説明

処理板及び処理方法

【課題】二酸化炭素を効率よく還元することができる処理板及び処理方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素の処理板1は、基板2と、基板2上に形成され(111)面を表面とする酸化マグネシウムからなる処理膜3とを備える。処理膜3は二酸化炭素を吸着し、加熱により還元する属性を有している。基板2は、(111)面を主面とするチタン酸ストロンチウム、(0001)面を主面とするサファイア、又は(111)面を主面とするイットリア安定化ジルコニアのいずれか一つにより構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理板及び処理方法に関する。特に、二酸化炭素吸着用の処理板、二酸化炭素還元用の処理板及び二酸化炭素を処理する処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化マグネシウム(以下「MgO」ともいう)は、薄膜成長のための基板として用いられることがある。成長基板としてMgOを用いる場合には、成長薄膜の格子定数に対するMgO基板の格子定数のマッチングが考慮される。例えば、薄膜を成長させるMgOの結晶面として、面方位が(100)である面が用いられる。MgOの(100)面は、陽イオンであるMg2+及び陰イオンであるO2−が等量露出しており、静電的に安定している。
【0003】
また、MgOは、単体又は貴金属等と組み合わせることにより、触媒能を有することが知られている。例えば、非特許文献1には、MgOを用いて二酸化炭素を一酸化炭素に還元する方法が記載されている。この方法では、紫外線照射下においてMgO上の水素を還元剤として用いて二酸化炭素を還元している。すなわち、表面に水素を有するMgOに紫外線を照射することにより、MgOの表面のギ酸イオンを介して二酸化炭素の還元処理を行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y.Kohno et al., Phys. Chem. Chem. Phys.3 1108, 2001.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献1に記載された方法では、MgO上に水素が存在している必要がある。また、二酸化炭素を一酸化炭素に還元するために紫外線の照射が必要であり、紫外線照射に伴う多量のエネルギーが必要である。このため、当技術分野では二酸化炭素を効率的に吸着及び還元することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る処理板は、基板と、基板上に形成され(111)面を表面とする酸化マグネシウムからなる二酸化炭素吸着用の処理膜と、を備える。
【0007】
この処理板は、二酸化炭素を吸着するための処理膜を備えている。この処理膜は、(111)面を表面とする酸化マグネシウムからなる。酸化マグネシウムの(111)面は、陽イオンであるMg2+のみが露出した面、或いは陰イオンであるO2−のみが露出した面である。このため、処理膜の表面は静電的に不安定であるので、二酸化炭素を効率よく吸着する属性を有する。
【0008】
また、本発明の他の側面に係る処理板は、基板と、基板上に形成され(111)面を表面とする酸化マグネシウムからなる二酸化炭素還元用の処理膜と、を備える。
【0009】
この処理板は、二酸化炭素を還元するための処理膜を備えている。この処理膜は、(111)面を表面とする酸化マグネシウムからなる。このため、処理膜の表面は静電的に不安定であるので、例えば加熱することで二酸化炭素を効率よく還元する属性を有する。
【0010】
一実施形態では、基板は、結晶構造を有する無機材料により形成されていることが好ましい。このような基板によれば、基板上に(111)面を表面とする酸化マグネシウムからなる処理膜が形成された処理板を好適に得ることができる。
【0011】
一実施形態では、基板の結晶構造は、処理膜が形成される主面における法線に沿った方向に関して3回対称性又は6回対称性を有することが好ましい。このような基板によれば、基板上に(111)面を表面とする酸化マグネシウムからなる処理膜が形成された処理板を好適に得ることができる。
【0012】
一実施形態では、基板は、(111)面を主面とするチタン酸ストロンチウム、(0001)面を主面とするサファイア、又は(111)面を主面とするイットリア安定化ジルコニアのいずれか一つにより構成されていてもよい。このような材料によれば、基板の主面上に(111)面を表面とする酸化マグネシウムからなる処理膜が形成された処理板を好適に得ることができる。
【0013】
