説明

凝集剤の添加量決定方法及び水処理装置

【課題】膜分離装置の分離膜の処理性能が低下する前に、凝集処理条件が適正であることを判別することができ、凝集剤の適切な添加量を決定して安定した水処理を行うことのできる凝集剤の添加量決定方法を提供する。
【解決手段】分離膜を備える膜分離装置に供給される被処理水に凝集剤を添加して凝集処理を行う水処理における凝集剤の添加量決定方法であって、凝集処理を行った被処理水を限外濾過膜で濃縮処理する濃縮処理工程(S3)と、濃縮処理工程で得られた濃縮水に含まれる有機物の濃度を測定する濃度測定工程(S4)と、測定された有機物濃度に基づいて、被処理水へ添加する凝集剤の添加量を決定する添加量決定工程(S5)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集剤の添加量決定方法及び水処理装置に係り、詳しくは水溶性有機物が含まれる工業排水、河川水、湖沼水等の被処理水に添加する凝集剤の添加量の決定方法及びこのような方法を使用して水溶性有機物を凝集処理する水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
河川水、湖沼水、または海水等の天然水や工業排水を原水として、逆浸透膜(以下、RO膜という)による膜分離方法により、純水や超純水を製造することが従来から行われている。これらの原水には、様々な懸濁物質や無機イオン成分だけでなく、水溶性の有機物が多く含まれている。水溶性の有機物として、例えば天然水中に存在するフミン酸やフルボ酸、藻類等が生成する単糖、多糖類、糖タンパク等の天然有機物や、工業排水の排水処理で行われる活性汚泥処理によって生成する多糖類やタンパク質等の微生物代謝物、及び界面活性剤等の合成化学物質等が挙げられる。このような有機物が存在する工業排水や天然水を原水としてRO膜を使用して濾過すると、RO膜が有機物で汚染され、RO膜の膜分離性能が低下するという問題が生じてしまう。
【0003】
RO膜の濾過性能に影響する物質を検討したところ、分子量が数千以上の高分子、特に多糖類、糖タンパクであることが判ってきた。このような高分子は、原水中の存在量が微量であってもRO膜を汚染し、膜分離性能を低下させてしまうため、このような高分子を含む原水をRO膜に通水する前に、凝集剤により凝集処理する必要がある。ところで、凝集剤の添加量が少ないと膜を汚染させる有機物を十分に除去することができず、添加量が多すぎると経済的に不利なほか、凝集剤自体が膜を汚染させることもある。従って、凝集剤の適正な添加量を決定するための種々の方法が提案されている。
【0004】
このような方法として、例えば、被処理水に存在する有機物濃度を紫外線吸収で測定する方法(特許文献1参照)、原水の糖濃度を測定して添加する凝集剤の量を制御する方法(特許文献2参照)や、原水中の有機物を分子量に応じて複数の群に分画して有機物濃度を測定し、有機物濃度に応じて凝集剤の添加量を制御する方法(特許文献3)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−245078号公報
【特許文献2】特開2008−68199号公報
【特許文献3】特開2008−68200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1、2では、原水中に存在する有機物の量が微量である場合、精度よく有機物の濃度を測定することができないため好ましくない。また、上記特許文献3に開示された方法では、求めた処理条件が適正か否かを判別するために、膜処理装置におけるフラックス、脱塩率、膜間差圧、回収率等の測定をして判断しており、RO膜の濾過性能が悪化する前に適正処理されているか否かを判定できていない。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、膜分離装置の分離膜の処理性能が低下する前に、凝集処理条件が適正であることを判別することができ、凝集剤の添加量を適正なものとすることで安定した水処理を行うことのできる凝集剤の添加量決定方法及びこの方法を使用する水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するべく、請求項1の凝集剤の添加量決定方法は、分離膜を備える膜分離装置に供給される被処理水に凝集剤を添加して凝集処理を行う水処理における凝集剤の添加量決定方法であって、前記凝集処理を行った被処理水を限外濾過膜で濃縮処理する濃縮処理工程と、該濃縮処理工程で得られた濃縮水に含まれる有機物の濃度を測定する濃度測定工程と、測定された有機物濃度に基づいて、被処理水へ添加する凝集剤の添加量を決定する添加量決定工程とを有することを特徴とする。
【0009】
