説明

凝集剤及びその製造方法法並びにそれを用いた水処理方法

【課題】健康不安が無く、作業性が優れ、凝集能力が高い凝集剤を提供する。
【解決手段】TiO換算で少なくとも10重量%の濃度の四塩化チタンの水溶液に、四塩化チタンに対して0.3中和当量以上0.5中和当量未満の塩基性化合物を添加したものを、凝集剤として用いる。四塩化チタン水溶液を前記の比較的高い濃度とし、加水分解の進行を抑制することで、高い凝集能力が発現する。一方、塩基性化合物の含有量を前記範囲にすることで、加水分解で生成する塩酸が部分中和され、塩酸の強い刺激臭が低減されて作業性が改善されると共に、中和による加水分解も抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集能力が優れ、健康不安が無い凝集剤、その製造方法、それを用いた水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム(PAC)等のアルミニウム系無機凝集剤は、凝集能力が比較的優れており、安価で、しかも、安全性も高いと考えられていたので、従来より、上水処理に広く用いられてきた。ところが、近年、アルミニウムがアルツハイマー病の原因物質の一つであるとの疑いが報告がなされてから、上水処理において、アルミニウム系凝集剤の使用が大きく制限されるようになった。一方、有機凝集剤では、ポリアクリルアミド等は、その毒性によって、上水処理には用いられていない。このため、健康不安の無い、安全性に優れた凝集剤が求められ、鉄系やチタン系凝集剤が注目されている。鉄系凝集剤としては、例えば、ポリシリカ鉄が知られており、チタン系凝集剤としては、四塩化チタンを水に溶解することによって得られる、オルトチタン酸の塩酸溶液を上水処理の凝集剤に用いる技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−239373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ポリシリカ鉄は経時的に凝集能力が劣化し易く、長期間保管できないという問題がある。また、特許文献1記載のチタン系凝集剤は、経時安定性は優れているが、塩酸の強い刺激臭を発し、作業環境を悪化させるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、これらの問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定濃度の四塩化チタンの水溶液が、特定範囲の量の塩基性化合物を含有していると、塩酸の刺激臭が緩和されるだけでなく、優れた凝集能力が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、
(1)TiO換算で少なくとも10重量%の濃度の四塩化チタンの水溶液を含み、更に四塩化チタンに対して0.3中和当量以上0.5中和当量未満に相当する塩基性化合物を含むことを特徴とする凝集剤であり、
(2)四塩化チタンを水に溶解させてTiO換算で少なくとも10重量%の濃度の水溶液を調製する第1の工程、四塩化チタンに対して0.3中和当量以上0.5中和当量未満の塩基性化合物を添加する第2の工程を含むことを特徴とする凝集剤の製造方法であり、
(3)前記の凝集剤を処理対象水に添加することを特徴とする水処理方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、健康不安が無く、凝集能力が非常に優れ、作業性にも優れた凝集剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1(試料A)、比較例2(試料D)、ブランク(凝集剤を添加していない模擬懸濁液)の静置120分後の写真である。向かって左から、ブランク、実施例1、比較例2の順に並べている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、凝集剤であって、TiO換算で少なくとも10重量%の濃度の四塩化チタンの水溶液を含み、更に四塩化チタンに対して0.3中和当量以上0.5中和当量未満の塩基性化合物を含むことを特徴とする。本発明の凝集剤は、健康不安も無く、また、凝集能力が優れているので、従来の無機系凝集剤では処理が困難であった、有機廃水の処理にも適用できる。四塩化チタンを水に溶解すると、下記式1、2に従って加水分解が進み、水溶性のオキシ塩化チタンを経て、難水溶性のオルトチタン酸が生成すると言われている。一般的に、無機系の凝集剤の凝集作用は、水中の無機イオンが、何らかの反応により、フロックを形成する際に発現すると考えられ、このため、加水分解が進んでオルトチタン酸が生成してまうと、凝集能力が消失してまう。一方、オルトチタン酸を塩酸溶液にすると、凝集能力は得られても、塩酸の強い刺激臭を発し、作業環境を悪化させ、刺激臭を低減させるために、塩基性化合物を添加すると、中和による加水分解が進んでしまう。本発明では、四塩化チタン水溶液を前記の濃度とすることで、加水分解を下記式1の段階で留め、同時に、塩基性化合物の含有量を前記範囲とすることで、下記式1に示される塩酸の一部を中和、即ち、部分中和して、塩酸濃度を減じて刺激臭を緩和させると共に、中和による加水分解も抑制し、水溶液中でもオキシ塩化チタンとして安定して存在させている。尚、下記式1に従うと、四塩化チタンに対し前記範囲の量の塩基性化合物を用いれば、当該塩酸が60モル%以上100モル%未満の範囲で部分中和されていると考えられる。
