説明

凝集樹脂粒子、該粒子の製造方法並びに該粒子を含有する塗料組成物及び塗膜

【課題】従来の艶消し剤は、透明性と見る角度による艶消し効果の斑を小さくすることを両立することが難しい、あるいは、添加物を含有するという問題点を有している。本発明は、かかる問題点を解消する凝集樹脂粒子および該粒子の製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明はかかる粒子を含有する塗料組成物および塗膜を提供することを目的とする。
【解決手段】微小樹脂粒子が凝集した凝集樹脂粒子において、前記微小樹脂粒子が凝集前の形状を維持しており、前記凝集樹脂粒子の形状が不定形であって、嵩密度が0.20〜0.50g/cmであることを特徴とする凝集樹脂粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は凝集樹脂粒子及び該粒子の製造方法に関する。さらに、本発明は該粒子を含有する塗料組成物及び塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗膜などの艶消し剤としては球状樹脂粒子が多く利用されてきた。樹脂である球状樹脂粒子は透明性が良く下地の色調を損なうことなく艶消し効果が得られるという利点があるが、得られる艶消し効果はそれほど高いものではなく、また、該粒子を添加した塗膜は塗膜を見る角度による艶消し効果に斑が大きいという問題点も有している。
【0003】
かかる問題点に対して、特許文献1や特許文献2にはシリカ微粉末と樹脂粒子を併用することが提案されているが、シリカは透明性が悪いため、塗膜の白化現象を起こし下地の色調を阻害してしまう問題点がある。
【0004】
また、特許文献3には、乳化重合により得られた架橋重合体エマルジョンを噴霧乾燥することによって得られる球状の凝集樹脂粒子からなる艶消し剤が開示されている。かかる艶消し剤は凝集樹脂粒子であるが全体として球状であるため、艶消し効果がそれほど高くならない。また、該凝集樹脂粒子は界面活性剤を含んだ状態で凝集しているため、界面活性剤が塗料や塗膜の特性を低下させたり、水系塗料に添加混合した場合には凝集状態を維持しにくくなって艶消し効果が低下したりする恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−279844号公報
【特許文献2】特開平7-242839号公報
【特許文献3】特開2001−81335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、従来の艶消し剤は、見る角度によらず一定以上の艶消し効果を発現させることと透明性を両立することが難しい、あるいは、塗料や塗膜の特性を低下させる恐れのある添加物を含有するという問題点を有している。本発明は、かかる問題点を解消する凝集樹脂粒子および該粒子の製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明はかかる粒子を含有する塗料組成物および塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的について検討を重ねた結果、不定形状でかつ特定範囲の嵩密度を有する凝集樹脂粒子が高い透明性と広範囲の角度にわたる優れた艶消し効果を発現することを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の目的は、以下の手段により達成される。
【0008】
[1] 微小樹脂粒子が凝集した凝集樹脂粒子において、前記微小樹脂粒子が凝集前の形状を維持しており、前記凝集樹脂粒子の形状が不定形であって、嵩密度が0.20〜0.50g/cmであることを特徴とする凝集樹脂粒子。
[2] 微小樹脂粒子のSEM画像によって測定した平均粒子径が100〜600nmであり、凝集樹脂粒子の体積平均粒子径が5〜50μmであることを特徴とする[1]に記載の凝集樹脂粒子。
[3] 分散安定剤および凝集剤のいずれも含有しないことを特徴とする[1]または[2]に記載の凝集樹脂粒子。
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載の凝集樹脂粒子を含有する塗料組成物。
[5] [1]〜[3]のいずれかに記載の凝集樹脂粒子を含有する塗膜。
[6] 全単量体重量に対して、90重量%以上の水に対する溶解性が3重量%未満であるビニル系単量体と0.25〜3重量%の水溶性重合開始剤を用いて、水中で重合することにより凝集樹脂粒子を形成させる凝集樹脂粒子の製造方法。
