説明

凍結保存容器およびその製造方法

【課題】 容器の安定した製造、特に低温ヒートシール性に優れた凍結保存容器の開発が求められている。さらに、そのシール強度に優れたものであり、凍結保存時に容器が破損しにくい凍結保存容器の開発が求められている。
【解決手段】 本発明は、−80〜−196℃の極低温下で凍結保存容器を使用する方法であって、該使用方法は、生体試料を凍結保存容器に収容する工程を含み、該凍結保存容器は、少なくとも接着性含フッ素高分子フィルムと、該接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムとを含む積層フィルムで構成され、該接着性含フッ素高分子フィルムが少なくとも片方の最外面に存在するものであり、該接着性含フッ素高分子フィルムは、接着性部位を有する接着性含フッ素高分子からなり、該接着性部位が、炭素−炭素二重結合、カルボニル基[−C(=O)]、カルボニル基を有する基又は結合、ヒドロキシル基、シアノ基、スルホン酸基、およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1つである凍結保存容器の使用方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結保存容器、その製造方法に関する。具体的には、少なくとも接着性含フッ素高分子フィルムからなる凍結保存容器、好ましくは、少なくとも接着性含フッ素高分子フィルムと、耐寒性樹脂フィルムを含む積層フィルムで構成され、該積層フィルムの少なくとも片面が接着性含フッ素高分子フィルムである凍結保存容器に関する。
【背景技術】
【0002】
血液、稀少細胞および生体組織などの保存は、−80〜−196℃程度の極低温下で保存する方法が一般的である。特に骨髄細胞、造血幹細胞などの稀少細胞は、白血病などの難病治療に効果を有するものであり、長期保存の技術が求められている。このような極低温下での保存には、上記血液、稀少細胞および生体組織などを収容する容器に入れ、密封し、主に液体窒素内で保存することが一般的である。
【0003】
保存に使用する凍結保存容器は、例えば、実験室レベルでポリプロピレン製のバイアルが市販されており、安価で取り扱い上便利である。
また、近年臍帯血バンクの発展に伴い、耐寒性、可撓性に優れた袋状の容器が提案されている。例えば、ポリイミドフィルムとフッ素化エチレンプロピレン重合体フィルムとの積層フィルムからなるもの(特許文献1)や、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体フィルムからなるもの(特許文献2)等が提案されている。さらに、特許文献3には、電子線照射し2軸延伸されたエチレン−酢酸ビニル共重合体のフィルムで成形された凍結保存容器が開示されている。特許文献4には、2軸延伸された架橋ポリエチレンフィルムで成形された凍結保存容器が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1および2に開示されたフッ素系樹脂は融点が高く、高温でのヒートシールでの製造が求められるために、成型加工性に乏しく、このような過酷な条件で製造したにも関わらずシール強度が弱いために、凍結保存時にしばしば破損することがある。また、特許文献3および4に開示された延伸フィルムではヒートシール操作によってシール部分及びその周辺でフィルムが収縮してしわになり、実際の使用においては手荒な取扱いをするとしばしば破損する場合がある。さらに、特許文献3の積層フィルムはポリエステル、ポリウレタンおよびエポキシ等の接着剤により接着されているため、低温保存中に接着層が硬化し、積層フィルムが剥離してくることがあり、凍結保存容器としては決して適するものではない。
【0005】
一方、超高分子量ポリエチレンは、耐衝撃性、耐摩耗性、自己膨潤性、耐薬品性、耐寒性および無毒性である点で非常に優れているものの、極めて高い溶融粘度を有しているため、フィルムの製造方法は通常、粉末の原料レジンを圧縮成形等でブロック状成形品とした後、切削加工によって作製している。上記のように製造されたフィルムでは、その表面状態が粗面となっているので成形加工は決して容易ではない。また、バリがあるとフィルム表面のポリエチレンが脱落する可能性があり、医療用バッグとして用いた場合、異物混入の原因となる。また、圧縮加工成形は成形時にエアが取り込まれた状態になりやすく、次の工程で切削されたフィルムにピンホールが生じる可能性がある。
またシート同士あるいはシートとポート部品をヒートシールする場合、超高分子量ポリエチレンは分子量が100万以上と高いため、ポリエチレン分子鎖の流動性が悪い。そのためヒートシールが難しく、容器の安定した製造に問題があった。
【0006】
芳香族ポリイミドを用いた凍結保存容器としては、該ポリイミドを外層とし、無延伸ポリエチレンを内層とする積層体が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。この積層体は、内層の熱融着により袋形状化は可能かもしれないが、ポリイミドの非溶融加工性により、内層との積層をヒートロール等による熱ラミネーションにより行うことができず、接着剤を介在させる必要があり、上述の接着剤の問題が依然として残ってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭49−008079号公報
【特許文献2】実公昭55−055069号公報
【特許文献3】特公昭55−044977号公報
【特許文献4】特公昭62−057351号公報
【特許文献5】特開平7−246230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のことから、容器の安定した製造、特に低温ヒートシール性に優れた凍結保存容器の開発が求められている。さらに、そのシール強度に優れたものであり、凍結保存時に容器が破損しにくい凍結保存容器の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、接着性含フッ素高分子フィルムを凍結保存容器に用いることを提案する。
つまり、本発明は、
[1] 少なくとも接着性含フッ素高分子フィルムを含む凍結保存容器、
[2] 接着性含フッ素高分子フィルムは接着性部位を有する含フッ素高分子からなる[1]に記載の凍結保存容器、
[3] 接着性部位が、炭素−炭素二重結合、カルボニル基[−C(=O)]、カルボニル基を有する基又は結合、ヒドロキシル基、シアノ基、スルホン酸基、およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1つである[2]に記載の凍結保存容器、
[4] 接着性含フッ素高分子が、接着性部位として反応性官能基を有しており、以下の(A)と(B)を共重合して得られる共重合体である[3]に記載の凍結保存容器:
(A) 反応性官能基を有さない含フッ素モノマー
(B) 少なくとも1種類の反応性官能基を有する含フッ素モノマー、
[5] 反応性官能基を有さない含フッ素モノマーが、以下の式(1)で表現される[4]に記載の凍結保存容器:
【化1】

(式中のXおよびXはそれぞれ水素原子またはハロゲン原子であり、Yは水素原子、フッ素原子、炭素数1〜5の含フッ素アルキル基または炭素数1〜5の含フッ素オキシアルキル基である)、
[6] 反応性官能基を有さない含フッ素モノマーが、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、1,2−ジフルオロクロロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(ビニルメチルエーテル)およびパーフルオロ(ビニルプロピルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1つである[5]に記載の凍結保存容器、
[7] 反応性官能基を有する含フッ素モノマーが、以下の式(2)で表現される[4]〜[6]に記載の凍結保存容器:
【化2】

(式中のXおよびXはそれぞれ水素原子またはハロゲン原子であり、Zはヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホン酸基またはエポキシ基であり、Rは炭素数1〜40の含フッ素アルキレン基、炭素数1〜40の含フッ素オキシアルキレン基または炭素数1〜40の少なくとも1つのエーテル結合を有する含フッ素アルキレン基である)、
[8] 接着性含フッ素高分子が、以下の式(3)で表現される[4]に記載の凍結保存容器:
【化3】

