説明

凍結しない乾燥過程により生物材料を安定化するための調製物及び方法

【課題】本発明は、生物学的、特に治療に活性な材料を含む乾燥した部分的にアモルファスの生成物であって巨視的に均一な物質混合物を含むものを生産する方法及び該方法によって得ることができる新規物質混合物及びそれらの診断又は治療過程における使用に関する。
【解決手段】(i)極性残基を有する炭水化物又は双性イオン及びそれらの誘導体;並びに無極性残基を有する双性イオン及びその誘導体を含む群の少くとも1の物質から物質混合物を選択する。生物学的又は治療的に活性な材料並びに物質(i)及び(ii)の溶液が作られ、該溶液の凍結点超の生成物温度で乾燥されることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結しない乾燥過程により生物材料を安定化するための調製物及び方法に関する。凍結を用いない乾燥過程により乾燥した部分的にアモルファスの生成物を形成した後、ペプチド、タンパク質、グリコプロテイン、抗体及び同様の物質の特に有利な安定化を達成するのに用いることができる糖及びアミノ酸並びにそれらの誘導体の、並びに種々のアミノ酸及びその誘導体の特に選定された混合物が記載される。
【背景技術】
【0002】
診断及び治療目的のための生物に活性がある治療用物質、例えばペプチド、タンパク質、グリコプロテイン、ヌクレオチド、プラスミド、細胞フラグメント、ウイルス等の(特に室温において)保存に安定な調製物の生産は現在、かなりそして絶え間なく増加する重要性あるものである。
【0003】
乾燥した生物学的に又は治療に活性な材料を生産のための種々の方法及び製剤が開示されている。乾燥材料は、最大で8%(g/g)、好ましくは多くとも4%(g/g)、特に好ましくは多くとも2%の残存水分を有する物質又は物質の混合物として理解される。凍結乾燥方法は、広く用いられているが、欠点を有する〔F. Franks, Cryo Lett. 11,93-110, (1990) ; M. J. Pikal, Biopharm. 3 (9), 26-30 (1990) ; M. Hora, Pharm. Research 8 (3), 285-291(1992) ; F. Franks, Jap. J. Freezing Drying 38,15-16, (1992) 〕。それらは大量のエネルギーを消費し、そのいくつかは有害である冷媒(Frigens) の使用を必要とし、そして長時間かかる。多数の物質、特にタンパク質のために、凍結乾燥に必要である凍結のステップは損害を与え、即ち不安定にする。それゆえ、この方法は、いくつかの生物材料についてはほとんど用いることができない。
【0004】
乾燥タンパク質調製物を製造するために凍結乾燥するかわりの方法は、熱又は真空の適用により材料を乾燥させる方法である〔F. Franks, R. M. H. Hatley ; Stability and Stabilization of Enzymes ; Eds. W. J. J. van den Teel, A. Harder, R. M. Butlaar,Elsevier Sci. Publ. 1993, pp. 45-54 ; B. Roser, Biopharm. 4(9), 47-53 (1991) ; J. F. Carpenter, J. H. Crowe, Cryobiol.25,459-470 (1988)〕。この例は、温度上昇を適用し又は適用しないで真空乾燥すること、種々の改良を加えたスプレー乾燥、例えば真空とスプレー手順との組合せの適用、並びにドラム乾燥及び他の薄層乾燥法である。
【0005】
糖又は糖様物質を含む調製物が、J. F. Carpenter, J. H. Crowe, Biochemistry 28, 3916-3922 (1989) ; K. Tanaka, T. Taladu,K. Miyajima, Chem. Pharm. Bull. 39 (5), 1091-94 (1991), DE-C-3520228, EP-B-0229810, WO 91/18091, EP-B-0383569, US 5,290,765 に記載されている。乾燥糖調製物の生産においては、以下の欠点及び問題が当該技術に開示される方法に見い出されている:本当に適した乾燥糖調製物の生産は、大量のエネルギーを用いずには不可能である。これは特に最終的な容器内の調製物にあてはまる。暖かさ/熱をこれに適用することが可能であるが、用いる生物材料の安定性に関して極めて重大であると判断されなければならない。かわりに、低温で適切な乾燥を行うためには、極めて長い処理時間又は極めて薄い層の厚さを用いることができる。両方の手順は目的を達成しない。長い処理時間は経済的に極めて好ましくなく、水がゆっくりと減るだけのマトリックス中の活性生物物質の長い残存時間は不安定化を引きおこし、これも重大である。薄い層の厚さでの乾燥は、多くの場合、経済的に実行可能な生成物の収量を導かない。即ち、単位時間及び/又は乾燥領域当り少量の生成物しか得られない。更に、極めて大きく開いた乾燥領域での生物材料の処理は、医薬的及び診断的適用にしばしば必要である安定性をほとんど達成することができない。室温より低い又は少し高い温度での真空により行われる乾燥方法によりマイルドである。しかしながら、多くの場合、乾燥した保存に安定な糖調製物を作るのは実際にはほとんど不可能である。糖溶液を粘度を増加させて乾燥すると、厚いペーストが形成される。これらの材料中に残っている水の残留量又は残存水分は、経済的に合理的な期間内に除去することができず、多くの場合、その乾燥は安定化に適さない高レベルで行き詰まる。デグラデーションは、例えば保存された材料の活性の減少、凝集生成物の形成又は低分子量のデグラデーション産物の発生により顕在化される。タンパク質等の安定化のための適切な低い残存水分量は、物理的パラメータに基づいて同定することができる。上述の文献によれば、タンパク質等に適した調製物は、その転移温度が予定された保存温度上にあるガラス様構造、即ちアモルファス構造を有するべきであるとしている。ガラス転移温度は、アモルファス固体がガラス状態から濃厚な粘性状態に及びその逆に変化する温度である。粘度の大きな変化はこの過程でおこり、同時にタンパク質及び他の分子拡散係数及び速度論的移動度も大きく変化する。硬度及びモジュラスのような物理的パラメータ並びに体積、エンタルピー及びエントロピーのような熱力学的状態の関数が変化する。例えば糖及びその残存水分を含む材料のガラス転移温度は、残留水分の量の増加がガラス転移温度を減少させそしてその逆もあるように、互いに物理的に関連する。これにより、例えば示差走査熱量測定(DSC) によるガラス転移温度の測定は、調製物が安定化のために適切な残存水分を有するか否か、及び上述のように、乾燥過程が上手くいったか否かを推定するのに用いることができる。更に、DSC によるガラス転移温度の測定に加えて、アモルファス構造の存在は、X線回折研究並びに光学及び電子顕微鏡観察によっても証明することができる。
【0006】
それゆえ、低い残存水分を含む、保存温度を超えたガラス転移温度の生物学的又は医薬的に活性な材料のための安定化マトリックス、及び該安定化マトリックスの費用に対し効率のよい生産のための方法を提供することが要求される。
【発明の開示】
【0007】
発明の記載
驚くことに、炭水化物を含む材料への無極性残基を有する双性イオンの添加が、先にほとんど乾燥されておらず従って適切な安定化特性を有さない材料を極めて迅速に乾燥することができ、中に調剤された生物的に、特に治療に活性な材料の優れた安定性を作り出すことができる肯定的な様式でそれらの乾燥特性を変化させることができることが見い出された。
【0008】
更に、驚くことに、特定の双性イオンの混合物から構成される炭水化物を含まない製剤も迅速に乾燥することができ、極めて優れた安定化特性を有することが見い出された。この場合、極性残基を有する双性イオンは無極性残基を伴う双性イオンと一緒に用いられなければならない。このような双性イオンは、好ましくは、アミノカルボン酸及びその誘導体、並びに特に好ましくは医薬として許容されるアミノである。双性イオンは、その分子量が10kDa 未満、好ましくは5kDa 未満である低分子化合物として理解される。高温の適用なく、即ち室温において、生物的に、特に治療に活性な物質を安定化するための調製物のために適切なガラス転移温度が達成されるように、本発明に従う調製物が乾燥されるのを許容する方法が記載される。生物的に活性な物質は、治療に活性な物質に加えて、生物学的過程、例えば発酵に用いられるものでもある。例えば直物保護において又は殺虫剤として用いられるこれらの物質も同じである。このような生物学的に、特に治療に活性な材料は、例えば、タンパク質、ペプチド、グリコプロテイン、リポタンパク質、酵素、補酵素、生物膜、抗体、抗体フラグメント、ウイルス、ウイルス構成物、ワクチン、DNA, RNA, PNA 、プラスミド、ベクター、フェロモン、生物治療剤及び診断剤並びにそれらの誘導体の群の1又は数種類の物質から選択することができる。生物に活性な物質はそれ自体は食物を含まないと理解される。
【0009】
本明細書に記載される調製物及び方法の特に優れた利点は次の通りである。
・乾燥の間の凍結を避けること
・いずれの旧型装置の改装もなく化学−医薬工業において既に利用されている凍結乾燥設備で乾燥を行うことができること
・市販の容器、例えば無菌生産に特に有利であるガラスボトルへの充填が変化させることなく保持され得ること
・処理時間が凍結乾燥方法、と等しいかそれよりかなり少い時間であること
・毒物学的に許容される補助物質を用いることができること
・凍結するのに必要なエネルギーの全量を節約することができ、環境に有害な冷媒の使用を大きく削減することができること
・得られた生成物が、再び迅速に溶けることができる真に認識できる“固形物”であること
・部分的にアモルファスである状態が迅速に達成されるので、先行技術の方法より生物材料のデグラデーションが、少いこと。
【0010】
糖及びアミノ酸の特定の混合物並びに少くとも2のアミノ酸の特定の混合物の本明細書に記載される製剤も、それらが凍結を避ける他の乾燥方法の枠組内で用いられる場合、有効であるという特別の利点に注目すべきである。添加物による乾燥加速効果及びアモルファス又は部分的にアモルファスのシステムを形成するための調製物の特性は噴霧乾燥及びドラム乾燥等に等しくあてはまる。
【0011】
本質的な特徴は、大量のアモルファス材料が、DSC 及び/又はX線構造解析又は他の適切な方法により検出して存在すること、及びその調製物が完全な結晶性の特徴を有さないことである。結晶性調製物は、センシティブな生物物質について適切な安定性を達成するのに適さない。完全にアモルファスである調製物が安定化に、これにより原則として本発明に適しているが、部分的にアモルファスである調製物が特に適している。
【0012】
発明の詳細な記載
本発明は、6の実施例、7の参考例及び10の比較例により例示され、以下に説明される。この過程において、真空乾燥により糖を含む材料の乾燥を大きく改善し加速し、そして関連する治療用及び診断用生物材料を安定化するのに適した製剤及び方法が見い出された。更に、最適な乾燥特徴を保持しながら安定化の目的を果たす全く新しい組成物が示される。
【0013】
これらの組成物は、好ましくは、少くとも1の無極性残基を有する双性イオン(例えばフェニルアラニンのようなアミノ酸)及びこの双性イオンの添加により糖のガラス転移温度がかなり増加される糖のいずれかを含む。あるいは、種々の特定の選択されたアミノ酸又はその誘導体の混合物も用いることができる。これらの混合物は無極性残基を有する双性イオン及び極性残基の双性イオンから構成される。これらの混合物には糖も添加することができる。
【0014】