[7] 分散安定剤および凝集剤のいずれも添加しないことを特徴とする[6]に記載の凝集樹脂粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の凝集樹脂粒子は樹脂であり、不定形で、かつ、一次粒子が球形であり、特定範囲の嵩密度を有するものである。かかる特性を有する本発明の凝集樹脂粒子を塗料組成物を添加することにより、高い透明性と広範囲の角度にわたる高い艶消し効果の両方を有する塗膜を得ることができる。また、本発明の凝集樹脂粒子の製造方法のよれば、かかる凝集樹脂粒子を簡便かつ効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で得られた凝集樹脂粒子のSEM画像を示す。
【図2】実施例1で得られた凝集樹脂粒子中の微小樹脂粒子のSEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳述する。本発明の凝集樹脂粒子は、微小樹脂粒子が凝集してなるものである。かかる微小樹脂粒子は凝集樹脂粒子を形成している状態において、凝集前の形状を維持している。ここで「凝集前の形状を維持している」とは、凝集樹脂粒子をSEMで観察した場合に、微小樹脂粒子同士が融着して凝集前の微小樹脂粒子の輪郭がはっきりしないような状態ではなく、一つ一つの微小樹脂粒子が区別できる程度に輪郭が維持されていることを言う。従って、例えば一部融着していているような状態でも、SEM画像上で一つ一つの微小樹脂粒子を区別して見ることができる限り「凝集前の形状を維持している」状態である。
【0012】
このように微小樹脂粒子が「凝集前の形状を維持している」状態においては、微小樹脂粒子同士の融着がない、あるいは、融着している部分が小さいため、凝集樹脂粒子を粉砕工程により任意の粒子径に調整することが可能となる。また、凝集樹脂粒子の表面上にさまざまな角度の面が密に偏りなく存在することになるので、任意の方向からの入射光を斑なく散乱する効果が期待できる。
【0013】
かかる微小樹脂粒子のSEM画像によって測定した平均粒子径としては、上述の粒子径の調整や光散乱の効果の観点から、100〜600nm、好ましくは150〜400nmであることが望ましい。
【0014】
また、本発明の凝集樹脂粒子の形状は不定形である。ここで、凝集樹脂粒子の形状とは凝集樹脂粒子の細部の形状ではなく、全体的な形状を対象とするものである。また、「不定形」とは、一つ一つの凝集樹脂粒子の形状がまちまちである状態のことである。かかる状態においては、多くの場合、大部分の粒子が球状とは言い難い形状を有しており、粒子を一方向から見た像、すなわち粒子投影像の周囲に凹凸を有している。
【0015】
この不定形の度合いを表す尺度として、下記式によって定義される円形度を用いることができる。
粒子投影像の円形度=(粒子投影面積と同じ面積の円の周長)/(粒子投影像の周長)
粒子投影像の円形度の平均値=粒子の円形度
すなわち、円形度は真円の場合に1となり、不定形の度合いが増すにつれ、より小さい値となる。本発明の凝集樹脂粒子においては、上記の粒子の円形度として0.50〜0.94の範囲が好ましく、0.70〜0.90の範囲がより好ましい。なお、かかる円形度は、例えば、シスメックス株式会社製フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000S」を用いて測定することができる。
【0016】
このように凝集樹脂粒子が不定形を有している状態においては、入射光が不規則に散乱されるため、塗膜などに添加した場合、見る角度に依存せず、広範囲の角度にわたって高い艶消し効果を発現することが期待できる。
【0017】
さらに、本発明の凝集樹脂粒子の嵩密度は0.20〜0.50g/cmであり、好ましくは0.25〜0.40g/cmであることが望ましい。この嵩密度は球状粒子においては0.7g/cm程度であるが、嵩密度が0.20〜0.50g/cmであれば、塗膜への粒子の添加重量を変えずに粒子数を増やし、塗膜表面の凹凸数を増やすことができるので、艶消し効果を高め、塗膜面に対して低角度から見た場合でも十分な艶消し効果が得られるようになる。
【0018】
かかる凝集樹脂粒子の体積平均粒子径としては、5〜50μmであることが好ましく、より好ましくは5〜30μm、さらに好ましくは7〜20μmである。平均粒子径が5μm未満であると、塗膜の表面に凹凸が付き難くなって低角度から見た場合に十分な艶消し効果を発現できない恐れがある。一方、平均粒子径が50μm範囲を越えると、塗膜への添加重量が同じであっても粒子数が減るため塗膜表面の凹凸数が減り、低角度から見た際の艶消し効果が不十分となる恐れがある。また、塗工時に斑が発生しやすくなり、塗膜表面にざらつきを与えるほか塗膜物性の低下を引き起こす可能性が高くなる。