請求項2の凝集剤の添加量決定方法では、請求項1において、前記有機物濃度は、糖濃度であることを特徴とする。
【0010】
請求項3の水処理装置は、分離膜を備える膜分離装置に供給される被処理水に凝集剤を添加して凝集処理を行う水処理装置であって、前記凝集処理を行った被処理水を限外濾過膜で濃縮処理する濃縮処理手段と、濃縮処理された濃縮水に存在する有機物濃度を測定する濃度測定手段と、測定された有機物濃度に基づいて、被処理水へ添加する凝集剤の添加量を制御する添加量制御手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
請求項4の水処理装置では、請求項3において、前記有機物濃度は、糖濃度であることを特徴とする。
【0012】
請求項5の水処理装置では、請求項3または4において、前記限外濾過膜の分画分子量は、5000以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の凝集剤の添加量決定方法によれば、凝集処理を行った被処理水を限外濾過膜で濾過し、得られた濃縮水から測定された有機物濃度に基づいて、膜分離装置に被処理水を供給する前に、被処理水が膜分離装置に供給される水として適切に凝集処理されているか否かを判断することができる。また、被処理水に添加する凝集剤の添加量が求められ、適切な凝集処理を行うことが可能となり、膜分離装置に設けられている分離膜の汚染を抑制することができ、膜洗浄を行う頻度を低減することができ、安定して膜分離装置を運転することができる。
【0014】
請求項2の凝集剤の添加量決定方法によれば、有機物濃度は糖濃度であるので、高分子の有機物の濃度を測定することができ、測定した糖濃度から濃縮水中に含まれる糖成分を凝集するために必要な凝集剤の添加量を求めることができ、膜分離装置に設けられている分離膜の汚染を抑制することができる。
【0015】
請求項3の水処理装置によれば、凝集処理を行った被処理水を限外濾過膜で濾過し、得られた濃縮水から測定された有機物濃度に基づき、膜分離装置に被処理水を供給する前に、被処理水が膜分離装置に供給される水として適切に凝集処理されているかを判断することができる。また、被処理水に添加する凝集剤の添加量が求められ、凝集剤の添加量が制御されるので、膜分離装置に設けられている分離膜の汚染が抑制され、安定して膜分離装置を運転することができる。
【0016】
請求項4の水処理装置によれば、有機物濃度は糖濃度であるので、有機物の中でも高分子の有機物の濃度を測定することができ、濃縮水中に含まれる糖成分を凝集するために必要な凝集剤の添加量を求めることができ、膜分離装置に設けられている分離膜の汚染を抑制することができる。
【0017】
請求項5の水処理装置によれば、分画分子量が5000以上の限外濾過膜を使用するので、有機物の中でも分子量の大きい高分子の有機物が濃縮され、濃縮水中の有機物の濃度を測定することで、高分子の有機物を凝集処理するための適切な凝集剤の添加量を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る水処理装置の概略図である。
【図2】残留濃度測定装置の概略図である。
【図3】図2に示す限外濾過器の縦断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る水処理方法を示すフローチャートである。
【図5】図4に示した水処理方法の変形例を示すフローチャートである。
【図6】実施例1で測定した有機物濃度の結果を示す表である。
【図7】実施例2で測定した有機物濃度の結果を示す表である。
【図8】実施例1、2で得られたTOC及びRO膜のフラックスの関係を表すグラフである。
【図9】実施例3で測定した糖濃度の結果を示す表である。
【図10】実施例4で測定した糖濃度の結果を示す表である。
【図11】実施例3、4で得られた糖濃度及びRO膜のフラックスの関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の凝集剤の添加量決定方法及び水処理装置の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
(水処理装置)
図1に、本発明に係る水処理装置1の概略図を示す。図1に示すように、水処理装置1は、凝集固液分離装置10と膜分離装置40とを備える。凝集固液分離装置10は、被処理水を導入する被処理水貯槽12を有している。被処理水貯槽12から被処理水が供給される撹拌槽14には、凝集剤貯槽16から所定量の凝集剤がポンプ18を介して供給される。撹拌槽14からポンプ32を介して固液分離装置34へ被処理水が供給される。固液分離装置34から、前処理された被処理水が膜分離装置40へ供給される。また、固液分離装置34から一部の被処理水が、有機物の残留濃度を測定する残留濃度測定装置36に供給される。ポンプ18、24、26、32、pHセンサ30、及び残留濃度測定装置36と、CPUやメモリ等からなる制御部(添加量制御手段)38とは電気的に接続されている。
