説明

凝集装置及び凝集方法

【課題】凝集処理における凝集剤添加量を的確に制御する。
【解決手段】原水を凝集攪拌槽2Aに導入し、凝集剤を添加することにより凝集処理する凝集装置及び凝集方法。原水中の有機物濃度及び凝集阻害物質量を検出する有機物濃度計22及び吸光度測定器11と、これらの検出値に基いて凝集剤の添加量を制御する制御装置20とを有する。原水の有機物を分子量に応じて分画し、分画された有機物濃度を測定し、これに基いて凝集剤添加量を制御する。好ましくは、紫外部の吸光度と可視部の吸光度とを測定し、両者の差も考慮して凝集剤添加量を制御する。凝集沈殿処理後、砂濾過及び膜濾過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然水を原料とする用水処理や、工場排水又は下水等を処理する廃水処理において、原水に凝集剤を添加して凝集処理を行う凝集装置及び凝集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然水を原料とする用水処理や、工場排水又は下水等を処理する廃水処理においては、原水に凝集剤を添加して、原水中の懸濁物質、コロイダル成分や有機物質を凝結かつ粗大化させた後、沈殿、浮上、濾過、膜濾過等により固液分離することが行われている。
【0003】
凝集処理は、後段に位置する沈殿、浮上、濾過、膜濾過等の固液分離効率を高めるためのものであり、凝集剤としては、一般にアルミニウム塩や鉄塩等の無機凝集剤が用いられる。また、無機凝集剤で凝結した粒子を更に粗大化させるための凝集補助剤として高分子凝集剤が併用される場合も多い。
【0004】
このような無機凝集剤による凝集ないし凝結作用は、原水中に存在するフミン・フルボ質や、藻類が生産する細胞内外の代謝産物等の天然有機物や界面活性剤等の合成化学物質等により阻害を受け、凝集ないし凝結速度が遅くなったり、凝集不良に到ったりする。このような凝集不良が生じると、凝集処理工程の後段に設けられることがある濾過装置に目詰り等の悪影響が生じる。
【0005】
従来、用水や廃水処理では、最適な凝集条件を設定するために、別途ジャーテスターを用いて凝集剤の添加濃度やpHを決定する操作が行われているが、このような操作は一般に煩雑な操作と長い時間を要し、このために、原水の水質変動に対応し得ず、決定した凝集剤添加量やpH調整値を即時的に反映することができない結果、凝集不良を招くことが多い。
【0006】
特公平6−103296号公報には、原水への凝集剤添加率や撹拌時間、撹拌速度の組み合せにおいて、最適条件を設定するためのジャーテストを自動的に行うための試験装置が提案されているが、この装置はジャーテスターであり、試験結果を実際の撹拌槽に反映して凝集処理を行うためのものではない。
【0007】
特許第3205450号公報には、撹拌槽内の凝集フロックの粒径と溶解性有機物の紫外吸光度を測定し、これらの結果に基いて凝集剤添加量を制御し、また、凝集フロックの粒径から撹拌槽の撹拌機の回転数を決定する薬注装置が提案されている。この装置では、撹拌槽内の溶解性有機物濃度、即ち、凝集剤が添加され撹拌されている凝集液の溶解性有機物濃度を検出し、これを凝集フロックの粒径の検出値と共に、凝集剤添加量の制御の指標とし、一方、撹拌強度は、凝集フロックの粒径に基いて設定しているが、十分に満足し得る凝集処理結果が得られているとは言えず、より一層の改善が望まれている。
【特許文献1】特公平6−103296号公報
【特許文献2】特許第3205450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、原水中にフミン質等の天然有機物や、界面活性剤等の合成有機化学物質、あるいはコロイド成分などの濁度成分が存在する場合、凝集作用が阻害される。しかしながら、原水中の有機物濃度を測定し、この測定値に基いて凝集剤添加量を制御しても、薬注量が不足して十分な凝集処理結果が得られなかったり薬注量が過剰となったりすることがある。
【0009】
