説明

冷陰極蛍光ランプ及びアルミン酸塩系蛍光体

【課題】広い色再現性を維持しつつ、高輝度化を図り、更に、ランプの点灯時間に伴う色度の変化を抑制し、発光色の安定化を図り、使用されるLCDに安定した特性を与えることができ、且つ、製造工程におけるアルミン酸塩系蛍光体の熱劣化を抑制することができ、細いガラス管の内壁に均一な蛍光膜の形成を可能とし、ガラス管の軸方向における輝度ムラや色度ズレを低減することができるアルミン酸塩系蛍光体やこれを用いた冷陰極蛍光ランプを提供する。
【解決手段】2価Euと2価Mnで賦活され、青色領域と緑色領域に発光ピークを有するアルミン酸塩系蛍光体と、青色を発光する蛍光体と、赤色を発光する蛍光体とを有する冷陰極蛍光ランプであって、アルミン酸塩系蛍光体は、2価のMnの含有量を、発光する蛍光の色度の点灯時間に伴う変化が抑制されるように調整したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極蛍光ランプ及びアルミン酸塩系蛍光体に関し、より詳しくは、青色と緑色の2つのメインピークを有するアルミン酸塩系蛍光体の点灯時間に伴う色度の変化を抑制し、高輝度を維持することができるアルミン酸塩系蛍光体及びこれを用いた冷陰極蛍光ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ(以下、LCDともいう。)は、長寿命、高輝度という優れた特性からフラットパネルディスプレイの中でも脚光を浴びている。LCDはプラズマディスプレイ、CRTとは異なり、画像を表示する画素自体は発光せず、バックライトの光を液晶シャッター、カラーフィルターと組み合わせて制御して画素を表示する非発光型ディスプレイであることから、LCDのバックライトとして使用される冷陰極蛍光ランプには、赤色発光蛍光体、緑色発光蛍光体、青色発光蛍光体が組み合わされて使用されている。その組合せとして、具体的には表1に示すものを挙げることができる。
【0003】
【表1】

【0004】
緑色蛍光体としては、LaPO4:Ce、Tb(LAPと略記する。)、(Ba,Eu)(Mg,Mn)Al1017(BAMEMと略記する。)が使用されている。
【0005】
BAMEMは1970年代前半にフィリップスが開発し、高効率・高演色の三波長蛍光ランプに実用化されたものであり(特許文献1、2、非特許文献1)、180〜300nm波長光により励起され、緑色(510〜525nm)と青色(445〜455nm)に2つのメイン発光ピークを有する。液晶ディスプレイにおいて優れた色再現性を得るためには、バックライトの冷陰極蛍光ランプに、色純度が高い、赤色、青色、緑色の単色を発光する蛍光体を使用することが重要であり、この点において緑色蛍光体としてBAMEMは非常に有利である。しかしながら、BAMEMは、輝度が低いことに加え、ランプの点灯によるダメージが大きく、発光色の色変化が他の蛍光体より著しいため、これを用いた冷陰極蛍光ランプにおいて色度の変化が大きい。LCDのバックライト用の冷陰極蛍光ランプにおいて、LAPを緑色蛍光体として用いた場合、輝度は優れているが、色再現性の点では劣るのに対し、BAMEMを用いた場合、色再現性は優れているが、輝度が不充分であり、積算点灯時間に伴い色度が変化する。BAMEMは希土類が占める割合が大きく価格が高騰しているLAPに比べ、価格的にも優位であるにもかかわらず、輝度不足、ランプの点灯時間に伴う発光色が変化する等から、LCDのバックライト用途には問題がある。
【0006】
BAMEMにおいて、輝度の向上を図り、熱による劣化を低減させたアルミン酸塩蛍光体(特許文献3)が報告されている。しかし、この蛍光体においてもLAP蛍光体に比べると輝度は不足している。
【0007】
その他、アルミン酸塩蛍光体を青色蛍光体として利用し、演色性を向上させた蛍光ランプ(特許文献4)や、光束を維持した蛍光ランプ(特許文献5)等が知られているが、製造工程において受ける熱劣化の抑制を図り、点灯時間に伴う輝度の低下を抑制し得るものではない。