【0019】
また、本発明の凝集樹脂粒子は分散安定剤および凝集剤のいずれも含有しないことが望ましい。ここで、分散安定剤とは、重合工程やその後に分散状態を安定化させるために添加される界面活性剤、乳化剤、懸濁安定剤などを指し、凝集剤とは一次粒子を凝集させるための高分子添加剤などを指す。これらの剤は凝集樹脂粒子を製造する工程において添加されることが多く、一般的な凝集樹脂粒子中にはこれらの剤が含有されている。しかし、これらの剤は、凝集樹脂粒子を塗料に添加混合した場合に凝集状態を解消させたり、塗料や塗膜の特性を低下させたりする恐れがある。
【0020】
本発明の凝集樹脂粒子の樹脂の種類、すなわち微小樹脂粒子の樹脂の種類としては特に限定されないが、凝集樹脂粒子が添加される塗料の樹脂との屈折率差ができるだけ小さくなる樹脂を凝集樹脂粒子の樹脂として選択することにより、得られる塗膜の内部ヘイズ値が低下し、透明性が向上する。具体的には凝集樹脂粒子と塗料樹脂の屈折率差が0〜0.04、好ましくは0〜0.03、より好ましくは0〜0.02である場合に優れた透明性を有する塗膜を得ることができる。
【0021】
この屈折率を調整するという観点から、凝集樹脂粒子の樹脂としては、利用できる単量体の種類が豊富なビニル系樹脂が好ましい。かかるビニル系樹脂を採用する場合に利用できるビニル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート等のアクリル酸エステル系単量体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ラウリル、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル系単量体、スチレン、p−メチルスチレン等のスチレン系単量体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル、酢酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル系単量体、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のN−アルキル置換(メタ)アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系単量体、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能単量体等が挙げられる。このような単量体は、単独で、または2種類以上を組合せて用いてもよい。
【0022】
また、メタクリル酸メチルやエチレングリコールジメタクリレートなどの水に対する溶解性が3重量%未満であるビニル系単量体を用いる場合、後述する製造方法により、分散安定剤および凝集剤のいずれも含有しない凝集樹脂粒子を簡便に得ることができるという利点がある。
【0023】
上述してきた本発明の凝集樹脂粒子は塗膜や樹脂成形品などの艶消し剤として利用した場合、艶消し効果が大きく、見る角度による艶消し効果の斑が小さいものを得ることができる。
【0024】
塗膜の艶消し剤として利用する場合には、塗料組成物に本発明の凝集樹脂粒子を添加混合し、これを塗布すればよい。このとき、塗料樹脂に対して凝集樹脂粒子の添加量を3〜40重量%とするのが好ましく、より好ましくは5〜35重量%、さらに好ましくは8〜30重量%である。添加量が3重量%未満であると艶消し効果を十分に付与することができず、一方、40重量%を越えると塗膜の外観が損なわれたり、塗膜物性の低下を引き起こしたりする恐れがある。
【0025】
また、上述したように、下地の色を損なわないようにしたいなど透明性が求められる場合には、凝集樹脂粒子と塗料樹脂との屈折率差ができるだけ小さくなるように樹脂の種類を選択することが望ましい。
【0026】
塗料組成物に凝集樹脂粒子を添加混合する方法としては、従来公知の方法を採用することができるが、例えば市販の透明な水性トップコート塗料に対して純水と凝集樹脂粒子を加えて高速ディスパーやホモジナイザー、サンドミル等で攪拌し、このとき必要に応じて消泡剤、難燃剤、防腐剤、防カビ剤、粘度調整剤などの助剤を添加する方法などが挙げられる。また、凝集樹脂粒子を添加混合する際には該粒子を乾燥させておく必要はなく、水系塗料に添加する場合などには水分を含んだウェット状態で添加しても構わない。
