説明

凍結結晶の処理装置及び処理方法

【課題】結晶の構造解析システムにおいて、凍結された結晶の保存、輸送、搬送等を行うための各処理を少ない数の器具によって簡単且つ短時間で正確に行うことができるようにする。
【解決手段】凍結結晶9を支持する結晶ホルダ6と、結晶ホルダ6を格納できる格納容器22と、格納容器22に取付け及び取外し可能である格納容器支持具23とを有し、結晶ホルダ6が格納容器22内に格納された状態において結晶ホルダ6における凍結結晶9が支持される部分7に対応する側の格納容器22の角部を傾斜面30とした凍結結晶の処理装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結された結晶を保存、輸送、又は搬送する際に好適である凍結結晶の処理装置及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質(protein)は、L-アミノ酸が多数連結(重合)してできた高分子化合物であり、生物の重要な構成成分のひとつである。タンパク質に代表される生体高分子の立体構造に関する知見が生命科学の分野において非常に重要で不可欠であることは知られている。近年、タンパク質の立体構造の知見を基にそのタンパク質が持つ機能を解明することを目的とした学問分野である構造生物学が注目されている。
【0003】
タンパク質の立体構造を分子レベル、さらには原子レベルで決定できる有力な手段としてX線分析装置が知られている。被検物質であるタンパク質にX線を照射したときにそのタンパク質から出る2次X線、例えば回折線、散乱線等を検出して分析することにより、タンパク質の分子立体構造又は原子立体構造を知ることができ、その知見に基づいて分子生物学におけるタンパク質の解析を行うことができる。
【0004】
タンパク質の構造解析は、一般に、図9に示す工程図のような手順で行われる。具体的には、まず、工程P1において、被検対象であるタンパク質を結晶化する。得られた結晶は、工程P2において、X線回折測定に適した試料となるように調製される。例えば、キャピラリチューブに封入されたり、あるいは凍結させられたりする。キャピラリチューブに封入するのは、タンパク質結晶には溶媒(例えば水)が含まれているが、空気中に放置すると溶媒分子が蒸発して結晶が壊れるおそれがあるからである。他方、タンパク質結晶を凍結させるのは、結晶に含まれる溶媒(例えば水)をガラス状態(非晶質状態)にすることにより、タンパク質結晶からの回折線の邪魔になる回折線を生じさせないようにするためである。
【0005】
次に、工程P3においてタンパク質結晶を試料としてX線回折測定を行って、回折線強度I(hkl)を求める。次に、求められた回折線強度I(hkl)に基づいて、工程P4において結晶構造因子F(hkl)を計算し、さらに求められた結晶構造因子F(hkl)をフーリエ合成して単位格子内の電子密度ρ(xyz)を求める。
【0006】
次に、求められた電子密度ρ(xyz)に基づいて、工程P5においてタンパク質の分子モデルを組み上げて行き(分子モデルの構築)、さらに構築された分子モデルと回折強度測定で得られた分子モデルが十分に一致するように分子モデルを修正する(分子モデルの精密化)。こうして、タンパク質の分子モデルが最終的に決定されて、構造解析の目的が達成される。
【0007】
上記のタンパク質の構造解析処理に関して Warkentin 等は非特許文献1において、特に試料調製工程P2においてタンパク質結晶を凍結することを開示している。さらには、タンパク質結晶を液体窒素の中へ突っ込み冷却(plunge cool)することにより、その結晶を凍結することを開示している。さらには、液体窒素の液面表層に形成される低温ガス層(cold gas layer)を吹き飛ばして除去することにより、タンパク質結晶を凍結させるための冷却速度を高速にし、タンパク質結晶の瞬間冷却を実現できることを教示している。
【0008】
ところで、凍結されたタンパク質結晶は直ちにX線回折測定に供されたり、液体窒素等といった冷媒が充填された保存容器に収納されて長期間保存されたり、又は冷媒が充填された保存容器に収納されて異なる場所へ輸送又は搬送されたりする。非特許文献2には、凍結された結晶を保存したり搬送したりするために、当該結晶を液体窒素で満たしたキャップに差し込むことが教示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】"Hyperquenching for protein cryocrystallography", Matthew Warkentin, Vitacheslav Berejnov, Naji S. Husseini and Robert E. Thorne, Journal of Applied Crystallography (2006).39, 805-811
【非特許文献2】中迫雅由、「低温蛋白質結晶構造解析」、日本結晶学会誌 第41巻 第1号(1999)、p.57−65
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、図9の結晶化工程P1によって得られた結晶は、例えば、図10(b)に示すように、マウント具6の捕集部7内に符号9で示すように母液(すなわち溶液)8と共に捕集される。次に、試料調製工程P2において、タンパク質結晶9を抗凍結剤を含んだ溶液に浸し、その後、そのタンパク質結晶9を凍結させる。この凍結は、例えば、タンパク質結晶9を液体窒素に浸漬することによって行われる。
【0011】
凍結されたタンパク質結晶9は、図9のX線回折測定工程P3において、例えば図11に示すX線回折装置11によってX線回折測定を受ける。このとき、試料支持部13の試料台16の上端部17にマウント具6が装着される。その後、図9の計算工程P4及びモデル化工程P5が行われる。
【0012】
従来、試料調製工程P2においてタンパク質結晶が凍結された後、その凍結結晶は直ちにX線回折測定工程P3に置かれる場合もあるし、長期間の保存処理に置かれる場合もあるし、異なった場所へ輸送又は搬送された後にX線回折測定工程P3に置かれる場合もある。保存処理、輸送処理、又は搬送処理に置かれる場合、凍結されたタンパク質結晶は極力、外気に触れないように取り扱われなければならない。従来、保存処理、輸送処理、又は搬送処理は次のようにして行われていた。
