説明

凝固曲線から溶湯の清浄度判定をする方法及びその装置

【課題】非鉄金属又は非鉄金属を主成分とした合金の溶湯が鋳造品の品質に悪影響を与えるか否かの判定を誤差の生じやすい人による計測に依存せず極めて短時間で自動的に判定できる方法及び装置を提供することである。
【解決手段】鋳造に利用する溶湯の清浄度判定方法において、事前に凝固曲線から把握できるデータと相関のとれた清浄度判定データベースを作成しておき、検査しようとする溶湯の凝固曲線上において液相中に固相が晶出するまでの範囲内で設定した第一の凝固温度に到達した時間、固相の状態になった直後の温度から温度降下中の範囲内で設定した第二の凝固温度に到達した時間との差の判定凝固時間又は/及び初晶過冷度幅から清浄度判定データベースを基に溶湯の清浄度の判定をすることで計測の誤差がなく極めて短時間で溶湯の清浄度判定ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固曲線から溶湯の清浄度判定をする方法及びその装置に関する。さらに詳しくは、非鉄金属又は非鉄金属を主成分とした合金の凝固曲線から溶湯の清浄度の判定をする方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金の溶湯中に、アルミニウム合金に含有されているアルミニウムやマグネシウムなどが大気中の酸素と接触し生成された酸化アルミニウムや酸化マグネシウムなどの酸化物、あるいはアルミニウムのリサイクルによってスクラップとなった製品原材料に含まれる不純物などの介在物が浮遊又は懸濁している。
【0003】
介在物が浮遊又は懸濁しているアルミニウム合金の溶湯を鋳造に使用すると、介在物が鋳造されたアルミニウム合金製品の切削加工時に孔あきやむしれ等の欠陥を切削面に誘発したり、又は破壊靭性等の材料の機械的強度の低下をもたらす。
【0004】
そこで、アルミニウム鋳造においては、金型又は鋳型に溶湯を注入する前段階で、ろ過フィルター、フラックス処理又は沈静処理等による介在物除去が行われているが、そのために溶湯を注湯する前段階においてアルミニウム合金の溶湯の介在物の個数を計測し清浄度を判定して金型などに溶湯を注湯してもよいかを判定することが必要である。
【0005】
そのため、アルミニウム合金の溶湯中の介在物の個数を計測し清浄度を判定する手段として、加圧濾過法又はKモールド法が知られている。
【0006】
加圧濾過法は、フィルターを設置した坩堝にアルミニウム合金の溶湯を注入し加圧させて、溶湯をフィルターで濾過させ、濾過した溶湯の経時変化量を把握して、これを閾値と比較してアルミニウム溶湯の清浄度を判定するとともに、濾過後のフィルターとその上に残存し凝固したアルミニウム合金を切断して研磨し、光学顕微鏡によって介在物の個数を計測し該介在物の個数により鋳造可否の判定をする方法である。
【0007】
Kモールド法は、アルミニウム合金の溶湯から少量の溶湯試料を採取して、板状の鋳型に鋳込み、板状の試験片とし、該試験片を5分割に切断した破面を測定者が肉眼で観察して、酸化物などの介在物の個数を計測する方法である(例えば、特許文献1参照)。該介在物の個数により清浄度を判定し、該清浄度に基づいて鋳造可否の判定をする方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、加圧濾過法では、様々な設備や分析の熟練者を必要とし、準備、溶解、凝固、切断、そして顕微鏡による分析などに少なくとも2時間かかるとともに、人による観察のため人によって計測値にバラツキが生じ、計測値に実態との誤差が生じるという課題があった。
【0009】
また、Kモールド法においても、分析の熟練者を必要とし、しかも試験片の切断した破面を観察して破面に顕れた介在物を判断して計測するため人によって計測値にバラツキが生じ、計測値に実態との誤差が生じるととともに少なくとも30分かかるという課題があった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、非鉄金属又は非鉄金属を主成分とした合金の溶湯が鋳造品の品質に悪影響を与えるか否かを極めて短時間で自動的に判定できる方法及びその装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明において、「初晶温度」とは、溶融金属から結晶が初めて生じるときの温度を意味し、「初晶過冷温度」とは溶融金属を冷却するときその温度が凝固点以下になっても凝固せず溶体の状態にあるときに凝固開始するときの温度を意味し、「初晶過冷度幅」とは初晶温度と初晶過冷温度との差を意味する。
