複数の金属板材が前記凹部の周囲において前記ダイスの押圧方向とは反対側に反り返るように変形することを規制する規制部を有する治具を備えているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0012】
<請求項1及び請求項5の発明>
金属板材のうちダイスと対応する接合領域では、ダイスからの押圧力に抗する反力が接合領域側からダイス側に作用し、この反力が荷重計測手段で計測される。この接合領域からの反力は、接合領域における密着強度、即ち接合強度を示すものであるから、接合強度を正確に管理することができる。
【0013】
<請求項2及び請求項6の発明>
金属板材を治具にセットしてダイスで押圧したときに、金属板材は、ダイス押圧方向に視た投影形状を拡大させるように変形することが規制されるので、金属板材のうちダイスと対応する接合領域が拡がるように不安定な変形を生じることがない。したがって、接合領域の不安定な広がり変形に起因して接合強度にバラツキが生じる虞がなく、荷重計測手段の計測値に基づく接合強度の管理を正確に行うことができる。
【0014】
<請求項3の発明>
金属板材をダイスで押圧して凹ませるように変形させると、金属板材のうちダイスで押圧される領域は中心から外周側へ変位しつつ伸展変形する。ここで、ダイスが硬度の低い金属板材を直接押圧した場合には、ダイスの侵入に伴なう伸展量の多くの部分を変形し易い金属板材が受け持つこととなり、金属板材同士の接触界面において過大な滑りが生じ、その結果、接合強度にバラツキが生じることが懸念される。
これに対し、本発明では、硬度が高い方の金属板材をダイスで押圧するようにしたので、硬度の高い金属板材が凹まされるように変形すると、それに伴って、硬度の小さい金属板材も追従して凹まされるように変形する。したがって、硬度の高い金属板材の伸展量と硬度の低い金属板材の伸展量がほぼ同じ量となり、両金属板材の接触面において過大な滑りが発生しないため、金属板材間の不安定な滑りに起因して接合強度にバラツキが生じる虞がなく、荷重計測手段の計測値に基づく接合強度の管理を正確に行うことができる。
【0015】
<請求項4及び請求項9の発明>
金属板材を治具にセットしてダイスで押圧したときに、金属板材は、凹部の周囲においてダイスの押圧方向とは反対側に反り返るように変形することがないので、形状が安定する。
<請求項7の発明>
金属板材のうちダイスの押圧面で押圧される領域は、押圧面の中心から外周側へ流れるとともにダイスの外周面に沿って流れるように変形するのであるが、本発明では、ダイスの押圧面と外周面は弧状面を介して連なっているので、金属板材の流れるような変形が安定して行われ、ひいては、荷重計測手段の計測値に基づく接合強度の管理を正確に行うことができる。
【0016】
<請求項8の発明>
金属板材のうちダイスの押圧面で押圧される領域は、ダイスの表面に沿って流れるように変形するのであるが、本発明では、ダイスの表面が鏡面加工されているので、ダイスと金属板材との間の摩擦抵抗が低減され、金属板材の流れるような変形が安定して行われ、ひいては、荷重計測手段の計測値に基づく接合強度の管理を正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1乃至図4を参照して説明する。本実施形態の金属接合体Aは、冷間圧接により端子金具10(本発明の構成要件である金属板材)とバスバー20(本発明の構成要件である金属板材)とを冷間圧接装置によって接合して製造される。端子金具10は、所定形状に打ち抜いた銅合金製の板材を曲げ加工したものであり、前端側に箱部12を有し、後端側は略方形の平板状をなす接合部11となっている。一方のバスバー20は、所定形状に打ち抜いた銅製の板材を曲げ加工したものであり、端子金具10の接合部11と同じ幅の平板状をなす接合部21を有する。
【0018】
端子金具10の硬度はHV115であり、バスバー20の硬度はHV85である。つまり、端子金具10の方がバスバー20よりも硬度が高く、端子金具1010の方が変形し難い。かかる端子金具10とバスバー20は、その接合部11,21同士を上下に重ね合わせた状態で電気的導通可能に接合される。ここで、硬度の高い端子金具10の接合部11がバスバー20の接合部21の上面(表面)側に重ねられるが、これは、接合手段であるダイス50が上から下向きに接合部11,21を押圧することを考慮した配置である。
【0019】
次に、冷間圧接装置について説明する。
上部治具30は、合金工具鋼製(SKD11)であり、全体として厚い板状をなし、下面には端子金具10を収容するためのキャビティ31が形成されている。キャビティ31内には、端子金具10の接合部11が水平方向(ダイス50の押圧方向と略直交する方向)へのガタ付き(変位)なく位置決めして収容される。キャビティ31の内側面は、端子金具10がそのダイス押圧方向に視た投影形状、即ち接合部11の上面(表面)の形状を拡大させるように変形することを規制するための規制部32として機能する。また、キャビティ31の天井面は、端子金具10とバスバー20が凹部Bの周囲においてダイス50の押圧方向とは反対側に反り返るように変形することを規制する規制部34として機能する。
