説明

処理対象物のプラズマ溶融分解処理方法

【課題】バッチ式で行われる処理対象物のプラズマ溶融分解処理において、その処理効率を向上させ、処理時間を短縮化すること。
【解決手段】処理対象物を空気プラズマによってバッチ式で分解処理するプラズマ溶融分解処理方法において、分解処理が溶融速度律速の処理対象物と、分解処理が酸素供給律速の処理対象物とを混合して分解処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCB汚染物等の処理対象物を空気プラズマによってバッチ式で分解処理するプラズマ溶融分解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、かつてトランス、コンデンサ、蛍光灯安定器等の電気機器の絶縁油、ボイラ等の熱媒体などに使用されていたが、毒性があり且つ残留性があるため、現在ではPCBの使用は禁止され、またPCB汚染物の無害化処理が進められている。
【0003】
PCB汚染物の無害化処理方法の一つとして、PCB汚染物を空気プラズマによって分解処理するプラズマ溶融分解処理方法がある(例えば特許文献1,2参照)。
処理対象物であるPCB汚染物には、汚泥、ウェス、感圧複写紙、廃活性炭、化学防護服等、種々のものがあり、これらのPCB汚染物は、搬入保管容器に封入されて処理施設に搬入され、プラズマ溶融分解処理の前に、その種類毎に所定の投入容器に詰め替えられる。そして、投入容器は1缶単位でプラズマ溶融分解処理炉に投入され、空気プラズマによってバッチ式で分解処理される。
【0004】
しかし、このようにプラズマ溶融分解処理はバッチ式で行われるため、どうしても処理効率が悪く、処理時間がかかるという問題があった。また、処理対象物を処理する際に発生するガスの発生量は処理対象物の種類によって大きく異なるが、そのガスを処理する排気処理設備は最大発生量に対応した設備とする必要があるため、平均発生量に対しては過大な設備仕様となるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−297233号公報
【特許文献2】特開2007−296415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、バッチ式で行われる処理対象物のプラズマ溶融分解処理において、その処理効率を向上させ、処理時間を短縮化することにある。
【0007】
さらに、プラズマ溶融分解処理の際に発生するガスの最大発生量を低減し、排気処理設備の規模を小さくできるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者は、プラズマ溶融分解処理方法によって分解処理される処理対象物には、大別して、高温のプラズマを媒介とした熱エネルギーの伝達により溶融分解されるもの、すなわち分解処理が溶融速度律速のものと、強固に原子レベルで結合しているために溶融分解ではなく酸化分解によって処理されるもの、すなわち分解処理が酸素供給律速によるものとがあることに着目し、溶融速度律速の処理対象物と酸素供給律速の処理対象物とを混合して処理すれば、溶融分解による処理と酸化分解による処理が同時並行して進み、個別に処理するよりも処理効率が向上することを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、処理対象物を空気プラズマによってバッチ式で分解処理するプラズマ溶融分解処理方法において、分解処理が溶融速度律速の処理対象物(以下「溶融速度律速物」という。)と、分解処理が酸素供給律速の処理対象物(以下「酸素供給律速物」という。)とを混合して分解処理することを特徴とする。
【0010】
具体的にはプラズマ溶融分解処理設備は、処理対象物を溶融分解処理する溶融分解処理能力(kg/h)と処理対象物を酸化分解処理する酸化分解処理能力(kg/h)とを各々独立して有することから、各々の処理能力に応じて溶融速度律速物と酸素供給律速物とを混合して分解処理することができる。これよって、プラズマ溶融分解処理設備の各々の能力を最大限に活用して処理対象物を分解処理することができるので、処理効率が向上する。
【0011】
