説明

凝集処理装置、及び、その運転方法

【課題】省スペース化が可能で、設備コストが低廉となる高濃度シリカ含有水用の凝集処理装置を提供する。
【解決手段】高濃度シリカ含有水に、調製後一定時間以上エージングを行った、所定濃度のポリ塩化アルミニウム水溶液を添加して、該高濃度シリカ含有水に含まれる被処理物質を凝集処理する凝集処理装置であって、最高液面位置と最低液面位置とが設定された、前記ポリ塩化アルミニウム水溶液を調製し、エージングするための希釈・熟成薬液槽、前記希釈・熟成薬液槽の前記最低液面位置より低い位置と、底部または底部近傍で送液配管により接続された供給薬液槽、及び、前記供給薬液槽の最低液面位置と底部との中間点、または、該中間点よりも高い位置から該供給薬液槽中のポリ塩化アルミニウム水溶液を採取して前記高濃度シリカ含有水に供給するための送液手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ成分を高濃度に含有する水から懸濁物質、コロイド状物質、色度の原因となる鉄、マンガン等を除去し、風味を損なうことなく清澄な処理水を得るための凝集処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種工業用に利用される水、特に食品製造用水には、一般に、清澄で、飲料に適した水質が求められる。
【0003】
しかしながら、工業用の原水として広く用いられている井戸水等には、着色や濁質の原因となる鉄、マンガン、フミン質等を含む場合が多く、このような水を工業用に利用する場合、酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム等)、凝集剤(ポリ塩化アルミニウム等)、pH調整剤(硫酸等)を併用し、原水中の被処理物質を酸化、凝集分離することで、清澄な処理水を得る方法が広く実施されている。
【0004】
しかし、上記方法では凝集剤による凝集効果を最適化するために、硫酸等の無機酸をpH調整剤として添加することが必須であり、処理水を食品製造用水として使用する場合には風味に影響を与えることがあった。
【0005】
その対応策として、特開2002−326091号公報(特許文献1)によって、硫酸を添加することなく次亜塩素酸ナトリウムのみを注入して攪拌混和した後に、凝集剤を注入して凝集処理することにより、鉄、マンガン、アンモニウムイオン、フミン質等を除去する方法が提案されている。しかし、この提案された方法では、シリカ濃度の高い原水の場合、鉄、マンガンの除去性能を十分に得ることができない。
【0006】
また、特開2005−334703号公報(特許文献2)では、あらかじめ酸を添加したポリ塩化アルミニウムと次亜塩素酸ナトリウムとを併用することで、シリカなどのコロイダル物質や凝集困難な成分を多く含む水であっても、凝集処理が可能であるとしている。
【0007】
しかしながら、この方法では、やはり酸を併用することから、処理水の風味を損なう恐れが大きく、そのため、広く汎用できる方法ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−326091号公報
【特許文献2】特開2005−334703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、本発明者等は、上記問題を解決する、すなわち、シリカ濃度が高い水であっても、凝集効果が高く、大きいフロックを生じさせることができ、懸濁物質、コロイド状物質、色度の原因となる鉄やマンガン等、高濃度シリカ含有水に含まれる被処理物質を確実に除去可能であり、しかも、処理水の風味を損なうことなく、飲料に適した水質の処理水が得られる、高濃度シリカ含有水の凝集処理方法として、高濃度シリカ含有水に、調製後、一定時間以上エージングを行った、酸化アルミニウム換算の濃度が0.5重量%以下のポリ塩化アルミニウム水溶液を添加することを見出した。
【0010】
このとき、上記一定時間として12時間、酸化アルミニウム換算の濃度が0.3重量%以下のポリ塩化アルミニウム水溶液を用いると特に効果が高いと云う知見を得た。
【0011】
ここで、市販のポリ塩化アルミニウム水溶液は、酸化アルミニウム換算の濃度が10〜11重量%のポリ塩化アルミニウムの液体品が一般的であり、これより濃度の低いものは溶液の安定性や運送コストの点から市販されていないのが実情である。
【0012】