【0013】
まず、図12において容器61を用意し、その容器61の中に液体窒素LN2 を入れる。また、マウント具6を持つための器具である棒状部材、いわゆるワンド(Wand)62、及びキャップ63を持つための器具である鋏構造の保持器具、いわゆるクランプ(Clamp)64を用意する。符号59は挟構造の回転中心を示している。
【0014】
ワンド62の先端は磁石となっている。この先端をマウント具6の底部の磁性体部分に吸着させることにより、ワンド62によってマウント具6を保持することができる。クランプ64の先端は外側へ湾曲する湾曲形状となっている。作業者がクランプ64の後端のリング部に指を入れて先端湾曲部を外方へ開き、さらにそれらの湾曲部をキャップ63まで持ち運び、さらにリング部を指で閉じると、先端湾曲部が狭まってキャップ63を挟んで保持できる。
【0015】
次に、作業者は、図10(b)に示すマウント具6、すなわち凍結されたタンパク質結晶9を支持しているマウント具6を図12において液体窒素LN2 の中に入れる。また、空のキャップ63を液体窒素LN2 の中に入れる。キャップ63は、マウント具6を収納可能な内径を有した円筒形状で透明なプラスチック容器である。キャップ63の一端はマウント具6を通過させることができる開口となっており、反対側の他端は壁となっている。
【0016】
作業者は、一方の手でワンド62を持ち、その先端を液体窒素LN2 の中に入れ、マウント具6を磁力によってワンド62の先端に吸着させる。さらに、他方の手でクランプ64を持ち、このクランプ64の先端を液体窒素LN2 の中に入れ、クランプ64の先端でキャップ63を挟持する。
【0017】
そして、それぞれの手でワンド62及びクランプ64を操作して、マウント具6を液体窒素LN2 の中でキャップ63の中へ挿入する。キャップ63の開口に近い部分にはリング状の磁石65が設けられている。キャップ63の中に挿入されたマウント具6の基部は磁石65に吸着し、そのため、マウント具6は容易にはキャップ63から抜け落ちないようになっている。
【0018】
以上によりキャップ63の中に液体窒素LN2 と共にマウント具6が挿入された後、クランプ64によってキャップ63を液体窒素LN2 の外へ持ち出す。そして、持ち出したキャップ63を図13に示す保存器具、いわゆるケーン66まで持ち運び、一対の把持用突片67の間に挿入して、支持板68の上に載せる。凍結されたタンパク質結晶の保存、輸送、搬送等は、図13のケーン66を液体窒素容器の中に格納した状態で行われる。
【0019】
その後、保存、輸送、搬送等された後のタンパク質の凍結結晶を図11のX線回折装置11によって測定する際には、従来、次のような処理が行われていた。まず、図14(a)において、液体窒素LN2 を収容した容器71を用意する。そして、保存、輸送、搬送等された後の図13のケーン66を図14(a)の容器71の近くまで運び、液体窒素と共にマウント具6を収容したキャップ63をケーン66の突片67から外して、容器71の液体窒素LN2 の中へ入れる。
【0020】
次に、図14(b)に示すようにクランプ64及びワンド62を用意する。そして、図15(c)に示すように、ワンド62によってマウント具6を支持た上で、クランプ64によってキャップ63をつかみ、さらにキャップ63をマウント具6から外し、さらにそのキャップ63を液体窒素LN2 の外へ持ち運ぶ。
【0021】
次に、作業者は、図15(d)に示すように、マウント具6を持ち運ぶための器具であるクライオ・トング(CryoTongs)72をクランプ64に代えて用意する。クライオ・トング72は、作業者が手の指で掴んで支持する一対の把持部73,73を有している。これらの把持部73はバネ性を備えていてそれらの後端部分が互いに接合されている。それらの把持部73の接合部と反対側の端部には延在部74,74が連続して設けられている。これらの延在部74は互いに交差しており、それらの先端にマウント具格納部材75,75が溶接、その他の接合手法によって固着されている。
【0022】
マウント具格納部材75,75は互いに面接触した状態で図示のように、ほぼ円筒状のマウント具格納容器76を構成するようになっている。各マウント具格納部材75の内部にはマウント具6の少なくとも半分を埋め込むことができる凹部が形成されており、従って、それらが合わさって形成されたマウント具格納容器76は、その内部にマウント具6を密閉状態で格納できるようになっている。
【0023】
作業者は、クライオ・トング72のマウント具格納容器76を液体窒素LN2 の中へ入れ、把持部73,73を指で狭める。すると、延在部74,74の先端が開き、その結果、マウント具格納容器76が中央部から分離して個々のマウント具格納部材75,75に分かれる。次に、作業者は、互いに別れたマウント具格納部材75,75の間にマウント具6を持ち運び、さらに把持部73,73の間隔を弾性復元力によって広げて、マウント具格納部材75,75を閉じて、円筒形状のマウント具格納容器76を形成する。
【0024】
この状態でマウント具格納容器76の内部にマウント具6が液体窒素LN2 と共に格納される。次に、作業者がマウント具6の底部からワンド62の先端を磁力に抗して引き抜けば、図16(e)に示すようにクライオ・トング72のマウント具格納容器76の中にマウント具6が格納される。
【0025】
その後、作業者はクライオ・トング72を手に持ってマウント具格納容器76を液体窒素LN2 の外部へ持ち出し、図16(f)に示すようにそのマウント具格納容器76を速やかにX線回折装置11の試料支持部13の試料台16の所まで持ち運ぶ。この搬送中、マウント具6は格納容器76の内部において液体窒素に囲まれており外気に触れることなく低温状態に保持されている。
【0026】
試料台16の上端部17の上面は磁石となっており、作業者がマウント具格納容器76を試料台16の上方位置まで持ち運び、さらにマウント具格納容器76を中央部から開くと、それまでマウント具格納容器76に格納されていたマウント具6が離脱して、その底部が試料台16の上端部17の上面磁石部分に磁力によって吸着して固定される。この状態で、図11に示すようにマウント具6によって支持されたタンパク質の凍結結晶9がX線回折装置11内の所定位置に配置される。
【0027】