より具体的に本発明では、例えば出力1500kW程度のプラズマトーチを有するプラズマ溶融分解処理設備であれば、副資材を加味した溶融速度律速物を30kg〜120kg/バッチ、酸素供給律速物(廃活性炭など)を10kg〜50kg/バッチの範囲で混合処理するのが好ましい。また、酸素供給律速物(セルロース、オレフィン系高分子化合物)には処理開始時に一挙に熱分解してガス化するものがあるため、これらは10kg/バッチ以下で混合するように制限することによりプラズマ溶融分解処理設備の後段の排気処理設備をコンパクトにすることができる。
【0012】
本発明は、主としてPCB汚染物を処理対象物とする。PCB汚染物において溶融速度律速物であるものは、金属成分が多い蛍光灯安定器(主に鉄)、無機汚泥(主にシリカ)、ブッシング(主にアルミナ)等であり、溶融処理後のスラグ塩基度を調整するために必要な石灰石やケイ砂も含まれる。また、酸素供給律速物であるものは、廃活性炭、感圧複写紙(主にセルロース)、防護服等の廃石油化学製品(主にオレフィン系高分子化合物)等である。酸素供給律速物のうち、廃活性炭は、固相表面での炭素の酸化反応(C+O→CO)によって分解されることから、酸素供給律速物の典型例であり、プラズマ溶融分解処理原理に基づいた熱エネルギー投入に対しても処理速度はそれに比例しては増大しない。一方、セルロースやオレフィン系の高分子化合物は処理開始時に一挙に熱分解ガス化し、その発生ガスはプラズマ溶融分解処理炉外へ排出されるが、約20%は炭化物として炉内にとどまる。この炭化物は廃活性炭と同じ挙動を示す。さらに、蛍光灯安定器は溶融速度律速成分(金属成分)と酸素供給律速成分との混合物であり、溶融分解処理と酸化分解処理が独立的に行われるが、処理時間は主成分である金属成分の溶融分解処理が律速となるので、溶融速度律速物である。
【0013】
このように本明細書では、プラズマ溶融分解処理において、溶融分解処理される成分を「溶融速度律速成分」、酸化分解処理される成分を「酸素供給律速成分」といい、これらの成分の単独あるいは混合物であって、全体として分解処理が溶融速度律速の処理対象物を「溶融速度律速物」、酸素供給律速の処理対象物を「酸素供給律速物」という。
【0014】
また本発明では、PCB汚染物のほか、アスベスト、医療廃棄物、あるいは放射性廃棄物を含む有害物質を処理対象物とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、溶融速度律速物と酸素供給律速物を混合して合計バッチ回数分となる(例えば、混合前の溶融速度律速物が2バッチ分、酸素供給律速物が2バッチ分であれば、合計4バッチ分となる)ように投入容器に詰め分けて処理することにより、溶融分解による処理と酸化分解による処理が互いに律速にならないため同時並行して進むことから処理効率が向上し、それぞれの処理への所要時間を加算するよりも短時間で処理を行うことができる。
【0016】
また、従来、溶融速度律速物と酸素供給律速物を個別に処理する場合、酸素供給律速物の処理時には熱エネルギーが有効利用されないが、本発明の混合処理の場合、熱エネルギーは溶融速度律速物の処理に利用されるので、常に熱エネルギーを有効利用できる。
さらに、上記のような混合処理を行うと、混合された処理対象物の反応形態(分解処理形態)の違いから、処理開始後、分解処理に伴うガスの最大発生時間が異なるようになる。そのため、全量単一の処理対象物を処理する場合に比べ、ガスの最大発生量が低減されるため排ガス処理設備の最大処理能力が小さくて済み、排気処理設備の規模を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明によるプラズマ溶融分解処理方法の流れを示す図である。
【図2】本発明のプラズマ溶融分解処理の進行過程を示す概念図である。