【0008】
また、冷陰極蛍光ランプは、蛍光体を含有するスラリーをガラス管内に吸い上げて、その内壁面にスラリーを塗布し、蛍光体層を形成しているが、ガラス管の環径が、例えば、2〜4mmと細く、ガラス管内壁全面に亘って均一に蛍光体を含有する蛍光体層を形成するのは難しく、特に、比重の異なる蛍光体を含有する場合や、粒子の形状が略球形でない場合、均一な蛍光体層の形成は困難である。
【0009】
蛍光体層を均一に形成する方法として、特許文献4に開示されたように蛍光体塗布液の比重と粘度を厳密に制御したり(特許文献6)、蛍光体の平均粒子径を特定の範囲としたり(特許文献7)、酸化物で被覆した蛍光体粒子を用いたりする(特許文献5、8)工夫がなされている。
【0010】
蛍光体を不均一に含有する蛍光体層を有する冷陰極蛍光ランプでは、発光の輝度ムラや色度ズレ等の原因になることから、蛍光体を均一に含有する蛍光体層が要請される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭52−22836号公報
【特許文献2】特開昭56−152883号公報
【特許文献3】特開2005−68403
【特許文献4】特開2002−3836
【特許文献5】特開2006−274088
【特許文献6】特開2003−45329
【特許文献7】特開2004−207073
【特許文献8】特開2005−11665
【非特許文献1】J.M.P.J.Verstegen, J.Electrochem.Soc.,Vol.121,1623(1974)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、広い色再現性を維持しつつ、高輝度化を図り、更に、ランプの点灯時間に伴う色度の変化を抑制し、発光色の安定化を図り、使用されるLCDに安定した特性を与えることができ、且つ、製造工程におけるアルミン酸塩系蛍光体の熱劣化を抑制することができ、ガラス管の軸方向における輝度ムラや色度ズレを低減することができるアルミン酸塩系蛍光体やこれを用いた冷陰極蛍光ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
高輝度の蛍光体を得るためには、濃度消光を生じない範囲内で、できる限り高濃度で付活剤を含有させることが一般的であるが、これに捉われず、以下の点に着目して研究、開発を行った。尚、濃度消光とは、発光分子の濃度が高くなると蛍光が弱くなる現象をいい、励起状態にある蛍光体と基底状態にある蛍光体が干渉して消光することによって生じる現象である。
【0014】
第一に、LCDバックライトに使用される冷陰極蛍光ランプの輝度は、赤色発光蛍光体、緑色発光蛍光体、青色発光蛍光体の組合せによる蛍光体(RGB蛍光体ともいう。)で構成される各蛍光体の輝度の上昇のみで決定されるのではなく、RGB蛍光体の輝度、色度、配合のバランスによる点、
第二に、製造工程における熱処理による蛍光体の劣化により輝度が低下するため、製造工程における熱劣化を抑制する点、
第三に、アルミン酸塩系緑色発光蛍光体が発光する青色は、LCDのバックライト用冷陰極蛍光ランプに使用される青色発光蛍光体の発光波長と一致している点である。
【0015】
アルミン酸塩系蛍光体が254nm波長の励起光により励起されると、図1に示すように、2価Mnを含有しない場合(図中のA)は445〜455nmにピークを有し、2価Mnの含有量が0.08モルの場合(図中のC)と0.22モルの場合(図中のB)は510〜525nmにピークを有することから、2価Euは445〜455nmの発光、2価Mnは510〜525nmの発光に寄与することが分かる。そして、2価Mnの含有量が少ないCが、2価Mnの含有量が多いBより輝度の上昇率が高くなっていることから、2価Mnの含有量が少ないCにおいて、2価Mnが有効に発光に寄与していると考えた。