試料としての凍結結晶を配置する位置の近傍には予め冷媒吹付け用ノズル18が設けられており、このノズル18から冷媒、例えば100K(ケルビン)程度の低温の窒素ガスが噴射されている。従って、所定位置に配置された凍結結晶9にはノズル18からの窒素ガスが吹付けられ、これにより、凍結結晶9は引き続き外気に触れることなく低温状態に保持される。
【0028】
X線回折装置11によるX線回折測定が終了した場合には、凍結結晶9をマウント具6と共に図13のケーン66へ再び戻す必要がある。この場合には、既に説明した図14−図15−図16の一連の工程を逆の順番で実行し、最終的に図14(a)の状態でクランプ64によって、マウント具入りのキャップ63を掴み、さらにキャップ63を液体窒素LN2 の外へ持ち運び、そして図13のケーン66まで持ち運び、把持用突片67,67の間に差し込んで格納する。
【0029】
以上のように、タンパク質の凍結結晶を保存したり輸送したり搬送したりする場合、従来は、クライオ・トング72、ワンド62、クランプ64等といった一揃いの専用ツールを用いて、容器71内に貯留した液体窒素LN2 の中という限定された狭い領域内で、マウント具6をキャップ63に対して出し入れしたり、クライオ・トング72のマウント具格納容器76に対して出し入れする、等といった非常に煩雑な作業を行わなければならなかった。この作業は、熟練者であっても非常に難しいものであり、正確に行うには長時間を要していた。また、場合によってはタンパク質の凍結結晶の凍結が緩んだり、タンパク質の凍結結晶を外気に触れさせてしまったりして、正しい測定ができなくなることもしばしばあった。
【0030】
本発明は、従来装置における上記の問題点を解消するために成されたものであって、結晶の構造解析システムにおいて、凍結された結晶の保存、輸送、搬送等を行うための各処理を少ない数の器具によって簡単且つ短時間で正確に行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明に係る第1の凍結結晶の処理装置は、凍結結晶を支持する結晶ホルダと、前記結晶ホルダを格納できる格納容器と、前記格納容器に取付け及び取外し可能である格納容器支持具とを有し、前記結晶ホルダが前記格納容器内に格納された状態において前記結晶ホルダにおける前記凍結結晶が支持される部分に対応する部分の前記格納容器の角部を傾斜面としたことを特徴とする。
【0032】
凍結結晶は任意の物質の凍結結晶であり、例えばタンパク質の凍結結晶である。結晶ホルダは凍結結晶を支持できる任意の機構である。X線回折測定が予定されている場合には、X線回折装置のゴニオメータに搭載される試料台に装着されるマウント具をそのまま結晶ホルダとして用いることができる。
【0033】
格納容器は、単体構造の容器そのものや、分割された構造の複数の容器部分の組み合わせによって形成することができる。格納容器支持具の構造は任意である。好ましくは、ピンセットのような開閉可能器具の先端開閉部分を格納容器に設けた穴(貫通穴、非貫通穴、等)に挿入したり、引き抜いたりする構造とする。
【0034】
格納容器の角部を傾斜面とすることは、格納容器の端部を例えば図8(a)のような円錐形状30aや、図8(b)のような球形状30bや、又は図8(c)のような截頭円錐形状30cとすることによって達成できる。
【0035】
本発明に係る第1の凍結結晶の処理装置によれば、格納容器支持具が格納容器に対して取付け及び取外し可能であるので、格納容器そのものを保存容器として用いることができ、それ故、使用する器具の点数を減らすことができる。
【0036】
また、格納容器を凍結結晶のための保存容器及び搬送容器の両方として機能させることにしたので、結晶ホルダを保存するための保存容器と、結晶ホルダを搬送するための搬送容器とを交換する工程が不要になり、保存容器に保存されている格納容器をそのままX線回折装置等といった測定装置へ運ぶことができる。これらのことから、経費を大幅に低減でき、作業を簡単に且つ短時間で行うことができるようになった。
【0037】
さらに、格納容器の角部を傾斜面としたので、格納容器に格納された結晶ホルダを設置すべき空間領域が狭い場合でも、その空間領域内へ格納容器を容易に入れることができる。
【0038】
本発明に係る第2の凍結結晶の処理装置は、凍結結晶を支持する結晶ホルダと、互いに面接触可能であり、面接触した状態で格納容器を構成する一対の格納部材と、互いに対向する一対の装着部分を備えており、それらの装着部分のそれぞれが前記一対の格納部材のそれぞれに取付け及び取外し可能である格納容器支持具と、を有し、前記一対の格納部材のそれぞれは前記結晶ホルダを収容するための凹部を有しており、前記格納容器支持具は前記一対の装着部分を狭まる方向及び広がる方向へ移動させることができ、前記結晶ホルダが前記格納容器内に格納された状態において前記結晶ホルダにおける前記凍結結晶が支持される部分に対応する側の前記格納部材の角部を傾斜面としたことを特徴とする。
前記一対の装着部分は弾性部材によって形成されることが望ましく、さらに該一対の装着部分は、前記格納容器に取り付けられた状態であって、さらに外力が加わらない自然状態で、該格納容器を弾性力によって挟持することが望ましい。
【0039】
この凍結結晶の処理装置によれば、上記第1の凍結結晶の処理装置が奏する作用効果に加えて、さらに、互いに分離可能な一対の格納部材によって格納容器を形成したので、凍結結晶を格納容器に入れたり出したりする作業がさらに容易になる。
【0040】
本発明に係る第2の凍結結晶の処理装置において、前記格納容器支持具は、作業者によって把持される把持部と、該把持部から延びており先端が前記一対の装着部分となる一対の延在部とを有することができる。そして、前記一対の装着部分は、前記把持部を力をかけて握ったときに、互いに離れる方向へ移動するように構成されることが好ましい。この構成により、格納容器に結晶ホルダを挿入したり、取出したりする作業を簡単に行えるようになる。
【0041】
本発明に係る第2の凍結結晶の処理装置においては、前記一対の延在部のそれぞれに第2把持部を追加的に設けることができ、該第2把持部は前記延在部の外方へ張り出すように設けることができる。そして、一対の第2把持部を力をかけて握ったときに、前記一対の装着部分が互いに近づく方向へ移動するように構成することが好ましい。
【0042】
