説明

凝集剤の注入率を制御するための装置および方法

【課題】 時間や場所に関わらず普遍的な凝集剤の注入率の制御を可能にし、かつ、リアルタイムで凝集剤の注入率を制御することができる装置および方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 水質測定手段1で、原水の水質を測定し、水質測定値と予め定めた注入率式に基づき凝集剤の基礎注入率を算出し、凝集分析手段2で、原水に対し凝集剤を注入することにより原水中の粒子の集塊が始まるまでの時間を測定し、集塊化開始時間の測定値から凝集剤注入率の補正値を算出し、算出した凝集剤注入率を修正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水場や水処理施設における被処理原水の凝集プロセスにおいて、凝集剤の注入率を制御するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
急速ろ過方式を採用した浄水場では、一般的に凝集剤を注入するとともに急速撹拌を実施する混和池と、混和池で生成された凝集体(フロック)を成長させるフロック形成池と、成長したフロックを沈澱除去するための沈殿池と、沈澱しきらなかった粒子やフロックを除去するろ過池で構成される。
急速ろ過方式による浄水処理の重要なポイントは、原水水質に応じて凝集剤の注入率を適正な値に制御し、沈降性のよいフロックを形成することである。不適切な注入率によって凝集処理を行った場合には、沈澱池からのフロックのキャリーオーバや凝集不良により、ろ過池の損失水頭の上昇、逆洗頻度の上昇、微細粒子のろ過池からの流出などの問題が発生する。
【0003】
適正な凝集剤注入率は、原水濁度、アルカリ度、pH、水温などによって変化し、河川表流水ごとに異なるので、原水濁度のみを基にして、一義的に凝集剤注入率を決定することはできない。そのため、従来から浄水場では次のような方法で、凝集状況の判定や、凝集剤注入率の決定、あるいは制御を行っている。
【0004】
(1)ジャーテスト
処理すべき原水の一定量を幾つかのビーカーに採取し、ビーカーごとに注入率を段階的に変化させて、急速撹拌と緩速撹拌とにより凝集反応を起こし、所定の時間だけ静置させた後の上澄み水濁度やフロックの沈降状況を判定して、凝集剤注入率を決定するものである。
これらの作業は一般的に手分析で行われるが、特許文献1に記載されているように原水の採水から、凝集剤の注入や、撹拌機の回転数および回転時間の設定、上澄み水濁度の測定までを自動的に行うオートジャーテスターなるものも実用化されている。
【0005】
(2)注入率式
原水の濁度やpH、アルカリ度、水温などの水質をパラメータとして、適正な凝集剤注入率との関係を表した注入率式に基づいてフィードフォワード制御するものである。注入率式はジャーテストや実施設の沈澱水濁度などを基に経験的な方法で定められる。この方式の発展形として、沈澱水濁度の測定値に基づいたフィードバック制御の組み込みや、オペレータによるジャーテストの結果と実施施設の運用実績に近づけるようにファジーやニューロによる制御を利用する例もある。
【0006】
(3)凝集センサ
特許文献2に記載の方法のように被測定流体の流れに対して光ビームを照射し、その透過光量の平均値と標準偏差とからフロックの平均粒径と個数濃度を求めるとともに、平均粒径が適正な値となるように凝集剤注入率を制御するものである。
【0007】
このような上記の方法による凝集状況の判定方法、あるいは凝集剤注入率の決定方法には、次のような課題がある。
(1)のジャーテストによる方法は、熟練したオペレータが必要であり、さらにはオペレータによって異なる結果になりやすいという問題がある。また、凝集状況や適正な凝集剤注入率の判定にかかる時間が30分程度と長いため、頻繁なジャーテストの実施は困難であり、実施設の凝集剤注入率への反映が遅れてしまう問題がある。
ジャーテストの作業を自動化したオートジャーテスターであれば、オペレータの作業は大幅に軽減されるものの、測定結果を得るためには依然として30分程度必要であり、タイムラグが大きいという課題は解決されない。
【0008】