本発明のさらに他の側面に係る処理方法は、基板、及び基板上に形成され(111)面を表面とする酸化マグネシウムからなる処理膜を備える処理板を用いて、処理膜に二酸化炭素を吸着させる吸着工程を備える。
【0014】
この処理方法は、二酸化炭素を吸着するための処理板を用いている。この処理板は、(111)面を表面とする酸化マグネシウムからなる処理膜を有する。このため、処理膜の表面は静電的に不安定であるので、二酸化炭素を効率よく吸着することができる。
【0015】
一実施形態では、吸着工程の後、処理膜を加熱して処理膜に吸着された二酸化炭素を還元する還元工程をさらに備えてもよい。この還元工程では、静電的に不安定な表面を有する処理膜を加熱することで、二酸化炭素を効率よく還元することができる。
【0016】
一実施形態では、還元工程において処理膜の温度を50℃以上に加熱してもよい。これによれば、処理膜の温度を50℃以上にすることにより、表面に吸着した二酸化炭素の還元を生じさせることができる。
【0017】
一実施形態では、吸着工程の前に、処理膜を加熱することにより表面上の付着物を除去する除去工程をさらに備えてもよい。これによれば、付着物を除去することにより、異物の付着により低下した二酸化炭素の吸着特性を回復させることが可能となる。従って、処理膜の表面に二酸化炭素をさらに効率よく吸着させることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、二酸化炭素を効率的に吸着及び還元する処理板及び処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】処理板の構成を説明するための図である。
【図2】MgOの結晶構造を模式的に示す図である。
【図3】製造装置の主な構成を説明するための図である。
【図4】還元装置の主な構成を説明するための図である。
【図5】処理方法の一例を示すフロー図である。
【図6】実施例に係る処理膜のXRD回折パターンである。
【図7】(a)は実施例に係る処理膜の特性を説明するための図であり、(b)は比較例に係る処理膜の特性を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0021】
本実施形態に係る処理板の構成について説明する。図1は、処理板1の構成を説明するための図である。処理板1は、基板2と処理膜3とを備えている。この処理膜3は二酸化炭素吸着用の処理膜であると共に、二酸化炭素還元用の処理膜である。
【0022】
基板2とは、無機材料により形成される板状物であり、好ましくはチタン酸ストロンチウム、サファイア、又はイットリア安定化ジルコニア等の1種以上で形成される結晶、又は非結晶構造物である。この基板2の好ましい結晶構造は、主面2aの法線に沿った方向に関して3回対称性又は6回対称性を有する。基板2として、例えば、(111)面を表面とするチタン酸ストロンチウム(以下「SrTiO」ともいう)、(0001)面を表面とするサファイア(以下「Al」ともいう)、又は(111)面を表面とするイットリア安定化ジルコニア(以下「YSZ」ともいう)などが用いられる。
【0023】
SrTiOは、三酸化チタン(IV)ストロンチウムとも呼ばれ、複合酸化物でありペロブスカイト型の結晶構造を有する。さらに、基板2を構成するSrTiO等には不純物がドープされてもよい。不純物がドープされた基板2では、基板2に電圧を印加すると電流が流れるため、抵抗発熱により基板が加熱される。よって、基板に印加する電圧を制御することにより処理膜の温度を制御することが可能となるので、還元を容易に制御することができる。不純物としては、例えばニオブ(以下「Nb」ともいう)が用いられる。不純物であるNbのドープ量は、例えば0.01〜0.5重量パーセントである。また、基板2は、例えば、面方位が(111)に配向された主面2aを有する。
【0024】
処理膜3は、基板2の主面2a上に形成されている。処理膜3は、(111)面を表面とする酸化マグネシウムからなる表面3aを有している。処理膜3の厚さは、例えば0.5〜100nmであり、好ましくは5〜20nmである。さらに好ましい処理膜3の厚さは7〜15nmである。
【0025】
ここで、一般的なMgOの結晶構造を説明する。図2は、MgOの結晶構造を模式的に示す図である。MgOは、立方晶系である塩化ナトリウム型の結晶構造を有し、天然に存在するMgOの表面は面方位は(100)である。原子スケールで平坦化されたMgOの(100)面は、陽イオンであるMg2+と、陰イオンであるO2−とが等量露出した面であり、電気的に中性であるために安定な面である。
【0026】
