説明

凍結乾燥抗真菌組成物

(A)有効量のキャスポファンギンまたは医薬的に許容されるその塩と、(B)少なくとも約90℃のガラス転移温度Tg(s)を有している1種以上の非還元糖と、(C)約5から約7の範囲のpHを与えるために有効な量の酢酸塩バッファとを含み、1種以上の非還元糖対キャスポファンギンの重量比が約1.1:1から約10:1の範囲であり、組成物が約0.8重量%以下の含水率を有しており、組成物が少なくとも約55℃のガラス転移温度Tg(c)を有している凍結乾燥抗真菌組成物。凍結乾燥抗真菌組成物は室温以下の温度で優れた貯蔵安定度を有している。組成物は真菌感染症の予防または治療に使用するために復元できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真菌感染症の治療および/または予防に有用なキャスポファンギン含有医薬組成物を目的とする。
【背景技術】
【0002】
キャスポファンギンは大環状リポペプチドエキノキャンディンであり、その構造式はUS5952300の2欄、32行から52行に開示されている。キャスポファンギンはまた、US5958804に記載されており、その製造方法は、US5378804、US5552521、US5952300およびUS6136783に記載されている。キャスポファンギンは真菌細胞壁の一体的部分であるβ−(1,3)−D−グルカン合成阻害物質である。キャスポファンギンは抗生物質、特に抗真菌薬または抗原虫薬として有用である。キャスポファンギンは抗真菌薬として糸状真菌類および酵母の双方の防除に有用である。キャスポファンギンは、特に哺乳類の真菌感染症、とりわけC.albicans、C.tropicalis、C.krusei、C.glabrataおよびC.pseudotropicalisのようなCandida種ならびにA.fumigatus、A.flabusおよびA.nigerのようなAspergillus種によって引き起こされるこの種の感染症の治療に適用できる。より特定的には化合物がアンホテリシンBおよびフルコナゾールに耐性と推定されるCandida単離物に対して有効であることが知見された。化合物はまた、AIDS患者のような免疫抵抗が低下した患者が罹り易いPneumocystis carini肺炎の治療および/または予防に有用である。
【0003】
キャスポファンギンは典型的には静脈内注入用に復元される凍結乾燥組成物として使用される。好ましい凍結乾燥キャスポファンギン組成物は、US5952300に記載されているような酢酸塩緩衝生成物である。二酢酸塩、スクロース、マンニトール、氷酢酸および水酸化ナトリウムの形態のキャスポファンギンを含有する凍結乾燥酢酸塩緩衝生成物が特に重要である。このような生成物は35mg、50mgおよび70mg薬用量のCANCIDASという商品名でMerck & Co.Inc.から入手できる。CANCIDASは、発熱および好中球減少を示す患者の真菌感染症に対する経験療法、カンジダ血症およびその他のいくつかのCandida感染症の治療、食道カンジダ症の治療、ならびに、他の療法に抵抗性であるかまたは他の療法に寛容でない患者の侵襲性アスペルギルス症の治療に処方されている。
【0004】
CANCIDASのような凍結乾燥酢酸塩緩衝キャスポファンギン生成物は、環境保存条件下に低温(たとえば2℃から8℃)で優れた貯蔵安定度を特徴とする。より特定的には組成物は低温(たとえば5℃)で何ヶ月も保存でき保存に伴う劣化物形成は極めて少ない。それでもなお、低温の貯蔵安定度が改善されおよび/またはより高い温度で十分な貯蔵安定度を有している凍結乾燥キャスポファンギン含有生成物が要望されている。約5℃における貯蔵安定度の改善は製品の保存寿命を延長しこれによって製品損失の可能性を減らすであろう。室温で十分な貯蔵安定度が得られれば、冷蔵が不要になり、冷蔵に伴う特殊輸送費および付加的費用も不要になるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5952300号
【特許文献2】米国特許第5958804号
【特許文献3】米国特許第5378804号
【特許文献4】米国特許第5552521号
【特許文献5】米国特許第6136783号
【発明の概要】
【0006】
(発明の要旨)
本発明は、
(A)有効量のキャスポファンギンまたは医薬的に許容されるその塩と、
(B)少なくとも約90℃のガラス転移温度Tg(s)を有している1種以上の非還元糖と、
(C)約5から約7の範囲のpHを与えるために有効な量の酢酸塩バッファと、
を含み、
1種以上の非還元糖対キャスポファンギンの重量比が約1.1:1から約10:1の範囲であり、
組成物が約0.8重量%以下の含水率を有しており、
組成物が少なくとも約55℃のガラス転移温度Tg(c)を有している凍結乾燥抗真菌組成物を含む。
【0007】
本発明の凍結乾燥抗真菌組成物は室温以下(すなわち、約30℃以下)で優れた化学的貯蔵安定度を有している。組成物は典型的には、スクロースおよびマンニトールが使用され約40℃から約45℃の範囲のTg(c)を有している既知の凍結乾燥キャスポファンギン含有組成物の安定性を上回る安定性を有している。
【0008】
本発明の実施態様、形態および特定形態は、以下の記載、実施例および特許請求の範囲においてより詳細に記載されているかまたはそれらの記載から明らかであろう。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第一の実施態様(この文中では代替的に“実施態様E1”と表す)は、1種以上の非還元糖がトレハロース、スクロース、ラフィノース、ソルビトールおよびそれらの組合せから選択されている、原形として記載したような(すなわち、発明の要旨の項に記載したような)凍結乾燥組成物である。適切な組合せは、いずれか2種類の糖(たとえばトレハロースとスクロース)、いずれか3種類の糖(たとえばトレハロース、スクロースおよびソルビトール)または4種類の糖全部の組合せを含む。この実施態様の1つの形態において、1種以上の非還元糖はトレハロースであるか、または、トレハロースとスクロース、ラフィノースおよびソルビトールのいずれかとの混合物である。この形態の1つの特定形態において、非還元糖はトレハロースであるか、または、過半量のトレハロース(すなわち、トレハロースが混合物の50重量%を上回る)とスクロース、ラフィノースおよびソルビトールのいずれかとの混合物である。この形態の別の特定形態において、非還元糖はトレハロースであるか、または、少なくとも約80重量%のトレハロースとスクロース、ラフィノースおよびソルビトールのいずれかとの組合せである。