【0016】
更に、B、Cを対比してみると、2価Mnの含有量の増加に伴い、510〜525nmの発光強度が増加するのに対し、他方において2価Euの含有量が一定であるにも拘わらず445〜455nmの発光強度が減少していることから、結晶中にドーピングされた2価Euから2価Mnにエネルギーが伝達され、これにより、2価Euによる445〜455nmの発光が低減し、2価Mnによる510〜525nmの発光が増加していることが認められた。2価Mnは、2価Euの近傍に存在するとき、相互間にエネルギー授受が生じ、エネルギー授受が可能な範囲に2価Mnが存在しないときは、2価Euは445〜455nmを発光すると考えられる。結晶中に存在する2価Mnが、加熱等により原子価が変化して発光に寄与しない余剰のMnとなり、蛍光体に劣化を生じさせると考えられる。従って、発光に寄与しないMnの余剰分が増加する程、蛍光体の劣化が促進され、冷陰極蛍光ランプの点灯時間に伴いその発光色度が変化し、発光強度が低下すると考えられる。
【0017】
アルミン酸塩系蛍光体において、2価Eu、2価Mnの含有量を種々変化させた蛍光体を調製し、発光強度を測定し、ドーピングした発光センターが最も効率よく発光する範囲及び製造条件の検討を行った。図2中のカーブAは、アルミン酸塩系蛍光体はMn濃度の増加に伴い、発光する蛍光の輝度が増加し、Mnが0.35前後で最高輝度に達し、その後、濃度消光が生じることを示している。アルミン酸塩系蛍光体の発光する蛍光のPG/PB値を示すカーブBは、Mn濃度の増加に伴い緑色発光が占める割合が増加することによることを示している。これらの結果、青色発光強度と緑色発光強度との比の値を特定の値に調整することにより、使用に伴う発光色度変化を抑制することができ、しかも、製造工程における熱処理により被る蛍光体の劣化を抑制することができ、RGB蛍光体の輝度、色度、配合割合を調整して、RGB蛍光体のバランスを採ることにより冷陰極蛍光ランプとしての輝度の向上を図ることができることの知見を得た。
【0018】
更に、理由は明確ではないが、Mnの含有量をコントロールする際に微量のP(リン)を混入させることにより、より高い輝度及び色度変化の抑制を得た。これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0019】
即ち、本発明は、2価Euと2価Mnで賦活され、青色領域と緑色領域に発光ピークを有するアルミン酸塩系蛍光体と、青色を発光する蛍光体と、赤色を発光する蛍光体とを有する冷陰極蛍光ランプであって、アルミン酸塩系蛍光体は、2価のMnの含有量を、発光する蛍光の点灯時間に伴う色度の変化量が抑制されるように調整したものであることを特徴とする冷陰極蛍光ランプに関する。
【0020】
また、本発明は、2価Euと2価Mnで賦活され、青色領域と緑色領域に発光ピークを有するアルミン酸塩系蛍光体において、組成式(1)
(Ba1-αEuα)(Mg1-βMnβ)(Al1-γPγ)1017 (1)
(式中、α、β、γは、0.05≦α≦0.25、0<β<0.20、0.50<α/β<2.2、0<γ≦0.01を満たす数値を示す。)で表され、青色領域の発光ピーク強度に対する緑色領域の発光ピーク強度比PG/PBが、1以上、7以下を有するように、2価のMnの含有量が調整されたことを特徴とするアルミン酸塩系蛍光体に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明のアルミン酸塩系蛍光体や、これを用いた冷陰極蛍光ランプは、広い色再現性を維持しつつ、高輝度化を図り、更に、ランプの点灯時間に伴う色度の変化を抑制し、発光色の安定化を図り、使用されるLCDに安定した特性を与えることができ、且つ、製造工程におけるアルミン酸塩系蛍光体の熱劣化を抑制することができる。また、細いガラス管径の冷陰極蛍光ランプにおいても、ガラス管の内壁に均一な蛍光膜の形成を可能とし、ガラス管の軸方向における輝度ムラや色度ズレを低減することができる。更に、励起光を可視光に変換するエネルギー変換効率に優れることから、液晶ディスプレイの省エネルギー化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のアルミン酸塩系発光体の発光スペクトルを示す図である。