(2)の注入率式による方法は、原水によって注入率式が異なるので、浄水場ごとに注入率式を管理しなければならず、さらに恒久的にその注入率式を使用できる保証はない。すなわち、取水口より上流側にダムができたり、河岸工事が施工されたりした時や、豪雨の影響などにより、各水質と最適凝集剤注入率との関係は崩れてしまう恐れがあり、場所的、時間的な普遍性がないという問題がある。
【0009】
(3)の凝集センサによる方法は、適正なフロック粒径となるように凝集剤注入率をリアルタイムで自動的に管理することが可能で、(1)のオペレータの問題やタイムラグの問題、(2)の普遍性の問題を解決するものである。ただし、原水水質に応じて適正なフロック粒径は異なるものであり、凝集剤注入率の自動制御を行うためには、あらかじめ原水濁度と最適フロック粒径との関係について、データベースを作成しなければならない。すなわち、四季を通じて凝集センサによるデータを取得しなければならず、正式運用までに時間がかかるという問題がある。
また、工業用水、下水や工場廃水における凝集沈澱についても同様な課題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2−114178号明細書
【特許文献2】特許第3205450号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記問題点に鑑み、本発明は、時間や場所に関わらず普遍的な制御を可能にし、かつリアルタイムで凝集剤の注入率を制御することができる装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を達成するため、本発明は、被処理原水の凝集プロセスにおいて凝集剤の注入率を制御するための方法であって、原水の水質を測定する水質測定工程と、前記水質測定値から凝集剤の基礎注入率を算出する注入率算出工程と、前記水質測定工程とは独立して、原水に対し凝集剤を注入することにより原水中の粒子の集塊が始まるまでの時間を測定する集塊化開始時間測定工程と、前記集塊化開始時間の測定値から凝集剤注入率の補正値を算出し、前記算出した基礎注入率を修正する注入率補正工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の凝集剤の注入率制御方法は、前記水質測定工程が原水の濁度または微粒子を測定することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の凝集剤の注入率制御方法は、前記集塊化開始時間測定工程において、原水に対し注入される凝集剤が前記基礎注入率で供給されるときの集塊化開始時間を測定することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の凝集剤の注入率制御方法は、前記集塊化開始時間測定工程において、複数に区分けした原水に対してそれぞれ異なる凝集剤注入率で凝集剤が供給されるときの各集塊化開始時間を測定することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の凝集剤の注入率制御方法は、前記凝集剤注入率の補正値が、前記集塊化開始時間の測定値と予め求めたフィッティングラインとに基づいて算出されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の凝集剤の注入率制御方法は、前記フィッティングラインが、原水を複数個の試験用水槽にそれぞれ所定量採取し、前記試料水に対して、予め設定したそれぞれ異なる凝集剤注入率で凝集剤を注入する凝集剤注入工程と、凝集剤注入後、各試料水内の粒子の集塊が始まるまでの集塊開始時間を試料水ごとに測定する集塊化開始時間測定工程と各試料水ごとに測定された集塊化開始時間と、前記各凝集剤注入率とに基づいて、集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関をフィッティングラインとして算出するフィッティングライン算出工程とにより算出されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の別の態様によれば、被処理原水の凝集プロセスにおいて凝集剤の注入率を制御するための装置であって、前記装置は、原水の水質を測定する水質測定手段と、原水に凝集剤を加えて集塊化開始時間を計測する凝集分析手段と、前記水質測定手段からの水質測定