説明

凝集剤注入制御装置および方法

【課題】
公知技術では、凝集剤注入率を自動算出する際に、凝集沈殿処理の全ての影響要因を考慮していない。
【解決手段】
凝集剤を注入して原水の濁質を凝集沈殿池で凝集沈殿させる浄水プロセスのため、凝集剤の注入制御を行う凝集剤注入制御装置において、
ある時点の前記凝集沈殿池の処理水の濁度、ある時点より所定時刻遡った時点の前記原水の濁度、及びある時点より所定時刻遡った時点の凝集剤の凝集剤注入率の関係を指数式あるいは対数式で表した浄水プロセスの濁度除去係数を用いて凝集剤注入率を演算する凝集剤注入率演算手段と、
凝集剤注入率演算手段で演算された凝集剤注入率とある時点の原水の流量を乗算して凝集剤注入量を演算する凝集剤注入量演算手段と、
凝集剤注入量に基づいて凝集剤注入設備を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする凝集剤注入制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取水原水の濁質に対応して凝集剤を適正に注入し、安定した水質の浄水を得る浄水プラントの運転管理に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、原水濁度が頻繁に変動する場合に凝集剤注入率を最適な値に制御するため(〔0010〕)、流動電位Dの偏差により重み係数を求め、フィードフォワード制御器とフィードバック制御器の凝集剤注入率の出力値に対して補正するように構成している(〔0049〕)。また、凝集剤注入率と流動電位の関係を濁度で分類して特性曲線を保持する様にし(〔0046〕〕、凝集剤注入率は、係数や定数を用いて指数関数として決定している(〔0079〕)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−284904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、凝集剤注入率を指数式で決定した後、重み係数で補正している。この凝集剤注入率を自動算出する際に、凝集沈殿処理の全ての影響要因を考慮していない。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題に対処したもので、その目的とするところは、凝集沈殿処理の全ての影響要因を包含した係数である濁度除去係数で凝集剤注入率を決定でき、安定した良質の凝集沈殿処理水を提供できる凝集剤注入制御を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは河川表流水の濁質を用いて低濁度から一万度の超高濁度までの凝集沈殿実験を鋭意実施した。詳細は後述するが本実験結果から、凝集沈殿処理水の濁度が良好となる範囲では凝集沈殿処理水濁度を原水の濁度とそのときの凝集剤注入率とに相関し、同形の指数式で表現できる知見を得て、本発明に至った。
【0007】
この知見に基づいて、本発明は、凝集沈殿処理水の濁度と、この凝集沈殿処理水が凝集剤を注入される過程の原水濁度と、その過程における凝集剤注入率との関係を指数式あるいは対数式で表し、その指数係数値を濁度除去係数とし、この濁度除去係数に基づいて必要な凝集剤注入率を演算し、凝集剤注入量を制御する構成とする。
【発明の効果】
【0008】
濁度除去係数は凝集沈殿処理の全ての影響要因を包含しており、簡便で適正に凝集剤注入率を決定でき、安定した良質の凝集沈殿処理水を提供できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
低濁度から超高濁度まで凝集剤を適正に注入できる浄水プロセスの運転管理を提供する目的を、本発明者らの実験的知見で得た濁度除去係数に基づいて凝集剤注入量を求めることで実現した。以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
本発明の第1実施例を図1に示す。
【0011】
