冷間抽伸装置及び金属管の製造方法
【課題】空引金属管の曲がりを抑制する冷間抽伸装置を提供する。
【解決手段】冷間抽伸装置は、外径D0、肉厚t0の素管から金属管を製造し、ダイス両角θ、ダイス径D1の前段ダイスと、ダイス径D2を有し、式(1)を満たす後段ダイスとを備える。0≦(d1−D2)/d1×100≦1.0(1)d1=D1+Δ/100×D1(2)Δ=aX12+bX1(3)X1=(D0−D1)/D0×100(4)a=Aθ2+Bθ+C(5)b=Dθ2+Eθ+F(6)、t0/D0<0.15である場合、A=−5.37×10−6、B=0.00048、C=−0.00156D=0.00012、E=−0.01438、F=0.04618、0.15≦t0/D0≦0.20である場合、A=−4.94×10−6、B=0.0004、C=−0.00142D=0.0001、E=−0.01167、F=0.0371
【解決手段】冷間抽伸装置は、外径D0、肉厚t0の素管から金属管を製造し、ダイス両角θ、ダイス径D1の前段ダイスと、ダイス径D2を有し、式(1)を満たす後段ダイスとを備える。0≦(d1−D2)/d1×100≦1.0(1)d1=D1+Δ/100×D1(2)Δ=aX12+bX1(3)X1=(D0−D1)/D0×100(4)a=Aθ2+Bθ+C(5)b=Dθ2+Eθ+F(6)、t0/D0<0.15である場合、A=−5.37×10−6、B=0.00048、C=−0.00156D=0.00012、E=−0.01438、F=0.04618、0.15≦t0/D0≦0.20である場合、A=−4.94×10−6、B=0.0004、C=−0.00142D=0.0001、E=−0.01167、F=0.0371
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間抽伸装置及び金属管の製造方法に関し、さらに詳しくは、空引きにより金属管を製造するための冷間抽伸装置及び金属管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間抽伸法では、素管をダイスに通して縮径し、所定の外径及び肉厚の金属管を製造する。冷間抽伸法には、プラグ引き、マンドレル引き、空引きがある。
【0003】
プラグ引きは、管内にプラグ又はフローティングプラグが挿入された素管をダイスに通す。マンドレル引きは、管内にマンドレルが挿入された素管をダイスに通す。
【0004】
一方、空引きは、管内にプラグ及びマンドレルを挿入せずに素管をダイスに通す。空引きでは、管内にプラグ及びマンドレルを挿入し、かつ、プラグ及びマンドレルが挿入された素管をダイスに挿入する作業が不要である。そのため、空引きは、他の冷間抽伸方法と比較して、作業効率が高い。さらに、空引きは、プラグ及びマンドレルを使用しないため、長尺の金属管を製造することができる。空引きはたとえば、細径管の製造に利用される。
【0005】
空引きに関する技術は、特開昭54−83666号公報(特許文献1)、特開2005−118799号公報(特許文献2)に開示されている。
【0006】
特許文献1に開示された空引きでは、ダイスのダイス両角を通常よりも大きい40°〜80°にし、かつ、空引き中の金属管にバックテンションを付与する。これにより、空引き後の金属管の肉厚が厚くなる(つまり、金属管が増肉する)のを抑制できる、と特許文献1には記載されている。
【0007】
特許文献2に開示された空引きでは、少なくとも3つのダイスを使用し、かつ、各ダイスの内径(ダイス径)を規制する。これにより、ダイスを通る金属管には、前段のダイスからバックテンションが付与される。さらに、各ダイスの縮径率が適正化される。そのため、空引き後の金属管の増肉が抑制される、と特許文献2には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭54−83666号公報
【特許文献2】特開2005−118799号公報
【特許文献3】国際公開2009/054385号
【特許文献4】特開2001−353516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、空引きでは、製造された金属管に曲がりが発生する場合がある。金属管に曲がりが発生すれば、矯正機により金属管の曲がりを矯正しなければならず、作業工程が増加する。したがって、空引きにより製造された金属管の曲がりを抑制できる方が好ましい。上述の特許文献には、製造後の金属管の曲がりに関する記載がない。
【0010】
本発明の目的は、空引きにより製造された金属管の曲がりを抑制する冷間抽伸装置及び金属管の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施の形態による冷間抽伸装置は、外径D0(mm)及び肉厚t0(mm)を有する素管を用いて、空引きにより金属管を製造する。冷間抽伸装置は、前段ダイスと後段ダイスとを備える。前段ダイスは、ダイス両角θ(deg)及びダイス径D1(mm)を有する。後段ダイスは、前段ダイスの後ろに配置される。後段ダイスは、ダイス径D2(mm)を有し、式(1)を満たす。
0≦(d1−D2)/d1×100≦1.0 (1)
ここで、d1は式(2)で定義される。
d1=D1+Δ/100×D1 (2)
ここで、Δは式(3)で定義される。
Δ=aX12+bX1 (3)
式(3)中のX1は式(4)で定義される。
X1=(D0−D1)/D0×100 (4)
式(3)中のa及びbは、式(5)及び式(6)で定義される。
a=Aθ2+Bθ+C (5)
b=Dθ2+Eθ+F (6)
ここで、式(5)及び式(6)中のA、B、C、D、E及びFは、次のとおり定義される。
t0/D0<0.15である場合:
A=−5.37×10−6、B=0.00048、C=−0.00156
D=0.00012、E=−0.01438、F=0.04618
0.15≦t0/D0≦0.20である場合:
A=−4.94×10−6、B=0.0004、C=−0.00142
D=0.0001、E=−0.01167、F=0.0371
