説明

処理液の回収装置

【課題】処理槽からワークを引き上げる際にワークに付着した処理液を回収して水洗槽に持ち込まれる処理液を減らし、それによって水洗水を削減することができる、処理液の回収装置を提供する。
【解決手段】処理槽1の液面上方のワークWを挟む位置にワークに向けて洗浄水を噴出するシャワーノズル3、3を設け、該シャワーノズル3、3の上方にワークに向けてエアを噴出するエア噴出口5、5を設け、処理槽1上方にワークW及びワークWを吊り下げるハンガー6の周囲を囲む囲い7を設け、囲い7は上下方向に伸縮自在なものとし、ハンガー6の上昇中囲い7の上端を上昇させて囲いを伸ばし、ハンガー6の上昇完了時囲い7の上端を下降させて囲い7を縮めるエアシリンダ9、9を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理装置の処理槽からワークを引き上げる際に、ワークに付着した処理液を回収する、処理液の回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面処理装置においては、ワークに付着した処理液が次工程に持ち込まれないように、処理槽の次に水洗槽を設けてワークを洗浄している。処理品質を確保するためワークの洗浄は充分に行われなければならず、そのためには水洗水の水質を一定以上に保つ必要があり、過去には大量の水洗水を供給することで対処していた。このように大量の水洗水を供給するのは多くの水資源を消費することになり、また、供給された大量の水洗水は廃棄するために処理しなければならず、環境に大きな負荷を与え、運転コストの増大を招くという問題があった。
【0003】
そのため水洗水の節減が図られ、その一つの方法として多段向流水洗が知られている。ところが、多段向流水洗を行う場合には、水洗槽を複数設けなければならないため表面処理装置の設置面積が大きくなり、設置費用が増大するという問題があった。これに対し、例えば特許文献1に示されるような、ワークを搬送する走行用搬送機により移動する水洗装置を設け、その水洗装置のシャワーボックス内でシャワーノズルから噴射する洗浄液により洗浄するようにした表面処理装置が提案されている。この特許文献1にはそのような構成とすることにより設置費用及び設置面積を削減し、水洗水の供給量を削減することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−220652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上述べたように、従来の水洗槽を複数設けて多段向流水洗を行うことにより水洗水を削減する方法では、表面処理装置の設置面積が大きくなって費用がかさむという問題があった。特許文献1に示されるような表面処理装置によれば、表面処理装置の設置面積が大きくなるという問題は解決するが、シャワーボックスやスライド可能なドレンパンを設けることで搬送機が大型になり、複雑になって高価になるという問題がある。また、移動する搬送機に洗浄水を供給するのは容易なことではなく、ドレンパンで受けた洗浄後の洗浄水は排水溝に排水されるので有効に利用することは困難であり、処理をしたうえで廃棄しなければならないという問題もある。
【0006】
本発明は上記の問題点を解決しようとするものであり、処理槽からワークを引き上げる際にワークに付着した処理液を回収して水洗槽に持ち込まれる処理液を減らし、それによって水洗水を削減することができる、処理液の回収装置を実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、本発明は上記目的を達成するために、処理槽の液面上方のワークを挟む位置にワークに向けて洗浄水を噴出するシャワーノズルを設け、該シャワーノズルの上方にワークに向けてエアを噴出するエア噴出口を設け、ハンガー及びワークの上昇中シャワーノズルに洗浄水、エア噴出口にエアをそれぞれ供給する洗浄水とエアの供給手段を設け、処理槽の上方にハンガー及びワークの周囲を囲む囲いを設けたものである。ここにおいて、囲いを上下方向に伸縮自在なものとし、囲いの上端をハンガー及びワークの上昇中上昇させて囲いを伸ばし、ハンガー及びワークの上昇完了時下降させて囲いを縮める駆動機構を設けることが好ましい。
【0008】
上記の課題解決手段による作用は次の通りである。すなわち、処理槽から引き上げられるワークはシャワーノズルから噴出する洗浄水により洗い流され、洗浄後残留して付着している洗浄水はエア噴出口から噴出するエアにより吹き飛ばされて除去される。洗浄中ワークから跳ね返った洗浄水やエアにより吹き飛ばされた洗浄水は囲いにより捕捉されて飛散することなく処理槽内に流下する。これによりワークに付着して次工程の水洗槽に持ち込まれる処理液は極めて僅かな量になる。