【0012】
本発明において、「第一の凝固温度」とは、溶湯中に浮遊又懸濁する介在物数が異なっても同一の凝固温度に至る凝固時間の差が僅少の範囲内で設定する凝固温度を意味し、例えば図2において溶湯注入直後から凝固時間差が僅少の範囲の限界としてのイ点の凝固時間までの間で設定するのが望ましく、溶湯注入直後から初晶過冷温度間の温度、初晶過冷温度、初晶過冷温度から初晶温度間の温度、初晶温度又は初晶温度からイ点の凝固時間まで温度の中から凝固温度を設定する。
【0013】
本発明において、「第二の凝固温度」とは、溶湯中に浮遊又懸濁する介在物数が異なると同一の凝固温度に至る凝固時間に差が明らかに生ずる範囲内で設定する凝固温度を意味し、例えば図2において凝固時間の差が明らかになる始点としてのロ点の凝固温度の凝固時間よりも遅い凝固時間帯の凝固温度を設定する。
【0014】
本発明において、「判定凝固時間」とは、第一の凝固温度になった凝固時間と第二の凝固温度に到達したときの凝固時間との差の時間を意味する。
【0015】
本発明において、「清浄度判定データベース」とは、初晶過冷度幅又は/及び判定凝固時間と、従来のKモールド法によるK値でランク分けした清浄度との相関をデータベース化したものを意味する。
【0016】
本発明において、「鋳造に利用する溶湯」とは、鋳造工程で利用する非鉄金属又は非鉄金属を主成分とした合金の溶湯を意味する。
【0017】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る凝固曲線から溶湯の清浄度判定をする方法の発明は、鋳造に利用する溶湯の清浄度判定方法において、該溶湯の凝固曲線上の初晶過冷度幅から該溶湯の清浄度の判定をすることを特徴とする。
【0018】
請求項2に係る凝固曲線から溶湯の清浄度判定をする方法の発明は、鋳造に利用する溶湯の清浄度判定方法において、該溶湯の凝固曲線上の設定した第一の凝固温度になった凝固時間と該溶湯がさらに凝固して設定した第二の凝固温度に到達したときの凝固時間との差の判定凝固時間から該溶湯の清浄度の判定をすることを特徴とする。
【0019】
請求項3に係る凝固曲線から溶湯の清浄度判定をする方法の発明は、鋳造に利用する溶湯の清浄度判定方法において、該溶湯の凝固曲線上の設定した第一の凝固温度になった凝固時間と該溶湯がさらに凝固して設定した第二の凝固温度に到達したときの凝固時間との差の判定凝固時間及び初晶過冷度幅から該溶湯の清浄度の判定をすることを特徴とする。
【0020】
請求項4に係る凝固曲線から溶湯の清浄度判定をする装置の発明は、鋳造に利用する溶湯の清浄度判定装置であって、注湯した溶湯を貯留する貯留手段と、貯留中の溶湯の凝固温度を測定する温度測定手段と、初晶過冷度幅又は/及び判定凝固時間から溶湯の清浄度の判定をする清浄度判定データベースを保存する手段と、前記温度測定手段からの凝固温度データと凝固時間から凝固曲線を認識する手段と、該凝固曲線上における初晶温度と初晶過冷温度を認識し、前記初晶温度と前記初晶過冷温度との温度差から初晶過冷度幅を算出する手段と、前記凝固曲線上で設定した第一の凝固温度になった凝固時間と溶湯がさらに凝固して設定した第二の凝固温度に到達したときの凝固時間との差の判定凝固時間を算出する手段と、前記初晶過冷度幅又は/及び前記判定凝固時間から前記清浄度判定データベースに基づいて溶湯の清浄度の判定をする手段と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明は、初晶過冷度幅から清浄度を自動判定するので、熟練者でなくとも容易に清浄度を判定できるという効果を奏する。
【0022】
鋳造品中の介在物数を人が計測しないので、人による計測値のバラツキがなく、実態との誤差も生じないという効果を奏する。
【0023】
また、溶湯を測定用砂型容器に注湯完了後から約20秒で判定結果がでるので極めて短時間に判定ができるという効果を奏する。
【0024】
さらに、従来は溶解炉から溶湯を採取して溶解炉現場や鋳造現場から離れた場所で測定のための光学顕微鏡などの大型設備を備えて介在物数測定などの検査をしているが、本発明によって測定のためだけの移動が不要となり測定用設備が小型化できるので鋳造現場で鋳造直前の溶湯を採取して容易に測定ができるという効果を奏する。