【0012】
本実施の形態による金属管の製造方法は、上記冷間抽伸装置を準備する工程と、上記素管を準備する工程と、素管を前段ダイス及び後段ダイスに挿入に、空引きする工程とを備える。
【発明の効果】
【0013】
本実施の形態による冷間抽伸装置及び金属管の製造方法は、空引きにより製造された金属管の曲がりを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本実施の形態による冷間抽伸装置の構成図である。
【図2】図2は、図1中の前段ダイス及び後段ダイスの断面図である。
【図3】図3は、1つのダイスを用いた空引き工程を説明するための模式図である。
【図4】図4は、空引き前の素管の外径に対する肉厚の比が0.15未満である場合の、前段ダイスでの外径加工度X1と縮径変形率ΔX1との関係を示す図である。
【図5】図5は、空引き前の素管の外径に対する肉厚の比が0.15〜0.20である場合の、前段ダイスでの外径加工度X1と縮径変形率ΔX1との関係を示す図である。
【図6】図6は、本実施の形態による金属管の製造工程を説明するための模式図である。
【図7】図7は、実施例における金属管の曲がりの測定方法を説明するための模式図である。
【図8】図8は、実施例中の各試験番号の金属管の外径の測定結果を示す図である。
【図9】図9は、実施例中の各試験番号の金属管の曲がり量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0016】
[冷間引抜装置]
図1は、本実施の形態による冷間抽伸装置1の構成図である。図1を参照して、冷間抽伸装置1は、前段ダイス10と、後段ダイス11とグリッパ30とを備える。前段ダイス10は、冷間抽伸装置1の入側に配置される。後段ダイス11は、冷間抽伸装置1の出側であって、前段ダイス10の後ろに配置される。図1では、後段ダイス11の前端は、前段ダイス10の後端と接触している。しかしながら、後段ダイス11と前段ダイス10との間に隙間が形成されてもよい。
【0017】
前段ダイス10及び後段ダイス11には、先端が口絞り加工された素管40が挿入される。本明細書において、素管40の外径をD0、肉厚をt0とする。グリッパ30は、素管40の口絞り部41を掴む。グリッパ30は、図示しない搬送装置に取り付けられる。冷間抽伸中、搬送装置は、グリッパ30を、素管40の軸方向に沿って、冷間抽伸装置1の入側から出側に向かって搬送する。これにより、素管40は空引きされる。
【0018】
搬送装置はたとえば、キャリッジと、搬送チェーンとを備える。グリッパ30はキャリッジに固定される。キャリッジはフックを備える。回転移動する搬送チェーンにキャリッジのフックを掛けることにより、グリッパ30は移動する。
【0019】
図2は、図1中の前段ダイス10及び後段ダイス11の断面図である。図2を参照して、前段ダイス10の内面は、前段ダイス10の入側から出側に向かって順に、アプローチ部A1、ベアリング部A2、リリーフ部A3を連続して備える。図2には図示していないが、アプローチ部A1よりも入側にベル部が設けられてもよい。
【0020】
アプローチ部A1では、入側から出側に向かって内径が徐々に小さくなる、いわゆるテーパ形状を有する。アプローチ部A1は、素管を縮径する役割を有する。図2では、アプローチ部A1の縦断面は直線である。
【0021】
ベアリング部A2の内径は、ダイス径D1に相当する。ベアリング部A2の内径D1は円筒状であり、一定である。リリーフ部A3では、前段ダイス10の入側から出側に向かって内径が徐々に大きくなる。リリーフ部A3は、前段ダイス10の出側において、素管40に疵が発生するのを抑制する。リリーフ部A3はなくてもよい。
図2に示すとおり、前段ダイス10は、ダイス径D1及びダイス両角θを有する。ダイス両角θは、アプローチ部A1のテーパ角に相当する。
【0022】
後段ダイス11は、上述のとおり前段ダイス10の後ろに配設される。後段ダイス11は前段ダイス10と同軸に配置される。換言すれば、後段ダイス11は、前段ダイス10と同じ軸心CAを有する。
【0023】
[後段ダイス11の形状]
後段ダイス11も、前段ダイス10と同様に、後段ダイス11の入側から順に、アプローチ部A11、ベアリング部A12、リリーフ部A13を連続して備える。後段ダイス11は、ダイス径D2及びダイス両角θrを有する。後段ダイス11のダイス径D2は、前段ダイス10のダイス径D1よりも小さい。アプローチ部A11は曲率を有してもよい。
【0024】
後段ダイス11は、空引きされて製造される金属管の曲がりを抑制する役割を有する。以下、この点について詳述する。
【0025】
図3に示すように、1つのダイス(前段ダイス)10を用いて空引きする場合、空引き後の金属管の外径は、ダイス10のダイス径D1よりも小さくなる。以下、このような変形を「過縮径変形」という。過縮径変形は、次に示すメカニズムで発生する。
【0026】
図3を参照して、ダイス10を用いて素管40を空引きする場合、素管40のうちアプローチ部A1を通過中の部分(以下、素管部分という)401は、アプローチ部A1により径方向に曲げ加工を受け縮径変形する。受けた曲げ加工が大きい場合、素管部分401は、アプローチ部A1を出てベアリング部A2に入った後にも、継続して縮径変形する。そのため、過縮径変形が発生する。
【0027】
過縮径変形が発生した場合、ベアリング部A2を通過中の素管部分の外径は、ダイス径D1よりも小さくなり、素管部分の外面とベアリング部A2との間に隙間G0が形成される。そのため、素管40はダイス10(ベアリング部A2)に拘束されない。この場合、素管40に不均一な力が付与されれば、金属管は容易に曲がる。
【0028】
後段ダイス11は、このような過縮径変形による金属管の曲がりを抑制する。前段ダイス10は所望の外径加工度で素管を縮径する。そのため、前段ダイス10では過縮径変形が発生してしまう。そこで、本実施の形態では、後段ダイス11の外径加工度を過縮径変形が発生しない程度に設定する。具体的には、後段ダイス11のダイス径D2は、次の式(1)を満たす。