働いている仮説として、糖もしくは極性双性イオン物質(例えばアルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、シトルリン、リシン)及び無極性双性イオン物質(例えばフェニルアラニン、イソロイシン、メチオニン、バリン、アラニン、グリシン、トリプトファン、システイン)又はそれらの誘導体(例えばアセチルフェニルアラニンエチルエステル)の特定の混合物が本発明による要求される結果を引きおこすことが見い出された。その方法を改良し、そして実施例に記載される物質のリストを広げることが簡単にできる。
【0015】
特に好ましい生物的又は治療的に活性な材料は抗体(モノクローナル又はポリクローナル)、酵素及びヒトタンパク質又はヒトペプチド、例えば組換えヒトエリトロポイエチン(rh−EPO)、組換えヒト顆粒球コロニー刺激因子(rh−G−CSF)又は組換えプラスミノーゲンアクティベーター(rPA) 、nGF, PTH、ウラリチド(ularitides) 、プラスミド、ウイルス、 GUP, BP−5である。
【0016】
アミノ酸の添加が糖マトリックスの乾燥を変化させる様式を決定するために、活性物質を含まない調製物を用いた。参考例1は、フェニルアラニン及びアルギニンのマルトースへの添加が、これらの添加物の添加量に依存してその乾燥特性を改善することを示す。これらの補助物質の特定の添加は、65K超、そのガラス転移温度を増加させ、そして同じ条件下で対応する残存水分を容易に1%未満に満らすことを可能にする。参考例1は、この場合に用いられる方法が、全く熱を適用することなく、48時間以内に要求される結果を導くことを示す。本発明による補助物質の添加のないマルトースはこれらの条件下で7〜8%の残存水分を有し、そのガラス転移温度は室温未満であり、これによりこのシステムはタンパク質の安定化等に適さない。
【0017】
安定化する部分的にアモルファスの生成物の生産のための、スクロース及び本発明による適切なアミノ酸の群からのアミノ酸から構成される本発明による調製物の生産は、スクロースの固有の利点を十分に有効にしながら、スクロースを含む製剤の特定の欠点を避けることができる。文献に記載される他の糖と比較して、スクロースは適切に標準化された水分で比較的低いガラス転移温度を有する。それゆえ、スクロースを含む乾燥調製物を生産することにおいて、意図した保存温度を実質的に超える高いTgs を得ることが特に困難である。更に、エバポレーション乾燥によりスクロースを全てアモルファス形態に転化することは困難であり、その糖は直ちに結晶化し、これにより活性生物物質を安定化するために好ましくない結晶性構造を直ちに形成する。更に、アモルファスのスクロースの塊はは、保存の過程の間に大量の結晶を比較的迅速に形成し、特定の保存期間の後、完全に結晶化することができることが観察され得る。この過程において、このような調製物はその安定化特性も喪失する。スクロースの使用に関連する全てのこれらの問題、危険及び欠点は、適切な群のアミノ酸の本発明による添加によって除去することができる。これに関して、フェニルアラニン及びアルギニンの使用(参考例2)が特に好ましい。比較例Aにおいて、純粋な糖の塊は、より長い乾燥時間を用いた時でさえ、有効に乾燥することができない。アミノ酸及び糖の改善された乾燥効果は、個々のアミノ酸で及びアミノ酸混合物で達成することができる。参考例3及び4は、マルトース及びスクロースシステムでのこれについての対応する結果を示す。改良された乾燥効果を有さないアミノ酸、例えばヒスチジンも見い出されている(比較例B)。参考例5は、アミノ酸に加えて、それらの構造的に関連した誘導体も改良された乾燥効果を有し得ることを示す。特定のアミノ酸の選択は詳細に記載されるが、限定的様式又は参考例6に完全に包含されるわけではない。各々のアミノ酸が断然要求される効果を導くわけでなく、特定のアミノ酸のみがその効果を導くことに注意すべきである。また、効果の程度は種々であり、特定の好ましい組合せ又は調製物が言及され得る。これらは、とりわけ、フェニルアラニン、トリプトファン、ロイシン及びイソロイシンである。更に、参考例1及び6から、改良された乾燥効果を保持しつつアミノ酸を混合することが可能であると予測され得る。アルギニン単独では肯定的な効果を有さないが、フェニルアラニンとの混合物においては効果を有する。
【0018】
真空乾燥の間のアミノ酸の特性を、調製物が、糖マトリックスの欠如下で室温を超えるガラス転移温度を有するアミノ酸によっても得ることができるか否かを決定するために研究した。驚くことに、純粋なアミノ酸は結晶性構造を形成するだけであるが特定のアミノ酸塩及びアミノ酸の混合物はガラス様マトリックスを形成することが見い出された(比較例C及び参考例7)。アモルファス構造を作るために、異なるアミノ酸を特異的に選択することが必要である。驚くことに、アミノ酸は、明らかに異なる特性を有する2つの群に分けることができることが見い出された。各々の群から少くとも1のアミノ酸を選択すること及び対応する混合物を作ること並びにこれを乾燥させることが必要である。糖−アミノ酸混合物の調剤においては、この場合、本発明による調製物を得るために特定の混合比を有することも必要である(参考例7)。次に、活性な生物物質を安定化するのに適したアモルファス構成物でマトリックスが得られる。
【0019】
タンパク質に例示されるような生物活性材料を安定化するという実際の目的に関する改良された乾燥の効能は、実施例1〜5及び比較例D−Jに詳細に記載されて、実施例1及び2は比較例D−Gと共にrh−G−CSF の安定化を記載し、実施例3及び比較例Hはエリトロポイエチンのそれを記載し、そして実施例4及び5並びに比較例I及びJは乳酸デヒドロゲナーゼの安定化を記載する。補助物質及び他の調製物を含まない真空乾燥調製物と比較した本発明による調製物の驚くほど実質的に改善された保存安定性は、タンパク質(rh−G−CSF 、実施例1及び2並びに比較例D,E及びF,G)、グリコプロテイン(rh−EPO 、実施例3及び比較例H)及び酵素(LDH 、実施例4, 5並びに比較例I及びJ)についての保存期間に基づいて例示される。種々の温度での保存条件下での種々のrh−G−CSF 調製物の変化が実施例に示される。本発明による調製物即ち部分的にアモルファスのガラス様調製物だけが、数℃(冷蔵庫)〜40℃の保存温度範囲で6ヶ月後に大きなデグラデーションを示さない(実施例1及び2)。補助物質を含まない対応する真空乾燥調製物(比較例D)は、室温及び高温(40℃)において20%までのモノマーの大きな減少を示す。アモルファスでないがより濃厚な粘性調製物は、5週間後に室温においてそれらのモノマー濃度の大きな減少を既に示す(比較例D+E)。結晶性調製物(比較例G及びJ)は大きく短縮された保存期間も示す。実施例1と比較例Eとを比較することにより、安定剤としてのマルトースへのアミノ酸の添加は、G−CSF のモノマーの10%未満が凝集する高い保存温度(40℃)において10倍超、その保存期間を増加させることを見ることができる。実施例2を比較例Gと比較することは、アミノ酸の選択も保存期間の増加に決定的であることを示す。グリコプロテインEPO におけるモノマーの割合の比較(実施例3、比較例H)は、室温及び高い保存温度における本発明による調製物が、補助物質のない真空乾燥EPO よりかなり優っていることを示す。補助物質のない真空乾燥LDH(比較例I)及び結晶性調製物(比較例J)と比較した本発明による調製物としてのセンシティブ酵素LDH の5週間保存(実施例4及び5)は、本発明による調製物だけが活性の大きな損失なく室温及びより高温の保存温度(40℃)で保存することができることを示す。これに関して、サンプルの調製直後の本発明による調製物による酵素の更なる安定化(補助物質を含まない調製物で65%及び結晶性調製物で10%と比較して80%超の0週における活性)は注目すべきである。本発明による混合物の乾燥過程の典型的な時間の推移は実施例6に例示される。ガラス様調製物を迅速に乾燥するために少くとも2のアミノ酸の本発明による混合物を作るために、少くとも1のアミノ酸及びその誘導体は、次の2つの群:
第1群:アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、シトルリン、リシン、オルニチン;
第2群:フェニルアラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、バリン、アラニン、グリシン、トリプトファン、アセチルフェニルアラニンエチルエステル、システイン、サルコシン
の各々から選択されなければならない。
【0020】
その2つの群の一方のみからの1つのみのアミノ酸又はいくつかのアミノ酸の単独の使用は、本発明による有利な調製物を導かない。本発明による物質混合物は、例えば、種々の量の無極性残基を含む双性イオン、例えばフェニルアラニン又はその誘導体を、生物学的又は治療的に活性な物質の安定剤の溶液と混合することによって見い出すことができる。次に、室温で乾燥した混合物が双性イオン添加物によって増加されたガラス転移温度を有するか否かを検査するためにDSC が用いられる。この過程において、ガラス転移温度は、本発明による添加物を含まない調製物と比較して、10K、好ましくは20K、特に40K増加される。本発明により有利である調製物は、部分的にアモルファスであり、4℃超、好ましくは20℃超、特に好ましくは40℃超のガラス転移温度を有し、そして6%未満、好ましくは4%未満の対応する残存水分を有する。かさ密度に相当するそれらの見掛け密度は、対応する凍結乾燥物のそれより少くとも10%、好ましくは50%高い。それらは、少くとも2週間、好ましくは2ヶ月、特に好ましくは1年、それらのもろく、ガラス様の、緻密な、部分的にアモルファスの構造を保持する。更に、それらの乾燥時間(即ち同じ残存水分が達成される時間)は、唯一の炭水化物又は無極性残基の双性イオンを含む物質の混合物とし比較して、好ましくは25%、特に好ましくは半分又は4分の1でさえ削減される。これらの物質の混合物は、粉砕され又は処理されて、例えば一般的な補助物質及び担体組み合わせて治療剤又は診断剤に用いることができる。治療剤は、一般的な補助物質及び添加物に加えて1又は数種類の治療に活性な剤を含む治療調製物である。それらは、治療に活性な溶液(例えば注入溶液)が液体(例えば減菌水又は緩衝液)の添加によってそれから調製される錠剤、カプセル又は固体物質の形態で存在し得る。更に、それらは、種々の方法による固体物質として、例えば鼻のスプレー、吸入剤又は経皮粉末等としての投与に特に適している。
【実施例】
【0021】
参考例1
マルトース−L−アルギニン−L−フェニルアラニン混合物の真空乾燥
1ml当り50mgのマルトース−水和物及び 0.1mgのポリソルベート80の含有量で溶液を調製した。次に、等しい割合(g/g)のL−アルギニン及びL−フェニルアラニンの量を増加させてこれに添加した。この方法で調製した溶液をろ過(0.22μmニトロセルロースフィルター)により減菌し、次に各々の場合、1mlの溶液を2mlバイアルに充填し、凍結乾燥ストッパーをそれらの上においた。この方法で調製したサンプルを減圧下で20℃で48時間、同様に真空乾燥した。乾燥させた後、サンプルの水分をKarl−Fischer に従って測定し、ガラス転移温度を示差熱分析(Perkin Elmer DSC7−サンプルの加熱比=10K/分)により測定した。測定した結果は、特定量のアミノ酸の添加がマルトースの乾燥特性を大きく変化させることを示す。 7.5mg超の各々のアミノ酸で、サンプルの水分は大きく減少し、そのガラス転移温度が対応して増加する。各々10mgのL−アルギニン及びL−フェニルアラニンにおいて、乾燥生成物中のアミノ酸の割合を更に増加させることにより更に増加させることができない値が達成される。ml当り50mgのマルトース−水和物及び 0.1mgのポリソルベート80を含む糖溶液にアミノ酸の量を増加させて加えた。乾燥後に生じた生成物は以下の水分及びガラス転移温度を有していた。
【0022】
【表1】