【0010】
本発明の第二の実施態様(実施態様E2)は、トレハロースが1種以上の非還元糖である、すなわち、組成物中に1種類の非還元糖が存在し該糖がトレハロースである、原形として記載したような凍結乾燥組成物である。この文中では代替的にまたはより簡単にこれを“トレハロースが非還元糖である”と表現する。
【0011】
本発明の第三の実施態様(実施態様E3)は、組成物の含水率が約0.5重量%以下である、原形として記載したようなまたは実施態様E1もしくはE2に提示したような凍結乾燥組成物である。
【0012】
本発明の第四の実施態様(実施態様E4)は、組成物の含水率が約0.3重量%以下である、原形として記載したようなまたは実施態様E1もしくはE2に提示したような凍結乾燥組成物である。
【0013】
本発明の第五の実施態様(実施態様E5)は、組成物のガラス転移温度Tg(c)が少なくとも約90℃である、原形として記載したようなまたは前出の実施態様のいずれかに提示したような凍結乾燥組成物である。
【0014】
本発明の第六の実施態様(実施態様E6)は、組成物のガラス転移温度Tg(c)が約90℃から約125℃の範囲である、原形として記載したようなまたは前出の実施態様のいずれかに提示したような凍結乾燥組成物である。
【0015】
本発明の第七の実施態様(実施態様E7)は、組成物の非還元糖対キャスポファンギンの重量比が約2:1から約8:1の範囲である、原形として記載したようなまたは前出の実施態様のいずれかに提示したような凍結乾燥組成物である。
【0016】
本発明の第八の実施態様(実施態様E8)は、組成物の非還元糖対キャスポファンギンの重量比が約2:1から約6:1の範囲である、原形として記載したようなまたは前出の実施態様のいずれかに提示したような凍結乾燥組成物である。
【0017】
本発明の第九の実施態様(実施態様E9)は、トレハロースが非還元糖であり、組成物の含水率が約0.5重量%以下であり、組成物のガラス転移温度Tg(c)が少なくとも約90℃であり、トレハロース対キャスポファンギンの重量比が約2:1から約8:1の範囲である、原形として記載したような凍結乾燥組成物である。この実施態様の1つの形態においてはガラス転移温度Tg(c)が約90℃から約125℃の範囲である。
【0018】
本発明の第十の実施態様(実施態様E10)は、トレハロースが非還元糖であり、含水率が約0.3重量%以下であり、ガラス転移温度Tg(c)が少なくとも約90℃であり、トレハロース対キャスポファンギンの重量比が約2:1から約6:1の範囲である、原形として記載したような凍結乾燥組成物である。この実施態様の1つの形態においてはガラス転移温度Tg(c)が約90℃から約125℃の範囲である。
【0019】
本発明の第十一の実施態様(実施態様E11)は、キャスポファンギンまたはその塩と酢酸塩バッファと1種以上の非還元糖とを含む水溶液を凍結乾燥することによって調製され、溶液中で、
(A)キャスポファンギンまたはその塩が約5mg/mLから約200mg/mLの範囲の濃度を有している、
(B)1種以上の非還元糖がキャスポファンギンに対してmg/mL基準で約2:1から約10:1の範囲の濃度比を有している、および、
(C)酢酸塩バッファが約12.5mMから約200mMの範囲の濃度を有している、
ことを特徴とする、原形として記載したような凍結乾燥組成物である。
【0020】
実施態様E11の諸形態は、
(A1)1種以上の非還元糖がトレハロース、スクロース、ラフィノース、ソルビトーロおよびそれらの組合せから成るグループから選択された糖である、
(A2)トレハロースが非還元糖である、
(A3)組成物の含水率が約0.5重量%以下である、
(A4)組成物の含水率が約0.3重量%以下である、
(A5)組成物のガラス転移温度Tg(c)が少なくとも約90℃である、
(A6)組成物のガラス転移温度Tg(c)が約90℃から約125℃の範囲である、
(A7)組成物の(1種以上の)非還元糖対キャスポファンギンの重量比が約2:1から約8:1の範囲である、
(A8)組成物の(1種以上の)非還元糖対キャスポファンギンの重量比が約2:1から約6:1の範囲である、
(A9)トレハロースが非還元糖であり、組成物の含水率が約0.5重量%以下であり、ガラス転移温度Tg(c)が少なくとも約90℃である、
(A10)組成物は、含水率が約0.3重量%以下である以外はA9に提示した組成物と同じである、
(A11)トレハロースが非還元糖であり、含水率が約0.5重量%以下であり、ガラス転移温度Tg(c)が少なくとも約90℃であり、トレハロース対キャスポファンギンの重量比が約2:1から約8:1の範囲である、
(A12)トレハロースが非還元糖であり、含水率が約0.3重量%以下であり、ガラス転移温度Tg(c)が少なくとも約90℃であり、トレハロース対キャスポファンギンの重量比が約2:1から約6:1の範囲である、
(A13)組成物は、ガラス転移温度Tg(c)が約90℃から約125℃の範囲である以外はA11に提示した組成物と同じである、
(A14)組成物は、ガラス転移温度Tg(c)が約90℃から約125℃の範囲であるである以外はA12に提示した組成物と同じである、
ことを特徴とする、実施態様E11の記載と同じ凍結乾燥組成物を含む。
【0021】
本発明の第十二の実施態様(実施態様E12)は、凍結乾燥組成物の調製材料となる水溶液中で、
(A)キャスポファンギンまたはその塩の濃度が約30mg/mLから約50mg/mLの範囲である、