0≦(d1−D2)/d1×100≦1.0 (1)
【0029】
式(1)中のd1は、式(2)で定義される。
d1=D1+Δ/100×D1 (2)
【0030】
式(2)中のΔは、式(3)で定義される。
Δ=aX12+bX1 (3)
【0031】
式(3)中のX1は、前段ダイスの外径加工度(%)であり、式(4)で定義される。
X1=(D0−D1)/D0×100 (4)
ここで、D0(mm)は、上述のとおり、空引き前の素管40の外径である。
【0032】
式(3)中のa及びbは、式(5)及び式(6)で定義される。
a=Aθ2+Bθ+C (5)
b=Dθ2+Eθ+F (6)
ここで、θは、上述のとおり、前段ダイス10のダイス両角(deg)である。
【0033】
式(5)及び式(6)中のA、B、C、D、E及びFは、次のとおり定義される。
t0/D0<0.15である場合:
A=−5.37×10−6、B=0.00048、C=−0.00156
D=0.00012、E=−0.01438、F=0.04618
0.15≦t0/D0≦0.20である場合:
A=−4.94×10−6、B=0.0004、C=−0.00142
D=0.0001、E=−0.01167、F=0.0371
ここで、t0(mm)は、上述のとおり、空引き前の素管40の肉厚である。
【0034】
d1(mm)は、前段ダイス10の出側での素管の予想外径を意味する。Δは縮径変形率(%)を意味する。縮径変形率Δは、次の方法により定義した。
【0035】
図4は空引き前の素管40の外径D0に対する肉厚t0の比(つまり、t0/D0)が0.15未満である場合(以下、ケース1という)の、前段ダイス10での外径加工度X1と縮径変形率ΔX1との関係を示す図である。図5は、0.15≦t0/D0≦0.20である場合(以下、ケース2という)の前段ダイス10での外径加工度X1と縮径変形率ΔX1との関係を示す図である。
【0036】
図4及び図5は次の方法により得られた。種々の外径加工度X1のダイスを設定し、空引き後の金属管の縮径変形率を、有限要素法にて調査した。具体的には、二次元軸対称弾塑性解析に基づいたシミュレーションにより、外径D0及び肉厚t0の素管に対して空引きを実施し、空引き後の素管の外径d1を求めた。得られた外径d1を利用して、以下の式により、各外径加工度X1における縮径変形率ΔX1(%)を求めた。
ΔX1=(d1−D1)/D1×100
【0037】
得られた縮径変形率ΔX1と外径加工度X1とに基づいて、図4及び図5を得た。
【0038】
図4及び図5中のC1はダイス両角θが8degの場合の縮径変形率ΔX1と外径加工度X1との関係を示す曲線である。C2はダイス両角θが20degの場合の曲線であり、C3はダイス両角θが25degの場合の曲線である。
【0039】
図4及び図5を参照して、ケース1及び2のいずれにおいても、外径加工度X1が15〜20%にピークを有する二次関数曲線が得られた。さらに、ダイス両角θが大きい程、縮径変形率ΔX1の変化の度合いが大きくなった。
【0040】
図4及び図5の各曲線の近似式を算出し、算出された近似式に基づいて、縮径変形率Δの一般式を、式(3)のとおり定義した。ここで、式(3)中のX1は、前段ダイスの外径加工度(%)であり、式(4)で定義される。さらに、式(3)中のa及びbは、式(5)及び式(6)で定義される。
【0041】
図4及び図5に示すとおり、素管が薄肉の場合(t0/D0<0.15:ケース1)と、厚肉の場合(0.15≦t0/D0≦0.20:ケース2)とで、曲線C1〜C3の形状が若干変わる。そのため、ケース1とケース2とで、式(3)に利用される係数a及び係数b内の係数A〜Fを、上述のとおり、異なる値とする。
【0042】
以上のとおり定義された縮径変形率Δを利用すれば、前段ダイス10の出側での素管40の予想外径d1が決定される。予想外径d1を利用すれば、後段ダイス11の外径加工度X2(%)は、次の式(A)で定義される。
X2=(d1−D2)/d1×100 (A)
【0043】
外径加工度X2が1.0%以下である場合、後段ダイス11において過縮径変形が発生しにくい。そのため、前段ダイス10を通過した素管40において過縮径変形が発生しても、素管40の外面は、後段ダイス11の内面と接触する。つまり、前段ダイス10により過縮径変形された素管40は、後段ダイス11に拘束される。そのため、空引き後の金属管(つまり、後段ダイス11を通過した金属管)には曲がりが発生しにくい。
【0044】
外径加工度X2が1.0%を超えると、後段ダイス11においても過縮径変形が発生しやすくなる。この場合、後段ダイス11により縮径された素管40の外径が後段ダイス11のダイス径D2よりも小さくなりやすい。そのため、空引き後の金属管に曲がりが発生しやすい。好ましい外径加工度X2の上限は1.0%未満である。
【0045】
外径加工度X2の下限は0%以上である。外径加工度X2が0%である場合、理論的には、前段ダイス10を通過した素管40の外径d1は、後段ダイス11のダイス径D2と同じになる。そのため、素管40は後段ダイス11に拘束される。好ましい外径加工度X2の下限は0%よりも大きく、さらに好ましくは0.1%以上であり、さらに好ましくは0.2%以上である。外径加工度X2の下限値が大きくなる程、素管40は後段ダイス11に拘束されやすくなる。
【0046】
[金属管の製造方法]
上述の構成を有する冷間抽伸装置1を用いた金属管の製造方法は次のとおりである。初めに、冷間抽伸装置1を準備し、さらに、素管40を準備する。素管40は、たとえば、熱間加工により製造される。より具体的には、素管40は、穿孔圧延により製造されてもよいし、熱間押出や熱間鍛造により製造されてもよい。素管40の化学組成は金属であれば特に限定されない。素管40の外径D0(mm)及び肉厚t0(mm)は、たとえば、次の方法により求められる。素管40の軸方向に沿って所定の間隔おきに、外径を測定し、その平均を外径D0と定義する。さらに、素管40の両端で中心軸まわりに45°おきに肉厚を測定し、その平均を肉厚t0と定義する。