一方、本実施形態に係る処理膜3は、面方位が(111)である結晶面CFからなる表面3aを有する。この結晶面CFには、陽イオンであるMg2+のみが露出した面、又は陰イオンであるO2−のみが露出した面が露出している。このために、結晶面CFは、電気的にプラス又はマイナスに帯電しており、静電的に不安定な面である。このような結晶面CFは二酸化炭素(以下「CO」ともいう)を吸着し、加熱により還元する属性を有している。
【0027】
なお、処理膜3の表面3aは原子レベルで平坦である必要はない。結晶面が原子スケールで平坦化されているとは、結晶面が完全に平坦な場合のみに限定されない。すなわち、実際に原子レベルで平坦化された結晶面を作成した場合、原子レベルで見ると結晶の表面は微小に傾いている。このとき、結晶の表面には原子層に相当するステップ構造が形成されているが、このような場合も結晶面が原子レベルで平坦である場合に含まれる。
【0028】
次に、処理板1の製造方法について説明する。処理板1の製造には、例えばレーザアブレーション法を用いることが可能である。レーザアブレーション法によれば、比較的広い成膜条件下において処理板1を製造することができる。
【0029】
図3は、製造装置10の構成を説明するための図である。製造装置10は、チャンバ11、基板2及びターゲット12を備えている。なお、基板2の材料として、ここではSrTiOを用いた例を説明する。
【0030】
チャンバ11は、基板2及びターゲット12を収容する内部領域11aを有している。さらに、このチャンバ11には、窓13、排気装置14、レーザ光源15、加熱装置16及びガス導入装置18を備えている。チャンバ11は密閉された容器であり、真空排気可能に構成されている。
【0031】
窓13は、チャンバ11の側壁に設けられている。窓13は光学的に透明に構成されており、この窓13を介してレーザ光Lがチャンバ11の内部領域11aに導光される。排気装置14は、チャンバ11の内部領域11aを減圧するために用いられる。この排気装置14は、所定の真空ポンプである、例えばターボ分子ポンプや油拡散ポンプ等を用いることができる。レーザ光源15は、チャンバ11の外部に配置され、ターゲット12に照射されるレーザ光Lを発生する。加熱装置16は、ランプ光源17を備えている。このランプ光源17からの光は、基板2に集光される。ガス導入装置18は、チャンバ11の内部領域11aに所定のガスを導入するための装置である。所定のガスは例えば酸素ガスである。ガス導入装置18は、ガス源19、及び弁20を含んでいる。
【0032】
ターゲット12は、チャンバ11の内部領域11aに配置されている。このターゲット12が、基板2の主面2a上に形成される処理膜3の原料である。本実施形態では、ターゲット12にはMgO焼結体又はMgO単結晶が用いられる。本実施形態においてターゲット12は、基板2に対して鉛直下向きの方向に、基板2から離間して配置されている。ターゲット12と基板2との距離は任意であるが、製造装置10の規模に応じて適宜選択する。
【0033】
続いて、処理板1を製造する工程について説明する。まず、チャンバ11内に基板2及びターゲット12を配置する。チャンバ11内に基板2及びターゲット12を配置した後に、チャンバ11の内部を10−5〜10−7Pa程度に減圧する。続いて、ガス導入装置18を用いて外部から酸素ガスを注入し、酸素分圧を例えば10−2〜10−5Pa程度に設定する。次に、ランプ光源17からランプ光を基板2に集光させて、基板2を所定の温度まで加熱する。所定の温度は、例えば400〜700℃である。
【0034】
次に、チャンバ11の窓13からレーザ光Lをチャンバ11内に照射する。このレーザ光Lはパルスレーザ光であって、高いエネルギー密度を有し、ターゲット12に照射される。例えば、このレーザ光Lは波長が248nmであるKrFエキシマレーザ(フッ化クリプトンエキシマレーザ)である。チャンバ11内に導入されるレーザ光Lの総エネルギーは、50〜150mJ程度である。ターゲット12の表面12aにレーザ光Lが照射されると、ターゲット12の表面12aにあるMgOが剥離される。剥離されたMgOは、基板2の主面2aに堆積し、処理膜3を形成する。以上の工程により、SrTiOからなる基板2の主面2aの上に処理膜3が形成された処理板1が製造される。以下、MgOからなる処理膜及び基板を含めて処理板という。
【0035】
次に、基板2の材料としてYSZを用いた例を説明する。まず、超平坦化した単結晶基板である(111)面を有するYSZの上にNiO単結晶薄膜を堆積する。堆積方法には、パルスレーザ蒸着法、スパッタリング法、CVD法、MO−CVD法、MBE法等を用いることができる。堆積時の基板の温度は、例えば0〜100℃に設定される。なお、堆積時の基板温度は10〜50℃に設定されることが好ましい。また、基板表面の二乗平均粗さRRMSは、1.0nm以下であることが好ましい。RRMSは、原子間力顕微鏡を用いることにより、例えば、一辺が1μmの領域を走査することにより算出される。
