説明

凍結融解処理があらかじめ施された腫瘍に用いるための免疫誘導剤及び抗腫瘍剤

【課題】本発明の課題は、より実用的で優れた免疫誘導剤、及び抗腫瘍剤を提供することにある。
【解決手段】凍結融解処理があらかじめ施されたヒト腫瘍に用いるための免疫誘導剤であって、KLH(keyhole limpet hemocyanin)で感作されたヒト樹状細胞を含むことを特徴とする免疫誘導剤。または、凍結融解処理があらかじめ施されたヒト腫瘍に用いるための抗腫瘍剤であって、KLHで感作されたヒト樹状細胞を含むことを特徴とする抗腫瘍剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結融解処理があらかじめ施された腫瘍に用いるための免疫誘導剤及び抗腫瘍剤に関する。
【背景技術】
【0002】
がんに対する治療法として外科的切除、化学療法、放射線療法が標準療法として確立しているが免疫療法はまだ確立されていない。遠隔臓器転移、遠隔リンパ節転移を有する高度進行がんについては、外科的切除や放射線治療などの局所療法の適応はなく、全身療法である化学療法が適応になるが、その奏効率にも限界があり、化学療法が奏効しなかった症例については、残念ながら長期生存は期待できない。近年、がんに対する新しい化学療法薬が開発され、その選択肢は増加しているが、何れの化学療法も劇的に奏効することは少なく、有害事象の発生などQuality of lifeにおけるマイナス面も無視できないことから新しい療法、特に全身療法である免疫療法の開発が望まれているが、未だ十分な効果を示していない。
【0003】
しかし、近年、悪性黒色腫を中心にヒト腫瘍抗原が同定されたことから、これまでの非特異的な免疫療法とは異なる腫瘍抗原特異的な免疫療法の開発が進められており、臨床試験において有効例の報告もみられている。例えば、非特許文献1には、悪性黒色腫の腫瘍抗原の配列を基にして作製した改変ペプチドを単独投与した場合は27%(3/11例)に、大量IL−2投与を併用した場合は42%(13/31例) の症例で腫瘍の完全退縮または部分的退縮が認められたことが示されている。また非特許文献2には、悪性黒色腫の自己腫瘍融解物で感作した樹状細胞を投与した場合は約25%(4/16例)の症例で腫瘍の完全退縮または部分的退縮が認められたことが示されている。さらに、非特許文献3には、腫瘍抗原ペプチドを用いた抗腫瘍T細胞を誘導することにより46%(6/13例)の症例で腫瘍の完全退縮または部分的退縮例が認められたことが示されている。
【0004】
これら腫瘍抗原特異的な免疫療法の中に、専門的抗原提示細胞である樹状細胞を用いたがん免疫療法がある(非特許文献2、4〜10参照)。樹状細胞は、腫瘍抗原を取り込んだ後、所属リンパ組織へ遊走し、T細胞に抗原を提示し活性化することにより、腫瘍抗原特異的T細胞を効率よく誘導する能力を有することから、がん免疫療法への応用が進められている。現在まで、樹状細胞療法に関して、腫瘍抗原ペプチド、腫瘍細胞由来蛋白質やRNAで感作した樹状細胞、あるいは腫瘍細胞を融合した樹状細胞などを用いた様々な免疫法が開発され、実際に臨床試験が行われているが、多くは体外培養下に様々な形で腫瘍抗原を樹状細胞へ取り込ませた後、皮内、皮下、所属リンパ節などへ投与するものである。進行消化器がんにおいても、ペプチドをパルスした樹状細胞を大腸がん患者に投与する臨床試験が海外で始まっている。また、樹状細胞の腫瘍内浸潤が多い症例では、予後が良いという報告(非特許文献11参照)に基づき、抗原を貪食可能な未熟樹状細胞を腫瘍局所へ直接投与して、in situで腫瘍抗原や腫瘍細胞を取り込ませ、抗腫瘍免疫を誘導する試みが始められている(非特許文献12及び13参照)。
【0005】
一方、腫瘍を凍結融解することによる腫瘍凍結融解壊死療法の臨床試験が、肝臓、肺、腎臓などを対象に行われている。以前、腫瘍の凍結融解壊死療法による免疫誘導効果も期待されたが、全身性の免疫誘導効果は認められないことから、現在行われている凍結融解療法は局所根治療法に限られ、遠隔転移がある場合は適応とはならない。
【0006】
そこで、新たな治療法として、未熟樹状細胞を凍結処理した腫瘍内に投与する方法が提案されている。非特許文献14には、B16 Melanomaを移植したマウスに腫瘍凍結融解処理と樹状細胞の腫瘍内投与および両者を併用したところ、併用したときのみ腫瘍特異的細胞障害性T細胞(CTL)が誘導され、effector memory細胞が産生され、あらたなB16 Melanoma細胞の移植を80%以上のマウスで拒絶すること、また肺がん腫瘍株を移植したマウスモデルにおいて、凍結融解処理後に樹状細胞の腫瘍内投与を行うことにより肺転移が有意に抑制されることが記載されている。これらの結果は凍結融解処理後に樹状細胞を投与することにより、全身性の免疫反応を誘導し、遠隔転移巣にも抗腫瘍効果が認められることを示している。
【0007】
より強い抗腫瘍効果を得るために、未熟樹状細胞の貪食能を増強し活性化を促進する試みもなされている。免疫増強効果が期待できるアジュバンドとして他施設の臨床試験(非特許文献15)でも使用されているBCG-CWS(Bacillus Calmette-Guerin cell-wall skeleton)やKLH (keyhole limpet hemocyanin)が知られている(非特許文献2参照)。また、そのようなアジュバンドとして、ピシバニール(picibanil)等も知られている。
【0008】
BCG-CWSは牛型結核菌由来の膜成分で、未熟樹状細胞のTLRに直接作用することにより樹状細胞の成熟を促しT細胞を増殖活性化する。Mycobacterium bovis BCG 生菌の各種がん患者への投与は免疫効果を期待して、1960-70年代に精力的に試みられ、その効果および副作用の報告がなされてきた。このBCGの生菌を用いた方法は、膀胱がんにおいては、米国FDAで認可された標準的治療として確立されている。毒性の低いアジュバントは早くから免疫療法への応用が考えられ、BCGの免疫効果を示す成分の単離精製も精力的に行われ、その中で東・山村らにより精製されたBCG-CWS(Bacillus Calmette-Guerin cell-wall skeleton)が、最も有効性成分を含むことが確認されている。
【0009】