値および前記凝集分析手段からの集塊化開始時間の測定値を受け取るように接続された情報処理手段とを含み、前記情報処理手段が、前記水質測定値より凝集剤の基礎注入率を算出し、前記集塊化開始時間の測定値より凝集剤注入率の補正値を算出し、かつ、前記基礎注入率と前記注入率の補正値とから凝集剤注入率を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の凝集剤の注入率決定方法によれば、原水の集塊化開始時間を直接測定することにより凝集剤注入率を補正するので、場所や時に関わらず普遍的に適正な凝集剤注入率を制御することが可能であり、かつ、注入率式に依存して凝集剤の注入率を制御するので、リアルタイムで注入率を制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の凝集剤注入率制御装置の一実施の形態を示す概略図である。
【図2】本発明の凝集剤注入率制御装置の一実施の形態における水質測定手段と凝集分析手段と内蔵シーケンサとの関係を示す概略図である。
【図3】集塊化開始時間を説明するグラフである。
【図4】凝集分析手段により算出されるフィッティングラインを示すグラフである。
【図5】従来の注入率式により算出される原水濁度と凝集剤注入率との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の凝集剤の注入率決定方法において、従来項より算出される基礎注入率とTs依存項により算出される凝集剤注入率(補正値)とを示すグラフである。
【図7】本発明の凝集剤の注入率決定方法により算出される凝集剤の注入率と従来の注入率式により算出される凝集剤の注入率とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
一般的に浄水処理場は、図1に示すように、川からの水を貯留する着水井10と、処理原水へ凝集剤を注入し、混和させる急速混和池20と、緩速撹拌により処理原水中にフロックを形成させるフロック形成池30と、懸濁物質やフロックを沈殿させる沈殿池40と、処理水をろ過するためのろ過池50とから構成されている。そして、凝集沈殿処理においては、凝集剤注入後の混和池20における急速撹拌からフロック形成池30における緩速撹拌の工程にかけて、微粒子が集塊し、フロックとして成長していく。このとき、集塊化は混和池20において始まっていることが基本であり、微粒子の集塊化開始時間は混和池20の滞留時間と同程度の時間であることが重要である。この状況においては、混和池20以降の処理が良好に行われ、結果として沈降性の高いフロックが形成され、沈殿水濁度を低減することができる。ここで、本発明では、浄水場内、あるいは取水施設において凝集剤注入率制御装置60が設置される。凝集剤注入率制御装置60は、水質測定手段1と、凝集分析手段2と、内蔵シーケンサ3とから構成される。凝集剤注入率制御装置60の水質測定手段1および凝集分析手段2は、着水井10から混和池20への配管から一部の原水を採取できるように接続されている。また、取水施設内に水質測定手段1および凝集分析手段2を設置し、取水口から着水井10への配管から一部の原水を採取してもよい。
【0023】
図2は、本発明の凝集剤の注入率制御装置60における水質測定手段1と凝集分析手段2と内蔵シーケンサ3との関係をさらに詳細に示している。図2に示すように、本発明の凝集剤の注入率制御装置60は、被処理水である原水の水質を測定する水質測定手段1と、原水の凝集開始時間を測定する凝集分析手段2と、水質測定手段1からの水質測定値と凝集分析手段2からの凝集開始時間の測定値とから凝集剤の注入率を算出する内蔵シーケンサ3とから構成されている。
【0024】
水質測定手段1は、取水口から混和池へ供給される原水の一部を採取し、原水の水質を測定する。水質の測定値は、基礎注入率を導くために用いられる。原水の水質としては、濁度や微粒子数、pH、アルカリ度、水温などの水質をパラメータとして扱うことができる。濁度を測定する手段としては、例えば、透過光方式、散乱光方式、表面散乱光方式、透過―散乱光方式のような光源からの光ビームを試料中に当て、光電変換装置を用いて濁度を測定することができる装置を使用することができる。また、原水中の微粒子数を測定する場合には、微粒子測定装置として、光遮断方式の微粒子カウンタ等を使用することができる。その他、原水の水質を測定するものとして従来使用していた装置を適用することができる。水質測定手段1により測定された原水の水質情報は、内蔵シーケンサ3へと送られる。内蔵シーケンサ3に送られる水質測定手段1からの水質情報は、内蔵シーケンサ3において注入率式に基づき基礎注入率を導くために用いられる。水質測定手段1は、リアルタイムで水質を測定し、内蔵シーケンサ3へ情報を送る。