【発明の効果】
【0009】
以上述べたように、本発明の処理液の回収装置は、処理槽から引き上げられるワークをシャワーノズルから噴出する洗浄水により洗い流し、洗浄後残留して付着している洗浄水はエア噴出口から噴出するエアにより吹き飛ばして回収しているので、次工程の水洗槽に持ち込まれる処理液を減らことができ、水洗水の補給量を減らしても水洗水中の処理液の濃度が上昇せず、水洗水を削減することができる効果がある。しかも、この回収は処理槽上の囲いの中で行われるので他の処理液と混合することがない利点がある。さらに、囲いを上下方向に伸縮自在なものとした場合には、囲いを設けるために搬送装置等を変更する必要がない利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態を示す要部の縦断側面図である。
【図2】本発明の実施形態を示す要部の縦断正面図である。
【図3】本発明の実施形態を示す要部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0012】
図において1は処理液の回収装置を設ける対象の処理槽であり、該処理槽1の上部にはシャワー配管2、2がワークWを挟むように対向して設けられている。シャワー配管2、2にはそれぞれ複数個のシャワーノズル3、3が取り付けられており、シャワーノズル3、3はシャワー水の噴出方向が水平ないしはやや下方になるように設定されている。シャワー配管2、2の上部にはエア配管4、4がワークWを挟むように対向して設けられており、エア配管4、4には複数のエア噴出口5、5が設けられている。エア噴出口5、5はノズルあるいは錐穴、スリット等とすることができ、噴出方向は水平方向に設定されている。
【0013】
処理槽1の上面にはワークW及びワークWを吊り下げたハンガー6を囲む囲い7の下端が取り付けられており、囲い7の内側面に付着した処理液は処理槽1内に流下するように構成されている。また、従来の表面処理装置と同様にハンガー6を支持するハンガー受けが設けられている。図1及び図3において、シャワー配管2、2及びエア配管4、4と処理槽1の側壁との間に設けられている空間は、当該処理がめっき等の電解処理を行う工程の場合に対向電極を設けるための空間であり、電解処理を行わない工程であればこの空間は不要である。処理槽1の左右方向には、処理工程にしたがって図示しない他の処理槽、水洗槽等が配列されて表面処理ラインが構成され、ワークWを吊り下げたハンガー6を工程にしたがって搬送する図示しないキャリア等の搬送装置が設けられる。
【0014】
図において8は処理槽1に設けられるオーバーフロー槽であり、オーバーフロー槽8へのオーバーフローにより処理槽1内の処理液の液面は一定の高さに保持される。前記シャワー配管2、2は液面から50mm程度上方に位置するように設けることが好ましく、エア配管4、4はそのシャワー配管2、2から50mm程度上方に位置するように設けることが好ましい。また、前記囲い7は図中二点差線で示すような、その上端がエア配管4、4から少なくとも100mm以上上方に位置するような高さとすることが好ましい。
【0015】
このように構成された本発明の処理液の回収装置において、図示していないが、シャワー配管2、2には処理槽1の次工程の水洗槽内の水洗水がポンプにより洗浄水として供給されるようになっており、該ポンプは搬送装置によりハンガー6が上昇させられて上限に到達するまでの間運転されてシャワーノズル3、3への洗浄水の供給手段となる。ハンガー及びワークWの上昇中、シャワーノズル3、3に供給された洗浄水はワークWに向けて噴出し、ワークWに付着した処理液を洗い流しながら処理槽1に流下する。ここにおいて、シャワー配管2、2には水洗槽内の水洗水に代えて水道水等の清浄な水を供給することも可能であり、水道水を供給する場合には電磁弁を設け、ハンガー6が上昇させられて上限に到達するまでの間電磁弁を開放することにより供給することができ、ポンプを設ける必要はない。
【0016】
処理液は自然蒸発により減少するものであり、また、水洗水の補給量を削減するために濃縮装置を使用して処理液が濃縮されることがある。前記のハンガー6が上昇させられて上限に到達するまでの間にシャワー配管2、2に供給される洗浄水の量は、この処理液の減少量に見合うように調整される。すなわち、ハンガー6が一回上昇させられる間に供給される洗浄水の量は、ハンガー6の処理間隔すなわちタクトタイムに相当する時間当たりに減少する処理液の量と同量に調整されている。その結果、単位時間当たり減少する処理液の量とシャワー配管2、2から供給される洗浄水の量は同量となり、処理槽1内の処理液の量は変化しないことになる。自然蒸発が少ない等処理液の減少量が少なく、シャワー配管2、2に供給される洗浄水の単位時間当たりの量が少なくなる場合には、洗浄効果を確保するためシャワーノズル3、3に霧状に噴出するもの等を使用することが好ましい。