【0023】
参考例2:
スクロース−L−アルギニン−L−フェニルアラニン混合物の真空乾燥
等しい割合(g/g)のL−アルギニン及びL−フェニルアラニンの量を増加させて、1ml当り50mgのスクロース及び 0.1mgのポリソルベート80を含むスクロース溶液に加えた。参考例1の通りサンプルを調整し乾燥して分析した。各々10mgのアミノ酸の量で完全に結晶性の生成物を得た。ガラス転移を伴う部分的にアモルファスの生成物を、ml当り10mgのL−アルギニン及び10mgのL−フェニルアラニン超で同定することができた。この実施例において、溶液の乾燥特性がアミノ酸の添加により改良されたばかりでなく、そのシステムはこの添加により部分的にアモルファスの状態に転化した。1ml当り50mgのスクロース及び 0.1mgのポリソルベートを含む糖溶液にアミノ酸の量を増加させて加えた。乾燥後に生じた生成物は以下に示す水分及びガラス転移温度を有していた。
【0024】
【表2】

【0025】
比較例A
純粋な糖溶液の真空乾燥
50mg/mlの濃度のマルトース−水和物及びスクロース溶液を調整した。次にこれらの糖溶液をろ過し、充填して、参考例1の通り分析した。減圧下で50℃で72時間、乾燥した時でさえ、2mlバイアル中の50mgの糖をガラス転移が25℃超となるように満足いく残存水分に乾燥することができないことを示すことができた。マルトース生成物は粘性コンシステンシー(viscous consistency)を有し、 6.4%の残存水分を有した。ガラス転移は20℃であった。スクロースの場合、 6.0%の残存水がなお存在し、ガラス転移は14℃であった。比較として、純粋な糖溶液も減圧下で48時間、乾燥させた。生じた生成物は更により湿っており、それゆえガラス転移は50℃で乾燥したサンプルよりかなり低かった。この実験は、特定のアミノ酸の添加によってのみ、真空乾燥により残存水分を低下させるために注入ボトル又は同様の容器内で糖の層を乾燥させることが可能である。これにより、アミノ酸の添加による乾燥特性の改良が行われるのは明らかである。
【0026】
【表3】