このような市販のポリ塩化アルミニウム水溶液を用いて、酸化アルミニウム換算の濃度が0.5重量%以下のポリ塩化アルミニウム水溶液(「希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液」とも云う)を調製するためには20倍以上に希釈する必要があり、さらに希釈後12時間以上のエージングを行い、かつ、24時間稼働する工場などに対応させるためには、図3にモデル的に示したような概要の装置が必要となる。
【0013】
図3は、上記高濃度シリカ含有水の凝集処理方法を行うための装置(第1案)のモデル図である。
【0014】
井戸の水中に備えられた揚水ポンプP1により、井水貯槽T1に井戸水が供給される。井水貯槽T1の井戸水は主ラインLmに設けられたポンプP2により採取される。
【0015】
この主ラインLmの井戸水に対して、塩素剤供給ラインLhに設けられたポンプP3によって次亜塩素酸ナトリウム水溶液が適量添加され酸化処理される。この酸化処理により井戸水中の、着色や濁質の原因となる鉄、マンガンなどの成分を酸化させ、最終的に、凝集により効果的に除去することができる。
【0016】
この主ラインLmの、塩素剤供給ラインLh合流地点の下流側にはポリ塩化アルミニウム水溶液供給ラインLpが接続している。
【0017】
このポリ塩化アルミニウム水溶液供給ラインLpの最上流には、ポリ塩化アルミニウム原液(10重量%ポリ塩化アルミニウム水溶液:図中、符号「PAC」)供給ラインL1pと希釈水供給ラインLwが設置され、2つ備えられた希釈・熟成薬液槽T3aとT3bとに対して、それぞれポリ塩化アルミニウム原液供給ラインL1pに設けられた弁Bp1と弁Bp2とによりポリ塩化アルミニウム原液が、そして、それぞれ希釈水供給ラインLwに設けられた弁Bw1と弁Bw2とによって希釈水が、供給可能となっている。
【0018】
希釈・熟成薬液槽T3aとT3bとは、それぞれ12時間で消費される量の希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液を蓄積可能な容量を有しており、それぞれ攪拌用の攪拌翼を備えた攪拌機M1’及びM2’を備えている。また、これら希釈・熟成薬液槽T3aとT3bとはそれらの底部にそれぞれ弁Bp3とBp4とを備え、これら弁を介して前記ポリ塩化アルミニウム水溶液供給ラインLpに接続されている。
【0019】
これら希釈・熟成薬液槽T3aとT3bとで、上記ポリ塩化アルミニウム原液供給ラインL1pからのポリ塩化アルミニウム原液及び希釈水供給ラインLwからの希釈水、及び、攪拌機M1’及びM2’を用いて所定の濃度に希釈されたポリ塩化アルミニウム水溶液を調製し、12時間ごとに弁Bp3とBp4とを交互に開閉することにより、少なくとも12時間以上エージングされた所定の濃度の希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液を主ラインLmに添加させる。
【0020】
このように塩素処理され、かつ、12時間以上エージングされた希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液が添加された井戸水は濾過器Fを通過することで、凝集成分が除去されて凝集処理された清澄な処理水として利用される。
【0021】
上記のような装置において、希釈・熟成薬液槽T3aとT3bとの大きさはそれぞれ、最低でも12時間で消費される希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液を蓄積可能な容量が必要であり、その大きさは水を大量使用する工場に対応するためには巨大なものとなり、設置場所の選択に問題が生じやすい。特に既存の工場の原水処理装置付近に設置する場合には大きな問題となることが多い。
【0022】
さらに攪拌機が2つ必要となって装置コストを押し上げる上に、12時間ごとの切り替え、及び、薬液調製が必要である。
【0023】
これにより、本発明者等は上記問題点を多少とも解決するために、図4にモデル的に示す第2案を作成した。
【0024】
第2案において、ポリ塩化アルミニウム水溶液供給ラインLp、及び、その上流側以外は第1案と同じであるために同一部分についての説明は省略する。
【0025】
ポリ塩化アルミニウム水溶液供給ラインLpの最上流には、ポリ塩化アルミニウム原液供給ラインL1pと希釈水供給ラインLwが設置され、希釈・熟成薬液槽T3’に対して弁Bpと弁Bwとがそれぞれポリ塩化アルミニウム原液と希釈水とを供給可能となっている。希釈・熟成薬液槽T3’には攪拌用の攪拌翼を備えた攪拌機M1’が設けられている。
