説明

凍結保存器

【目的】 船上等の採取場所において試料を十分に凍結保存し、試料を陸上研究施設等の目的場所へと良好な凍結保存状態で安全に運搬することができる凍結保存器を提供する。
【構成】 凍結保存器1は、上部に開閉自在な試料出入口22を有する断熱容器2と、試料出入口22から断熱容器2内に格納される試料収納ケース3と、断熱容器2内に装填された極低温液化ガスの含浸材4とを具備して、含浸材4に含浸された液化ガスにより断熱容器2内を極低温の気相雰囲気に保持するように構成したものである。含浸材4は、グラスファイバペーパを積層してなる。試料収納ケース3は、複数の試料収容箱31と、これらの試料収容箱31を上下積層状態で保持する保持枠32と、保持枠32を収納する収納体33aとこれに取り付けられた吊支杆33bとからなるキャニスタ33とを具備してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採取した各種試料(例えば、海底の堆積物や岩盤から採取した微生物含有のコアサンプルや臓器等)を採取場所(例えば、船舶等)から所定の目的場所(例えば、陸上の研究施設等)へと凍結保存状態で運搬することができる凍結保存器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、日米主導の国際的な科学プロジェクトである統合国際深海掘削計画(IODP)にあっては、海底の堆積物や岩盤からコアサンプルを採取して、そのサンプルに含まれる微生物等についての生物研究を行なうことが計画されているが、このような生物研究を行なう場合、船上では実験設備等が十分でないため、採取したコアサンプルの一部(試料)を船上で凍結保存して、実験設備等の充実する陸上の研究施設へと持ち帰る必要がある。
【0003】
このような試料の海上から陸上への運搬は、一般に、試料と共にドライアイスを収納した断熱容器を使用して行なわれている。しかし、このようなドライアイスを使用した凍結保存では、凍結保存状態が十分でないため、航海が長期に亘って行われる場合、陸上の研究施設に運搬されるまでの間に試料に含まれる微生物が死滅してしまう虞れがあった。
【0004】
このため、例えば非特許文献1に示されるように、極低温液化ガスである液体窒素を貯留した断熱容器を使用することも試みられている。このような液体窒素を使用した凍結保存方法によれば、試料の凍結保存が十分に行われ、航海が長期に亘る場合にも、試料に含まれる微生物の死滅を可及的に防止することができる。
【0005】
しかし、このような液体窒素を貯留した断熱容器を使用する場合には、試料の断熱容器への収納作業や断熱容器の運搬作業等において、液体窒素が漏洩する危険があり、不安定な船上での作業を安全に行い難いといった問題があった。
【0006】
【非特許文献1】カタログ「LN2凍結保存容器DR SERIES」大陽東洋酸素株式会社 2002年11月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題を生じることなく、船上等の採取場所において試料を十分に凍結保存し、試料を陸上研究施設等の目的場所へと良好な凍結保存状態で安全に運搬することができる凍結保存器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成すべく、上部に開閉自在な試料出入口を有する断熱容器と、試料出入口から断熱容器内に格納される試料収納ケースと、断熱容器内に配置された極低温液化ガスの含浸材とを具備して、含浸材に含浸された液化ガスにより断熱容器内を極低温の気相雰囲気に保持するように構成したことを特徴とする凍結保存器を提案する。
【0009】
かかる凍結保存器にあっては、断熱容器が複数の試料収納ケースを格納しうるものであり、断熱容器内には、各試料収納ケースの格納領域及びこれらの格納領域から試料出入口へと至る試料収納ケースの出し入れ領域を除いて、極低温液化ガスの含浸材が充填されていることが好ましい。また、含浸材としては、一般に、グラスファイバペーパを積層してなるものを使用することが好ましい。また、試料収納ケースは、横断面形状が円形をなす複数の試料収容箱と、これらの試料収容箱を上下に積層した状態で保持する保持枠と、試料収容箱を保持した保持枠を収納する有底円筒状の収納体及びこれに取り付けられて上方に延びる吊支杆からなるキャニスタとを具備して、吊支杆の上端部に形成した係合部を試料出入口の周縁部に係合させることにより、断熱容器内の格納領域に吊支状態で格納しうるように構成されていることが好ましい。この場合、試料収納ケースが吊支杆を除いて金属製のものであり、吊支杆が、金属製の係合部とキャニスタの収納体に取付けられる金属製の取付部とをプラスチック製の中間部で連結してなるものであることが好ましい。