【0027】
参考例3:
マルトース−L−フェニルアラニン及びマルトース−L−イソロイシン混合物の真空乾燥
本実施例においては、アミノ酸とマルトース−水和物との二成分混合物を調製した。この場合に用いたアミノ酸が乾燥を改良する特性を有するか否か及びその改良された乾燥効果が個々のアミノ酸の量にいかに依存するかを検査することを意図する。L−フェニルアラニン又はL−イソロイシンの量を増加させて、ml当り50mgのマルトース−水和物を含む溶液に加えた。この方法で調製した溶液をろ過(0.22μmニトロセルロースフィルター)により滅菌し、次に各々の場合、1mlの溶液を2mlバイアルに満たし、凍結乾燥ストッパーでキャップした。この方法で調製したサンプルを減圧下で20℃で48時間、真空乾燥した。乾燥した後、Karl−Fischer に従って4回重複で各々のサンプルの水分を測定し、ガラス転移温度を、各々の混合物の2つのサンプルの示差熱分析(Perkin Elmer DSC7−サンプルの加熱比=10K/分)により測定した。
【0028】
a.結果のマルトース−フェニルアラニン
測定結果は、マルトースの乾燥特性へのL−フェニルアラニンの肯定的な影響を明らかに示す。ごく少量のL−フェニルアラニンが、一定の乾燥条件下で糖ガラスのガラス転移温度を約50℃だけ増加させるのに適する(図1a及び1b)。その改良された乾燥効果は最大で10mg/mlのL−フェニルアラニンに達する。大量のL−フェニルアラニンを加えることによっては更なる改良を達成することができない。これによ、L−フェニルアラニンの添加は純粋なマルトースと比べて約80℃だけガラス転移温度を増加させた。大量のL−フェニルアラニン(10〜20mg/ml)では、この実験において乾燥特性に関して差は認められなかった。しかしながら、これは、乾燥期間を短くする変化をする。この場合、ガラス転移の増加は、ml当り10〜20mgの範囲でL−フェニルアラニンを増加させても見ることができる。表4は、糖溶液中のL−フェニルアラニン及び結果として生ずる残留水分の量並びにガラス転移温度Tgを示す。
【0029】
【表4】

【0030】
更に、真空乾燥したフェニルアラニン、マルトース並びにフェニルアラニン及びマルトースの本発明による混合物の粉末ディフラクトグラムを記録した。(図2a,2b,2c)。純粋なフェニルアラニンは、結晶性物質の典型的なディフラクトグラムを示したが(図2a)、マルトースはアモルファス物質のディフラクトグラムを示した(図2b)。本発明による混合物の場合のみ、広いバックグラウンドシグナル上の分離した回析最大値として認識することができる部分的にアモルファスの構造が形成された(図2c)。
【0031】
b.結果のマルトース−L−イソロイシン
種々の量のL−イソロイシンを、1ml当り50mgのマルトース−水和物を含む保存溶液に加え、その個々の混合物を20℃で乾燥させた。アミノ酸の量を増加させた時の乾燥効果の改善は明らかである。20mg/mlのL−イソロイシン(混合比5:2(重量))の添加は約20℃だけマルトース生成物のTgを増加させる。表5は、糖溶液中のL−イソロイシン及び結果として生ずる残存水分の量並びにガラス転移温度Tgを示す。
【0032】
【表5】

【0033】
参考例4:
スクロース−L−ロイシンの真空乾燥
種々のアミノ酸を含むスクロースの二成分混合物を以下の実験で調製した。その目的は、用いたアミノ酸がスクロースへの改良された乾燥効果を有するか否かを検査することであった。ml当り50mgのスクロースを含む溶液にL−ロイシンの量を増加させて加えた。その溶液を参考例3の通り処理した。
【0034】
結果のスクロース−L−ロイシン
スクロースは、少量のL−ロイシンと共に結晶性生成物を形成する。この結晶の形成は、L−アルギニン及びL−フェニルアラニンで参考例2でも観察することができる。これによりスクロースは、特定のアミノ酸と混合した時に結晶性生成物を形成する。純粋な糖及びより大きな割合のL−ロイシンとの混合物は、ガラス転移のあるシステムを形成する。これは、部分的にアモルファスの構造が存在することを意味する。これは、15mg/mlを超えるL−ロイシンの濃度のみが純粋なスクロースの乾燥特性を改善すること、及びガラス転移がこのアミノ酸の添加により約18℃だけ増加され得ることを意味する。それゆえL−ロイシンは改良された乾燥効果を有するアミノ酸である。表6は、最終生成物の糖溶液中のL−ロイシン及び結果としての残存水分の量並びにガラス転移温度Tgを示す。
【0035】
【表6】

【0036】
比較例B
スクロース−L−ヒスチジン混合物の真空乾燥
参考例4に記載されるように実験を行った。L−ロイシンのかわりにL−ヒスチジンを用いた。スクロース−L−ヒスチジン混合物は、真空下で乾燥した場合改良された乾燥効果が観察されたいアモルファス生成物を形成する。その構造は混合比とほとんど独立しないで乾燥し、混合物の残存水分及びガラス転移は純粋な糖の結果と同じオーダーの大きさのものである。結果として、L−ヒスチジンに改良された乾燥効果を有さない。表7は、糖溶液中のL−ヒスチジン及び結果としての残存水分の量並びに最終生成物のガラス転移温度を示す。
【0037】
【表7】

【0038】
参考例5:
スクロース−L−トリプトファン及びスクロース−N−アセチル−L−フェニルアラニンエチルエステル(APE) 混合物の真空乾燥
ml当り10mgのL−トリプトファンを含む溶液及びml当り3mgのAPE を含む溶液を本実験において調製した(APE は限られた水での溶解度を有するだけである)。スクロースを、量を増加させて両方の溶液に加えた。この方法で得た溶液を参考例3に記載される通り処理し、乾燥させた。この実験において、スクロース溶液(50mg/ml)を、比較として同じ乾燥条件下で乾燥させた。これは、最終生成物中で9.98%の残存水分−6.25℃のガラス転移を有した。
【0039】
a.表8は、L−トリプトファン溶液中のスクロースの量及び残存水分並びに最終生成物のガラス転移温度を示す。
【0040】
【表8】

【0041】
b.表9は、APE 溶液(3mg/ml)中のスクロースの量及び結果としての残存水分並びに最終生成物のガラス転移温度を示す。
【0042】
【表9】

【0043】
結果は、L−トリプトファン及びAPE の検査した両方の物質が改善された乾燥効果を示すことを示す。部分的にアモルファスの生成物のガラス転移温度は、L−トリプトファンを用いて一定の乾燥条件で約45℃だけ増加し得る。APE を用いる一定乾燥条件でガラス転
移温度を20℃だけ増加させることが可能である。
【0044】
参考例6:
この実験において、マルトース−水和物又はスクロースの二成分混合物を、1のL−アミノ酸と共に調製した。この場合、アミノ酸は5:2〜1:1のアミノ酸に対する糖の重量比で糖溶液に加えた。その目的は、各々のアミノ酸が対応する糖で改良された乾燥効果を示すか否かを検査することである。その溶液を調製し、参考例4に記載されるように処理し、乾燥させた。詳しくは、これらは以下の混合物であった。
【0045】
a.マルトース−水和物を含む混合物
【0046】
【表10】

【0047】
b.スクロースを含む混合物
【0048】
【表11】

【0049】
乾燥の結果は、L−ヒスチジンが糖の乾燥特性への肯定的な影響を有さない(表10)。L−セリンは、糖の乾燥を更に悪化させる(表11)。L−ロイシン、L−イソロイシン及びL−メチオニンは改良された効果を有する(表10)。これは、糖溶液に加えるこれらのアミノ酸の量を増加させる時に明らかになる。L−バリン及びL−アラニンが生成物中に大量のアミノ酸が存在する場合に乾燥を改善するだけであることが見い出される。乾燥作業へのL−フェニルアラニンの極めて優れた効果はスクロースとの二成分混合物でも明らかである(表11)。生成物は十分に乾燥し、極めて高いガラス転移を有する。
【0050】
比較例C
アミノ酸溶液又はアミノ酸塩の溶液の真空乾燥
個々のアミノ酸又は個々のアミノ酸の塩の溶液をろ過(0.22μmニトロセルロースフィルター)により調製した。各々1mlの溶液を2mlバイアルに分配し、凍結乾燥ストッパーでキャップした。この方法で調製したサンプルを減圧下で20℃で48時間、真空乾燥した。乾燥した後、サンプルの水分をKarl−Fischer に従って決定し、そのガラス転移温度を示差熱分析により測定した(Perkin Elmer DSC7−サンプルの加熱比=10K/分)。以下の溶液を乾燥させ、その残存水分及びDSC で測定した結果を得た。
【0051】
a.アミノ酸
【0052】
【表12】