【0027】
かかる塗料組成物を塗布することにより、本発明の凝集樹脂粒子を含有する塗膜を形成することができる。かかる塗膜においては、従来に比べて高い艶消し効果の得られる角度が広範囲となり、特に、凝集樹脂粒子の体積平均粒子径が5〜50μmの範囲内である場合においては、20°、60°、85°グロス値の全てを0〜30%、さらには0〜20%という低いレベルに抑制することも可能である。かかるグロス値を得るには、塗膜の厚さを凝集樹脂粒子の平均粒子径の30〜250%、好ましくは40〜200%とすることが望ましい。また、上述したように凝集樹脂粒子と塗料樹脂の屈折率差を小さくすることにより塗膜の内部ヘイズ値を0〜8%という低いレベルに抑えることが可能である。すなわち、本発明の塗膜においては、20°、60°、85°グロス値の全てが0〜20%で、かつ内部ヘイズ値が0〜8%という従来困難であった特性の両立を実現することができ、高い透明性を維持しながら、あらゆる角度から見た際の高い艶消し性を有し、従来得られなかった高級感を有する塗膜外観を達成することができる。
【0028】
以上に述べてきた本発明の凝集樹脂粒子の製造方法としては、目的の凝集樹脂粒子が得られる限り特に制限されない。ここでは、その一例として、重合開始剤の溶解した水中にビニル系単量体の液滴を分散させ、加熱・撹拌しながら重合することで凝集状の粒子を形成し、かかる粒子を必要に応じて粉砕・分級し、目的とする凝集樹脂粒子を得る方法について述べる。
【0029】
かかる方法において使用されるビニル系単量体としては、20℃における水に対する溶解性が3重量%未満、好ましくは2重量%未満のビニル系単量体を用いることが望ましく、かかるビニル系単量体を全単量体重量に対して90重量%以上、好ましくは95重量%以上用いる。かかるビニル単量体の代表的な例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル等のアクリル酸エステル系単量体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸エステル系単量体、スチレン、p−メチルスチレン等のスチレン系単量体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル、酢酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル系単量体、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどを挙げることができる。かかる単量体が90重量%未満の場合、微小樹脂粒子が凝集しなくなる場合がある。これは、水に対する溶解性が3重量%以上のビニル系単量体の使用量が多くなることで、かかる単量体が優先的に重合し、分散剤的な役割を果たすためと考えられる。また、全仕込み重量に対する全単量体重量の割合としては、5〜35重量%であることが望ましい。
【0030】
重合開始剤としては水溶性重合開始剤であれば、アゾ系、過硫酸塩系、過酸化物系、レドックス系などいずれの種類の開始剤でも採用でき、光開始剤でも、熱開始剤でもよい。代表的な例としては、2,2'-Azobis(2-methylpropionamidine)dihydrochloride、2,2'-Azobis(1-imino-1-pyrrolidino-2-methylpropane)dihydrochloride、t-Butyl
hydroperoxide、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素/鉄(II)イオン系などを挙げることができる。
【0031】
かかる水溶性重合開始剤は、全単量体重量に対して0.25〜3重量%、好ましくは0.25〜2重量%用いることが望ましい。かかる範囲内とすることにより、微小樹脂粒子が凝集した状態であり、かつ、塊状化していない適度な大きさの粒子を得ることができる。
【0032】
以上のようにして、本発明の凝集樹脂粒子を得ることができるが、必要に応じて粉砕処理を施し、所望の粒子径に調整することも可能である。上述したようにかかる粒子は粉砕しやすい構造をとっているので、かかる粉砕処理においては特別な装置を必要とせず、ブレードミル、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、ロールなどの汎用の粉砕装置を用いることができる。また、粉砕処理に際しては、粒子を乾燥させておく必要はなく、重合終了後そのまま粉砕することも可能である。
