説明

処置用シート材

【課題】簡便な方法で生体内に固定することができる処置用シート材を提供する。
【解決手段】pHが7以上の条件下で水膨潤する多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料と、生体組織接着剤と、を含む処置用シート材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処置用シート材に関する。より詳しくは、本発明は、pHの変化に応答して体積が膨張し、かつ多孔質であるpH応答性水膨潤性高分子材料および生体組織接着剤を含む処置用シート材に関する。
【背景技術】
【0002】
肺生検後の切除部のカバーや硬膜切開部の人工硬膜を用いた蓋材など外科的治療に処置用シート材が使用されている。例えば、下垂体腫瘍の外科的治療方法として経鼻的下垂体腫瘍摘出術がある。開頭が不要である低侵襲な術式であることから、内視鏡、手術ナビゲーション装置の技術的な進歩に伴い普及している。
【0003】
この経鼻的下垂体腫瘍摘出術は、経鼻的に鼻粘膜、硬膜を切開して下垂体腫瘍を除去、その後、腫瘍除去後の空間を脂肪塊などの生体組織で充填し、その後、自己の骨片(鼻骨)やポリテトラフロオエチレン(PTFE)製の人工硬膜を生体組織接着剤で固定、蓋をするといった手技が行われる。
【0004】
この固定の際、生体組織接着剤としては、フィブリン糊といった生体由来材料が用いられる(特許文献1参照)。また、人工硬膜として用いられるPTFEをイオンビーム処理によって親水化し、生体組織およびフィブリン糊との親和性を高めるといった改良も行われている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−252699号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】鈴木 嘉昭、“生体親和性を有する人工硬膜、脳動脈瘤治療用材料”、[online]、2007年9月30日、財団法人放射線利用振興協会、[2009年8月19日]、インターネット<URL:http://www.rada.or.jp/database/home4/normal/ht-docs/member/synopsis/010313.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、フィブリン糊が硬化するまでに数十秒かかるため、フィブリン糊が周囲に垂れたり、人工硬膜をしっかり固定するために多量のフィブリン糊を要するといった問題を有していた。
【0008】
また、非特許文献1に記載の技術では、経鼻的な狭い、視野が限られた環境での手技の困難性を改善するには至っていない。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、より簡便な方法で生体内に固定できる処置用シート材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、生体組織のpHに応答して膨潤し、かつ多孔質であるpH応答性水膨潤性高分子材料と生体組織接着剤とを含む人工硬膜等の処置用シート材を使用することによって、上記課題が解決できることを知得した。すなわち、本発明者は、多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料と生体組織接着剤とを含む処置用シート材は、生体組織接着剤の使用量がごく少量で済み、さらに所定位置に留置される前は膨潤せず容易に固定でき、所定位置に留置された後は生体組織や髄液、血液などの体液との接触により膨潤するため、複雑な手技を必要とせず、より簡便な方法で生体内に固定できることを知得し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、上記目的は、多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料と、生体組織接着剤とを含む、処置用シート材によって達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の人工硬膜などの処置用シート材は、簡便な方法で生体内に固定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、pHが7以上の条件下で膨潤する多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料と、生体組織接着剤とを含む人工硬膜等の処置用シート材を提供する。上記特許文献1および非特許文献1などに示されるように、従来の人工硬膜においては、人工硬膜を固定するためにフィブリン糊が用いられている。しかしながら、しっかりと人工硬膜を固定するために多量のフィブリン糊を要し、しかも、フィブリン糊は硬化するまでに数十秒かかるため、その間にフィブリン糊が周囲に垂れたりするという問題があった。さらに、非特許文献1で示されるような、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をイオンビーム処理によって親水化し、生体組織やフィブリン糊との親和性を高めた人工硬膜を用いても、経鼻的な狭く視野が限られた環境での手技の困難性を改善するには至っていなかった。
【0014】
これに対し、本発明では、pHが7以上で水膨潤するpH応答性を有し、かつ多孔質であるpH応答性水膨潤性高分子材料および生体組織接着剤を含む処置用シート材を使用することを特徴とする。該pH応答性水膨潤性高分子材料は多孔質構造であることから、フィブリン糊などの生体組織接着剤は該pH応答性水膨潤性高分子材料の内部に沁み込んでいる。したがって、生体組織接着剤の使用量がごくわずかで済み、生体内に固定する際も、生体組織接着剤が周囲に垂れることがほとんどないかまたは全くない。