【0053】
b.アミノ酸の塩
【0054】
【表13】

【0055】
結果は、真空乾燥後に結晶形態でアミノ酸が存在することを示す。塩基性及び酸性アミノ酸の塩のみがこれらの乾燥条件の間にアモルファス構造を形成するが、それはほとんど乾燥しておらず、それらのガラス転移温度は選択された条件下で室温未満にある。
【0056】
参考例7:
L−アルギニン−L−フェニルアラニン混合物及びL−アルギニン−L−イソロイシン混合物の真空乾燥
この実験において、L−アルギニン及びL−フェニルアラニンの種々の混合物を調製し、処理し、そして比較例Cのように検査した。特に以下の二成分混合物を調製し、乾燥させた。
【0057】
【表14】

【0058】
この実験は、単独で乾燥したなら結晶性生成物を生ずるであろう2つのアミノ酸を混合することにより、部分的にアモルファスの構造を作り出すことが可能であることを示す。選択した混合比において、これらは、高ガラス転移温度及び低残存水分の部分的にアモルファスの構造を生ずるのに十分に乾燥した。
【0059】
最も高いガラス転移と共に最適な混合比があることに興味がある。この実験において、 0.15mol/lのL−アルギニン及びL−イソロイシンを含む更なる溶液を調製した。
【0060】
【表15】

【0061】
この場合は、生成物は 53.27℃のガラス転移及び1.05%の残存水分で生じた。2つのアミノ酸を混合することにより、直ちに乾燥することができる部分的にアモルファスの構造を作製することが可能であった;そのガラス転移温度は鉱酸のアルギニン塩(比較例)と比較して約50℃増加した。
【0062】
実施例1:
L−アルギニン及びL−フェニルアラニンを含むマルトース製剤におけるrh−G−CSF 真空乾燥
ml当り50mgのマルトース、10mgのL−フェニルアラニン及び10mgのL−アルギニンを含む溶液を調製した。更に、この溶液は 0.1mgのポリソルベート80及び0.35mgのrh−G−CSF を含んでいた。その製剤のpH値を塩酸でpH7.4 に調節した。そのタンパク質溶液を無菌条件下で調製し、ろ過しポリビニリデンジフルオライドフィルター0.22μm)により滅菌した。次に、各々の場合、その溶液1mlを2mlバイアルに分配した。次に、凍結乾燥ストッパーが供された充填したバイアルを減圧下で20℃で48時間、等温で乾燥させた。乾燥生成物は、1.16%の残存水分及び75℃のガラス転移温度のものを生じた。この方法で調製したサンプルを種々の温度で保存し、種々の保存期間の後、タンパク質安定性を評価した。
【0063】
rh−G−CSF の場合、製造された生成物中に形成された二量体の割合は生成物の安定性を評価するための優れた示標である。それゆえ、排除クロマトグラフィー(条件当り4回の単一測定)により測定したモノマー及びダイマーの量は乾燥によって作られた我々の調製物の安定化作用のための基準である。排除クロマトグラフィーにおいて、それらの粒子サイズに従ってクロマトグラフィータンパク質分子を溶かした状態で分離する。即ち高分子構成物(ダイマー)をrh−G−CSF モノマーから分離する。冷却可能なオートサンプラー(Waters TM171) を用いてSimadzu からのHPLCシステムで実験(HP−SEC)を行った。Toso Haas company からのTSK ゲルG2000SW (7.5×300)カラムを分離カラムとして用いた。その分離した構成物を 214nmで分光光度で検出した(Simadzu photometer LC−GA)。 0.1mリン酸ナトリウム−カリウム緩衝液pH6.2 を移動溶媒として用い、それを室温で 0.6ml/分の流速で適用した。検査すべきサンプルを、最初の濃縮物を再び調製する(1mlの添加)方法で再蒸留水に溶かした。次にこれらの溶かしたサンプルを、検査するまで6℃に冷やしたオートサンプラー内に保存した。注入したサンプルの量は20μl(=7μgのG−CSF)であり、サンプルの作動時間は32分であった。その結果をG−CSF 作業標準を用いて評価した。その生成物を更に定性的に評価するために、銀染色でのSDS ゲル電気泳動を、更に各々の量測定のために行った。SDS ゲル電気泳動の結果を実施例1b、図9に示す。水溶液中でそのタンパク質は45℃〜47℃の間の温度で数分以内で、完全に変性する。この製剤においては、50℃の保存温度でさえ数週間、タンパク質を安定化することが可能であった。
【0064】
a.L−アルギニン及びL−フェニルアラニンを含む真空乾燥マルトース製剤におけるrh−G−CSF の安定性
【0065】
【表16】

【0066】
排除クロマトグラフィーの結果は、この製剤が、上述のように真空乾燥した製剤においてより長期間にわたってタンパク質rh−G−CSF を安定化することができることを示す。本実験は、L−アルギニン及びL−フェニルアラニンを含む真空乾燥した部分的にアモルファスのマルトース製剤においてガラス転移温度未満にrh−G−CSF を安定化することが可能であることを示す。
【0067】
b.活性物質rh−G−CSF を含む全ての製剤のSDS ゲル電気泳動の結果の報告
最初にSDS を含むポリアクリルアミドゲルを調製した。ここでその分離ゲルは15%アクリルアミドを含み、その捕集ゲルは3%アクリルアミド及び1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS) を含んでいる。サンプルの調製は、1の混合したサンプルを3の注入ボトルから調製するように行った。次にこのサンプル溶液を、 150μg/mlのrh−G−CSF 濃度となるように、ジチオトレイトール(DTT) 及びブロモフェノールブルーを含むサンプル緩衝液で希釈した。そのサンプルを、予め加熱した加熱ブロック内で95℃で5分、変性した。Boehringer Mannheim からのタンパク質“Combithek calibration proteins for chromatography MU 18000〜300000”を較正タンパク質として用いた。これらをrh−G−CSF サンプルと全く同様に調製して処理した。更に、比較として用いたrh−G−CSF 作業標準を調製した。Midgetゲル電気泳動ユニット(Pharmacia−LKB 2050) 及びそれに伴う電圧装置により、ゲル電気泳動を行った。電気泳動緩衝液を満たした後、20μlのサンプル(即ち3μgのrh−G−CSF)を各々のゲルポケットに満たした。ゲル電気泳動チャンバーを閉じて水冷に切りかえた後、80Vの電圧を適用し、捕集ゲルを通過した後、 130Vに増やした。ブロモフェノールブルーのバンドがゲルの端に達する直前に電気泳動を終えた。ゲルをチャンバーから除去し、再蒸留水で簡単に洗った。次にDaiichi 2D銀染色IIキットを用いて製造元の説明に従って銀染色を行った。染色を完了した後、ゲルを視覚的に評価した。
【0068】
【表17】

【0069】
この研究において、実施例1及び2の製剤のみがモノマーを示した。比較例D及びFにおいてはモノマーに加えてダイマーも存在し、実施例Eにおいてトリマーが更に検出される。比較例Gの結晶性L−バリン−L−グリシン調製物においては、その分子量がモノマーのそれより少ない2つのデグラデーション産物及びその分子量がモノマーとダイマーとの間にあるデグラデーション産物の2つの弱いバンドを観察する。
【0070】
この感度の高い方法は、1%超の量で存在するモノマーのデグラデーション及び凝集生成物が極めて十分に視覚化されるのを可能にする。
【0071】
比較例D
補助物質を添加しないrh−G−CSF の真空乾燥
この実験においては、希リン酸緩衝液(約0.01m)中0.35mg/mlの濃度でタンパク質rh−G−CSF のみを含む溶液を調製した。このタンパク質溶液を実施例1に記載されるように調製し、処理しそして分析した。この調製においては、残存水分及び最終生成物のガラス転移温度を決定することは技術的理由のため可能でない。補助物質のない真空乾燥rh−G−CSF についての安定性データ。
【0072】
【表18】