本発明の第1実施例を図1に示す。図1において、浄水プロセスは薬品混和池2,フロック形成池3,沈殿池4を主構成設備としている。濁質を含有した原水1は薬品混和池2で凝集剤注入設備8から凝集剤9が注入される。7は凝集剤貯槽である。凝集剤にはアルミニウム系や鉄系などの無機系や高分子系が用いられる。薬品混和池2では攪拌機201により凝集剤が原水に均質に混合され、濁質と凝集剤が結合してフロックの核となるマイクロフロックを形成する。マイクロフロックは、フロック形成池3で攪拌機201より緩速で運転される攪拌機301によって成長し、粗大なフロックとなる。粗大となったフロックは沈殿池4で沈降し、濁質が除去された上澄み液(凝集沈殿処理水)5は後段で所定の処理(ろ過や殺菌)を受けた後、浄水として配水される。沈殿池4で沈降分離したフロックは排泥液とて系外に排出される。
【0012】
このような浄水場での浄水プロセスにおいて、凝集剤の注入を制御する凝集剤注入制御装置10は、凝集剤注入量演算器33,制御器34,凝集剤注入率演算器36を有する。凝集剤注入制御装置10は、実施例2で後述する様に濁度除去係数演算器32を有さず、濁度除去係数を用いることができれば良い。説明を簡便とするため、濁度除去係数演算器32を有する例で説明する。凝集剤注入率演算器36は濁度除去係数k1を用いて、凝集剤注入率を演算する手段である。その用い方は複数の実施例が挙げられ、濁度除去係数
k1を用いて、直接に凝集剤注入率を求める実施例を実施例1に記載し、濁度除去係数
k1を用いずに他の演算式を用いて凝集剤基本注入率を求めておいて、濁度除去係数k1を用いて、この凝集剤基本注入率を補正して凝集剤注入率を求める実施例を実施例5に記載する。実施例1,2,5の様に濁度除去係数のさまざまな使用方法がある。
【0013】
濁度計22で計測された原水1中の濁度Tは濁度除去係数演算器32に入力,記憶される。濁度除去係数演算器32には濁度計22Bで計測された凝集沈殿処理水5の濁度tと、凝集剤注入率演算器36に記憶されている凝集剤注入率Cが入力される。濁度除去係数演算器32では、現在の凝集沈殿処理水5の濁度taと、この凝集沈殿池処理水が凝集剤9を注入される時点の原水濁度Taと、その時の凝集剤注入率Caに基づいて(1)式の指数式、あるいは(1)式を変形した(2)式の対数式で濁度除去係数k1を演算する。凝集剤が注入された時点から現在の濁度taを測定した時間までの時間をτとする。Taは現在の濁度taを測定した時間からτだけ遡った時点の原水濁度のデータを入力する。
Caは現在の濁度taを測定した時間からτだけ遡った時点の凝集剤注入率Cのデータを入力する。
【0014】
ta=Ta・e-k1・Ca (1)
k1=−(ln(ta/Ta))/Ca (2)
図2は本発明者らの実験結果で、初期濁度と凝集剤注入量を変化させ、沈殿上澄液の濁度を測定したものである。一般に、浄水プロセスでは凝集沈殿処理水5の濁度目標値を
10度以下に設定される。図2から、濁度が10度以下になると、上澄液濁度tと凝集剤注入率Cの関係は初期濁度Tを切片とする直線、すなわち(1)式と同形の指数式t=
T・e-k・C で表わせることがわかった。この関係は初期濁度が違っても同形式で表すことができた。ところで、凝集剤注入率に対する濁度低下度合である傾きは初期濁度の影響を受けて変化する。このことは、例えば凝集沈殿処理水5の濁度が10度で、目標値の1度に補正しようとする場合、それぞれの凝集沈殿特性で変化させる必要があることを意味する。傾きは指数式の指数部係数kで、濁度除去係数と呼称する。濁度除去係数kは凝集剤が注入された後のフロック形成や沈殿過程で、原水濁度と凝集剤量以外の要因の影響を網羅した係数である。言い換えれば、濁度除去係数kに基づいて凝集剤注入率やその補正率を求めれば、原水濁度と凝集剤以外の要因も考慮した凝集剤注入管理ができる。
【0015】
凝集剤注入率演算器36は濁度除去係数演算器32からの濁度除去係数k1と、現在の原水濁度Tiと、予め設定した凝集沈殿池処理水の濁度目標値tmとを(2)式の変形式である(3)式の対数式に代入して、濁度目標値tmを維持するに必要な凝集剤注入率
Cmを演算する。
【0016】
Cm=−(ln(tm/Ti))/k1 (3)