(B)(1種以上の)非還元糖対キャスポファンギンの濃度比が約4:1から約8:1の範囲である、
(C)酢酸塩バッファの濃度が約20mMから約60mMの範囲である、
ことを特徴とする、実施態様E11に提示したような凍結乾燥組成物である。
【0022】
本発明の第十三の実施態様(実施態様E13)は、トレハロースが非還元糖であり、組成物の含水率が約0.5重量%以下(たとえば約0.3重量%以下)であり、組成物のガラス転移温度Tg(c)が少なくとも約90℃(たとえば約90℃から約125℃の範囲)であることを特徴とする、実施態様にE12に提示したような凍結乾燥組成物である。
【0023】
本発明の第十四の実施態様(実施態様E14)は、凍結乾燥組成物の調製材料となる水溶液中で、
(A)キャスポファンギンまたはその塩の濃度が約30mg/mLから約50mg/mLの範囲である、
(B)トレハロースの濃度が約180mg/mLから約300mg/mLの範囲である(すなわち、トレハロース対キャスポファンギンの濃度比が約6:1である)、
(C)酢酸塩バッファの濃度が約20mMから約60mMの範囲である、
ことを特徴とする、実施態様E13に提示したような凍結乾燥組成物である。
【0024】
本発明の第十五の実施態様(実施態様E15)は、組成物が還元糖を実質的に含有しない、原形として記載したようなまたは上記実施態様もしくは形態もしくは特定形態のいずれかに提示したような凍結乾燥組成物である。還元糖は本発明の凍結乾燥組成物の安定性を損なう作用を有することがあり(後記参照)、従って組成物が還元糖をほとんどまたはまったく含有しないほうが好ましい。この文脈における“実質的に含有しない”という用語は、還元糖が凍結乾燥組成物の調製成分として使用されていないことおよび/または凍結乾燥組成物中に還元糖が本質的にまったく存在しないことを意味する。
【0025】
凍結乾燥組成物中のキャスポファンギンの“有効量”は、凍結乾燥組成物を復元したときに真菌感染症などを治療または予防するために治療的または予防的に有効な量で(たとえば非経口投与によって)使用できるキャスポファンギンの量(遊離塩基基準)である。
【0026】
“医薬的に許容される塩”という用語は、生物学的または他の観点から不都合のない(たとえば、毒性でなくまた他の観点からもそのレシピエントに有害でない)塩を表す。キャスポファンギン塩は好適にはモノ−、ジ−またはトリ−酸塩である。塩は、遊離塩基を有機または無機の酸で処理することによって適切に製造される。適切な塩は、遊離塩基を塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、マレイン酸、クエン酸または酢酸で処理することによって形成された塩のような酸付加塩を含む。
【0027】
“非還元糖”という用語は、銅のアルカリ性溶液を還元しない糖質を表す。非還元糖は第一級アミンを含有する化合物(たとえばアミノ酸)とのメイラード反応に参加しない。糖の還元性または非還元性は、Cu++からCu+への還元とこれに付随する糖の酸化とをモニターするフェーリング試験によって判定できる。非還元糖はフェーリング試験に反応しない(すなわち、酸化第一銅の形成に導かない)。本発明における使用に適した代表的な非還元糖は、トレハロース、スクロース、ラフィノースおよびソルビトールを含む。
【0028】
“還元糖”という用語は、銅のアルカリ性溶液を還元し(たとえばフェーリング試験に反応する)、第一級アミンを含有する化合物とのメイラード反応に参加する糖質を表す。
【0029】
この文中で言及したガラス転移温度(たとえばTg(s)およびTg(c))は、示差走査熱量測定法(DSC)を使用して測定した転移温度である。DSCはガラス状態とゴム状態との間の熱容量の変化を測定し、典型的にはDSCサーモグラムのベースラインの変化によって示される。
【0030】
本発明の凍結乾燥組成物のガラス転移温度Tg(c)は典型的には、組成物中の水分量の増加に伴って低下する。さらに、凍結乾燥組成物が比較的大量の水分を許容し適正なTg(c)が維持されている場合であっても、比較的大量の水分は他の理由からしばしば有害である。たとえば、水分は加水分解などによる有効成分の化学的劣化の原因となり得る。従って、本発明の凍結乾燥組成物は、低含水率を有することを特徴とする。より特定的には本発明の場合、(i)組成物中の水分量が約0.8重量%以下であり、(ii)凍結乾燥組成物のTg(c)が少なくとも約55℃であるならば、組成物が低含水率を有しており本発明の組成物であると考えることができる。本発明の組成物であるためには組成物が(i)および(ii)の双方を充たしていなければならない。たとえば、凍結乾燥組成物が約0.8重量%以下の含水率を有しているがTg(c)が約55℃を下回っているならば組成物は本発明の組成物ではない。さらに、凍結乾燥組成物が約55℃を上回るTg(c)を有しているが含水率が0.8重量%を上回っているならば組成物が低含水率を有するとは考えられないので本発明の組成物でない。本発明の凍結乾燥組成物は、典型的には約0.5重量%未満の含水率および約55℃を上回るTg(c)を有しており、好ましくは約0.5重量%未満の含水率および約90℃を上回るTg(c)を有している。
【0031】
本発明の凍結乾燥抗真菌組成物において使用される1種以上の非還元糖のガラス転移温度Tg(s)は、抗真菌組成物の凍結乾燥と同じやり方で(1種以上の)非還元糖を凍結乾燥した後の(1種以上の)糖のガラス転移温度である。凍結乾燥は(1種以上の)糖の非晶質形態を生じさせる。本発明に使用される1種以上の非還元糖のTg(s)値は少なくとも約90℃であり、典型的には約90℃から約125℃の範囲である。
【0032】
2種以上の非還元糖が使用されるとき、少なくとも約90℃でなければならないのは糖混合物の(凍結乾燥後の)Tg(s)値である。90℃未満のガラス転移温度をもつ非還元糖は、全部の非還元糖を合せたTg(s)が(凍結乾燥後に)約90℃以上になるという条件付きで組成物に含有させることができる。しかしながら一般には凍結乾燥組成物に使用される非還元糖のおのおのが少なくとも約90℃の個別ガラス転移温度を有している。