【0073】
純粋なタンパク質についての安定性データは、実施例1に記載される製剤の補助物質の極めて明らかな安定性効果を示す。また、この製剤の場合、銀染色でのSDS ゲル電気泳動を各々の研究において行った。結果については実施例1bを参照のこと。
【0074】
比較例E
純粋なマルトース製剤におけるrh−G−CSF 真空乾燥
1ml当り50mgのマルトース−水和物、 0.1mgのポリソルベート80及び0.35mgのrh−G−CSF を含む溶液を調製した。その製剤のpH値を水酸化ナトリウム溶液を用いて 7.4に調節した。出発溶液及び最終生成物を実施例1に記載される通り調製し、処理しそして分析した。参考例1に既に示したように、アミノ酸を添加せずに48時間以内にマルトースを低い残存水分まで感想させるのに困難である。それゆえ、 10.43%の残存水分及び−2℃のガラス転移温度の生成物が形成される。保存温度において、即ちガラス転移超において、アモルファスの砕けやすいガラスが存在しないかわりに高い粘度の粘着性の塊が存在した。アミノ酸を含まない真空乾燥したマルトース調製物中のrh−G−CSF の安定性
【0075】
【表19】

【0076】
SDS ゲル電気泳動の結果については実施例1bを参照のこと。結果は、アミノ酸なしで糖の塊中のrh−G−CSF を保存することが有利でないことを示す。その安定性は、真空乾燥したバルク(比較例D)中のそれ及び最適化した真空乾燥製剤(実施例1)中のそれよりかなり低い。この実験は、タンパク質が補助剤のアモルファス支持構造により安定化されている高いガラス転移の生成物を得るために真空乾燥する場合の糖にアミノ酸を加えることの必要性を明らかに示す。生成物をガラス転移温度未満に保存することは、活性物質の安定化に必要であると判明している。40及び50℃で保存されたこれらのサンプル中でマルトースは4週間後に完全に結晶化したことも注目すべきである。保存の間のサンプル中のこのような物理的変化は避けられるべきであり;それらはモノマー成分の減少を加速する。
【0077】
実施例2:
真空乾燥した糖を含まないL−アルギニン−L−フェニルアラニン製剤におけるrh−G−CSF
1ml当り20mgのL−アルギニン及び20mgのL−フェニルアラニン、 0.1mgのポリソルベート80並びに0.35mgのrh−G−CSF を含む溶液を調製した。そのpH値を塩酸でpH7.4 に調節した後、その溶液を実施例1の通り処理し、乾燥しそして分析した。乾燥を終えた後、77.0℃のガラス転移温度及び1.30%の残存水分の均一な生成物が存在した。真空乾燥したアルギニン−フェニルアラニン製剤におけるrh−G−CSF の安定性
【0078】
【表20】

【0079】
安定性実験の結果は、保存温度がガラス転移温度よりかなり低ければ、この製剤は、部分的にアモルファスの真空乾燥アミノ酸製剤において、タンパク質rh−G−CSF をより長期間、安定にすることができることを明らかに示す(例えば比較例C)。60℃での保存と比較した80℃での保存は、77℃のガラス転移温度に関するこの現象を示す。
【0080】
その生成物を更に定性的に評価するために、銀染色でのSDS ゲル電気泳動を各々の含有物の測定について行った。このSDS ゲル電気泳動の結果を実施例1bに示す。また、同じ製剤を種々の温度で1年、保存した。結果を表20aに示す。
【0081】
【表20a】

【0082】
その実験は、ガラス転移温度未満で真空乾燥した部分的にアモルファスのL−アルギニン−L−フェニルアラニン中でrh−G−CSFを安定化することが可能であることを示す。
【0083】
比較例F
リン酸を含む真空乾燥L−アルギニン製剤におけるrh−G−CSF ml当り40mgのL−アルギニン、 0.1mgのポリソルベート80及び0.35mgのrh−G−CSF を含む溶液を調製した。pH値をリン酸でpH7.4に調節した後、その溶液を実施例1に記載される通り処理し、乾燥し、そして分析した。その乾燥した最終生成物は3.59%の残存水分及び 8.6℃のガラス転移温度を有していた。それゆえこの生成物は、室温で乾燥を行った後、高い粘度の可塑性の塊として存在し、砕けやすいアモルファスのガラスとして存在しなかった。真空乾燥したL−アルギニン形成におけるrh−G−CSF の安定性。
【0084】
【表21】

【0085】
乾燥した部分的にアモルファスのガラス(実施例1及び17)で得られたのと同じ安定性効果を達成しない。これは、真空乾燥の間のそれらの乾燥特性を改良し、これにより室温において部分的にアモルファスのガラスを得るために、補助物質を巧みに混合するとの重要性を示す。これは、特に高温(30°及び40℃)において明らかである。安定性は、この材料において、補助物質を含まない真空乾燥活性物質(比較例Dを参照のこと)と比べて増加した。その生成物を更に定性的に評価するために、銀染色でのSDS ゲル電気泳動を、各々の成分の測定のために行った。このSDS ゲル電気泳動の結果を実施例1bに示す。
【0086】
比較例G
結晶性L−バリングリシン製剤におけるrh−G−CSF 真空乾燥
ml当り0.35mgのrh−G−CSF を、ml当り20mgのL−バリン及びグリシン並びに 0.1mgのポリソルベート80を含む溶液に加え、そのpH値を水酸化ナトリウム溶液でpH7.4 に調節した。その溶液を実施例1に記載されるように処理し、乾燥しそして分析した。乾燥後の検査は、その最終的なサンプルが0.82%の残存水分を有する結晶性生成物であったことを示す。真空乾燥した結晶性L−バリン−グリシン製剤におけるrh−G−CSF の安定性。
【0087】
【表22】

【0088】
この結果は、結晶性アミノ酸製剤は低い残存水分の時でさえrh−G−CSF を安定化することができないことを示す。このような製剤の不安定化効果は、補助物質を含まない真空乾燥rh−G−CSF を比較した場合に明らかである(比較例Dを参照のこと)。
【0089】
その生成物を定性的に評価するために、銀染色でのSDS ゲル電気泳動を、各々の成分の測定について更に行った。このSDS ゲル電気泳動の結果を実施例1bに示す。
【0090】
実施例3:
L−アルギニン及びL−フェニルアラニンを含むスクロース製剤におけるエリトロポイエチンの真空乾燥
1ml当り50mgスクロース、10mgのL−アルギニン及びL−フェニルアラニン並びに 0.1mgのポリソルベート20を含む溶液を調製した。1ml当り5000Uのエリトロポイエチン(EPO) をこの溶液に加え、そのpH値をリン酸でpH7.2 に調節した。その溶液を実施例1に記載される通り処理し、乾燥した。乾燥した部分にアモルファスの生成物は、0.56%の残存水分及び86.6℃のガラス転移温度を有するものであった。EPO の場合、製造された生成物中に形成されたダイマーの割合は、その生成物の安定性の評価のための優れた基準である。それゆえ、排除クロマトグラフィーにより決定したモノマー及びダイマーの量(条件当り3回の単一測定)は、乾燥により調製した我々の調製物の安定化効果についての基準である。
【0091】
排除クロマトグラフィーにおいて、タンパク質分子はそれらの粒径に基づいて溶けた状態で分離される。即ち高分子構成物(ダイマー)がEPO モノマーから分離される。オートサンプラー(Gilson Abimed 231)を用いて、ShimadzuからのHPLCシステムで、実験(HP−SEC)を行った。Toso Haas Co. からのTSK ゲルG3000SWXL (7.8×300mm)カラムを分離カラムとして用いた。その分離した構成物を 280nmにおいて分光光度で検出した(Merck 蛍光スペクトロホトメーター 820FP) 。塩化ナトリウムを含む0.41mリン酸ナトリウム−カリウム緩衝液pH7.3 を、室温で 0.6ml/分の流速で適用する移動溶媒として用いた。検査すべきサンプルを、最初の濃度を再び調製するように再蒸留水で溶かした(1mlの添加)。次にこれらの溶かしたサンプルを実験までオートサンプラーに保存した。サンプルの注入量は 100μl(=2μg EPO) であり、サンプルの稼動時間は25分であった。EPO 作業標準を用いて結果を評価した。
L−アルギニン及びL−フェニルアラニンを含む真空乾燥したスクロースにおけるEPO の安定性
【0092】
【表23】

