説明

凝集防止剤をコーティングした徐放性微粒子製剤

【目的】新規薬物含有高分子重合物微粒子製剤を提供する。
【構成】凝集防止剤で膜状にコーティングされた薬物含有高分子重合物微粒子製剤、および薬物を含む高分子重合物溶液と、凝集防止剤の水溶液とをそれぞれ別のノズルを用いて噴霧乾燥器中で噴霧・接触させることを特徴とする、凝集防止剤で膜状にコーティングされた薬物含有高分子重合物微粒子製剤の製造方法
【効果】本発明製剤は、薬物の含量が高くしかも薬物の初期放出量の少なく、粒度分布がせまい、粒度のそろった優れた微粒子製剤である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、凝集防止剤で膜状にコーティングされた薬物含有高分子重合物微粒子製剤(以下単に微粒子製剤と称することもある。)およびその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】長期間の投与を必要とする薬物については、種々の剤型が提唱されている。例えば、特開昭57−118512号公報には、鉱物油、植物油などのコアセルベーション剤を用いた相分離法によるマイクロカプセル化が開示されているが、このような方法で得られたマイクロカプセルは、製造の過程で粒子同士が粘着し易いという欠点を有する上に、多量の溶媒を使用するためにスケールアップが困難である。また、特開昭60−100516号公報に記載されている従来技術に依って三相乳化物を形成し、水中乾燥法によってマイクロカプセル化する方法では、水溶性薬物は外水相へ漏出し薬物のトラップ率が低下し、高含有量のマイクロカプセルが得られ難いこと、また水溶性・脂溶性いずれの薬物の場合にも水中乾燥に長期間を要する上に、粉末化のためには凍結乾燥工程が必須であるという欠点を有し、得られたマイクロカプセルは一般に初期放出量が多く、さらにスケールアップによる影響を受け易く、大量処理が困難である。一方、ジャーナル・オブ・ファルマシー・アンド・フマルマコロジー(J. Pharm. Pharmacol. )1988年,第40巻,754〜757頁には1つのノズルでスプレードライして微粒子化する方法も報告されているが、微粒子同士の凝集やスプレードライヤー装置(噴霧乾燥器)への付着が多いという問題がある。
【0003】
【問題を解決するための手段】このような事情に鑑み、本発明者らは、水溶性あるいは脂溶性薬物の徐放性製剤を開発するため、鋭意研究したところ、■薬物と高分子重合物を含む溶液、■水溶性薬物を含む水溶液を内相とし高分子重合物を含む溶液を外相とするW/O型乳化物または■高分子重合物を含む溶液に薬物微細粒子を懸濁させたS/O型懸濁物をスプレードライヤーの一方のノズル(二流体ノズル,多流体ノズルまたは圧力ノズルまたは2液噴霧用の構造にした回転ディスク)から微粒化・噴霧し、もう一方のノズルから凝集防止剤溶液を噴霧することによって、薬物の微粒子製剤中へのトラップ率が高く、初期放出量の少ない、優れた性質を有する微粒子製剤を効率よく連続的に、しかも短時間に大量に得ることができることを見い出し、これに基づいてさらに鋭意研究した結果、本発明を完成した。本発明は、(1)凝集防止剤で膜状にコーティングされた薬物含有高分子重合物微粒子製剤、および(2)薬物を含む高分子重合物溶液と、凝集防止剤の水溶液とをそれぞれ別のノズルを用いて噴霧乾燥器中で噴霧・接触させることを特徴とする、凝集防止剤で膜状にコーティングされた薬物含有高分子重合物微粒子製剤の製造方法に関する。本発明によれば、薬物と高分子重合物を含む溶液あるいは乳懸濁液を、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥することによって、有機溶媒と共に水も瞬時に揮発させることによって、薬物を損失することなく、適切で強固な構造の微粒子製剤を製造することが可能で、薬物の初期放出量を水中乾燥法によるものよりも少なく抑えることが可能となる。さらに、同時にもう一方のノズルから凝集防止剤溶液を噴霧することによって、微粒子製剤表面を凝集防止剤でコーティングし、微粒子製剤同士の凝集や微粒子のスプレードライヤー装置への付着を顕著に防止し、流動性に優れた粉末微粒子を凍結乾燥工程なしに短時間で得ることが可能となる。
【0004】凝集防止剤としては、一般的には水溶性の人体に投与できる、室温(約15〜25℃)で固体の非付着性の物質が用いられる。具体的な例としてマンニトール,ソルビトール,ラクトース,ブドウ糖,ショ糖あるいはデンプン類(例、トウモロコシデンプン,バレイショデンプンなど)などの水溶性糖類、アミノ酸類(例、グリシン,フェニル,アラニンなど)、蛋白質(例、ゼラチン,フィブリン,コラーゲン,アルブミンなど)、水溶性セルロース類(例、結晶セルロース,カルボキシメチルセルロースなどあるいはこれらの塩など)などが挙げられ、これらの中の1種類かいくつかを組み合わせ使用してもよい。これらの中で水溶性糖類が有利に用いられる。特にマンニトールが好ましい。上記凝集防止剤の高分子重合物に対する配合比は、凝集防止効果の認められる範囲であればよい。具体的には、高分子重合物1に対し重量比で約0.1ないし約100倍、より好ましくは約0.1 ないし50倍から選ばれる。さらに好ましくは約0.2〜10倍が選ばれる。