本発明者が種々検討を重ねた結果、原水が有機物として分子量の小さいものを多く含んでいる場合、分子量の大きいものを多く含む原水を処理する場合に比べて凝集剤添加量を増やす必要があり、逆に分子量が大きい有機物を多く含む原水の場合には凝集剤添加量は比較的少量でも十分な凝集効果が得られることが知見された。
【0010】
本発明は、原水中の有機物を分子量に応じて複数の群(画分)に分画し、分画された少なくとも1つの群の有機物濃度に応じて凝集剤添加量を的確に制御する凝集装置及び凝集方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明(請求項1)の凝集装置は、原水に凝集剤を添加する凝集剤添加手段と、原水中の有機物を分子量に応じて複数の群に分画する分画手段と、分画された少なくとも1つの群の有機物濃度を測定する無機炭素除去機能を有する有機物濃度計と、該有機物濃度計で測定された有機物濃度に基いて前記凝集剤添加手段の凝集剤添加量を制御する凝集剤添加量制御手段とを備えてなることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の凝集装置は、請求項1において、前記分画手段は、M,Mの2個の分画分子量によって有機物を分画するものであり、Mは500〜2000の間から選定され、Mは10万〜20万の間から選定された分子量であり、3群の有機物濃度に基いて凝集剤添加量を制御することを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の凝集装置は、請求項1又は2において、前記分画手段は、高速液体クロマトグラフィー又は選択性濾過膜であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4の凝集装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、原水の波長200〜700nmの光の吸光度を少なくとも1波長測定する吸光度測定器が設けられており、前記凝集剤添加量制御手段は、少なくとも低分子量の群の有機物濃度と、この吸光度測定器の測定値とに基いて凝集剤添加量を制御することを特徴とするものである。
【0015】
請求項5の凝集装置は、請求項4において、該吸光度測定器は、200〜490nmの紫外部吸光度と、500〜700nmの可視部吸光度をそれぞれ1波長以上測定するものであることを特徴とするものである。
【0016】
請求項6の凝集装置は、請求項1ないし5のいずれか1項において、さらに、凝集処理後の処理水を処理する選択性透過膜処理装置を備えたことを特徴とするものである。
【0017】
請求項7の凝集装置は、請求項6において、前記選択性透過膜処理装置の透過性能の検出手段が設けられており、前記凝集剤添加量制御手段は、さらにこの検出手段の検出値に基いて凝集剤添加量を制御することを特徴とするものである。
【0018】
本発明(請求項8)の凝集方法は、原水に凝集剤を添加することにより凝集処理する凝集方法において、原水中の有機物を分子量に応じて複数の群に分画し、少なくとも1つの群の有機物濃度の検出値に基いて原水への凝集剤添加量を制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明者が種々研究を重ねた結果、原水中の有機物の分子量に応じ、凝集剤の最適薬注量は異なることが知見された。例えば、低分子量の有機物を凝集処理する場合の凝集剤の最適薬注量は、同一量の高分子量有機物を凝集処理する場合の最適薬注量よりも多い。本発明は、かかる知見に基いて創案されたものである。
【0020】
本発明では、原水中の有機物を分子量に応じて分画し、少なくとも1つの画分の有機物分子量に応じて凝集剤添加量を制御するので、良好な凝集処理を行うことができる。
【0021】
また、これにより、凝集処理工程の後段にMF膜、UF膜、NF膜或いはRO膜などの膜分離装置がある場合、これらの膜の汚染を防止ないし抑制することができる。なお、凝集処理した処理水をさらに選択性透過膜処理装置で処理することにより、良好な水質の処理水が得られる。