(3)式は濁度除去係数k1で原水濁度Tiを目標値tmにする凝集剤注入率Cmを演算したが、凝集沈殿池処理水濁度taと目標値tmで補正することもできる。補正率
ΔCmは処理水濁度taを目標値tmとするので、(3)式のTiをtaとすることで求まる。
【0017】
ΔCm=−(ln(tm/ta))/k1 (4)
これらの操作概念を図3に示す。凝集剤注入率は目標値以上の処理水濁度taであれば増加させ、目標値以下の処理水濁度tbであれば減少させる方向に操作される。
【0018】
凝集剤注入量演算器33は凝集剤注入率演算器36からの凝集剤注入率Cmと流量計
21からの原水流量Qを乗算して凝集剤注入量Qcを演算する。制御器34は演算した凝集剤注入量Qcと流量計24から出力される凝集剤注入操作量Qc′の偏差に基づいて凝集剤注入設備8を調節する。凝集剤注入設備8は弁、あるいは流量可変型ポンプである。
【0019】
この様に、ある時点の凝集沈殿池の処理水の濁度、ある時点より所定時刻遡った時点の原水の濁度、及びある時点より所定時刻遡った時点の凝集剤の凝集剤注入率の関係を指数式あるいは対数式で表した浄水プロセスの濁度除去係数を用いて凝集剤注入率を演算し、この濁度除去係数を用いて凝集剤注入率を演算することで、凝集沈殿処理の全ての影響要因を包含して、簡便で適正に凝集剤注入率を決定することができる。
【実施例2】
【0020】
本発明の第2実施例を図4に示す。(3)式に(2)式を代入すれば、濁度除去係数演算器32を設置せずに濁度除去係数k1を考慮した(5)式に基づいて凝集剤注入率Cmを直接演算できる。凝集剤注入率演算器36には過去の凝集剤注入率や濁度値の記憶機能を持たせ、(5)式で濁度目標値tmを維持するに必要な凝集剤注入率Cmを演算する。
【0021】
Cm=Ca(ln(tm/Ti))/(ln(ta/Ta)) (5)
凝集剤注入量演算器33以降は実施例2と同様である。(5)式の様に濁度除去係数を凝集剤注入率の演算に組み入れて用いても実施例1と同様に、凝集沈殿処理の影響要因を包含して、簡便で適正に凝集剤注入率を決定することができる。
【実施例3】
【0022】
本発明の第3実施例を図5に示す。50は回分式凝集沈殿装置で原水1の一部1Bが導入される。図6に回分式凝集沈殿装置50の構成例を示す。503は凝集沈殿工程で、所定容積の容器J1に弁V1,V2の操作で所定量vの導水原水1Bが入れられる。攪拌器M1を稼動させた状態で弁V3の操作で所定量の凝集剤9Bを注入する。注入後、攪拌器M1は規定の回転数と時間を経て停止させる。停止後2、所定時間経過後に弁V4を開にし、濁度計22Cで沈殿上澄液の濁度t2を計測する。濁度計22Cでは、原水1Bが導水されている凝集剤注入前の濁度t1も計測している。また、凝集剤注入量qを流量計
24Bで計測する。沈殿上澄液の濁度t2が計測された後、弁V5を操作して容器J1の内部液を排出し、上記操作を繰返して凝集沈殿特性を定期的に実施する。これらの操作はタイミング調整回路501の操作指令によってシーケンス回路502が実行する。
【0023】
濁度計22Cと流量計24Bの計測値はデータベース504に記憶される。記憶されたデータはタイミング調整回路501によって濁度除去係数演算器505に入力され、(6)式により濁度除去係数k2を演算する。凝集剤注入率Cはq/vで求める。
【0024】
k2=−(ln(t2/t1))/C (6)
凝集剤注入率演算器36には濁度除去係数演算器505からの濁度除去係数k2と、濁度計22からの現在の原水濁度Tiが入力され、予め設定した凝集沈殿池処理水の濁度目標値tmにより(7)式で、濁度目標値tmを維持するに必要な凝集剤注入率Cmを演算する。
【0025】
Cm=−(ln(tm/Ti))/k2 (7)
凝集剤注入量演算器33以降は実施例1と同様である。
【0026】
回分式凝集沈殿装置50の濁度除去係数演算器505は、凝集剤注入制御装置10の構成とすることもできる。その他の、タイミング調整回路501,シーケンス回路502,データベース504も凝集剤注入制御装置10の構成とすることもできる。
【0027】
