説明

冷間静水圧プレス用収納材および生体材料の製造方法

【課題】凹部を有する1次成形体を歩留りよく冷間静水圧プレスすることができる冷間静水圧プレス用収納材およびそれを用いた生体材料の製造方法を提供することである。
【解決手段】引張強度が35MPa以上であり、引張伸度が400%以上である合成樹脂からなるとともに、厚さが50〜200μmである、凹部を有する1次成形体の冷間静水圧プレス用収納材である。凹部を有する1次成形体を成形する工程と、成形された1次成形体を上述した収納材内に真空封入する工程と、次いで、1次成形体を収納材ごと冷間静水圧プレスし、2次成形体を成形する工程と、次いで、収納材の真空状態を解除して2次成形体を収納材から取出すとともに、取出した2次成形体を焼成し、生体材料を得る工程と、を含む生体材料の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹部を有する1次成形体を冷間静水圧プレスする際に使用する収納材、およびそれを用いた生体材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成形の1つとして、静水圧を印加して成形する冷間静水圧プレス(Cold Isostatic Pressing:以下、「CIP」と言うことがある。)が知られている。特許文献1には、CIPを利用してセラミックス焼結体を製造する方法として、以下の(i)〜(iv)の工程が記載されている。
【0003】
(i)原料粉末を一軸加圧して生成形体を成形する。
(ii)成形された生成形体を、可撓性を有する合成樹脂製の収容袋に収容し、袋内部の圧力を大気圧以下に保持した状態で収容袋の開口部をヒートシールして密封する。
(iii)密封した収容袋を水中に浸漬し、静水圧を作用させて等方圧縮する(CIP)。
(iv)CIP後、生成形体を焼結し、セラミックス焼結体を得る。
【0004】
特許文献1には、収容袋として、ナイロン層/ポリエチレン樹脂層の2層構造からなるものが記載されている。
しかし、このような収容袋は、上述した(iii)のCIP中に破損し易いという問題がある。CIP中に収容袋が破損すると、生成形体の内部に水が浸入して品質が低下し、歩留りが低下する。
【0005】
また、上述した(iii)の工程では、CIPにて圧縮後、徐圧したときに、生成形体の表面に密着している収容袋が生成形体の表面から離隔する方向に向かって復元する。このとき、生成形体の表面に負荷が加わる。
【0006】
収容袋が上述したナイロン層/ポリエチレン樹脂層の2層構造からなる場合には、前記負荷が大きくなる傾向にある。生成形体の表面に凸部、段差および凹部等が形成されている場合にこのような負荷が加わると、凸部や段差は損傷し難いものの、凹部は損傷し易く、歩留りが低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−73310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、凹部を有する1次成形体を歩留りよく冷間静水圧プレスすることができる冷間静水圧プレス用収納材およびそれを用いた生体材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)凹部を有する1次成形体の冷間静水圧プレス用収納材であって、引張強度が35MPa以上であり、引張伸度が400%以上である合成樹脂からなるとともに、厚さが50〜200μmであることを特徴とする冷間静水圧プレス用収納材。
(2)前記1次成形体が、金型プレス成形体、射出成形体または鋳込み成形体である前記(1)記載の冷間静水圧プレス用収納材。
(3)前記合成樹脂が、熱可塑性樹脂である前記(1)または(2)記載の冷間静水圧プレス用収納材。
(4)前記合成樹脂が、熱可塑性ポリウレタン樹脂、またはポリプロピレン樹脂層と、エチレン酢酸ビニル共重合体層と、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂層とがこの順に積層されている3層構造からなる積層体である前記(1)または(2)記載の冷間静水圧プレス用収納材。
(5)袋状である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の冷間静水圧プレス用収納材。