【0015】
そして、多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料および生体組織接着剤を含む本発明の処置用シート材は、生体組織や髄液、血液などの体液と接触する前は、膨潤せず適度な強度を有し、生体内に容易に固定できる。処置用シート材を所定の位置に固定した後は、生体組織や髄液、血液などの体液と接触することにより膨潤し、フィブリン糊などの生体組織接着剤の溶解、硬化および接着が起きるため、複雑な手技を必要とせず、非常に簡便な操作で、生体内への処置用シート材の固定を行うことができる。
【0016】
加えて、本発明の処置用シート材は、膨潤後は柔軟であることから、切開部と隙間無く密着することができる。また、多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料は網目構造を有しており、組織修復の足場となることから、治癒が早い。さらに、多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料は、PTFEのような異物とされにくく、感染源となりにくい。
【0017】
以下では、本発明の処置用シート材の一例として人工硬膜の各構成について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
【0018】
[多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料]
本発明に係る多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料は、特定のpH条件下で水膨潤するpH応答性を有する。具体的には、上記多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料は、pHが7以上、特に髄液、血液などの体液のpHであるpH7.3〜7.6の弱アルカリ性条件下で水膨潤する。
【0019】
多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料の製造方法は、特に制限されないが、単量体成分を重合および架橋して重合体を得た後に、得られた重合体を多孔質とする工程を行う製造方法が好ましい。本明細書では、多孔質とする工程を行う前に得られる重合体を、単に「pH応答性水膨潤性高分子材料」と称する。ここではまず、このpH応答性水膨潤性高分子材料について詳細に説明する。
【0020】
本発明に係るpH応答性水膨潤性高分子材料の単量体成分は、特に制限されないが、反応性官能基を有する単量体をその構成単位として有する(共)重合体を、架橋剤で架橋したものが好ましい。ここで、pH応答性水膨潤性高分子材料の反応性官能基としては、特に制限されないが、極性を有する官能基であることが好ましい。反応性官能基としては、具体的には、カルボキシル基(−COOH)、アミノ基(−NH)、イミノ基(=NH、−NH−)、アミド基(−CONH)、イミド基(−CONHCO−)、エポキシ基、イソシアネート基(−NCO)、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO)、メルカプト基(−SH)、ホスフィノ基(−PH)などが好ましく挙げられる。これらのうち、カルボキシル基、アミド基が好ましい。これらの反応性官能基を有するpH応答性水膨潤性高分子材料は、特定のpH条件下で膨潤し、優れた膨潤性および抗血栓性を示すことができる。
【0021】
ここで、pH応答性水膨潤性高分子材料の単量体成分がカルボキシル基を有する単量体である場合の例としては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、グルタコン酸、イタコン酸、クロトン酸、ソルビン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。また、上記単量体は、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の、塩の形態であってもよい。このような塩の形態の単量体を用いて(共)重合してpH応答性水膨潤性高分子材料を製造する場合は、得られる(共)重合体を後述する酸処理することができる。これらのうち、pH7以上の中性からアルカリ性領域において膨張性を示すという観点から、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸ナトリウムが好ましい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸双方を包含することを意味する。
【0022】
pH応答性水膨潤性高分子材料の単量体成分がアミノ基を有する単量体である場合の例としては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アリルアミン、アミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノスチレン、ジエチルアミノスチレン、モルホリノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0023】
pH応答性水膨潤性高分子材料の単量体成分がイミノ基を有する単量体である場合の例としては、特に制限されないが、例えば、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0024】