BCG-CWS (Bacillus Calmette-Guerin cell-wall skeleton) は、BCGから水で膜分画を抽出した後、酵素処理してタンパク質を除去し、有機溶媒処理を繰り返すことにより遊離している脂肪酸を除去したあとの膜骨格成分である。ミコール酸、アラビノガラクタン、ペプチドグリカンを基本骨格として構成されており、水に不溶の高分子である。CWSはtreharose dimycolate (TDM), ミコール酸の内層を構成する細胞壁で脂質含量が高い。アラビノガラクタンのD-arabinose鎖は脂質部分であるミコール酸に結合し、5員環構造を特徴とするD-garactofuranose鎖はL-rhamnoseを含むlinker部分を介してペプチドグリカン(PGM)に結合していると予想される。
【0010】
BCG-CWSは、インビトロでmyeloid系の単球、樹状細胞に顕著な作用を示し、TNF−α, IL−12p40, IL−6, IL−8などのサイトカインを産生誘導遊離し、co-stimulators, CD80, CD86, CD83, CD40などを高発現した。すなわちBCG-CWSのペプチドグリカン部分(BCG−PGN)が、樹状細胞のToll-like receptor (TLR)の2と4(TLR2, TLR4)と結合し、アダプター分子のMyD88を介して活性化シグナルを入れる。その結果、炎症性サイトカインの産生誘導・遊離し、樹状細胞を成熟化する。またBCG-CWSの樹状細胞成熟化にはMyD88依存的経路系(cytokine産生)の他に、MyD88非依存的経路系(co-stimulator上昇)が関与しておりTLR4ではTICAM-1/TICAM-2複合体がアダプター分子として機能している可能性が考えられている。さらにTLR2/4シグナルとは別に結合・貪食レセプター(C-type lectin)がBCG-CWSのgalactofranosideと結合しendosomal uptakeを助長し、貪食レセプター自身または細胞内のNOD系を介するシグナルを伝えることによって、より強力に樹状細胞の成熟化が引き起こされると考えられている。
【0011】
KLHは軟体動物由来の糖蛋白質で、強いヘルパーT細胞活性化を介した樹状細胞の成熟効果を持つ。KLHは、1970年代前半から動物および人において著しい免疫賦活化効果が報告されているが、そのメカニズムについては未だに不明な点が多い。しかし、KLHを種々の投与ルートでマウス移植膀胱がんモデルに免疫すると著しいポリクローナルな抗体を誘導し、抗腫瘍効果を示した(非特許文献16)。それ以後現在までに特にマウス移植がんモデルにおいて樹状細胞(DC)を用いた免疫療法でKLHによる活性化が行われて抗腫瘍効果が報告されている。それらの結果を基に臨床応用されている。
【0012】
KLHによる樹状細胞(DC)の活性化の臨床応用は多くの報告がある。Nestleらは悪性黒色腫自己腫瘍融解物感作樹状細胞投与で約25 % (4/16)の抗腫瘍効果を報告しているが、その際自己腫瘍融解物と同時にKLHをCD4ヘルパー抗原として感作している(非特許文献2参照)。さらにその細胞ワクチンの結果、KLHおよびKLH感作DCに対する遅延型過敏反応(DTH: delayed-type hypersensitivity)および抗原特異的免疫反応を誘導し、転移腫瘍の退縮を認めた(非特許文献17)。それらの成功例から腎細胞がん患者においてもKLH感作DCを用いた免疫療法が報告され(非特許文献18〜20参照)、さらに近年、Mottaらは、多発性骨髄腫(MM : Multiple myeloma)患者の末梢血単核球からCD14モノクロール抗体磁気ビーズ法により分離した単球を培養後、抗イディオタイプペプチドおよびKLHで成熟化させて臨床応用可能な機能的DCを誘導した(非特許文献21)。
【0013】
腫瘍組織に凍結融解を行なうことによりがん細胞にアポトーシスおよびネクローシスが誘導され、未熟樹状細胞に細胞死したがん細胞が効率的に取り込まれ、ネクローシスは熱ショック蛋白などを介して樹状細胞を成熟化させることが報告されている(非特許文献22参照)。
【0014】
そこで、本発明者らは、マウス腫瘍モデルを用いた前臨床試験を行った。その結果、凍結融解処理だけの場合は遠隔転移巣に対する抗腫瘍効果は極めて低いのに対して、凍結融解処理後に、BCG-CWS感作樹状細胞の腫瘍内投与を行った場合は、腫瘍特異的T細胞の誘導を介して、直径1cm以上の遠隔腫瘍に対する強力な抗腫瘍効果が得られた(非特許文献23参照)。しかし、この方法がヒトにおいても有効であるかどうかは知られていなかった。
【0015】
【非特許文献1】Nat Med 1998;4(3):321-7
【非特許文献2】Nat Med 1998;4(3):328-32
【非特許文献3】Nat Rev Cancer 2003;3(9):666-75
【非特許文献4】J Exp Med 1999;190(11):1669-78
【非特許文献5】J Immunother 2000;23(4):487-98
【非特許文献6】Prostate 1999;38(1):73-8
【非特許文献7】Clin Cancer Res 1999;5(6):1331-8
【非特許文献8】Int J Cancer 2000;86(3):385-92
【非特許文献9】J Immunother 2001;24(1):66-78
【非特許文献10】Nat Med 2000;6(3):332-6
【非特許文献11】Int J Cancer 1999;84(3):309-14
【非特許文献12】Cancer Res 2000;60(8):2209-17
【非特許文献13】Cancer Res 2001;61(1):228-36
【非特許文献14】Clin Cancer Res 2005;11(13):4955-61
【非特許文献15】Gann 1975;66(4):355-63
【非特許文献16】J Urol 151(6):1718-22, 1994
【非特許文献17】Blood 93(7):2411-9, 1999
【非特許文献18】J Urol 161(3):777-82, 1999
【非特許文献19】Clin Cancer Res 2002;8(11):3369-76,
【非特許文献20】Cancer Immunol Immunother 54(7):663-70, 2005
【非特許文献21】Br J Haematol 121(2):240-50, 2003
【非特許文献22】Cancer Res 2001;61(17):6451-8.