(6)凹部を有する1次成形体を成形する工程と、成形された1次成形体を冷間静水圧プレス用収納材内に真空封入する工程と、次いで、前記1次成形体を冷間静水圧プレス用収納材ごと冷間静水圧プレスし、2次成形体を成形する工程と、次いで、前記冷間静水圧プレス用収納材の真空状態を解除して2次成形体を冷間静水圧プレス用収納材から取出すとともに、取出した2次成形体を焼成し、生体材料を得る工程と、を含み、前記冷間静水圧プレス用収納材が、引張強度が35MPa以上であり、引張伸度が400%以上である合成樹脂からなるとともに、厚さが50〜200μmであることを特徴とする生体材料の製造方法。
(7)前記生体材料が、人工骨頭、人工膝関節または人工股関節ソケットである前記(6)記載の生体材料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、収納材の破損を抑制し、凹部を有する1次成形体をCIPにて圧縮後、徐圧したときに収納材の復元によって2次成形体の表面に加わる負荷を小さくし、凹部を有する1次成形体を歩留りよくCIPすることができるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<冷間静水圧プレス用収納材>
本発明の冷間静水圧プレス用収納材(以下、「収納材」と言うことがある。)は、凹部を有する1次成形体をCIPする際に使用するものである。本明細書において1次成形体の有する「凹部」とは、1次成形体のうち凹状に形成されている部位をいう。凹部の位置および形状は、1次成形体を収納材内に真空封入したとき、収納材が凹部の表面に密着可能な限り、特に限定されない。このような凹部を有する1次成形体としては、製品に近い形状に成形されている、いわゆるニアネット成形体であるのが好ましく、金型プレス成形体、射出成形体または鋳込み成形体であるのが好ましい。さらに、より製品に近い形状になるように1次成形体に加工を施してもよい。
【0012】
収納材は、引張強度が35MPa以上、好ましくは35〜70MPaであり、引張伸度が400%以上、好ましくは600〜900%である合成樹脂からなるとともに、厚さが50〜200μmである。これにより、収納材の破損を抑制することができるとともに、CIPにて圧縮後、徐圧したときに収納材の復元によって2次成形体の表面に加わる負荷を小さくすることができる。
【0013】
一方、引張強度が35MPa未満であるか、厚さが50μm未満であると、収納材の強度が低下し、収納材が破損し易くなる。また、引張伸度が400%未満であるか、厚さが200μmを超えると、CIPにて圧縮後、徐圧したときに収納材の復元によって2次成形体の表面に加わる負荷が大きくなり、2次成形体が損傷し易くなる。
【0014】
上述した引張強度は、JIS−K7161(プラスチック−引張特性の試験方法−第1部:通則)に準拠して測定される値である。引張伸度は、JIS−K7127(プラスチック−引張特性の試験方法−第3部:フィルム及びシートの試験条件)に準拠して測定される値である。
【0015】
収納材を構成する上述した合成樹脂は、熱可塑性樹脂であるのが好ましく、熱可塑性ポリウレタン樹脂、またはポリプロピレン樹脂(以下、「PP」と言う。)層と、エチレン酢酸ビニル共重合体(以下、「EVA」と言う。)層と、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(以下、「L−LDPE」と言う。)層とがこの順に積層されている3層構造からなる積層体であるのが好ましい。これにより、収納材をヒートシール可能に構成することができるので、1次成形体を収納材内に真空封入するときの作業性を向上させることができる。なお、上述した3層構造からなる積層体を採用する場合には、L−LDPE層を1次成形体側の内層とし、PP層を外層とするのが好ましい。
【0016】
収納材の形状としては、袋状であるのが好ましい。これにより、1次成形体の収納性を向上させることができる。なお、収納材の形状は、1次成形体を収納可能な限り、特に限定されるものではない。具体例を挙げると、収納材をフィルム状等にすることもできる。この場合には、フィルム状の収納材によって1次成形体を包み込むように収納することができる。
【0017】
<生体材料の製造方法>
次に、本発明の生体材料の製造方法について説明する。本発明の生体材料の製造方法は、上述した本発明の収納材を使用するとともに、以下の(I)〜(IV)の工程を含んでいる。