【0025】
請求項2の発明は、判定凝固時間から清浄度を自動判定するので、熟練者でなくとも容易に清浄度を判定できるという効果を奏する。
【0026】
また、請求項2の発明は、溶湯を測定用砂型容器に注湯完了後から約6分で清浄度の判定できるので極めて短時間に判定ができるという効果を奏する。
【0027】
請求項2の発明は、清浄度判定に要する時間以外の効果は、熟練者でなくとも容易に清浄度を判定できるという効果など請求項1の発明と同じ効果を奏する。
【0028】
請求項3の発明は、初晶過冷度幅及び判定凝固時間から清浄度を自動的に判定するので、熟練者でなくとも容易に清浄度を判定できるという効果を奏する。
【0029】
請求項3の発明は、溶湯を測定用砂型容器に注湯完了後から約6分で清浄度の判定できるので極めて短時間に判定ができるという効果を奏する。
【0030】
また、請求項3の発明は、清浄度判定に要する時間以外の効果は、熟練者でなくとも容易に清浄度を判定できるという効果など請求項1又は請求項2の発明と同じ効果を奏する。
【0031】
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかの発明と同じ効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】材質ADC12のアルミニウム合金の溶湯の初晶過冷度幅を表した凝固曲線図である。
【図2】材質ADC12のアルミニウム合金の溶湯の判定凝固時間を表した凝固曲線図である。
【図3】材質ADC12のアルミニウム合金の初晶過冷度幅とK値との相関図である。
【図4】材質ADC12のアルミニウム合金の判定凝固時間とK値との相関図である。
【図5】鋳造に利用する溶湯の清浄度判定装置図である。
【図6】鋳造に利用する溶湯の清浄度判定のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0034】
まず、鋳造に利用する溶湯の凝固時の初晶過冷度幅又は判定凝固時間と清浄度との相関を求めるために、鋳造に利用する溶湯の凝固時の初晶過冷度幅又は判定凝固時間と、従来のKモールド法による介在物の個数や清浄度との相関を求め、清浄度判定データベースを作成する。
【0035】
最初に鋳造に利用する溶湯に酸化物などの介在物を添加して介在物が多く浮遊又は懸濁し汚れている溶湯を造る。
【0036】
そして、介在物が多く浮遊又は懸濁し汚れている溶湯から二つの試料を汲み取り、一つ目の試料で鋳造に利用する溶湯の凝固曲線を測定し、二つ目の試料で従来のKモールド法による介在物の個数すなわちK値を測定する。
【0037】
次に、最初に造った介在物が多く浮遊又は懸濁し汚れている溶湯を沈静処理やフラックス処理などで精錬を行い、該溶湯に浮遊又は懸濁する介在物を減少させて、よりきれいな第2回目の溶湯を造る。
【0038】
そして第2回目の溶湯に対して最初の溶湯に対して行った同じ作業を行う。つまり、第2回目の溶湯から二つの試料を汲み取り、一つ目の試料で第2回目の溶湯の凝固曲線を測定し、二つ目の試料で従来のKモールド法による介在物の個数すなわちK値を測定する。
【0039】
上記の作業を、溶湯中に介在物がなくなるまで、すなわち従来のKモールド法による介在物の個数すなわちK値が0になるまで溶湯の精錬を繰り返して実施する。
【0040】
先に測定した凝固曲線Aと該凝固曲線Aの溶湯を汲み取った後の溶湯を精錬して測定した凝固曲線Bを描いた図1において、初晶過冷度幅からの清浄度の判定方法を説明する。凝固曲線Aから初晶過冷温度2と初晶温度3との差である初晶過冷度幅6を算出し、凝固曲線Bから初晶過冷温度4と初晶温度5との差である初晶過冷度幅7を算出する。
【0041】
溶湯がきれいなときは溶湯中に結晶の核となる物質が少なくなるため初晶過冷度幅が大きくなり、一方溶湯が汚れているときは溶湯中に結晶の核となる物質が多くなるため初晶過冷度幅が小さくなると考えられる。
【0042】
そこで、初晶過冷度幅6又は初晶過冷度幅7とそれぞれのK値との相関をとれば初晶過冷度幅をK値に置き換えができ、従来のKモールド法によるK値による清浄度の判定を導くことができる。
【0043】