式1:TiCl+HO→TiOCl+2HCl
式2:TiOCl+3HO→HTiO+2HCl
【0010】
塩基性化合物の含有量が、0.3中和当量より少ないと、当該塩酸の部分中和が不十分になって、刺激臭が抑制され難く、0.5中和当量以上になると、中和による加水分解が生じてしまうので、凝集能力が低下する。塩基性化合物のより好ましい含有量は、0.3〜0.45中和当量である。四塩化チタンの濃度の上限に特に制限は無いが、TiO換算で25重量%を超えると、部分中和後に残る塩酸の濃度が高くなり、刺激臭の緩和効果が阻害されるので、25重量%以下とするのが好ましい。
【0011】
塩基性化合物は、固体で添加しても水溶液にして添加しても良いが、固体であれば、より加水分解の抑制効果が大きく好ましい。塩基性化合物種には、公知のものを用いることができ、例えば、塩基性カルシウム化合物、塩基性マグネシウム化合物、塩基性ナトリウム化合物等が挙げられる。より具体的には、塩基性カルシウム化合物としては、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。塩基性マグネシウム化合物としては、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等が挙げられる。塩基性ナトリウム化合物としては、水酸化ナトリウム等が挙げられる。あるいは、ドロマイト(CaMg(CO)等のような塩基性複合化合物も用いることができる。中でも、塩基性カルシウム化合物、塩基性マグネシウム化合物、塩基性カルシウム・マグネシウム複合化合物、あるいはそれらの混合物等の、カルシウム及び/又はマグネシウムを含むものを用いると、オキシ塩化チタンの加水分解の抑制効果が大きく好ましい。塩基性カルシウム化合物や塩基性マグネシウム化合物が、固体であれば一層好ましい。
【0012】
本発明では、当該塩酸の部分中和によって、オキシ塩化チタンの加水分解が制御されるので、一旦、部分中和した後は、四塩化チタン濃度を10重量%未満にしても、加水分解が進み難い。このため、本発明の凝集剤を水で希釈すると、塩酸の刺激臭を一層緩和でき、あるいは、水処理に適用する際、後述のように中和剤を用いる場合は、中和剤の使用量も低減できるので好ましい。希釈後の濃度は、TiO換算で少なくとも5重量%とするのが好ましく、この濃度より低いと、部分中和によっても加水分解の制御が困難となる。
【0013】
次に、本発明は、凝集剤の製造方法であって、四塩化チタンを水に溶解させてTiO換算で少なくとも10重量%の濃度の水溶液を調製する第1の工程、四塩化チタン対して0.3中和当量以上0.5中和当量未満の塩基性化合物を添加する第2の工程を含むことを特徴とする。本発明によって、水溶液中のオキシ塩化チタンの加水分解の抑制できるので、凝集能力に優れ、しかも、塩酸の刺激臭が緩和された、作業性の優れた凝集剤が得られる。
【0014】
第1の工程では、四塩化チタン水溶液の濃度を10重量%以下にすると、加水分解が進んでオルトチタン酸が生じ、所望の凝集能力が得られ難くなり、25重量%を超えると、刺激臭の抑制が困難となる。四塩化チタンは、公知の方法によって得ることができ、例えば、コークス等の還元剤の存在下、チタン含有鉱石と塩素ガスとを、塩化炉等の反応器中で流動させながら、1000℃程度の高温で反応させることで製造できる。
【0015】
第2の工程で用いる塩基性化合物には、特に制限は無いが、オキシ塩化チタンの加水分解の抑制効果が大きいので、固体の塩基性化合物を用いるのが好ましく、カルシウム及び/又はマグネシウムを含む塩基性化合物であれば更に好ましい。塩基性カルシウム化合物としては、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム等が、塩基性マグネシウム化合物としては、水酸化マグネシウム,酸化マグネシウム等が、塩基性カルシウム・マグネシウム複合化合物としては、ドロマイト等が挙げられる。塩基性化合物の使用量のより好ましい範囲は、0.3〜0.45中和当量である。
【0016】
本発明の製造方法では、第2の工程によって、オキシ塩化チタンの加水分解が抑制されるので、第2の工程の後、水で希釈して適当な濃度に調整することができる。希釈後の四塩化チタン濃度は、TiO換算で少なくとも5重量%までであれば、加水分解を十分に抑制できるので好ましい。