また、各試料収容箱は、海底より採取される柱状コアサンプルから得られた大型の円形試料を収納しうる大きさのものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の凍結保存器は、液体窒素等の極低温液化ガスをグラスファイバペーパ等の含浸材に含浸,保持させて、断熱容器内を極低温の気相雰囲気に保持しておくものであるから、断熱容器内に収納した試料を、ドライアイスを使用する場合に比して、十分に凍結保存することができると共に、液体窒素を貯留させておく場合に比して、試料の凍結保存作業や採取場所から海路,空路,陸路を経て目的場所への試料の運搬作業を安全に行うことができ、特に、海上で採取した試料の生物研究等を行なう上で極めて便利なものである。また、試料収納ケースを横断面形状が円形をなす複数の試料収容箱を上下に積層した状態で保持するものとしておくことにより、各試料収容箱に冒頭で述べたコアサンプルや臓器等の大型試料を細分化することなく、そのまま収納しておくことができ、かかる大型試料の凍結保存を簡便に行いうる。また、キャニスタ吊支杆の一部(中間部)を伝熱係数の低いエポキシ樹脂等のプラスチックで構成しておくことにより、試料収納ケースを吊支杆を介して断熱容器の試料出入口に吊支させておく場合にも、吊支杆からの熱損失を可及的に防止し得て、試料の凍結保存を良好に行うことができる。
【0011】
また、収納箱及び保持枠を用いることにより、コアサンプル等を他の収納箱に移し替える事無く、保管場所にある大型の凍結保存容器に保管することが可能となる。これにより、試料の移し替えに伴う、試料の昇温を防ぐことが可能となり、より安全に試料を輸送・保管することができる。
【0012】
また、従来、輸送したサンプルを保存する場合、輸送用の小型凍結保存容器のキャニスタから保存先の大型凍結保存容器のラック(収納箱及び保持枠)に移し替える必要があり、移し替えの際にサンプルの温度が昇温し、サンプルが死滅する可能性があった。しかし、本発明の凍結保存器によれば、試料収納ケース(収納箱、保持枠及び収納体)を用いることにより、サンプルの保管先で収納箱及び保持枠を取り出し、そのまま大型の凍結保存容器に移し替えることが可能となる為、サンプルの昇温を可能な限り減らすことができる。このように、本発明の凍結保存器は大型サンプルの運搬,保存システムとして好適するものであり、その実用的価値極めて大なるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明の凍結保存器1を示す縦断正面図であり、図2はその横断平面図であり、図3〜図5はその要部を示す斜視図である。
【0014】
凍結保存器1は、図1及び図2に示す如く、断熱容器2内に複数の試料収納ケース3を格納すると共に極低温液化ガスの含浸材4を充填してなる。
【0015】
断熱容器2は、図1及び図2に示す如く、上部にキャップ21により開閉される試料出入口22を有する横断面形状円形のものである。試料出入口22は、後述する横断面円形の試料収納ケース3を出し入れするに必要且つ十分な径(この例では、130mm)を有する円形状をなしている。断熱容器2の容積は、格納しようとする試料収納ケース3の数に応じて設定されるが、この例では、3個の試料収納ケース3を格納しうるに必要且つ十分な容積(55L)に設定されている。断熱容器2の周壁23は、アルミニウム製の二重壁構造であって、断熱材24を充填した真空構造をなしている。なお、周壁24内には、図示していないが、断熱材24と共に適宜の吸着材が装填されている。
【0016】
各試料収納ケース3は、図3に示す如く、複数の試料収容箱31と保持枠32とキャニスタ33とからなる。
【0017】
各試料収容箱31は、図5に示す如く、上面を開放した横断面形状が円形をなすもので、大型の円形試料5をそのまま収容できる大きさのものである。この例では、冒頭で述べた如く海底の堆積物や岩盤から採取される柱状コアサンプルを輪切りした円形試料5を収納しうるに十分な径及び深さを有するものとされている。具体的には、コアサンプルの採取は船上から内径100mmのドリルを使用して掘削すること等により行なわれるものであるから、試料収容箱31の径及び深さは夫々105mm及び50mmとされている。なお、試料収容箱31の周壁には、これを後述する保持枠32に出し入れするための操作孔31aが形成されている。また、試料収容箱31の底壁31bは、パンチングメタル等の透孔板で構成されている。
【0018】