【0033】
凍結乾燥組成物の含水率はカールフィッシャー電量測定法によって測定される。該方法では、メタノールまたは他の適当な抽出試薬を使用して組成物から残留水を抽出する。次にメタノールまたは他の試薬中に存在する水を、水と反応して無色のヨウ化水素を形成するカールフィッシャー溶液で滴定する。水が完全に消費されると有色の遊離ヨウ素が出現し、これにより溶液の導電率変化の端点が指示される。次に滴定中に形成されたHIの量の測定値から含水率を測定できる。
【0034】
物質もしくは組成物の量または物質もしくは組成物の物理的特性(たとえば、含水率、Tg(c)、Tg(s)など)の値またはプロセスを特性付けるパラメーターの値などを修飾する“約”という用語は、たとえば本発明の凍結乾燥組成物の調製、キャラクタリゼーションおよび使用、実社会における濃縮物および使用溶液の調製に使用される典型的な測定および処理の手順、これらの手順中の不注意な過失、組成物の製造もしくは使用または手順の実行に使用した成分の製造、起源または純度の差異などによって生じ得る数値量の変動を表す。1つの実施態様において、“約”という用語は、報告された数値の±10%を意味する。この実施態様の1つの形態において、“約”という用語は、報告された数値の±5%を意味する。
【0035】
酢酸塩バッファの“有効量”は、本発明の凍結乾燥組成物の調製材料となる水溶液(すなわち、プレ凍結乾燥溶液)に指定範囲のpHを与えるバッファの量であり、必要ならば塩基(たとえばNaOHのような水酸化物)を加えて適宜調整する。
【0036】
明白な否定の記述がない限り、この文中のpHという用語は、周囲温度すなわち約20℃から約25℃の範囲の温度におけるpHを意味する。
【0037】
本発明の凍結乾燥組成物は、有効成分(すなわち、キャスポファンギン)またはその塩、酢酸塩バッファおよび(1種以上の)非還元糖に限定されない。組成物は、(i)(1種以上の)非還元糖に加えて少量の増量剤(たとえばポリオール)、または、(ii)BHT、BHA、アルファ−トコフェロールまたはアスコルビン酸のような抗酸化剤などの他の成分を含有できる。使用される場合、増量剤は典型的には(1種以上の)非還元糖に対して約10重量%未満、好ましくは約5重量%未満の量で存在する。
【0038】
本発明はまた、約0.8重量%未満の含水率を有している凍結乾燥抗真菌組成物の調製方法(この文中では代替的に“方法P1”と呼ぶ)を含む。該方法は、
(A)約5から約7の範囲のpHを有しており、有効量のキャスポファンギンまたは医薬的に許容されるその塩と、少なくとも約90℃のガラス転移温度Tg(s)を有している1種以上の非還元糖と、酢酸バッファとを含み、単位容量あたりの重量を基準として1種以上の非還元糖対キャスポファンギンの重量比が約1.1:1から約10:1の範囲である水溶液を調製する段階と、
(B)該水溶液を凍結乾燥して凍結乾燥抗真菌組成物を形成する段階と、
を含む。
【0039】
方法P1の第一の実施態様(この文中では代替的に“方法P1−E1”と呼ぶ)は、段階(A)がさらに、
(a1)1種以上の非還元糖を水に溶解させる段階と、
(a2)酢酸を添加し、次に塩基の添加によってpHを約4.5から約5.5の範囲に調整する段階と、
(a3)キャスポファンギンまたはその塩を添加し、追加量の塩基の添加によってpHを約5から約7の範囲の値(たとえば約6)に調整する段階と、
(a4)得られた水溶液を場合により濾過する段階と、
を含む、原形として記載した方法である。
【0040】
段階Aのサブ段階a1で2種類以上の非還元糖を使用する場合、糖は任意の好都合なやり方で溶解させることができる。たとえば、複数の糖を混ぜ合わせ、乾燥混合物を水に溶解させてサブ段階a2に使用する溶液を調製してもよく、あるいはまた、個々の糖を別々の分量水に溶解させて別々のサブ水溶液を調製し、別々のサブ水溶液を加え合わせ、必要ならば場合により希釈することによってサブ段階a2に使用する溶液を調製してもよく、あるいはまた、個々の糖を別々に同一の分量水に加えて溶解させ、必要ならば場合により希釈することによってサブ段階a2に使用する溶液を調製してもよい。別々に添加する場合、個々の非還元糖は同時に添加してもよくまたは任意の順序で異なる時期に添加してもよい。
【0041】
方法P1の第二の実施態様(実施態様P1−E2)は、段階Aで得られた水溶液中でキャスポファンギンまたはその塩が約5mg/mLから約200mg/mLの範囲の濃度を有しており、(1種以上の)非還元糖対キャスポファンギンの濃度比が約2:1から約10:1の範囲である、原形として記載したまたは実施態様P1−E1に提示した方法である。
【0042】
方法P1の第三の実施態様(実施態様P1−E3)は、段階Aで得られた水溶液中でキャスポファンギンまたはその塩が約30mg/mLから約50mg/mLの範囲の濃度を有しており、(1種以上の)非還元糖対キャスポファンギンの濃度比が約4:1から約8:1の範囲である、原形として記載したまたは実施態様P1−E1に提示した方法である。
【0043】
方法P1の第四の実施態様(実施態様P1−E4)は、1種以上の非還元糖がトレハロース、スクロース、ラフィノース、ソルビトールおよびそれらの混合物から成るグループから選択される、原形として記載したまたは実施態様P1−E1からP1−E3のいずれかに提示した方法である。
【0044】
方法P1の第五の実施態様(実施態様P1−E5)は、トレハロースが非還元糖である、原形として記載したまたは実施態様P1−E1からP1−E3のいずれかに提示した方法である。
【0045】
方法P1の第六の実施態様(実施態様P1−E6)は、凍結乾燥組成物の含水率が約0.5重量%以下である、原形として記載したまたは上記実施態様P1のいずれかに提示した方法である。
【0046】
方法P1の第七の実施態様(実施態様P1−E7)は、凍結乾燥組成物の含水率が約0.3重量%以下である、原形として記載したまたは上記実施態様P1のいずれかに提示した方法である。