【0026】
希釈・熟成薬液槽T3’には、内容される薬液を汲み上げて供給薬液槽T4’に送液するために送液配管Ldが設けられ、送液配管Ldには送液ポンプP5’が設けられている。
【0027】
供給薬液槽T4’底部は弁Bp3’を介してポリ塩化アルミニウム水溶液供給ラインLpに接続されている。
【0028】
これら希釈・熟成薬液槽T3’及び供給薬液槽T4’は、それぞれ12時間で消費される量の希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液を蓄積可能な容量を有している。
【0029】
希釈・熟成薬液槽T3’ではポリ塩化アルミニウム原液、希釈水、及び、攪拌機M1’により希釈・混合されたポリ塩化アルミニウム水溶液が12時間ごとに調製され、12時間のエージングが終了すると、この12時間エージングされた、所定の濃度の希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液は供給薬液槽T4’に供給される。
【0030】
従って、供給薬液槽T4’は12時間ごとに、上記12時間エージングされた、所定の濃度の希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液で満たされることとなる。そして、供給薬液槽T4’からは連続的にポリ塩化アルミニウム水溶液供給ラインLpに12時間以上エージングされた所定の濃度の希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液が供給される。
【0031】
このような第2案によれば、攪拌機は一つで済むが、希釈・熟成薬液槽T3’及び供給薬液槽T4’の大きさはともに、最低でも12時間で消費される希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液を蓄積可能な容量が依然として必要であり、また、ポンプの必要数は第1案より1つ増えてしまう。
【0032】
本発明は、これら第1案や、第2案の凝集処理装置では解決できない問題を解決する、すなわち、省スペース化が可能で、設備コストが低廉となる高濃度シリカ含有水の凝集処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明の凝集処理装置は、上記課題を解決するために、請求項1に記載の通り、高濃度シリカ含有水に、調製後一定時間以上エージングを行った、所定濃度のポリ塩化アルミニウム水溶液を添加して、該高濃度シリカ含有水に含まれる被処理物質を凝集処理する凝集処理装置であって、最高液面位置と最低液面位置とが設定された、前記ポリ塩化アルミニウム水溶液を調製し、エージングするための希釈・熟成薬液槽、前記希釈・熟成薬液槽の前記最低液面位置より低い位置と、底部または底部近傍で送液配管により接続された供給薬液槽、及び、前記供給薬液槽の最低液面位置と底部との中間点、または、該中間点よりも高い位置から該供給薬液槽中のポリ塩化アルミニウム水溶液を採取して前記高濃度シリカ含有水に供給するための送液手段を有することを特徴とする凝集処理装置である。
【0034】
また、本発明の凝集処理装置は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載の凝集処理装置において、前記送液配管に該配管を流れる前記ポリ塩化アルミニウム水溶液の流量を調整するための流量調整弁を有することを特徴とする。
【0035】
また、本発明の凝集処理装置は、請求項3に記載の通り、請求項1または請求項2に記載の凝集処理装置において、前記最低液面位置での前記希釈・熟成薬液槽の容量と前記最高液面位置での該希釈・熟成薬液槽の容量との平均値を100としたときに、該最低液面位置での該希釈・熟成薬液槽の容量が95以上であり、かつ、該最高液面位置での該希釈・熟成薬液槽の容量が105以下であることを特徴とする。
【0036】
また、本発明の凝集処理装置は、請求項4に記載の通り、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の凝集処理装置において、前記希釈・熟成薬液槽に、前記ポリ塩化アルミニウム水溶液の濃度調整用の電気伝導率計を有することを特徴とする。
【0037】