【非特許文献23】第9回基盤的癌免疫研究会総会抄録集;2005年6月30日:73頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、より実用的で優れた免疫誘導剤、及び抗腫瘍剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、KLH (keyhole limpet hemocyanin)で感作された樹状細胞を、凍結融解処理があらかじめ施されたヒト腫瘍に投与したところ、全身的な免疫誘導効果を発揮することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち本発明は、(1)凍結融解処理があらかじめ施されたヒト腫瘍に用いるための免疫誘導剤であって、KLH (keyhole limpet hemocyanin)で感作されたヒト樹状細胞を含むことを特徴とする免疫誘導剤や、(2)ヒト樹状細胞が、さらにBCG-CWS(Bacillus Calmette-Guerin cell-wall skeleton)で感作されたことを特徴とする上記(1)に記載の免疫誘導剤や、(3)ヒト樹状細胞が、CD14陽性細胞に由来することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の免疫誘導剤や、(4)凍結融解処理が、ヒト腫瘍の全部又は一部を凍結させる工程、及び凍結した腫瘍部分を融解させる工程を含むことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の免疫誘導剤に関する。
【0019】
また、本発明は、(5)凍結融解処理があらかじめ施されたヒト腫瘍に用いるための抗腫瘍剤であって、KLHで感作されたヒト樹状細胞を含むことを特徴とする抗腫瘍剤や、(6)ヒト樹状細胞が、さらにBCG-CWSで感作されたことを特徴とする上記(5)に記載の抗腫瘍剤や、(7)ヒト樹状細胞が、CD14陽性細胞に由来することを特徴とする上記(5)又は(6)に記載の抗腫瘍剤や、(8)凍結融解処理が、ヒト腫瘍の全部又は一部を凍結させる工程、及び凍結した腫瘍部分を融解させる工程を含むことを特徴とする上記(5)〜(7)のいずれかに記載の抗腫瘍剤に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の免疫誘導剤や抗腫瘍剤は、優れた免疫誘導効果を発揮する。また、早期がんに対して抗腫瘍効果を発揮することが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の免疫誘導剤は、凍結融解処理があらかじめ施されたヒト腫瘍に用いるための免疫誘導剤であって、KLH (keyhole limpet hemocyanin)で感作されたヒト樹状細胞を含むことを特徴とする。また、本発明の抗腫瘍剤は、凍結融解処理があらかじめ施されたヒト腫瘍に用いるための抗腫瘍剤であって、KLHで感作されたヒト樹状細胞を含むことを特徴とする。
【0022】
本発明におけるヒト樹状細胞は、投与する患者に由来するヒト樹状細胞であって、KLHで感作されたヒト樹状細胞である限り、その調製方法等特に制限はされない。KLH(keyhole limpet hemocyanin)は、Keyhole limpet (スカシ貝)から抽出されたヘモシアニンタンパク質(軟体動物や節足動物の酸素輸送蛋白質)である。本発明におけるKLHは、本発明の効果が得られる限り特に制限はなく、KLHタンパクの全部又は一部であればよい。例えば、Interacell Corporation社製のBCI-ImmuneActivatorTM KLHは、クルードのKeyhole limpet (スカシ貝)から抽出されたヘモシアニンから単離された物質で、350kDaと390kDaのサブユニットからなる蛋白質と、それより低分子量の分解産物からなる(M.W. 45万−800万)。
【0023】
KLHで感作する際に用いる未成熟なヒト樹状細胞は、本発明の免疫誘導剤を投与する患者の皮膚の表皮(ランゲルハンス細胞)等の非リンパ組織及びすい臓、骨髄、リンパ節や胸腺等のリンパ組織、並びに血液やリンパ等の循環システムの組織などから適宜分離することができる。未成熟なヒト樹状細胞を分離する方法は特に制限されないが、例えば、末梢血あるいは骨髄中のCD34陽性細胞を磁気ビーズ分離法等によって単離する方法;非付着細胞の除去や比重による分離法やCD14モノクロナール抗体による磁気ビーズ分離法等によって末梢血単核球からCD14陽性細胞(CD14陽性単球)等の単球を単離する方法;を挙げることができる。これらの方法の中でも、より大量の未成熟樹状細胞が比較的短期間でより簡便に分化誘導する観点から、非付着細胞の除去や比重による分離法やCD14モノクロナール抗体による磁気ビーズ分離法等によって末梢血単核球からCD14陽性細胞等の単球を単離する方法が好ましく、CD14モノクロナール抗体による磁気ビーズ分離法等によって末梢血単核球からCD14陽性細胞等の単球を単離する方法がより好ましい。
【0024】
末梢血単核球を得る方法としては特に制限されないが、例えば、COBE Spectra(GAMBRO BCT社製)等の血液分離装置を用いて、患者の血液から体外循環(アフェレーシス)により単核球成分を採取することができる。前述のCOBE Spectraは、我が国でも医療用具として承認され(本体:血液成分分離装置(20400BZG00022000)、ディスポ−ザブルセット:血液成分分離装置用回路(20400BZG23000))病院等で使用されている。