保持枠32は、図5に示す如く、半円筒状の本体部32aと、本体部32aの上下端部に固着された上下壁部32b,32cと、上下壁部32b,32c間に等間隔を隔てて配置した状態で本体部32aに固着された複数の仕切壁部32dと、上壁部32bに取付けられたフック32eとからなり、上下壁部32b,32c及び仕切壁部32dの相互間に各々試料収容箱31を挿脱させることができ、複数の試料収容箱31を上下に積層した状態で保持しうるようになっている。なお、上下壁部32b,32c及び各仕切壁部32dは、試料収容箱31と同一径の円板形状をなすものであり、これの外周部の半分が本体部32aに溶接等により固着されている。
【0019】
キャニスタ33は、図3及び図4に示す如く、試料収容箱31を保持した保持枠32を収納しうる有底円筒状の収納体33aと、これに溶接等により取り付けられて上方に延びる吊支杆33bとからなる。収納体33aの内径及び深さは、保持枠32を収納しうるに必要且つ最小限の寸法に設定されている。吊支杆33bは、上端部を試料出入口22の周縁部に係合しうる屈曲状の係合部33cと、収納体33aに取り付けられた取付部33dと、両部33c,33c間を連結する中間部33eとからなり、係合部33cを試料出入口22の周縁部に係合させることにより、キャニスタ33を、断熱容器2内に吊支させておくことができるようになっている。この例では、試料出入口22の内周部に、図示していないが、周方向に等間隔(120度)を隔てて上下方向に延びる3本の係合溝が形成されており、各吊支杆33bの中間部33eをこの係合溝に係合させることにより、3個の試料収納ケース3つまりキャニスタ33を、断熱容器2内の予め設定された領域に吊支保持させておくことができるようになっている。すなわち、かかる吊支保持状態においては、3個のキャニスタ33の収納体33aが、図2に示す如く、断熱容器2内における試料出入口22の直下領域2aを除く円筒状領域に、周方向に等間隔(120度)を隔てて位置されるのである。以下、各収納体33aが位置する断熱容器2内の領域を試料収納ケースの格納領域2bという。そして、各試料収納ケース3つまりキャニスタ33は、吊支杆33bを操作して、収納体33aを格納領域2bから試料出入口22の直下領域2aにもたらすことによって、試料出入口22から出し入れすることができる。以下、この試料収納ケース3を出し入れするための上記直下領域を試料収納ケースの出し入れ領域2aという。
【0020】
ところで、試料収納ケース3の各構成部材は、吊支杆33bの中間部33eを除いて、耐低温性に優れた金属(例えば、SUS304等のステンレス鋼)で構成されている。一方、吊支杆33bの中間部33eは、吊支杆33bからの熱伝導による熱損失を防止するために、伝熱係数の低い高強度プラスチック(この例では、エボキシ樹脂)で構成されている。
【0021】
含浸材4は、図1及び図2に示す如く、断熱容器2内における出し入れ領域2a及び各格納領域2bを除く領域2c,2dに充填されている。含浸材4には極低温液化ガス(この例では液体窒素)が含浸,保持されていて、出し入れ領域2a及び各格納領域2bを含む断熱容器2の内部領域を極低温の気相雰囲気に保持する。すなわち、含浸材4は、断熱容器2の底部領域(出し入れ領域2a及び各格納領域2bの下部領域)2cに充填された円板状の第1含浸材41と、3つの格納領域2b相互間の各領域2dに充填された横断面形状が扇状をなす柱状の第2含浸材42とからなる。各含浸材41,42は、液体窒素を含浸(吸収),保持できるものであればよいが、この例では、グラスファイバペーパを積層したものが使用されている。含浸材4への液体窒素の含浸は、例えば、断熱容器2内に液体窒素を充填した上、余剰の液体窒素をサイホン管等を使用して、断熱容器2から排出させることによって行なわれる。ところで、液体窒素(沸点:−196℃)の含浸材4を使用することにより、断熱容器2内は−150℃以下の極低温雰囲気に保持される。−150℃以下である極低温雰囲気の保持時間は含浸材4の充填容積等によって異なるが、この例のものでは、試料5を保存した状態で30日程度となる。
【0022】
したがって、以上のように構成された凍結保存器1によれば、海上において、コアサンプルから得た円形試料5を試料収容箱31に収容し、試料収容箱31を保持枠32に保持させた上でキャニスタ3により断熱容器2内に格納することにより、試料5を瞬時に且つ十分に凍結して、試料5に含まれる微生物を良好に凍結保存することができる。このため、ドライアイスを使用した場合のように、陸上の研究施設への運搬途中に微生物が死滅するようなことがない。また、液体窒素が含浸材4に含浸,保持されていることから、不安定な船舶上における試料5の凍結保存作業(試料収納ケース3の断熱容器2内への格納作業)や運搬作業において液体窒素が断熱容器2から漏洩するといった危険がなく、これらの作業を極めて安全に行なうことができる。