(式中のXおよびXはそれぞれ水素原子またはハロゲン原子であり、YおよびYはそれぞれ水素原子、フッ素原子、炭素数1〜5の含フッ素アルキル基または炭素数1〜5の含フッ素アルコキシ基であり、Zはヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホン酸基またはエポキシ基であり、Rは炭素数1〜40の含フッ素アルキレン基、炭素数1〜40の含フッ素オキシアルキレン基または炭素数1〜40の少なくとも1つのエーテル結合を有する含フッ素アルキレン基であり、(l+m)/nが2〜2000である)、
[9] 接着性含フッ素高分子は、含フッ素モノマーに由来する含フッ素モノマー単位と、フッ素非含有モノマーに由来するフッ素非含有モノマー単位とを有するものである[3]に記載の凍結保存容器、
[10] 含フッ素モノマーはテトラフルオロエチレンであり、フッ素非含有モノマーはエチレンである[9]に記載の凍結保存容器、
[11] 少なくとも接着性含フッ素高分子フィルムと、該接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムを含む積層フィルムで構成され、該接着性含フッ素高分子フィルムが少なくとも片方の最外面に存在する[1]に記載の凍結保存容器、
[12] 該接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムが、耐寒性樹脂フィルムである[11]に記載の凍結保存容器、
[13] 耐寒性樹脂が、超高分子量ポリエチレン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体およびエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる群より選択される少なくとも1つである[12]に記載の凍結保存容器、
[14] 耐寒性樹脂が、ポリイミドである[13]に記載の凍結保存容器、
[15] 少なくとも接着性含フッ素高分子フィルムを、ヒートシールにより袋状に成形することを特徴とする凍結保存容器の製造方法、
および[16] 少なくとも接着性含フッ素高分子フィルムと、該接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムを含み、該接着性含フッ素高分子フィルムが少なくとも片方の最外面に存在する積層フィルムを、ヒートシールにより袋状に成形することを特徴とする[15]に記載の凍結保存容器の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の凍結保存容器は、低温でもヒートシール可能であるために、過酷な条件でバッグを製造することがなく、容器の安定した製造を可能にする。さらに、ヒートシール強度が強いために、凍結保存時における容器の破損を防止することができ、例えば貴重な生体試料等を安定して保存することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の凍結保存容器は、少なくとも接着性含フッ素高分子フィルムを含むものである。
上記接着性含フッ素高分子フィルムとは、主鎖および/または側鎖に少なくとも1つのフッ素原子を有する高分子で成形されたフィルムであり、該フィルムは有機材料からなる基材に接着する機能を有するものをいう。ここで接着とは、上記有機材料に上記接着性含フッ素高分子フィルムが、物理的および/または化学的結合などにより結合することをいい、結合強度の観点から、化学的結合が好ましいが、これに限定されるものではない。上記化学的結合とは、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合および分子間力などが挙げられ、結合の強度の観点から、好ましくは共有結合およびイオン結合、さらに好ましくは共有結合であるが、これに限定されるものではない。
【0012】
また、上記有機材料とは、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリエステルならびに超高分子量ポリエチレン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体およびエチレン−酢酸ビニル共重合体などの耐寒性樹脂からなるフィルム、チューブ、合成繊維、合成ゴムおよび固形物などの汎用の樹脂成形品、ならびに天然ゴム、天然繊維、木材、紙類および皮革類などの天然の有機物をいい、さらに、上記接着性含フッ素高分子自体も含む。中でも、凍結保存容器自身の耐寒性の向上の観点から、接着性含フッ素高分子フィルム自身および耐寒性樹脂フィルムと接着する機能を有する有機材料と接着可能であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0013】
上記接着性含フッ素高分子の分子量は、その成形加工性の観点から、数平均分子量で約1,000〜1,000,000、好ましくは約2,000〜500,000、さらに好ましくは約5,000〜300,000であるが、これに限定されるものではない。
【0014】
上記接着性含フッ素高分子フィルムは、接着性含フッ素高分子の分子構造、ガラス転移温度および融点などによって、当業者が適時好適な製造方法を選択して製造することができる。例えば、圧縮成形、射出成形、押出成形、Tダイ成形、インフレーション成形および溶剤キャスティング法などが挙げられ、成形加工性の観点から圧縮成形が好ましいが、これに限定されるものではない。また、上記接着性含フッ素高分子フィルムの膜厚は、内容物への熱伝導度の観点から、約10〜100μm、好ましくは10〜50μm、特に好ましくは10〜30μmであるが、これに限定されるものではない。
【0015】
上記接着性含フッ素高分子の好ましい態様としては、以下の(A)および(B)を含む共重合体が例示される。
(A) 反応性官能基を有さない含フッ素モノマー。
(B) 少なくとも1種類の反応性官能基を有する含フッ素モノマー。
【0016】
本発明における反応性官能基とは、上記有機材料からなる基材に共有結合、イオン結合、配位結合および水素結合などより接着することができる官能基であり、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホン酸基およびエポキシ基などが挙げられる。中でも熱により容易に活性化されるヒドロキシル基が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0017】
上記含フッ素モノマーとは、重合により得られる共重合体の主鎖および/または側鎖の少なくとも1つの水素原子がフッ素に置換された共重合体が得られるものであり、例えば、含フッ素エチレン性モノマー、含フッ素エステル性モノマーおよび含フッ素全芳香族性モノマーなどが挙げられる。中でも入手が容易であり、得られる共重合体の成形加工性の観点から、含フッ素エチレンモノマーが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0018】
上記共重合体は、(A)および(B)それぞれ少なくとも1種類ずつを重合した2成分系であればよい。例えば、1種類の(A)のモノマーと、1種類の(B)のモノマーからなる2成分系、2種類の(A)のモノマーと、1種類の(B)のモノマーからなる3成分系および1種類の(A)のモノマーと、2種類の(B)のモノマーからなる3成分系などが挙げられる。中でも、製造のコストの観点から2または3成分系であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0019】
上記共重合は、ラジカル共重合、アニオン共重合、カチオン共重合、乳化共重合およびプラズマ共重合などが挙げられ、モノマーの構造、極性、溶媒の種類などにより当業者が適時選択できるものである。中でも製造容易性の観点からラジカル共重合が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0020】
また、共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体および交互共重合体が挙げられる。中でも製造容易性の観点からランダム共重合体が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0021】
さらに、上記共重合体における(A)と(B)との存在比(共重合比)は、共重合体の成形加工性の観点から、(B)を1とした場合、(A)は1〜2000、好ましくは100〜2000であるが、これに限定されるものではない。
【0022】
上記(A)反応性官能基を有さない含フッ素モノマーとは、上述の反応性官能基を有さず、重合により得られる共重合体の主鎖および/または側鎖の少なくとも1つの水素原子がフッ素に置換された共重合体が得られるものである。中でも入手が容易であり、得られる共重合体の成形加工性の観点から、反応性官能基を有さない含フッ素エチレン性モノマーが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0023】
上記(A)反応性官能基を有さない含フッ素エチレン性モノマーとは、少なくとも1つのフッ素原子を含むものであり、下記式(1)で表現されるモノマーが例示される。
【0024】
【化4】

(式中のXおよびXはそれぞれ水素原子またはハロゲン原子、Yは水素原子、フッ素原子、炭素数1〜5の含フッ素アルキル基または炭素数1〜5の含フッ素オキシアルキル基である)
【0025】
上記式(1)で表現されるモノマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、1,2−ジフルオロクロロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(ビニルメチルエーテル)およびパーフルオロ(ビニルプロピルエーテル)などが挙げられ、好ましくはテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、1,2−ジフルオロクロロエチレンおよびパーフルオロ(ビニルプロピルエーテル)などが挙げられる。中でも、入手が容易であること、得られる共重合体の成形加工性の観点から、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびパーフルオロ(ビニルプロピルエーテル)などが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0026】
一方、(B)少なくとも1種類の反応性官能基を有する含フッ素モノマーとは、上述反応性官能基を少なくとも1つ有し、重合により得られる共重合体の主鎖および/または側鎖の少なくとも1つの水素原子がフッ素に置換された共重合体が得られるものである。中でも入手が容易であり、得られる共重合体の成形加工性の観点から、反応性官能基を有する含フッ素エチレン性モノマーが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0027】
上記(B)少なくとも1種類の反応性官能基を有する含フッ素エチレン性モノマーとは、式(2)で表現されるモノマーが例示される。
【0028】
【化5】