【0047】
準備された素管40に対して、冷間抽伸装置1を用いた空引きを実施する。初めに、素管40の先端部を口絞りして、口絞り部41を作製する。続いて、図1に示すように、素管40の口絞り部41を、冷間抽伸装置1内の前段ダイス10及び後段ダイス11内に挿入し、口絞り部41を後段ダイス11の後端から抜き出す。そして、抜き出された口絞り部41をグリッパ30で掴む。
【0048】
口絞り部41をグリッパ30で掴んだ後、素管40に対して空引きを実施する。つまり、本実施の形態による冷間抽伸では、プラグ及びマンドレルを素管40の管内に挿入することなく、素管40に対して冷間抽伸を実施する。
【0049】
具体的には、グリッパ30に固定された素管40を引き抜き方向(図1中の右方向)に引く。図6に示すとおり、前段ダイス10では、過縮径変形が発生し得る。この場合、前段ダイス10のダイス径D1よりも空引きされた素管40の外径d1が小さくなり、前段ダイス10のベアリング部A2と素管40との間に隙間が発生する。しかしながら、後段ダイス11は、式(1)を満たす。そのため、後段ダイス11を通過中の素管40では、過縮径変形が発生しにくく、素管40は後段ダイス11のベアリング部A12に拘束される。その結果、後段ダイス11を通過して製造される金属管に曲がりが発生しにくい。
【実施例1】
【0050】
種々の外径加工度の前段ダイス及び後段ダイスを準備して、空引きにより製造された金属管の外径d2(図6参照)を有限要素法にて調査した。具体的には、二次元軸対称弾塑性解析に基づいてシミュレーションを行い、空引き後の金属管の外径d2(mm)を求めた。
【表1】
【0051】
表1を参照して、試験番号1〜14の条件でシミュレーションを実施した。各試験番号1〜14の素管の外径D0(mm)、肉厚t0(mm)、前段ダイスのダイス径D1(mm)、ダイス両角θ(deg)、外径加工度X1(%)、後段ダイスのダイス径D2、ダイス両角θr(deg)は表1に示すとおりとした。
【0052】
試験番号1〜3、7、8、10〜12では、後段ダイスの外径加工度X2が1.0以下であった。一方、試験番号4〜6、9、13及び14では、外径加工度X2が1.0を超えた。
【0053】
表1中の各試験番号の条件で冷間抽伸(空引き)をシミュレートし、冷間抽伸後の金属管の外径d2(mm)を計算した。
【0054】
シミュレート結果を表1に示す。表1中の係数Aの「E−06」は、10−6を意味する。たとえば、試験番号1の係数Aの「−5.37E−06」は、「−5.37×10−6」を意味する。
【0055】
表1を参照して、試験番号1〜3、7、8、10〜12の後段ダイスは、式(1)を満たした。そのため、金属管の外径d2は、後段ダイスのダイス径D2と同じ値であった。したがって、これらの試験番号の金属管では、曲がりが発生しないと考えられる。
【0056】
一方、試験番号4〜6、9、13及び14の後段ダイスは、式(1)を満たさなかった。そのため、金属管の外径d2は、後段ダイスのダイス径D2よりも小さくなった。したがって、これらの試験番号の金属管では、曲がりが発生すると考えられる。
【実施例2】
【0057】
実機による冷間抽伸装置を利用して、表2に示すダイスを用いて空引きを実施した。
【表2】
【0058】
試験番号21では、前段ダイスのみを使用した。つまり、1つのダイスのみを用いて空引きを実施した。試験番号22では、冷間抽伸装置1と同じく、前段及び後段ダイスを用いて、空引きを実施した。後段ダイスの外径加工度X2は0.28であり、後段ダイスは式(1)を満たした。
【0059】
上述のダイスを備えた冷間抽伸装置を用いて、表2に示す外径D0及び肉厚t0を有する素管に対して空引きを実施し、金属管を製造した。各試験番号ごとに、2つの素管に対して空引きを実施した。
【0060】
空引き後、製造された金属管の外径を、ノギスを用いて測定した。さらに、金属管の曲がりを次の方法で調査した。図7に示すとおり、金属管の定常部700mmの両端を支えて金属管を周方向に1回転し、金属管の中央位置に設定されたダイヤルゲージ61で金属管の曲がり量Sを測定した。
【0061】
試験結果を図8及び図9に示す。図8は、各試験番号の金属管の外径の測定結果を示す。図9は、各試験番号の曲がり量を示す。図8を参照して、試験番号21では、金属管の外径が、ダイス径(29.40mm)よりも0.2mm以上小さかった。過縮径変形が発生したと考えられる。一方、試験番号22では、金属管の外径は、後段ダイスのダイス径(29.40mm)とほぼ同じであった。
【0062】
図9を参照して、試験番号21では、700mm当たりの曲がり量が25mmを超えた。過縮径変形が発生したため、曲がりが大きかったと考えられる。一方、試験番号22では、700mm当たりの曲がり量は、12mm以下に抑えられた。
【0063】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 冷間抽伸装置
10 前段ダイス
20 後段ダイス
40 素管
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間抽伸装置及び金属管の製造方法に関し、さらに詳しくは、空引きにより金属管を製造するための冷間抽伸装置及び金属管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間抽伸法では、素管をダイスに通して縮径し、所定の外径及び肉厚の金属管を製造する。冷間抽伸法には、プラグ引き、マンドレル引き、空引きがある。
【0003】
プラグ引きは、管内にプラグ又はフローティングプラグが挿入された素管をダイスに通す。マンドレル引きは、管内にマンドレルが挿入された素管をダイスに通す。
【0004】