【0033】
また、上述したように本発明の凝集樹脂粒子の製造においては分散安定剤や凝集剤を用いないことが望ましい。上記に詳述した製造方法においては、これらの剤を使用せずに適度な凝集状態の凝集樹脂粒子を得ることが可能である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例および比較例により本発明の効果を説明するが、本発明の範囲はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例における特性値の評価は以下の方法に従った。
【0035】
(1)凝集樹脂粒子の円形度および体積平均粒子径
上述した定義による粒子の円形度および体積平均粒子径をフロー式粒子像分析装置(FPIA−3000S:シスメックス(株)製)によって測定した。
【0036】
(2)微小樹脂粒子の平均粒子径
凝集樹脂粒子のSEM画像において、微小樹脂粒子を任意に20個選び出して、それぞれの直径を測定し平均値を算出した。
【0037】
(3)嵩密度
体積が既知の容器A(cm)に粒子を充填し、その重量B(g)を測定して嵩密度を算出した。
嵩密度(g/cm)=B(g)/A(cm
【0038】
(4)屈折率差
試料をスライドガラスにセットして標準屈折液(カーギル標準屈折液)を滴下後、カバーガラスをセットして光学顕微鏡によってサンプルを観察した。サンプルが確認できなくなるまで標準屈折液を変更し、確認できなくなった標準液の屈折率をサンプルの屈折率とした。屈折率差は2つのサンプルの屈折率の差の絶対値である。なお、塗料樹脂については、該樹脂のみ硬化させたものを粉砕して得られた粉末を試料として用いた。
【0039】
(5)内部ヘイズ値
まず、塗膜サンプルの表面にセロファンテープを貼り付けて表面凹凸をなくした状態にして、ヘイズメーター(NDH 2000:日本電色(株)製)でヘイズ値を測定する(ヘイズA(%))。次にPETフィルム(コスモシャイン#A4300(厚さ100μm:東洋紡績(株)製)にセロファンテープを貼り付けたサンプルのヘイズ値を測定する(ヘイズB(%))。下記式より内部ヘイズ値(%)を算出した。
内部ヘイズ値[%]=ヘイズA[%]−ヘイズB[%]
【0040】
(6)20°、60°、85°グロス値
隠蔽率試験紙上に作成した塗膜サンプルを光沢度計(VG 2000:日本電色(株)製)をによって測定した。
【0041】
[実施例1]
反応槽に水300重量部を仕込み、重合開始剤として2,2'-Azobis(1-imino-1-pyrrolidino-2-methylpropane)dihydrochloride0.6重量部を溶解させる。次いで単量体としてメタクリル酸メチル99重量部とエチレングリコールメタクリレート1重量部を加えて、撹拌しながら45℃で2時間反応させる。析出した凝集樹脂粒子を濾別、水洗、乾燥させた後、風力分級機で粉砕、分級し、実施例1の凝集樹脂粒子を得た。該凝集樹脂粒子の特性を測定した結果を表1に示す。また、該粒子のSEM画像を図1および図2に示す。
【0042】
上記で得られた凝集樹脂粒子3重量部と水50重量部を水性トップコート塗料(水溶性つやだしニス(アクリル樹脂、樹脂濃度30重量%):和信ペイント(株)製)100重量部に加え、ホモジナイザーで10分間撹拌した。得られた塗料組成物をPETフィルム(コスモシャイン#A4300(厚さ100μm:東洋紡績(株)製)上にバーコーター#26で塗工し、その後50℃の熱風乾燥機中で30分乾燥した。かかる塗膜の評価結果を表1に示す。なお、塗膜の厚さは粒子による凹凸があるため直接測定できないが、粒子を添加しないこと以外は同様にして作成した塗膜の厚さをマイクロメータで測定したところ9μmであった。
【0043】
[実施例2]
反応槽に水300重量部を仕込み、重合開始剤として過硫酸カリウム0.6重量部を溶解させる。次いで単量体としてメタクリル酸メチル100重量部を加えた後、ピロ亜硫酸ナトリウム0.45重量部を加え、撹拌しながら45℃で2時間反応させる。析出した凝集樹脂粒子を濾別、水洗、乾燥させた後、風力分級機で粉砕、分級し、実施例2の凝集樹脂粒子を得た。また、該粒子を用い、実施例1と同様にして、塗膜を作成した。これらの評価結果を表1に示す。
【0044】
[実施例3、4]
風力分級機での粉砕条件を変更すること以外は実施例1と同様にして、実施例3および4の凝集樹脂粒子および塗膜を得た。これらの評価結果を表1に示す。