【図2】本発明のアルミン酸塩系蛍光体の輝度、発光ピーク強度比PG/PBを示す図である。
【図3】本発明の冷陰極蛍光ランプの一例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の冷陰極蛍光ランプの発光輝度と用いるアルミン酸塩系蛍光体中の2価Mn含有量との関係を示す図である。
【図5】本発明の冷陰極蛍光ランプの発光輝度の維持率と用いるアルミン酸塩系蛍光体中の2価Mn含有量との関係を示す図である。
【図6】本発明の冷陰極蛍光ランプの点灯時間に伴うCIE色度座標におけるxの色度変化を示す図である。
【図7】本発明の冷陰極蛍光ランプの点灯時間に伴うCIE色度座標におけるyの色度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の冷陰極蛍光ランプは、2価Euと2価Mnで賦活され、青色領域と緑色領域に発光ピークを有するアルミン酸塩系蛍光体と、青色を発光する蛍光体と、赤色を発光する蛍光体とを有する冷陰極蛍光ランプであって、アルミン酸塩系蛍光体は、2価のMnの含有量を、発光する蛍光の点灯時間に伴う色度の変化量が抑制されるように調整したものであることを特徴とする。
【0024】
本発明の冷陰極蛍光ランプに用いるアルミン酸塩系蛍光体は、2価Euと2価Mnで賦活され、励起光として180〜300nmの紫外線が照射されると、2価Euによる445〜455nmの青色領域の発光ピークと、2価Mnによる510〜525nmの緑色領域の発光ピークとを有する蛍光を発光する。アルミン酸塩系蛍光体中において、2価Mnは、2価Euからエネルギーを授与可能な領域の2価Euの近傍に存在し、励起光からのエネルギーに加え、2価Euからのエネルギーを受けて510〜525nmの蛍光を発光する。2価Euによる445〜455nmの発光は2価Mnへ授与したエネルギーの相当量が減少する。
【0025】
上記アルミン酸塩系蛍光体中の2価Mnの含有量は、ランプの点灯時間に伴う蛍光の色度の変化量が抑制されるように調整される。2価Mnが2価Eu間でエネルギー授受が可能な範囲で2価Eu近傍に存在し、更に、余剰に存在すると、製造工程における熱処理や、ランプの点灯に伴い、2価Mnの原子価が変化し、アルミン酸塩系蛍光体の結晶に劣化を与えてしまうことから、2価Mnの含有量は発光に寄与しない余剰のMnを除いた量とする。
【0026】
上記アルミン酸塩系蛍光体中の2価Mnの含有量は、アルミン酸塩系蛍光体の青色領域の発光ピーク強度PBに対する緑色領域の発光ピーク強度PGの比PG/PBが、1以上、7以下を有するように調整されることが好ましい。PG/PBがこの範囲であれば、2価Euから2価Mnへのエネルギー伝達が良好に行われ、2価Mnによる510〜525nmの発光が増加し、高輝度の発光を可能とする冷陰極蛍光ランプが得られる。更に、発光に寄与しない余剰のMnを削減することができ、アルミン酸塩系蛍光体の劣化が抑制され、冷陰極蛍光ランプの点灯時間に伴いアルミン酸塩系蛍光体から発光される蛍光の色度が変化するのを抑制し、安定した色度の蛍光が得られる。PG/PBは、1.5≦PG/PB≦5.0であることが好ましい。
【0027】
PG/PBは、具体的には、発光スペクトルより得た青色領域及び緑色領域に観測される2つのピーク強度の比を算出する方法により得られる値を採用することができる。ピーク強度は、励起源に水銀ランプの波長254nmの紫外光のみを取り出したものを用い、サンプルからの発光を分光器と光電子増倍管やCCD等の光検出器を用いて測定した測定値を採用することができる。