この実施例のように、原水の一部を所定容積の容器に導水し、凝集剤の注入,撹拌,静置する回分式凝集沈殿装置の凝集剤注入前の濁度と、所定時間静置後の沈殿上澄み液の濁度と、この上澄み液濁度が得られる過程の凝集剤注入率との関係を指数式あるいは対数式で表される回分式凝集沈殿の濁度除去係数を演算する回分式濁度除去係数演算手段を設け、
凝集剤注入率演算手段で、回分式凝集沈殿の濁度除去係数と、ある時点の原水の濁度、及び処理水の濁度の予め設定した目標値で構成する演算式に基づいて凝集剤注入率を演算することで、現在の原水の水質や濁質状態に対応した凝集剤注入を実施でき、時間遅れを防止できる。
【実施例4】
【0028】
本発明の第4実施例を図7に示す。図7は第3実施例の構成に、凝集沈殿処理水5の濁度taで凝集剤注入率を補正する一例である。凝集剤注入率演算器36では、(7)式に加えて、(2)式と(4)式の演算を実行し、補正率ΔCmを求める。凝集剤注入量演算器33には(7)式のCmと(4)式のΔCmを加算した注入率Cm*が出力される。凝集剤注入量演算器33以降は実施例1と同様である。
【0029】
この補正により、浄水プロセスの撹拌混合状態や反応及び滞留時間など、回分式凝集沈殿装置と異なる要因の影響も考慮して適正な凝集剤注入管理を実施できる。
【実施例5】
【0030】
本発明の第5実施例を図8に示す。凝集剤注入制御装置10は、凝集剤注入量演算器
33,制御器34,凝集剤注入率演算器36の他、基本注入率演算器37,注入率補正演算器38を有する。基本注入率演算器37は、原水1の水質に対応した凝集剤注入率演算式が入力されている。凝集沈殿の影響要因となる代表的な水質には濁度Ti,アルカリ度AL,pH,水温Thなどがある。これらを水質計22,25,26,27で計測して基本注入率演算器37に入力される。基本注入率演算器37にはこれらの水質に対応した、例えば(8)式の注入モデル式が予め入力し、基本となる凝集剤注入率Cmを演算する。a,b,c,dは定数である。
【0031】
Cm=a・Ti+b・AL+c・pH+d・Th (8)
注入率補正演算器38は、原水濁度Tiと凝集沈殿池処理水濁度ta、及び凝集剤注入率演算器36からの所定時間前の操作された凝集剤注入率Cm′が入力され、(2)式で濁度除去係数k1を演算する。さらに、(4)式で補正率ΔCmを求める。凝集剤注入率演算器36は基本凝集剤注入率Cmと補正率ΔCmを加算して操作すべき凝集剤注入率
Cm*を求め、凝集剤注入量演算器33に出力する。凝集剤注入量演算器33以降は実施例1と同様である。補正率ΔCmを、実施例4の回分式の濁度除去係数k2を用いて求めることもできる。
【0032】
この実施例のように、凝集沈殿の影響要因となる代表的な水質で凝集剤注入率を演算し、この注入率で凝集剤をフィードフォワード制御する際に、演算した注入率に対して濁度除去係数に基づく補正を加えることで、代表的な水質として演算された凝集剤注入率で考慮外の水質,濁質性状やプロセス由来の影響要因も反映した凝集剤注入管理ができる。
【実施例6】
【0033】
凝集剤注入率の試算例を図9を用いて以下説明する。凝集剤注入率の試算手順としては、原水濁度を設定し(図9(A))、処理水濁度を設定し(図9(B))、後述する指数関数による凝集剤注入率の演算式で試算(図9(C))、前述した実施例の除去係数Kを算出
(図9(D)),図9(D)の除去係数を用いて前述した実施例の凝集剤注入率Cmを算出(図9(C))、前述した実施例のΔCmを算出(図9(C))である。図9(A)〜(D)の横軸は時間(h)を表す。
【0034】
図9(A)は原水濁度の日変動で5度から30度の範囲で変化させた。
【0035】
図9(B)は凝集沈澱処理水の濁度で、滞留時間の遅れを伴って原水の変化に連動し、0.5度から1.5度(平均1度)の範囲で変化する設定条件とした。試算の対比対象とする公知の注入率演算式は、原水濁度Tiに依存した次式とした。
【0036】
C=a・Tin+b(a,b:定数、n:指数定数)
定数a=2,b=3,n=0.5の条件で、注入率Cを試算した結果を図9(C)に示す。原水濁度Ti以外は全て定数であるため、注入率Cは濁度Tiと同期する。
【0037】