【0020】
また、上部治具30には、その上面からキャビティ31の天井面(内面)に至る上下方向(接合部11,21の板面と直角方向)の円形をなすガイド孔33が形成されている。ガイド孔33の内周面は、下方(端子金具10及びバスバー20に対してダイス50が押圧する方向と同方向)に向かって次第に縮径するテーパ状をなしている。さらに、上部治具30は、その周縁部(四隅)において軸線を上下方向に向けたボルト(図示せず)により下部治具40に固定されているのであるが、後述するように両治具30,40の内部の圧力が上昇したときには、ボルト締め箇所から遠いガイド孔33を略中心として上方へ湾曲するように弾性変形し得るようになっている。また、上部治具30のキャビティ31の天井面には、端子金具10の接合部11の上面との摩擦抵抗を低減するための手段として、鏡面加工がなされている。
【0021】
一方の下部治具40は、合金工具鋼製(SKD11)であり、全体として肉厚の板状をなす。下部治具40の上面には、バスバー20の接合部21を収容するためのキャビティ41が形成されている。キャビティ41に接合部21を収容した状態では、接合部21が水平方向へのガタ付き(変位)なく位置決めされる。このキャビティ41の内側面は、バスバー20がそのダイス押圧方向に視た投影形状、即ち接合部21の上面(表面)側から視た投影形状を拡大させるように変形することを規制するための規制部42として機能する。また、キャビティ41の底面は、端子金具10とバスバー20が凹部Bの周囲においてダイス50の押圧方向とは反対側に反り返るように変形することを規制する規制部43として機能する。さらに、下部治具40のキャビティ41の内面には、バスバー20の接合部21の下面との摩擦抵抗を低減するための手段として、鏡面加工がなされている。
【0022】
ダイス50は、合金工具鋼(SKD11)製であり、硬度はHV700〜750である。ダイス50は、軸線を上下方向に向けた円柱形をなし、その外周面51は、端子金具10に対する押圧方向に向かって縮径するテーパ状をなしている。かかるダイス50は上部治具30の上方からガイド孔33内に差し込まれ、端子金具10とバスバー20が正しく接合された状態(圧接が完了した状態)では、ダイス50のテーパ状をなす部分がガイド孔33に対して前後左右方向へのガタ付きなく嵌合されるようになっている。
【0023】
ダイス50の下面は、ダイス50と同心の円形をなす押圧面52となっている。この押圧面52は、ダイス50により接合部11,21を押圧する方向と直角な平坦面である。この押圧面52とダイス50のテーパ状の外周面51とは、弧状面53を介して連なっている。また、ダイス50の表面のうち少なくとも端子金具10と接触する領域(外周面51、押圧面52及び弧状面53)には、端子金具10の接合部11の上面との摩擦抵抗を低減するための手段として、鏡面加工がなされている。
【0024】
上記ダイス50は、油圧シリンダ60(本発明の構成要件である駆動手段)に取り付けられている。油圧シリンダ60は、シリンダ本体61と、シリンダ本体61の内部で上下動するピストン62と、ピストン62に固着されてシリンダ本体61の下方へ突出するロッド63とを有する。ロッド63の下端部には、上下方向の圧縮荷重を測定するロードセル65(本発明の構成要件である荷重計測手段)が取り付けられている。そして、このロードセル65の下面には、ダイス50がロッド63と同軸状に固定されている。油圧シリンダ60は、作動油の供給と排出によってロッド63を上下させることで、ダイス50とロードセル65とダイス50を昇降させる。このロードセル65により、ダイス50が端子金具10を押圧したときの端子金具10からの上向きの反力を検出する。
【0025】
次に、油圧シリンダ60に作動油を供給するための油圧回路について説明する。作動油が貯留されるタンク70には、高速と低速の2段に切り換え可能なサクションポンプ71が接続されている。高速側圧送路72と低速側圧送路73は、夫々、逆止弁74を有し、下流端で合流し、合流圧送路75は、方向切換弁76と流量制御弁77を介してシリンダ本体61におけるピストン62よりも上側の圧力室61aに接続されている。また、シリンダ本体61におけるピストン62よりも下側の圧力室61bに接続された圧送路78は、方向切換弁76を介してリリーフタンク79に接続されている。尚、高速側圧送路72と低速側圧送路73には、流量制御弁80,81を介してリリーフタンク82が接続され、低速側圧送路73には、別の流量制御弁83が接続されている。
【0026】
次に、本実施形態の作用を説明する。