【0017】
また、本発明は水処理方法であって、前記凝集剤を処理対象水に添加することを特徴とする。処理対象水は、上水、河川・沼沢・海水等自然環境中の水、無機系あるいは有機系の工業廃水等制限は無く、広範囲に適用できる。前記凝集剤は、健康不安が無いので、上水処理、自然環境中の水の処理に最適である。前記凝集剤の添加量は、処理対象水の様態によって異なるが、例えば、上水であれば、TiO換算で0.1〜1000ppmの濃度になるように添加するのが好ましい。前記凝集剤を処理対象水に投入すると、処理対象水中の四塩化チタン濃度が低下し、加水分解が進行して、凝集能力が発現するが、必要に応じて中和剤を添加して加水分解を促進させても良い。
【実施例】
【0018】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0019】
実施例1
四塩化チタンを水に溶解して、TiO換算で15重量%の四塩化チタンの水溶液を調製した(第一の工程)。次いで、四塩化チタンに対して、0.45中和当量に相当する固体の炭酸カルシウムを添加し撹拌して、本発明の凝集剤(試料A)を得た(第二の工程)。
【0020】
実施例2
実施例1において、炭酸カルシウムに替えて水酸化マグネシウムを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、本発明の凝集剤(試料B)を得た。
【0021】
比較例1
実施例1の第1の工程で得られた四塩化チタンの水溶液を、比較対象の凝集剤(試料C)とした。
【0022】
比較例2
硫酸アルミニウムを8重量%含む、市販の無機凝集剤を、比較対象の凝集剤(試料D)とした。
【0023】
評価1
実施例1、2及び比較例1、2の凝集剤(試料A〜D)の臭気を、感応試験により評価を行なった。また、市販の牛乳を100倍に希釈した試験液200ccに、凝集が生じるまで各試料を添加した。表1に、各試料の添加量と、凝集状態の優劣の目視判定結果を示す。
(凝集能力の目視判定結果の凡例)
(優)◎>○>△>×(劣)
【0024】
【表1】

【0025】
評価2
ベントナイトを水に分散させて、pHが9.9、濃度が3.0g/リットルの模擬懸濁水を調整した。この模擬懸濁水に、実施例1と比較例2の凝集剤(試料A、D)を500ppm添加し酸性となった懸濁水を、水酸化ナトリウムでpHを7.0に調整し撹拌した後、メスシリンダーに1000cc投入し静置した。静置10分後、60分後、120分後に、液面から沈降面までの長さを測定し、沈降距離とした。沈降距離が大きい方が、凝集能力が優れている。結果を、表2及び図1に示す。本願の凝集剤の凝集能力が、優れていることが判る。
【0026】
【表2】

【0027】
本発明の凝集剤により、特に上水、環境中の水等を、健康不安が無く高度に処理することができする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiO換算で少なくとも10重量%の濃度の四塩化チタンの水溶液を含み、更に四塩化チタンに対して0.3中和当量以上0.5中和当量未満の塩基性化合物を含むことを特徴とする凝集剤。
【請求項2】
塩基性化合物が塩基性カルシウム化合物及び/又は塩基性マグネシウム化合物であることを特徴とする請求項1記載の凝集剤。
【請求項3】
更に水で希釈したことを特徴とする請求項1記載の凝集剤。
【請求項4】
四塩化チタンの濃度がTiO換算で少なくとも5重量%であることを特徴とする請求項3記載の凝集剤。
【請求項5】
四塩化チタンを水に溶解させてTiO換算で少なくとも10重量%の濃度の水溶液を調製する第1の工程、四塩化チタンに対して0.3中和当量以上0.5中和当量未満の塩基性化合物を添加する第2の工程を含むことを特徴とする凝集剤の製造方法。
【請求項6】
塩基性化合物が固体であることを特徴とする請求項5に記載の凝集剤の製造方法。
【請求項7】
第2の工程で用いる塩基性化合物がカルシウム及び/又はマグネシウムを含むことを特徴とする請求項5記載の凝集剤の製造方法。
【請求項8】
第2の工程の後、得られた凝集剤を更に水で希釈することを特徴とする請求項5記載の凝集剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の凝集剤を処理対象水に添加することを特徴とする水処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−148267(P2012−148267A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174477(P2011−174477)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】