(式中のXおよびXはそれぞれ水素原子またはハロゲン原子であり、Zはヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホン酸基またはエポキシ基であり、Rは炭素数1〜40の含フッ素アルキレン基、炭素数1〜40の含フッ素オキシアルキレン基または炭素数1〜40の少なくとも1つのエーテル結合を有する含フッ素アルキレン基である)
【0029】
上記式(2)で表現されるモノマーとしては、例えば、パーフルオロ−(4−オキサ−5−ヘキセノール)(式(4))、パーフルオロ−(1,1−ジハイドロ−6−ヘプテノール)(式(5))、パーフルオロ−(1,1,9,9−テトラハイドロ−2,5−ビストリフルオロメチル−3,6−ジオキサ−8−ノネノール)(式(6))、パーフルオロ−(4−オキサ−5−ヘキセン酸)(式(7))、パーフルオロ−(3,6−ジオキサ−4−トリフルオロメチル−7−オクテノニトリル)(式(8))、パーフルオロ−(1,1−ジハイドロ−3−オキサ−4−ペンテスルホン酸)(式(9))および1,2−エポキシ−パーフルオロ−(1,1,2−トリハイドロ−6−ペンテン)(式(10))などのモノマーが挙げられ、好ましくは低温ヒートシール性に優れたパーフルオロ−(4−オキサ−5−ヘキセノール)(式(4))、パーフルオロ−(1,1−ジハイドロ−6−ヘプテノール)(式(5))およびパーフルオロ−(1,1,9,9−テトラハイドロ−2,5−ビストリフルオロメチル−3,6−ジオキサ−8−ノネノール)(式(7))などのヒドロキシル基を有するものであるが、これに限定されるものではない。
【0030】
【化6】

【0031】
【化7】

【0032】
【化8】

【0033】
【化9】

【0034】
【化10】

【0035】
【化11】

【0036】
【化12】

【0037】
本発明における接着性含フッ素高分子の好ましい形態としては、製造の容易性の観点から、以下の式(3)で表現される共重合体が例示されるが、これに限定されるものではない。
【0038】
【化13】

(式中のXおよびXはそれぞれ水素原子またはハロゲン原子であり、YおよびYはそれぞれ水素原子、フッ素原子、炭素数1〜5の含フッ素アルキル基または炭素数1〜5の含フッ素アルコキシ基であり、Zはヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホン酸基またはエポキシ基であり、Rは炭素数1〜40の含フッ素アルキレン基、炭素数1〜40の含フッ素オキシアルキレン基または炭素数1〜40の少なくとも1つのエーテル結合を有する含フッ素アルキレン基であり、(l+m)/nが2〜2000である)
上記(l+m)/nが2000を超えると、充分な接着性が得られないおそれがある。
【0039】
本発明における接着性含フッ素高分子のさらに好ましい形態としては、製造の容易性およびヒートシール強度の関連から、以下の式(11)で表現される共重合体が例示されるが、これに限定されるものではない。
【0040】
【化14】