滞留時間(3h)を考慮した原水濁度と凝集沈澱処理水濁度、及び注入率Cを用いて、濁度除去係数kを求めた結果を図9(D)に示す。この試算は、図9(A)の原水濁度に対して図9(C)の注入率Cで凝集剤を注入し、図9(B)の凝集沈澱処理水濁度となると仮定した。濁度除去係数kは変動することが分る。
【0038】
本発明の注入率Cmをこの濁度除去係数kを用いて試算した。また、処理水濁度目標値tmを1として、補正率ΔCmを求め、補正注入率Cm+ΔCmを試算した。これらの
CmとCm+ΔCmの結果も図9(C)に併記した。3種類の注入率の平均値は大差がないが、濁度除去係数kを用いると注入率の変化が大きく、処理水濁度、すなわち、凝集性に及ぼす種々の要因を反映した注入率が設定されている。
【0039】
この他、従来原水の濁質変化に対応した凝集剤注入方式が種々提案されている。例えば、原水の濁度、さらには原水濁度に加えて原水のアルカリ度やpH,水温などのフロック形成要因を考慮して作成した凝集剤注入式に基づいて操作する方式がある。この方式はフィードフォワードで原水水質の変動に対処できるが、濁質の性状を普遍的なものとして取り扱っており、適正な注入率を継続的に維持することが困難である。特に、降雨時などの性状変化に対応できない。
【0040】
また、他の従来例として、晴天時などの低濁度(〜数十度)と降雨時などの高濁度(数十度〜数百度)で異なる注入式を用意して操作する方式がある。この方式も特定の注入式における濁度範囲では濁質の性状を普遍的なものとして取り扱っており、適正な注入率を継続的に維持することが困難である。特に、境界となる濁度付近で不連続な注入率となるために適正な凝集沈殿が損なわれる。
【0041】
また、他の従来例として、濁質性状の変化によるフロック形成状態や凝集沈殿特性の相違を反映させるため、濁度など原水水質のフロック形成要因を考慮した注入式の凝集剤注入率演算値を、凝集沈殿処理水の濁度や、凝集剤注入後のフロック形状特徴量を計測し、その目標値との偏差で注入率を補正するフィードバック付加方式がある。補正方法は、
PID制御や偏差量に一定の係数を乗じて比例させるなどがある。しかし、河川表流水などの水質は種々雑多な物質があり、フロック形成や凝集沈殿特性に影響する。注入式に考慮していない多くの物質も凝集沈殿処理水の濁度に影響しており、単にPID制御や偏差量比率補正は原水水質や濁質性状を真に反映したものでなく、常時適正な凝集剤注入管理を維持できない。
【0042】
また、他の従来例として、超高濁度(数百度〜数千度)原水に対応して、浄水場への原水給送ラインに凝集剤を事前に注入し、場内での注入対象水の濁度を所定範囲に減少させる2段注入方式も提案されているが、濁質性状に対する考慮がなく、適正な注入率を継続的に維持することが困難である。
【0043】
また、他の従来例として、原水と凝集沈殿処理水の濁質粒径と個数を微粒子カウンタで計測して凝集剤を操作する方式や、原水の濁度と導電率及び凝集剤注入直後の流動電流を計測して凝集剤を操作する方式がある。しかし、微粒子カウンタや流動電流計は濁質粒子が密になるほど測定誤差が大となり、高濁度や超高濁度液に適用できない。また、これらの計測器は測定対象液を狭隘な検出部に導水する必要が有り、配管系の閉塞や検出部への濁質付着が発生し、計測精度の低下やメンテナンス面で大きな問題がある。
【0044】
これら従来例に比較して、上記実施例は、凝集沈殿処理の全ての影響要因を包含した係数である濁度除去係数で凝集剤注入率を決定でき、安定した良質の凝集沈殿処理水を提供できる凝集剤注入制御を提供できる。
【0045】
なお、上記実施例の凝集剤注入制御装置は、CPU,メモリ,入出力部等を有するコンピュータにより構成され上述した演算処理を行うためのプログラムがCPUにより実行される。
【0046】
また、上記実施例では種々の演算器にデータ記憶機能を持たせたが、計測値及び演算値を別途記憶保存するデータベースを設置し、必要に応じて演算器に出力する構成にしてもよい。
【0047】