【0025】
末梢血単核球からCD14陽性細胞等の単球を、比重の違いにより単離する方法は、例えばGAMBRO.BCT.社製のELUTRA等の装置を用いることにより容易に行うことができる。
【0026】
CD14モノクロナール抗体等のモノクローナル抗体を用いた磁気ビーズ分離法によって末梢血単核球からCD14陽性細胞等の単球を単離する方法は、CliniMACS Plus (R)(Miltenyi社製)やIsolex 300(R)(タカラバイオ社製)を用いることにより容易に行うことができるが、CliniMACS Plus (R)を用いることがより好ましい。CliniMACS Plus (R)を用いたCD14陽性細胞の分離方法の概要は以下の通りである。
【0027】
まず、血液のアフェレーシス(体外循環)等により採取した末梢血単核球にCD14試薬を加えて免疫反応させ、CD14陽性細胞を超常磁性粒子で標識する。CD14試薬を洗浄除去後、細胞分離装置(例えばCliniMACS Plus (R))にセットし、超常磁性粒子で標識されたCD14陽性細胞のみを強力な磁石によってカラムに保持し、非標識細胞を洗浄除去する。カラムに保持されたCD14陽性細胞は、磁気を遠ざけることによってカラムから放出され、CD14陽性細胞浮遊液として回収される。
【0028】
分離したCD14陽性細胞等の単球は、適当な冷凍保存用溶液に懸濁して、例えば液体窒素下に保存してもよい。ある程度まとまった量の単球を一度に分離し、それを冷凍保存しておけば、樹状細胞を投与する際にその都度患者から単球を分離する労力を省くことができる。なお、CD14陽性細胞等の単球を分離してから、樹状細胞を投与する予定日までの日数が、CD14陽性細胞等の単球から樹状細胞へ分化誘導するのに要するであろう日数とほぼ同じくらいであれば、その予定日に投与する樹状細胞を得るために必要な量の単球については、特に冷凍保存する必要はない。
【0029】
CD14陽性細胞等の単球の冷凍保存方法は、その単球を解凍した後、後述するような分化誘導を行うことによって、免疫誘導効果又は抗腫瘍効果を発揮し得る樹状細胞となり得る限り、特に制限はされない。単球の冷凍保存方法として、具体的にはRPMI1640(GIBCO BRL社製)に、20重量%の非働化済患者自己血清と、10重量%の凍害防止保存液(dimethylsulfoxide; DMSO、Sigma社製)を加えて混合した冷凍保存用溶液中に、単球を懸濁した後液体窒素下に保存する方法等を挙げることができる。
【0030】
次に、分離されたCD34陽性細胞やCD14陽性細胞等の単球を適当な培地で培養し、ヒト樹状細胞に誘導する。ヒト樹状細胞への誘導の方法は、得られたヒト樹状細胞を凍結融解処理があらかじめ施されたヒト腫瘍に投与した場合に免疫誘導効果又は抗腫瘍効果が認められる限り、用いるサイトカイン等について特に制限はされないが、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte/macrophage colony stimulating factor)(以下、「GM−CSF」と略す)及びインターロイキン4(以下、「IL−4」と略す)を用いて誘導することが好ましい。この際、約100ng/mlの濃度のGM−CSF及び約100ng/mlの濃度のIL−4を用いることが特に好ましい。培養期間は特に制限されないが、6〜8日間培養することが好ましい。
【0031】
上述のように誘導して得られた未成熟樹状細胞を、凍結融解処理があらかじめ施されたヒト腫瘍に投与する前に、KLHで感作する。KLHは軟体動物由来の糖蛋白質で、強いヘルパーT細胞活性化を介した樹状細胞の成熟効果を持つ。本発明に用いるKLHは、特に制限されず、例えばBCI-ImmuneActivatorTM KLH(Interacell Corporation社)等の市販されているものを用いることができる。
KLHの濃度や感作の期間等、KLHでの感作の方法としては特に制限されないが、未熟樹状細胞を、例えば、濃度2μg/mlで18〜30時間感作することが好ましい。
【0032】
本発明に用いるヒト樹状細胞は、KLHで感作されたものであればよいが、より優れた免疫誘導効果及び抗腫瘍効果を得る観点から、さらにBCG-CWSで感作されたものであることが好ましい。BCG−CWSの濃度や感作の期間等、BCG−CWSでの感作の方法としては特に制限されず、公知の手法を適宜調節することができるが、あまり強く感作し過ぎると細胞へのダメージが大きいため、例えば濃度10μg/ml未満で1〜4時間感作することが好ましい。BCG−CWSとしては特に制限されないが、例えば、東 市郎氏(現・北海道薬科大学教授)から供与されたBCG−CWSを用いることができる。
【0033】
また、本発明に用いるヒト樹状細胞は、本発明の免疫誘導効果や抗腫瘍効果が得られる限り、KLHやBCG−CWS以外の任意のアジュバンドでさらに感作されていてもよい。
【0034】
また、上述したように、CD14陽性細胞等の単球の段階でそれを冷凍保存してもよいが、KLH等で感作されたヒト樹状細胞の段階でそれを冷凍保存してもよい。KLH等で感作されたヒト樹状細胞の段階で冷凍保存すると、免疫誘導効果や抗腫瘍効果は若干弱まる可能性もあるが、冷凍保存している間に、そのヒト樹状細胞がコンタミしていないことを確認してから、ヒト腫瘍に投与することができる点で好ましい。KLH等で感作されたヒト樹状細胞は、上述したようなCD14陽性細胞等の単球の冷凍保存方法と同様の方法で冷凍保存することができる。