【0005】本発明で用いられる該薬物としては、特に限定されないが、生理活性を有するポリペプチド、その他の抗生物質,抗腫瘍剤,解熱剤,鎮痛剤,消炎剤,鎮咳去たん剤,鎮静剤,筋弛緩剤,抗てんかん剤,抗潰瘍剤,抗うつ剤,抗アレルギー剤,強心剤,不整脈治療剤,血管拡張剤,降圧利尿剤,糖尿病治療剤,抗凝血剤,止血剤,抗結核剤,ホルモン剤,麻薬拮抗剤,骨吸収抑制剤,血管新生抑制剤などが挙げられる。本発明で用いられる生理活性を有するペプチドとしては、2個以上のアミノ酸を含んでいるもので、分子量約200ないし80000のものが好ましい該ペプチドの具体例としては、たとえば黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH−RH),これと同様の作用を有する誘導体であって、式(I)
(Pyr)Glu−R1−Trp−Ser−R2−R3−R4−Arg−Pro−R5 (I)
〔R1はHis,Tyr,Trpまたはp−NH2−Pheを、R2はTyrまたはPheを、R3はGlyまたはD型のアミノ酸残基を、R4はLue,IleまたはNleを、R5はGly−NH−R6(R6はHまたは水酸基を有しまたは有しない低級アルキル基)またはNH−R6(R6は前記と同意義)をそれぞれ示す。〕で表わされるポリペプチドまたはその塩が挙げられる〔米国特許第3,853,837,同第4,008,209,同第3,972,859,英国特許第1,423,083,プロシーディ ングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)第78巻 第6509〜6512頁(1981年)参照〕。
【0006】上記式(I)において、R3で示されるD型のアミノ酸残基としては、たとえば炭素数が9までのα−D−アミノ酸(例、Lue,Ile,Nle,Val,NVal,Abu,Phe,Phg,Ser,Tyr,Met,Ala,Trp,α−Aibu)などがあげられ、それらは適宜保護基(例、t−ブチル,t−ブトキシ,t−ブトキシカルボニルなど)を有していてもよい。勿論ペプチド(I)の酸塩,金属錯体化合物もペプ チド(I)と同様に使用することができる。式(I)で表わされるペプチドにおけるアミノ酸,ペプチド,保護基等に関し、略記で表示する場合、IUPAC−IUB Commission on Biochemical Nomenclature による略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものとし、また、アミノ酸に関し光学異性体がありうる場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。なお、本明細書においては、上記(I)式においてR1=His,R2=Tyr,R3=D−Leu,R4=Leu,R5=NHCH2−CH3であるペプチドの酢酸塩を「TAP−144」と称する。また、該ペプチドの酢酸塩の一般名はリュープロレリン(leuprorelin)である。他のLH−RH誘導体としては、ナファレリン;(pyro)Glu−His−Trp−Ser−Tyr−(3−naphtyl)−D−Ala−Leu−Arg−Pro−GluNH2,ゴセレリン;(pyro)Glu−His−Trp−Ser−Tyr−o−tert−butyl−D−Ser−Leu−Arg−Pro−semicarbazide 又はそれらの塩が挙げられる。また、該ペプチドとしては、LH−RH拮抗物質(米国特許第4086219号,同第4124577号,同第4253997号,同第4317815号,同第329526号,同第368702号参照)が挙げられる。
【0007】また、さらに生理活性を有するペプチドとしては、たとえばインスリン,ソマトスタチン,ソマトスタチン誘導体(米国特許第4087390号,同第4093574号,同第4100117号,同第4253998号参照),成長ホルモン,プロラクチン,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH),メラノサイト刺激ホルモン(MSH),甲状腺ホルモン放出ホルモン(TRH)その塩およびその誘導体(特開昭50−121273号,特開昭52−116465号公報参照),甲状腺刺激ホルモン(TSH),黄体形成ホルモン(LH),卵胞刺激ホルモン(FSH),バソプレシン,バソプレシン誘導体{デスモプレシン〔日本内分泌学会雑誌,第54巻 第5号第676〜691頁(1978)〕参照},オキシトシン,カルシトニン,副甲状腺ホルモン,グルカゴン,ガストリン,セクレチン,パンクレオザイミン,コレシストキニン,アンジオテンシン,ヒト胎盤ラクトーゲン,ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG),エンケファリン,エンケファリン誘導体〔米国特許第4277394号,ヨーロッパ特許出願公開第31567号公報参照〕等のオリゴペプチドおよびエンドルフィン,キョウトルフィン,インターフェロン(α型,β型,γ型),インターロイキン(IからXI),タフトシン,サイモポイエチン,サイモシン,サイモスチムリン,胸腺液性因子(THF),血中胸腺因子(FTS)およびその誘導体(米国特許第4229438号参照),およびその他の胸腺因子〔医学のあゆみ,第125巻,第10号,835−843頁(1983年)〕,腫瘍壊死因子(TNF),コロニー誘発因子(CSF),モチリン,デイノルフィン,ボムベシン,ニュウロテンシン,セルレイン,ブラディキニン,ウロキナーゼ,アスパラギナーゼ,カリクレイン,サブスタンスP,神経成長因子,血液凝固因子の第VIII因子,第IX因子,塩化リゾチーム,ポリミキシンB,コリスチン,グラミシジン,バシトラシン,タンパク合成刺激ペプチド(英国特許第8232082号),胃酸分泌抑制ポリペプチド(GIP),バソアクティブ・インティスティナル・ポリペプチド 〔vasoactiveintestinal polypeptide(VIP)〕,プレートレット−ディライブド・グロース・ファクター〔platelet−derived growth factor(PDGF)〕,成長ホルモン分泌因子(GRF,ソマトクリニン),ボーン・モルファジェネティック・プロテイン〔bone morphagenetic protein(BMP)〕,上皮成長因子(EGF),エリスロポエチン(EPD)などのポリペプチドが挙げられる。