また、濁度や凝集剤注入率はポイント計測値及び演算値の意味合いで説明したが、所定時間の移動平均値を使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は凝集剤混和池,フロック形成池及び沈殿池から構成される一般的な浄水プロセスに加えて工業用水を製造するプロセス,沈殿池の後段に砂ろ過や膜利用のろ過設備を有する浄水プロセス、さらにその後段にオゾン処理などの高度処理設備を付加した浄水プロセスにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1実施例を説明する構成図である。
【図2】本発明の第1実施例における濁度と凝集剤注入率の関係を説明する図である。
【図3】本発明の第1実施例で補足説明する濁度と凝集剤注入率の関係を示す図である。
【図4】本発明の第2実施例を説明する構成図である。
【図5】本発明の第3実施例を説明する構成図である。
【図6】本発明の第3実施例における回分式凝集沈殿装置部を説明する構成図である。
【図7】本発明の第4実施例を説明する構成図である。
【図8】本発明の第5実施例を説明する構成図である。
【図9】本発明の第6実施例を説明する凝集剤注入率の試算例である。
【符号の説明】
【0050】
1,1B…原水、2…薬品混和池、3…フロック形成池、4…沈殿池、5…凝集沈殿処理水、6…排泥液、7…凝集剤貯槽、8…凝集剤注入設備、9,9B…凝集剤、10…凝集剤注入制御装置、21,24,24B…流量計、22,22B,22C…濁度計、25,26,27…水質計、32,505…濁度除去係数演算器、33…凝集剤注入量演算器、34…制御器、36…凝集剤注入率演算器、37…基本注入率演算器、50…回分式凝集沈殿装置。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集剤を注入して原水の濁質を凝集沈殿池で凝集沈殿させる浄水プロセスのため、前記凝集剤の注入制御を行う凝集剤注入制御装置において、
ある時点の前記凝集沈殿池の処理水の濁度、前記ある時点より所定時刻遡った時点の前記原水の濁度、及び前記ある時点より所定時刻遡った時点の前記凝集剤の凝集剤注入率の関係を指数式あるいは対数式で表した浄水プロセスの濁度除去係数を用いて凝集剤注入率を演算する凝集剤注入率演算手段と、
前記凝集剤注入率演算手段で演算された凝集剤注入率と前記ある時点の原水の流量を乗算して凝集剤注入量を演算する凝集剤注入量演算手段と、
前記凝集剤注入量に基づいて凝集剤注入設備を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする凝集剤注入制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の凝集剤注入制御装置において、
前記凝集剤注入率演算手段は、前記浄水プロセスの濁度除去係数を用いて凝集剤注入率を演算する際に、前記浄水プロセスの濁度除去係数、前記ある時点の前記原水の濁度、及び前記処理水の濁度の予め設定した目標値を有する演算式に基づいて凝集剤注入率を演算することを特徴とする凝集剤注入制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の凝集剤注入制御装置において、
前記原水の一部を所定容積の容器に導水し、凝集剤の注入,撹拌,静置する回分式凝集沈殿装置の凝集剤注入前の濁度と、所定時間静置後の沈殿上澄み液の濁度と、この上澄み液濁度が得られる過程の凝集剤注入率との関係を指数式あるいは対数式で表される回分式凝集沈殿の濁度除去係数を演算する回分式濁度除去係数演算手段を有し、
前記凝集剤注入率演算手段は、前記回分式凝集沈殿の濁度除去係数と、前記ある時点の原水の濁度、及び前記処理水の濁度の予め設定した目標値で構成する演算式に基づいて凝集剤注入率を演算することを特徴とする凝集剤注入制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の凝集剤注入制御装置において、
前記凝集剤注入率演算手段は、前記浄水プロセスの濁度除去係数、前記ある時点の前記凝集沈殿池の処理水の濁度、及び前記予め設定した目標値で構成する演算式に基づいて、前記目標値に維持する凝集剤注入率の補正値を演算し、前記凝集剤注入率の補正値で前記回分式凝集沈殿の濁度除去係数を含めて演算した凝集剤注入率を補正して凝集剤注入率を演算することを特徴とする凝集剤注入制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の凝集剤注入制御装置において、