【0047】
方法P1の第八の実施態様(実施態様P1−E8)は、凍結乾燥組成物が少なくとも約90℃(たとえば約90℃から約125℃の範囲)のガラス転移温度Tg(c)を有している、原形として記載したまたは上記実施態様P1のいずれかに提示した方法である。
【0048】
本発明はまた、原形として記載したまたは上記実施態様P1のいずれかに提示した方法によって製造された凍結乾燥抗真菌組成物を含む。
【0049】
方法P1の段階(A)で得られた水溶液のフリーズドライ(すなわち凍結乾燥)は、最初に溶液を溶液の凝固点以下の温度(すなわち、溶液が冷却されてガラスを形成するならばそのガラス転移温度よりも低い温度、凍結溶液が結晶質ならばその共融点よりも低い温度)に冷却する段階を含む。次に凍結溶液を典型的には、乾燥室に入れ真空下で温度を次第に上昇させて水分をほとんど除去する第一乾燥段階、次に、第一乾燥段階に使用した温度よりも高い温度で凍結乾燥組成物の残留水分を除去する第二乾燥段階で処理する。凍結乾燥段階の完了には典型的には48時間以上を要する。次に、凍結乾燥組成物を後で使用するために適宜密封し保存する(たとえば、密栓バイアルに)。Tangら,Pharmaceutical Research 2004,vol.21,pp.191−200は、凍結乾燥に属する科学原理および適当な凍結乾燥方法の設計指針を記載している。また、Remington−The Science and Practice of Pharmacy,2006,21st edition,Lippincott Williams & Wilkins,pp.828−831にも凍結乾燥に関する記載が見出される。
【0050】
本発明の凍結乾燥組成物は、室温以下の温度で優れた化学的貯蔵安定度を有することを特徴とする。キャスポファンギンは2つの主な劣化生成物を有している。第一の劣化生成物は加水分解によってプレ凍結乾燥組成物中に形成され、第二の劣化生成物は分子内転位の結果として凍結乾燥組成物中に形成される。本発明の凍結乾燥組成物においては同一または同様の含水率を有している既知の類似組成物に比べて保存中の二次劣化生成物の増加が少ないことが知見された。
【0051】
本発明の凍結乾燥組成物は真菌感染症の予防または治療に使用するために復元される。従って本発明は、(i)発明の要旨の項に原形として記載したようなまたは実施態様E1からE15もしくそれらの形態もしくは特定形態のいずれかに提示したような凍結乾燥抗真菌組成物、または、(ii)原形として記載したまたは実施態様P1−E1からP1−E8のいずれかに提示した方法P1から得られた凍結乾燥抗真菌組成物を、非経口的に許容される溶媒で復元して抗真菌溶液濃縮物を形成し、次いで水を含む希釈剤に濃縮物を混合して配合物を提供する段階を含む、非経口投与用の抗真菌性液剤配合物の調製方法を含む。
【0052】
方法M1(この文中では代替的に“実施態様M1−E1”と呼ぶ)の第一の実施態様は、非経口的に許容される溶媒が水を含む、原形として記載した方法M1である。
【0053】
方法M1の第二の実施態様(実施態様M1−E2)は、非経口的に許容される溶媒が、0.9%塩化ナトリウム注射液、注射用滅菌水、メチルパラベンおよびプロピルパラベンと併用の注射用静菌水ならびに0.9%ベンジルアルコールと併用の注射用静菌水から成るグループから選択される、原形として記載した方法M1である。
【0054】
方法M1の第三の実施態様(実施態様M1−E3)は、希釈剤が、0.9%、0.45%または0.225%の塩化ナトリウム注射液または乳酸添加リンゲル注射液である、原形として記載したようなまたは実施態様M1−E1もしくはM1−E2に提示したような方法M1である。
【0055】
方法M1の第四の実施態様(実施態様M1−E4)は、濃縮物が約5mg/mLから約8mg/mLのキャスポファンギンを含有し、濃縮物の希釈によって得られた液体配合物が約0.2mg/mLから約0.5mg/mLのキャスポファンギンを含有している、原形として記載したまたはM1の上記実施態様のいずれかに提示した方法M1である。
【0056】
本発明はさらに、原形として記載した方法M1によってまたはM1の上記実施態様のいずれかに提示したように調製した非経口投与用の液剤形の抗真菌配合物を含む。
【0057】
本発明はさらにまた、最初に記載した方法M1によってまたは方法M1の上記実施態様のいずれかに記載したように調製した抗真菌性液剤配合物をその必要がある対象に非経口投与する段階を含む、真菌感染症の治療または予防方法を含む。
【0058】
本発明はまた、(i)真菌感染症の治療または予防に使用するため、(ii)真菌感染症の治療用または予防用医薬として使用するため、または、(iii)真菌感染症の治療用または予防用医薬の製造に使用するための、最初に記載した方法M1によってまたは方法M1の上記実施態様のいずれかに記載したように調製した抗真菌性液剤配合物を含む。
【0059】
本発明はさらにまた、(i)発明の要旨の項または実施態様E1からE15のいずれか、もしくはそれらのいずれかの形態もしくは特定形態に提示した凍結乾燥抗真菌組成物、または、(ii)原形として記載した方法P1または実施態様P1−E1からP1−E8のいずれかに提示した方法によって得られる凍結乾燥抗真菌組成物を収容している第一容器と、それを復元するための非経口的に許容される溶媒を収容している第二容器とを含むキットを含む。キットは、バイアル、撹拌器、蓋のような他の構成要素、ならびに、復元、混合、保存および/または使用に関する説明書を含み得る。
【0060】
この文中に使用した非経口投与は非限定的に、皮下注射または静脈内もしくは筋肉内注射または注入技術による配合物の投与を含む。本発明の抗真菌性液剤配合物は典型的には静脈内注入によって投与される。
【0061】
“非経口的に許容される溶媒”は、非経口投与中または非経口投与後に生物学的または他の観点から不都合を生じない(たとえば典型的には不測のアレルギー反応または他の有害イベントを生じない)溶媒である。
【0062】