【0008】上記抗腫瘍剤としては、たとえば塩酸ブレオマイシン,メソトレキセート,アクチノマイシンD,マイトマイシンC,硫酸ビンブラスチン,硫酸ビンクリスチン,塩酸ダウノルビシン,アドリアマイシン,ネオカルチノスタチン,シトシンアラビノシド,フルオロウラシル,テトラヒドロフリル−5−フルオロウラシル,ピシバニール,レンチナン,レバミゾール,ベスタチン,アジメキソン,グリチルリチン,ポリI:C,ポリA:U,ポリICLC,シスプラチンなどが挙げられる。
【0009】上記の抗生物質としては、例えばゲンタマイシン,ジベカシン,カネンドマイシン,リビドマイシン,トブラマイシン,アミカシン,フラジオマイシン,シソマイシン,テトラサイクリン,オキシテトラサイクリン,ロリテトラサイクリン,ドキシサイクリン,アンピシリン,ピペラシリン,チカルシリン,セファロチン,セファロリジン,セフォチアム,セフスロジン,セフメノキシム,セフメタゾール,セファゾリン,セファタキシム,セフォペラゾン,セフチゾキシム,モキソラクタム,チエナマイシン,スルファゼシン,アズスレオナムまたはそれらの塩などが挙げられる。
【0010】上記の解熱,鎮痛,消炎剤としては、たとえばサリチル酸,スルピリン,フルフェナム酸,ジクロフェナック,インドメタシン,モルヒネ,ペチジン,酒石酸レボルファノール,オキシモルフォンなどが、鎮咳去たん剤としては、たとえばエフェドリン,メチルエフェドリン,ノスカピン,コデイン,ジヒドロコデイン,アロクラマイド,クロルフェジアノール,ピコペリダミン,クロペラスチン,プロトキロール,イソプロテレノール,サルブタモール,テレブタリンまたはその塩などが、鎮静剤としては、たとえばクロルプロマジン,プロクロルペラジン,トリフロペラジン,アトロピン,スコポラミンまたはその塩などが、筋弛緩剤としては、たとえばプリジノール,ツボクラリン,パンクロニウムなどが、抗てんかん剤としては、たとえばフェニトイン,エトサクシミド,アセタゾラミド,クロルジアゼポキシドなどが、抗潰瘍剤としては、たとえばメトクロプロミド,ヒスチジンなどが、抗うつ剤としては、たとえばイミプラミン,クロミプラミン,ノキシプチリン,フェネルジンなどが、抗アレルギー剤としては、たとえばジフェンヒドラミン,クロルフェニラミン,トリペレナミン,メトジラジン,クレミゾール,ジフェニルピラリン,メトキシフェナミンなどが、強心剤としては、たとえばトランスパイオキソカンファー,テレフィロール,アミノフィリン,エチレフリンなどが、不整脈治療剤としては、たとえばプロプラノール,アルプレノロール,ブフェトロールオキシプレノロールなどが、血管拡張剤としては、たとえばオキシフェドリン,ジルチアゼム,トラゾリン,ヘキソベンジン,バメタンなどが、降圧利尿剤としては、たとえばヘキサメトニウムブロミド,ペントリニウム,メカミルアミン,エカラジン,クロニジンなどが、糖尿病治療剤としては、たとえばグリミジン,グリピザイド,フェンフォルミン,ブフォルミン,メトフォルミンなどが、抗凝血剤としては、たとえばヘパリン,クエン酸などが、止血剤としては、たとえばトロンボプラスチン,トロンビン,メナジオン,アセトメナフトン,ε−アミノカプロン酸,トラネキサム酸,カルバゾクロムスルホン酸,アドレノクロムモノアミノグアニジンなどが、抗結核剤としては、たとえばイソニアジド,エタンブトール,パラアミノサリチル酸などが、ホルモン剤としては、たとえばプレドニゾロン,プレドニゾロン,デキサメタゾン,ベタメタゾン,ヘキセストロール,メチマゾールなどが、麻薬拮抗剤としては、たとえばレバロルファン,ナロルフィン,ナロキソンまたはその塩などが、骨吸収抑制剤としては、(硫黄含有アルキル)アミノメチレンビスフォスフォン酸などが、血管新生抑制剤としては、血管新生抑制ステロイド〔サイエンス(Science)第221巻719頁(1983年)参照〕,フマギリン(ヨーロッパ特許公開第325199号公報参照),フマギロール誘導体(ヨーロッパ特許公開第357061号,同第359036号,同第386667号,同第415294号公報参照)などがそれぞれ挙げられる。これらのうち、水溶性の薬物の製剤の場合に過剰の初期放出が認められることが多いため、本発明は水溶性の薬物に適用するのがより好ましい。薬物の水溶性は、水とn−オクタノールとの油水分配率で定義され、n−オクタノール/水溶解度の比が1以下の薬物への適用が好ましく、0.1以下の薬物への適用がより好ましい。