【0035】
本発明に用いるヒト樹状細胞は、上述したように分化誘導し、感作することができる。得られたヒト樹状細胞が、どのような樹状細胞であるかは、フローサイトメトリーや様々なインビトロ分析を用いて、その形質と樹状細胞としての能力(T細胞への提示能力等)を確認することができる。
【0036】
本発明における免疫誘導剤や抗腫瘍剤は、凍結融解処理があらかじめ施されたヒト腫瘍に用いることを特徴とする。腫瘍組織に凍結融解処理を行なうことによりがん細胞にアポトーシスおよびネクローシスが誘導され、がん細胞が細胞死する。細胞死したがん細胞は、細胞死していないがん細胞に比べて、本発明におけるヒト樹状細胞により効率的に取り込まれ、結果として、より優れた免疫誘導効果や抗腫瘍効果が発揮される。
【0037】
本発明における「凍結融解処理があらかじめ施されたヒト腫瘍」とは、その患者の腫瘍の全部又は一部を凍結する工程、及びその後に、凍結した腫瘍部分を融解させる工程を含む処理を、本発明における免疫誘導剤又は抗腫瘍剤を患者に投与する前に行ったヒト腫瘍である限り、特に制限はされない。本発明におけるヒト腫瘍の凍結融解処理は、凍結外科手術や凍結融解壊死療法で用いられるのと同様の器具及び方法により行うことができる。具体的には、眼科用冷凍手術装置キーラー クライオマスター(株式会社キーラー・アンド・ワイナー社製)やクライオシステム(米国エンドケアー社製)等の、金属製の凍結用針の先端内部に、超低温のアルゴンガスや窒素ガスを噴出する機器を例示することができる。このような機器を用いれば、皮膚の腫瘍はもちろんのこと、肝臓や肺等の内臓の腫瘍についても、容易かつ安全に、凍結処理することができる。融解の手段については特に制限はないが、凍結処理を中断することにより凍結した部分の腫瘍を容易に融解することができる。内臓の腫瘍の場合は、超音波等を体表面から当てて内臓の腫瘍の位置を確認し、そこに凍結針を穿刺して凍結させることができる。
【0038】
凍結融解処理における凍結の温度は、凍結融解処理があらかじめ施された腫瘍に、本発明における免疫誘導剤や抗腫瘍剤を投与した場合に免疫誘導効果又は抗腫瘍効果が得られる限り特に制限されないが、腫瘍の凍結した部分のうち、最も温度が低い部分の温度が−100℃以下であることが好ましく、−120℃以下であることがより好ましく、−140℃以下であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明におけるヒト腫瘍の凍結融解処理における凍結時間、凍結融解の回数については、腫瘍により異なり、特に制限はなく、適宜調節することができるが、例えば、3〜15分間腫瘍を凍結させた後、3〜20分間かけてそれを融解するという工程を、1〜5回行うことが好ましい。
【0040】
本発明の免疫誘導剤や抗腫瘍剤の使用方法は、凍結融解処理があらかじめ施されたヒト腫瘍の少なくとも一部に注入する限り特に制限されない。注入する細胞数、回数等は、免疫誘導効果や抗腫瘍効果が発揮され得る限り、特に制限はされないが、例えば、一度の注入につき、本願発明の樹状細胞を1×10〜1×1010個、より好ましくは1×10〜1×10個含む量の免疫誘導剤や抗腫瘍剤を注入することができる。
【0041】
本発明の免疫誘導剤や抗腫瘍剤の、ヒト腫瘍への注入手段は特に制限されないが、例えば注射針等を用いて注入することができる。また、本発明の免疫誘導剤や抗腫瘍剤の注入の回数についても特に制限はされないが、免疫誘導効果や抗腫瘍効果の観点から、一定期間を挟んで複数回注入することが好ましく、より具体的には、6〜16日間隔で、3回以上注入することが好ましい。本発明の免疫誘導剤や抗腫瘍剤をヒト腫瘍へ注入する際には、その都度、注入する部分の腫瘍をあらかじめ凍結融解処理する必要がある。注入回数が複数の場合、注入する腫瘍の部分は、特に制限されず、前回の注入部位と近接していてもよいし、前回の注入部位と異なる部位に注入してもよい。
【0042】
本発明の免疫誘導剤や抗腫瘍剤の対象となる「がん」としては、凍結融解し得る部位のがんであれば特に制限されないが、例えば食道がん、胃がん、大腸がん、直腸がん、肝臓がん、すい臓がん、胆のう・胆管がん等の消化器がん;悪性黒色腫;肺がん;乳がん;卵巣がん;子宮がん;腎がん等を例示することができる。
【0043】
本発明の免疫誘導剤の免疫誘導効果は、公知の方法により確認することができる。例えば、CD14陽性細胞等の単球から樹状細胞へ分化誘導する際に、免疫モニター用のある特定の抗原に感作させておき、患者に樹状細胞を投与した後、その抗原に対する免疫反応を調べることによって、免疫誘導効果を確認することができる。免疫反応を調べる方法としては、皮内反応やテトラマー法等の公知の方法を用いることができる。
【0044】
また、本発明の抗腫瘍剤の抗腫瘍効果は、本発明の抗腫瘍剤を患者に投与する前後で、患者の腫瘍の状態を調べることにより、容易に確認することができる。本発明における抗腫瘍効果とは、患者のいずれかの腫瘍が本発明の抗腫瘍剤を投与する前に比べて小さくなったことをいい、より好ましくは、患者のいずれかの腫瘍の長径和が、本発明の抗腫瘍剤の投与前の長径和と比較して30%以上小さくなった場合をいい、さらに好ましくは、患者のいずれかの腫瘍の長径和が、本発明の抗腫瘍剤の投与前の長径和と比較して50%以上小さくなった場合をいい、最も好ましくは、患者のいずれかの腫瘍が消失したことをいう。