また、本発明の凝集処理装置の運転方法は、請求項5に記載の通り、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の凝集処理装置の運転方法であって、前記希釈・熟成薬液槽内の前記ポリ塩化アルミニウム水溶液の液位が前記最低液面位置まで低下したときに、ポリ塩化アルミニウムと希釈水とを、該希釈・熟成薬液槽内のポリ塩化アルミニウム水溶液の濃度が前記所定濃度となり、かつ、該ポリ塩化アルミニウム水溶液の液位が前記最高液面位置に達するように、添加することを特徴とする凝集処理装置の運転方法である。
【発明の効果】
【0038】
本発明の凝集処理装置によれば、省スペース化が可能で、設備コストが低廉となる高濃度シリカ含有水の凝集処理装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は本発明に係る凝集処理装置の一例の全体を示すモデル図である。
【図2】図1に示した本発明に係る凝集処理装置の一例の主要部分の部分モデル図である。
【図3】当初計画した凝集処理装置(第1案)の全体を示すモデル図である。
【図4】次に計画した凝集処理装置(第2案)の全体を示すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の凝集処理装置について、その一例を、図面を用いて説明する。
【0041】
図1は、本発明に係る、高濃度シリカ含有水の凝集処理を行うための凝集処理装置のモデル図である。
【0042】
井戸の水中に備えられた揚水ポンプP1により、井水貯槽T1に井戸水が供給される。井水貯槽T1の井戸水は主ラインLmに設けられたポンプP2により採取される。
【0043】
この主ラインLmの井戸水に対して、塩素剤供給ラインLhに設けられたポンプP3によって次亜塩素酸ナトリウム水溶液が適量添加され酸化処理される。この酸化処理により井戸水中の、着色や濁質の原因となる鉄、マンガンなどの成分を酸化させ、最終的に、凝集により効果的に除去することができる。
【0044】
この主ラインLmの、塩素剤供給ラインLh合流地点の下流側にはポリ塩化アルミニウム水溶液供給ラインLpが接続している。
【0045】
このポリ塩化アルミニウム水溶液供給ラインLpの最上流には、ポリ塩化アルミニウム原液(10重量%ポリ塩化アルミニウム水溶液:図中、符号「PAC」)供給ラインL1pと希釈水供給ラインLwが設置され、希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液を調製し、エージングするための希釈・熟成薬液槽T3にポリ塩化アルミニウム原液と希釈水とが供給可能となっている。
【0046】
希釈・熟成薬液槽T3は6時間で消費される量の、希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液を蓄積可能な容量を有しており、攪拌用の攪拌翼を備えた攪拌機M1を備えている。
【0047】
また、希釈・熟成薬液槽T3の最低液面位置より低い位置、この例ではその底面と、隣接する供給薬液槽T4の底部、この例では底面とが送液配管LbによりバルブBbを介して接続されている。このような配管により希釈・熟成薬液槽T3から供給薬液槽T4への薬液の移送にはポンプが不要となる。なお、送液配管Lbの太さは、希釈・熟成薬液槽T3と供給薬液槽T4との液面位置(液位)を常に同一に保つだけの薬液が流通可能なものでなければならない。
【0048】
希釈・熟成薬液槽T3と供給薬液槽T4とは、略同容量で、略同高さであることが好ましく、さらに両者の底面は略同高さとなるように設置されていることが本発明の効果を最適に得られるために好ましい。図示した例では希釈・熟成薬液槽T3と供給薬液槽T4とは、同型(円筒状。深さが約1.2m)で、両者の底面は同じ高さに設置されている。
【0049】
希釈・熟成薬液槽T3には最高液面位置と最低液面位置とが設定されている(図2参照)。最低液面位置での希釈・熟成薬液槽T3の容量と最高液面位置での希釈・熟成薬液槽T3の容量との平均値を100としたときに、最低液面位置での希釈・熟成薬液槽T3の容量が95以上であり、かつ、最高液面位置での希釈・熟成薬液槽T3の容量が105以下であると本発明の効果が高くなり、より好ましくは前者を98以上、後者を102以下とする。
【0050】
供給薬液槽T4には、薬液の液面近く(図中、供給薬液槽T4の底面から高さHの位置)に採取口を有し、備えられたポンプP4によって供給薬液槽T4内の希釈されエージングされたポリ塩化アルミニウム水溶液を主ラインLmに供給するためのポリ塩化アルミニウム水溶液供給ラインLpが設けられている。
【0051】