pH応答性水膨潤性高分子材料の単量体成分がアミド基を有する単量体である場合の例としては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブチル(メタ)アクリルアミド、N−s−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、クロトン酸アミド、ケイ皮酸アミドなどが挙げられる。これらのうち、整形外科領域等で使用実績があり、生体内において安全性が高いという観点から、(メタ)アクリルアミドが好ましい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリルアミド」とは、アクリルアミドおよびメタクリルアミド双方を包含することを意味する。
【0025】
pH応答性水膨潤性高分子材料の単量体成分がイミド基を有する単量体である場合の例としては、特に制限されないが、例えば、N−(4−ビニルフェニル)マレイミドなどが挙げられる。
【0026】
pH応答性水膨潤性高分子材料の単量体成分がエポキシ基を有する単量体である場合の例としては、特に制限されないが、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アリルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0027】
pH応答性水膨潤性高分子材料の単量体成分がイソシアネート基を有する単量体である場合の例としては、特に制限されないが、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルイソシアネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルイソシアネート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルイソシアネート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルイソシアネート、2−(2−イソシアネートエトキシ)エチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0028】
pH応答性水膨潤性高分子材料の単量体成分がシアノ基を有する単量体である場合の例としては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリロニトリル、クロトノニトリル、シアノメチル(メタ)アクリレート、1−シアノエチル(メタ)アクリレート、2−シアノエチル(メタ)アクリレート、1−シアノプロピル(メタ)アクリレート、2−シアノプロピル(メタ)アクリレート、3−シアノプロピル(メタ)アクリレート、4−シアノブチル(メタ)アクリレート、6−シアノヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチル−6−シアノヘキシル(メタ)アクリレート、8−シアノオクチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0029】
pH応答性水膨潤性高分子材料の単量体成分がニトロ基を有する単量体である場合の例としては、特に制限されないが、例えば、4−ニトロスチレンなどが挙げられる。
【0030】
pH応答性水膨潤性高分子材料の単量体成分がメルカプト基を有する単量体である場合の例としては、特に制限されないが、例えば、ビニルメルカプタン、アリルメルカプタンなどが挙げられる。
【0031】
pH応答性水膨潤性高分子材料の単量体成分がホスフィノ基を有する単量体である場合の例としては、特に制限されないが、例えば、4−ジフェニルホスフィノスチレン、4−ジベンジルホスフィノスチレン、ジエチルホスフィノスチレン、2−(ジフェニルホスフィノ)エチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0032】
上記単量体は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。また、上記では、1つの単量体に1つの反応性官能基を導入した例を挙げたが、1つの単量体に2以上の反応性官能基を導入したものを使用してもよい。
【0033】
上記単量体のうち、カルボキシル基を有する単量体、アミド基を有する単量体が好ましい。これらの単量体由来の構成単位を有するpH応答性水膨潤性高分子材料は、特定のpH条件下で膨潤し、組織修復の足場となり、治癒を促進できる。また、当該pH応答性水膨潤性高分子材料による被膜表面は、優れた親水性、抗血栓性を示し、また、異物と認識されにくく、感染源になりにくい。
【0034】
すなわち、pH応答性水膨潤性高分子材料は、(メタ)アクリルアミド系単量体に由来する構成単位および不飽和カルボン酸に由来する構成単位を含む共重合体を、架橋剤により架橋した高分子から形成されることが特に好ましい。
【0035】
また、上記pH応答性水膨潤性高分子材料に用いられる架橋剤としては、特に制限されず、例えば、重合性不飽和基を2個以上有する架橋剤(イ)、重合性不飽和基と重合性不飽和基以外の反応性官能基とをそれぞれ1つずつ有する架橋剤(ロ)、重合性不飽和基以外の反応性官能基を2個以上有する架橋剤(ハ)などが挙げられる。これら架橋剤は、単独でもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