【0028】
上記アルミン酸塩系蛍光体は、励起光が照射されたとき発光される蛍光の色度が、CIE色度座標におけるxは0.10〜0.20、yは0.25〜0.55であることが好ましい。このような発光色度を有することにより、高輝度の冷陰極蛍光ランプを得ることができる。
【0029】
上記アルミン酸塩系蛍光体から発光されるランプの点灯時間に伴う蛍光の色度の変化量が、点灯から2000時間経過後のCIE色度座標におけるxは0.007以下、yは0.009以下であることが好ましい。点灯時間に伴う色度変化がx、yが上記範囲であれば、安定した色度の蛍光が得られる。
【0030】
ここで、CIE色度座標とは、国際照明委員会で定める標準表色系であるXYZ表色系をいう。
【0031】
上記アルミン酸塩系蛍光体としては、組成式(1)
(Ba1-αEuα)(Mg1-βMnβ)(Al1-γPγ)1017 (1)
で表されるものが、好ましい。式中、α、β、γは、0.05≦α≦0.25、0<β<0.20、0.50<α/β<2.2、0<γ≦0.01を満たす数値を示す。更に、βは、0.06≦β≦0.19の範囲であることがより好ましく、より好ましくは、0.07≦β≦0.15の範囲である。式中、βが0.20より小さい範囲において、アルミン酸塩系蛍光体中に発光に寄与しない余剰の2価Mnが含有するのを抑制することができ、冷陰極蛍光ランプの点灯時間に伴うアルミン酸塩系蛍光体から発光される蛍光の色度変化を抑制することができる。また、α/βが0.50より大きく2.2より小さい範囲であれば、Mn起因の発光とEu起因の発光による色度変化を抑制することができる。
【0032】
また、上記アルミン酸塩系蛍光体はP(リン)を含むことが好ましい。Pは少量のMnを含有させる際、Mnの結晶格子中への導入を促進する効果、Mnに対するフラックス効果を有するものと考えられる。アルミン酸塩系蛍光体中のPの含有量は、0.01モル以下であることが好ましい。式(1)中のγは、0.01以下の数値を示すことが好ましい。γが0.01以下であれば、Mnの輝度の上昇を図ることができる。
【0033】
更に、青色領域の発光ピーク強度に対する緑色領域の発光ピーク強度の比PG/PBを、1以上、7以下とすることができる。
【0034】
上記アルミン酸塩系蛍光体としては、式(1)中、Baの一部をSr又はCaで置換したもの、Mgの一部をGa又はZnで置換したもの、Alの一部を他の原子で置換したものの他、Al又はOの組成比を変更したもの、これら以外の他の元素を少量含むもの等であってもよい。
【0035】
上記アルミン酸塩系蛍光体は、タップ密度が、1.3g/cm3以上、1.8g/cm3以下であることが好ましい。上記アルミン酸塩系蛍光体の粒子形状は六角板状であり、表1に示す他の蛍光体より比重が小さい。このため、上記アルミン酸塩系蛍光体を用いて、蛍光体層を形成するための塗布液用のスラリーを調製すると、アルミン酸塩系蛍光体粒子の分散性が悪く、凝集が生じ、緻密で充填密度が高い蛍光体層を形成することが困難であり、形成された蛍光体層の表面に凹凸が生じやすく、輝度にバラツキが生じやすい。アルミン酸塩系蛍光体が上記のタップ密度を有することにより、分散性を向上させることができる。
【0036】
上記アルミン酸塩系蛍光体の製造は、Ba、Eu、Mg、Mn、Alの酸化物、炭酸化物、水酸酸化物、炭酸塩等を、Ba、Eu、Mg、Mn、Alが上記組成になるように混合し、必要に応じてフラックス剤と混合して、耐熱容器内で、水素を含む窒素の還元雰囲気、一酸化炭素を含む雰囲気、炭素を含む還元雰囲気等にて焼成、例えば、1350〜1700℃で焼成する。焼成は、一回又は複数回行い、得られた焼成物をボールミルや篩にて解砕する方法を挙げることができる。
【0037】