この構成によれば、格納容器支持具を格納容器に取り付けたり、逆に取り外したりする作業を、作業者が第2把持部を握ったり、掴んだりすることによって行うことができる。この場合、第2把持部を握ると先端の装着部は互いに近づく方向へ移動するので、格納容器支持具の格納容器への取付け及び取外しを正確、簡単、且つ短時間に行うことができる。
【0043】
次に、本発明に係る凍結結晶の処理方法は、結晶ホルダに結晶を取り付ける工程(図10)と、取り付けられた前記結晶を凍結させる工程(図9の工程P2)と、凍結された前記結晶を支持した前記結晶ホルダを冷媒の中に入れる工程(図1)と、格納容器に取付け及び取外し可能である格納容器支持具によって支持した当該格納容器を前記冷媒の中に入れる工程(図1)と、前記冷媒の中で前記結晶ホルダを前記格納容器中に収納する工程(図1)と、前記格納容器を前記格納容器支持具によって冷媒の外部へ持ち出す工程(図4(b))と、持ち出した前記格納容器を前記格納容器支持具によって保存器具まで持ち運んで該保存器具に装着する工程(図4(a))と、装着した前記格納容器から前記格納容器支持具を取り外す工程(図4(a)の矢印E)と、を有し、前記結晶ホルダが前記格納容器内に格納された状態において前記結晶ホルダにおける前記凍結結晶が支持される部分に対応する側の前記格納容器の角部を傾斜面としたことを特徴とする。
【0044】
本発明に係る凍結結晶の処理方法によれば、格納容器支持具が格納容器に対して取付け及び取外し可能であるので、格納容器そのものを保存容器として用いることができ、それ故、使用する器具の点数を減らすことができる。
【0045】
また、格納容器を凍結結晶のための保存容器及び搬送容器の両方として機能させることにしたので、結晶ホルダを保存するための保存容器と、結晶ホルダを搬送するための搬送容器とを交換する工程が不要になった。このため、その交換の際に従来必要としていた冷媒、例えば液体窒素も不要になり、保存容器に保存されている格納容器をそのままX線回折装置等といった測定装置へ運ぶことができるようになった。これらのことから、経費を大幅に低減でき、作業を簡単に且つ短時間で行うことができるようになった。
【0046】
さらに、格納容器の角部を傾斜面としたので、格納容器に格納された結晶ホルダを設置すべき空間領域が狭い場合でも、その空間領域内へ格納容器を容易に入れることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明に係る凍結結晶の処理装置及び処理方法によれば、格納容器支持具が格納容器に対して取付け及び取外し可能であるので、格納容器そのものを保存容器として用いることができ、使用する器具の点数を減らすことができる。
【0048】
また、格納容器を凍結結晶のための保存容器及び搬送容器の両方として機能させることにしたので、結晶ホルダを保存するための保存容器と、結晶ホルダを搬送するための搬送容器とを交換する工程が不要になった。このため、その交換の際に従来必要としていた冷媒、例えば液体窒素も不要になり、保存容器に保存されている格納容器をそのままX線回折装置等といった測定装置へ運ぶことができるようになった。これらのことから、経費を大幅に低減でき、作業を簡単に且つ短時間で行うことができるようになった。
【0049】
さらに、格納容器の角部を傾斜面としたので、格納容器に格納された結晶ホルダを設置すべき空間領域が狭い場合でも、その空間領域内へ格納容器を容易に入れることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る凍結結晶の処理方法を実施するための処理装置の一実施形態を示す図である。
【図2】格納容器を保存するための保存器具の一例を示す図である。
【図3】格納容器及びそれを支持する支持具の一実施形態を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る凍結結晶の処理方法の主要な工程を示す図である。
【図5】本発明に係る凍結結晶の処理方法の他の主要な工程を示す図である。
【図6】本発明に係る凍結結晶の処理方法のさらに他の主要な工程を示す図である。
【図7】凍結結晶の処理方法の比較例における1つの工程を示す図である。
【図8】本発明に係る凍結結晶の処理装置で用いる格納容器の主要部分の改変例を示す図である。
【図9】一般的なタンパク質の構造解析方法の工程図である。
【図10】図9の工程図の主要工程を示す図である。
【図11】図9の工程図の他の主要工程を示す図である。
【図12】従来の凍結結晶の処理装置の一例を示す図である。
【図13】格納容器を保存するための従来の保存器具の一例を示す図であり、(a)は正面上方から見た斜視図、(b)は側面図である。
【図14】従来の凍結結晶の処理方法の主要な工程を示す図である。
【図15】従来の凍結結晶の処理方法の他の主要な工程を示す図である。
【図16】従来の凍結結晶の処理方法のさらに他の主要な工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
(凍結結晶の処理装置及び凍結結晶の処理方法の第1の実施形態)
本実施形態では、凍結結晶としてタンパク質の結晶を凍結したものを考える。また、X線分析を用いたタンパク質の構造解析を行う際に本発明に係る凍結結晶の処理装置及び凍結結晶の処理方法を適用するものとする。
【0052】
本発明に係る装置及び方法を説明する前に、まず、X線分析を用いたタンパク質の構造解析方法について図9に示された工程図に基づいて簡単に説明する。まず、図9の工程P1でタンパク質の結晶化が行われる。結晶化する理由は、第1に、タンパク質が気体や溶液の状態であると分子が激しく動いて立体構造が確定しないからである。第2に、結晶化して分子を規則正しく配列させると高強度の回折線を得ることができるからである。
【0053】
結晶化の方法としては、静置バッチ法、自由界面拡散法、微量透析法、蒸気拡散法、等といった種々の方法があるが、例えば蒸気拡散法に従って結晶化を行うものとすれば、図10(a)に示すように、沈殿剤を含んだ緩衝液2を容器1内に収容し、容器1の開口をガラスの蓋3で密封する。そして、沈殿剤を含んだタンパク質溶液4を蓋3に吊り下げる。
【0054】