ここで、架橋剤の使用方法、すなわち、本発明に係るpH応答性水膨潤性高分子材料の重合および架橋方法は、上記構造の材料が得られれば特に制限されない。例えば、(a)反応性官能基を有する単量体を架橋剤と共に(共)重合し、さらに必要に応じて後架橋を行う方法;(b)反応性官能基を有する単量体を(共)重合した後、得られた(共)重合体を架橋剤で架橋(後架橋)する方法;(c)特定の単量体を(共)重合し、得られた(共)重合体を所定の反応性官能基を有する化合物と反応させて、(共)重合体に反応性官能基を付与した後、架橋剤で架橋(後架橋)する方法;(d)特定の単量体を(共)重合し、得られた(共)重合体を架橋剤で架橋した後、得られた架橋(共)重合体を所定の反応性官能基を有する化合物と反応させて、架橋(共)重合体に反応性官能基を付与する方法などが挙げられる。これらのうち、(a)、(b)の方法が好ましい。特に、カルボキシル基を有する単量体(またはその塩)とアミド基を有する単量体との共重合を行う場合には、上記架橋剤(イ)、(ロ)及び(ハ)の使用形態は、下記であることがより好ましい。すなわち、上記架橋剤(イ)のみを用いる場合は、アミド基を有する単量体とカルボキシル基を有する単量体(またはその塩)との共重合を行う際に、重合系内に架橋剤(イ)を添加して共重合させればよい。また、上記架橋剤(ハ)のみを用いる場合は、アミド基を有する単量体とカルボキシル基を有する単量体(またはその塩)との共重合を行ったあとに架橋剤(ハ)を添加して、例えば加熱による後架橋を行えばよい。上記架橋剤(ロ)のみを用いる場合ならびに上記架橋剤(イ)、(ロ)、および(ハ)の2種以上を用いる場合は、アミド基を有する単量体とカルボキシル基を有する単量体(またはその塩)との共重合を行う際に重合系内に架橋剤を添加して共重合させ、さらに、例えば加熱による後架橋を行えばよい。
【0037】
上記架橋剤のうち、重合性不飽和基を2個以上有する架橋剤(イ)の具体例としては、例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−メチレンビスメタクリルアミド、N,N’−エチレンビスアクリルアミド、N,N’−エチレンビスメタクリルアミド、N,N’−ヘキサメチレンビスアクリルアミド、N,N’−ヘキサメチレンビスメタクリルアミド、N,N’−ベンジリデンビスアクリルアミド、N,N’−ビス(アクリルアミドメチレン)尿素、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリン(ジ又はトリ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリアリルアミン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、テトラアリロキシエタン、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンアクリレートメタクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルホスフェート、トリアリルアミン、ポリ(メタ)アリロキシアルカン、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、エチレンジアミン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、グリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0038】
重合性不飽和基と重合性不飽和基以外の反応性官能基とをそれぞれ1つずつ有する架橋剤(ロ)の具体例としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0039】
重合性不飽和基以外の反応性官能基を2個以上有する架橋剤(ハ)の具体例としては、例えば、多価アルコール(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン等)、アルカノールアミン(例えば、ジエタノールアミン等)、およびポリアミン(例えば、ポリエチレンイミン等)等が挙げられる。
【0040】
これらのうち、重合性不飽和基を2個以上有する架橋剤(イ)が好ましく、N,N’−メチレンビスアクリルアミドがより好ましい。
【0041】
上記(共)重合の方法は、特に制限されず、例えば、重合開始剤を使用する溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、逆相懸濁重合法、薄膜重合法、噴霧重合法など従来公知の方法を用いることができる。重合制御の方法としては、断熱重合法、温度制御重合法、等温重合法などが挙げられる。また、重合開始剤により重合を開始させる方法の他に、放射線、電子線、紫外線等を照射して重合を開始させる方法を採用することもできる。好ましくは、重合開始剤を使用した溶液重合法である。
【0042】
以下、溶液重合法について詳説する。
【0043】
<溶液重合法>
前記溶液重合法に用いられる溶媒としては、モノマー、架橋剤、および造孔剤の溶解度に基づいて選択される。好ましい溶媒は水であるが、エチルアルコールを用いてもよい。
【0044】
溶液重合法における単量体成分の濃度は、従来公知の範囲であれば特に限定されず、例えば、10〜30質量%が好ましく、15〜25質量%がより好ましい。
【0045】
前記溶液重合法で用いられる重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシピバレート、過酸化水素等の過酸化物、2,2’−アゾビス〔2−(N−フェニルアミジノ)プロパン〕二塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(N−アリルアミジノ)プロパン〕二塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−〔1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル〕プロパン}二塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド〕、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアゾ化合物等が挙げられ、これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、入手が容易で取り扱いが容易であるという観点から、過硫酸塩が好ましく、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムおよび過硫酸ナトリウムがより好ましい。