端子金具10とバスバー20を接合して金属接合体Aを製造する際には、スクレーパ(キサゲ)、ワイヤブラシ、バフ等を用いることにより、接合部11,21における接合領域11a,21a(ダイス50との対応領域)を研磨する。この研磨処理を行うことで、接合部11,21の表面の酸化被膜が除去され、接合強度が高まるとともに、密着度が高まって電気的抵抗が低減される。
表面研磨処理の後、下部治具40のキャビティ41にバスバー20の接合部21をセットするとともに、その接合部21の上面に端子金具10の接合部11を重ね、その上から上部治具30を被せて、上下両治具30,40を合体させ、上部治具30の下面と下部治具40の上面とを面接触状態で当接させる。この状態では、双方の接合部11,21が上下に面接触状態で重なり合うとともに、上下両治具の間で挟み付けられることで上下のガタ付きなく保持されるとともに、上下方向へ反るような変形が規制される。
【0027】
この状態からダイス50をガイド孔33内に進入(下降)させると、進入の初期にダイス50の下端の押圧面52が端子金具10の接合部11の上面(表面)を上から押圧し、この押圧作用によって端子金具10の接合部11の上面が凹まされるように変形させられるとともに、この接合部11の変形部分に押圧されたバスバー20の接合部21も、追従して変形する。このとき、硬度の低いバスバー20の接合部21の変形量は、端子金具10の接合部11の変形量よりも大きい。
【0028】
そして、ダイス50が接合完了位置まで下降すると、端子金具10の接合部11の上面には、円形の凹部Bが形成される。このように、双方の接合部11,21がダイス50によって変形させられると、端子金具10の接合部11の下面とバスバー20の接合部21の上面とが、そのダイス50の押圧面52と対応する略円形の接合領域11a,21aにおいて互いに強固に接合(圧接)し、もって、端子金具10とバスバー20が一体化されて金属接合体Aが製造される。
【0029】
尚、上記のようにダイス50が端子金具10の接合部11に潜り込む過程では、ダイス50の潜り込み量(キャビティ31,41への侵入量)を含む接合部11,21の体積が増加するため、接合部11の内部圧力上昇によって上部治具30が上方へ膨らむように弾性変形する。これと同時に、ダイス50で押圧された接合部11,21が、押圧面52の中心から外周側へ向かって放射状に流れるように変位しつつ伸展変形するが、このとき上部治具30と下部治具40の規制部32,42によって接合部11,21は前後左右方向への拡がりを規制されているので、押圧面52の中心から放射状に流れた変形部分は、ダイス50の外周に沿って上方へ変位することになる。この上方への変位により、接合部11,21のうちダイス50の押圧面52と対応する接合領域11a,21aを除いた部分が、上部治具30に追従するように上方へ変位する。そして、この上方へ変位した部分と下部治具40のキャビティ41の下面との間にはごく僅かな隙間(図示せず)が生じる。以上により、バスバー20の接合部21の下面には、ダイス50の押圧面52と対応する略円形領域を下方(ダイス50の押圧方向と同方向)へ膨らむような変形部21bが生じることになる。
【0030】
さて、接合済みの端子金具10とバスバー20の接合強度は、端子金具10とバスバー20の接合領域11a,21aにおける密着強度によって決まる。この接合領域11a,21aの密着強度を変化させる要因としては、ダイス50の端子金具10及びバスバー20内への侵入速度、ダイス50の侵入量、ダイス50が最も侵入した状態を維持する保圧時間、端子金具10とバスバー20に付与するダイス50の押圧力があり、その中でも、特にダイス50の押圧力が圧接強度に大きく影響を与える。
【0031】
そこで、本実施形態では、ダイス50の押圧力を管理する手段として、ダイス50と、ダイス50に押圧方向への駆動力を付与する油圧シリンダ60のロッド63との間に、荷重計測手段としてロードセル65を介在させ、このロードセル65の計測値に基づいてダイス50の端子金具10及びバスバー20への侵入量を管理するようにしている。これにより、端子金具10とバスバー20のうちダイス50の押圧面52と対応する接合領域11a,21aでは、ダイス50からの押圧力に抗する反力が接合領域11a,21a側からダイス50側に作用し、この反力がロードセル65によって計測される。図2のグラフに示すように、ダイス50の侵入量が増大するのに伴ない、端子金具10側からの圧入反力(圧接力)も増大し、この圧入反力の値がロードセル65によって計測される。本実施形態では、例えば圧入反力が21.6kNに達したところで、ダイス50のそれ以上の侵入動作を停止する。このときのダイス50の侵入量は例えば3.2mmとなる。その後、例えば6秒程度の保圧時間を設け、この保圧時間のあいだ、ダイス50の侵入量(例えば、3.2mm)と圧入反力(21.6kN)を維持する。
【0032】