【0025】
凝集分析手段2も、取水口から混和池へ供給される原水の一部が供給され、水質測定手段とは独立して原水の集塊化開始時間を測定する。集塊化開始時間は、凝集剤の基礎注入率の補正値を導くものとして使用される。凝集分析手段2へ原水を供給する配管は、水質測定手段1へ原水を供給する配管に接続させることもできるし、独立していてもよい。凝集分析手段2としては、例えば、特開2009−672号明細書に記載されている装置を使用することができる。特開2009−672号明細書には、所定量の原水を入れるための試験水槽と、給水ポンプと、原水および洗浄水の給排水弁と、撹拌器と、凝集剤注入部と、フロックの粒径と粒子数とを測定する検出器とで構成される凝集分析装置が開示されている。この凝集分析装置によれば、当該試験水槽に凝集剤を注入してから、撹拌によって凝集剤が分散し、粒子の集塊が始まるまでの時間(集塊化開始時間)を測定することができる。また、その集塊化開始時間と予め設定した凝集目標時間との差に応じて、凝集剤注入率を決定することもができる(集塊化開始時間測定法)。
【0026】
ここで、凝集分析手段2により測定される集塊化開始時間とは、凝集分析手段2内へ採取された原水に対してある注入率で凝集剤を注入し、撹拌により凝集剤を分散させ、粒子の集塊化が始まる時間を測定するものである。集塊化の測定は、特開2009−672号明細書に記載されているように、凝集分析手段内の検出器を用いて、微粒子カウント法、あるいは変動解析法により行われる。微粒子カウント法の場合、検出器は、試料中の粒子数および粒径を測定し、一定の粒径の粒子数が増加する時間(粒子数増加開始時間)または一定の粒径の粒子が減少する時間(粒子数減少時間)のどちらかまたは両方の平均値を集塊化開始時間とする。このとき、検出器は、ある一定の粒子径範囲ごとに粒子数の増減を測定することができ、着目する粒子径は適宜選択することができる。例えば、一定の粒径範囲の粒子数が増加する時間を測定する場合、粒子径は3〜7μmを選択し、その範囲の粒子数の増加を測定する。
一方、変動解析法の場合、検出器は、検出器内を流れる試料水に対して、少なくとも一箇所から光ビームを照射し、前方散乱光と、側方散乱光と、後方散乱光と、透過光のうち、少なくとも一つの光を光電変換器にて受光し、変換された電気信号の平均値と標準偏差とから、試料水に含まれる粒子の平均粒径と粒子数とを求める。このとき、平均粒径の増大が見られ始める時間をフロック成長開始時間とし、フロックとして計数される粒子数が増加し始める点をフロック増加開始時間として測定した際に、少なくとも一方の時間、あるいは両方の時間を演算した結果を集塊化開始時間として採用する。
【0027】
図3に、変動解析法による集塊化開始時間の測定結果のグラフを示す。図3が示すように、試料中に凝集剤を注入し撹拌すると、測定される平均粒径は時間とともに大きくなる。このとき、集塊化開始時間は、例えば図3に示すように、フロックの平均粒径の増加率が最大となった時の傾きが時間軸と交わる点における時間を集塊化開始時間とすることができる。または、フロックの形成が最大に達したとき、すなわち、平均粒径、あるいは粒子数が最大値に達したときの、例えば、10%〜50%から選択される一定の割合となる値を集塊化開始時間と設定することもでき、より好ましくは、最大値に達したときの15〜30%、最も好ましくは、最大値に達したときの20%値を超えた時点を集塊化開始時間と設定することができる。
【0028】
このようにして、凝集分析手段2により測定した集塊化開始時間の情報は、内蔵シーケンサ3へと送られる。凝集分析手段2は、10〜15分ごとに更新情報を内蔵シーケンサ3へと送る。この情報は、内蔵シーケンサ3において凝集剤の基礎注入率の補正値を導くために使用される。
【0029】