【0036】
上記YSZからなる基板に堆積したNiO薄膜は、三次元的に堆積された粒子が確認されるのみである。原子スケールで平坦なテラスと分子層ステップの構造は確認されないが、これを高温でアニールする。アニール温度は600〜1500℃に設定されることが好ましい。
【0037】
アニールする場合、NiO薄膜表面を、YSZからなる基板などで覆うことが好ましい。また、NiO薄膜を堆積した基板を2枚用いて、NiO薄膜表面を内側に挟み込むように2枚を重ねてアニールしてもよい。アニール中の雰囲気は大気又は酸素ガスであることが好ましい。次に、2枚重ねた場合には剥がして1枚の基板にする。これによれば、原子スケールで表面が平坦である単結晶NiOの(111)面(以下「NiO(111)/YSZ(111)」ともいう)が形成される。
【0038】
次に、NiO(111)/YSZ(111)の上に、MgOをレーザアブレーション法を用いて堆積する。堆積時の基板温度は、500〜900℃に設定されることが好ましい。酸素分圧は10−4〜1Paに設定される。この方法により、単結晶の研磨では存在しない原子スケールで表面が平坦なMgOの(111)面を有する処理膜が得られる。以上の工程により、YSZからなる基板2の上にNiO薄膜を介して処理膜3が形成された処理板1が製造される。
【0039】
次に、処理板1を用いたCOの処理方法について説明する。まず、処理装置5について説明する。図4は、処理装置5の構成を説明するための図である。処理装置5は、チャンバ21、処理板1を備えている。
【0040】
チャンバ21は、処理板1を収容する領域21aを有している。さらに、このチャンバ21は、排気装置14A、及びガス導入装置(導入手段)22、及び加熱装置(加熱手段)25を備えている。チャンバ21は密閉された容器であり、真空排気可能に構成されている。排気装置14Aは、製造装置10が有する排気装置14と同様の構成を有する。ガス導入装置22は、チャンバ21の内部領域21aにCOガスを導入するための装置である。ガス導入装置22は、ガス源23、及び弁24を含んでいる。加熱装置25は、チャンバ21内に配置された端子26、27と、チャンバ21の外部に配置された電源28とを有する。この端子26、27の一端は電源28に接続されている。端子26、27の他端は基板2に電気的に接続されている。
【0041】
次に、処理板1を用いてCOを吸着させる処理方法について説明する。この処理方法では、COの吸着工程S12が実施される。ここで、吸着工程S12とは、処理板1の処理膜3の表面3aにCOを吸着させる工程をいう。
【0042】
処理板1をチャンバ21の内部領域21aに配置する。次に、例えば3.0×10−8Paの真空度になるようにチャンバ21を減圧する。続いて、ガス導入装置22を用いて、チャンバ21内にCOガスを導入する。例えば、CO分圧は1.0×10−6Paに設定され、その分圧において処理膜3を5分間晒す。
【0043】
処理膜3の表面3aは、MgOの(111)面であるため、COの吸着特性が高い。よって、処理膜3がCOガスを含む雰囲気中に晒されている間に表面3aにCOが吸着される。なお、COガスを導入する時間は5分に限定されるものではない。COガスを導入する時間には特に制限はなく、任意の時間としてよい。また、チャンバ21の内部領域21aを減圧してから、COガスを導入するまでの時間には特に制限はなく、任意の時間としてよい。以上の工程により、処理板1を用いてCOを吸着させる処理方法が実施される。
【0044】
続いて、処理板1を用いてCOを還元する処理方法について説明する。この処理方法では、COの還元工程S14が実施される。ここで、還元工程S14とは、処理膜3を加熱することにより処理膜3の表面3aに吸着されたCOを還元する工程をいう。
【0045】
この工程では、まず、COが吸着された処理板1を準備する。COが吸着された処理板1を準備する方法として、上述した処理板1を用いてCOを吸着させる処理方法を用いてもよい。
【0046】
次に、COが吸着された処理膜3を加熱する。端子26、27を介して電源28から基板2に電圧を印加する。基板2に電流が流れると、抵抗発熱により基板2が発熱する。これにより処理膜3が加熱される。処理膜3は、例えば毎秒5℃の速度で加熱される。処理膜3の温度は50℃以上であればよいが、処理膜3の温度は100〜200℃の範囲であることがさらに好ましい。なお、処理膜3の温度には特に上限はない。加熱することにより、処理膜3に吸着したCOが還元され、一酸化炭素(以下「CO」ともいう)が発生する。以上の工程により、処理板1を用いてCOを還元する処理方法が実施される。