一方、空引きは、管内にプラグ及びマンドレルを挿入せずに素管をダイスに通す。空引きでは、管内にプラグ及びマンドレルを挿入し、かつ、プラグ及びマンドレルが挿入された素管をダイスに挿入する作業が不要である。そのため、空引きは、他の冷間抽伸方法と比較して、作業効率が高い。さらに、空引きは、プラグ及びマンドレルを使用しないため、長尺の金属管を製造することができる。空引きはたとえば、細径管の製造に利用される。
【0005】
空引きに関する技術は、特開昭54−83666号公報(特許文献1)、特開2005−118799号公報(特許文献2)に開示されている。
【0006】
特許文献1に開示された空引きでは、ダイスのダイス両角を通常よりも大きい40°〜80°にし、かつ、空引き中の金属管にバックテンションを付与する。これにより、空引き後の金属管の肉厚が厚くなる(つまり、金属管が増肉する)のを抑制できる、と特許文献1には記載されている。
【0007】
特許文献2に開示された空引きでは、少なくとも3つのダイスを使用し、かつ、各ダイスの内径(ダイス径)を規制する。これにより、ダイスを通る金属管には、前段のダイスからバックテンションが付与される。さらに、各ダイスの縮径率が適正化される。そのため、空引き後の金属管の増肉が抑制される、と特許文献2には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭54−83666号公報
【特許文献2】特開2005−118799号公報
【特許文献3】国際公開2009/054385号
【特許文献4】特開2001−353516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、空引きでは、製造された金属管に曲がりが発生する場合がある。金属管に曲がりが発生すれば、矯正機により金属管の曲がりを矯正しなければならず、作業工程が増加する。したがって、空引きにより製造された金属管の曲がりを抑制できる方が好ましい。上述の特許文献には、製造後の金属管の曲がりに関する記載がない。
【0010】
本発明の目的は、空引きにより製造された金属管の曲がりを抑制する冷間抽伸装置及び金属管の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施の形態による冷間抽伸装置は、外径D0(mm)及び肉厚t0(mm)を有する素管を用いて、空引きにより金属管を製造する。冷間抽伸装置は、前段ダイスと後段ダイスとを備える。前段ダイスは、ダイス両角θ(deg)及びダイス径D1(mm)を有する。後段ダイスは、前段ダイスの後ろに配置される。後段ダイスは、ダイス径D2(mm)を有し、式(1)を満たす。
0≦(d1−D2)/d1×100≦1.0 (1)
ここで、d1は式(2)で定義される。
d1=D1+Δ/100×D1 (2)
ここで、Δは式(3)で定義される。
Δ=aX12+bX1 (3)
式(3)中のX1は式(4)で定義される。
X1=(D0−D1)/D0×100 (4)
式(3)中のa及びbは、式(5)及び式(6)で定義される。
a=Aθ2+Bθ+C (5)
b=Dθ2+Eθ+F (6)
ここで、式(5)及び式(6)中のA、B、C、D、E及びFは、次のとおり定義される。
t0/D0<0.15である場合:
A=−5.37×10−6、B=0.00048、C=−0.00156
D=0.00012、E=−0.01438、F=0.04618
0.15≦t0/D0≦0.20である場合:
A=−4.94×10−6、B=0.0004、C=−0.00142
D=0.0001、E=−0.01167、F=0.0371
【0012】
本実施の形態による金属管の製造方法は、上記冷間抽伸装置を準備する工程と、上記素管を準備する工程と、素管を前段ダイス及び後段ダイスに挿入に、空引きする工程とを備える。
【発明の効果】
【0013】
本実施の形態による冷間抽伸装置及び金属管の製造方法は、空引きにより製造された金属管の曲がりを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本実施の形態による冷間抽伸装置の構成図である。
【図2】図2は、図1中の前段ダイス及び後段ダイスの断面図である。
【図3】図3は、1つのダイスを用いた空引き工程を説明するための模式図である。
【図4】図4は、空引き前の素管の外径に対する肉厚の比が0.15未満である場合の、前段ダイスでの外径加工度X1と縮径変形率ΔX1との関係を示す図である。
【図5】図5は、空引き前の素管の外径に対する肉厚の比が0.15〜0.20である場合の、前段ダイスでの外径加工度X1と縮径変形率ΔX1との関係を示す図である。
【図6】図6は、本実施の形態による金属管の製造工程を説明するための模式図である。
【図7】図7は、実施例における金属管の曲がりの測定方法を説明するための模式図である。
【図8】図8は、実施例中の各試験番号の金属管の外径の測定結果を示す図である。
【図9】図9は、実施例中の各試験番号の金属管の曲がり量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0016】
[冷間引抜装置]
図1は、本実施の形態による冷間抽伸装置1の構成図である。図1を参照して、冷間抽伸装置1は、前段ダイス10と、後段ダイス11とグリッパ30とを備える。前段ダイス10は、冷間抽伸装置1の入側に配置される。後段ダイス11は、冷間抽伸装置1の出側であって、前段ダイス10の後ろに配置される。図1では、後段ダイス11の前端は、前段ダイス10の後端と接触している。しかしながら、後段ダイス11と前段ダイス10との間に隙間が形成されてもよい。
【0017】
前段ダイス10及び後段ダイス11には、先端が口絞り加工された素管40が挿入される。本明細書において、素管40の外径をD0、肉厚をt0とする。グリッパ30は、素管40の口絞り部41を掴む。グリッパ30は、図示しない搬送装置に取り付けられる。冷間抽伸中、搬送装置は、グリッパ30を、素管40の軸方向に沿って、冷間抽伸装置1の入側から出側に向かって搬送する。これにより、素管40は空引きされる。
【0018】
搬送装置はたとえば、キャリッジと、搬送チェーンとを備える。グリッパ30はキャリッジに固定される。キャリッジはフックを備える。回転移動する搬送チェーンにキャリッジのフックを掛けることにより、グリッパ30は移動する。