【0022】
なお、各群の有機物濃度をTOC計などで容易に測定することはできない。これは低濃度の有機物を測定する場合、無機炭素の影響が大きくなるためである。そこで、有機物濃度の測定には無機炭素除去機能を有する有機物濃度計を使用する。
【0023】
本発明では、原水の波長200〜700nmの少なくとも1波長の吸光度を測定し、前記有機物濃度とこの吸光度とに基いて凝集剤添加量を制御するのが好適である。この吸光度の測定には、200〜490nmの紫外部の吸光度と500〜700nmの可視部の吸光度とをそれぞれ1波長以上測定するのが好適である。例えば、波長260nmの吸光度でフミン・フルボ酸系有機物を定量し、波長660nmの吸光度で濁度成分を定量し、これらの吸光度と上記有機物濃度測定値とに基いて凝集剤添加量を制御することにより、凝集処理水質がさらに向上する。
【0024】
本発明では、さらに上記選択性透過膜処理装置の透過性能を検出し、上記各有機物濃度あるいは吸光度の検出値とこの透過性能の検出値とに基いて凝集剤の添加量を制御することにより、きわめて良好な凝集分離処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に図面を参照して本発明の凝集装置及び凝集方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の凝集装置を備える凝集沈殿装置の実施の形態を示す系統図である。
【0027】
図1において、1は原水槽であり、吸光度測定器11を備える。2Aは急速凝集撹拌槽であり、撹拌機2aとpHセンサ13を備える。この凝集攪拌槽2Aに凝集剤貯槽4から凝集剤が薬注ポンプ14を介して供給されると共に、pH調整用の酸、アルカリが各々の貯槽6,7から薬注ポンプ15,16を介して供給される。2Bは緩速撹拌槽であり、撹拌機2bと凝集状態検知センサ17を備える。3は沈殿槽である。
【0028】
沈殿槽3の後段に砂濾過器8と膜濾過装置9が設置されている。膜濾過装置9の膜としては、MF膜、UF膜、NF膜、RO膜が例示される。
【0029】
なお、前記原水槽1から原水の一部が分取され、分画装置21にて分子量に応じて複数の群に分画された後、無機炭素除去機能を有する有機物濃度計(この実施の形態では、無機炭素除去機能を有したTOC計)22に供給されるよう構成されている。ただし、原水は原水槽以外の箇所から分取されてもよい。
【0030】
分画装置21としては、高速液体クロマトグラフィーや、選択性濾過膜を有した濾過装置が例示されるが、これに限定されない。
【0031】
本発明では、原水中の有機物を2〜4特に3個の群に分画するのが好適である。2個の群に分画する場合、閾値は2000〜10万の間から選ばれるのが好ましい。
【0032】
有機物を3群、即ち分子量Mよりも小なる低分子量群と、M〜Mの中間分子量群と、M超の高分子量群との3群に分画する場合、Mは500〜2000の間から選定され、Mは10万〜20万の間から選定されるのが好ましい。
【0033】
有機物濃度計22は、分画装置21で分画された各画分が順次導入され、各画分の有機物濃度を分析し、制御装置20に出力する。分画された有機物濃度の測定は連続的に行ってもよいし、定期的に分析し代表値を制御に用いてもよい。なお、一部たとえば1つの画分の濃度のみを測定してもよい。
【0034】
制御装置20へは、吸光度測定器11、有機物濃度計22、pHセンサ13及び凝集状態検出センサ17の各検出値が入力され、凝集剤薬注ポンプ14、酸薬注ポンプ15及びアルカリ薬注ポンプ16の回転数制御信号が出力される。
【0035】
原水は、原水槽1に導入され、吸光度測定器11により、原水中の凝集阻害物質濃度が検出され、検出結果が制御装置20に入力される。吸光度測定器11は、浸漬型のものであってもサンプリング型のものであってもよい。この吸光度測定器11としては、波長200〜490nmの紫外部短波長の吸光度計と、波長500nmから700nmの可視光の吸光度計を備えたものが好適である。この紫外部、例えば260nmの吸光度からフミン・フルボ酸系有機物の濃度を測定することができ、可視光、例えば660nmの吸光度から濁度成分の濃度を測定することができる。