上記の凝集分析手段2によれば、実際に処理する原水を試料として集塊化開始時間をパラメータとして用いるので、従来の注入率式では考慮されていない凝集阻害物質の影響が反映され、最も適正な凝集剤注入率を算出することができる。また、ジャーテストと比較して、緩速撹拌から静置の工程が必要ないので、10〜15分程度で凝集剤注入率を自動的に決定することができる。したがって、熟練したオペレータによる作業は必要とせず、さらに、ジャーテストよりもタイムラグの少ない凝集剤注入率制御を実現することが可能である。また、凝集センサのように原水濁度と適正フロック粒径のデータベースを作成する必要がないため、凝集分析装置による凝集剤注入率制御システムは、装置設置後の比較的短期間で実運用に入ることができるという特徴がある。
【0030】
また、凝集分析手段2は、採取した原水を複数の区分に分け、それぞれの区分に異なる凝集剤注入率で凝集剤を注入し、各集塊化開始時間を測定することもできる。これにより、処理中の原水について、凝集剤注入率と集塊化開始時間との関係を示すフィッティングラインを作成することができる。図4は、上記工程により作製されたフィッティングラインの一例を示すグラフである。図4は、A〜Dの4つの区分に分けた原水に対し、異なる凝集剤注入率で凝集剤を注入したときの集塊化開始時間を測定・プロットし、フィッティングラインを作成したものである。このようなフィッティングラインを作成することにより、各実施設の目標集塊化時間から、適正な凝集剤の注入率を算出することも可能である。
【0031】
内蔵シーケンサ3は、水質測定手段1からの測定値の情報を受け取り、予め設定された注入率式に基づき、凝集剤の基礎注入率を算出する。基礎注入率の算出式(注入率式)は、当業者によりジャーテストや実施設の沈殿水濁度などを基に定めることができる。具体的には、注入率式について線形か非線形か等の形と、式で用いる変数としての水質項目とを定める。通常は式(1)の方程式を用い、変数は原水濁度とすることができる。
【数1】

次に注入率式で扱われる定数を決定する。式(1)を採用する場合、降雨時や低水温期など、様々な条件における原水に対して、ジャーテストで求めた適正注入率Pと、原水濁度の測定値TBnとを1組として、複数組のデータを式(1)に代入し、最小二乗法で解析することで定数を決定する。このとき、定数は最小二乗法による解析時に発散しないような値を初期値として代入する必要がある。また、実際の浄水場の運用データの中で、目標となる沈殿水濁度の範囲(例えば0.5〜1度)に収まった時のみのデータを抜き取って、浄水場の実際の注入率P、その時の原水濁度をTBnとして、解析することもできる。以上のようにして、定数を決めた後、方程式に定数を代入すると、注入率式が完成する。
また、基礎注入率の算出式は、本装置設置前に浄水場が運用していた注入率式を使用してもよい。
【0032】
内蔵シーケンサ3は、凝集分析手段2からの集塊化開始時間の情報を受け取り、凝集剤注入率の補正値を算出する。この補正値により凝集剤の基礎注入率を修正することで、最終的に注入率を算出する。基礎注入率はリアルタイムに更新され、また、注入率の補正値は、周期的に更新され(約10〜15分)、凝集剤注入率へと反映される。また、内蔵シーケンサ3は、補正された注入率を凝集剤の注入ポンプ等へ出力することで、凝集剤の注入率を制御する。内蔵シーケンサ3は、水質測定手段1または凝集分析手段2と一体となっていても良く、独立していてもよい。
【0033】
上記の構成によれば、先ず、取水した原水は着水井10から混和池20へと導入される一方で、その一部が凝集剤注入率制御装置60の水質測定手段1および凝集分析手段2へと導入される。水質測定手段1において原水の水質が測定され、その測定情報が内蔵シーケンサ3へと伝えられる。内蔵シーケンサ3では、水質測定手段1より送られた情報と注入率式とに基づいて凝集剤の基礎注入率を算出する。また、所定の凝集剤注入率における原水の集塊化開始時間が凝集分析手段2により測定され、その測定情報が内蔵シーケンサ3へと伝えられる。ここで、所定の凝集剤注入率は、予め定められた固定値とするか、基本注入率式で求められた基礎注入率(変動値)とする。なお、所定の凝集剤注入率を変動値として扱う場合には、基礎注入率において実際に集塊化開始時間を測定した結果を所定の凝集剤注入率における集塊化開始時間としてよいし、前記の凝集剤注入率と集塊化開始時間との関係を示すフィッティングラインと所定の凝集剤注入率とから所定の凝集剤注入率における集塊化開始時間を求めてもよい。