【0021】
被処理水貯槽12に導入される被処理水として、例えば工業用水、河川水、湖沼水、海水、井水、市水、工業排水、農業排水等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
撹拌槽14には、被処理水貯槽12から被処理水が供給され、制御部38からの制御信号に基づいて、凝集剤貯槽16から所定量の凝集剤がポンプ18を介して撹拌槽14内の被処理水に添加される。供給される凝集剤の添加量は、後述するように、残留濃度測定装置36で検出した有機物濃度に応じて制御部38で制御される。
【0023】
凝集剤貯槽16から被処理水に添加される凝集剤として、無機凝集剤や高分子凝集剤等が挙げられる。無機凝集剤として、例えば、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等のアルミニウム塩、塩化第2鉄、硫化第1鉄等の鉄塩等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0024】
また、高分子凝集剤は、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、またはノニオン性ポリマーから選択される。カチオン性ポリマーとして、例えば、一級アミン、二級アミン、三級アミン、及びそれらの酸塩、四級アンモニウム基等の官能基を有するカチオン性モノマーまたはアリルモノマーの単独重合体、または、これらと共重合可能なビニルモノマーまたはアニオン性アリルモノマーとの共重合体等が挙げられる。カチオン性モノマーとして、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの酸塩またはその4級アンモニウム塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの酸塩またはその4級アンモニウム塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ビニルアニリン等が挙げられる。このようなカチオン性モノマーと共重合可能なアニオン性モノマーまたはノニオン性モノマーとの共重合体としてもよい。
【0025】
ノニオン性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、スチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。このようなモノマーは単体で使用してもよいし、複数組み合わせて併用してもよい。この他に、カチオン性ポリマーとして、ジアルキルアミンとエピクロルヒドリンとの共重合体、ポリエチレンイミン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドをモノマーとするポリマーの加水分解物、ポリアクリルアミドのホフマン分解物、ポリアクリルアミドのマンニッヒ変性物等が挙げられる。
【0026】
アニオン性ポリマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、またはそれらのアルカリ金属塩の単独重合体若しくは共重合可能なモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0027】
ノニオン性ポリマーとして、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等の単独重合体または共重合可能なモノマーとの共重合体等、フェノール、カテコール、クレゾールをモノマー単位とするノボラック樹脂、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られるポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0028】
このような無機凝集剤や高分子凝集剤の添加は、それぞれ単独で使用してもよく、2つ以上を組み合わせて任意の比率で併用してもよい。無機凝集剤及び高分子凝集剤を併用する場合、添加する順番に制限はない。このような無機凝集剤や高分子凝集剤の添加は、膜分離装置40の膜分離処理の前までに行えばよいが、本実施形態のように固液分離装置34を有する場合には、固液分離装置34の前段で添加される。撹拌槽14に添加された凝集剤は、撹拌槽14で被処理水と共に撹拌機28で撹拌されて凝集処理される。
【0029】