供給薬液槽T4の薬液の液面は、送液配管Lbによって接続されている希釈・熟成薬液槽T3の液面の高さに等しくなるので、供給薬液槽T4でも、希釈・熟成薬液槽T3に設定された最高液面位置と最低液面位置とそれぞれ等しい高さの最高液面位置と最低液面位置が存在することとなる。
【0052】
ここで、採取口は、本発明の効果を十分に得るために、供給薬液槽T4の最低液面位置との底部との中間点、または、この中間点よりも高い位置に設けることが必要である。
【0053】
主ラインLmのポリ塩化アルミニウム水溶液供給ラインLpの下流側には凝集された成分を除去する濾過器Fが設けられ、この濾過器Fを通過した水は凝集成分が除去されて凝集処理された清澄な処理水として利用される。
【0054】
ここで、このような本発明の高濃度シリカ含有水の凝集処理装置の運転方法の一例について説明する。
【0055】
供給薬液槽T4に内容される希釈されエージングされたポリ塩化アルミニウム水溶液は基本的に常時、ポリ塩化アルミニウム水溶液供給ラインLpにより主ラインLmに供給される。
【0056】
図1の例では上述のように希釈・熟成薬液槽T3と供給薬液槽T4とは同形(円筒形)かつ同容量で、さらに、同じ底面高さとなるように設置されており、送液配管Lbにより底部同士が接続され、かつ、バルブBbは常時開とされているために、これらの薬液槽の液面はつねに同じ高さとなっている。バルブBbの開度は、供給薬液槽T4内のポリ塩化アルミニウム水溶液がポリ塩化アルミニウム水溶液供給ラインLpにより主ラインLmに供給されるときに、希釈・熟成薬液槽T3と供給薬液槽T4との液位が常に一定となる開度である必要がある。但し、供給薬液槽T4内のポリ塩化アルミニウム水溶液が希釈・熟成薬液槽T3に逆流しないレベルの開度とする。
【0057】
供給薬液槽T4の薬液が消費されると希釈・熟成薬液槽T3の液面は下がり、希釈・熟成薬液槽T3に設定された最低液面位置(この例では希釈・熟成薬液槽T3の底面から980mm)まで低下したときに、ポリ塩化アルミニウム原液供給ラインL1pと希釈水供給ラインLwとからポリ塩化アルミニウム原液と希釈水とを所定の比率で(例えば、酸化アルミニウム換算の濃度が0.2重量%のポリ塩化アルミニウム水溶液となるように)、希釈・熟成薬液槽T3の最高液面位置(この例では希釈・熟成薬液槽T3の底面から1020mm)に達するまで希釈・熟成薬液槽T3に供給しながら、攪拌機M1により充分に攪拌する。このとき上記ポリ塩化アルミニウム原液と希釈水との希釈・熟成薬液槽T3への供給により、供給薬液槽T4の液面も上昇する。
【0058】
以後、この調製作業を希釈・熟成薬液槽T3の液面が下限の液面高さとなるごとに繰り返す。
【0059】
このような運転方法によれば、上述の第1案や第2案よりも小さい容量の薬液槽を用いながら、充分な凝集処理が可能となる。具体的には上述の第1案や第2案では、各薬液槽の容量として、12時間で消費され量の希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液を蓄積可能な容量が必要であったが、本発明では、各薬液槽の容量を最大で50%削減しても同等の凝集処理効果を得ることができる。
【0060】
また、上記において薬液槽内のポリ塩化アルミニウムの濃度は追添加するポリ塩化アルミニウム原液と希釈水との添加比率で管理する例を示したが、希釈・熟成薬液槽に設けた電気導電率計により希釈・熟成薬液槽内の薬液の電気伝導率を測定することで、ポリ塩化アルミニウムの濃度調整を行うこともできる。
【0061】
上述の希釈・熟成薬液槽T3の液位が、予め設定された最高液面位置と最低液面位置に達したかどうかは、希釈・熟成薬液槽T3に設置された液面レベルセンサ(市販の、フロートを用いるもの、電極を用いるもの等)によって検知され、図示しない制御装置に送られても良い。このとき、この制御装置は例えばポリ塩化アルミニウム原液供給ラインL1pのバルブBp、希釈水供給ラインLwのバルブBw、及び、攪拌機M1を制御し、液面レベルセンサにより希釈・熟成薬液槽T3内の液位が最低液面位置まで低下したときに、希釈・熟成薬液槽T3内の薬液を攪拌機M1により攪拌し、図示しない電気伝導率計によって測定される希釈・熟成薬液槽T3内の薬液の電気伝導率によりバルブBw及びバルブBpを制御しながら、希釈・熟成薬液槽T3内の薬液の液位が希釈・熟成薬液槽T3の最高液面位置に達し、かつ、薬液のポリ塩化アルミニウム濃度が所定の濃度になるように制御する。
【0062】
なお、上記では制御装置により攪拌機M1を制御したが、希釈・熟成薬液槽T3の薬液の水位に関係なく攪拌機M1を常時オンとし、希釈・熟成薬液槽T3内の薬液を攪拌し続けてもよい。