図1において、初晶過冷度幅6と初晶過冷度幅7との差が生じているが、これは初晶過冷度幅6の溶湯は介在物が多く浮遊しているため初晶過冷度幅が小さくなり、初晶過冷度幅7の溶湯は介在物が減少して初晶過冷度幅が大きくなったためである。
【0044】
以上より、初晶過冷度幅がわかると、同一の試料で計測したK値を基にして清浄度判定データベースを作成することができる。
【0045】
図2において、判定凝固時間からの清浄度の判定方法を説明する。凝固曲線Aから第一の凝固温度11に到達した時間と溶湯がさらに凝固して第二の凝固温度12に到達した時間との差である判定凝固時間14を算出し、凝固曲線Bから第一の凝固温度13に到達した時間と溶湯がさらに凝固して第二の凝固温度12に到達した時間との差である判定凝固時間15を算出する。
【0046】
溶湯がきれいなときは溶湯中に浮遊又は懸濁する介在物が少なるので凝固時間が短くなり、一方溶湯が汚れているときは溶湯中に浮遊又は懸濁する介在物が多くなるので凝固時間が長くなると考えられる。
【0047】
判定凝固時間14及び判定凝固時間15とそれぞれのK値との相関をとれば判定凝固時間をK値に置き換えができ、従来のKモールド法によるK値から清浄度の判定を導くことができる。
【0048】
図2において、判定凝固時間14と判定凝固時間15との差が生じているが、これは判定凝固時間14の溶湯は介在物が多く浮遊又は懸濁しているため凝固時間が長くなり、判定凝固時間15の溶湯は介在物の浮遊又は懸濁が少なくなったため凝固時間が短くなったためである。
【0049】
図2では、第一の凝固温度として初晶過冷温度を設定しているが、第一の凝固温度は溶湯中に浮遊又は懸濁した介在物の数に差があっても特定の凝固温度になるときの凝固時間の差が僅少の範囲で設定するのが望ましい。例えば、図2において溶湯注入直後から、凝固時間差が僅少の範囲の限界としてのイ点の凝固時間までの範囲で設定するのが望ましく、溶湯注入直後から初晶過冷温度に至るまでの範囲、初晶過冷温度、初晶過冷温度から初晶温度に至るまでの範囲、初晶温度又は初晶温度からイ点の凝固時間までの範囲の中から第一の凝固温度を選択して設定することができる。
【0050】
次に、第二の凝固温度の設定は、溶湯中に浮遊又は懸濁した介在物の数に差があるときには同一の凝固温度になる凝固時間に差が明らかに生ずる範囲で設定するのが望ましい。例えば、図2において、凝固時間の差が明らかになる始点としてのロ点の凝固温度より凝固温度が低い範囲でかつロ点の凝固時間より遅い範囲で設定するのが望ましい。
【0051】
以上より、判定凝固時間がわかると、同一の試料で計測したK値を基にして清浄度判定データベースを作成することができる。
【0052】
さらに、初晶過冷度幅及び判定凝固時間がわかると、同一の試料で計測したK値を基にして清浄度判定データベースを作成することができる。
【0053】
以上より、鋳造に利用する溶湯の凝固曲線からの清浄度判定データベースは、初晶過冷度幅を基にしたもの、判定凝固時間を基にしたもの、そして初晶過冷度幅及び判定凝固時間を基にしたものの3種類の清浄度判定データベースを作成することができる。
【0054】
なお、清浄度判定データベースは溶湯の材質によって異なるので、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金などの非鉄金属又は非鉄金属を主成分とした合金の材質ごとに該清浄度判定データベースを作成することにより、材質によって異なる清浄度判定データベースに基づいてそれぞれの異なる材質の溶湯の清浄度判定を行うことができる。
【0055】
次に、実施例を挙げて本発明の実施例を説明するが、本発明は実施例により限定されるものでない。
【実施例1】
【0056】
材質としてADC12のアルミニウム合金の溶湯の凝固曲線を測定し、従来のKモールド法による介在物の個数すなわちK値を測定して、初晶過冷度幅とK値との相関を把握した。
【0057】
図3に示すように、アルミニウム合金の溶湯を精錬するごとに初晶過冷度幅とK値との関係をプロットした。
【0058】
ここで、従来から利用されている表1に示すK値による清浄度判定基準(「アルミニウム溶湯品質判定鋳型 Kモールド法試験法 使用説明書 日本軽金属株式会社」に記載の品質判定表)を当てはめた。
【0059】
【表1】

【0060】
表1のK値による清浄度判定基準を図3に当てはめると、初晶過冷度幅が3.6°C未満ではK値が0.1を超過しており介在物が浮遊又は懸濁していることがわかる。