【0018】
(I)凹部を有する1次成形体を成形する工程。
(II)成形された1次成形体を上述した本発明の収納材内に真空封入する工程。
(III)次いで、1次成形体を収納材ごとCIPし、2次成形体を成形する工程。
(IV)次いで、収納材の真空状態を解除して2次成形体を収納材から取出すとともに、取出した2次成形体を焼成し、生体材料を得る工程。
【0019】
上述した各工程を具体的に説明すると、(I)における1次成形体を成形する工程は、例えば金型プレス成形、射出成形、鋳込み成形等によって行えばよい。1次成形体は、人工骨頭、人工膝関節または人工股関節ソケットのニアネット成形体であるのが好ましい。これにより、次の(II)〜(IV)の工程を経て、生体材料である人工骨頭、人工膝関節、人工股関節ソケットを得ることができる。
【0020】
上述した(II)における真空封入は、成形された1次成形体を収納材に収納し、真空ポンプ等の真空手段によって収納材内部を真空状態にするとともに、収納材を密封することによって行えばよい。
【0021】
上述した(III)におけるCIPは、収納材内に真空封入されている1次成形体を収納材ごと、加圧媒体として水等が収容されているCIP装置に浸漬して行えばよい。CIP条件としては、例えばCIP圧を1〜4トン/cm2程度、好ましくは1〜3トン/cm2とし、CIP時間を1〜5分程度、好ましくは1〜3分とするのがよい。
【0022】
上述した本発明の収納材を用いてCIPを行えば、収納材が1次成形体の表面形状に追従して凹部を含む1次成形体の表面に密着し、1次成形体の全表面が静水圧によって1次成形体の中心方向に均一加圧され易くなる。また、本発明の収納材は、上述したように破損し難く、CIPにて圧縮後、徐圧したときに収納材の復元によって2次成形体の表面に加わる負荷を小さくできるので、歩留りよく所望の2次成形体を得ることができ、コストを削減することができる。なお、必要に応じてCIP後の2次成形体に対し、製品形状に近い形状になるように加工を施してもよい。同様に、焼成後の焼成体を必要に応じて製品形状に加工し、生体材料を得るようにしてもよい。
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
まず、ジルコニアセラミックスを100質量部、アクリル樹脂を10質量部、ポリエチレン樹脂を6質量部、モンタンワックスを1質量部、ベヘン酸を1質量部、およびアジピン酸ジイソノニルを2質量部の割合で混合し、(株)東洋精機製作所製の加圧式ニーダー混練機「ラボプラストミル」によって160℃で60分間かけて混練し、混練物を得た。
【0025】
次いで、得られた混練物を粉砕して粉砕物を得るとともに、得られた粉砕物をFUNUC社製の射出成形機によって1次成形体に成形した。この1次成形体は、射出成形体であり、凹部として略半球状の内周面を有するカップ状の人工股関節ソケットのニアネット成形体である。
【0026】
この1次成形体を、表1に示す引張強度、引張伸度および厚さを有するとともに、袋状に成形されている収納材内に真空封入した。なお、表1中、引張強度は、JIS−K7161(プラスチック−引張特性の試験方法−第1部:通則)に準拠して測定された値であり、引張伸度は、JIS−K7127(プラスチック−引張特性の試験方法−第3部:フィルム及びシートの試験条件)に準拠して測定された値である。
【0027】
また、表1中、PP層と、EVA層と、L−LDPE層とがこの順に積層されている3層構造からなる収納材、すなわちPP層/EVA層/L−LDPE層からなる収納材は、L−LDPE層を1次成形体側の内層とし、PP層を外層として使用した。また、ナイロン層/ポリエチレン樹脂層の2層構造からなる収納材は、ナイロン層を外層とし、ポリエチレン樹脂層を内層として使用した。表1中、PP層/EVA層/L−LDPE層およびナイロン層/ポリエチレン樹脂層の「厚さ」の欄における値は、収納材全体の厚さを示している。真空封入は、袋状の収納材内に1次成形体を収納した後、真空ポンプによって収納材内部を真空状態にするとともに、袋状の収納材の開口部をヒートシールして密封することによって行った。
【0028】
上述のようにして収納材内に真空封入した1次成形体を収納材ごと、加圧媒体として水を収容しているCIP装置に浸漬し、CIPを行った。CIP装置は、三菱重工業(株)製の冷間等方圧加圧装置を使用した。CIP条件は、以下の通りである。