【0036】
なお、天然水の凝集特性を精査したところ、天然水の波長200nm〜490nm好ましくは230〜300nmの紫外部吸光度と波長500nm〜700nm好ましくは500〜600nmの可視部吸光度をそれぞれ1波長以上測定した結果から演算された凝集阻害物質濃度と、0.45μmメンブレンフィルターを用いて一定量の試料水を濾過するのに要する時間(以下KMF値という。)から判断した最適凝集剤添加量との間には相関関係があること、また、凝集阻害物質濃度と上記紫外部及び可視部の吸光度との間には次式のように相関があることが見出された。従って、紫外部及び可視部吸光度をそれぞれ1波長以上測定することにより、凝集阻害物質濃度を推算できる。
(凝集阻害物質濃度)=[(フミン・フルボ酸系有機物)−(濁度物質)]
=A×[(紫外部吸光度)−(可視部吸光度)]
【0037】
本発明者の研究では、この凝集阻害物質濃度を測定することは容易であるが、有機物の分子量によって吸収が異なるため、有機物濃度計22で測定される例えば1000未満の低分子量の画分の有機物濃度と、吸光度測定器11で測定される吸光度から求められる凝集阻害物質濃度とに基いて凝集剤添加量を制御してもよい。
【0038】
原水槽1内の原水は次いで急速凝集撹拌槽2Aに導入される。この急速凝集撹拌槽2Aにおいて、原水は、凝集剤貯槽4の凝集剤が薬注ポンプ14により添加されると共に、酸、アルカリの添加によりpH調整され、撹拌機2aにより撹拌されて凝集処理される。この急速凝集撹拌槽2A内のpHがpHセンサ13により検出され、検出結果が制御装置20に入力される。急速凝集撹拌槽2Aから流出した水は、緩速凝集撹拌槽2Bに導入され、ゆっくりと撹拌されてフロックが成長する。この緩速撹拌槽2B内の凝集状態がセンサ17によって検出される。
【0039】
凝集撹拌槽2Aへの凝集剤添加量は、この実施の形態では、吸光度測定器11、有機物濃度計22及び凝集状態検出センサ17の検出値に基いて制御される。即ち、例えば、制御装置20において、入力された各々の検出値を予め設定した凝集剤添加量の決定式に代入し、その算出結果に基いて薬注ポンプ14の回転数が制御され、適正量の凝集剤が添加される。この薬注ポンプ14としては、市販の可変式定量ポンプ等が用いられる。
【0040】
分子量で分画された各群(画分)の有機物濃度に基いて凝集剤の添加量を制御するには、各画分の有機物濃度に比例定数を乗じ、それらの和を求めるのが好ましい。有機物を分子量に応じて低、中間、高の3群に分画する場合であれば、次式(1)に従って凝集剤添加量を演算する。
凝集剤添加量=a・(低分子量有機物濃度)+b・(中間分子量有機物濃度)
c・(高分子量有機物濃度)+d …(1)
a,b,c,dは定数である。m,n,pは各群の有機物濃度と最適凝集剤添加量との関係から求められる関数の次元であり、通常1としてよい。
【0041】
このように3群に分画する場合、低、中間分子量を区分する分子量Mは500〜2000の間から選定されるのが好ましく、中間と高分子量とを区分する分子量Mは10万〜20万の間から選定されるのが望ましい。
【0042】
TOC計22による有機物濃度及び吸光度測定器11による凝集阻害物質濃度に応じて凝集剤の添加量を制御するには、低分子量の画分たとえば上記Mよりも低分子量の有機物濃度に応じて決定される添加量と、吸光度から求められる凝集阻害物質濃度に応じて決定される添加量との和とするのが好ましい。一般的には、有機物濃度に係数を乗じ、また凝集阻害物質濃度に係数を乗じて凝集剤添加量を演算することとなる。即ち、
凝集添加量=g・(低分子量有機物濃度)+e・(凝集阻害物質濃度)+f
である。g,e,fは定数である。
なお、q,rは低分子量の有機物濃度及び阻害物質濃度と最適凝集剤添加量との関係から求められる関数の次元であり、通常は1としてよい。即ち、前述の通り、凝集阻害物質濃度と有機物濃度の相関は分子量によって異なる。この凝集阻害物質濃度は、紫外部吸光度と可視部吸光度との差に比例するので、阻害物質濃度は、紫外部吸光度と可視部吸光度に係数を乗じて演算するのが好適である。