【0046】
なお、上記重合開始剤は、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸第一鉄、L−アスコルビン酸、N、N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン等の還元剤と併用して、レドックス重合開始剤として用いることもできる。
【0047】
重合開始剤の使用量は、単量体の質量に対して、0.1〜10質量%が好ましい。このような範囲であれば、所望の単量体が重合して所望の分子量の重合体が得られ、また、重合体の凝集も抑えられる。
【0048】
必要に応じて、共重合の際に連鎖移動剤を使用してもよい。前記連鎖移動剤の例としては、例えば、チオール類(n−ラウリルメルカプタン、メルカプトエタノール、トリエチレングリコールジメルカプタン等)、チオール酸類(チオグリコール酸、チオリンゴ酸等)、2級アルコール類(イソプロパノ−ル等)、アミン類(ジブチルアミン等)、次亜燐酸塩類(次亜燐酸ナトリウム等)等を挙げることができる。
【0049】
前記溶液重合法における重合条件は特に制限されず、例えば、重合温度は使用する触媒の種類によって適宜設定することができるが、好ましくは15〜50℃、より好ましくは20〜40℃である。このような重合温度であれば、重合反応が十分進行し、また分散媒の揮発を防げるので、単量体成分の分散状態を良好に保つことができる。重合時間は、好ましくは1時間以上であり、より好ましくは2〜6時間である。
【0050】
重合系内の圧力は、特に限定されるものではなく、常圧(大気圧)下、減圧下、加圧下のいずれであってもよい。また、反応系内の雰囲気も、空気雰囲気であってもよいし、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下であってもよい。
【0051】
架橋剤として、上記の重合性不飽和基以外の反応性官能基を2個以上有する架橋剤(ハ)を用いる場合には、架橋剤(ハ)を添加する時期は単量体の重合反応終了後であればよく、特に限定されない。
【0052】
なお、上記(共)重合および架橋反応後に後架橋反応を行う際の、反応条件は特に制限されない。例えば、反応温度は、使用する架橋剤の種類等によっても異なるため、一概には決定できないが、通常50〜150℃である。また、反応時間は、通常1〜48時間である。
【0053】
(共)重合を行う際は、得られるpH応答性水膨潤性高分子材料を多孔質とするために、単量体溶液中に造孔剤を過飽和懸濁させることが好ましい。この際、単量体溶液には不溶であるが洗浄溶液には可溶である造孔剤を用いることが好ましい。造孔剤の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、氷、スクロース、または炭酸水素ナトリウムなどが好ましく挙げられ、より好ましくは塩化ナトリウムである。造孔剤の好ましい濃度は、単量体溶液中、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜35質量%の範囲である。なお、pH応答性水膨潤性高分子材料を多孔質とする工程の詳細については、後述する。
【0054】
共重合の際にカルボキシル基を有する単量体の塩を用いた場合、酸処理を行い、高分子のカルボン酸塩の部分をカルボキシル基に変換しておくことが好ましい。かような処理を行うにより、本発明で用いられる水膨潤性高分子材料が、pH選択的に膨潤・収縮する、pH応答性を有するようになる。酸処理の条件は特に限定されず、例えば、塩酸水溶液などの低pH水溶液中で、好ましくは15〜60℃の温度範囲で、好ましくは1〜72時間処理すればよい。
【0055】
酸処理を行った場合は、酸処理終了後に加熱乾燥を行うことが好ましい。この際、乾燥温度は、好ましくは40〜80℃、より好ましくは40〜60℃の範囲である。このような乾燥温度であれば、亀裂・ひびを生じさせることなく、十分乾燥できる。
【0056】
乾燥に用いられる乾燥装置は、例えば、オーブン、熱風乾燥機などの通常用いられる装置でよい。これらの乾燥装置は、複数個を組み合わせて使用することもできる。
【0057】
なお、この酸処理は、上記pH応答性水膨潤性高分子材料の単量体成分を重合・架橋した後に行えばよく、例えば、後述のpH応答性水膨潤性高分子材料を多孔質とする工程の後に行ってもよい。
【0058】
このようにして得られたpH応答性水膨潤性高分子材料は、多孔質とする工程を行うことにより、本発明で用いられる多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料となる。
【0059】
前記多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料の孔径は、生体組織接着剤の粒径以上であることが好ましく、より具体的には50〜500μmであることが好ましい。なお、本明細書において、多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料の孔径は、電子顕微鏡などでの観察写真を基に測定した値を採用するものとする。
【0060】
[生体組織接着剤]
本発明に係る生体組織接着剤は、特に制限されず、例えば、シアノアクリレート系接着剤、ポリウレタン系接着剤、ゼラチン系接着剤、フィブリン系接着剤(フィブリン糊)などが挙げられる。これらの中でも、上記pH応答性水膨潤性高分子材料との親和性に優れることから、フィブリン系接着剤(フィブリン糊)が好ましい。