(式中のXおよびXはそれぞれ水素原子またはハロゲン原子であり、YおよびYはそれぞれ水素原子、フッ素原子、炭素数1〜5の含フッ素アルキル基または炭素数1〜5の含フッ素アルコキシ基であり、Rは炭素数1〜40の含フッ素アルキレン基、炭素数1〜40の含フッ素オキシアルキレン基または炭素数1〜40の少なくとも1つのエーテル結合を有する含フッ素アルキレン基であり、(l+m)/nが2〜2000である)
【0041】
本発明における接着性含フッ素高分子の特に好ましい形態としては、モノマーの入手の容易性、製造の容易性およびヒートシール強度の観点から、ポリテトラフルオロエチレンおよび/またはパーフルオロ(ビニルプロピルエーテル)と、パーフルオロ−(1,1,9,9−テトラハイドロ−2,5−ビストリフルオロメチル−3,6−ジオキサ−8−ノネノール)との共重合体であるが、これに限定されるものではない。また、その共重合組成比は、製造の容易性の観点から、パーフルオロ−(1,1,9,9−テトラハイドロ−2,5−ビストリフルオロメチル−3,6−ジオキサ−8−ノネノール)モノマーユニット1に対して、ポリテトラフルオロエチレンモノマーユニットおよび/またはパーフルオロ(ビニルプロピルエーテル)モノマーユニットとの合計が約2〜2000、好ましくは約4〜2000であるが、これに限定されるものではない。
【0042】
本発明において、上記接着性含フッ素高分子フィルムは、接着性部位を有する接着性含フッ素高分子からなるものであることが好ましい。
上記接着性含フッ素高分子は、接着性部位として上述の反応性官能基を有していてもよい。
上記接着性含フッ素高分子フィルムは、後述の接着性フッ素樹脂層を形成するものであってもよい。上記接着性含フッ素高分子は、接着性フッ素樹脂を構成するものであってもよい。
【0043】
本発明における接着性フッ素樹脂層は、接着性フッ素樹脂からなるものである。
本明細書において、上記接着性フッ素樹脂は、接着性部位を有するフルオロポリマーであることが好ましい。
【0044】
本明細書において、上記フルオロポリマーは、含フッ素モノマーに由来する含フッ素モノマー単位を主鎖中に有するポリマーである。上記フルオロポリマーは、更に、フッ素非含有モノマーに由来するフッ素非含有モノマー単位を有するものであってもよいし、有しないものものであってもよい。
本明細書において、上記フルオロポリマーについての「モノマー単位」は、ポリマー分子構造の一部分であって、モノマーに由来する部分を意味する。例えば、テトラフルオロエチレン単位は、−(CF−CF)−で表される。
【0045】
上記含フッ素モノマーは、フッ素原子を有する重合可能な化合物であれば特に限定されず、例えば、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、フッ化ビニリデン〔VdF〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、フッ化ビニル〔VF〕、へキサフルオロプロピレン〔HFP〕、へキサフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕類、下記一般式(i):
CH=CX(CF (i)
(式中、Xは、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは、1〜10の整数を表す。)で表されるモノマー等が挙げられる。
【0046】
上記フッ素非含有モノマーは、上記含フッ素モノマーと共重合可能でフッ素原子を有さない化合物であれば特に限定されず、例えば、エチレン〔Et〕、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0047】
上記フルオロポリマーとしては、下記共重合体(I)、下記共重合体(II)等が挙げられる。
(I)少なくとも、TFE及びEtを重合してなる共重合体、
(II)少なくとも、TFEと、下記一般式(ii):
CF=CF−R (ii)
(式中、Rは、−CF又は−ORを表し、Rは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される少なくとも1種以上のモノマーとを重合してなる共重合体。
【0048】
上記共重合体(I)としては、例えば、少なくとも、TFE単位20〜80モル%及びEt単位80〜20モル%からなる共重合体等が挙げられる。
本明細書において、各モノマー単位についてのモル%は、共重合体の分子鎖を構成するモノマー単位が由来することとなったモノマーの合計モル数のうち、後述する接着性部位含有モノマー単位が由来することとなったモノマーのモル数を除いたモル数を100モル%とし、この100モル%中に占める各モノマー単位が由来することとなったモノマーのモル数の割合である。
上記各モノマー単位についてのモル%は、19F−NMRチャートから求めた値である。
【0049】
上記共重合体(I)は、主鎖中に、TFE単位とEt単位以外に、共重合可能なその他のモノマーに由来するその他のモノマー単位を有するものであってもよく、上記その他のモノマーとして、得られる積層フィルムの用途に応じた種類のモノマーを適宜選択して共重合に供することができる。
上記その他のモノマーとしては、HFP、CTFE、プロピレン、下記一般式(iii):
CX=CX(CF (iii)
(式中、X及びXは、同一又は異なって、水素原子若しくはフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは、1〜10の整数を表す。)で表されるモノマー、下記一般式(iv):
CF=CF−OR (iv)
(式中、Rは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるモノマー等が挙げられ、通常これらの1種又は2種以上が用いられる。
上記その他のモノマー単位は、共重合体(I)の分子鎖を構成するモノマー単位100モル%のうち0〜20モル%の割合で有するものであってもよい。
【0050】
上記フルオロポリマーとしては、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気絶縁性、薬液低透過性、非粘着性等に優れている点で、共重合体(I)が好ましく、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気絶縁性、薬液低透過性、非粘着性、低温加工性、透明性等に優れている点で、Et/TFE/HFP共重合体がより好ましい。上記Et/TFE/HFP共重合体におけるHFP単位は、5〜20モル%であることが好ましく、より好ましい下限が8モル%であり、より好ましい上限が17モル%である。上記Et/TFE/HFP共重合体は、Et、TFE及びHFPに由来する各モノマー単位に加え、上記Et/TFE/HFP共重合体の好ましい性質を損なわない範囲で、HFP単位以外の上記その他のモノマーを1種又は2種以上有するものであってもよい。
【0051】
本明細書において、上記「接着性部位」とは、ポリイミド〔PI〕フィルム等の上述した有機材料との親和性若しくは反応性を有する官能基を意味する。
本明細書において、「親和性」とは、水素結合、van der Waals力等、化学構造を変化させるまでに至らないPIフィルム等の有機材料との相互作用を示す性質を意味し、「反応性」とは、官能基等の化学構造を変化させる性質を意味する。
【0052】
上記接着性部位は、通常、上記フルオロポリマーが主鎖又は側鎖に有するものである。
上記接着性部位としては、特に限定されないが、例えば、炭素−炭素二重結合、カルボニル基[−C(=O)]、カルボニル基を有する基又は結合等が挙げられ、上記接着性部位を有するフルオロポリマーにおいて、上記接着性部位は1種のみ存在するものであってもよいし、2種以上存在するものであってもよい。
上記「接着性部位」としては、上述の反応性官能基であってもよい。
【0053】
上記カルボニル基を有する基又は結合としては、例えば、カーボネート基、ハロゲノホルミル基、ホルミル基、カルボキシル基、カルボニルオキシ基[−C(=O)O−]、酸無水物基[−C(=O)O−C(=O)−]、イソシアネート基、アミド基[−C(=O)−NH−]、イミド基[−C(=O)−NH−C(=O)−]、ウレタン結合[−NH−C(=O)O−]、カルバモイル基[NH−C(=O)−]、カルバモイルオキシ基[NH−C(=O)O−]、ウレイド基[NH−C(=O)−NH−]、オキサモイル基[NH−C(=O)−C(=O)−]等が挙げられる。
上記カルボニル基を有する基又は結合としては、導入が容易であり、反応性が高い点から、カーボネート基、ハロゲノホルミル基等が好ましい。
【0054】
上記カーボネート基は、[−OC(=O)O−]で表される結合を有する基であり、−OC(=O)O−R基(式中、Rは、有機基、IA族原子、IIA族原子、又は、VIIB族原子を表す。)で表されるものである。上記式中のRにおける有機基としては、例えば炭素数1〜20のアルキル基、エーテル結合を構成する酸素分子を有する炭素数2〜20のアルキル基等が挙げられ、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、エーテル結合を構成する酸素分子を有する炭素数2〜4のアルキル基等である。上記カーボネート基としては、例えば、−OC(=O)O−CH、−OC(=O)O−C、−OC(=O)O−C17、−OC(=O)O−CHCHOCHCH等が挙げられる。
【0055】
上記ハロゲノホルミル基は、−COY(式中、Yは、VIIB族原子を表す。)で表されるものであり、−COF、−COCl等が好ましい。
【0056】
上記接着性部位の数は、基材の種類、形状、用途、必要とされる接着強度、上述のフルオロポリマーの種類の違い等により適宜選択されうるが、通常、主鎖炭素数1×10個あたり3〜1000個である。上記接着性部位の数は、カルボニル基の数をカウントする場合、通常、主鎖炭素数1×10個あたり150個以上であり、好ましくは250個以上、より好ましくは300個以上である。
本明細書において、上記「接着性部位」の数は、国際公開99/45044号パンフレットに記載のカルボニル基含有官能基の個数の測定方法に準じた赤外吸収スペクトル分析を行うことにより測定したものである。
【0057】
上記接着性フッ素樹脂としては、例えば、国際公開99/45044号パンフレットに記載のカルボニル基含有官能基を有する含フッ素エチレン性重合体等を挙げることができる。