【0017】
エア配管4、4には図示しないエア源と電磁弁がエア供給手段となり、ハンガー6が上昇させられて上限に到達するまでの間電磁弁が開いてエアが供給される。これによりエア噴出口5、5からはワークWが上昇する間エアがワークWに向けて噴出し、ワークWに処理液の洗浄後残留して付着している水洗水が吹き飛ばされる。シャワーノズル3、3からワークWに向けて噴出した水洗水がワークWに当たるとその一部はワークWに付着した処理液とともに跳ね返り、エア噴出口5、5から噴出したエアがワークWに当たると洗浄後残留して付着している水洗水が吹き飛ばされる。このときワークWは囲い7により囲まれており、ワークWから跳ね返った処理液や吹き飛ばされた水洗水は囲い7により捕捉されて飛散することなく処理槽1内に流下する。
【0018】
この囲い7を蛇腹等の上下方向に伸縮自在としたものが請求項2の発明である。囲い7の上端は処理槽1に取り付けられたエアシリンダ9、9のピストンに連結されており、エアシリンダ9、9の伸縮動作により囲い7の上端が上下して囲い7が伸縮するようになっている。エアシリンダ9、9にはハンガー6が上昇させられる間は伸びる方向、ハンガー6の上昇が完了したときは縮む方向にそれぞれ動作するように図示しない制御装置によって制御される電磁弁を介してエアが供給されており、囲い7を伸縮させる駆動機構となっている。これにより囲い7はハンガー6が上昇する間上端が上昇させられて伸ばされ、ハンガー6の上昇が完了したときは上端が下降させられて縮められる。囲い7は上端が最も上昇させられて伸ばされた状態で、その上端がエア配管4、4から少なくとも100mm以上上方に位置するような高さになるように、囲い7の伸縮範囲及びエアシリンダ9、9のストロークを設定することが好ましい。
【0019】
以上説明したように、本発明の処理液の回収装置では、処理槽1上の囲い7の中でワークWに付着した処理液が洗い流され、さらにエアにより吹き飛ばされるので、ワークWに付着して次工程の水洗槽に持ち込まれる処理液は極めて少なくなる。これにより処理槽1の次工程の水洗槽では、処理槽1における自然蒸発あるいは工程内回収をしている場合の濃縮分に見合う、僅かな量の水洗水を補給するだけで充分な洗浄を行うことができることになり、工程内回収をする場合にも、水洗槽の希釈された希薄な大量の液を濃縮する必要がないので、濃縮装置は小型のものとすることができる利点がある。
【0020】
さらに請求項2の発明によれば、囲い7はハンガー6が上昇する間上端が上昇させられて伸ばされているので、ワークWから跳ね返った処理液や吹き飛ばされた水洗水は囲い7により確実に捕捉される。高さが固定の囲い7を設けると、搬送装置はその囲い7の高さ分に対応して上方に設置し、上下方向のストロークを増やすことが必要になるが、請求項2の発明によればハンガー6の上昇が完了すると囲い7は上端が下降させられて縮むので、搬送装置を上方に設置するとか搬送装置の上下方向のストロークを増やすというようなことをしなくても、囲い7が搬送装置の通過の障害になることがない利点がある。
【符号の説明】
【0021】
1 処理槽
2 シャワー配管
3 シャワーノズル
4 エア配管
5 エア噴出口
6 ハンガー
7 囲い
8 オーバーフロー槽
9 エアシリンダ
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽の液面上方のワークを挟む位置にワークに向けて洗浄水を噴出するシャワーノズルを設け、該シャワーノズルの上方にワークに向けてエアを噴出するエア噴出口を設け、ハンガー及びワークの上昇中シャワーノズルに洗浄水、エア噴出口にエアをそれぞれ供給する洗浄水とエアの供給手段を設け、処理槽の上方にハンガー及びワークの周囲を囲む囲いを設けたことを特徴とする処理液の回収装置。
【請求項2】
囲いを上下方向に伸縮自在なものとし、囲いの上端をハンガー及びワークの上昇中上昇させて囲いを伸ばし、ハンガー及びワークの上昇完了時下降させて囲いを縮める駆動機構を設けたことを特徴とする請求項1に記載の処理液の回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−127170(P2011−127170A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285953(P2009−285953)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000150202)株式会社中央製作所 (35)
【Fターム(参考)】