ダイス50から端子金具10及びバスバー20に付与された押圧力に対する接合領域11a,21aからの圧入反力は、接合領域11a,21aにおける密着強度、即ち接合強度を示すものであるが、本実施形態では、この接合領域11a,21aからの圧入反力をロードセル65によって正確に計測し、その計測値に基づいてダイス50の侵入深さを調整するようにしているので、端子金具10とバスバー20の接合強度を正確に管理することができる。
【0033】
また、端子金具10とバスバー20がダイス押圧方向に視た投影形状(接合部11,21の上面の形状)を拡大させるように変形することを規制する規制部32,42と、端子金具10とバスバー20が凹部Bの周囲においてダイス50の押圧方向とは反対側に反り返るように変形することを規制する規制部34,43とを備えた治具30,40を用い、治具30,40にセットした端子金具10とバスバー20をダイス50で押圧することにより、端子金具10とバスバー20の内部圧力を上昇させることによって、両者10,20を接合するようになっている。このような規制部32,34,42,43を設けたことにより、ダイス50で押圧したときに、端子金具10とバスバー20の接合部11,21は、ダイス押圧方向に視た投影形状を拡大させるように変形すること、及び凹部Bの周囲においてダイス50の押圧方向とは反対側に反り返るように変形することが規制されているので、圧接済みの金属接合体Aの形状や大きさに不安定な変形が生じることがない。したがって、接合領域11a,21aの不安定な広がり変形に起因して接合強度にバラツキが生じる虞がなく、ロードセル65の計測値に基づく接合強度の管理を正確に行うことができる。
【0034】
また、端子金具10やバスバー20をダイス50で押圧して凹ませるように変形させると、端子金具10やバスバー20のうちダイス50で押圧される領域は中心から外周側へ変位しつつ伸展変形する。ここで、ダイス50が硬度の低いバスバー20を直接押圧した場合には、ダイス50の侵入に伴なう伸展量の多くの部分を変形し易いバスバー20が受け持つこととなり、端子金具10とバスバー20の接触界面において過大な滑りが生じ、その結果、接合強度にバラツキが生じることが懸念される。
これに対し、本実施形態では、硬度が高い端子金具10をダイス50で押圧するようにしたので、硬度の高い端子金具10が凹まされるように変形すると、それに伴って、硬度の小さいバスバー20も追従して凹まされるように変形する。したがって、端子金具10の伸展量とバスバー20の伸展量がほぼ同じ量となり、端子金具10とバスバー20との接触面において過大な滑りが発生しないため、端子金具10とバスバー20の接合強度が低下することはなく、ひいては、ロードセル65の計測値に基づく接合強度の管理を正確に行うことができる。
【0035】
また、ダイス50は端子金具10の接合部11の上面(表面)に対して潜り込むのであるが、ダイス50の外周面51は、接合部11に対する押圧方向に向かって縮径するテーパ状をなしているので、ダイス50の接合部11への潜り込みが円滑に行われる。
【0036】
また、端子金具10の接合部11のうちダイス50の押圧面52で押圧される領域は、押圧面52の中心から外周側へ流れるとともにダイス50の外周面51に沿って流れるように変形するのであるが、本実施形態では、ダイス50の押圧面52と外周面51は弧状面53を介して連なっているので、接合部11の流れるような変形が安定して行われ、ひいては、ロードセル65の計測値に基づく接合強度の管理を正確に行うことができる。
【0037】
また、端子金具10の接合部11のうちダイス50の押圧面52で押圧される領域は、ダイス50の表面(押圧面52及びテーパ状の外周面51)に沿って流れるように変形するのであるが、本実施形態では、ダイス50の表面が鏡面加工されているので、ダイス50と接合部11との間の摩擦抵抗が低減され、接合部11の流れるような変形が安定して行われ、ひいては、ロードセル65の計測値に基づく接合強度の管理を正確に行うことができる。
【0038】
また、バスバー20の接合部21のうちダイス50の押圧面52で押圧される領域は、下部治具40のキャビティ41の内面に沿って流れるように変形するのであるが、本実施形態では、下部治具40における接合部21との接触面が鏡面加工されているので、下部治具40と接合部21との間の摩擦抵抗が低減され、接合部21の流れるような変形が安定して行われ、ひいては、ロードセル65の計測値に基づく接合強度の管理を正確に行うことができる。
【0039】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施態様も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
(1)上記実施形態では2枚の金属板材を重ねた場合について説明したが、本発明によれば、3枚以上の金属板材を重ね合わせることもできる。
(2)上記実施形態では硬度が異なる2枚の金属板材のうち、硬度が高い方の金属板材をダイスで押圧される表面側に配置したが、本発明によれば、硬度が低い方の金属板材をダイスで押圧される表面側に配置してもよい。