【0019】
図2は、図1中の前段ダイス10及び後段ダイス11の断面図である。図2を参照して、前段ダイス10の内面は、前段ダイス10の入側から出側に向かって順に、アプローチ部A1、ベアリング部A2、リリーフ部A3を連続して備える。図2には図示していないが、アプローチ部A1よりも入側にベル部が設けられてもよい。
【0020】
アプローチ部A1では、入側から出側に向かって内径が徐々に小さくなる、いわゆるテーパ形状を有する。アプローチ部A1は、素管を縮径する役割を有する。図2では、アプローチ部A1の縦断面は直線である。
【0021】
ベアリング部A2の内径は、ダイス径D1に相当する。ベアリング部A2の内径D1は円筒状であり、一定である。リリーフ部A3では、前段ダイス10の入側から出側に向かって内径が徐々に大きくなる。リリーフ部A3は、前段ダイス10の出側において、素管40に疵が発生するのを抑制する。リリーフ部A3はなくてもよい。
図2に示すとおり、前段ダイス10は、ダイス径D1及びダイス両角θを有する。ダイス両角θは、アプローチ部A1のテーパ角に相当する。
【0022】
後段ダイス11は、上述のとおり前段ダイス10の後ろに配設される。後段ダイス11は前段ダイス10と同軸に配置される。換言すれば、後段ダイス11は、前段ダイス10と同じ軸心CAを有する。
【0023】
[後段ダイス11の形状]
後段ダイス11も、前段ダイス10と同様に、後段ダイス11の入側から順に、アプローチ部A11、ベアリング部A12、リリーフ部A13を連続して備える。後段ダイス11は、ダイス径D2及びダイス両角θrを有する。後段ダイス11のダイス径D2は、前段ダイス10のダイス径D1よりも小さい。アプローチ部A11は曲率を有してもよい。
【0024】
後段ダイス11は、空引きされて製造される金属管の曲がりを抑制する役割を有する。以下、この点について詳述する。
【0025】
図3に示すように、1つのダイス(前段ダイス)10を用いて空引きする場合、空引き後の金属管の外径は、ダイス10のダイス径D1よりも小さくなる。以下、このような変形を「過縮径変形」という。過縮径変形は、次に示すメカニズムで発生する。
【0026】
図3を参照して、ダイス10を用いて素管40を空引きする場合、素管40のうちアプローチ部A1を通過中の部分(以下、素管部分という)401は、アプローチ部A1により径方向に曲げ加工を受け縮径変形する。受けた曲げ加工が大きい場合、素管部分401は、アプローチ部A1を出てベアリング部A2に入った後にも、継続して縮径変形する。そのため、過縮径変形が発生する。
【0027】
過縮径変形が発生した場合、ベアリング部A2を通過中の素管部分の外径は、ダイス径D1よりも小さくなり、素管部分の外面とベアリング部A2との間に隙間G0が形成される。そのため、素管40はダイス10(ベアリング部A2)に拘束されない。この場合、素管40に不均一な力が付与されれば、金属管は容易に曲がる。
【0028】
後段ダイス11は、このような過縮径変形による金属管の曲がりを抑制する。前段ダイス10は所望の外径加工度で素管を縮径する。そのため、前段ダイス10では過縮径変形が発生してしまう。そこで、本実施の形態では、後段ダイス11の外径加工度を過縮径変形が発生しない程度に設定する。具体的には、後段ダイス11のダイス径D2は、次の式(1)を満たす。
0≦(d1−D2)/d1×100≦1.0 (1)
【0029】
式(1)中のd1は、式(2)で定義される。
d1=D1+Δ/100×D1 (2)
【0030】
式(2)中のΔは、式(3)で定義される。
Δ=aX12+bX1 (3)
【0031】
式(3)中のX1は、前段ダイスの外径加工度(%)であり、式(4)で定義される。
X1=(D0−D1)/D0×100 (4)
ここで、D0(mm)は、上述のとおり、空引き前の素管40の外径である。
【0032】
式(3)中のa及びbは、式(5)及び式(6)で定義される。
a=Aθ2+Bθ+C (5)
b=Dθ2+Eθ+F (6)
ここで、θは、上述のとおり、前段ダイス10のダイス両角(deg)である。
【0033】
式(5)及び式(6)中のA、B、C、D、E及びFは、次のとおり定義される。
t0/D0<0.15である場合:
A=−5.37×10−6、B=0.00048、C=−0.00156
D=0.00012、E=−0.01438、F=0.04618
0.15≦t0/D0≦0.20である場合:
A=−4.94×10−6、B=0.0004、C=−0.00142
D=0.0001、E=−0.01167、F=0.0371
ここで、t0(mm)は、上述のとおり、空引き前の素管40の肉厚である。
【0034】
d1(mm)は、前段ダイス10の出側での素管の予想外径を意味する。Δは縮径変形率(%)を意味する。縮径変形率Δは、次の方法により定義した。
【0035】
図4は空引き前の素管40の外径D0に対する肉厚t0の比(つまり、t0/D0)が0.15未満である場合(以下、ケース1という)の、前段ダイス10での外径加工度X1と縮径変形率ΔX1との関係を示す図である。図5は、0.15≦t0/D0≦0.20である場合(以下、ケース2という)の前段ダイス10での外径加工度X1と縮径変形率ΔX1との関係を示す図である。
【0036】
図4及び図5は次の方法により得られた。種々の外径加工度X1のダイスを設定し、空引き後の金属管の縮径変形率を、有限要素法にて調査した。具体的には、二次元軸対称弾塑性解析に基づいたシミュレーションにより、外径D0及び肉厚t0の素管に対して空引きを実施し、空引き後の素管の外径d1を求めた。得られた外径d1を利用して、以下の式により、各外径加工度X1における縮径変形率ΔX1(%)を求めた。
ΔX1=(d1−D1)/D1×100
【0037】
得られた縮径変形率ΔX1と外径加工度X1とに基づいて、図4及び図5を得た。
【0038】