【0063】
本発明の凝集処理装置の運転方法では、希釈・熟成薬液槽T3での希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液の濃度が、酸化アルミニウム換算で0.5重量%以下の所定濃度となるように調製される。
【0064】
ここで、ポリ塩化アルミニウムは、一般に、JIS K1475規格適合品、日本水道協会(JWWA)規格適合品、工業用グレード品などの各種グレード品が、通常、酸化アルミニウム換算の濃度が10〜11重量%の液体品として、あるいは、酸化アルミニウム換算のアルミニウム含有濃度が30重量%以上の粉体として市販されている。このようなポリ塩化アルミニウムは、昭和化学工業社、セントラル硝子社、大明化学工業社、高杉製薬社、多木化学社、南海化学社などの各社から入手できる。また、上記において酸化アルミニウム換算の濃度とは、JIS K1475に記載の通り、製品中のアルミニウム含有濃度を測定し、その値を酸化アルミニウム濃度に換算した値である。
【0065】
ここで、上記のような市販のポリ塩化アルミニウム10〜11重量%の液体品に共通する取り扱い上の注意点として、希釈すると沈殿を生ずる恐れがあり、そのとき効力が低下するとされている。このため、従来の凝集処理では、使用者は上記ポリ塩化アルミニウムを、粉体の場合は、酸化アルミニウム換算で10重量%程度の水溶液として、酸化アルミニウム換算の濃度が10〜11重量%の液体の場合は希釈せずにそのまま、ポンプ等により凝集処理目的の水に添加して使用してきた。
【0066】
しかしながら、本発明では、主ラインLmに添加するポリ塩化アルミニウム水溶液として、酸化アルミニウム換算の濃度が0.5重量%以下のポリ塩化アルミニウム水溶液を用いることが必要である。好ましい濃度は、酸化アルミニウム換算で0.01重量%以上0.3重量%以下であり、より好ましい濃度は、酸化アルミニウム換算で0.05重量%以上0.25重量%以下である。酸化アルミニウム換算の濃度が0.5重量%より大きく、10重量%未満の範囲では、本発明の効果が得られず、あるいは、白濁が激しく、すぐに分離、沈殿を生じたり、ゲル化したりして、通常の薬注ポンプでの注入が困難になるので好ましくない。また、酸化アルミニウム換算の濃度として0.01重量%未満に希釈した場合には、本発明の効果は得られるものの、各薬液槽や希釈されたポリ塩化アルミニウム水溶液を主ラインLmに添加するためのポンプが大型化するので現実的でない。
【0067】
ポリ塩化アルミニウム原液供給ラインL1pから希釈・熟成薬液槽T3に供給されるポリ塩化アルミニウム原液としては、市販の、酸化アルミニウム換算の濃度が10〜11重量%のポリ塩化アルミニウムの液体品、あるいは、酸化アルミニウム換算のアルミニウム含有濃度が30重量%以上のポリ塩化アルミニウムの粉体を希釈水に溶解して上記市販品と同等程度の濃度とした溶液を用いる。
【0068】
勿論、上記以外の濃度のポリ塩化アルミニウムであっても、希釈・熟成薬液槽T3で希釈水を用いて希釈し、酸化アルミニウム換算の濃度を上記所定の濃度に調整できるのであれば、用いることができる。
【0069】
希釈・熟成薬液槽T3でポリ塩化アルミニウム水溶液の調製に用いる希釈水は、当然のことながら、清澄なものであることが好ましい。さらに、効果的にフロックの生成が行われるので、シリカを50mg/L以上含有する水を用いて調製することが好ましい。
【0070】
上記では濾過器Fを用いてフロックの除去を行うとしたが、具体的には、沈殿分離、急速濾過、緩速濾過、膜分離等によってフロックを除去する。
【実施例】
【0071】
以下に、本発明の実施例について具体的に説明する。なお、以下の実施例に記載されたポリ塩化アルミニウムの濃度は、全て酸化アルミニウム換算の濃度である。
【0072】
<実施例1、比較例1>
実施例1では本発明に係る凝集処理装置として、図1にモデル的に示したものを作製し、試験(実施例1)を行った。
【0073】
図1の凝集処理装置では希釈・熟成薬液槽T3と供給薬液槽T4との形状は等しく(円筒形)、それらの底部から1000mmの高さ位置に薬液面(液位)が位置するときの各薬液槽の容量は、井戸水に対するポリ塩化アルミニウムの添加濃度を1.5mg/Lとし、井戸水に添加される希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液の濃度を0.2重量%としたときの、希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液6時間分の消費量に等しい大きさとした。また、供給薬液槽T4の採取口高さはその底部から960mmとした。また、希釈・熟成薬液槽T3には最高液面位置(底部から1020mmの位置)及び最低液面位置(底部から980mmの位置)が設定されており、供給薬液槽T4の液面もその底部から980mm〜1020mmの高さの範囲で変動する。