【図3】本発明のプラズマ溶融分解処理の進行過程を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、処理対象物としてPCB汚染物をプラズマ溶融分解処理する例によって本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明によるプラズマ溶融分解処理方法の流れを示す図である。分解処理が溶融速度律速及び酸素供給律速のPCB汚染物は、それぞれ搬入保管容器に封入された状態でPCB処理施設に搬入され保管される。これらの搬入保管容器はプラズマ溶融分解処理の前に、PCB処理施設内の前処理設備に搬入される。前処理設備にて、搬入保管容器を開封し、内容物の確認を行った後に、溶融速度律速及び酸素供給律速のPCB汚染物を所定の混合割合となるように投入容器に詰め替える。すなわち、溶融速度律速及び酸素供給律速のPCB汚染物を所定の割合で混合する。その後、投入容器はプラズマ溶融分解処理炉に投入され、空気プラズマによってバッチ式で分解処理される。これによってPCB汚染物は無害化される。プラズマ溶融分解処理炉からは分解処理によって発生したガスと分解残渣のスラグが排出される。ガスは、排ガス処理設備で所定の処理がなされた後に、大気に放出される。
【0020】
このように本発明では、溶融速度律速及び酸素供給律速の処理対象物(PCB汚染物)を混合してプラズマ溶融分解処理を行う。図2は、この本発明のプラズマ溶融分解処理の進行過程を示す概念図である。図2では溶融速度律速成分(鉄、カルシウム、珪素、アルミなど)を「成分A」、酸素供給律速成分(活性炭、高分子化合物など)を「成分B」と表記している。
【0021】
成分Aと成分Bは、それぞれプラズマ溶融分解処理における分解メカニズムが異なる。すなわち、成分Aは溶融分解し、成分Bは酸化分解し、これらの分解反応は互いに独立して進行する。したがって成分Aと成分Bを混合処理すると、溶融分解による処理と酸化分解による処理が同時並行して進む。図2では、成分Aと成分Bの分解処理が同時並行して進む時間帯を交差斜線で示しており、成分Aと成分Bを個別に処理する場合に比べ、その分だけ処理時間を短縮できる。
【0022】
一方、成分Aは溶融速度律速、言い換えれば伝熱律速であるため、その分解反応は徐々に進行し、熱分解ガスは発生しない。これに対して成分B中の高分子化合物など熱分解ガス化する成分「B’=成分Bの約80質量%」は、空気プラズマ中においては初期の段階で急激に熱分解とガス化反応が進み、ガス発生量も初期の段階がピークとなる。その後、炭素分を主成分とする残分(成分Bの約20質量%)の分解反応は酸素供給律速となる。なお、厳密にはこの炭素分を主成分とする残分(「成分B−成分B’」)が「酸素供給律速成分」である。
【0023】
従来は、これらの成分A及び成分Bを含有する処理対象物を、それぞれ単独で投入容器に入れてバッチ式でプラズマ溶融分解処理を行っており、例えば主成分が成分Bである処理対象物(酸素供給律速物)を処理し、次に主成分が成分Aである処理対象物(溶融速度律速物)を処理した場合、そのガス発生量は、図3の上段に示すように、成分Bの処理の初期段階がピークとなる。したがって、プラズマ溶融分解処理炉からの排ガスを処理する排気処理設備の処理能力は、前記ピーク時のガス発生量に対応できるようにする必要がある。
【0024】
これに対して本発明では、溶融速度律速物(成分A)と酸素供給律速物(成分B)を混合して処理するので、例えば溶融速度律速物(成分A)と酸素供給律速物(成分B)をそれぞれ従来法の半分ずつ混合して処理した場合、図3の下段に示すように、ガス発生量のピーク値は、従来法の約半分になる。これは、上述のとおり、成分Aと成分Bでは、処理開始後のガスの最大発生時間が異なるため、混合処理時、基本的にはガス発生が重複しないためである。このように本発明法では従来法に比べ、ガス発生量のピーク値を低くすることができるので、排気処理設備の最大処理能力が小さくて済み、排気処理設備の規模を小さくすることができる。
【0025】
また、図2でも説明したように、溶融速度律速物(成分A)と酸素供給律速物(成分B)を混合処理すると、その分解処理は同時並行して進むので、図3でもわかるように、溶融速度律速物(成分A)と酸素供給律速物(成分B)の総処理時間は、本発明法の方が従来法よりも短縮される。
【0026】
なお、溶融速度律速物(成分A)と酸素供給律速物(成分B)の混合割合は、その発生量や具体的な種別・性状等によって適宜決定するが、処理時間の短縮の点からは混合処理時の成分Aの処理時間と成分B(厳密には「成分B−成分B’」)の処理時間が等しくなるような割合で混合するのが最適である。
【実施例】
【0027】
溶融速度律速物(PCB汚染物)として蛍光灯安定器60kgと、酸素供給律速物(PCB汚染物)として廃活性炭44kgを、本発明法及び従来法でプラズマ溶融分解処理したときの処理時間を比較した。