非経口投与剤形の本発明の配合物を使用する投薬計画は、投与対象となる種のタイプ(すなわち、動物、好ましくは哺乳動物、もっとも好ましくはヒト)、患者の年齢、体重、性別および健康状態、治療される状態の重篤度、患者の腎機能および肝機能のような様々の要因に応じて選択される。平均的な技量の獣医または内科医は抗真菌感染症の予防または治療に適した用量を容易に判断し処方できる。ヒトへのキャスポファンギンの投薬量および投与に関するより詳細な記載はPhysician’s Desk Referenceの2007年版にIntravenous Infusion CANCIDASという見出しで提供されている。
【0063】
以下の実施例は本発明およびその実施の例示に役立つに過ぎない。実施例が発明の範囲または要旨を限定すると解釈してはならない。
【0064】
後出の実施例3で言及した高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)分析は、以下を使用して行った:カラム=Waters Symmetry C18(粒度5μm、250×4.6mm);カラム温度=周囲温度;検出=220nmのUV吸光度;オートサンプラー=約5℃に温度制御;希釈剤=アセトニトリル:酢酸ナトリウムバッファ;1:4;移動相A:0.1%過塩素酸,0.075%NaCl;移動相B:アセトニトリル;プログラム:
【0065】
【表1】

【0066】
キャスポファンギンの保持時間は20.3分である。
【実施例1】
【0067】
凍結乾燥キャスポファンギン二酢酸塩組成物の調製
トレハロース(11.99g)を30mLの水に溶解し、次いで氷酢酸(75μL;密度=1.049g/mL)を添加してpH約3の溶液とした。1NのNaOHを添加して溶液pHを約5.1に調整した後、キャスポファンギン二酢酸塩(2.23g=2.00gの遊離塩基)を添加し、混合物を穏やかに撹拌し、振盪してキャスポファンギンを泡立てないように溶解させた。次に、1NのNaOHを添加して溶液pHを6.0に調整した。次に水を加えて溶液の容量を50mLとし、得られた溶液を0.22μmフィルター装置で濾過した。このプレ凍結乾燥溶液は以下の組成を有していた:
キャスポファンギン二酢酸塩(遊離塩基当量)=40.0mg/mL
トレハロース=240.0mg/mL
氷酢酸=1.5mg/mL
NaOH=pH6を与える十分量
注射用水=1.00mLとする十分量。
【0068】
次に溶液の0.5mLのアリコートを3mL容の凍結乾燥バイアルに入れ、110℃で一夜乾燥しておいた13mmのブロモブチル溶媒栓(4405/50gray)(West Pharmaceutical Servicesから入手可能)でバイアルを部分的に閉栓した。
【0069】
次にVirTis Genesis凍結乾燥機を使用してバイアルを凍結乾燥した。バイアルを凍結乾燥トレーに載せ、トレーを凍結乾燥機の棚に積み込んだ。凍結乾燥組成物を得るために使用した段階のサイクルを以下に示す:
【0070】
【表2】

【0071】
凍結乾燥組成物を凍結乾燥状態で5℃、25℃および30℃で保存し、次に、実施例3に記載のやり方で1、2、4および6カ月後の安定性を試験した。
【0072】
ガラス転移温度
凍結乾燥組成物のガラス転移温度Tg(c)は、パージガスとして50mL/分の窒素ガス流下でDSC Q2000(TA Instruments)を使用して測定した。凍結乾燥組成物の複数のサンプル(おのおの約5mg)を窒素掃気したグローブボックス中で調製し、おのおのをアルミニウムDSCパンに載せ、密封した。これらのパンを対照となる空のパンとともにDSCで処理した。先ずパンを25℃で平衡させ、次いで60秒毎に±0.5℃ずつ変調し、次に2.5℃/分の速度で140℃の最終温度まで昇温させた。この測定によればサンプルは97±2℃のTg(c)を有していた。
【0073】
トレハロースの複数のサンプルをキャスポファンギン二酢酸塩組成物について上記に提示したやり方と同じやり方で凍結乾燥させた。凍結乾燥トレハロースサンプルのおのおののガラス転移温度Tg(s)は前文節に記載したTg(c)の測定に使用した計器および手順を使用して測定した。サンプルの平均Tg(s)は118±2℃であった。
【0074】
含水率
凍結乾燥組成物の含水率は、カールフィッシャー電量測定法(抽出試薬−容量比1:1のメタノール:ホルムアミド)によって測定し、0.3±0.2重量%(n=3)という結果が得られた。
【実施例2】
【0075】
凍結乾燥組成物の調製
以下の表2に挙げた凍結乾燥組成物2−1から2−10は、凍結乾燥サイクルの二次乾燥を25℃でなく15℃で行った以外は実施例1の凍結乾燥組成物について提示したやり方と同様のやり方で調製した。凍結乾燥組成物のTg(c)および含水率は実施例1に記載したやり方と同様のやり方で測定した。表2はまた、実施例1で調製した組成物および市販製品CANCIDASの対応する値を示している。
【0076】
【表3】

【0077】
調製直後に各凍結乾燥組成物の安定性を実施例3に記載のやり方で試験した。表2の凍結乾燥組成物はそれらの含水率に違いがある。前述したように、水分はたとえば加水分解によるキャスポファンギンの化学的劣化の原因になり得る。しかしながら、これらの組成物のすべてにおいて含水率は実施例3に報告した安定性結果の解釈の有意な要因となるほど高くないと考えられる。すなわち、実施例3で観察された安定性の傾向は主として、組成物中に使用された糖の選択および相対量に起因し、含水率の何らかの違いに起因するものではないと考えられる。
【実施例3】
【0078】
安定性試験