上記冷陰極蛍光ランプに用いる青色を発光する蛍光体としては、445〜455nmの青色領域に発光ピークを有するものが好ましい。青色を発光する蛍光体として、具体的には、BaMgAl1017:Eu(BAMともいう。)、(Sr,Ba,Ca,Mg)10(PO46Cl2:Eu(SCAともいう。)、CaMgSi26:Eu、(Sr,Ca,Ba)5(PO43Cl:Eu、Sr5(PO43Cl:Eu等を挙げることができる。
【0038】
上記冷陰極蛍光ランプに用いる赤色を発光する蛍光体としては、590〜630nmの赤色領域に発光ピークを有するものが好ましい。赤色を発光する蛍光体として、具体的には、Y23:Eu(YOXともいう。)、Y(P,V)O4:Eu(YVOともいう。)、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn等を挙げることができる。
【0039】
上記冷陰極蛍光ランプにはその他、必要に応じて、アルミン酸塩系蛍光体以外の緑色を発光する蛍光体、例えば、LAP、Ce1-xTbxMgAl1119(CATともいう。)等を用いることができる。
【0040】
これらの蛍光体の使用割合としては、アルミン酸塩系蛍光体、青色を発光する蛍光体、赤色を発光する蛍光体のそれぞれの輝度を考慮して、冷陰極蛍光ランプからの発光が白色光となるように、適宜選択することができる。蛍光体の使用割合としては、具体的には、例えば、CIE色度座標におけるxが0.250、yが0.230となるような割合を挙げることができる。
【0041】
上記冷陰極蛍光ランプは、上記蛍光体を用いたものであれば、いずれであってもよく、水銀から放射される紫外線を励起光とするものを挙げることができる。
【0042】
本発明の冷陰極蛍光ランプの一例として、液晶パネルのバックライト用冷陰極蛍光ランプを例示することができる。図3の概略断面図に示すように、冷陰極蛍光ランプ21は、ガラス製等の透明管22の両端がビードガラス等の封止部材23で気密に封止されて構成されている。透明管22の外径は、1.5〜6.0mmの範囲内、好ましくは1.5〜5.0mmの範囲内である。透明管の内壁面には、そのほぼ全長に亘って水銀から放出される253.7nm、365.0nm等の紫外線によって励起され、上記アルミン酸塩系蛍光体、青色を発光する蛍光体、赤色を発光する蛍光体を含有する蛍光体層24が設けられている。透明管の内部空間25には、水銀と、希ガス、例えば、アルゴン、キセノン等が所定量導入され、内部圧力は大気圧の数十分の一程度に減圧されている。透明管の長手方向両端には、それぞれカップ状電極27が、開口部20が対向するように配置されている。各リード線29は、その一端が電極27の底面部に溶接され、他端が封止部材23を貫通して透明管の外部に引き出されている。
【0043】
このような冷陰極蛍光ランプにおいて、電極間に電圧が印加されると透明管内に僅かに存在する電子により希ガスを電離させ、電離した希ガスを電極に衝突させて二次電子を放出させグロー放電を生起させ、これにより水銀を励起して、253.7nm、365.0nm等の紫外線を放射させ、これを受けた透明管の内壁に設けられる蛍光体から緑色、青色、赤色の蛍光が発光され、これらが演色されて白色を発光する。
【0044】
上記冷陰極蛍光ランプの製造方法としては、上記アルミン酸塩系蛍光体、赤色を発光する蛍光体、青色を発光する蛍光体を、例えば、冷陰極蛍光ランプにおける発光がCIEに色度座標xが0.250、yが0.230になるように所定の配合割合で混合する。混合した蛍光体を、酢酸ブチルとイソプロピルアルコールの混合溶剤等に硝化綿を混合したものと混合し、蛍光体スラリーを作製する。この蛍光体スラリーを用いて、ガラス管内面に、塗布、乾燥、焼成等の工程により蛍光体層を形成する。その後、ガラス管の両末端を封止材により封止し、内部を排気した後、水銀、希ガス等を内部に導入し冷陰極蛍光ランプを製造する方法を挙げることができる。
【0045】