【0028】
本発明法では、投入容器1缶あたり蛍光灯安定器30kgと廃活性炭22kgを詰め合わせて2回に分けて処理した。1缶あたりの処理時間は24分であり、合計48分で処理できた。
【0029】
一方、従来法では、蛍光灯安定器60kgと廃活性炭44kgをそれぞれ別の投入容器に詰め、個別に処理した。蛍光灯安定器60kgの処理時間は30分、廃活性炭44kgの処理時間は38分であり、合計68分かかった。
【0030】
以上のように、本発明法では処理時間を20分短縮できた。すなわち、能力としては1.4倍向上したことになる。
【0031】
次に、蛍光灯安定器と廃活性炭との最適な混合割合について検討した。そのために、表1に示す要領で、蛍光灯安定器と廃活性炭を各々単独で処理した。
【0032】
【表1】

【0033】
蛍光灯安定器は60kgを単独で塩基度調整剤と混合して1バッチドラム缶で処理した。この場合、溶融速度律速成分が80kg、酸素供給律速成分(熱分解ガス化後の炭化物ベースすなわち上記の「成分B−成分B’」)が6.7kgとなり、30分で処理された。ここで、溶融速度律速成分=蛍光灯安定器60kg×溶融成分43.5%+塩基度調整剤54kg=80kg、酸素供給律速成分=蛍光灯安定器60kg×可燃成分56%×炭化物移行分20%=6.7kg、熱分解ガス化成分=60kg×可燃成分56%×80%=26.9kgである。
【0034】
一方、廃活性炭の処理では1バッチに35kg詰め、30分で酸化分解処理されたことが確認された。すなわち、30分÷35kg=0.857分/kgの処理時間である。
【0035】
この廃活性炭処理の結果から、蛍光灯安定器を1バッチ処理するのに必要な時間は溶融速度律速成分30分に対し、酸素供給律速成分の処理に要している時間は0.857×6.7kg=5.7分であることがわかる。したがって、蛍光灯安定器60kgを処理するときの最適な混合割合は、30−5.7=24.3分の酸素供給律速成分を混合した割合となる。すなわち、24.3÷0.857=28.3kgの廃活性炭を蛍光灯安定器60kgと混合するのが最適である。
【0036】
以上、処理対象物としてPCB汚染物を処理する例を説明したが、本発明の特徴は、溶融速度律速物と、酸素供給律速物とを混合処理することにあり、処理対象物はPCB汚染物に限定されない。例えば処理対象物に、アスベスト、医療廃棄物、放射性廃棄物等の有害物質を含む場合において、溶融速度律速物と酸素供給律速物を混合して分解処理することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物を空気プラズマによってバッチ式で分解処理するプラズマ溶融分解処理方法において、分解処理が溶融速度律速の処理対象物と、分解処理が酸素供給律速の処理対象物とを混合して分解処理することを特徴とする処理対象物のプラズマ溶融分解処理方法。
【請求項2】
プラズマ溶融分解処理設備の溶融分解処理能力(kg/h)と酸化分解処理能力(kg/h)に応じて、分解処理が溶融速度律速の処理対象物と、分解処理が酸素供給律速の処理対象物とを混合して分解処理することを特徴とする請求項1記載の処理対象物のプラズマ溶融分解処理方法。
【請求項3】
分解処理が溶融速度律速の処理対象物を30kg〜120kg/バッチ、分解処理が酸素供給律速の処理対象物を10kg〜50kg/バッチの範囲で混合処理することを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の処理対象物のプラズマ溶融分解処理方法。
【請求項4】
処理対象物がPCB汚染物である請求項1から3のいずれか1項に記載の処理対象物のプラズマ溶融分解処理方法。
【請求項5】
処理対象物が、アスベスト、医療廃棄物、あるいは放射性廃棄物を含む有害物質である請求項1から3のいずれか1項に記載の処理対象物のプラズマ溶融分解処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−224513(P2011−224513A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99037(P2010−99037)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】