【0061】
よって、図3と表1に基づき、初晶過冷度幅が3.6°C未満のときは清浄度が「溶湯処理必要」と判定され、初晶過冷度幅が3.6°C以上であるときは清浄度が「OK」と判定する清浄度判定データベースを作成した。
【実施例2】
【0062】
材質としてADC12のアルミニウム合金の溶湯の凝固曲線を測定し、かつ従来のKモールド法による介在物の個数すなわちK値を測定して、第一の凝固温度として設定した初晶過冷温度の凝固時間から第二の凝固温度として設定した550°Cに到達する凝固時間までの間の判定凝固時間とK値との相関を把握した。
【0063】
図4に示すように、アルミニウム合金の溶湯を精錬するごとに判定凝固時間とK値との関係をプロットした。
【0064】
表1のK値による清浄度判定基準を図4に当てはめると、判定凝固時間が280秒を越えるとK値が0.1を超過しており介在物の個数が多く、判定凝固時間が280秒以下であると介在物がないことがわかる。
【0065】
よって、図4と表1に基づき、判定凝固時間が280秒以下であるときは清浄度が「OK」と判定され、判定凝固時間が280秒を超えると清浄度が「溶湯処理必要」と判定するように清浄度判定データベースを作成した。
【実施例3】
【0066】
実施例1の初晶過冷度幅及び実施例2の判定凝固時間に基づいて清浄度を判定するデータベースとして、初晶過冷度が3.6°C以上でかつ判定凝固時間が280秒以下であるときは清浄度が「OK」と判定され、初晶過冷度が3.6°C未満又は/及び判定凝固時間が280秒を超えるときは清浄度が「溶湯処理必要」と判定するように清浄度判定データベースを作成した。
【0067】
以上のように、本発明による凝固曲線に基づく清浄度判定データベースは、従来のKモールド法による清浄度判定と相関させて作成していることがわかる。
【実施例4】
【0068】
本発明による鋳造に利用する溶湯中の凝固温度を測定する方法に使用する装置を図5において説明する。
【0069】
図5に示すように、鋳造に利用する溶湯の清浄度判定装置30は、注湯された鋳造に利用する溶湯21を貯留する砂型シェル20と、該砂型シェル20内で鋳造に利用する溶湯21の凝固温度を測定する温度センサー22と、該温度センサー22からの凝固温度を伝え計測値に変換する温度調整器23と、初晶過冷度幅又は/及び判定凝固時間から溶湯の清浄度の判定をする清浄度判定データベースを保存する手段と、設定された第一の凝固温度と第二の凝固温度を保存する手段と、時間の経過とともに凝固温度を測定しプロットして凝固曲線を作成する手段と、初晶過冷温度と初晶温度を測定し初晶過冷温度と初晶温度間の差である初晶過冷度幅を算出する手段と、第一の凝固温度になったときの凝固時間から第二の凝固温度に到達した凝固時間との差から判定凝固時間を算出する手段と、清浄度判定データベースを基準として初晶過冷度幅又は/及び判定凝固時間から清浄度判定を行う手段とを含む溶湯の清浄度判定器24とから構成される。
【0070】
以下、本発明の使用例を図6の作業フロー図によって説明する。
(使用例)
【0071】
i段階は事前準備段階で、鋳造工程に供給する溶湯と同一の材質の溶湯を利用して、溶湯内の介在物数を精錬により変えて複数の凝固曲線を作成する。
【0072】
次に、凝固曲線から判定凝固時間を測定するため、第一凝固温度として例えば初晶過冷温度を、第二凝固温度として例えば550°Cを設定する。これらの設定は保存され、生産中の溶湯の清浄度判定のときにも利用される。
【0073】
そして前記凝固曲線から導き出した初晶過冷度幅及び判定凝固時間と従来のKモールド法による介在物の個数すなわちK値との相関を把握して、鋳造製造工程に供給する溶湯の初晶過冷度幅及び判定凝固時間に基づく清浄度判定のデータベースを作成する。
【0074】
例えば、実施例3から、初晶過冷度幅が3.6°C以上でかつ判定凝固時間が280秒以下であるときは清浄度が「OK」と判定し、初晶過冷度幅が3.6°C未満又は/及び判定凝固時間が280秒を超えるときは清浄度が「溶湯処理必要」と判定する清浄度判定データベースを作成する。
【0075】
該清浄度判定データベースを清浄度判定器24に記憶させておく。
【0076】
ii段階は段取り段階で、清浄度判定データベースを作成するのに利用した溶湯と同一材質の溶湯で、鋳造工程前の溶湯を採取し砂型シェル10に注湯する。