図4及び図5中のC1はダイス両角θが8degの場合の縮径変形率ΔX1と外径加工度X1との関係を示す曲線である。C2はダイス両角θが20degの場合の曲線であり、C3はダイス両角θが25degの場合の曲線である。
【0039】
図4及び図5を参照して、ケース1及び2のいずれにおいても、外径加工度X1が15〜20%にピークを有する二次関数曲線が得られた。さらに、ダイス両角θが大きい程、縮径変形率ΔX1の変化の度合いが大きくなった。
【0040】
図4及び図5の各曲線の近似式を算出し、算出された近似式に基づいて、縮径変形率Δの一般式を、式(3)のとおり定義した。ここで、式(3)中のX1は、前段ダイスの外径加工度(%)であり、式(4)で定義される。さらに、式(3)中のa及びbは、式(5)及び式(6)で定義される。
【0041】
図4及び図5に示すとおり、素管が薄肉の場合(t0/D0<0.15:ケース1)と、厚肉の場合(0.15≦t0/D0≦0.20:ケース2)とで、曲線C1〜C3の形状が若干変わる。そのため、ケース1とケース2とで、式(3)に利用される係数a及び係数b内の係数A〜Fを、上述のとおり、異なる値とする。
【0042】
以上のとおり定義された縮径変形率Δを利用すれば、前段ダイス10の出側での素管40の予想外径d1が決定される。予想外径d1を利用すれば、後段ダイス11の外径加工度X2(%)は、次の式(A)で定義される。
X2=(d1−D2)/d1×100 (A)
【0043】
外径加工度X2が1.0%以下である場合、後段ダイス11において過縮径変形が発生しにくい。そのため、前段ダイス10を通過した素管40において過縮径変形が発生しても、素管40の外面は、後段ダイス11の内面と接触する。つまり、前段ダイス10により過縮径変形された素管40は、後段ダイス11に拘束される。そのため、空引き後の金属管(つまり、後段ダイス11を通過した金属管)には曲がりが発生しにくい。
【0044】
外径加工度X2が1.0%を超えると、後段ダイス11においても過縮径変形が発生しやすくなる。この場合、後段ダイス11により縮径された素管40の外径が後段ダイス11のダイス径D2よりも小さくなりやすい。そのため、空引き後の金属管に曲がりが発生しやすい。好ましい外径加工度X2の上限は1.0%未満である。
【0045】
外径加工度X2の下限は0%以上である。外径加工度X2が0%である場合、理論的には、前段ダイス10を通過した素管40の外径d1は、後段ダイス11のダイス径D2と同じになる。そのため、素管40は後段ダイス11に拘束される。好ましい外径加工度X2の下限は0%よりも大きく、さらに好ましくは0.1%以上であり、さらに好ましくは0.2%以上である。外径加工度X2の下限値が大きくなる程、素管40は後段ダイス11に拘束されやすくなる。
【0046】
[金属管の製造方法]
上述の構成を有する冷間抽伸装置1を用いた金属管の製造方法は次のとおりである。初めに、冷間抽伸装置1を準備し、さらに、素管40を準備する。素管40は、たとえば、熱間加工により製造される。より具体的には、素管40は、穿孔圧延により製造されてもよいし、熱間押出や熱間鍛造により製造されてもよい。素管40の化学組成は金属であれば特に限定されない。素管40の外径D0(mm)及び肉厚t0(mm)は、たとえば、次の方法により求められる。素管40の軸方向に沿って所定の間隔おきに、外径を測定し、その平均を外径D0と定義する。さらに、素管40の両端で中心軸まわりに45°おきに肉厚を測定し、その平均を肉厚t0と定義する。
【0047】
準備された素管40に対して、冷間抽伸装置1を用いた空引きを実施する。初めに、素管40の先端部を口絞りして、口絞り部41を作製する。続いて、図1に示すように、素管40の口絞り部41を、冷間抽伸装置1内の前段ダイス10及び後段ダイス11内に挿入し、口絞り部41を後段ダイス11の後端から抜き出す。そして、抜き出された口絞り部41をグリッパ30で掴む。
【0048】
口絞り部41をグリッパ30で掴んだ後、素管40に対して空引きを実施する。つまり、本実施の形態による冷間抽伸では、プラグ及びマンドレルを素管40の管内に挿入することなく、素管40に対して冷間抽伸を実施する。
【0049】
具体的には、グリッパ30に固定された素管40を引き抜き方向(図1中の右方向)に引く。図6に示すとおり、前段ダイス10では、過縮径変形が発生し得る。この場合、前段ダイス10のダイス径D1よりも空引きされた素管40の外径d1が小さくなり、前段ダイス10のベアリング部A2と素管40との間に隙間が発生する。しかしながら、後段ダイス11は、式(1)を満たす。そのため、後段ダイス11を通過中の素管40では、過縮径変形が発生しにくく、素管40は後段ダイス11のベアリング部A12に拘束される。その結果、後段ダイス11を通過して製造される金属管に曲がりが発生しにくい。
【実施例1】
【0050】
種々の外径加工度の前段ダイス及び後段ダイスを準備して、空引きにより製造された金属管の外径d2(図6参照)を有限要素法にて調査した。具体的には、二次元軸対称弾塑性解析に基づいてシミュレーションを行い、空引き後の金属管の外径d2(mm)を求めた。
【表1】
【0051】
表1を参照して、試験番号1〜14の条件でシミュレーションを実施した。各試験番号1〜14の素管の外径D0(mm)、肉厚t0(mm)、前段ダイスのダイス径D1(mm)、ダイス両角θ(deg)、外径加工度X1(%)、後段ダイスのダイス径D2、ダイス両角θr(deg)は表1に示すとおりとした。
【0052】
試験番号1〜3、7、8、10〜12では、後段ダイスの外径加工度X2が1.0以下であった。一方、試験番号4〜6、9、13及び14では、外径加工度X2が1.0を超えた。
【0053】
表1中の各試験番号の条件で冷間抽伸(空引き)をシミュレートし、冷間抽伸後の金属管の外径d2(mm)を計算した。
【0054】
シミュレート結果を表1に示す。表1中の係数Aの「E−06」は、10−6を意味する。たとえば、試験番号1の係数Aの「−5.37E−06」は、「−5.37×10−6」を意味する。
【0055】