【0045】
[比較例1]
反応槽に水831重量部を仕込み、ポリビニルアルコール(PVA217:(株)クラレ製)7部、硫酸ナトリウム10重量部、硫酸銅・5水和物1重量部を溶解させる。次いで単量体としてメタアクリル酸メチル135重量部とエチレングリコールジメタクリレート15重量部、開始剤として2,2’―アゾビス(2−メチルバレロニトリル)1重量部を溶解したものを加えて、攪拌しながら50℃で5時間反応させることで球状粒子の水分散体を得た。該水分散体から粒子を濾別、水洗、乾燥させ、比較例1の粒子を得た。該粒子の特性を測定した結果を表1に示す。また、該粒子を用いること以外は実施例1と同様にして作成した塗膜の評価結果を表1に示す。
【0046】
[比較例2]
単量体としてメタクリル酸メチル85重量部と2−ヒドロキシエチルメタクリレート15重量部を用いること以外は実施例1と同様にして重合を行ったところ微小樹脂粒子の水分散体が得られた。かかる水分散体を噴霧乾燥し、球状の凝集樹脂粒子を得た。該粒子の特性を測定した結果を表1に示す。また、該粒子を用いること以外は実施例1と同様にして作成した塗膜の評価結果を表1に示す。
【0047】
[比較例3]
過硫酸カリウムを5重量部、ピロ亜硫酸ナトリウムを3.75重量部とを用いること以外は実施例2と同様にして反応を行ったが、析出した粒子が一体塊状化し、粉砕困難で、凝集樹脂粒子は得られなかった。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例1〜4では不定形の凝集樹脂粒子が得られ、これらの粒子を添加した塗膜は、広範囲にわたる角度において優れた艶消し効果を有しながら、高い透明性を併せ持つものである。一方、比較例1では単独の球形で凝集しておらず、嵩密度が高い粒子が得られ、該粒子を添加した塗膜の艶消し効果は高くない。これは、塗膜の表面状態が単調となり、相対的に凹凸数も少なくなるためと考えられる。比較例2では凝集しているが全体として球状の粒子が得られ、該粒子を添加した塗膜の艶消し効果は比較例1に対しては若干良いものの、不定形の凝集樹脂粒子に比べると劣るものである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の凝集樹脂粒子を塗料組成物に添加し、これを塗布することで高い透明性と広範囲にわたる優れた艶消し性を両立する塗膜を得ることができるので、下地の色合い、柄、模様等をぼかすことなく、斑の小さい艶消し性を付与した高級感のある塗膜表面を提供することが可能である。かかる凝集樹脂粒子は塗料分野のみならず、樹脂成形品や人工皮革などの艶消し性の求められる分野に幅広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小樹脂粒子が凝集した凝集樹脂粒子において、前記微小樹脂粒子が凝集前の形状を維持しており、前記凝集樹脂粒子の形状が不定形であって、嵩密度が0.20〜0.50g/cmであることを特徴とする凝集樹脂粒子。
【請求項2】
微小樹脂粒子のSEM画像によって測定した平均粒子径が100〜600nmであり、凝集樹脂粒子の体積平均粒子径が5〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載の凝集樹脂粒子。
【請求項3】
分散安定剤および凝集剤のいずれも含有しないことを特徴とする請求項1または2に記載の凝集樹脂粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の凝集樹脂粒子を含有する塗料組成物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の凝集樹脂粒子を含有する塗膜。
【請求項6】
全単量体重量に対して、90重量%以上の水に対する溶解性が3重量%未満であるビニル系単量体と0.25〜3重量%の水溶性重合開始剤を用いて、水中で重合することにより凝集樹脂粒子を形成させる凝集樹脂粒子の製造方法。
【請求項7】
分散安定剤および凝集剤のいずれも添加しないことを特徴とする請求項6に記載の凝集樹脂粒子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−74229(P2011−74229A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227299(P2009−227299)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【Fターム(参考)】