上記接着性フッ素樹脂は、通常、重合によりフルオロポリマーを製造するに際し接着性部位を導入することにより得ることができるが、接着性部位を導入する方法としては特に限定されず、例えば、(1)接着性部位含有モノマーを共重合する方法、(2)接着性部位を有する重合開始剤を存在させて乳化重合等の水性媒体中での重合を行い、ポリマー鎖末端に該重合開始剤に由来する接着性部位を導入する方法、(3)重合に際し又は重合後の加熱等によりポリマー鎖中の炭素−炭素単結合が二重結合に変化することにより接着性部位を有することとなる方法等が挙げられる。
【0058】
上記(1)の方法は、例えば、接着性部位含有モノマーを、目的の接着性フッ素樹脂に応じた種類と配合の含フッ素モノマーと、所望によりフッ素非含有モノマーとを公知の方法により共重合させることによって行うことができる。
上記共重合の方法としては特に限定されず、例えば、含フッ素モノマー等の他の共単量体によるポリマー鎖形成時に接着性部位含有モノマーを系内に導入して行うランダム共重合であってもよいし、ブロック共重合、グラフト共重合であってもよい。グラフト共重合としては、例えば、フルオロポリマーに後述の不飽和カルボン酸類を付加させる方法等が挙げられる。
【0059】
上記「接着性部位含有モノマー」とは、接着性部位を有する重合可能な化合物を意味し、フッ素原子を有していてもよいし、有していなくてもよい。なお、本明細書において、上述した「含フッ素モノマー」及び「フッ素非含有モノマー」は、上記接着性部位を有していないものである。
【0060】
上記接着性部位含有モノマーとしては、例えば、接着性部位がカルボニル基を有する基又は結合である場合、パーフルオロアクリル酸フルオライド、1−フルオロアクリル酸フルオライド、アクリル酸フルオライド、1−トリフルオロメタクリル酸フルオライド、パーフルオロブテン酸等のフッ素を有するモノマー;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸クロライド、ビニレンカーボネート等のフッ素を有さないモノマーが挙げられる。
【0061】
上記接着性部位含有モノマーとしては、更に、不飽和カルボン酸類が挙げられる。本明細書において、上記不飽和カルボン酸類とは、共重合を可能にする炭素−炭素不飽和結合(以下、「共重合性炭素−炭素不飽和結合」ともいう。)を1分子中に少なくとも1個有し、且つ、カルボニルオキシ基[−C(=O)−O−]を1分子中に少なくとも1個有する化合物であればよく、なかでも、上記共重合性炭素−炭素不飽和結合が1分子中に1個であるものが好ましい。
上記不飽和カルボン酸類としては、例えば、脂肪族不飽和カルボン酸及びその酸無水物が挙げられる。上記脂肪族不飽和カルボン酸としては、脂肪族不飽和モノカルボン酸であってもよいし、カルボキシル基を2個以上有する脂肪族不飽和ポリカルボン酸であってもよい。
上記脂肪族不飽和モノカルボン酸としては、例えば、プロピオン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、それらの酸無水物等、炭素数3〜20の脂肪族モノカルボン酸等が挙げられる。上記脂肪族不飽和ポリカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸〔CAC〕、イタコン酸、アコニット酸、無水イタコン酸〔IAH〕及び無水シトラコン酸〔CAH〕等が挙げられる。
【0062】
上記(2)の方法における重合開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0063】
上記接着性フッ素樹脂は、得られる積層フィルムのシール性の点で、融点が好ましくは200℃以下であり、より好ましくは180℃以下である。
本明細書において、上記融点は、示差走査熱量計(セイコー社製)を用い、昇温速度10℃/分にて測定し、得られた融解ピークの極大値での温度である。
【0064】
本発明における接着性含フッ素高分子フィルムは、さらに該接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムとの積層フィルムの形態であってもよい。本発明における積層フィルムとは、少なくとも接着性含フッ素高分子フィルムと、該接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムを積層し、該接着性含フッ素高分子フィルムが少なくとも片方の最外面に存在するものであればよい。その層数は、2層以上であればよいが、内容物への熱伝導度の観点から、2〜5層、好ましくは2および3層であるが、これに限定されるものではない。
【0065】
また、積層フィルムの膜厚は層数に依存するが、例えば接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムの片面に設けた接着性含フッ素高分子フィルムの2層フィルムである場合、内容物への熱伝導度の観点から、全体の膜厚が約20〜200μm、好ましくは約20〜100μm、特に好ましくは約20〜60μmであるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
また、上記接着性フッ素樹脂層の厚さは、5〜100μmであることが好ましいが、10μm以上、50μm以下であることがより好ましい。
【0067】
本発明における積層フィルムは、上述の熱ラミネーション法により作成した場合、接着強度(x)を、一般に200N/m以上、好ましくは300N/m以上、より好ましくは400N/m以上にすることができる。
本明細書において、上記接着強度(x)は、積層フィルムを10mm幅に切り出し、その端の接着性フッ素樹脂層とPIフィルム等の接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムとを刃物を用いて剥離し掴みしろを作り、テンシロン万能試験機にて、25mm/分の速度で180°剥離させた時に要した強度である。
【0068】
上記接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムとは、上記接着性含フッ素高分子からなるフィルムでなければ特に限定されるものではないが、耐寒性樹脂であることが好ましい。
【0069】
上記耐寒性樹脂とは、約−40度以下、好ましくは約−80度以下において、耐衝撃性に優れた樹脂をいう。例えば、超高分子量ポリエチレン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体およびエチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられ、内容物への熱伝導度および耐寒性の観点から、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレンおよびエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体が好ましく、より好ましくはポリイミドである。また耐寒性樹脂の分子量は、成形加工性の観点から、数平均分子量で約1,000〜1,000,000、好ましくは約2,000〜500,000、さらに好ましくは約5,000〜300,000であるが、これらに限定されるものではない。
上記耐衝撃性は、凍結環境下から取り出した直後の樹脂フィルム又は樹脂シートについて、自由落下のダート法による衝撃試験方法(ステアケース法(JIS K 7124−1))を用いて評価するものである。上記耐衝撃性に優れた樹脂としては、上記ステアケース法(液体窒素温度)における50%破壊エネルギー(E50)が0.1以上、好ましくは0.2以上、更に好ましくは1.0以上であるものが好ましい。
【0070】
上記ポリイミドは、主鎖にイミド結合を有する耐熱性の高分子からなるものであればよく、例えば、主鎖にイミド結合のみを有する非熱可塑性ポリイミド、全芳香族ポリイミド、有機溶媒可溶性ポリイミド、ポリエーテルイミドおよびポリイミドアミドなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0071】
また、上記耐寒性樹脂フィルムは、例えば、耐寒性樹脂を高温高圧における熱溶融法、押出法または圧縮法および溶剤キャスティング法などにより成形されたものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0072】
上記積層フィルムにおける接着性含フッ素高分子フィルムと、接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムとの積層は、熱ラミネート法や熱圧縮法および高周波加熱法および溶剤キャスティング法などが挙げられる。中でも製造の容易性の観点から熱ラミネート法が好ましいが、これに限定されるものではない。接着性含フッ素高分子フィルムが上記接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムと強固に接着するため、接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムとから接着性含フッ素高分子フィルムが剥がれることがない。上記熱ラミネート法における温度条件は、製造における安全性などの観点から、約200〜300℃、好ましくは約200〜250℃であるが、これに限定されるものではない。
【0073】
本発明における積層フィルムは、上述のPIフィルム等の接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムと接着性フッ素樹脂とを積層することにより作成することができる。
上記PIフィルム等の接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムと接着性フッ素樹脂との積層は、例えば、押出ラミネーション法にて行うことができるし、PIフィルム等の接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムと接着性フッ素樹脂とを熱圧着等により貼り合わせて行うこともできる。
【0074】