【0093】
結果は、この場合に選択された補助物質の組合せを用いて真空乾燥することによりEPO を安定にすることが可能であることを示す。生成物を更に定性的に評価するために、銀染色でのSDS ゲル電気泳動を各々の成分の決定のために行った。ゲルの調製、電気泳動の手順及びゲルの染色は実施例1bに記載される通り行った。1つの混合したサンプルが3つの注入ボトルから調製されるようにサンプルを調製した。次にこのサンプル溶液をブロモフェノールブルーを含むサンプル緩衝液で希釈し、EPO 濃度20μg/mlとした。そのサンプルを予め暖めた加熱ブロックで95℃で5分、サンプルを変性した。“Bio-Rad Standard Low”を検定タンパク質として用いた。これをEPO サンプルと全く同様に調製し、処理した。更に、比較として用いるEPO 作業標準を調製した。Midgetゲル電気泳動ユニット(Pharmacia LKB 2050) 及びそれに伴う電圧装置によりゲル電気泳動を行った。電気泳動緩衝液で満たした後、20μlのサンプル(即ち 400ng EPO) を各々のゲルポケットに満たした。染色を終えた後、ゲルを視覚的に観察しゲルの写真をとった。このセンシティブな方法を用いて、1%超の量で存在するモノマーのデグラデーション及び凝集生成物を極めて十分に視覚化することが可能であった。
【0094】
電気泳動の結果
本明細書に記載される製剤においては、作業標準に相当する1つのモノマーのみが、9週間後に全てのサンプルにおけるゲルで検出された。これは、この製剤中のタンパク質の安定性を明確にする。
【0095】
比較例H
補助物質を添加しない真空乾燥エリトロポイエチン
この実験において、希リン酸緩衝液(約5mM)中に活性物質EPO(50000U/ml)のみを含む出発溶液を調製した。その溶液を実施例1に記載されるように調製し、処理しそして乾燥させた。
【0096】
この製剤においては、バイアル内に存在する量が極めて少かった(約 0.2mg)ので、技術的理由のため、最終生成物の残存水分及びガラス転移温度を決定することはできなかった。タンパク質の安定性を、実施例3に記載される通り、排除クロマトグラフィーにより評価した。
【0097】
補助物質を含まないEPO真空乾燥物の安定性
【0098】
【表24】

【0099】
銀染色でのSDS ゲル電気泳動も各々の成分の決定のために行った。ゲルの調製、サンプルの調製、電気泳動手順及びゲルの染色を実施例3に記載されるように行った。ゲルを染色した後、作業標準のバンドに相当するモノマーバンドに加えて、各々の保存温度で全てのサンプルにおいてダイマーバンドを明白に検出することが可能であった。この実験は、実施例3に用いられる補助物質の組合せの安定性効果を明らかに示す。この例における純粋な活性物質の安定性は、実施例3の製剤中の活性物質の安定性と比べて明らかに減少し;ダイマーの形成を観察することが可能である。保存温度が高くなるほど、実験10における補助物質の所定の組合せの保護効果がより重要である。
【0100】
実施例4:
マルトース−L−アルギニン及びL−フェニルアラニンを含む製剤中の真空乾燥した乳酸デヒドロゲナーゼ
1ml当り50mgのマルトース−水和物、10mgのL−アルギニン及び10mgのL−フェニルアラニンを含む溶液を調製した。 165U/mlのタンパク質活性となるようにこの溶液に乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH) を加えた。その溶液のpH値をリン酸を用いてpH7.0 に調節した。その溶液を実施例1に記載されるように、調製し、処理しそして乾燥させた。乾燥した後、96℃のガラス転移温度及び0.82%の残存水分の均一な生成物が存在した。その最終サンプルを種々の温度で保存し、そのタンパク質活性を種々の保存期間の後、評価した。LDHの場合、タンパク質安定性の基準として酵素活性を用いた。この測定は分光光度測定で行った。サンプル溶液中で、ピルビン酸塩及びNADHはLDH の触媒作用により乳酸塩及びNAD に還元される。その溶液中のNADH成分の減少は、分光光度測定でモニターすることができる(λ=365nm ;ε=3.4cm2/μmol)。プラスチックキュベット(経路=1cm)内の 100倍又は 200倍希釈した出発溶液中で活性を測定した(Perkin Elmer 552UV/UIS スペクトロホトメーター)。単位時間当りの減少によりLDH のタンパク質活性を計算することができた。L−アルギニン及びL−フェニルアラニンを含む真空乾燥マルトース製剤におけるLDH の安定性。出発溶液の活性は 100%に相当する。
【0101】
【表25】

【0102】
本実験は、極めてセンシティブなタンパク質LDH についての製剤の安定性効果を示す。
【0103】
比較例I
補助物質を添加しない乳酸デヒドロゲナーゼの真空乾燥
この実験において、 136U/mlの活性を揺する純粋な活性物質乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH) の溶液を希リン酸緩衝液(8mM)中に調製した。その溶液を実施例1に記載されるように調製し、処理しそして乾燥させた。この製剤においては、バイアル内に存在する量が極めて少い(約 0.2mg)ため、最終生成物の残存水分及びガラス転移温度を決定することは技術的理由でできない。タンパク質の安定性を実施例4に記載される通り評価した。補助物質のない真空乾燥LDH の安定性。出発溶液の活性に 100%の値に相当する。
【0104】
【表26】

【0105】
この実験は、実施例4で用いた補助物質の組合せの安定性効果を明らかに示す。この例における純粋な活性物質の安定性は、実施例4の製剤の活性物質の安定性よりかなり低い。保存温度が高くなるほど実施例4の補助物質の所定の組合せの保護効果がより大きくなる。純粋なタンパク質の安定性と補助物質の組合せ中で乾燥したタンパク質の安定性との間の差はLDH について最も顕著である。
【0106】
実施例5:
糖を含まない真空乾燥L−アルギニン−L−フェニルアラニン製剤中の乳酸デヒドロゲナーゼ
1ml当り20mlのL−アルギニン及び20mgのL−フェニルアラニンを含む保存溶液を調製した。 168U/mlのタンパク質活性を有する出発溶液を得るように、リン酸でpH値をpH7.0 に調節した後、これに乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を加えた。その溶液を実施例1に記載されるように調製し、処理し、そして乾燥させた。乾燥した後、 103.9℃のガラス転移温度及び1.18%の残存水分の均一な生成物が存在した。最終サンプルを種々の温度で保存し、そのタンパク質活性を種々の保存期間で評価した。実施例4に記載されるようにタンパク質分析を行った。真空乾燥した糖を含まないL−アルギニン−L−フェニルアラニン調製物中のLDH の安定性。乾燥前の出発溶液の活性は 100%の値に相当する。
【0107】
【表27】

【0108】
本実験は、全体の研究した温度範囲にわたってのこのアミノ酸製剤の安定性効果を明白に示した。LDH の安定性は、純粋な活性物質を乾燥させること(比較例I)と比べてかなり増加する。
【0109】
比較例J:
結晶性の真空乾燥したL−バリン−グリシン製剤における乳酸デヒドロゲナーゼ
1ml当り20mgのL−バリン及び20mgのグリシンを含む保存溶液を調製した。 147U/mlのタンパク質活性の出発溶液となるように、NaOH溶液でpH値をpH7.0 に調節した後、これに乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH) を加えた。その溶液を実施例1に記載されるように調製し、処理しそして乾燥させた。乾燥させた後、1.12%の残存水分の均一な完全に結晶性の生成物が存在した。その最終サンプルを種々の温度で保存し、実施例4に記載されるように種々の保存期間の後、そのタンパク質活性を評価した。真空乾燥した完全に結晶性のL−バリン−グリシン製剤中のLDH の安定性。乾燥前の出発溶液の活性は 100%の値に相当する。
【0110】
【表28】