【0034】
内蔵シーケンサ3は凝集分析手段2より送られた情報から凝集剤注入率の補正値を算出し、凝集剤の基礎注入率は、この補正値により周期的に修正される。
このように、注入率のパラメータとして、集塊化開始時間を用いることで、注入率式による制御の場所的、時間的普遍性がないという欠点を補い、凝集分析装置の集塊化開始時間測定法の制御周期を短くすることが可能である。以下、さらに詳細に凝集剤注入率の算出方法を記述する。
【0035】
一般的な水質測定手段1の測定値より注入率pを導くための注入率式(基本注入率式)は、水質測定手段1により測定される濁度をパラメータとして、例えば式(1)のように表される。
【数2】

ここで、C、A、bは定数、Tは原水濁度である。なお、水温区分によって、各係数を変更したり、式(1)に水温の項を追加したりする例もある。
このとき、原水濁度や水温は、凝集剤注入点よりも前段階で採水した試料水に対して、秒単位以下の周期で測定が可能であるから、式(1)等の注入率式による制御は、連続的なフィードフォワード制御となる。先に述べたように、この注入率式は、場所的、時間的普遍性がなく、浄水場によって式の構造自体が異なっていたり、同じ河川から取水する浄水場であっても場所によって異なる係数を用いたりする場合が多い。また、雨の降り始めや降り終わり、季節等によって、複数の式を用いる場合もある。
【0036】
本発明では、水質測定値と注入率式により導かれる基礎注入率に対して、凝集分析手段2より測定した集塊化開始時間をパラメータとして加える。例えば、式(1)に適用するならば、式(2)のようになる。
【数3】

ここで、pは注入率であり、c、a、bは従来の注入率式に関わる定数、a、bは所定の凝集剤注入率における集塊化開始時間Tに関わる定数であり、bは負の値になるのが通常である。ここで、所定の凝集剤注入率として、従来の注入率式、例えば式(1)によって決められた基礎注入率を採用してもよい。また、所定の凝集剤注入率における集塊化開始時間Tには、基礎注入率において実際に集塊化開始時間を測定した結果を所定の凝集剤注入率における集塊化開始時間としてよいし、前記の凝集剤注入率と集塊化開始時間との関係を示すフィッティングラインと所定の凝集剤注入率とから所定の凝集剤注入率における集塊化開始時間を求めてもよい。
【0037】
また、次のように、複数の凝集剤注入率における集塊化開始時間を用いる場合、式(2)は、以下の式(3)のようになる。
【数4】

ここで、iは凝集剤注入率の番号(例えば、i=1:凝集剤注入率15mg/L、i=2:20mg/L、i=3:30mg/L、i=4:50mg/L)、TSiは注入率iにおける集塊化開始時間である。
なお、式(2)、(3)は、基本注入率式(1)に対して、集塊化開始時間をパラメータとして追加されているが、基本注入率式(1)とは異なる実際に運用している注入率式に対して、集塊化開始時間をパラメータとして追加してもよい。
【0038】
また、式(2)、(3)の変形例として、以下のようにTにT−TKl、あるいはTSiにTSi−TKiを代入してもよい。ここで、TKiは、目標集塊化時間である。目標集塊化時間は、混和池の滞留時間等を目安に決定される時間である。
【数5】

【数6】

式(2)および(3)は、測定された集塊化開始時間に係数を乗じているが、式(4)、(5)は測定された集塊化開始時間と目標集塊時間との差に対して係数を乗じており、目標集塊時間より集塊化開始時間の方が長い場合には、凝集剤注入率は増える方向に補正され、目標集塊時間より、集塊化開始時間の方が短ければ、凝集剤注入率は減らす方向に補正される。
【0039】
このように、本願の凝集剤の注入率を制御するための方法は、注入率式へ原水の濁度のみ、あるいは水温、色度等を変数として代入することにより基礎注入率を導き、求めた基礎注入率を集塊化開始時間Tにより補正するものである。
上述したように、基礎注入率(mg/L)は、最小二乗法により得られる定数と濁度(度)等から注入率式により導かれる。しかしながら、実際には、同じ濁度、水温や色度であっても、微粒子の粒度分布の違い(小さい粒子が多いほど適正注入率は若干高くなる)や、特定の溶解成分や藻類などの凝集阻害物質の濃度により、適正な注入率は影響を受ける。すなわち、注入率式では採用する変数(例えば濁度)以外の影響が考慮されず、原水本来の適正な注入率を算出するには過不足が生じてしまう。