【0047】
なお、上述した実施形態は本発明に係る処理板及び処理方法の一例を示すものである。本発明に係る処理板及び処理方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施形態に係る処理板及び処理方法を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0048】
例えば、上述した実施形態では、不純物がドープされている基板2を例に説明したが、これに限定されることはない。基板2として、不純物がドープされていないSrTiO等を用いてもよい。
【0049】
また、上述した実施形態において、処理方法は吸着工程S12及び還元工程S14以外の所望の工程をさらに備えていてもよい。例えば、吸着工程S12を実施する前に、表面3a上に付着した付着物を除去する除去工程S10を実施してもよい。除去工程S10では、処理膜3を加熱することにより、処理膜3の表面3aに付着した付着物を除去する。まず、図4に示された処理装置5のチャンバ21内に処理板1を配置する。次に、排気装置14Aを用いてチャンバ21の内部領域21aを減圧する。チャンバ21の内部領域21aは、例えば、3.0×10−8Paの真空度になるように減圧される。続いて、端子26、27を介して電源28から基板2に電圧を印加する。基板2に電流が流れると、抵抗発熱により基板2が発熱する。これにより、基板2の主面2a上に形成されている処理膜3が加熱され、処理膜3の表面3aの付着物が除去される。このとき処理膜3は、例えば700℃になるように加熱される。なお、図5に示されるように、除去工程S10、吸着工程S12、還元工程S14を一連の工程として実施してもよい。
【0050】
また、上述した実施形態では、処理板1の製造装置10と、処理板1を用いた処理方法の実施に用いられる処理装置5とが別の装置である場合を例に説明したが、これに限定されることはない。例えば、処理膜3を形成するための要素であるターゲット12、レーザ光源15、加熱装置16等をさらに備えた処理装置により、処理板1を製造して、処理方法における吸着工程S12と還元工程S14とを実施してもよい。これによれば、処理板1の製造から処理方法の還元工程S14までを同一の装置で実施することができる。
【0051】
また、処理方法を実施する度に新たな処理板1を製造する必要はなく、予め形成された処理膜3を有する処理板1を用いて、COの処理方法を実施してもよい。
【0052】
また、上述した実施形態では、処理板1の製造工程において基板2をランプ光源17からの光により加熱する方法を例に説明したが、これに限定されることはない。基板2の加熱には種々の方法を用いることができる。例えば、ランプ光源17からの光に代えて、赤外線レーザを用いてもよい。
【0053】
また、上述した実施形態では、還元工程S14において基板2上の処理膜3を抵抗加熱により加熱する方法を例に説明したが、これに限定されることはない。処理膜3の加熱には種々の方法を用いることができる。例えば、ランプ光源17からの光により加熱してもよいし、赤外線レーザを用いてもよい。
【実施例】
【0054】
以下、上記効果を説明すべく本発明者が実施した実施例及び比較例について述べる。
【0055】
(実施例1)
図3に示す製造装置10を用いて実施例1に係る処理板を作成した。この処理板の作成では、基板の主面に(111)面を表面とするMgOからなる処理膜を形成した。なお、基板はNbがドープされた(111)面を表面に持つSrTiOからなる。Nbのドープ量は0.5重量パーセントである。
【0056】
(比較例1)
図3に示す製造装置10を用いて比較例1に係る処理板を作成した。この処理板の作成では、基板の表面に(100)面を表面とするMgOからなる処理膜を形成した。なお、基板はNbがドープされた(100)面を表面に持つSrTiOからなる。Nbのドープ量は0.5重量パーセントである。
【0057】
(構造評価)
実施例1に係る処理膜3の構造評価を行った。図6は、実施例1に係る処理膜のX線回折パターンを示す。図6において、グラフG1は基板の温度が400℃であるときに形成された処理膜のパターンであり、グラフG2は基板の温度が500℃であるときに形成された処理膜のパターンである。さらに、図6において、グラフG3は基板の温度が600℃であるときに形成された処理膜のパターンであり、グラフG4は基板の温度が700℃であるときに形成された処理膜のパターンである。また、これらの処理膜は、酸素分圧が1×10−3Paの環境下において形成された。グラフG1〜グラフG4を参照すると、いずれの温度条件下においても、MgOの(111)面を示す箇所D1、及び(222)面を示す箇所D2にピークが現れることが確認された。これにより、基板の温度が400〜700℃の範囲において、(111)面を表面とするMgOからなる処理膜が形成されることが確認された。