【0011】油水分配率の測定は、「物理化学実験法」鮫島実三郎著,裳華房刊,昭和36年に記載された方法に従えばよい。すなわち、まず試験管中にn−オクタノールおよびpH5.5の緩衝液(1対1の等量混合物)を入れる。該緩衝液としてはたとえばゼーレンゼン(Sφerensen)緩衝液〔Ergeb. Physiol. 12,393(1912)〕,クラークルブス(Clark-Lubs)緩衝液〔J. Bact. ,(1),109,191(1917)〕,マクルベイン(Macllvaine)緩衝液〔J. Biol. Chem.49,183(1921)〕,ミカエリス(Michaelis)緩衝液〔Die Wasser-stoffionenkonzentration. p. 186(1914)〕,コルソフ(Kolthoff)緩衝液〔Biochem. Z, 179,410(1926)〕などが挙げられる。これに薬物を適宜量投入し、さらに栓をして恒温槽(25℃)に浸し、しばしば強く振盪する。そして薬物が両液層間に溶け、平衡に達したと思われる頃、液を静置あるいは遠心分離し、上下各層より別々にピペットにて一定量の液をとり出し、これを分析して各層の中における薬物の濃度を決定し、n−オクタノール層中の薬物の濃度/水層中の薬物の濃度の比をとれば、油水分配率となる。薬物はそれ自身であっても、薬理学的に許容される塩(例えば、薬物がアミノ基等の塩基性基を有する場合、無機酸、例えば、塩酸,硫酸,硝酸や有機酸、例えば炭酸,コハク酸等との塩、薬物がカルボキシ基等の酸性基を有する場合、無機塩基、例えばナトリウム,カリウム等のアルカリ金属や有機塩基化合物、例えばトリエチルアミン等の有機アミン類、例えばアルギニン等の塩基性アミノ酸類との塩)であってもよい。上記薬物の使用量は、薬物の種類、所望の薬理効果および効果の持続期間などにより異なるが、W/Oエマルジョンとする場合内水相中の濃度としては、約0.001%ないし約70%(W/W)、より好ましくは0.01%ないし50%(W/W)から選ばれる。
【0012】本発明における高分子重合物としては、水に難溶または不溶で、生体適合性で生体内で分解される高分子重合物であれば特に限定されない。水に難溶とは水への溶解度が約3%(W/V)以下であることを意味する。これら高分子重合物の使用する量は、薬物の薬理活性の強さと、薬物放出の速度および期間などによって決まり、たとえば薬物1に対して約0.5ないし10000倍(重量比)の量で調製されるが、好ましくは約1ないし100倍(重量比)の量の重合物を用いるのがよい。これら高分子重合物は、重量平均分子量が約3,000から30,000、好ましくは約5,000から25,000、特に好ましくは約5,000から20,000のものが用いられる。また、生体内分解性ポリマーの分散度は約1.2から4.0が、特に約1.5から3.5が好ましい。さらに好ましくは約1.5から2.5である。なお、本明細書で用いられる重量平均分子量および分散度は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した値を意味する。
【0013】好ましい高分子重合物の例としては、例えば脂肪族ポリエステル〔例えばα−ヒドロキシカルボン酸類(例、グリコール酸、乳酸、2−ヒドロキシ酪酸、2−えヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、2−ヒドロキシカプリル酸等)、α−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体類(例、グリコリド、ラクチド等)、ヒドロキシジカルボン酸類(例、リンゴ酸)、ヒドロキシトリカルボン酸(例、クエン酸)等の単独重合体(例、乳酸重合体等)または2種以上の共重合体(例えば、乳酸/グリコール酸共重合体,2−ヒドロキシ酪酸/グリコール酸共重合体等)、あるいはこれら単独重合体および/または共重合体の混合物(例、乳酸重合体と2−ヒドロキシ酪酸/グリコール酸共重合体との混合物等)〕,ポリ−α−シアノアクリル酸エステル,ポリアルキレンオキサレート(例、ポリトリメチレンオキサレート,ポリテトラメチレンオキサレートなど),ポリオルソエステル,ポリオルソカーボネートあるいはその他のポリカーボネート(例、ポリエチレンカーボネート,ポリエチレンプロピレンカーボネートなど),ポリアミノ酸(例、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタミン酸,ポリ−L−アラニン,ポリ−γ−メチル−L−グルタミン酸など)などが挙げられる。さらに、生体適合性を有するその他の高分子重合物として、ポリアクリル酸,ポリメタアクリル酸,アクリル酸とメタアクリル酸との共重合物,ポリアミノ酸,シリコンポリマー,デキストランステアレート,エチルセルロース,アセチルセルロース,無水マレイン酸系共重合物,エチレンビニールアセテート系共重合物,ポリビニールアセテート,ポリビニールアルコール,ポリアクリルアミドなどが挙げられる。これらの重合物は一種でもよく、また2種以上の共重合物、あるいは単なる混合物でもよく、またその塩でもよい。これらの中で脂肪族ポリエステル、ポリ−α−シアノアクリル酸エステルが好ましい。さらに、脂肪族ポリエステルが特に好ましい。
【0014】脂肪族ポリエステルの中でα−ヒドロキシカルボン酸類、α−ヒドロキシカルボン酸の環状二量体類の単独重合体、または2種以上の共重合体、あるいはこれら単独重合体および/または共重合体の混合物が好ましい。さらに、α−ヒドロキシカルボン酸類の単独重合体、2種以上の共重合体、あるいはこれら単独重合体および/または共重合体の混合物が好ましい。また、ポリ乳酸、乳酸/グリコール酸共重合体、2−ヒドロキシ酪酸/グリコール酸の共重合体あるいはこれらの混合物が特に好ましい。上記α−ヒドロキシ酸類、α−ヒドロキシ酸の環状二量体類、ヒドロキシジカルボン酸類、ヒドロキシトリカルボン酸類が分子内に光学活性中心を有する場合、D−、L−、DL−体のいずれも用いることができる。上記脂肪族ポリエステルは、公知の製造法(例えば、特開昭61−28521号公報参照)で問題なく製造できる。また、重合の形式は、ランダム、ブロック、グラフトのいずれでもよい。