【0111】
本実験は、結晶性アミノ酸形成が真空乾燥の間、酵素に極めて悪影響を与えることを明白に示す。結晶性支持性構造の形成の間を意味する乾燥の間でさえ既に90%の活性を喪失する。種々の温度で保存した時でさえ、なお存在する活性は維持され得ない。5週間後、サンプルのその最初の値は更に悪化した。これにより、完全に結晶性のアミノ酸形成はLDH を安定化するのに全体的に不適切である。
【0112】
実施例6:
この実験において、純粋なマルトース溶液(50mg/ml)並びにマルトース及びフェニルアラニンを含む溶液(40mg/mlのマルトース及び10mg/mlのフェニルアラニン)を真空乾燥した。これと平行して、10μg/mlのrh−ngf, 100μg/mlのPTH(1−37)又は 500μg/mlのウラリチドを加えた同様の調製物を調製した。その溶液を調製後に滅菌ろ過し、2mlバイアルに分配した。そのサンプルを20℃で真空乾燥し、所定の時間の後、両方の調剤からサンプルをとった。これらのサンプルにおいて残存する充填量、Karl−Fischer に従う水分及びTgを決定した。全体の乾燥時間の間、20℃のプレート温度を維持した。チャンバー内の圧力を段階的に約10-3mbarに減圧した。バイアルの充填重量は両方のこれらの調剤において、7時間以内に、最初の値の約6%に減少する。即ちその溶液に極めて迅速に濃縮した。純粋なマルトース調剤において、過飽和溶液を最初に形成し、次にそれをゴム様の状態に変化させた。更なる乾燥の過程において、純粋な糖溶液と比較して、フェニルアラニンを含む調剤の量の減少において少しの利点を観察することができる。マルトースサンプルの乾燥を終えた時にはもとの充填重量の約 5.5%がなおバイアル中に存在するのに対し、マルトース−フェニルアラニン混合物では、充填重量の約 4.9%がなお存在する。
【0113】
この結果は、充填重量の変化のかわりにサンプル中の水分の変化が観察される場合により顕著である。乾燥過程の始まりにおいて、その溶液は95.8%の水から構成され、即ち各々のバイアル中には約 965mgの水が含まれている。その目的は1〜2%の残存水分の乾燥生成物を作ることである。50mgの固体の量では、この1〜2%はボトル当り 0.5〜1mgに相当する。相応じて、存在する水の約 99.95%が、乾燥生成物を得るための乾燥の間、サンプルから昇華しなければならない。乾燥の段階の進展において、サンプルの水分をKarl Fischerに従って測定した。これは、そのサンプルをメタノール溶液に直接、導入することによってフェニルアラニンを含むサンプルについて行った。極めて接着性の糖は直接、メタノール溶液に移すことができない。これは最初に無水DMF に溶かした。次にこの溶液の水分を決定した。図3aは、この方法で行った残存水分測定の結果を示す。アミノ酸を含む調製物の利点を明らかに見ることができる。残存水分は、17時間だけの乾燥で既に 2.7%に減ったのに対し、マルトース調剤ではまだ 13.59%である。この結果は、フェニルアラニンを含む溶液の利点を示す。48時間以内にこれらの過程の条件下でマルトースを乾燥させることは可能でない。乾燥を終えた後、かなりの残存水分がある“ゴム”がRTにおいてなお存在する。残存水分に加えて、個々のサンプルのガラス転移温度をDSC により測定した。ガラス転移温度はサンプルの水分に直接、相当するので、マルトース−フェニルアラニンを含む混合物は、かなり増加した値を示す。その結果は、アミノ酸−糖混合物のTgは、約10時間後に既にプレート温度の範囲内である。対応する測定値を図3bに示す。乾燥過程のこの段階においては極めて少い水しかなおエバポレートしないので、その生成物温度もプレート温度の範囲内である。これにより、乾燥過程の10時間後、室温においてバイアル内にガラスが既に存在する。このような調剤でタンパク質を安定化する場合、これは、10時間後にタンパク質は既に安定化ガラス内に埋め込まれていることを意味する。それゆえ、タンパク質が濃縮溶液において又は“ゴム様”形態において存在する期間は極めて短かく、それは活性物質の安定性のための大きな利点である。対照的に、乾燥を室温で終えた後、純粋な糖はなお“ゴム”として存在し、これによりタンパク質を含む生成物の場合、活性物質への安定化効果がない。
【0114】
タンパク質を含む種々の調製物は、活性物質を含まない基本的な調剤のそれと、他の物理的パラメータにおいて異ならない。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1a】個々のマルトース−L−フェニルアラニン混合物のガラス転移温度。
【図1b】個々のマルトース−L−フェニルアラニン混合物の残存水分。
【図2a】真空乾燥したフェニルアラニン(水分 1.2%/結晶性)のパワーディフラクトグラム。 ディフラクトグラムは慣用的な装置(Phillips 1730 X−ray)及び関連するソフトウェアで記録した。温度は25℃で角分解能(2θ)は0.05°であった。測定条件:40kVチューブ電圧及び40mA電流強度で角度当り1秒。
【図2b】真空乾燥したマルトース(水分 4.0%,Tg=50℃)のパワーディフラクトグラム。 ディフラクトグラムは慣用的な装置(Phillips 1730 X−ray)及び関連するソフトウェアで記録した。温度は25℃で角分解能(2θ)は0.05°であった。測定条件:40kVチューブ電圧及び40mA電流強度で角度当り1秒。
【図2c】本発明による方法で調製したフェニルアラニン及びマルトース(水分 0.7%,Tg=88℃)のパワーディフラクトグラム。 ディフラクトグラムは慣用的な装置(Phillips 1730 X−ray)及び関連するソフトウェアで記録した。温度は25℃で角分解能(2θ)は0.05°であった。測定条件:40kVチューブ電圧及び40mA電流強度で角度当り1秒。
【図3a】残存水分。
【図3b】本発明によるマルトース/フェニルアラニン調製物のガラス転移温度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)炭水化物又はアルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、シトルリン、リジン及びオルニチンからなる群から選択される極性残基を有する双性イオンからなる群、並びに
(ii)フェニルアラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、バリン、アラニン、グリシン、トリプトファン、アセチルフェニルアラニンエチルエステル、システイン、及びサルコシンからなる群から選択される無極性残基を有する双性イオンからなる群
の各々の群からの少くとも1の物質から選択される物質混合物に加えて、タンパク質、ヒトペプチド、グリコプロテイン、リポタンパク質、酵素、補酵素、抗体、抗体フラグメント、ウイルス、ウイルス構成物、細胞及び細胞構成物、ワクチン、DNA、RNA、PNAからなる群から選択される1又は数種類の物質を含む乾燥した部分的にアモルファスの生成物を生産するための方法であって、
タンパク質、ヒトペプチド、グリコプロテイン、リポタンパク質、酵素、補酵素、抗体、抗体フラグメント、ウイルス、ウイルス構成物、細胞及び細胞構成物、ワクチン、DNA、RNA、PNAからなる群から選択される1又は数種類の物質、並びに前記物質(i)及び(ii)から溶液を調製し、該溶液を凍結することなく真空乾燥させることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記溶液が、緩衝液、界面活性剤、酸化防止剤、等張剤及び防腐剤からなる群から選択される一般的な補助物質を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記真空乾燥が連続的な乾燥過程として行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記乾燥が、先に凍結することなく凍結乾燥装置内で行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載の方法。
【請求項5】
前記物質混合物が、一回量の容器内で乾燥されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載の方法。
【請求項6】
得られた物質混合物が次に粉砕されて粉末を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一に記載の方法によって得ることができる物質混合物。
【請求項8】
前記混合物のガラス転移温度が4℃超であり、そして前記混合物の残存水分が6%(W/W)未満であることを特徴とする請求項7に記載の物質混合物。
【請求項9】
前記ガラス転移温度が20℃超であることを特徴とする請求項8に記載の物質混合物。
【請求項10】
前記残存水分が4%未満(W/W)であることを特徴とする請求項8又は9に記載の物質混合物。
【請求項11】
凍結乾燥物より少くとも10%高い見掛け密度を有することを特徴とする請求項7〜10のいずれか一に記載の物質混合物。
【請求項12】
脆性の部分的にアモルファスのガラス様の緻密な構造を有することを特徴とする請求項7〜11のいずれか一に記載の物質混合物。
【請求項13】
少くとも2週間の保存期間にわたって部分的にアモルファスの構造を保持することを特徴とする請求項7〜12のいずれか一に記載の物質混合物。
【請求項14】
前記混合物の乾燥時間が(i)の群の物質と比べて少くとも半分であることを特徴とする請求項7〜13のいずれか一に記載の物質混合物。
【請求項15】
請求項7〜14のいずれか一に記載の物質混合物を含むことを特徴とする診断剤。
【請求項16】
診断剤の生産のための請求項7〜14のいずれか一に記載の物質混合物の使用。
【請求項17】
請求項7〜14のいずれか一に記載の物質混合物を含むことを特徴とする治療用調製物。
【請求項18】
治療剤の生産のための、一般的な補助物質及び添加物を加えた、請求項7〜14のいずれか一に記載の物質混合物の使用。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3a】
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【図3b】
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【公開番号】特開2007−236975(P2007−236975A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141138(P2007−141138)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【分割の表示】特願平9−516286の分割
【原出願日】平成8年10月24日(1996.10.24)
【出願人】(591005589)ロッシュ ディアグノスティクス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (14)
【Fターム(参考)】