上記押出ラミネーションは、例えば、上述の接着性フッ素樹脂を溶融させて、上述のPIフィルム等の接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルム上に押し出す押出工程(a)、PIフィルム等の接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムと、押し出した接着性フッ素樹脂とをロールで挟んで圧着する圧着工程(b)、得られた積層物を巻取る巻取工程(c)等をも含むものであってよく、通常、押出工程(a)、圧着工程(b)、巻取工程(c)の順で行う。
【0075】
上記押出工程(a)における押出温度は、使用するPIフィルム等の接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルム及び接着性フッ素樹脂の種類、目的とする積層フィルムの厚さ等に応じて、好ましい範囲が異なるが、層間接着強度が大きい積層フィルムが得られる点で、通常、使用する接着性フッ素樹脂の融点以上、分解温度未満であることが好ましい。
【0076】
上記押出工程(a)において、溶融させた接着性フッ素樹脂を上記PIフィルム等の接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルム上に押し出す速度は、使用する上記接着性フッ素樹脂や上記PIフィルム等の接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムの組成、厚さ等によって適宜設定することができるが、例えば、0.1〜100m/分の範囲で行うことができる。
【0077】
上記押出ラミネーション、なかでも、上記押出工程(a)は、層間接着強度が大きい積層フィルムが得られる点で、不活性ガス中で行うこと及び/又はPIフィルム等の接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムを予め乾燥若しくは予熱することにより水分を除去しておくことが好ましい。
本発明において、押出ラミネーションは、押出工程により接着性フッ素樹脂に存在する接着性部位の接着性が発揮されることに特徴があると考えられるが、上記押出ラミネーションを不活性ガス中で行う場合及び/又はPIフィルム等の接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムを予め乾燥若しくは予熱することにより水分を除去しておく場合、上記接着性を充分に発揮することができると考えられる。
【0078】
上記押出ラミネーションにおける上記押出工程(a)以外の各工程条件は、使用するPIフィルム等の接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルム及び接着性フッ素樹脂の各種類、目的とする積層フィルムの厚さ等に応じ、公知の方法に従って適宜設定することができる。
【0079】
上述のPIフィルム等の接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムと上述の接着性フッ素樹脂との積層は、熱圧着にて行う場合、一般に、公知の押出成形法等にて接着性フッ素樹脂をフィルムに成形したのち、得られた接着性フッ素樹脂フィルムとPIフィルム等の接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムとを重ね合わせて加熱しながら圧着させることにより行うことができる。
上記熱圧着は、120〜300℃の温度にて行うことが好ましい。該温度は、より好ましい下限が140℃であり、より好ましい上限が280℃である。
上記PIフィルム等の接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムは、熱圧着等により貼り合わせて積層する場合、積層前に予め予熱してもよいし、予備乾燥してもよい。
また、熱圧着等により各層を貼り合わせる場合、層間接着性を向上させるため、貼り合わせた後に加熱を行いエージングさせてもよい。
上記エージングの為の加熱は、200〜280℃にて行うことが好ましい。
【0080】
上記積層フィルムは、ヒートシール法などにより容器または袋状に成形する。具体的には、積層フィルム2枚を接着性含フッ素高分子フィルム同士が接するように重ねあわせ、ヒートシールを行う。容器の内容積は一般的に約2〜200mlであるが、これに限定されるものではない。また、ヒートシールの幅は、積層フィルム間のシール強度の観点から、約2〜20mm、好ましくは約5〜15mmであるが、これに限定されるものではない。さらに、ヒートシール温度についても、積層フィルム間のシール強度の観点から、約180〜250℃、好ましくは約200〜220℃である。汎用のフッ素樹脂フィルムは、180〜250℃という低い温度ではシールすることができない。つまり、本発明における接着性含フッ素高分子フィルムは、低温でのヒートシール性が良好であるために、製造工程におけるコストも低い。
【0081】
本発明の凍結保存容器は、例えば赤血球、血小板、血漿等の血液成分や、骨髄液、その他の体液、細胞浮遊液等の生体試料を収容した後、凍結保存容器の破損時における内容物の保護、凍結保存容器内への液体窒素が混入を防止するために、さらに包装してもよい。これらの包装体としては、パーフルオロエチレンプロペン共重合体製の包装体などが一般的に使用されているが、これに限定されるものではない。この時、凍結保存容器と包装体との間の空気を、例えば特開2000−185716号公報に開示された補助具などを用いることにより、容易に脱気することができて好ましいが、これに限定されるものではない。
【0082】
本発明の凍結保存容器は、上記積層フィルムをヒートシール法などにより容器または袋状に成形することにより製造することができる。得られる凍結保存容器は、上記積層フィルムとして、接着性含フッ素高分子フィルムが少なくとも片方の最外面に存在する積層フィルムを用いた場合、該凍結保存容器の少なくとも片方の最外面に接着性含フッ素高分子フィルムが存在する容器とすることができ、好ましくは、少なくとも容器の内側である最外面に接着性含フッ素高分子フィルムが存在する容器とする。
【0083】
本発明の凍結保存容器は−80〜−196℃の極低温下でも十分耐えうるものであるが、赤血球、血小板、血漿等の血液成分や、骨髄液、その他の体液および細胞浮遊液などを実際に保存する場合は、これらの組織を損傷させないために、徐々に冷却することが好ましい。例えば、一度ディープフリーザー(凍結機)などで約−80度まで冷却した後、液体窒素内に移すことによって保存する方法などが挙げられるが、これに限定されるものではない。保存している血液、細胞などを使用する際は、例えば37〜40℃の温浴などの加温手段によって解凍することができるが、これに限定されるものではない。
【0084】
生体試料を保存する際には、市販の保存液を適宜使用することができる。例えば、細胞を保存する場合、その保存液としてDMEM培地、RPMY1640培地、199培地及びリン酸緩衝液などが挙げられる。好ましくは、約0.5〜2容量%のアルブミンを添加してもよい。さらに好ましくは、凍害保護剤としてジメチルスルホキシド(DMSO)を最終濃度約5〜20容量%添加してもよい。また、臓器を保存する場合、ユーロコリンズ液及びUW液などが挙げられる。好ましくは、凍害保護剤としてジメチルスルホキシド(DMSO)を最終濃度約5〜20容量%添加してもよい。これらの保存液の選択及び調製は当業者が適宜選択できるものであるため特に限定されるものではない。
【0085】
生体試料を収容ないし収納した本発明の凍結保存容器の凍結方法としては、生体試料を収容ないし収納した該凍結保存容器を0℃以下で凍結させる方法が挙げられる。上記凍結方法としては、−80℃以下で凍結させる方法が好ましい。上記凍結方法においては、生体試料を損傷させないために、該凍結保存容器を所望の温度まで徐々に冷却して凍結させることが好ましい。このような凍結方法としては、該凍結保存容器を一度ディープフリーザー(凍結機)などで約−80℃まで冷却した後、液体窒素に浸漬する方法などが挙げられる。上記凍結保存容器には、必要に応じ、上述の保存液をも収納してよい。上記凍結保存容器は、上記方法により凍結したのち、通常、引き続き凍結保存する。
【0086】
本発明の凍結保存容器は、上述の構成よりなるので、液体窒素温度(−196℃)のような極低温下においても破損せず、封止部におけるシール性も低下しないので、各種凍結保存時において、液体窒素等の冷媒が浸入することがなく、内容物の汚染及び流出を防ぐことができ、優れた保護性能を示す。
上記凍結保存容器は、更に、用いる接着性フッ素樹脂の融点未満であれば、上記極低温ほどの低温でない低温領域下にあっても耐性があり、非常に幅広い温度範囲に耐性を示すことができるので、該極低温下においた後に常温下におく等の温度の急変に対しても、破損及び封止部におけるシール性の低下がない。
【0087】
本発明の凍結保存容器が上記優れた効果を奏する機構としては、明確ではないが、例えば、上述の接着性含フッ素樹脂とPIとを積層してなるものである場合、(1)PIは液体窒素温度のような極低温下においても成形体の形状を維持し得る耐極低温性を有する、(2)PIフィルムと接着性フッ素樹脂層との層間接着性に優れる、(3)PIフィルムと接着性フッ素樹脂層とは、接着剤を使用しなくても直接接着することができ、接着剤を用いる際の問題、即ち、接着剤層が液体窒素温度のような極低温下で脆化し破壊する問題、及び、接着剤からのアウトガスや溶出物による問題がない、及び、(4)PIフィルムと接着性フッ素樹脂層とを積層してなる積層フィルムは、接着性フッ素樹脂層同士を熱融着等させることにより凍結保存容器を形成するが、該接着性フッ素樹脂層同士の接着性に優れ、シール性に信頼性がある、という各特性が相乗的に奏するものと考えられる。
【0088】
本発明の凍結保存容器は、生体試料用凍結保存容器として好適に用い得るものである。
上記凍結保存容器に保存しうる生体試料としては、例えば、ヒト由来の生体試料、ヒト以外の動物又は植物由来の生体試料、ウイルス、微生物等の生体試料が挙げられる。
【0089】
本発明の凍結保存容器は、例えば、血液成分、細胞、組織、臓器、ウイルス、細菌類、精子、卵子、受精卵などの生体試料を密封することができる容器である。
【0090】