タンパク質溶液4に含まれる沈殿剤の濃度は、緩衝液2に含まれる沈殿剤の濃度の1/2である。緩衝液2とタンパク質溶液4とが蒸気平衡に近づくにつれてタンパク質溶液4から溶媒である水が蒸発し、タンパク質溶液中の沈殿剤濃度が上昇し、タンパク質が結晶化する。得られた結晶は、結晶ホルダとしてのマウント具6の先端に備えられたループ状の捕集具7によって母液(すなわち溶液)と共に捕集される。具体的には、図10(b)に示すように、捕集具7の内部に母液8が捕集され、その母液8の中にタンパク質結晶9が捕集される。
【0055】
捕集具7に捕集されたタンパク質結晶9は、工程P3で行われるX線回折測定に適した状態の試料となるように、工程P2において調製処理を受ける。本実施形態では、その調製のために、タンパク質結晶9を抗凍結剤を含んだ溶液に浸した後、そのタンパク質結晶9を凍結する。
【0056】
タンパク質結晶を凍結させるのは、水が蒸発することを防止したり、結晶に含まれる溶媒である水をガラス状態(非晶質状態)にすることにより、タンパク質結晶からの回折線の邪魔になる回折線を生じさせないようにするためである。また、タンパク質結晶9に抗凍結剤を加えるのは、結晶に含まれる又は結晶の周囲にある水が結晶状態に氷結することを防ぐためである。なお、タンパク質結晶の凍結は、例えば、図10(b)に示すタンパク質結晶9を容器内に貯留された液体窒素の中に浸漬させることによって行われる。液体窒素の温度は、例えば81K(ケルビン)(−192℃)である。
【0057】
凍結されたタンパク質結晶9は、図9のX線回折測定工程P3において、図11に示すX線回折装置11の所定位置に配置される。X線回折装置11は、X線源12、試料支持部13、及び2次元X線検出器14を有している。試料支持部13は、図示しないゴニオメータ(すなわち測角器)によって支持された試料台16を有しており、その試料台16の上端部17の上面は磁石となっている。図10(b)のマウント具6は試料台16の上端部17に磁力によって固着されており、これにより、捕集部7内の凍結されたタンパク質結晶9が、X線源12からX線検出器14に至るX線光軸X0上に配置される。
【0058】
X線源12は測定の種類に応じて白色X線又は特性X線を出射する。2次元X線検出器14は試料であるタンパク質の凍結結晶9から出た回折X線を検出するための検出器であり、平面形あるいは湾曲形のものが用いられる。例えば、2次元X線検出器14は蓄積性蛍光体によって形成された平板状のX線検出器であり、本実施形態ではタンパク質凍結結晶9から出た回折線を平面内で受光する検出器である。なお、X線回折測定装置11はX線源12及びX線検出器14以外に、スリット、モノクロメータ等といった各種X線光学要素を含むものであるが、それらの図示は省略している。
【0059】
X線源12から放出されたX線がタンパク質凍結結晶9に入射すると、結晶9の原子立体構造に応じてX線光軸X0に対して所定の回折角度位置に回折線が生じ、その回折線がX線検出器14によって受光される。図では符号Pで受光点を模式的に示している。X線受光点Pが形成されるとき、回折線の強度の大きさに応じてX線検出器14によるX線受光量が変化し、受光部分Pに蓄積される蓄像量が変化する。
【0060】
試料である凍結結晶9が配置されるべき位置の近傍には、冷媒吹付け用ノズル18が設置されている。このノズル18は試料が配置される位置へ冷媒、例えば低温の窒素ガスを噴射する。X線を用いた上記の測定が行われる間、ノズル18から凍結結晶9へ冷媒が吹付けられ、これにより、凍結結晶9の凍結状態が保持される。
【0061】
X線検出器14の受光面において回折線が当った所に蓄積された蓄像量は、引き続いて行われる次の工程でレーザ光等といった輝尽励起光を受けて読み取られる。読み取られた結果は、回折線強度I(hkl)として電気信号によって特定される。回折線強度I(hkl)が得られると、工程P4において、電子密度ρ(xyz)を求めるための計算を行う。具体的には、I(hkl)に基づいて結晶構造因子F(hkl)を計算によって求め、さらに求められた結晶構造因子F(hkl)をフーリエ合成して電子密度ρ(xyz)を求める。
【0062】
その後、求められた電子密度ρ(xyz)に対して、工程P5においてアミノ基を当てはめてタンパク質の分子モデルを組み上げて行く作業を行う(分子モデルの構築)。さらに、構築された分子モデルと回折線強度測定で得られた分子モデルとを比較しながら分子モデルを修正する(分子モデルの精密化)。以上により、目標とするタンパク質結晶の分子モデルが求められる。
【0063】
(凍結結晶の保存、輸送、搬送等に用いる器具等)
図9の試料調製工程P2においてタンパク質の凍結結晶が得られた後、次のX線回折測定工程P3が直ちに行われることなく、長期間の保存に供されたり、長距離の輸送に供されたり、異なった場所への搬送に供されることがある。以下、そのような保存、輸送、搬送の際の処理について説明する。
【0064】
この保存処理等において使用する器具及び材料は、図1に示す容器20と、容器20に貯留される液体窒素LN2 と、マウント具6を支持するための試料ホルダ支持部材としてのワンド21と、格納容器22と、格納容器支持具23と、そして図2(a)及び(b)に示す保存器具としてのケーン24と、である。
【0065】
図1のワンド21は棒状の部材であり、作業者は手で握り部26を握ることにより、ワンド21を手で持つことができる。ワンド21の先端は磁石になっている。この磁石をマウント具6の底部に磁力で吸着させることにより、ワンド21によってマウント具6を支持できる。
【0066】
格納容器22は、図3(a)、(b)、(c)に示すように、2つの半円筒形部材である格納部材27a及び格納部材27bの側面平面部分(図3(c)参照)を互いに面接触させることによって形成されている。格納部材27a,27bのそれぞれの接触面には、図3(c)に示すように、マウント具6の半分を収納できる形状及び大きさの凹部28a及び28bが形成されている。従って、2つの格納部材27a,27bを合わせて形成される格納容器22は、その内部にマウント具6の全体を収納できる。
マウント具6の外周面及び格納部材27a,27bの内周面の少なくとも一方は着磁された面となっており、格納容器22内に収納されたマウント具6は、磁力によって格納部材27a,27bに保持されて、下方へ脱落しないようになっている。
【0067】