【0015】上記脂肪族ポリエステルとして、乳酸/グリコール酸共重合体を用いる場合、その組成比は約100/0〜50/50(重量比)が好ましく、2−ヒドロキシ酪酸/グリコール酸共重合体を用いる場合、その組成比は約100/0〜25/75(重量比)が好ましい。乳酸重合体、乳酸/グリコール酸共重合体、2−ヒドロキシ酪酸/グリコール酸共重合体の重量平均分子量は、約3,000から約30,000が好ましい。さらに約5,000から20,000が特に好ましい。上記脂肪族ポリエステルとして例えば乳酸重合体(A)と2−ヒドロキシ酪酸共重合体/グリコール酸(B)との混合物を用いる場合、(A)/(B)で表される混合比が約10/90から約90/10(重量比)の範囲で使用される。好ましくは約25/75から約75/25(重量比)の範囲である。
【0016】乳酸重合体の重量平均分子量は約3,000から約30,000が好ましい。さらに約5,000から約20,000が特に好ましい。2−ヒドロキシ酪酸共重合体/グリコール酸は、その組成が、グリコール酸が約40から約70モル、残りが2−ヒドロキシ酪酸が好ましい。グリコール酸/2−ヒドロキシ酪酸共重合体の重量平均分子量は約5,000から約25,000が好ましい。さらに約5,000から約20,000が特に好ましい。
【0017】本発明の微粒子製剤の好ましい具体例としては、例えばマイクロカプセルなどが挙げられる。凝集防止剤で膜状にコーティングされた薬物含有高分子重合物微粒子製剤は、薬物を含む高分子重合物溶液と、凝集防止剤の水溶液とをそれぞれ別のノズルを用いて噴霧乾燥器中で噴霧・接触させることによって製造できる。薬物が水溶性の場合、まず水にこの水溶性薬物を加えて溶解し、内水相用水溶液とする。また、該水溶液には、水溶性薬物の安定性あるいは溶解性を保つためのpH調整剤として、たとえば炭酸,酢酸,シュウ酸,クエン酸,酒石酸,コハク酸,リン酸またはそれらのナトリウム塩あるいはカリウム塩,塩酸,水酸化ナトリウムなどを添加してもよい。また、さらに水溶性薬物の安定化剤として、たとえばアルブミン,ゼラチン,クエン酸,エチレンジアミン四酢酸ナトリウム,デキストリン,亜硫酸水素ナトリウムなどを、あるいは保存剤として、たとえばパラオキシ安息香酸エステル類(例、メチルパラベン,プロピルパラベンなど),ベンジルアルコール,クロロブタノール,チメロサールなどを添加してもよい。
【0018】このようにして得られた内水相用水溶液を、高分子重合物を含む溶液(油相)中に加え、ついで乳化操作を行い、W/O型乳化物をつくる。上記高分子重合物を含む溶液は、高分子重合物を有機溶媒中に溶解したものが、用いられる。該有機溶媒としては、沸点が約120℃以下で、かつ水と混和しにくい性質のもので、高分子重合物を溶解するものであればよく、たとえばハロゲン化炭化水素類(例、ジクロロメタン,クロロホルム,クロロエタン,トリクロロエタン,四塩化炭素など),脂肪酸エステル(例、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸ブチルなど),エーテル類(例、エチルエーテル,イソプロピルエーテルなど),炭化水素類(例、シクロヘキサン,n−ペンタン,n−ヘキサン,石油エーテル,石油ベンジンなど),芳香族炭化水素類(例、ベンゼン,トルエンなど)などが挙げられる。これらは2種以上混合して用いてもよい。該乳化操作は、公知の分散法が用いられる。該分散法としては、たとえば、断続振とう法,プロペラ型撹拌機あるいはタービン型撹拌機などのミキサーによる方法,コロイドミル法,ホモジナイザー法,超音波照射法などが挙げられる。または、薬物(水溶性でも脂溶性でもよい)と高分子重合物を有機溶媒または水と混和する溶媒と水との混液に溶解し、薬物が不溶の場合には懸濁操作を行い、微細な粒子としたS/O型懸濁物をつくる。この場合の有機溶媒としては、前述のもの以外に水と混和し易い性質のものであってもよく、たとえば、アセトン,アセトニトリル,テトラヒドロフラン,ジオキサン,ピリジン,アルコール類(例、メタノール,エタノールなど)などが挙げられ、これらは2種以上混合して用いても良い。あるいは薬物と高分子重合物を均一に溶解する上記有機溶媒と水との適当な比率の混合液を用いても良い。
【0019】ついで、このようにして調製したW/O型乳化物あるいはS/O型懸濁物または溶液を、ノズルを用いてスプレードライヤーの乾燥室内へ噴霧し、極めて短時間に微粒化液滴内の有機溶媒および水を揮発させ、粉粒状の微粒子製剤を調製する。ノズルとしては、二液体ノズル型,圧力ノズル型,回転ディスク型などがある。同時に微粒子製剤の凝集防止を目的として、凝集防止剤水溶液を別ノズルから噴霧する。すなわち、ノズルを2つ設置し、一方からはW/O型乳化物またはS/O型懸濁物または薬物高分子重合物溶液を噴霧し、もう一方からは凝集防止剤水溶液の適当量を噴霧して、微粒子製剤表面にコーティングする。ノズルとして、二流体ノズルあるいは圧力ノズルを使用する場合には、スプレードライヤー中央部に2本設置してもよいが、薬物高分子重合物溶液と凝集防止剤水溶液とをノズル内で混合せずに別々に噴霧できるように2液噴霧用の構造とした各種ノズルを用いると良い。
【0020】このようにして得られた微粒子製剤は必要であれば加温し減圧下で微粒子製剤中の水分の除去および微粒子製剤膜中の溶媒の除去をより完全に行なう。微粒子製剤の粒子径は、徐放性の程度により、懸濁剤として使用する場合には、その分散性,通針性を満足させる範囲であればよく、たとえば、平均径として約0.5〜400μmの範囲が挙げられ、より好ましくは約2〜200μmの範囲にあることが望まれる。このように、本発明の方法によれば、水中乾燥法では避けることの出来ない主薬の損失をすることなく、薬物の微粒子製剤への取込率をほとんど100%にまで高めることができる。さらに、油中乾燥法よりも使用する有機溶媒の量は少量で済むことや、水中乾燥法では溶媒の除去に極めて長時間を要していたが、その時間を大幅に短縮できることなどから本発明方法は、工業的生産上極めて有利である。また、本発明の微粒子製剤は、その表面に膜状に凝集防止剤がコーティングされるため製造工程中で微粒子製剤同士の凝集が少なく、球形状のよく整った微粒子製剤を得ることができること、また、溶媒の除去工程の制御が容易で、それによって、薬物放出速度を左右する微粒子製剤の表面構造(たとえば薬物の主な放出経路となる細孔の数および大きさなど)を調節することが出来ることなど多くの長所を有している。