(3)上記実施形態ではダイスの断面形状を円形としたが、本発明によれば、ダイスの断面形状を非円形(例えば、楕円形、長円形、方形、多角形等)としてもよい。
(4)上記実施形態では金属板材の硬度が異なる場合について説明したが、本発明によれば、硬度が同一の金属板材を重ねて金属接合体を構成してもよい。この場合、金属板材同士は同一の材質でも、互いに異なる材質でもよい。
(5)上記実施形態では端子金具とバスバーとを接合する場合を説明したが、本発明は、金属板材が端子金具やバスバー以外の場合にも適用できる。
(6)上記実施形態の具体的な寸法、角度及び硬度については、いずれも一例を示したものであり、本発明によれば、寸法、角度及び硬度を任意に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態1の全体構成図
【図2】圧接力とダイス侵入量との関係を経時的にあらわしたグラフ
【図3】端子金具とバスバーの圧接前の状態の断面図
【図4】端子金具とバスバーの圧接済みの状態の断面図
【図5】従来例における金属板材の圧接前の状態の断面図
【図6】従来例における金属板材の圧接済みの状態の断面図
【符号の説明】
【0041】
A…金属接合体
B…凹部
10…端子金具(金属板材)
20…バスバー(金属板材)
30…上部治具
32…規制部
40…下部治具
42…規制部
50…ダイス
52…押圧面
53…弧状面
60…油圧シリンダ(駆動手段)
65…ロードセル(荷重計測手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせた複数の金属板材を、その板面と交差する方向にダイスで押圧することで、表面側に凹部が形成されるように変形させつつ接合して金属接合体を製造する冷間圧接方法であって、
前記ダイスと、前記ダイスに押圧方向への駆動力を付与する駆動手段との間に、荷重計測手段を介在させ、
前記荷重計測手段の計測値に基づいて前記ダイスの前記金属板材への侵入量を管理することを特徴とする冷間圧接方法。
【請求項2】
前記金属板材がそのダイス押圧方向に視た投影形状を拡大させるように変形することを規制する規制部を備えた治具を用い、
前記治具にセットした前記複数の金属板材を前記ダイスで押圧することにより、前記金属接合体を製造することを特徴とする請求項1記載の冷間圧接方法。
【請求項3】
硬度が異なる2枚の前記金属板材のうち、硬度が高い方の金属板材を前記ダイスで押圧される表面側に配置することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の冷間圧接方法。
【請求項4】
前記複数の金属板材が前記凹部の周囲において前記ダイスの押圧方向とは反対側に反り返るように変形することを規制する規制部を備えた治具にセットされた状態で前記ダイスにより押圧されることで接合することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の冷間圧接方法。
【請求項5】
重ね合わせた複数の金属板材を、その板面と交差する方向にダイスで押圧することで、表面側に凹部が形成されるように変形させつつ接合して金属接合体を製造するための冷間圧接装置であって、
前記ダイスと、前記ダイスに押圧方向への駆動力を付与する駆動手段との間に、荷重計測手段を介在させ、
前記荷重計測手段の計測値に基づいて前記ダイスの前記金属板材への侵入量を管理する構成としたことを特徴とする冷間圧接装置。
【請求項6】
前記金属板材がそのダイス押圧方向に視た投影形状を拡大させるように変形することを規制する規制部を有する治具を備えていることを特徴とする請求項5記載の冷間圧接装置。
【請求項7】
前記ダイスにおける前記金属板材との対向面が、押圧方向と略直角な平坦な押圧面とされており、
前記ダイスの外周面と前記押圧面とが弧状面を介して連なっていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の冷間圧接装置。
【請求項8】
前記ダイスの表面が鏡面加工されていることを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の冷間圧接装置。
【請求項9】
前記複数の金属板材が前記凹部の周囲において前記ダイスの押圧方向とは反対側に反り返るように変形することを規制する規制部を有する治具を備えていることを特徴とする請求項5ないし請求項8のいずれかに記載の冷間圧接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−26715(P2006−26715A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211945(P2004−211945)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】