【0058】
(吸着特性評価及び還元特性評価)
実施例1に係る処理板1、及び比較例1に係る処理板の吸着特性及び還元特性を評価した。この評価では、COのガス昇温脱離特性を測定することにより、COの吸着特性を評価した。また、COのガス昇温脱離特性を測定することにより、COの還元特性を評価した。ガス昇温脱離特性は、四重極質量分析法を用いて測定した。四重極質量分析法は、高周波電圧が印加された4つの電極管にイオンを通過させることによりイオンに摂動を付加し、所望のイオンのみを通過させて、通過したイオンの質量を測定する方法である。この評価では、実施例1として基板の温度が650℃の状態において作成された厚さが50nmの処理膜を備える処理板を用いた。また、比較例1として基板の温度が650℃の状態において作成された厚さが5nmの処理膜を備える処理板を用いた。
【0059】
図7(a)は、実施例1に係る処理板のCO及びCOのガス昇温脱離特性を示す。図7(a)において、グラフG5は、COのガス昇温脱離特性を示し、グラフG6はCOのガス昇温脱離特性を示す。グラフG5を参照すると、50℃付近から表面3aからCOの脱離が生じていることが確認された。また、グラフG6を参照すると、50℃付近から表面3aにおけるCOが還元されてCOが発生し、さらに、100℃付近から多量のCOが生じていることが確認された。従って、処理膜3を用いたCOの還元方法では、紫外線などを照射することなく、COの還元が表面3aにおいて進行することが確認された。
【0060】
図7(b)は、比較例1に係る処理板のCO及びCOのガス昇温脱離特性を示す。図7(b)において、グラフG7は、COのガス昇温脱離特性を示し、グラフG8はCOのガス昇温脱離特性を示す。グラフG7を参照すると、50℃付近から表面からCOの脱離が生じていることが確認された。一方、グラフG7を参照すると、COの発生量はほぼゼロであり、処理膜を加熱してもCOが還元されないため、COが生じないことが確認された。
【0061】
そして、グラフG5とグラフG7とを比較すると、実施例1に係る処理膜からのCOの脱離量は、比較例1に係る処理膜からのCOの脱離量よりも多いことが確認された。従って、MgOの(111)面からなる表面を有する処理膜は、効率よくCOを吸着することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
薄膜基板として天然に存在する(100)面を表面とするMgO基板が用いられている。従来、薄膜成長の基板を選ぶときは、主に格子定数の整合が重視され基板表面における触媒能等は重視されていない。一方、第1実施形態に係る処理板1はCOの還元作用を有する。このため、薄膜等の結晶成長のための基板として、付加価値を有することが可能である。この処理板1は、例えば、MOCVD等のように分子を反応させつつ基板に堆積させるプロセスを有する処理に用いることができる。
【0063】
さらに、触媒として、プラチナ、パラジウムなどの貴金属或いは貴金属と酸化物のハイブリッドが用いられている。しかし、これらの物質は希少であり毒性を有する場合もある。一方、本実施形態に係るCOの処理板及び処理方法によれば、MgOを用いている。MgOはありふれた物質であると共に毒性を有していない。従って、本実施形態に係るCOの処理板及び処理方法は環境汚染を心配する必要がない。
【0064】
そして、化石燃料の使用によりCOが増加し続けている。このCOは化学的に極めて安定であるため、大気圧、室温条件下では他の化学種へ改変することは容易ではない。このため、COを集めて閉じ込めたり、有効に利用する方法が研究されている。本実施形態に係る処理板によれば、COを効率よく吸着することができる。従って、COを容易に貯蔵することが可能となる。
【0065】
さらに、本実施形態に係るCOの処理板及び処理方法によれば、COを処理膜に吸着させた後に処理膜を加熱することによりCOをCOに還元することが可能である。従って、容易にCOを還元することができるため、COを出発原料とした反応工程を実現することが可能となる。従って、COを有効に利用することができる。
【0066】