【0023】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の基本原理を逸脱しない範囲において適宜に改良,変更することができる。例えば、断熱容器2内に格納する試料収納ケース3の数は、断熱容器2の容積等に応じて任意に設定することができ、1個の試料収納ケース3を格納するように構成することもできる。この場合、上記出し入れ領域2aを試料収納ケースの格納領域とし、上記格納領域2bを全て含浸材4の充填領域として使用することができ、凍結保存時間(−150℃以下に保持できる時間)を増大させることができ、試料の採取から目的場所への運搬までに要する時間が長い場合(例えば、航海期間が長い場合)にも、試料5の凍結保存を確実に行うことができる。また、本発明の凍結保存器1は、前記したコアサンプルや臓器等の大型試料を凍結保存する場合に最適するものであるが、アンプル等に収納される小型試料や微細試料を凍結保存する場合にも好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る凍結保存器を示す縦断正面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う横断平面図である。
【図3】当該凍結保存器の要部である試料収納ケースを示す斜視図である。
【図4】当該試料収納ケースの要部であるキャニスタを示す斜視図である。
【図5】当該試料収納ケースの要部である試料収容箱及び保持枠を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0025】
1 凍結保存器
2 断熱容器
2a 出し入れ領域
2b 格納領域
3 試料収納ケース
4 含浸材
5 試料
22 試料出入口
31 試料収容箱
32 保持枠
33 キャニスタ
33a 収納体
33b 吊支杆
33c 吊支杆の係合部
33d 吊支杆の取付部
33e 吊支杆の中間部
41a 第1含浸材
41b 第2含浸材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に開閉自在な試料出入口を有する断熱容器と、試料出入口から断熱容器内に格納される試料収納ケースと、断熱容器内に装填された極低温液化ガスの含浸材とを具備して、含浸材に含浸された液化ガスにより断熱容器内を極低温の気相雰囲気に保持するように構成したことを特徴とする凍結保存器。
【請求項2】
断熱容器が複数の試料収納ケースを収納しうるものであり、断熱容器内には、各試料収納ケースの格納領域及びこれらの格納領域から試料出入口へと至る試料収納ケースの出し入れ領域を除いて、極低温液化ガスの含浸材が充填されていることを特徴とする、請求項1に記載する凍結保存器。
【請求項3】
極低温液化ガスが含浸される含浸材が、グラスファイバペーパを積層してなるものであることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載する凍結保存器。
【請求項4】
試料収納ケースが、横断面形状が円形をなす複数の試料収容箱と、これらの試料収容箱を上下に積層した状態で保持する保持枠と、試料収容箱を保持した保持枠を収納する有底円筒状の収納体及びこれに取り付けられて上方に延びる吊支杆からなるキャニスタとを具備して、吊支杆の上端部に形成した係合部を試料出入口の周縁部に係合させることにより、断熱容器内の格納領域に吊支状態で格納されるように構成されていることを特徴とする、請求項1、請求項2又は請求項3に記載する凍結保存器。
【請求項5】
試料収納ケースが吊支杆を除いて金属製のものであり、吊支杆が、金属製の係合部とキャニスタの収納体に取り付けられる金属製の取付部とをプラスチック製の中間部で連結してなるものであることを特徴とする、請求項4に記載する凍結保存器。
【請求項6】
各試料収容箱が、海底より採取される柱状コアサンプルから得た円形試料を収納しうる大きさのものであることを特徴とする、請求項4又は請求項5に記載する凍結保存器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−271279(P2007−271279A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93580(P2006−93580)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【出願人】(505472506)株式会社クライオワン (3)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】