表1を参照して、試験番号1〜3、7、8、10〜12の後段ダイスは、式(1)を満たした。そのため、金属管の外径d2は、後段ダイスのダイス径D2と同じ値であった。したがって、これらの試験番号の金属管では、曲がりが発生しないと考えられる。
【0056】
一方、試験番号4〜6、9、13及び14の後段ダイスは、式(1)を満たさなかった。そのため、金属管の外径d2は、後段ダイスのダイス径D2よりも小さくなった。したがって、これらの試験番号の金属管では、曲がりが発生すると考えられる。
【実施例2】
【0057】
実機による冷間抽伸装置を利用して、表2に示すダイスを用いて空引きを実施した。
【表2】
【0058】
試験番号21では、前段ダイスのみを使用した。つまり、1つのダイスのみを用いて空引きを実施した。試験番号22では、冷間抽伸装置1と同じく、前段及び後段ダイスを用いて、空引きを実施した。後段ダイスの外径加工度X2は0.28であり、後段ダイスは式(1)を満たした。
【0059】
上述のダイスを備えた冷間抽伸装置を用いて、表2に示す外径D0及び肉厚t0を有する素管に対して空引きを実施し、金属管を製造した。各試験番号ごとに、2つの素管に対して空引きを実施した。
【0060】
空引き後、製造された金属管の外径を、ノギスを用いて測定した。さらに、金属管の曲がりを次の方法で調査した。図7に示すとおり、金属管の定常部700mmの両端を支えて金属管を周方向に1回転し、金属管の中央位置に設定されたダイヤルゲージ61で金属管の曲がり量Sを測定した。
【0061】
試験結果を図8及び図9に示す。図8は、各試験番号の金属管の外径の測定結果を示す。図9は、各試験番号の曲がり量を示す。図8を参照して、試験番号21では、金属管の外径が、ダイス径(29.40mm)よりも0.2mm以上小さかった。過縮径変形が発生したと考えられる。一方、試験番号22では、金属管の外径は、後段ダイスのダイス径(29.40mm)とほぼ同じであった。
【0062】
図9を参照して、試験番号21では、700mm当たりの曲がり量が25mmを超えた。過縮径変形が発生したため、曲がりが大きかったと考えられる。一方、試験番号22では、700mm当たりの曲がり量は、12mm以下に抑えられた。
【0063】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 冷間抽伸装置
10 前段ダイス
20 後段ダイス
40 素管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径D0(mm)及び肉厚t0(mm)を有する素管を用いて、空引きにより金属管を製造するための冷間抽伸装置であって、
ダイス両角θ(deg)及びダイス径D1(mm)を有する前段ダイスと、
前記前段ダイスの後ろに配置され、ダイス径D2(mm)を有し、式(1)を満たす後段ダイスとを備える、冷間抽伸装置。
0≦(d1−D2)/d1×100≦1.0 (1)
前記d1は式(2)で定義される。
d1=D1+Δ/100×D1 (2)
前記Δは式(3)で定義される。
Δ=aX12+bX1 (3)
前記X1は、式(4)で定義される。
X1=(D0−D1)/D0×100 (4)
前記a及びbは、式(5)及び式(6)で定義される。
a=Aθ2+Bθ+C (5)
b=Dθ2+Eθ+F (6)
式(5)及び式(6)中の前記A、B、C、D、E及びFは、次のとおり定義される。
t0/D0<0.15である場合:
A=−5.37×10−6、B=0.00048、C=−0.00156
D=0.00012、E=−0.01438、F=0.04618
0.15≦t0/D0≦0.20である場合:
A=−4.94×10−6、B=0.0004、C=−0.00142
D=0.0001、E=−0.01167、F=0.0371
【請求項2】
請求項1に記載の冷間抽伸装置を準備する工程と、
前記素管を準備する工程と、
前記素管を前記第1及び第2のダイスに挿入し、空引きする工程とを備える、金属管の製造方法。
【請求項1】
外径D0(mm)及び肉厚t0(mm)を有する素管を用いて、空引きにより金属管を製造するための冷間抽伸装置であって、
ダイス両角θ(deg)及びダイス径D1(mm)を有する前段ダイスと、
前記前段ダイスの後ろに配置され、ダイス径D2(mm)を有し、式(1)を満たす後段ダイスとを備える、冷間抽伸装置。
0≦(d1−D2)/d1×100≦1.0 (1)
前記d1は式(2)で定義される。
d1=D1+Δ/100×D1 (2)
前記Δは式(3)で定義される。
Δ=aX12+bX1 (3)
前記X1は、式(4)で定義される。
X1=(D0−D1)/D0×100 (4)
前記a及びbは、式(5)及び式(6)で定義される。
a=Aθ2+Bθ+C (5)
b=Dθ2+Eθ+F (6)
式(5)及び式(6)中の前記A、B、C、D、E及びFは、次のとおり定義される。
t0/D0<0.15である場合:
A=−5.37×10−6、B=0.00048、C=−0.00156
D=0.00012、E=−0.01438、F=0.04618
0.15≦t0/D0≦0.20である場合:
A=−4.94×10−6、B=0.0004、C=−0.00142
D=0.0001、E=−0.01167、F=0.0371
【請求項2】
請求項1に記載の冷間抽伸装置を準備する工程と、
前記素管を準備する工程と、
前記素管を前記第1及び第2のダイスに挿入し、空引きする工程とを備える、金属管の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2013−94812(P2013−94812A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239435(P2011−239435)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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