【0045】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
1.樹状細胞の調製
(1)末梢血液からのCD14陽性細胞の分離
以下のような6名の進行消化器がん患者(患者101〜106)について臨床試験を行った。
患者101:40歳、男性、直腸がん
患者102:54歳、男性、大腸がん
患者103:66歳、男性、食道がん
患者104:56歳、女性、大腸がん
患者105:65歳、男性、食道がん
患者106:71歳、男性、食道がん
【0047】
これら6名の患者それぞれについて、静脈ラインを確保し、細胞成分分離装置COBE Spectra(GAMBRO BCT社製)をMNCモードで作動させることにより、患者の体重当たり100−150mLの血液をアフェレーシス処理(体外循環処理)して末梢血単核球成分を採取した。血液からの末梢血単核球成分の分離方法は、COBE Spectraに添付された説明書の方法に従った。
採取産物から血漿成分を分離後、0.5%HSA/PBS/EDTA緩衝液(CliniMACS PBS/EDTA Buffer(R)-Miltenyi社製+20%ヒト血清アルブミン(R)-アヴェンティスファーマ社製)を加えて1回洗浄し、CliniMACSCD14 Reagent(R)(Miltenyi社)を加えて20℃で15分間反応させる。その後0.5%HSA/PBS/EDTAで洗浄し、CliniMACS Plus (R)(Miltenyi社)でCD14陽性細胞を分離した。CliniMACS Plus (R)の操作はCliniMACS Plus (R)使用手順書にしたがって行った。
【0048】
CliniMACS Plus (R)による処理の前の末梢血単核球成分中、並びにCliniMACS Plus (R)による処理後の単球成分中における、有核細胞数(No.ANC)、及びCD14陽性細胞数(No.CD14)をフローサイトメーター(BDバイオサイエンス社製、カント)測定した。CliniMACS Plus (R)による分離後のCD14陽性細胞数を、分離前のCD14陽性細胞数で割ることによって、CD14陽性細胞数の回収率(%)を算出した。
その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
また、有核細胞数に対するCD14陽性細胞数の割合(CD14(%))を、測定した有核細胞数(No.ANC)及びCD14陽性細胞数(No.CD14)に基づいて算出した。その結果を表1に示す。また、末梢血単核球成分を得るために体外循環処理した血液量(ml)も表1に示す。
なお、患者104、患者105及び患者106については、末梢血単核球成分の採取、及びCD14陽性細胞の分離処理を2回行ったので、それぞれについて上記の数値を測定又は算出した。1回目の数値は104−1、105−1、106−1に、2回目の数値は104−2、105−2、106−2に、それぞれ記載した。
【0051】
CliniMACSシステムによって分離したCD14陽性細胞は平均8.1+3.5×10個であり、その回収率は平均92.2+35.2%、純度は平均98.6+1.4%であった。以上の結果から分かるように、患者群におけるCD14陽性細胞の純化効率は良好であった。ただし、樹状細胞の回収率は症例によってばらつく傾向にあった。
【0052】
分離したCD14陽性細胞を冷凍保存するための冷凍保存用溶液を調製した。具体的には、RPMI1640(GIBCO BRL社製)に、20重量%の非働化済患者自己血清と、10重量%の凍害防止保存液(dimethylsulfoxide;DMSO、Sigma社製)を加えて混合した。分離したCD14陽性細胞を前述の冷凍保存用溶液に懸濁し、細胞の最終濃度を1-5x107/mLに調整して液体窒素下に保存した。
【0053】
(2)CD14陽性細胞から樹状細胞への分化誘導
上述の凍結保存した約1x108個のCD14陽性細胞を、患者へ樹状細胞を投与する日の6−8日前に、解凍して洗浄した後、培養液(RPMI1640+2重量%非働化済患者自己血清+GM−CSF(100ng/mL:NCPC-GeneTech社製)+IL−4(100ng/mL、R&D System社製))を100ml加えて7日間培養して、樹状細胞へと分化誘導させた。
【0054】
上述の樹状細胞への分化誘導の最終約24時間前に、濃度2μg/mLのKLH (Intracell Corporation社製)を加え24時間培養した。
また、主要組織適合抗原としてHLA-A*0201又はHLA-A*0206を有する患者101、104及び105には免疫モニター用のペプチドFlu-M1-A2(Multiple Peptide Systems社)を、HLA-A*2402又はHLA-A*2420を有する患者101、102、103、105及び106には免疫モニター用のペプチドCMVA24-328(Multiple Peptide Systems社)を、前述の培養液にさらに加えて培養を行った。6−7日間培養した後、日本薬局方生理食塩水にて3回洗浄を施行し、投与用のKLH, BCG−CWS感作未熟樹状細胞を調製した。