上記血液成分は、全血、赤血球、白血球、血漿、血小板および多血小板血漿などが挙げられる。また、細胞としては、造血幹細胞、ES細胞、間葉系幹細胞、骨骸単核細胞、精子細胞および卵子細胞などの希少細胞の他、神経細胞、上皮細胞、繊維芽細胞等の一般的な細胞等が挙げられる。さらに、生体組織としては、組織等として、腱、神経、靱帯、食道、気管、膵島等の各種器官の他、粘膜上皮組織、角膜上皮組織および培養角膜組織などの膜組織ならびに臓器としては、膵臓、心臓、肺、肝臓および腎臓などが挙げられる。ウイルスとしては、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、コロナウイルス及びモザイクウイルス等が挙げられる。細菌類しては、結核菌、インフルエンザ菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌、溶血れんさ球菌及び肺炎桿菌等が挙げられる。また、精子、卵子及び受精卵が、例えば、不妊治療分野等に関して挙げられる。これらの保存する血液ないし血液成分、稀少細胞を含む細胞その他の生体組織は、作業者の目的に応じて選択されるものであり、特に限定されるものではない。
【0091】
上記生体組織としては、また、例えば、生体の体液(血液、髄液、リンパ液等)及びその成分(赤血球、白血球、血小板、血漿、血清等)、生体内組織(血管、角膜、半月板、脳組織、皮膚、皮下組織、上皮組織、骨組織、筋組織等)、臓器(眼、肺、腎臓、心臓、肝臓、膵臓、脾臓、消化管、膀胱、卵巣及び精巣等)、各種細胞(臍帯血・末梢血由来造血幹細胞等の造血幹細胞、骨髄細胞、肝細胞、膵細胞及び脳細胞等の各種臓器細胞、神経細胞、精子、卵細胞、受精卵、胚性幹細胞(ES細胞)、研究・治療用癌細胞、培養細胞、幹細胞、胚細胞等)等が挙げられる。
【0092】
上記生体試料としては、ヒトの生体組織、遺伝関連物質等の他、実験用小動物等の小動物を含む動物の生体組織及び遺伝関連物質;微生物、細菌類、及び、これらの遺伝関連物質;等が挙げられ、これらは、例えば、研究分野において用いられるもの等が挙げられる。
【0093】
上記生体試料としては、また、家畜・動物の生体組織及び遺伝関連物質が挙げられ、これらは、例えば、研究、培養、栽培、園芸等の農業分野において用いられるもの等が挙げられる。
上記生体試料としては、また、植物の種子、花粉、培養細胞、茎頂細胞及び遺伝関連物質が挙げられる。
上記生体試料としては、また、海洋性藻類、魚類等の生体組織及び遺伝関連物質等が挙げられ、これらは、例えば、研究等の水産分野において用いられるもの等が挙げられる。
上述の遺伝子関連物質としては、DNA、宿主、ベクター等が挙げられる。
【0094】
上記生体試料は、例えば、医療用;農蓄産業、林業、水産業、園芸等の分野における研究・開発用;ペット産業、動物産業における動物の治療用、不妊治療等の繁殖関連用、クローン技術用等として、使用することができる。
【0095】
このように、本発明の凍結保存容器は、医療;研究;畜産、園芸等の農業;水産等の各種分野において使用することができる。
【実施例】
【0096】
以下に本発明を、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0097】
実施例1〜8:凍結保存容器の製造
ポリイミドフィルムの片面または両面に、ポリテトラフルオロエチレンと、パーフルオロ(ビニルプロピルエーテル)と、パーフルオロ−(1,1,9,9−テトラハイドロ−2,5−ビストリフルオロメチル−3,6−ジオキサ−8−ノネノール)との3成分系ランダム共重合体フィルム(以下、それぞれ内層フッ素樹脂フィルム、外層フッ素樹脂フィルムとする)を重ねあわせ、熱ラミネート法により2層および3層フィルムを作製した。上記フィルムを寸法180×100mmになるようにカットしたシートを、内層フッ素樹脂フィルムが接するように2枚重ね合わせてヒートシール法により縁部10mmを熱溶着させることにより凍結保存容器を作成した。各フィルム層の膜厚を表1に示す。
上記3成分系ランダム共重合体フィルムの共重合組成比は、パーフルオロ−(1,1,9,9−テトラハイドロ−2,5−ビストリフルオロメチル−3,6−ジオキサ−8−ノネノール)モノマーユニット1に対して、ポリテトラフルオロエチレンモノマーユニットと、パーフルオロ(ビニルプロピルエーテル)モノマーユニットとの合計が99であった。上記共重合組成比は、19F−NMRにより測定した。
【0098】
比較例1:比較の凍結保存容器1
市販されているエチレン−酢酸ビニル共重合体製の凍結保存容器(BAXER社製)を用いた。
【0099】
比較例2:比較の凍結保存容器2
市販されているポリエチレン製の凍結保存容器(CharterMed社製)を用いた。
【0100】
合成例1(接着性フッ素樹脂の合成)
内容積820Lのガラスライニング性オートクレーブに純水200Lを入れ、径内を窒素ガスで充分に置換した後、真空にし、1−フルオロ−1,1−ジクロロエタン113kg及びヘキサフルオロプロピレン95kg、シクロヘキサン85gを仕込んだ。次いで、パーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)[CH=CF(CFH]292gを窒素ガスを用いて圧入し、槽内温度を35℃、攪拌速度を200rpmに保った。更にテトラフルオロエチレンを7.25kg/cmGになるまで圧入し、その後、エチレンを8kg/cmGになるまで圧入した。
【0101】
次いで、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネートの50質量%メタノール溶液1.9kgを仕込むことにより、重合を開始した。重合の進行と共に槽内圧力が低下するので、テトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレンの混合ガス(モル比=39.2:43.6:17.3)を追加圧入して、重合圧力を8kg/cmGに保ちながら重合を続け、途中、CH=CF(CFH1100gを20回に分割してマイクロポンプで仕込み、重合を合計32時間行った。重合終了後、内容物を回収し、水洗し、粉末状の接着性フッ素樹脂を95kg得た。
【0102】
得られた接着性フッ素樹脂について、以下の測定を行った。
(1)モノマー単位
19F−NMR分析を行い、測定した。
(2)カーボネート基数
接着性フッ素樹脂の粉末を室温にて圧縮成形し、厚さ0.05〜0.2mmフィルムを作製した。得られたフィルムについて赤外吸収スペクトル分析を行い、カーボネート基[−OC(=O)−O−]中のカルボニル基が帰属するピーク[1809cm−1(νC=O)]の吸光度を測定した。得られた測定値から、下記式に基づき主鎖炭素数1×10個あたりのカーボネート基の個数を算出した。
N=500AW/εdf
A:上記νC=Oの吸光度
ε:上記νC=Oでのモル吸光度係数[l・cm−1・mol−1
(モデル化合物よりε=170とした。)
W:モノマー組成から計算される組成平均分子量
d:フィルムの密度[g/cm
f:フィルムの厚さ[mm]マイクロメーターにて測定。
上記赤外吸収スペクトル分析は、Perkin−Elmer FTIRスペクトロメーター1760X(Perkin−Elmer社製)を用いて40回スキャンして行った。νC=Oの吸光度の解析は、Perkin−Elmer Spectrum for Windows(登録商標) Ver.1.4Cソフトウェアにて行った。
(3)融点
示差走査熱量計(セイコー社製)を用い、昇温速度10℃/分にて測定し、得られた融解ピークの極大値での温度を融点とした。
【0103】
得られた接着性フッ素樹脂は、モノマー単位がTFE/Et/HFP/[CH=CF(CFH]=38.9/45.9/14.8/0.4であり、カーボネート基数が主鎖炭素数1×10個あたり411個であり、融点が171.8℃であった。
【0104】
実施例9
(1)合成例から得られた接着性フッ素樹脂について、シリンダ直径90mmの単軸押出し機にTダイを接続し、シリンダ温度170〜230℃、ダイ温度230℃、スクリュー回転数10rpmの条件下にて、接着性フッ素樹脂フィルム(厚み:25μm)を成形した。
得られた接着性フッ素樹脂フィルムと、ポリイミドフィルム(製品名:カプトン100H、東レ・デュポン社製、厚み:25μm)とを、温度250℃の条件下にて熱ロールでラミネートして、積層フィルム(長さ20m×幅200mm×全体厚み50μm。以下、長尺フィルムともいう。)を得た。得られた積層フィルム(フッ素樹脂層の厚さ;25μm、ポリイミド層の厚さ;25μm)の接着強度について、長さ方向に100mm、幅方向に10mmの短冊状に切り出し、その端のフッ素樹脂層とポリイミド層とを刃物を用いて剥離し掴みしろを作り、テンシロン万能試験機(オリエンテック社製)を用いて25mm/分の速度で180°剥離させて測定したところ、400N/mであった。
(2)続いて、上記長尺フィルムから12cm角に切り出した積層フィルム2枚を、シール幅(貼付しろ)1cmとして接着性フッ素樹脂層を内側にして重ね、3辺をヒートシーラーで210℃×5秒の条件で熱融着した。更に、1辺の開口部から100mL純水を投入して、空気が入らないように該開口部をヒートシールして、縦10cm×横10cm×高さ1cmの上記純水により満たされた内部空間を持つ袋を作成した。
本方法にて10個の袋を作成し、これらを−196℃の液体窒素中に24時間浸漬したのち、37℃の温水中にて解凍したところ、10個とも袋の破裂、内容物の漏れ等がなかった。
以上より、本発明の凍結保存容器は、液体窒素浸漬に充分対応可能と考えられた。
(3)上記長尺フィルムから12cm角に切り出した積層フィルム2枚を、シール幅(貼付しろ)1cmとして接着性フッ素樹脂層を内側にして重ね、3辺をヒートシーラーで210℃×5秒の条件で熱融着し、容量25mlの凍結保存容器を作成した。ポリイミドフィルムと、接着性フッ素樹脂フィルム(内層フッ素樹脂フィルム)の膜厚を表1に示す。
【0105】
実験例1:凍結試験
実施例1〜9で作製された凍結保存容器および比較例1、2の凍結保存容器それぞれにジメチルスルホキシド(DMSO)10%(v/v)水溶液80mlを充填し、十分に空気を抜いた後、アルミ製のケースに収納した。アルミ製ケースに収納した容器をディープフリーザー(凍結機)にて−80℃、4時間静置し、凍結させた。次にこの凍結した容器を液体窒素内に移し、1週間保存した。保存した容器を、アルミケースから取り出し、37〜40℃の温浴中で容器を解凍し、容器に破損、液体窒素の混入などが起きてないかどうかを目視観察した。
【0106】
その実験の結果を表2に示す。比較例1は20%、比較例2は10%破損したのに対して、本発明の凍結保存容器は、30個という膨大な試験数をこなしたにも関わらず、一つも破損が見られなかった。
【0107】
【表1】