本発明の冷陰極蛍光ランプは、LCDのバックライトの他、白色光の発光を必要とする各種表示、照明に好適である。
【0046】
本発明のアルミン酸塩系蛍光体は、2価Euと2価Mnで賦活され、青色領域と緑色領域に発光ピークを有するアルミン酸塩系蛍光体において、組成式(1)
(Ba1-αEuα)(Mg1-βMnβ)(Al1-γPγ)1017 (1)
(式中、α、β、γは、0.05≦α≦0.25、β<0.20、0.50<α/β<2.2、0<γ≦0.01を満たす数値を示す。)で表され、青色領域の発光ピーク強度に対する緑色領域の発光ピーク強度比PG/PBが、1以上、7以下を有するように、2価のMnの含有量が調整されたことを特徴とする。
【0047】
本発明のアルミン酸塩系蛍光体は、上記冷陰極蛍光ランプに用いる、アルミン酸塩系蛍光体と同様のものを挙げることができ、各種蛍光体を用いる表示、照明に適用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の蛍光体を実施例を挙げて更に詳細に説明する。
[実施例1]
アルミナ、炭酸バリウム、水酸化マグネシウム、リン酸水素二アンモニウム、酸化ユーロピウムと炭酸マンガンを、組成式(1)中、α=0.10、β=0.06、γ=0.01の割合となるようにそれぞれ秤量し、反応助剤としてフッ化アルミナを少量加え、原料混合物を得た。原料混合物をアルミナルツボに入れ、電気炉にて、4容積%水素ガスを含有した窒素ガス雰囲気中で、1500℃で5時間で焼成した。 焼成物を分散、洗浄、乾燥、篩の処理を行い、粒子径(メジアン径D50)5.5μmのアルミン酸塩系蛍光体(Ba0.9Eu0.1)(Mg0.94Mn0.06)(Al0.990.011017を得た。
【0049】
得られたアルミン酸塩系蛍光体と赤色蛍光体YOXと青色蛍光体BAMを冷陰極蛍光ランプの色度座標:x=0.250、y=0.230になるように混合した。混合した蛍光体を、酢酸ブチル50質量%とイソプロピルアルコール50質量%の混合溶剤に硝化綿を混合したビヒクルと質量比1:1で混合し蛍光体スラリーを作製した。蛍光体スラリーを、垂直に配置した口径3.4mm、長さ900mmのガラス管内に吸い上げ塗布、乾燥し、600℃で加熱し、蛍光体層を作製した。その後、ガラス管両端を封止し、排気後、水銀、希ガスを封入し冷陰極蛍光ランプを得た。
【0050】
[冷陰極蛍光ランプの輝度]
冷陰極蛍光ランプの輝度を輝度計(トプコン製SR−3)によって測定し、式(1)におけるβを0.20とした比較例1の輝度を基準として、相対輝度を求めた。結果を図4に示す。
【0051】
[蛍光体の輝度維持率]
冷陰極蛍光ランプの蛍光体層の作製条件と同様の条件で蛍光体スラリーを焼成し、焼成後の蛍光体を回収し、180〜300nm波長光を照射し、輝度を輝度計(トプコン製SR−3)を用いて測定した。同様の条件で測定した焼成前の蛍光体スラリーの輝度に対する輝度比を求め、蛍光体の輝度維持率とした。結果を図5に示す。
【0052】
[実施例2〜9、比較例1〜5]
組成式(1)中、α、β及びγの値を表2に示す値となるように、混合する原料の割合を変更した他は、実施例1と同様にアルミン酸塩系蛍光体を調製し、冷陰極蛍光ランプを作製し、輝度を求め、蛍光体の輝度維持率を求めた。結果を図4、5に示す。また、アルミン酸塩系蛍光体のメジアン径は5.4〜5.7μmであった。実施例5、9、比較例1で得られた冷陰極蛍光ランプについて、以下に示す方法により点灯時間に伴う色度変化を測定した。結果を、図6、7に示す。
【0053】
[点灯時間に伴う色度変化]
冷陰極蛍光ランプを、電圧1200V、電流10mAで印加して点灯させ、経過時間毎に色度変化を測定し、CIE色度座標におけるx、yの変化量を求めた。
【0054】
【表2】

【0055】