ただし、凝集阻害物質濃度は、紫外部吸光度のみに比例するものとして演算してもよい。多少精度は低くなるが、簡便に凝集阻害物質濃度を求めることができる。
【0043】
紫外部吸光度は、200〜490nm特に230〜300nm例えば260nmの吸光度(E260)とされ、可視部吸光度は、500〜700nm特に600〜700nm例えば660nmの吸光度(E660)とされる。
【0044】
定数a,b,c,d,e,f,gは、予め有機物濃度測定及び吸光度測定した原水を用いてジャーテストにより測定したKMF値から決定することができる。
【0045】
演算式決定例を次に示す。
有機物濃度、(E260−E660)値が異なる原水を分子量1000で分画した低分子量有機物含有水について凝集試験を行い、KMF値が低い値で安定する最小PAC添加量を最適PAC添加濃度とする。なお、ここでのKMF値とは、直径47mmのメンブレンフィルターを用い、真空吸引圧力500mmHgで濾過した時の最初の500mL濾過時間及びその後の500mL濾過時間を足したものとする。
【0046】
第2図に最適PAC添加濃度とE260−E660の関係を示し、第3図に最適PAC添加濃度と分子量1000以下の低分子量有機物濃度の関係を示す。
【0047】
第2図の通り、吸光度に応じた最適PAC添加濃度(凝集剤添加濃度)は、
最適PAC添加濃度=204.63×
(紫外部吸光度E260−可視部吸光度E660)+α
で表すことができる。低分子量有機物濃度が増加するに従って、最適PAC添加濃度は上昇する。
【0048】
第3図の通り、最適PAC添加濃度は比例定数46.129で低分子量有機物濃度に比例する。従って、
最適PAC添加濃度=46.129×(低分子量有機物濃度[mg/L])+
204.63×(E260−E660[abs./50mm])−19.35
と表すことができる。
【0049】
酸、アルカリの薬注ポンプ15,16は、凝集攪拌槽2内のpHが5.0〜8.0となるように制御装置20によって制御される。
上記の緩速凝集撹拌槽2Bに設置された凝集状態検出センサ17としては、緩速凝集撹拌槽2Bの液体を別の沈殿槽に移送して、一定時間沈降させた上澄みの濁度を検出する装置とセンサや、凝結ないし凝集した粒子のゼータ電位や流動電位を検出する装置とセンサ等も用いることもできるが、緩速凝集撹拌槽2B内にて凝結ないし凝集した粒子間の清澄度を検出する光遮断式微粒子センサや光散乱式微粒子センサが好適に用いられる。
【0050】
緩速凝集撹拌槽2B内でゆっくりと撹拌されることによりフロックが成長した凝集処理水は、沈殿槽3に導入されて凝結、凝集粒子が沈降分離され、上澄水が砂濾過器8及び膜濾過装置9で順次に処理される。
【0051】
なお、図1は本発明の実施の形態の一例を示すものであり、本発明はその要旨を超えない限り、何ら図示のものに限定されるものではない。
【0052】
例えば、図1では、分画装置21とTOC計22とを別個に設けているが一体化させてもよい。
【0053】
図1では、凝集剤を凝集撹拌槽2Aに添加しているが、凝集剤は、凝集撹拌槽2Aへの原水導入配管に注入しても良い。更に、図1では、凝集処理水の固液分離手段として沈殿槽3を示したが、浮上槽などであってもよい。
また、膜濾過装置9の透過性能の検出手段を設け、さらにこの検出手段の検出値に基いて凝集剤添加量を制御するようにしてもよい。この透過性能の検出手段としては、透過差圧計や、透過流束測定装置などを用いることができる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0055】
実施例1(3群の有機物濃度に基く制御)
有機物汚染の進んだA湖水を水源とする凝集・沈殿・砂濾過・UF膜濾過施設において、図1に示す凝集沈殿装置を用いて、本発明による凝集沈澱処理を行った。砂濾過器8は有効径0.45mmの濾過砂を600mm積層したカラムを用いた。凝集撹拌槽2A,2Bは有効容量300mのパドル式撹拌機付きの角型撹拌槽であり、原水量は30m/h、急速凝集撹拌槽の滞留時間は6分とした。急速凝集撹拌槽2Aでは60rpm、緩速凝集撹拌槽2Bでは30rpmで撹拌した。