撹拌槽14内の被処理水のpHを調整するためのpH調整剤として、酸貯槽20及びアルカリ貯槽22が備えられている。酸貯槽20及びアルカリ貯槽22から、ポンプ24、26を介して制御部38からの制御信号に基づいて撹拌槽14内の被処理水が所定のpHとなるように、所定量の酸及びアルカリのいずれかが撹拌槽14に添加される。添加されたpH調整剤及び凝集剤は、撹拌槽14に設けられた攪拌機28で被処理水と共に撹拌され、凝集処理された被処理水となる。撹拌槽14内に設けられたpHセンサ30は、撹拌槽14内の被処理水のpHを測定して制御部38へ通知する。制御部38は、撹拌槽14内のpHが5.0〜7.0となるように、酸貯槽20及びアルカリ貯槽22のいずれかから添加されるpH調整剤の添加量を制御する。
【0030】
撹拌槽14で凝集処理された被処理水は、固液分離装置34へ導入される。固液分離装置34には、図示しないが分離膜が設けられており、分離膜を介して凝集処理された被処理水に含まれるフロック等が除去される。固液分離装置34で使用される分離膜として、精密濾過膜、限外濾過膜、ナノ濾過膜等が挙げられる。なお、本実施形態では、固液分離装置34として精密濾過膜等を用いた膜分離装置が例示されているが、これに限られず水処理として固液分離に用いられているものであれば使用することができ、例えば、沈殿分離装置、加圧浮上装置、濾過装置等を単独で、或いは組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0031】
固液分離装置34で分離された被処理水(即ち、凝集フロックが分離された清澄水)は、膜分離装置40へ供給されると共に、その一部が残留濃度測定装置36へ供給される。残留濃度測定装置36への被処理水は、配管のサンプリング口から供給されるようにしてもよいし、図示しないがポンプを使用して供給されるようにしてもよい。
【0032】
詳しくは、図2に残留濃度測定装置36の概略図を示す。図2に示すように、ポンプ42を介して限外濾過器(濃縮処理手段)44へ被処理水が供給される。限外濾過器44は、容器46と蓋体48とから構成されており、容器46及び蓋体48のフランジ部は挟持体50、50で挟持されている。限外濾過器44はスターラー52の上に備えられており、後述する撹拌子を使用して被処理水を撹拌する。限外濾過器44で得られた濃縮水は、有機物の濃度を測定するための測定センサ(濃度測定手段)53に導入される。この測定センサ53は制御部38と電気的に接続され、測定センサ53で濃縮水に含まれる有機物濃度または糖濃度の測定を行い、制御部38に通知する。なお、残留濃度測定装置36は、クロスフロー方式である。
【0033】
図3に図2の縦断面図を示すように、容器46には撹拌子54が入れられており、スターラー52で撹拌子54の回転速度を調整し、限外濾過器44に供給される被処理水を撹拌する。限外濾過器44に供給された被処理水は、限外濾過膜(以下、UF膜という)56で濾過され、透水性を有する焼結多孔板58を介して透過水が精製される。UF膜56として、分画分子量5000以上、好ましくは分画分子量10000以上であって、分画分子量50000以下、好ましくは分画分子量30000以下の濾過膜を使用する。分画分子量が小さくなりすぎると膜分離にあまり影響を及ぼさない低分子量の有機物の濃度も含めて測定されることとなり、逆に分画分子量が大きくなりすぎると測定対象の有機物まで除去されてしまうためである。
【0034】
一方、UF膜56を通過できない物質が濃縮された濃縮水は容器46内に貯まる。限外濾過器44で得られる濃縮水は、後述する有機物濃度測定で使用するため、限外濾過器44に供給される被処理水を10倍以上濃縮した濃縮水であることが好ましい。一方、濃縮水に含まれる糖濃度を測定するためには、100倍以上濃縮した濃縮水であることが好ましい。
【0035】
濃縮水に含まれる有機物濃度を測定する測定センサ53として、全有機炭素濃度測定、糖濃度測定、COD測定等から選択されるが、これらに限定されるものではない。全有機炭素濃度として、主にTOC計が使用される。
【0036】
濃縮水に含まれる糖濃度の測定として、糖分析に使用されるフェノール硫酸法が一般的に用いられている。他にも、中性多糖を分析するアントロン硫酸法、酸性多糖を分析するカルバゾール硫酸法等が挙げられる。また、濃縮水中に含まれる糖を酸で加水分解してグルコース単位の単糖にすることにより、高速液体クロマトグラフィーを使用しての分析や、尿糖検査キットを使用して分析することができる。
【0037】