【0040】
ここで、本願で使用する集塊化開始時間Tは、濁度、水温、色度だけでなく、上記の適正注入率を変動させる要因の影響も含んだ形で変動する。すなわち、様々な原水の水質項目全体をブラックボックス的に捉え、Tが長ければ、あるいはTが目標集塊時間と比較して長ければ、より凝集剤が必要であるということを示すことができる。
よって、注入率式で算出される基礎注入率は、上述したように、採用した変数(例えば濁度)以外の凝集阻害要因の影響が無視され、適正注入率に対してバラツキを生じるが、Tを補正値として加えた補正後の注入率では、実際の原水における適正注入率との差をさらに小さくすることができる。
【実施例1】
【0041】
所定の凝集剤注入率における集塊化開始時間を利用して注入率を演算する実施例を説明する。水質測定手段1は、図1に示すように原水濁度計からの濁度出力(アナログ信号)を入力する機能を併せ持っており、内蔵シーケンサ3によって、従来の注入率式を用いた凝集剤の基礎注入率の演算と補正値の算出による最終的な注入率の演算等を行うことが可能となっている。
【0042】
図5は河川表流水を対象とした原水濁度の変化、及び従来の基本注入率式で演算された凝集剤注入率を示しており、原水水質の変化が比較的大きかった期間を抜き取っている。ここで、従来方式(基本注入率式)の注入率は、原水濁度の測定値、および係数C=10、A=5、b=0.5を式(1)に代入することで得ている。
【0043】
次に、従来方式によって演算された注入率で測定された集塊化開始時間Tと、その結果から式(2)中におけるT依存項式(6)(補正値)を計算した値とを表1に示す。
【数7】

ここで、T依存項の係数はa=10000、b=−2を使用している。
【0044】
図6は、式(2)の従来項式(7)(基礎注入率)と表1に記したT依存項の変化を示している。
【数8】

ここで、従来項の係数としては、C=2、a=5、b=0.5を用いている。なお、従来項は1分周期で更新されているが、Tは15分周期で測定されるため、T依存項も15分周期で更新される。
【0045】
図7は、従来の注入率方式で演算された凝集剤注入率と本発明の式(2)で演算された凝集剤注入率、すなわち従来項(基礎注入率)とTs依存項(補正値)の合算値の変化を示している。ここで、式(2)の従来項は1分周期で演算しているが、T依存項は最新値に更新されるまでは、前回演算値を保持する。同図にみられるように、本発明で得られた注入率の方が濁度上昇時には、従来方式より高い値となるが、濁度が安定する方向にあるときは、従来方式より低い値となった。特に濁度が安定傾向にあるときの従来方式は、ろ過水のアルミニウムの測定結果から、過剰注入であることが分かっており、注入率式の係数を決めた数年前と比較して、係数にずれが生じていると予想される。
【0046】
次に、一ヶ月間にわたって、従来の注入率式と本発明の方式を比較したところ、月間の平均注入率は従来方式が25mg/Lであったのに対し、本発明の方式の場合には、22mg/Lであり、平均で3mg/L削減された。
このように、本発明による凝集剤注入率の適正化により、凝集剤使用量を削減することができる。また、本発明の方式では、従来の注入率式では表れない藻類やその他の凝集阻害物質の量に応じて、T依存項による補正が入り、注入率は増加するので、より安全な注入率制御が可能となる。
【0047】
本発明によれば、従来の注入率式に対して、より短い周期(本実施例では1分)で注入率制御が可能となり、かつ、適正な注入率の管理も可能となる。
なお、本実施例では、式(2)による注入率演算を行っているが、複数の集塊化開始時間を用いる式(3)、測定された集塊化開始時間と目標集塊時間との差分値を用いる式(4)、複数の集塊化開始時間と複数の差分値を用いる式(5)によって注入率を演算してもよい。
【0048】
また、本実施例では、従来の注入率式、及び本発明の従来項において、原水濁度のみをパラメータとして用いているが、その他の水質、例えば水温や色度などをパラメータとして用いることも可能である。その際、それら水質はアナログ信号として入力する方法以外に、RS485など他の通信方式を用いてもよい。なお、原水濁度やその他の水質は、凝集分析手段にその測定機能を組み込むことも可能である。