【0021】本発明の微粒子製剤は低毒性であり安全に用いられる。本発明の微粒子製剤は、そのまま細粒剤として生体に投与することができるが、また、種々の製剤に成型して投与することもでき、そのような製剤を製造する際の原料物質としても使用され得る。上記製剤としては、注射剤、経口投与製剤(例、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤)、経鼻投与製剤、坐剤(例、直腸坐剤、膣坐剤)などが挙げられる。これらの製剤中含有させる薬物の量は、薬物の種類,投与剤型,対象とする疾患などにより変化し得るが、通常は、1製剤当たり約0.001mgから約5g、好ましくは約0.01mgから約2gである。例えばTRHその塩およびその誘導体の場合、通常は、1製剤当たり約0.1mgから約1g、好ましくは約1mgから約500mg、特に好ましくは約3mgから約60mgである。これらの製剤は、製剤工程において通常一般に用いられる自体公知の方法により製造することができる。たとえば、本発明方法の微粒子製剤は分散剤(例、ツイーン(Tween)80(アトラスパウダー社製、米国),HCO60(日光ケミカルズ製)、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなど)、保存剤(例、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジールアルコール、クロロブタノールなど)、等張化剤(例、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトール、ブドウ糖など)などど共に水性懸濁剤に、あるいはオリーブ油、ゴマ油、ラッカセイ油、綿実油、コーン油などの植物油、プロピレングリコールなどに分散して油性懸濁剤に成形し、注射剤とすることができる。
【0022】たとえば経口投与製剤にするには、自体公知の方法に従い、本発明の微粒子製剤をたとえば賦形剤(例、乳糖、白糖、デンプンなど)、崩壊剤(例、デンプン、炭酸カルシウムなど)、結合剤(例、デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニールピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロースなど)または滑沢剤(例、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000など)などを添加して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のため自体公知の方法でコーティングすることにより経口投与製剤とすることができる。そのコーティング剤としては、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース,エチルセルロース,ヒドロキシメチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ポリオキシエチレングリコール,ツイーン80,ブルロニックF68,セルロースアセテートフタレート,ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート,ヒドロキシメチルセルロースアセテートサクシネート,オイドラギット(ローム社製,西ドイツ,メタアクリル酸・アクリル酸共重合)および酸化チタン,ベンガラ等の色素が用いられる。
【0023】たとえば経鼻投与製剤とするには、自体公知の方法に従い、本発明の微粒子製剤を固状、半固状または液状の経鼻投与剤とすることができる。たとえば、上記固状のものとしては、該微粒子製剤をそのまま、あるいは賦形剤(例、グルコース、マンニトール、デンプン、微結晶セルロースなど)、増粘剤(例、天然ガム類、セルロース誘導体、アクリル酸重合体など)などを添加、混合して粉状の組成物とする。上記液状のものとしては、注射剤の場合とほとんど同様で、油性あるいは水性懸濁剤とする。半固状の場合は、水性または油性のゲル剤、あるいは軟膏状のものがよい。また、これらはいずれも、pH調節剤(例、炭酸、リン酸、クエン酸、塩酸、水酸化ナトリウムなど)、防腐剤(例、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウムなど)などを加えてもよい。
【0024】たとえば坐剤とするには、自体公知の方法に従い、本発明の微粒子製剤を油性または水性の固状、半固状あるいは液状の座剤とすることができる。上記組成物に用いる油性基剤としては、微粒子製剤を溶解しないものであればよく、たとえば高級脂肪酸のグリセリド〔例、カカオ脂、ウイテプゾル類(ダイナマイトノーベル社)など〕、中級脂肪酸〔例、ミグリオール類(ダイナマイトノーベル社)など〕、あるいは植物油(例、ゴマ油、大豆油、綿実油など)などが挙げられる。また、水性基剤としては、たとえばポリエチレングリコール類、プロピレングリコール、水性ゲル基剤としては、たとえば天然ガム類、セルロース誘導体、ビニール重合体、アクリル酸重合体などが挙げられる。