.各組成物のサンプルを複数の温度ステーションのおのおのに配置し、2週後、4週後および8週後のそれらの安定性をモニターすることによって組成物2−3、2−4、2−5、2−6および2−7の安定性を比較した。これらの組成物のおのおのの3つのバイアルを以下のステーションのおのおのに各時点で配置した:5℃、相対湿度(RH)65%で25℃および75%RHで40℃(注:凍結乾燥組成物は水分変化が生じないように栓およびキャップの付いたガラスバイアルに密封されているのでRHは重要なパラメーターであるとは考えられない)。サンプルバイアルの最初の2週後の安定性の試験は、HPLCを使用し、サンプル中のキャスポファンギンの量を測定することによって行った。次に実施例2−3、2−4および2−7を試験用に選択して4週後に比較し、引き続いて実施例2−3および2−4を試験用に選択して8週後に比較した。8週後に得られた選択的結果は2週後および4週後の結果に矛盾しなかった。これらの結果を以下の表3−Aに示す。
【0079】
【表4】

【0080】
表3−Aのデータは、キャスポファンギンの減量について試験した組成物のうちで実施例2−4の凍結乾燥組成物が最も安定であることを示す。データはまた、トレハロースを含有している配合物(2−4,2−5,2−6)がトレハロース非含有配合物(2−3および2−7)よりも安定であることを示す。特定の理論に固執するつもりはないが、ラクトース含有配合物で観察された低安定性は、ラクトースのような還元糖と求核性アミノ基を含有するキャスポファンギンのような分子との間で生じるメイラード反応に起因すると考えられる。
【0081】
.各組成物のサンプルを複数の温度ステーションのおのおのに配置しそれらの安定性を4週間隔で8週間モニターすることによって組成物2−1、2−8、2−9および2−10の安定性を比較した。より詳細には、これらの組成物のおのおのの3つのバイアルを以下のステーションのおのおのに各時点で配置した:5℃、65%RHで25℃、60%RHで30℃および75%RHで40℃。サンプルバイアルの安定性試験は、HPLCを使用し、サンプル中のキャスポファンギンの量および時間の経過に伴って凍結乾燥ケーキ中に形成されるキャスポファンギン劣化物の量(キャスポファンギンの重量%として測定)を測定することによって行った。結果を以下の表3−Bに示す。
【0082】
【表5】

【0083】
表3−Bの結果は、トレハロース含有凍結乾燥組成物の安定性がトレハロース非含有凍結乾燥組成物の安定性よりも優れていること(すなわち、スクロースおよびマンニトール含有の実施例2−1参照)、および、トレハロース含有凍結乾燥組成物の安定性がトレハロースの濃度増加に伴って向上することを示す。より詳細には、トレハロース対キャスポファンギン遊離塩基の比が0.5から1.0次いで2.0まで増加すると、30℃で8週後の劣化物の生成はそれぞれに2.3%から1.8%次いで1.6%まで減少する。40℃でも同様の傾向が観察された。
【0084】
.各組成物のサンプルを複数の温度ステーションのおのおのに配置しそれらの安定性を4週後、8週後、16週後、24週後および72週後(72週後の測定は30℃の実施例1の配合物だけ)の時点でモニターすることによって実施例1および2−2の組成物の安定性を比較した。より詳細には、2つの組成物のおのおのの3つのバイアルを以下のステーションのおのおのに各時点で配置した:5℃、65%RHで25℃、60%RHで30℃および75%RHで40℃。サンプルバイアルの24週までの安定性試験は、HPLCを使用し、サンプル中のキャスポファンギンの量および時間の経過に伴って凍結乾燥組成物中に形成されるキャスポファンギン劣化物の量(キャスポファンギンの重量%として測定)を測定することによって行った。結果を以下の表3−Cに示す。表3−Cは、各ロットが35mg、50mgおよび75mgのキャスポファンギンを含有する凍結乾燥製品を含む市販製品MP(CANCIDASTM)の異なる2つのロットに基づく履歴データを含む。
【0085】
【表6】

【0086】
表3−Cの結果は、実施例1が市販製品および実施例2−2で観察されたよりも優れた長期間熱安定性を呈したことを示す。より詳細には、30℃で24週後および72週後に実施例1に生じた劣化物レベルはそれぞれ、24週後および52週後にMPに観察された劣化物レベルよりも著しく低い。30℃では実施例1が実施例2−2よりも高い劣化物レベルを有しているが、40℃では実施例1が実施例2−2よりもはるかに安定である。
【0087】
上記の明細書は例示目的で提示した実施例と共に本発明の原理を教示したものであるが、本発明の実施は以下の特許請求の範囲に含まれる通常の変更、応用および/または修正のすべてを包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)有効量のキャスポファンギンまたは医薬的に許容されるその塩、
(B)少なくとも約90℃のガラス転移温度Tg(s)を有している1種以上の非還元糖、および
(C)約5から約7の範囲のpHを与えるために有効な量の酢酸塩バッファ、
を含み、
1種以上の非還元糖対キャスポファンギンの重量比が約1.1:1から約10:1の範囲であり、
組成物が約0.8重量%以下の含水率を有しており、
組成物が少なくとも約55℃のガラス転移温度Tg(c)を有している凍結乾燥抗真菌組成物。
【請求項2】
トレハロースが非還元糖である請求項1に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項3】
組成物の含水率が約0.5重量%以下であり、ならびに組成物のガラス転移温度Tg(c)が少なくとも約90℃である請求項2に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項4】
キャスポファンギンまたはその塩、酢酸塩バッファおよび1種以上の非還元糖とを含む水溶液を凍結乾燥することによって調製され、前記溶液中で、
(A)キャスポファンギンまたはその塩が約5mg/mLから約200mg/mLの範囲の濃度を有している、
(B)1種以上の非還元糖がキャスポファンギンに対してmg/mL基準で約2:1から約10:1の範囲の濃度比を有している、および、
(C)酢酸塩バッファが約12.5mMから約200mMの範囲の濃度を有している、
請求項1に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項5】