また、加水分解した単糖に対し、試験紙を使用して、反射式光度計による簡易化学分析機器を使用して糖濃度を測定することもできる。例えば、メルク製RQフレックス用の試験紙が挙げられる。これは、酸処理水のpHを中性に戻し、中性に戻した酸処理水に試験紙を浸してRQフレックスの測定操作に従って糖濃度を測定するものである。詳しくは、試験紙をpHで中性に戻した酸処理水に浸し、RQフレックスの測定操作に従って糖濃度を測定する。糖濃度の測定に必要な濃縮水量は2〜3ml程度である。このように糖濃度を測定するのは、高分子領域の有機成分が、主に多糖若しくは糖タンパクで構成されるため、糖分析をすることによって高分子領域の有機成分濃度を知ることができるからである。なお、糖濃度の測定は、上述した方法に限られない。
【0038】
COD測定として、CODクロムやCODマンガン測定を行って有機物濃度を測定することができる。上述した全有機炭素濃度測定、糖濃度測定、COD測定の他に、有機物濃度を定量的に測定することができる紫外線吸収スペクトルや、高速液体クロマトグラフィー等を使用することもできるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
固液分離装置34から被処理水が導入される膜分離装置40には、RO膜が設けられており、RO膜を介して被処理水が濾過され、透過水が精製される。
【0040】
(凝集剤の添加量決定方法)
このように構成された凝集固液分離装置10を含む本発明に係る水処理装置1を用いた凝集剤の添加量決定方法ついて、図4に示すフローチャートに基づいて以下に説明する。本フローチャートは、制御部38によって行われる。
【0041】
ステップS1では、撹拌槽14内の被処理水に所定量の凝集剤を添加して、被処理水を凝集処理する。ステップS2では、凝集処理後の被処理水を固液分離装置34へ導入して濾過する。ステップS3では、固液分離装置34で濾過した被処理水を限外濾過器44に導入し、UF膜で濾過して被処理水の濃縮処理を行う(濃縮処理工程)。
【0042】
続くステップS4では、上記ステップS3の濃縮処理で得られた濃縮水の濃度が規定値以上、即ち固液分離装置34で濾過された被処理水と比較して10倍以上濃縮されたら、濃縮水に含まれる有機物濃度をTOC計を使用して測定する(濃度測定工程)。ステップS5では、上記ステップS4で測定された有機物濃度から、撹拌槽14に添加する凝集剤の添加量を決定する(添加量決定工程)。撹拌槽14に添加する凝集剤の添加量は、例えば制御部38に予め登録されている有機物濃度、即ちTOCと凝集剤の添加量との関係を表すマップ等から求めてもよいが、これに限られない。ステップS6では、上記ステップS5で決定した添加量の凝集剤を、撹拌槽14の被処理水に添加する。
【0043】
このように、本実施形態では、膜分離装置40で膜分離処理を行う前に、無機凝集剤や高分子凝集剤等の凝集剤を被処理水に添加し、凝集処理された被処理水の一部を限外濾過器44に通水して得られた濃縮水に含まれる有機物濃度を測定することにより、現状の凝集剤の添加量が、撹拌槽14の被処理水に含まれる有機物を凝集処理するために適切な量であるか否かを判断して適切な添加量を決定することができ、その決定に基づいて凝集剤の添加量を増減することができる。これにより、膜分離装置40で濾過した被処理水の精製結果から凝集剤の添加量が適切な量であるか否かを判断する必要はなくなり、膜分離装置40へ供給するのに適した被処理水を供給することができる。また、膜分離装置40に設けられているRO膜の有機物による汚染が抑制されるので、安定して膜分離装置40を運転させることができる。
【0044】
(凝集剤の添加量決定方法の変形例)
水処理装置1の凝集剤の添加量決定方法に関する変形例について、図5に示すフローチャートに基づいて以下に説明する。なお、本フローチャートは、図4に示した水処理方法とステップS1〜S3、S6が共通しているので、共通箇所の説明は省略し、相違点についてのみ説明する。
【0045】
ステップS41では、上記ステップS3の濃縮処理で得られた濃縮水の糖濃度を測定する(濃度測定工程)。糖濃度の測定は、上述したようなフェノール硫酸法で行ってもよいが、試験紙を使用して行う場合は、前処理として濃縮水の酸加水分解を行う必要がある。これは、糖濃度を測定する試験紙は、グルコースやフルクトース等の単糖を測定するものであるため、濃縮水中に含まれる多糖を酸で加水分解して単糖にする必要があるからである。濃縮水を酸加水分解する方法として、例えば、上記ステップS3で得られた濃縮水1mlに対し、2N塩酸または2N硫酸を0.5ml試験管に入れて混合し、80℃以上で水浴、またはヒータで10分間加熱して、2N水酸化ナトリウムを0.5ml添加して中和する方法がある。このようにして処理された濃縮水の糖濃度を測定する。
【0046】
続くステップS51では、上記ステップS41で測定した糖濃度から、撹拌槽14に添加する凝集剤の添加量を決定する(添加量決定工程)。撹拌槽14に添加する凝集剤の添加量は、例えば制御部38に予め登録されている糖濃度と凝集剤の添加量との関係を表すマップ等から求めてもよいが、これに限られない。