2つの格納部材27a及び27bのそれぞれには格納容器支持具23を挿入するための、すなわち取り付けるための断面矩形状の貫通穴29a及び29bが形成されている。さらに、格納容器22の先端の角部は直角の角部ではなく、傾斜面すなわちテーパ面30となっている。傾斜面30は格納容器22の円周方向の全域に形成されている。
【0068】
格納容器22は、その内部に格納したマウント具6に対して熱浴として機能する。熱浴とは、自分自身の温度を不変に保ちながら熱を相手部材に供給又は吸収する物体のことであり、例えば熱容量が十分に大きい物体によって構成できる。
【0069】
格納容器支持具23は金属又はプラスチックによって形成されており、作業者によって把持される把持部31を有している。把持部31は把持片32aと把持片32bとを後端部で互いに接合することによって形成されている。把持片32a及び把持片32bの接合端と反対側の端部は外方へ広がっている。
【0070】
広がっている把持片32a,32bの端部から、それぞれ、延在部33a,33bが延びている。延在部33a,33bの先端部34a及び34bは、図3(b)に示すように、格納部材27a,27bの貫通穴29a,29bへ差し込まれる部分である装着部として機能する。延在部33a,33bは平面視で交差している。この交差構造により、把持部31を矢印Aで示すように力をかけて握ると、装着部34a,34bは矢印Bで示すように互いに離れる方向へ移動する。
【0071】
延在部33a,33bは、それぞれ、把持部32a,32bの前方へ連続している。これらの延在部33a,33bは、平面視で互いに交差している後方部分と、それらの後方部分に連続して前方へ延びる前方部分とによって形成されている。前方部分の先端部が装着部34a,34bである。そして、延在部33a,33bの前方部分と後方部分との境界部分に第2把持部36a,36bがそれぞれ設けられている。
【0072】
第2把持部36a及び36bは人が手の指で把持することを目的として設けられている。そして、第2把持部36a,36bを矢印Cで示すように力をかけて握ると、装着部34a,34bは矢印Dで示すように互いに近づく方向へ移動する。格納容器支持具23の先端部である装着部34a,34bは弾性部材によって形成されている。格納容器支持具23の装着部34a,34bをそれぞれ、図3(b)に示すように格納部材27a,27bの貫通穴29a,29bに挿入、すなわち装着し、さらに第2把持部36a,36bを矢印Cで示すように力をかけて握り、さらに装着部34a,34bが貫通穴29a,29bの側面に当接する移動限界場所に達したときには、弾性部材である装着部34a,34bによって貫通穴29a,29bの側面に荷重がかかり、その結果、格納容器支持具23から格納容器23が抜け落ちることを装着部34a,34bの弾性挟持力によって防止できる。
【0073】
格納容器支持具23の先端部である装着部34a,34bを、それぞれ、図3(b)に示すように格納部材27a,27bの貫通穴29a,29bに挿入、すなわち装着すれば、格納容器支持具23によって格納容器22を持ち運ぶことができる。さらに、把持部31を矢印Aで示すように力をかけて握ると、装着部34a,34bが矢印B方向へ広がり移動し、その結果、図3(c)に示すように格納部材27a,27bが分離される。
【0074】
この分離状態において、格納容器22の内部へマウント具6を挿入したり、逆に外部へ取出したりできる。なお、一対の格納部材27a,27bによって格納容器22が形成される場合、格納部材27a,27bは接着剤や接合具によって貼り合わされるのではなく、単に格納容器支持具23の延在部33a,33bの押圧力によって貼り合わされるだけである。
【0075】
次に、図2のケーン24は、複数、例えば5個の格納容器22を足し合わせた長さに相当した長さ、具体的にはそれよりも少し長い長さを有した基板37を有している。この基板37の主面上には、格納容器22の幅よりもわずかに広い間隔を空けて一対の把持用突片38が、長さ方向において間隔をおいて複数対設けられている。また、基板37の突片38対の間に主面上の適所に支持板40が設けられている。なお、ケーン24は図13に示したケーン66のように、1枚の基板37に打抜き加工や曲げ加工を加えることによって形成することもできる。把持用突片38は格納容器22を自身の弾性力によって挟持できるようになっている。
【0076】
(凍結結晶の保存処理、輸送処理、搬送処理等)
以下、図9の試料調製工程P2とX線回折測定工程P3との間で、タンパク質の凍結結晶の保存、輸送、搬送の各処理が行われる場合の作業を説明する。
【0077】
試料調製工程P2が終わると、図10(b)に示すようにマウント具6の捕集部7にタンパク質結晶9が捕集され、さらにそのタンパク質結晶9が凍結される。この凍結結晶を保存処理する際には、作業者は図1に示すワンド21を握り部26の所で手に持つ。そして、ワンド21の先端の磁石でマウント具6の底部を磁力吸着してマウント具6を支持する。そしてさらに、図示の通り、マウント具6を液体窒素LN2 の中に入れる。
【0078】
次に、作業者は、内部が空の格納容器22が装着されている格納容器支持具23を他方の手で持ち、格納容器22を液体窒素LN2 の中へ入れる。さらに、作業者は把持部31を強く握って装着部34a,34bを開き、格納容器22の格納部材27a及び27bを液体窒素LN2 の中で互いに分離させる。そして、ワンド21を操作してその先端のマウント具6を液体窒素LN2 の中で移動させて、分離させた格納部材27aと格納部材27bとの間に配置させる。
【0079】
その後、作業者は、把持部31の握り力を弱めて格納部材27aと格納部材27bとを面接触させて格納容器22を形成し、その内部にマウント具6を液体窒素LN2 と共に格納する。このとき、格納部材27a,27bは把持部31を構成している把持片32a及び32bのバネ力によってしっかりと面接触している。以上により、図4(b)に示すように、タンパク質の凍結結晶9を支持したマウント具6が、格納容器支持具23によって支持された格納容器22の内部に格納される。
【0080】
次に、作業者は格納容器支持具23を手で持って格納容器22を図4(a)においてケーン24の所まで持ち運び、さらに格納容器22を支持板40の上方であって一対の把持用突片38の間に挿入する。次に、矢印Eで示すように、格納容器支持具23を格納容器22から抜き取る。こうして、図2(a)及び(b)に示すように、凍結結晶9を支持したマウント具6が格納容器22内に格納されて外気に触れない状態でケーン24に保持される。格納容器22は、通常、把持用突片38の弾性挟持力によって挟持される。また、格納容器22の円錐形状の端部の先端が支持板40によって受けられる。