トレハロースが非還元糖であり、凍結乾燥組成物の含水率が約0.5重量%以下であり、ならびに凍結乾燥組成物のガラス転移温度Tg(c)が少なくとも約90℃である請求項4に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項6】
凍結乾燥組成物が調製される水溶液中で、
(A)キャスポファンギンまたはその塩の濃度が約30mg/mLから約50mg/mLの範囲である、
(B)トレハロース対キャスポファンギンの濃度比が約4:1から約8:1の範囲である、および、
(C)酢酸塩バッファの濃度が約20mMから約60mMの範囲である、
請求項5に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項7】
凍結乾燥組成物が調製される水溶液中で、
(A)キャスポファンギンまたはその塩の濃度が約30mg/mLから約50mg/mLの範囲である、
(B)トレハロースの濃度が約180mg/mLから約300mg/mLの範囲である、および、
(C)酢酸塩バッファの濃度が約20mMから約60mMの範囲である、
請求項6に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項8】
約0.8重量%未満の含水率を有している凍結乾燥抗真菌組成物の調製方法であって、
(A)約5から約7の範囲のpHを有しており、有効量のキャスポファンギンまたは医薬的に許容されるその塩と、少なくとも約90℃のガラス転移温度Tg(s)を有している1種以上の非還元糖と、酢酸バッファとを含み、単位容量あたりの重量を基準として1種以上の非還元糖対キャスポファンギンの重量比が約1.1:1から約10:1の範囲である水溶液を調製する段階、および
(B)前記水溶液を凍結乾燥して凍結乾燥抗真菌組成物を形成する段階、
を含む方法。
【請求項9】
段階Aがさらに、
(a1)1種以上の非還元糖を水に溶解させる段階、
(a2)酢酸を添加し、ならびに次に塩基の添加によってpHを約4.5から約5.5の範囲に調整する段階、
(a3)キャスポファンギンまたはその塩を添加し、ならびに追加量の塩基の添加によってpHを約5から約7の範囲に調整する段階、および
(a4)得られた水溶液を必要に応じて濾過する段階、
を含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
トレハロースが非還元糖である請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
段階Aで得られた水溶液中でキャスポファンギンまたはその塩の濃度が約5mg/mLから約200mg/mLの範囲の濃度を有しており、ならびにトレハロース対キャスポファンギンの濃度比が約2:1から約10:1の範囲である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
段階Aで得られた水溶液中でキャスポファンギンまたはその塩の濃度が約30mg/mLから約50mg/mLの範囲であり、トレハロース対キャスポファンギンの濃度比が約4:1から約8:1の範囲である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
得られた凍結乾燥組成物の含水率が約0.5重量%以下である請求項8から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項8から13のいずれかに記載の方法によって調製された凍結乾燥抗真菌組成物。
【請求項15】
請求項1から7および14のいずれか一項に記載の凍結乾燥抗真菌組成物を収容している第一容器と該組成物を復元するための非経口的に許容される溶媒を収容している第二容器とを含むキット。
【請求項16】
請求項1から7および14のいずれか一項に記載の凍結乾燥抗真菌組成物を非経口的に許容される溶媒で復元して抗真菌性溶液濃縮物を形成し、ならびに次いで水を含む希釈剤に濃縮物を混合して配合物を提供する段階を含む、非経口投与用の抗真菌性液体配合物の調製方法。
【請求項17】
非経口的に許容される溶媒が水を含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
非経口的に許容される溶媒が、0.9%塩化ナトリウム注射液、注射用滅菌水、メチルパラベンおよびプロピルパラベンと併用の注射用静菌水ならびに0.9%ベンジルアルコールと併用の注射用静菌水から成るグループから選択される請求項17に記載の方法。
【請求項19】
希釈剤が、0.9%、0.45%または0.225%の塩化ナトリウム注射液または乳酸添加リンゲル注射液である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
濃縮物が約5mg/mLから約8mg/mLのキャスポファンギンを含有し、ならびに濃縮物の希釈によって得られた液体配合物が約0.2mg/mLから約0.5mg/mLのキャスポファンギンを含有している請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項16から20のいずれか一項に記載の方法によって調製される非経口投与用の抗真菌性液剤配合物。
【請求項22】
請求項16から20のいずれか一項に記載の方法によって調製された抗真菌性液剤配合物をその必要がある対象に非経口投与する段階を含む、真菌感染症の治療または予防方法。

【公表番号】特表2010−531355(P2010−531355A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514771(P2010−514771)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/007810
【国際公開番号】WO2009/002481
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(390023526)メルク・シャープ・エンド・ドーム・コーポレイション (924)
【Fターム(参考)】