実施例1〜9、比較例1〜5から、式(1)のβが0.2より小さい範囲の実施例1〜9では、冷陰極蛍光ランプの輝度が向上するのに対し、βが0.2以上の範囲の比較例1〜5では、アルミン酸塩系蛍光体における緑色領域の発光輝度は上昇するにもかかわらず、冷陰極蛍光ランプの輝度が低下した。2価Mnの含有量の増加に伴い輝度維持率が低下し、過剰の2価Mnの結晶中の含有量が増加し、熱劣化や濃度消光を引き起こしたことが分かる。
【0056】
[実施例10〜14]
組成式(1)中、α、βの値を表3に示す値となるように、混合する原料の割合を変更した他は、実施例1と同様に、γ=0.01としてアルミン酸塩系蛍光体を調製し、CIE色度座標x=0.250、Y=0.230の冷陰極蛍光ランプを作製した。得られた冷陰極蛍光ランプの輝度を、輝度計(トプコン製SR−3)を用いて測定した。比較例1の冷陰極蛍光ランプの輝度を基準に求めた輝度を、表3に示す。
【0057】
【表3】

【符号の説明】
【0058】
21 冷陰極蛍光ランプ
22 ガラス管
24 蛍光体層
25 内部空間
27 カップ状電極
29 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価Euと2価Mnで賦活され、青色領域と緑色領域に発光ピークを有するアルミン酸塩系蛍光体と、青色を発光する蛍光体と、赤色を発光する蛍光体とを有する冷陰極蛍光ランプであって、アルミン酸塩系蛍光体は、2価のMnの含有量を、発光する蛍光の点灯時間に伴う色度の変化量が抑制されるように調整したものであることを特徴とする冷陰極蛍光ランプ。
【請求項2】
アルミン酸塩系蛍光体が、2価のMnの含有量を、青色領域の発光ピーク強度に対する緑色領域の発光ピーク強度の比PG/PBが、1以上、7以下であるように調整されたことを特徴とする請求項1記載の冷陰極蛍光ランプ。
【請求項3】
アルミン酸塩系蛍光体が発光する蛍光の点灯時間に伴う色度の変化量が、点灯から2000時間経過後のCIE色度座標のxが0.007以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の冷陰極蛍光ランプ。
【請求項4】
アルミン酸塩系蛍光体が発光する蛍光の点灯時間に伴う色度の変化量が、点灯から2000時間経過後のCIE色度座標のyが0.009以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の冷陰極蛍光ランプ。
【請求項5】
アルミン酸塩系蛍光体が、組成式(1)
(Ba1-αEuα)(Mg1-βMnβ)(Al1-γPγ)1017 (1)
(式中、α、β、γは、0.05≦α≦0.25、β<0.20、0.50<α/β<2.2、0<γ≦0.01を満たす数値を示す。)で表されることを特徴とする請求項1から4のいずれか記載の冷陰極蛍光ランプ。
【請求項6】
2価Euと2価Mnで賦活され、青色領域と緑色領域に発光ピークを有するアルミン酸塩系蛍光体において、組成式(1)
(Ba1-αEuα)(Mg1-βMnβ)(Al1-γPγ)1017 (1)
(式中、α、β、γは、0.05≦α≦0.25、β<0.20、0.50<α/β<2.2、0<γ≦0.01を満たす数値を示す。)で表され、青色領域の発光ピーク強度に対する緑色領域の発光ピーク強度比PG/PBが、1以上、7以下を有するように、2価のMnの含有量が調整されたことを特徴とするアルミン酸塩系蛍光体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−192254(P2010−192254A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35551(P2009−35551)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(300022353)NECライティング株式会社 (483)
【出願人】(000207089)大電株式会社 (67)
【Fターム(参考)】