【0081】
保存処理は、ケーン24を所定の保存容器に格納した上で、適宜の保存場所に静置することによって行われる。輸送処理は、ケーン24を所定の輸送容器に格納した上で、その輸送容器を適宜の輸送機関に載せることによって行われる。搬送処理は、ケーン24を所定の搬送容器に格納した上で、その搬送容器を異なった場所へ持ち運ぶことによって行われる。
【0082】
格納容器22を構成している一対の格納部材27a,27bは接着剤や接合具を用いることなく単に互いに面接触しているのであるが、格納部材27a,27bは一対の把持用突片38に挟まれた状態で面接触状態を安定して維持する。所定数、例えば5個の格納容器22が装着されたケーン24は、所定の保存容器内に収納されて長期間の保存に置かれる。格納容器22は凍結結晶9に対して熱浴として機能するので、凍結結晶9は長期間にわたって凍結状態に保存される。
【0083】
なお、図4(a)の矢印Eのように格納容器支持具23を格納容器22から抜き取る際、作業者は図3(b)において第2把持部36a,36bを手で握って力を加えながらその作業を行う。仮に、作業者が第2把持部36a,36bではなく、第1の把持部31を握って格納容器支持具23の格納容器22からの引き抜き作業を行おうとすると、先端の装着部34a,34bは広がる方向へ移動する傾向となるため、格納容器支持具23の引き抜き作業が行い難くなるおそれがある。これに対し、第2把持部36a,36bを握って引き抜き作業を行うことにすれば、先端の装着部34a,34bは狭まる方向へ移動する傾向となり、格納容器支持具23を格納容器22から正確に引き抜くことが可能となる。
【0084】
(凍結結晶の保存、輸送、搬送の各処理後の処理)
次に、図9の試料調製工程P2を終えて凍結されたタンパク質結晶が、保存、輸送、又は搬送等の各処理を受けた後に、X線回折測定工程P3に置かれる場合の作業を説明する。
【0085】
保存処理、輸送処理、又は搬送処理は、上記「凍結結晶の保存処理、輸送処理、搬送処理等」の欄で説明した通りに行われる。最終的には、図2(a)及び(b)に示す状態でタンパク質の凍結結晶9が保存、輸送、又は搬送等を受ける。搬送等の後、図11に示すX線回折装置11によってX線回折測定を行う際には、まず、図2(a)及び(b)で示すケーン24をX線回折装置11の近くまで持ち運ぶ。
【0086】
そして、図4(a)に矢印Fで示すように、測定をしようとする凍結結晶9を格納している格納容器22に格納容器支持具23を装着する。すなわち、図3(a)から図3(b)に示すように、先端の装着部34a,34bを格納部材27a,27bの貫通穴29a,29bへ差し込む。
【0087】
次に、作業者は、図3(b)において第2把持部36a,36bを握って又は掴んで格納容器22を図4(a)のケーン24から引き抜く。そして、引き抜いた格納容器22を図5に矢印Gで示すように、X線回折装置11の試料台16の上端部17へ向けて持ち運ぶ。このとき、ノズル18からは窒素ガス等といった冷媒が噴射されている。
【0088】
X線回折装置11における試料の配置予定位置は、ノズル18が設置されている関係上、非常に狭くなっている。冷媒を正確に試料の全体に供給するため、ノズル18はできるだけ試料の配置予定位置の近くに設置しておかなければならず、そのため、試料の配置予定位置の空間領域は狭くならざるを得ない。
【0089】
このような狭い領域へ格納容器22を運び入れるため作業者は、図5に示すように、格納容器22を試料台16に対して予め傾けた状態で近づけ、さらに図6に示すように、格納容器22を上端部17の手前側の縁部を中心として矢印Hのように回転移動させながら、格納容器22を上端部17上で直立状態となるようにする。つぎに、作業者は図3(c)に示すように把持部31に力を加えて格納部材27aと格納部材27bとを分離させる。これにより、図6において、マウント具6が格納容器22から離脱して上端部17の磁石面に吸着し、試料台16上の所定位置に固定される。こうして、図11に示すようにタンパク質の凍結結晶9が所定の測定位置に配置される。
【0090】
本実施形態では、図3(a)に示すように、格納容器22の先端角部に傾斜面30が設けられている。具体的には、マウント具6が格納容器22内に格納された状態においてマウント具6の結晶支持部分(すなわち捕集部7)が位置する側の格納容器22の端部(図示の場合は上側の端部)の角部に傾斜面30が設けられている。従って、図6において、ノズル18の冷媒噴射口と試料配置位置との距離Kを小さく設定した場合でも、傾斜面30がノズル18のための逃げ部として作用するので、作業を容易に行うことができる。距離Kを小さくできれば、ノズル18から噴射される窒素ガスにより凍結結晶9を効率良く冷却することができる。
【0091】
仮に、格納容器22の角部に傾斜面が設けられない場合を考えると、図7に示すように、格納容器22の鋭角状の角部がノズル18の冷媒噴射口に対応する位置に来ることになるので、ノズル18の冷媒噴射口と試料配置位置との距離Kを小さくすることが困難であり、それ故、ノズル18から噴射される窒素ガスによる凍結結晶9の冷却効率が悪くなる。
【0092】
以上のように、本実施形態では、図3(a)及び(b)に示すように、格納容器22に対して支持具23を着脱可能な構成とし、さらに格納容器22はそのままで保存用の容器として用いることにしたので、格納容器22に入れられて保存状態にある凍結結晶をX線回折測定に供する際の処理を、極めて簡単に短時間で行うことができるようになった。
【0093】
具体的には、従来であれば、図13−図14−図15−図16で示したように、容器71に貯留した液体窒素LN2 の中で、キャップ63、ワンド62、クランプ64、クライオ・トング72等といった多数の器具を用いて時間をかけてマウント具51を取り扱わなければならなかった。この処理は非常に煩雑であり、熟練者でも容易には行うことができなかった。これに対し、本実施形態では、図4(a)の矢印F−図4(b)−図5−図6に示したように、使用する器具は格納容器22及び支持具23だけであり、液体窒素を使用する必要も無い。これらのため、作業が非常に簡単であり、費やす時間も非常に少なくて済むことになった。