【0056】
分画装置21としては、高速液体クロマトグラフィー(カラムはOhpak SB804HQ)を用い、分子量1000、16万で3段的に分画し、各々の有機物濃度に基いて凝集剤添加量を制御した。
【0057】
凝集剤としてはポリ塩化アルミニウム(PAC)を用いた。なお、PAC添加量を制御する演算式は、予め、A湖水を用いたジャーテストの結果から求め、次の通りとした。
PAC添加濃度(mg/L)=71.778×(低分子量有機物濃度[mg/L])
+58.416×(中間分子量有機物濃度[mg/L])+36.892×(
(高間分子量有機物濃度[mg/L])+14.31
また、急速凝集撹拌槽2AのpHは6.5となるように酸、アルカリの薬注制御を行った。
【0058】
実施例2
分画装置21とTOC計とを一体化した装置を用いた他は実施例1と同様にして試験を行った。結果を表1に示す。
通水試験結果を表1に示す。
【0059】
実施例3(低分子量有機物濃度とE260による制御)
実施例1において、吸光度測定器11でさらに波長260nmの紫外部吸光度を測定し、PAC添加量演算式を次の通りとした他は同様にして試験を行った。
PAC添加濃度(mg/L)=46.129×(低分子量有機物濃度[mg/L])
+204.63×E260[abs./50mm]−19.35
通水試験結果を表1に示す。
【0060】
実施例4(低分子量有機物濃度と[E260−E660]による制御)
実施例1において、吸光度測定器11で波長260nmの紫外部吸光度と660nmの可視部吸光度を測定し、PAC添加量演算式を次の通りとした他は同様にして試験を行った。
PAC添加濃度(mg/L)=46.129×(低分子量有機物濃度[mg/L])
+204.63×(E260−E660[abs./50mm])−19.35
【0061】
吸光度測定器としては、波長200nm〜700nm近傍の紫外〜可視光領域を走査できるHACH社製吸光光度計を用いた。
通水試験結果を表1に示す。
【0062】
実施例5
実施例4において、高速液体クロマトグラフィーの代わりに選択性濾過膜を用いた他は同様にして試験を行った。結果を表1に示す。
【0063】
実施例6
実施例5において、凝集状態検出センサ17の検出値を加味してPAC添加量を補正した。凝集状態検出センサとしては栗田工業株式会社製の凝集センサ(クリピタリ)を用いた。添加量補正は具体的には、凝集状態を検出するセンサで測定した上澄水濁度が1度を超えた場合にPAC添加量を演算式で導いた値の1.2倍添加するように補正した。
通水試験結果を表1に示す。
【0064】
比較例1
吸光度の測定によるPAC添加量制御を行わず、PAC添加量を60mg/Lと一定としたこと以外は実施例1と同様にして凝集沈殿処理を行った。
【0065】
比較例2
PAC添加濃度をE260−E660にのみ基いて制御した。即ち、分画した各有機物濃度はPAC添加制御に採用せず、PAC添加濃度を次式で制御した。
PAC添加濃度=517×(E260−E660)−10.6
【0066】
[実施例1〜6と比較例1〜2との比較]
5月の晴天、降雨により水質変動が生じた時期にそれぞれ1ヶ月の通水を行った。なお、同じ原水を使用するため、実施例1〜6と比較例1〜2を並列して行った。通水試験期間中の原水のE260と、PAC添加濃度、凝集沈殿処理水KMF値、UF膜の濾過差圧ΔP上昇速度を表1に示した。
【0067】
なお、ここでのKMF値とは、直径47μmのメンブレンフィルターを用い、真空吸引圧力500mmHgで濾過した時の最初の500mL濾過時間及びその後の500mL濾過時間を足したものとする。
【0068】
実施例1では、分画した各有機物濃度に基いてPAC添加量を制御したことにより、KMF値及びΔP上昇速度が低い値で推移した。実施例2でも同様の効果が得られた。