得られた樹状細胞数を測定し、その数値を、分化誘導に用いたCD14陽性細胞数で割って回収率を算出した。回収率を表2に示す。また、調製した未熟樹状細胞の表現型をフローサイトメーターで確認した。各細胞表面抗原の発現の割合(%)を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表2から分かるように、樹状細胞への誘導によってCD14の発現は1.5+1.1%にまで低下し、他の細胞表面抗原の発現が確認された。
【0057】
2.進行悪性黒色腫の臨床試験
(1)KLH, BCG−CWS感作樹状細胞の調製
以下のような進行悪性黒色腫の患者(患者107)について臨床試験を行った。
患者107: 53歳、男性、HLA:A*0206, A*2402、悪性黒色腫(腰背部原発、StageIV)
・平成11年頃に腰背部に腫瘍が出現。
・平成12年9月に悪性黒色腫と診断され、10月に腫瘍拡大切除。
・平成13年5月31日に左鼡径部リンパ節転移に対してリンパ節郭清術施行(DAV療法5クール)。
・平成16年7月に右鼡径部リンパ節および皮膚(背部、臀部)の計3ヵ所に腫瘍が出現し、切除。胸部CTにて肺転移。DAC-Tam療法4クールおよびフェロン局注療法が行われたが、病状は徐々に進行しており化学療法等の効果は期待できないと判断された。
・平成17年10月5日に本発明の樹状細胞の投与開始。
【0058】
上記1.(1)と同様の方法で、患者107からCD14陽性細胞を分離した。次いで、上記1.(2)と同様の方法で、得られたCD14陽性細胞から、樹状細胞への分化誘導を行った。ただし、樹状細胞へ分化誘導する際には、樹状細胞を濃度5μg/mLのBCG−CWSを含む培養液で1−3時間培養する工程を、濃度2μg/mLのKLHを加え24時間培養したあとに、さらに加えて行った。また、主要組織適合抗原としてHLA-A*0206及びHLA-A*2402を有する患者107には、免疫モニター用のペプチドとしてFlu-M1-A2(Multiple Peptide Systems社)及びCMVA24-328(Multiple Peptide Systems社)を用いた。
BCG−CWSとしては、平成16年11月16日 東 市郎氏(現・北海道薬科大学教授)より、大阪府立成人病センターで実際にヒトに投与されているのと同一Lotのものとして供与されたBCG−CWSを用いた。
【0059】
得られた樹状細胞数を測定し、その数値を、分化誘導に用いたCD14陽性細胞数で割って回収率を算出した。回収率を表3に示す。また、調製した未熟樹状細胞の表現型をフローサイトメーターで確認した。各細胞表面抗原の発現の割合(%)を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
表3から分かるように、樹状細胞への誘導によってCD14の発現は1.5+1.6%にまで低下し、他の細胞表面抗原の発現が確認された。
【0062】
(2)KLH, BCG−CWS感作樹状細胞の患者への投与
眼科用冷凍手術装置キーラー クライオマスター(株式会社キーラー・アンド・ワイナー社製)を用いて、患者の左胸部(結節:径15mm)又は右下腿内側(結節:径24mm)のがんの腫瘍の凍結融解処理を行った。具体的には、3分間腫瘍を凍結させた後、3分間かけてそれを融解するという工程を、5回行った。
上記実施例2.(1)で得られたKLH, BCG−CWS感作樹状細胞を、凍結融解処理した、患者の左胸部(結節:径15mm)(2回)又は右下腿内側(結節:径24mm)(2回)に計4回、1回につき1x10個、投与した。投与間隔は1週間とした。
【0063】
この臨床試験の結果、特に有害事象は発生せず、本調製法で誘導された未熟樹状細胞を腫瘍内投与することの安全性が確認された。また、本治療の抗腫瘍効果は、PD(Progression Disease)であり、進行性の悪性黒色腫に対する抗腫瘍効果は十分ではないものと考えられた。なお、抗腫瘍効果の効果判定基準を表4及び表5に示した。
【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
また、KLH, BCG−CWS感作未熟樹状細胞の腫瘍内投与による免疫誘導効果を評価した。具体的には、KLHに対する免疫誘導効果を、遅延型過敏反応(DTH)による皮内反応で調べた。その結果、KLHに対する免疫誘導効果が認められた。また、 免疫をモニターするために、ウイルス抗原であるペプチドFlu-M1-A2 (Multiple Peptide Systems社)、ペプチドCMVA24-328 (Multiple Peptide Systems社)を用いた皮内反応及びテトラマー法により、免疫をモニターした。その結果、Flu-M1-A2(A2/ Flu)、CMVA24-328(A24/CMV)に対する免疫誘導効果が認められた。このことから、早期がんについては、抗腫瘍効果が期待される。
【0067】
3.消化器がん肝転移の臨床試験
(1)KLH感作樹状細胞の調製
以下のような消化器がん肝転移の患者(患者108及び患者109)について臨床試験を行った。
患者108: 77歳、女性、HLA: A*2402、胆管がん肝転移
・2005年 子宮体がん手術。
・2005年3月 肝機能障害を指摘されたが放置。
・2005年5月 体重減少、腹部CTにて多発性肝腫瘍指摘、精査にて原発は胆管細胞がん疑い、両側腎臓転移、両側副腎転移、肺転移と診断。
・2005年8月 当院受診。現行で有効な治療法はないと判断され、本臨床試験に参加。
・2005年8月 本臨床試験開始(1x107個 3回投与)。
・2005年10月 試験終了。
【0068】