【0074】
濾過器Fとしては、アンスラサイトとマンガン砂とを濾材とする2層式の急速濾過装置を用いた(以下の実施例、比較例でも同様)。
【0075】
一方、比較として、図3にモデル的に示した第1案の装置を作製し、試験(比較例1)を行った。なお、希釈・熟成薬液槽T3a、T3bの容量は、井戸水に対するポリ塩化アルミニウムの添加濃度を1.5mg/Lとし、井戸水に添加される希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液の濃度を0.2重量%としたときの、希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液12時間分の消費量に等しい大きさとした。
【0076】
ここで、これら実施例1及び比較例1(後述する実施例2及び比較例2も同様)で原水として用いた井戸水の水質を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1にその水質を示した井戸水を主ラインLmに通水させながら、井戸水1L当たりの12重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量が30mgとなるように、塩素剤供給ラインLhから次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加(酸化処理)した(実施例1及び比較例1(後述する実施例2及び比較例2も同様))。
【0079】
実施例1では、井戸水に対するポリ塩化アルミニウムの添加濃度が1.5mg/Lとなるように供給薬液槽T4から主ラインLmへの希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液の供給を続け、希釈・熟成薬液槽T3の希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液(以下、単に薬液ともいう)の液面が最低液面位置に達したときには図示しない下限レベルスイッチによって検知し、希釈・熟成薬液槽T3内の薬液を攪拌機M1により攪拌し、図示しない電気伝導率計によって測定される希釈・熟成薬液槽T3内の薬液の電気伝導率の値に応じてバルブBw及びバルブBpを制御しながら、図示しない上限レベルスイッチによって希釈・熟成薬液槽T3内の薬液の液面が最高液面位置に達したことを検知してポリ塩化アルミニウム原液と希釈水との導入を中止して、薬液のポリ塩化アルミニウム濃度が0.2重量%になるように調整した。
【0080】
一方、比較例1では、希釈・熟成薬液槽T3aとT3bとの薬液を12時間毎に交互に用いて、一方の希釈・熟成薬液槽で、井戸水に対するポリ塩化アルミニウムの添加濃度が1.5mg/Lとなるように主ラインLmへの薬液の供給を行っている間に、他方の希釈・熟成薬液槽で、ポリ塩化アルミニウム濃度が0.2重量%となるように薬液を調整し、その後エージングさせた。(本比較例では、最短でも12時間のエージング時間が確保されている。)
【0081】
上記実施例1、及び、比較例1の処理を50時間継続して行い、50時間目の処理水(濾過器Fの出口水)の水質分析結果を表2に示す(表中、鉄の分析結果における「<0.01」は0.01mg/Lの検出下限濃度未満であったこと、マンガンの分析結果における「<0.005」は0.005mg/Lの検出下限濃度未満であったこと、をそれぞれ示す(後述する実施例2及び比較例2も同様))。
【0082】
【表2】

【0083】
実施例1では比較例1の2つの薬液槽の容量に対してそれぞれ半分の容量の希釈・熟成薬液槽T3と供給薬液槽T4を用いたにもかかわらず、処理水の水質には差がなく、本発明の効果が確認された。
【0084】
<実施例2、比較例2>
実施例2では実施例1で用いた凝集処理装置を用い、希釈・熟成薬液層T3の攪拌機M1を常にオンとし、供給薬液槽T4の採取口高さをその底部から500mmとした以外は同様にして凝集処理試験を行った。
【0085】