【0025】本発明の微粒子製剤の投与量は、主薬の種類と含量、剤形、薬物放出の持続期間、投与対象動物(例、マウス、ラット、ウマ、ウシ、人等の温血哺乳動物)、投与目的により種々異なるが、該主薬の有効量であればよい。たとえば、成人(体重50kg)1人に1回あたりの投与量として、微粒子製剤の重量が約1mgないし10g、好ましくは約10mgないし2gの範囲から、適宜選択することができる。例えばTRHその塩およびその誘導体含有微粒子製剤の場合、成人(体重50kg)1人に1回あたりの投与量として該微粒子製剤の重量が約5mgないし5g、好ましくは約30mgないし2g、特に好ましくは約50mgないし1gの範囲から適宜選択することができる。なお、上記注射剤として投与する場合の懸濁液の容量は、約0.1ないし5ml、好ましくは約0.5ないし3mlの範囲から適宜選ぶことができる。
【0026】微粒子製剤の基剤として用いる高分子重合物は公知の方法、例えば特開昭50−17525号,同56−45920号,同57−118512号,同57−150609号,同61−28521号,同62−54760号公報,ヨーロッパ特許公開第481732号公報に記載の方法あるいはこれらに準じた方法に従い製造することができる。
【0027】本発明の微粒子製剤は、たとえば次の特徴を有する。
(1)種々の投与剤形で薬物の徐放性が得られ、特に注射剤においては期待される治療を行なうのに、長期間投与が必要な場合、毎日投与するかわりに、1週間に1回,一月間に1回,あるいは1年間に1回の注射で、所望の薬理効果が安定して得られ、従来の徐放性製剤に比較して、より長期にわたる徐放性が得られる。
(2)本発明の微粒子製剤を注射剤として投与する場合は、埋込みなどの外科手術が一切不用で、一般の懸濁注射剤とまったく同様に容易に皮下および筋肉内に投与でき、再び取り出す必要がない。
【0028】また、腫瘍,炎症部位あるいはレセプターの存在する局所などにも直接投与でき、全身での副作用を軽減し、効率よく長期にわたりその標的器官に薬物を作用させることができ、作用の増強が期待される。さらに、加藤らによって提唱されている腎臓癌,肺癌などの血管栓塞療法〔ランセット(Lancet II),第479〜480頁,(1979年)〕の際の動脈内投与にも用いることが可能である(3)主薬の放出が連続的で、ホルモン拮抗剤,レセプター拮抗剤の場合などにおいては、毎日の頻回投与よりも強い薬理効果が得られる。
(4)従来のW/O/W型の三相エマルションをつくり、これを水中乾燥に付す製造法よりも、微粒子製剤中に薬物を効率よく取込ませることができ、しかも微細な、球状の整った微粒子製剤を得ることができる。
(5)水中乾燥法では不可能であった10〜50%の薬物含量の微粒子製剤を得ることができる。
(6)水中乾燥法よりも溶媒の除去速度が速いため、微粒子製剤の固化速度が速く、強固な構造の微粒子製剤が出来るため、投与後の薬物の初期放出量を少なくすることが可能である。
(7)薬物と高分子重合物を含む液だけをスプレードライする方法よりも、微粒子製剤の凝集や付着が著しく少ない。
【0029】
【実施例】次に、本発明を具体的に説明するために、実験例及び実施例を挙げるが、本発明はこれらの例示のみに限定されるものではない。なお、以下において濃度を表わすパーセント(%)は、重量/容量パーセント(W/V%)を表わす。
【0030】実験例1酢酸リュープロレリン1gを水10mlに60℃で溶解し、乳酸・グリコール酸共重合体(乳酸/グリコール酸=75/25,ポリスチレン換算平均分子量12000)9gを塩化メチレン25mlに溶解した液を加え、小型ホモジナイザー(ポリトロン,キネマチカ社製,スイス)で乳化してW/O型エマルションを得た。
(1)水中乾燥法(従来法、A法と略記する。)
上記W/O型エマルションを0.5%PVA水溶液500ml中でホモジナイザーを使用して(W/O)/W型エマルションとした。この後、通常のプロペラ撹拌機で3時間ゆっくり撹拌し、(W/O)型エマルシヨンが塩化メチレンの揮散と共に固化するのを待って遠心分離機で捕集し、同時に精製水で水洗した。捕集されたマイクロカプセルは、一昼夜凍結乾燥することによって粉末として得られた。
(2)スプレードライ法(本発明方法,B法と略記する。)
上記W/O型エマルションを一方の二流体ノズルで、流速10ml/min で同時に、もう一方のノズルからは、2%マンニトール水溶液を流速10ml/min で、スプレードライヤーの乾燥室内へ噴霧して粉末のマイクロカプセルを得た。この時の乾燥室入口温度は100℃,出口温度50℃で、風量は80kg/hrで実施した。
【0031】A法,B法の両方法で製造したマイクロカプセルの諸特性を比較した結果を〔表1〕に示す。
【表1】 マイクロカプセルの特性の比較 ───────────────────────────────── 表面状態 薬物取込率1) 1日での放出率2) 粒度分布3) ───────────────────────────────── A法 小孔多い 5.3% 78% 5〜200μm B法 小孔少ない 99 % 24% 5〜 40μm ─────────────────────────────────1) 薬物取込率の測定方法マイクロカプセル中の酢酸リュープロレリン含量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC,装置:日立 L−6300型装置,日立製)を用いて測定した。マイクロカプセル(50mg)を10mlの塩化メチレンに溶解し、1/30モル・リン酸緩衝液(pH6.0,20ml)で抽出し、緩衝液層に抽出された酢酸リュープロレリンをHPLCで定量した。検知には紫外吸収検知器を用い、下記の条件で測定した。