また、本実施例では凝集分析装置内蔵のシーケンサ3により、注入率の演算を行っているが、凝集分析装置の上位側にパソコン等を接続し、パソコンにて従来の注入率式による注入率演算、及び本発明の注入率の演算を行ってもよい。その際、原水濁度等の水質情報と、集塊化開始時間をパソコンに入力する機能と、パソコンから凝集分析装置に向けて、集塊化開始時間を測定する際の凝集剤注入率を出力する機能を設ける必要がある。これらの内容は、式(3)、(4)、(5)用いた場合も同様に当てはまる。
【0049】
【表1】

【符号の説明】
【0050】
1 水質測定手段
2 凝集分析手段
3 内蔵シーケンサ
10 着水井
20 急速混和池
30 フロック形成池
40 沈殿池
50 ろ過池
60 凝集剤注入率制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理原水の凝集プロセスにおいて凝集剤の注入率を制御するための方法であって、
原水の水質を測定する水質測定工程と、
前記水質測定値から凝集剤の基礎注入率を算出する注入率算出工程と、
前記水質測定工程とは独立して、原水に対し凝集剤を注入することにより原水中の粒子の集塊が始まるまでの時間を測定する集塊化開始時間測定工程と、
前記集塊化開始時間の測定値から凝集剤注入率の補正値を算出し、前記算出した基礎注入率を修正する注入率補正工程と
を含む凝集剤の注入率制御方法。
【請求項2】
前記水質測定工程が原水の濁度または微粒子を測定する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記集塊化開始時間測定工程が、原水に対し注入される凝集剤が前記基礎注入率で供給されるときの集塊化開始時間を測定する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記集塊化開始時間測定工程が、複数に区分けした原水に対してそれぞれ異なる凝集剤注入率で凝集剤が供給されるときの各集塊化開始時間を測定する請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記凝集剤注入率の補正値が、前記集塊化開始時間の測定値と予め求めたフィッティングラインとに基づいて算出される請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記フィッティングラインが、
原水を複数個の試験用水槽にそれぞれ所定量採取し、前記試料水に対して、予め設定したそれぞれ異なる凝集剤注入率で凝集剤を注入する凝集剤注入工程と、
凝集剤注入後、各試料水内の粒子の集塊が始まるまでの集塊開始時間を試料水ごとに測定する集塊化開始時間測定工程と
各試料水ごとに測定された集塊化開始時間と、前記各凝集剤注入率とに基づいて、集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関をフィッティングラインとして算出するフィッティングライン算出工程と
により算出される請求項1〜5に記載の方法。
【請求項7】
被処理原水の凝集プロセスにおいて凝集剤の注入率を制御するための装置であって、前記装置は、
原水の水質を測定する水質測定手段と、
原水に凝集剤を加えたて集塊化開始時間を計測する凝集分析手段と、
前記水質測定手段からの水質測定値および前記凝集分析手段からの集塊化開始時間の測定値を受け取るように接続された情報処理手段とを含み、
前記情報処理手段が、前記水質測定値より凝集剤の基礎注入率を算出し、前記集塊化開始時間の測定値より凝集剤注入率の補正値を算出し、かつ、前記基礎注入率と前記注入率の補正値とから凝集剤注入率を算出する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−11107(P2011−11107A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155111(P2009−155111)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】