これに対して、比較として、図4にモデル的に示した第2案の装置を作製し、試験(比較例2)を行った。なお、希釈・熟成薬液槽T3’、供給薬液槽T4’の容量は、井戸水に対するポリ塩化アルミニウムの添加濃度を1.5mg/Lとし、井戸水に添加される希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液の濃度を0.2重量%としたときの、希釈ポリ塩化アルミニウム水溶液6時間分の消費量に等しい大きさとした。
【0086】
比較例2では、井戸水に対するポリ塩化アルミニウムの添加濃度が1.5mg/Lとなるように、供給薬液槽T4’から主ラインLmへの薬液の供給を行っている間に、希釈・熟成薬液槽T3’で、ポリ塩化アルミニウム濃度が0.2重量%となるように薬液を調整、エージング(6時間)させ、供給薬液槽T4’の薬液がなくなる寸前に希釈・熟成薬液槽T3’の薬液を、ポンプP5’を用いて供給薬液槽T4’へ移送し、以降これを繰り返して運転した。(つまり、本比較例では、エージング時間は最短の場合6時間となる。)
【0087】
上記実施例2、及び、比較例2の処理を50時間継続して行い、50時間目の処理水(濾過器Fの出口水)の水質分析結果を表3に示す。
【0088】
【表3】

【0089】
実施例2では実施例1に対して、供給薬液槽T4の採取口高さはその底部から960mmから500mmへ変更したにもかかわらず、実施例1とほぼ同等の良好な水質の処理水が得られた。
【0090】
比較例2では用いている薬液槽の容積が比較例1の薬液槽の容積の半分となり、エージング時間が6時間に半減している。その結果、処理効果が極端に低下し、良好な処理結果が得られなくなるものと考えられる。
【0091】
このように本発明によれば、それぞれの薬液槽の容量が従来設備の1/2になっているにもかかわらず、高い処理効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高濃度シリカ含有水に、調製後一定時間以上エージングを行った、所定濃度のポリ塩化アルミニウム水溶液を添加して、該高濃度シリカ含有水に含まれる被処理物質を凝集処理する凝集処理装置であって、
最高液面位置と最低液面位置とが設定された、前記ポリ塩化アルミニウム水溶液を調製し、エージングするための希釈・熟成薬液槽、
前記希釈・熟成薬液槽の前記最低液面位置より低い位置と、底部または底部近傍で送液配管により接続された供給薬液槽、及び、
前記供給薬液槽の最低液面位置と底部との中間点、または、該中間点よりも高い位置から該供給薬液槽中のポリ塩化アルミニウム水溶液を採取して前記高濃度シリカ含有水に供給するための送液手段を有することを特徴とする凝集処理装置。
【請求項2】
前記送液配管に該配管を流れる前記ポリ塩化アルミニウム水溶液の流量を調整するための流量調整弁を有することを特徴とする請求項1に記載の凝集処理装置。
【請求項3】
前記最低液面位置での前記希釈・熟成薬液槽の容量と前記最高液面位置での該希釈・熟成薬液槽の容量との平均値を100としたときに、該最低液面位置での該希釈・熟成薬液槽の容量が95以上であり、かつ、該最高液面位置での該希釈・熟成薬液槽の容量が105以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の凝集処理装置。
【請求項4】
前記希釈・熟成薬液槽に、前記ポリ塩化アルミニウム水溶液の濃度調整用の電気伝導率計を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の凝集処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の凝集処理装置の運転方法であって、前記希釈・熟成薬液槽内の前記ポリ塩化アルミニウム水溶液の液位が前記最低液面位置まで低下したときに、ポリ塩化アルミニウムと希釈水とを、該希釈・熟成薬液槽内のポリ塩化アルミニウム水溶液の濃度が前記所定濃度となり、かつ、該ポリ塩化アルミニウム水溶液の液位が前記最高液面位置に達するように、添加することを特徴とする凝集処理装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−213679(P2012−213679A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79234(P2011−79234)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000101042)アクアス株式会社 (66)
【Fターム(参考)】