凝集剤を注入して原水の濁質を凝集沈殿池で凝集沈殿させる浄水プロセスのため、原水の濁度を考慮して予め設定した凝集剤注入式に基づいて凝集剤基本注入率を演算する凝集剤基本注入率演算手段を有し、
前記凝集剤注入率演算手段は、前記濁度除去係数、前記ある時点の前記凝集沈殿池の処理水の濁度、及び前記処理水の濁度の予め設定した目標値で構成する演算式に基づいて、前記目標値に維持する凝集剤注入率の補正値を演算し、前記補正値で前記凝集剤基本注入率を補正して凝集剤注入率を演算することを特徴とする凝集剤注入制御装置。
【請求項6】
凝集剤を注入して原水の濁質を凝集沈殿池で凝集沈殿させる浄水プロセスの凝集剤注入制御方法において、
ある時点の前記凝集沈殿池の処理水の濁度、前記ある時点より所定時刻遡った時点の前記原水の濁度、及び前記ある時点より所定時刻遡った時点の前記凝集剤の凝集剤注入率の関係を指数式あるいは対数式で表した浄水プロセスの濁度除去係数を用いて凝集剤注入率を演算し、
前記演算された凝集剤注入率と前記ある時点の原水の流量を乗算して凝集剤注入量を演算し、
前記凝集剤注入量に基づいて凝集剤注入設備を制御することを特徴とする凝集剤注入制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載の凝集剤注入制御方法において、
前記浄水プロセスの濁度除去係数を用いて凝集剤注入率を演算する場合に、前記浄水プロセスの濁度除去係数、前記ある時点の前記原水の濁度、及び前記処理水の濁度の予め設定した目標値を有する演算式に基づいて凝集剤注入率を演算することを特徴とする凝集剤注入制御方法。
【請求項8】
請求項6に記載の凝集剤注入制御方法において、
前記原水の一部を所定容積の容器に導水し、凝集剤の注入,撹拌,静置する回分式凝集沈殿装置の凝集剤注入前の濁度と、所定時間静置後の沈殿上澄み液の濁度と、この上澄み液濁度が得られる過程の凝集剤注入率との関係を指数式あるいは対数式で表される回分式凝集沈殿の濁度除去係数を演算し、
前記凝集剤注入率を演算する場合に、前記回分式凝集沈殿の濁度除去係数と、前記ある時点の原水の濁度、及び前記処理水の濁度の予め設定した目標値で構成する演算式に基づいて凝集剤注入率を演算することを特徴とする凝集剤注入制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載の凝集剤注入制御方法において、
前記凝集剤注入率を演算する場合に、前記浄水プロセスの濁度除去係数、前記ある時点の前記凝集沈殿池の処理水の濁度、及び前記予め設定した目標値で構成する演算式に基づいて、前記目標値に維持する凝集剤注入率の補正値を演算し、前記凝集剤注入率の補正値で前記回分式凝集沈殿の濁度除去係数を含めて演算した凝集剤注入率を補正して凝集剤注入率を演算することを特徴とする凝集剤注入制御方法。
【請求項10】
請求項6に記載の凝集剤注入制御方法において、
凝集剤を注入して原水の濁質を凝集沈殿池で凝集沈殿させる浄水プロセスのため、原水の濁度を考慮して予め設定した凝集剤注入式に基づいて凝集剤基本注入率を演算し、
前記凝集剤注入率を演算する場合は、前記濁度除去係数、前記ある時点の前記凝集沈殿池の処理水の濁度、及び前記処理水の濁度の予め設定した目標値で構成する演算式に基づいて、前記目標値に維持する凝集剤注入率の補正値を演算し、前記補正値で前記凝集剤基本注入率を補正して凝集剤注入率を演算することを特徴とする凝集剤注入制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−29851(P2007−29851A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216647(P2005−216647)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】