【0047】
このように、限外濾過器44で処理された濃縮水に含まれる糖濃度を測定し、測定された糖濃度から撹拌槽14の被処理水に添加する凝集剤の添加量を決定することにより、上記と同様の効果を得ることができる。
【0048】
なお、上述した実施形態では、水処理装置1は凝集固液分離装置10と膜分離装置40を有しているとしたが、さらに他の装置及び工程を備えていてもよく、例えば、膜分離装置40の前段までに行う前処理や、膜分離装置40の後段に行う後処理としてイオン交換処理などの脱イオン処理、脱炭素処理、活性炭処理等の被処理水の精製処理をさらに行ってもよい。また、必要に応じて、殺菌剤、消臭剤、消泡剤、防食剤等を添加してもよいし紫外線照射、オゾン処理、生物処理等を併用してもよい。
【0049】
また、上述した実施形態では、凝集剤はポンプ18を介して撹拌槽14に添加されているが、凝集剤は、被処理水が流れる配管にライン注入して添加するようにしてもよい。
【0050】
また、上述した実施形態では、凝集固液分離装置10に固液分離装置34を含める構成としたが、固液分離装置34はなくてもよく、撹拌槽14で凝集処理された被処理水の一部をポンプで採取し、No5A濾紙で被処理水を濾過した後に残留濃度測定装置36へ導入するようにしてもよい。
【0051】
また、上述した実施形態では、制御部38での制御によって自動で凝集剤の添加量を決定するものとしたが、固液分離装置34からの分離水を配管に設けたサンプリング口等から採取し、図4に示したフローチャートのステップS3〜S5を手動で行い、凝集剤の添加量を手動で設定するようにしてもよい。さらに、後述する実施例で示されるように、机上試験で凝集剤の添加量を決定し、机上試験によって求めた凝集剤の添加量を実際の水処理系、例えば水処理装置での添加量として採用するようにしてもよい。
【実施例】
【0052】
以下に示す実施例に従って、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
<実施例1>
被処理水として、湖沼水を水源とする工業用水1000mlを入れたビーカー4個をジャーテスターに設置し、各ビーカーに凝集剤としてポリ塩化アルミニウム(以下、PACという)(10重量%)をそれぞれ5、10、30、50mlを添加して5%水酸化ナトリウム水溶液でpHを6.5に調整した後、170rpmで3分間撹拌し、50rpmで5分間撹拌した。その後、フロック粒子径を確認した。なお、使用した工業用水の水質は、電気伝導率が35mS/m、pH6.8,TOCが1.2mg/lであった。
【0054】
No5A濾紙を使用して各処理水全量を濾過し、得られた濾液を限外濾過装置(アドバンテック製UF濾過ホルダー)に設けられた分画分子量30000のUF膜に通水し、濃縮倍数が濾液の約10倍となるように調整し、濃縮水を得た。ここで、UF濾過に使用した被処理水量(Aml)及び濃縮水の水量(Bml)を正確に測定した。また、濃縮水のTOC測定(Cmg/l)を行った。これらの結果に基づいて、被処理水中の分子量30000以上の有機物のTOC30000を、式(1)から求めた。
【0055】
TOC30000=B/A×C ・・・(1)
【0056】
次に、上記と同様に被処理水として工業用水2Lをプラスチック容器に入れ、凝集剤としてPACを5mg/L添加し、スターラーで撹拌しながら5%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH6.5に調整し、170rpmで3分間撹拌した後、50rpmで5分間撹拌した。同様の操作を、PACの添加量10、30、50mg/Lと変えて凝集処理した。そして、凝集処理した被処理水を、No5A濾紙を使用して全量をそれぞれ濾過し、RO平膜試験装置に設けられたRO膜(日東電工製RO膜ES20)に、流速1ml/min、通水圧力0.78MPa、400rpmの通水条件で通水してフラックス測定を行った。RO膜の膜洗浄は、水酸化ナトリウムを使用してpH12に調整し、一晩浸漬させて洗浄した。フラックス測定では、使用した工業用水と略等しい電気伝導率になるように塩化ナトリウムで調整した純水をRO平膜試験装置に通水し、透過流量が安定した時点で被処理水の通水を開始し(開始日を0日とする)、一定期間ごとにフラックスを測定した。フラックスの測定は、10分間の透過水の水量をメスシリンダーで測定後、式(2)で算出した。
【0057】
Flux[m/m・d]=Fr×1.7905×Pc×Tc ・・・(2)
【0058】
ここで、Frは流量[ml/min]、Pcは圧力補正係数、Tcは温度補正係数をそれぞれ表している。得られた結果を図6に示す。
【0059】
<実施例2>