【0029】
(CIP条件)
・CIP圧:3トン/cm2
・CIP時間:1分
【0030】
次いで、収納材の真空状態を解除し、上述したCIPによって得られた2次成形体を収納材から取出した。そして、取出した2次成形体について、水濡れの有無、および亀裂の有無を目視観察することによって評価した。各評価の判定基準を以下に示すとともに、その結果を表1に示す。
【0031】
(水濡れの有無)
○:水濡れが発生しなかった。
×:水濡れが発生した。
【0032】
(亀裂の有無)
○:亀裂が発生しなかった。
×:亀裂が発生した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から明らかなように、試料No.1〜16のうち、引張強度が35MPa以上であり、引張伸度が400%以上である合成樹脂からなるとともに、厚さが50〜200μmである試料No.2〜6,9〜13は、収納材の破損による水濡れの発生がなく、亀裂も発生していないことから、凹部を有する1次成形体を歩留りよくCIPできているのがわかる。
【実施例2】
【0035】
上述した実施例1における試料No.1〜16のうち、試料No.3の2次成形体を1,390℃で焼成し、生体材料である人工股関節ソケットを得た。そして、得られた人工股関節ソケットの密度を、アルキメデス法によって測定した。その結果は、6.074g/cm3であった。試料No.2、4〜6、9〜13の密度も同様に6.07〜6.09g/cm3の範囲であった。
【0036】
これらの結果から明らかなように、ジルコニアセラミックスの理論密度6.08g/cm3と同等の密度を有する人工股関節ソケットが得られているのがわかる。すなわち、試料No.3の収納材を用いてCIPを行えば、高密度な人工股関節ソケットを歩留りよく得ることができ、コストを削減できると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有する1次成形体の冷間静水圧プレス用収納材であって、
引張強度が35MPa以上であり、引張伸度が400%以上である合成樹脂からなるとともに、
厚さが50〜200μmであることを特徴とする冷間静水圧プレス用収納材。
【請求項2】
前記1次成形体が、金型プレス成形体、射出成形体または鋳込み成形体である請求項1記載の冷間静水圧プレス用収納材。
【請求項3】
前記合成樹脂が、熱可塑性樹脂である請求項1または2記載の冷間静水圧プレス用収納材。
【請求項4】
前記合成樹脂が、
熱可塑性ポリウレタン樹脂、
またはポリプロピレン樹脂層と、エチレン酢酸ビニル共重合体層と、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂層とがこの順に積層されている3層構造からなる積層体である請求項1または2記載の冷間静水圧プレス用収納材。
【請求項5】
袋状である請求項1〜4のいずれかに記載の冷間静水圧プレス用収納材。
【請求項6】
凹部を有する1次成形体を成形する工程と、
成形された1次成形体を冷間静水圧プレス用収納材内に真空封入する工程と、
次いで、前記1次成形体を冷間静水圧プレス用収納材ごと冷間静水圧プレスし、2次成形体を成形する工程と、
次いで、前記冷間静水圧プレス用収納材の真空状態を解除して2次成形体を冷間静水圧プレス用収納材から取出すとともに、取出した2次成形体を焼成し、生体材料を得る工程と、を含み、
前記冷間静水圧プレス用収納材が、
引張強度が35MPa以上であり、引張伸度が400%以上である合成樹脂からなるとともに、
厚さが50〜200μmであることを特徴とする生体材料の製造方法。
【請求項7】
前記生体材料が、人工骨頭、人工膝関節または人工股関節ソケットである請求項6記載の生体材料の製造方法。

【公開番号】特開2013−67065(P2013−67065A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206716(P2011−206716)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(504418084)京セラメディカル株式会社 (106)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】