カラム:ライクロソルブ(Lichrosorb)RP・15,長さ250mm,直径4mmカラム温度:30℃移動層:0.25モル・アセトニトリル(100ml)とメチルアルコール(150ml)との混液流速:0.7ml/分紫外検知器の波長:280nm薬物取込率は下式により計算した。
薬物取込率(%)=
【数1】


2) 1日での放出率の測定法マイクロカプセル(50mg)を0.05%のツイーン−80を含む10mlの1/30モル・リン酸緩衝液(pH7.0)中に懸濁する。この懸濁液を震盪容器を用い1日震盪する。震盪後、マイクロカプセルを0.8μmのミリポアフルターでろ取し、マイクロカプセル中に残った酢酸リュープロレリンを上記1)薬物取込率の測定方法で述べた方法で定量した。また同様にして、震盪前のマイクロカプセル中の酢酸リュープロレリンを定量した。1日での放出率は下式により計算した。1日での放出率(%)=
【数2】


3) 粒度分布の測定方法マイロカプセル(10mg)をイソトンII液(250ml,株式会社日科器製)に分散した。この分散液を100μmまたは280μmアパーチャーチューブを装置したマルチライザー〔コールター(Coulter)社製,米国)により分析し、粒度分布を測定した。その結果、走査電子顕微鏡で観察したマイクロカプセル表面は、A法によるものは非常に小孔が多く、B法によるものは小孔は殆んど認められず、表面にマンニトールが膜状に均一にコーティングされていた。薬物である酢酸リュープロレリンの取込み率は、B法がA法よりも高かった。放出試験での1日での薬物放出量(初期放出量)は、B法の方が少なかった。粒度分布は、B法によるものの方がシャープであった。また、製造に要する時間は、A法で約24時間だったのに対し、B法では約10分間と極めて短時間であった。このように、総合的に比較してB法はA法よりも極めて有用なマイクロカプセルの製造法であった。
【0032】実験例2甲状腺刺激ホルモン遊離ホルモン(TRH)1.0gと乳酸グリコール酸共重合体(乳酸/グリコール酸=75/25,平均分子量16000)9.0gをアセトン30mlと水3mlの混合溶媒に均一に溶解し、スプレードライヤー中央にセットした2本の二流体ノズルのうちの一方から、流速10ml/minで噴霧し、同時にマイクロカプセルの凝集防止用として、5%マンニトール水溶液をもう一方のノズルから噴霧して、粉末のマイクロカプセルを得た。マイクロカプセル中のTRH含量は、9.8%(取込み率98%)で、pH7.0のM/30リン酸緩衝液(37℃)中での1日での初期放出率は5%であった。粒度分布は5〜50μm(平均 20μm)であり、表面に小孔の少ない球形のマイクロカプセルであった。
【0033】実施例1α型インターフェロン500mgおよびゼラチン50mgを水300mgに50℃で溶解し、ポリ乳酸(分子量21,000)3,500mgを塩化メチレン4mlに溶解した液に加え、ポリトロンで20秒間混合し、W/O型エマルションを得た。このW/O型エマルションを二重構造にした回転ディスク型ノズルの一方(内側)から注入噴霧し、0.5%ポリビニルアルコール(PVA)含有2%マンニトール水溶液をもう一方(外側)から同時に注入噴霧し、スプレードライヤーにて、粉末のマイクロカプセルを得る。
【0034】実施例2メソトレキセート1gと2−ヒドロキシ酪酸・グリコール酸共重合体(2−ヒドロキシ酪酸/グリコール酸=50/50,平均分子量10000)9gとを水5mlとアセトニトリル30mlの混液に溶解し、2液噴霧用の構造にした二流体ノズル(三流体ノズル)の一番内側から噴霧し、1%ゼラチン水溶液を内側から二番目に流して、一番外側には、圧空を流すことによって微粒化噴霧し、マイクロカプセルを得る。
【0035】実施例3セフォチアム・2塩酸塩4gとカルボキシメチルセルロースナトリウム(Na−CMC)600mgとを水2mlに60℃で溶解し、ポリ乳酸(分子量30000)10gをクロロホルム40mlに溶解した液と混合、撹拌しW/O型エマルションを得た。このW/O型エマルションを一方の二流体ノズルから噴霧し、5%乳糖水溶液をもう一方のノズルから同時に噴霧して、マイクロカプセルを得る。
【0036】実施例4脂溶性薬物DN−2327の0.5gと乳酸・グリコール酸共重合体(乳酸/グリコール酸=75/25,平均分子量10000)4.5gをアセトニトリル15mlに溶解し、一方の二流体ノズルから噴霧し、もう一方のノズルから5%マンニトール水溶液を同時に噴霧して、マイクロカプセルを得た。
【0037】
【発明の効果】本発明製剤は、薬物の含量が高くしかも薬物の初期放出量の少なく、粒度分布がせまい、粒度のそろった優れた微粒子製剤である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】凝集防止剤で膜状にコーティングされた薬物含有高分子重合物微粒子製剤。
【請求項2】薬物を含む高分子重合物溶液と、凝集防止剤の水溶液とをそれぞれ別のノズルを用いて噴霧乾燥器中で噴霧・接触させることを特徴とする、凝集防止剤で膜状にコーティングされた薬物含有高分子重合物微粒子製剤の製造方法
【請求項3】薬物を含む高分子重合物溶液が、均一溶液である請求項2記載の製造法。
【請求項4】薬物を含む高分子重合物溶液が、薬物を含む水溶液を内相とし高分子重合物を含む溶液を外相とするW/O型乳化物である請求項2記載の製造法
【請求項5】薬物を含む高分子重合物溶液が、薬物微粒子を含むS/O型懸濁物である請求項2記載の製造法。
【請求項6】凝集防止剤が水溶性糖類である請求項2記載の製造法。