【0094】
(改変例)
上記実施形態では、図3(c)の格納容器22を構成している格納部材27a,27bの端部の角部に設ける傾斜面30として、図8(a)に示すような円錐形状30aを採用した。しかしながら、傾斜面30は、円錐形状に限られず、図8(b)に示すような円球形、楕円球形、又は長円球形等30bとすることができる。さらには、図8(c)に示すような截頭円錐形状(頂部が切断された状態の円錐形状)とすることもできる。
【0095】
また、傾斜面30は格納容器22の円周方向の全域に設けなくても良く、最低限、図6に示すようにノズル18との衝突を回避できる位置だけに設けられていれば良い。
【0096】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、上記実施形態では、図3(a)〜(c)に示したように、格納容器22を2つの分割された部材である格納部材27a及び27bによって構成した。しかしながら、格納容器22はヒンジ結合(回転可能な結合)によって結合された格納部材や、図13のキャップ63のような開閉構造でない単体の容器であっても良い。
【0097】
また、上記実施形態では、図3(a)〜(c)に示したように、格納容器支持具23の先端の2カ所を格納容器22の2つの貫通穴のそれぞれに挿入し、さらに引出す構成を採用した。しかしながら、格納容器と支持具との連結構造はそれ以外の任意の構造とすることができる。
【0098】
さらに、上記の実施形態では、凍結結晶をX線回折測定することを念頭においたので、結晶ホルダはX線回折装置のためのマウント具6であった。しかしながら、凍結結晶を取り扱う装置がX線回折装置以外の装置であれば、結晶ホルダはそのような装置に適したホルダとなる。
【符号の説明】
【0099】
1.結晶化容器、 2.緩衝液、 3.蓋、 4.タンパク質溶液、 6.マウント具(結晶ホルダ)、 7.捕集具、 8.母液、 9.タンパク質結晶、 11.X線回折装置、 12.X線源、 13.試料支持部、 14.2次元X線検出器、 16.試料台、 17.上端部、 18.冷媒吹付け用ノズル、 20.冷媒容器、 21.ワンド、 22.格納容器、 23.格納容器支持具、 24.ケーン(保存器具)、 26.握り部、 27a,27b.格納部材、 28a,28b.凹部、 29a,29b.貫通穴、 30.傾斜面、 31.把持部、 32a,32b.把持片、 33a,33b.延在部、 34a,34b.先端部(装着部)、 36a,36b.第2把持部、 37.基板、 38.把持用突片、 40.支持板、 59.回転中心、 61.冷媒容器、 62.ワンド、 63.キャップ、 64.クランプ、 65.磁石、 66.ケーン(保存器具)、 67.把持用突片、 68.支持板、 71.冷媒容器、 72.クライオ・トング、 73.一対の把持部、 74.延在部、 75.マウント具格納部材、 76.マウント具格納容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結結晶を支持する結晶ホルダと、
前記結晶ホルダを格納できる格納容器と、
前記格納容器に取付け及び取外し可能である格納容器支持具と、を有し、
前記結晶ホルダが前記格納容器内に格納された状態において前記結晶ホルダにおける前記凍結結晶が支持される部分に対応する側の前記格納容器の角部を傾斜面とした
ことを特徴とする凍結結晶の処理装置。
【請求項2】
凍結結晶を支持する結晶ホルダと、
互いに面接触可能であり、面接触した状態で格納容器を構成する一対の格納部材と、
互いに対向する一対の装着部分を備えており、それらの装着部分のそれぞれが前記一対の格納部材のそれぞれに取付け及び取外し可能である格納容器支持具と、を有し、
前記一対の格納部材のそれぞれは前記結晶ホルダを収容するための凹部を有しており、
前記格納容器支持具は前記一対の装着部分を狭まる方向及び広がる方向へ移動させることができ、
前記結晶ホルダが前記格納容器内に格納された状態において前記結晶ホルダにおける前記凍結結晶が支持される部分に対応する側の前記格納部材の角部を傾斜面とした
ことを特徴とする凍結結晶の処理装置。
【請求項3】
前記格納容器支持具は、作業者によって把持される把持部と、該把持部から延びており先端が前記一対の装着部分となる一対の延在部と、を有し、
前記把持部を力をかけて握ると前記一対の装着部分が互いに離れる方向へ移動する
ことを特徴とする請求項2記載の凍結結晶の処理装置。
【請求項4】
前記一対の延在部のそれぞれに第2把持部が設けられており、該第2把持部は前記延在部の外方へ張り出しており、一対の第2把持部を力をかけて握ると前記一対の装着部分が互いに近づく方向へ移動する
ことを特徴とする請求項3記載の凍結結晶の処理装置。
【請求項5】
前記一対の装着部分は弾性部材によって構成されており、該一対の装着部分は、前記格納容器に取り付けられた状態で、該格納容器を弾性力によって挟持することを特徴とする請求項3又は請求項4記載の凍結結晶の処理装置。
【請求項6】
結晶ホルダに結晶を取り付ける工程と、
取り付けられた前記結晶を凍結させる工程と、
凍結された前記結晶を支持した前記結晶ホルダを冷媒の中に入れる工程と、
格納容器に取付け及び取外し可能である格納容器支持具によって支持した当該格納容器を前記冷媒の中に入れる工程と、
前記冷媒の中で前記結晶ホルダを前記格納容器中に収納する工程と、
前記格納容器を前記格納容器支持具によって冷媒の外部へ持ち出す工程と、
持ち出した前記格納容器を前記格納容器支持具によって保存器具まで持ち運んで該保存器具に装着する工程と、
装着した前記格納容器から前記格納容器支持具を取り外す工程と、を有し、
前記結晶ホルダが前記格納容器内に格納された状態において前記結晶ホルダにおける前記凍結結晶が支持される部分に対応する側の前記格納容器の角部を傾斜面とした
ことを特徴とする凍結結晶の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−286431(P2010−286431A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142070(P2009−142070)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】