実施例3では、分画した低分子量有機物濃度とE260(原水有機物濃度指標)によりPAC添加量を制御したことで、実施例1よりもΔP上昇速度が低かった。
実施例4では、さらにE660(原水濁度指標)を加味して凝集剤添加量を制御したことで、実施例3よりもΔP上昇速度が低かった。実施例5でも同様の効果が得られた。
実施例6では、凝集状態からPAC添加量を補正したことで、実施例5よりもΔP上昇速度が低かった。
比較例1,2では、いずれもΔPが急激に上昇した。
【0069】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の凝集装置を備える凝集沈殿装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】PAC添加濃度を示すグラフである。
【図3】PAC添加濃度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
1 原水槽
2A 急速凝集撹拌槽
2B 緩速凝集撹拌槽
3 沈殿槽
4 凝集剤貯槽
8 砂濾過器
9 膜濾過装置
11 吸光度測定器
13 pHセンサ
14,15,16 薬注ポンプ
17 凝集状態検出センサ
20 制御装置
21 有機物分画装置
22 有機物濃度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水に凝集剤を添加する凝集剤添加手段と、
原水中の有機物を分子量に応じて複数の群に分画する分画手段と、
分画された少なくとも1つの群の有機物濃度を測定する無機炭素除去機能を有する有機物濃度計と、
該有機物濃度計で測定された有機物濃度に基いて前記凝集剤添加手段の凝集剤添加量を制御する凝集剤添加量制御手段とを備えてなることを特徴とする凝集装置。
【請求項2】
請求項1において、前記分画手段は、M,Mの2個の分画分子量によって有機物を3群に分画するものであり、Mは500〜2000の間から選定され、Mは10万〜20万の間から選定された分子量であり、3群の有機物濃度に基いて凝集剤添加量を制御することを特徴とする凝集装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記分画手段は、高速液体クロマトグラフィー又は選択性濾過膜であることを特徴とする凝集装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、原水の波長200〜700nmの光の吸光度を少なくとも1波長測定する吸光度測定器が設けられており、
前記凝集剤添加量制御手段は、少なくとも低分子量の群の有機物濃度と、この吸光度測定器の測定値とに基いて凝集剤添加量を制御することを特徴とする凝集装置。
【請求項5】
請求項4において、該吸光度測定器は、200〜490nmの紫外部吸光度と、500〜700nmの可視部吸光度をそれぞれ1波長以上測定するものであることを特徴とする凝集装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、さらに、凝集処理後の処理水を処理する選択性透過膜処理装置を備えたことを特徴とする凝集装置。
【請求項7】
請求項6において、前記選択性透過膜処理装置の透過性能の検出手段が設けられており、前記凝集剤添加量制御手段は、さらにこの検出手段の検出値に基いて凝集剤添加量を制御することを特徴とする凝集装置。
【請求項8】
原水に凝集剤を添加することにより凝集処理する凝集方法において、
原水中の有機物を分子量に応じて複数の群に分画し、少なくとも1つの群の有機物濃度の検出値に基いて原水への凝集剤添加量を制御することを特徴とする凝集方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−68200(P2008−68200A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249058(P2006−249058)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】