患者109: 55歳、男性、HLA: A*0206, A*2402大腸がん肝転移
・2004年3月 S状結腸がん切除術施行 肝転移あり 肝動注5FU(1500mg) PD
・2005年6月 抗がん剤(FOLFOX4)投与 重度の副作用(嘔吐・食欲不振)で中止
・2005年11月 本臨床試験開始(1x107 3回投与)
・2006年1月 試験終了
【0069】
この患者108及び109について、BCG−CWSを用いないこと以外は、上記2.(1)と同様の方法でCD14陽性細胞を分離し、樹状細胞へと分化誘導させ、KLH感作樹状細胞を得た。また、主要組織適合抗原としてHLA-A*2402を有する患者108には、免疫モニター用のペプチドとしてCMVA24-328(Multiple Peptide Systems社)を用い、HLA-A*0206, A*2402を有する患者109には、免疫モニター用のペプチドとしてFlu-M1-A2(Multiple Peptide Systems社)及びCMVA24-328(Multiple Peptide Systems社)を用いた。
【0070】
得られた樹状細胞数を測定し、その数値を、分化誘導に用いたCD14陽性細胞数で割って回収率を算出した。回収率を表3に示す。また、調製した未熟樹状細胞の表現型をフローサイトメーターで確認した。各細胞表面抗原の発現の割合(%)を表3に示す。
表3から分かるように、樹状細胞への誘導によってCD14の発現は、患者108では4.6+2.9%に、患者109では0.6+0.3%にまで低下し、他の細胞表面抗原の発現が確認された。
【0071】
(2)KLH感作樹状細胞の患者への投与
クライオシステム(エンドケアー社製)凍結手術装置を用いて、肝臓の腫瘍の凍結融解処理を行った。具体的には、10分間腫瘍を凍結させた後、10分間かけてそれを融解するという工程を、2回行った。
上記実施例3.(1)で得られたKLH感作樹状細胞を、患者の肝臓に計3回、1回につき1x10個、投与した。患者108、患者109のいずれについても投与間隔を2週間とした。
【0072】
この臨床試験の結果、特に有害事象は発生せず、本調製法で誘導された未熟樹状細胞を腫瘍内投与することの安全性が確認された。また、本治療の抗腫瘍効果は、患者108及び患者109のいずれもPD(Progression Disease)であり、標準療法のない進行性の肝臓がんに対する抗腫瘍効果は十分ではないものと考えられた。また、KLH感作未熟樹状細胞の腫瘍内投与による免疫誘導効果を評価した。具体的には、KLHに対する免疫誘導効果を、遅延型過敏反応(DTH)による皮内反応で調べたところ、患者108では皮内反応は認められなかったが、患者109では皮内反応が認められた。
【0073】
また、免疫をモニターするために、ウイルス抗原であるペプチドFlu-M1-A2 (Multiple Peptide Systems社)、ペプチドCMVA24-328 (Multiple Peptide Systems社)を用いた皮内反応及びテトラマー法により、免疫をモニターした。その結果、患者108ではこれらのペプチドに対する皮内反応は認められなかったが、テトラマー法ではわずかに反応が見られた。一方、患者109では、CMVA24-328(A24/CMV)に対する皮内反応が見られ、またテトラマー法でも、A24/CMV、A2/WT1に対する反応が見られた。これらのことから、早期がんについては、抗腫瘍効果が期待される。
【0074】
また、腫瘍マーカーの濃度を本治療の前後で測定したところ、CEAは患者108で12.3ng/mlから22.7ng/mlに上昇し、患者109で202ng/mlから299ng/mlに上昇した。一方、CA19-9については患者108及び患者109のいずれも変動はなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結融解処理があらかじめ施されたヒト腫瘍に用いるための免疫誘導剤であって、KLH (keyhole limpet hemocyanin)で感作されたヒト樹状細胞を含むことを特徴とする免疫誘導剤。
【請求項2】
ヒト樹状細胞が、さらにBCG-CWS(Bacillus Calmette-Guerin cell-wall skeleton)で感作されたことを特徴とする請求項1に記載の免疫誘導剤。
【請求項3】
ヒト樹状細胞が、CD14陽性細胞に由来することを特徴とする請求項1又は2に記載の免疫誘導剤。
【請求項4】
凍結融解処理が、ヒト腫瘍の全部又は一部を凍結させる工程、及び凍結した腫瘍部分を融解させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の免疫誘導剤。
【請求項5】
凍結融解処理があらかじめ施されたヒト腫瘍に用いるための抗腫瘍剤であって、KLHで感作されたヒト樹状細胞を含むことを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項6】
ヒト樹状細胞が、さらにBCG-CWSで感作されたことを特徴とする請求項5に記載の抗腫瘍剤。
【請求項7】
ヒト樹状細胞が、CD14陽性細胞に由来することを特徴とする請求項5又は6に記載の抗腫瘍剤。
【請求項8】
凍結融解処理が、ヒト腫瘍の全部又は一部を凍結させる工程、及び凍結した腫瘍部分を融解させる工程を含むことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の抗腫瘍剤。