【0108】
【表2】

【0109】
実験例2:凍結試験
細胞懸濁液は、RPMI1640培地(Invitorogen株式会社製)にMOLT−4細胞(理研株式会社から譲渡)を約1.0×10cells/mlの濃度で調製した。実施例9で作製された凍結保存用容器および比較例1の凍結保存容器それぞれにジメチルスルホキシド(DMSO)10%(v/v)の細胞懸濁液80mlを充填し、十分に空気を抜いた後、アルミ製のケースに収納した。アルミ製ケースに収納した容器をディープフリーザー(凍結機)にて−80℃、4時間静置し、凍結させた。次にこの凍結した容器を液体窒素内に移し、1週間保存した。保存した容器を、アルミケースから取り出し、37〜40℃の温浴中で容器を解凍し、容器に破損、液体窒素の混入などが起きてないかどうかを目視観察した。試験はそれぞれ5回ずつ行った。
【0110】
その結果、比較例1の凍結保存容器は1個破損したのに対して、本発明の凍結保存用容器は5個とも破損が見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の凍結保存容器は、極低温環境下で血液、稀少細胞および生体組織を保存する際に、破損することなく保存することを可能にする。また、膜厚が比較的薄いために凍結保存容器の内容物への熱伝導度を低減させることがない。さらに凍結保存容器を収容した後のヒートシールによる密封性が非常によいために、内部への液体窒素の混入を防止することができ、液体窒素内の細菌またはウイルスなどによる汚染および解凍時における混入した液体窒素の膨張による凍結保存容器の破裂を防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−80〜−196℃の極低温下で凍結保存容器を使用する方法であって、
該使用方法は、生体試料を凍結保存容器に収容する工程を含み、
該凍結保存容器は、少なくとも接着性含フッ素高分子フィルムと、該接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムとを含む積層フィルムで構成され、該接着性含フッ素高分子フィルムが少なくとも片方の最外面に存在するものであり、
該接着性含フッ素高分子フィルムは、接着性部位を有する接着性含フッ素高分子からなり、該接着性部位が、炭素−炭素二重結合、カルボニル基[−C(=O)]、カルボニル基を有する基又は結合、ヒドロキシル基、シアノ基、スルホン酸基、およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1つである
凍結保存容器の使用方法。
【請求項2】
接着性含フッ素高分子が、接着性部位として反応性官能基を有しており、以下の(A)と(B)を共重合して得られる共重合体である請求項1に記載の凍結保存容器の使用方法:
(A)反応性官能基を有さない含フッ素モノマー
(B)少なくとも1種類の反応性官能基を有する含フッ素モノマー。
【請求項3】
反応性官能基を有さない含フッ素モノマーが、以下の式(1)で表現される請求項2に記載の凍結保存容器の使用方法:
【化1】

(式中のXおよびXはそれぞれ水素原子またはハロゲン原子であり、Yは水素原子、フッ素原子、炭素数1〜5の含フッ素アルキル基または炭素数1〜5の含フッ素オキシアルキル基である)。
【請求項4】
反応性官能基を有さない含フッ素モノマーが、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、1,2−ジフルオロクロロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(ビニルメチルエーテル)およびパーフルオロ(ビニルプロピルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1つである請求項3に記載の凍結保存容器の使用方法。
【請求項5】
反応性官能基を有する含フッ素モノマーが、以下の式(2)で表現される請求項2〜4のいずれかに記載の凍結保存容器の使用方法:
【化2】

(式中のXおよびXはそれぞれ水素原子またはハロゲン原子であり、Zはヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホン酸基またはエポキシ基であり、Rは炭素数1〜40の含フッ素アルキレン基、炭素数1〜40の含フッ素オキシアルキレン基または炭素数1〜40の少なくとも1つのエーテル結合を有する含フッ素アルキレン基である)。
【請求項6】
接着性含フッ素高分子が、以下の式(3)で表現される請求項2に記載の凍結保存容器の使用方法;
【化3】

(式中のXおよびXはそれぞれ水素原子またはハロゲン原子であり、YおよびYはそれぞれ水素原子、フッ素原子、炭素数1〜5の含フッ素アルキル基または炭素数1〜5の含フッ素アルコキシ基であり、Zはヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホン酸基またはエポキシ基であり、Rは炭素数1〜40の含フッ素アルキレン基、炭素数1〜40の含フッ素オキシアルキレン基または炭素数1〜40の少なくとも1つのエーテル結合を有する含フッ素アルキレン基であり、(l+m)/nが2〜2000である)。
【請求項7】
接着性含フッ素高分子は、含フッ素モノマーに由来する含フッ素モノマー単位と、フッ素非含有モノマーに由来するフッ素非含有モノマー単位とを有するものである請求項1〜6のいずれかに記載の凍結保存容器の使用方法。
【請求項8】
含フッ素モノマーはテトラフルオロエチレンであり、フッ素非含有モノマーはエチレンである請求項7に記載の凍結保存容器の使用方法。
【請求項9】
接着性含フッ素高分子は、エチレン、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンに由来するモノマー単位を有するものである請求項1〜8のいずれかに記載の凍結保存容器の使用方法。
【請求項10】
接着性含フッ素高分子は、融点が200℃以下である請求項1〜9のいずれかに記載の凍結保存容器の使用方法。
【請求項11】
少なくとも接着性含フッ素高分子フィルムと、該接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムとを含む積層フィルムは、接着性含フッ素高分子フィルムと該接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムとを熱ラミネート法によって積層することにより得られ、該熱ラミネート法が200〜250℃で実施される請求項1〜10のいずれかに記載の凍結保存容器の使用方法。
【請求項12】
該接着性含フッ素高分子フィルム以外のフィルムが、耐寒性樹脂フィルムである請求項1〜11のいずれかに記載の凍結保存容器の使用方法。
【請求項13】
耐寒性樹脂が、超高分子量ポリエチレン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体およびエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる群より選択される少なくとも1つである請求項12に記載の凍結保存容器の使用方法。
【請求項14】
耐寒性樹脂が、ポリイミドである請求項13に記載の凍結保存容器の使用方法。

【公開番号】特開2012−236035(P2012−236035A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−129301(P2012−129301)
【出願日】平成24年6月6日(2012.6.6)
【分割の表示】特願2007−509372(P2007−509372)の分割
【原出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】