実施例1と同様の被処理水を使用してジャーテストを行った。凝集剤として、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン重合物を使用した。なお、使用したジメチルアミン・エピクロルヒドリン重合物は50%水溶液で、添加量はそれぞれ1、2、5、10mg/lである。得られた結果を図7に示す。
【0060】
図6、図7にそれぞれ示す結果に基づいて、被処理水から換算した分画分子量30000以上の有機物成分TOCと、RO平膜試験で得られた0日〜7日までのRO膜のフラックスの低下率の関係をグラフにまとめた。図8にそのグラフを示す。図8から、被処理水中の分画分子量30000以上の有機物成分のTOCとRO膜のフラックスに相関関係が明確に認められ、TOCを測定すれば現状の処理状態を把握することが可能である。また、膜分離装置における膜処理性能低下の兆候をこのグラフから読み取ることが可能であり、凝集剤の添加量を増減することで、RO膜の濾過性能低下を抑制することができる。
【0061】
<実施例3>
実施例1と同様の被処理水、凝集剤を使用してジャーテストを行った。UF濾過に使用した被処理水量(Aml)及び濃縮水の水量(Bml)を正確に測定した。また、濃縮水にメルク製RQフレックスのグルコース測定用試験紙を浸し、当該試験紙をRQフレックス本体に挿入して糖濃度(Dmg/l)を求めた。これらの結果に基づいて、被処理水中に含まれる分子量30000以上の糖濃度L30000(mg/l)を、次式(3)から求めた。
【0062】
30000=B/A×D ・・・(3)
【0063】
また、実施例1と同様の条件でフラックス測定を行った。結果を図9に示す。
【0064】
<実施例4>
実施例3と同様の被処理水を使用してジャーテストを行った。凝集剤として、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン重合物を使用した。なお、使用したジメチルアミン・エピクロルヒドリン重合物は50%水溶液で、添加量はそれぞれ1、2、5、10mg/lである。得られた結果を図10に示す。
【0065】
図9、図10の結果について、被処理水から換算した分画分子量30000以上の成分の糖濃度と、RO平膜試験で得られた0〜7日までのRO膜のフラックスの低下率の関係をまとめたグラフを図11に示す。図11から、被処理水中の分画分子量30000以上の成分における糖濃度とRO膜のフラックスに相関関係が明らかに認められ、糖濃度を測定すれば現状の処理状態を把握することができるということが判る。また、RO膜の濾過性能低下の兆候を読み取ることができるので、凝集剤の添加量を増減することで、RO膜の濾過性能低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 水処理装置
10 凝集固液分離装置
14 撹拌槽
36 残留濃度測定装置
44 限外濾過器
56 限外濾過膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜を備える膜分離装置に供給される被処理水に凝集剤を添加して凝集処理を行う水処理における凝集剤の添加量決定方法であって、
前記凝集処理を行った被処理水を限外濾過膜で濃縮処理する濃縮処理工程と、
該濃縮処理工程で得られた濃縮水に含まれる有機物の濃度を測定する濃度測定工程と、
測定された有機物濃度に基づいて、被処理水へ添加する凝集剤の添加量を決定する添加量決定工程と、
を有することを特徴とする凝集剤の添加量決定方法。
【請求項2】
前記有機物濃度は、糖濃度であることを特徴とする請求項1に記載の凝集剤の添加量決定方法。
【請求項3】
分離膜を備える膜分離装置に供給される被処理水に凝集剤を添加して凝集処理を行う水処理装置であって、
前記凝集処理を行った被処理水を限外濾過膜で濃縮処理する濃縮処理手段と、
濃縮処理された濃縮水に存在する有機物濃度を測定する濃度測定手段と、
測定された有機物濃度に基づいて、被処理水へ添加する凝集剤の添加量を制御する添加量制御手段と、
を備えることを特徴とする水処理装置。
【請求項4】
前記有機物濃度は、糖濃度であることを特徴とする請求項3に記載の水処理装置。
【請求項5】
前記限外濾過膜の分画分子量は、5000以上であることを特徴とする請求項3または4に記載の水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−213675(P2012−213675A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79007(P2011−79007)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】