また、本実施形態に係る処理膜は基板の上に形成されている。このため、処理板の取り回しを容易にすることができる。さらに基板を介して別の部材と結合させることができる。その上、例えば、不純物がドープされ導電性を有する基板であるとき、基板に印加する電圧を制御することにより処理膜の温度を容易に制御することが可能である。処理膜の温度制御により、処理膜におけるCOの吸着又は還元(脱離)を容易に制御することができる。また、例えば、黒みを帯びた色の基板等、光の透過率が低い基板であるとき、基板に太陽光が照射されると50℃程度まで基板の温度が上昇することが考えられる。これによれば、人為的にエネルギーを注入することなく、処理板においてCOの吸着、還元(脱離)が行われる。そのため、処理板を用いて植物が夜間に吐き出したCOを吸着して蓄え、昼間に処理板からCOを脱離させて光合成の原料として用いることができる。
【符号の説明】
【0067】
1…処理板、2…基板、3…処理膜、5…処理装置、10…製造装置、11,21…チャンバ、12…ターゲット、13…窓、14,14A…排気装置、15…レーザ光源、16、25…加熱装置、17…ランプ光源、18,22…ガス導入装置、G1〜G8…グラフ、L…レーザ光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成され(111)面を表面とする酸化マグネシウムからなる二酸化炭素吸着用の処理膜と、を備える処理板。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に形成され(111)面を表面とする酸化マグネシウムからなる二酸化炭素還元用の処理膜と、を備える処理板。
【請求項3】
前記基板は、結晶構造を有する無機材料により形成される請求項1又は2に記載の処理板。
【請求項4】
前記基板は、結晶構造を有するもので、前記処理膜が形成される主面における法線に沿った方向に関して3回対称性又は6回対称性を有する請求項1〜3の何れか一項に記載の処理板。
【請求項5】
前記基板は、(111)面を前記主面とするチタン酸ストロンチウム、(0001)面を前記主面とするサファイア、又は(111)面を前記主面とするイットリア安定化ジルコニアのいずれか一つにより構成された請求項1〜4の何れか一項に記載の処理板。
【請求項6】
基板、及び前記基板上に形成され(111)面を表面とする酸化マグネシウムからなる処理膜を備える処理板を用いて、前記処理膜に二酸化炭素を吸着させる吸着工程を備える処理方法。
【請求項7】
前記吸着工程の後、前記処理膜を加熱して前記処理膜に吸着された二酸化炭素を還元する還元工程をさらに備える請求項6記載の処理方法。
【請求項8】
前記還元工程では前記処理膜の温度を50℃以上に加熱する、請求項7記載の処理方法。
【請求項9】
前記吸着工程の前に、前記処理膜を加熱することにより前記処理膜上の付着物を除去する除去工程をさらに備える、請求項6〜8の何れか一項に記載の処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−56323(P2013−56323A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197562(P2011−197562)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物 2011年春季 第58回応用物理学関係連合講演会「講演予稿集」 発行日 平成23年3月9日 発行者 社団法人応用物理学会 刊行物 JOINT CONFERENCE OF 5th INTERNATIONAL CONFERENCE ON SCIENCE AND TECHNOLOGY FOR ADVANCED CERAMICS (STAC5) and 2nd INTERNATIONAL CONFERENCE ON ADVANCED MATERIALS DEVELOPMENT AND INTEGRATION OF NOVEL STRUCTURED METALLIC AND INORGANIC MATERIALS(AMDI2) PROGRAM先進セラミックスの科学と技術に関する第5回国際会議(STAC5)、及び先端材料の開発と新しい構造金属材料と無機材料との融合に関する第2回国際会議(AMDI2)の合同会議 プログラム(冊子及びUSBメモリ) 発行日 平成23年6月22日 発行者 Organization Commitee of STAC5−AMDI2先進セラミックスの科学と技術に関する第5回国際会議(STAC5)、及び先端材料の開発と新しい構造金属材料と無機材料との融合に関する第2回国際会議(AMDI2)の合同会議の組織委員会 刊行物 2011年秋季 第72回応用物理学会学術講演会「講演予稿集」 発行日 平成23年8月16日 発行者 公益社団法人応用物理学会
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構さきがけ研究「革新的次世代デバイスを目指す材料とプロセス」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】