【0077】
iii段階は凝固段階で、砂型シェル20内に設置された温度センサー22から凝固温度が温度調整器23に伝えられ、清浄度判定器24によって凝固曲線が把握、表示される。
【0078】
iv階は分析段階で、該凝固曲線から、初晶過冷温度と初晶温度を記憶して表示し初晶過冷度幅を算出して表示し、また記憶した第一の凝固温度である初晶過冷温度時の凝固時間と第二の凝固温度に達したときの凝固時間との差から判定凝固時間を算出して表示される。
【0079】
v段階は判定段階で、初晶過冷度幅又は/及び判定凝固時間を清浄度判定データベースに照合させて、清浄度の判定が約6分間でなされ判定結果が表示される。
【0080】
前記清浄度判定結果が「OK」であればそのまま鋳造工程に注湯され、前記清浄度判定結果が「溶湯処理必要」であれば溶湯の清浄度をきれいにするためのフラックス処理などの精錬作業を実施する。
【符号の説明】
【0081】
1 凝固曲線
2 凝固曲線Aの初晶過冷温度
3 凝固曲線Aの初晶温度
4 凝固曲線Bの初晶過冷温度
5 凝固曲線Bの初晶温度
6 凝固曲線Aの初晶過冷度幅
7 凝固曲線Bの初晶過冷度幅
11 第一の凝固温度で初晶過冷温度を設定したときの凝固曲線Aの第一の凝固温度
12 第二の凝固温度
13 第一の凝固温度で初晶過冷温度を設定したときの凝固曲線Bの第一の凝固温度
14 凝固曲線Aの判定凝固時間
15 凝固曲線Bの判定凝固時間
20 砂型シェル
21 溶湯
22 温度センサー
23 温度調整器
24 清浄度判定器
25 表示盤
30 溶湯の清浄度判定装置
A 介在物が多い溶湯の凝固曲線
B 介在物がない又は少ない溶湯の凝固曲線
【先行技術文献】
【特許文献】
【0082】
【特許文献1】実公昭52−17449号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造に利用する溶湯の清浄度判定方法において、該溶湯の凝固曲線上の初晶過冷度幅から該溶湯の清浄度の判定をすることを特徴とする凝固曲線から溶湯の清浄度判定をする方法。
【請求項2】
鋳造に利用する溶湯の清浄度判定方法において、該溶湯の凝固曲線上の設定した第一の凝固温度になった凝固時間と該溶湯がさらに凝固して設定した第二の凝固温度に到達したときの凝固時間との差の判定凝固時間から該溶湯の清浄度の判定をすることを特徴とする凝固曲線から溶湯の清浄度判定をする方法。
【請求項3】
鋳造に利用する溶湯の清浄度判定方法において、該溶湯の凝固曲線上の設定した第一の凝固温度になった凝固時間と該溶湯がさらに凝固して設定した第二の凝固温度に到達したときの凝固時間との差の判定凝固時間及び初晶過冷度幅から該溶湯の清浄度の判定をすることを特徴とする凝固曲線から溶湯の清浄度判定をする方法。
【請求項4】
鋳造に利用する溶湯の清浄度判定装置であって、注湯した溶湯を貯留する貯留手段と、貯留中の溶湯の凝固温度を測定する温度測定手段と、初晶過冷度幅又は/及び判定凝固時間から溶湯の清浄度の判定をする清浄度判定データベースを保存する手段と、前記温度測定手段からの凝固温度データと凝固時間から凝固曲線を認識する手段と、該凝固曲線上における初晶温度と初晶過冷温度を認識し、前記初晶温度と前記初晶過冷温度との温度差から初晶過冷度幅を算出する手段と、前記凝固曲線上で設定した第一の凝固温度になった凝固時間と溶湯がさらに凝固して設定した第二の凝固温度に到達したときの凝固時間との差の判定凝固時間を算出する手段と、前記初晶過冷度幅又は/及び前記判定凝固時間から前記清浄度判定データベースに基づいて溶湯の清浄度の判定をする手段と、を含むことを特徴とする凝固曲線から溶湯の清浄度判定をする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−162547(P2010−162547A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4199(P2009−4199)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【特許番号】特許第4368933号(P4368933)
【特許公報発行日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(509012636)エコ・システム有限会社 (2)
【Fターム(参考)】