【0061】
上記フィブリン系接着剤(フィブリン糊)は、フィブリノーゲン、およびフィブリノーゲンをフィブリンに転換する酵素であるトロンビンを含むことが好ましい。
【0062】
該フィブリン系接着剤(フィブリン糊)は、薬学的に許容しうる添加剤を含んでいてもよい。かような添加剤の例として、例えば、血液凝固第XIII因子、アルブミン、イソロイシン、グリシン、アルギニン、グルタミン酸、界面活性剤、塩化ナトリウム、糖アルコール(グリセロール、マンニトール等)、またはクエン酸ナトリウムなどがある。これらの添加剤を添加することにより、フィブリノーゲン成分の溶解性や、フィブリン系接着剤(フィブリン糊)の柔軟性をより向上させることが可能となる。
【0063】
生体組織接着剤の含有量は、特に制限されないが、多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料の乾燥質量に対して、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは1〜5質量%である。特に、フィブリノーゲンおよびトロンビンを含むフィブリン糊を用いる場合、フィブリノーゲンおよびトロンビンの合計量は、多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料の乾燥質量に対して、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは1〜5質量%である。
【0064】
本発明の人工硬膜の形状は、特に制限されず、例えば、管状、薄膜形状(シート状)、ペレット状、円柱状、角柱状、卵状などが挙げられる。これらのうち、薄膜形状(シート状)が好ましい。また、本発明の人工硬膜の大きさも、固定する部位の大きさによって適宜設定すればよく、何ら制限されるものではない。
【0065】
本発明の人工硬膜の製造方法は、特に制限されないが、pH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜を形成する工程と、前記pH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜を多孔質とする工程と、得られた多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料に対して生体組織接着剤を含む分散液を塗布または含浸する工程と、を含む製造方法が好ましい。そして、pH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜を多孔質とする工程は、pH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜から水分を除去した後減圧乾燥する工程か、またはpH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜を凍結乾燥する工程であることが好ましい。
【0066】
以下、かような製造方法について、工程順に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
【0067】
[pH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜を形成する工程]
pH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜を形成する方法は、特に制限されないが、例えば、pH応答性水膨潤性高分子材料の重合溶液(または分散液)を、平底容器を用いて、好ましくは40〜70℃で2〜12時間乾燥させる方法が挙げられる。
【0068】
また、pH応答性水膨潤性高分子材料を有機溶媒(好ましくは親水性または極性有機溶媒)中に分散(懸濁)させ、その後前記有機溶媒を揮発させる方法により、pH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜を形成してもよい。
【0069】
前記有機溶媒は、水膨潤性高分子材料および水と混ざり合う親水性または極性有機溶媒が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトン、ジ−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトンテトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸エチルなどが挙げられる。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。また、pH応答性水膨潤性高分子材料を分散(懸濁)させる方法は、特に制限されず、例えば、pH応答性水膨潤性高分子材料の濃度が好ましくは0.1〜2質量%となるように有機溶媒に混合し、その後、超音波処理を好ましくは10〜20分間行い、pH応答性水膨潤性高分子を溶媒中に均一にする方法などが挙げられる。また、有機溶媒を揮発させる方法は、特に制限されず、例えば、好ましくは15〜60℃の温度で、好ましくは12〜48時間乾燥する方法が採用される。乾燥方法も、自然乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、ドライヤーまたはオーブンによる乾燥など、特に制限されるものではない。
【0070】
得られる薄膜の膜厚は、特に制限されないが、好ましくは、50〜500μm、より好ましくは100〜200μmである。
【0071】
[pH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜を多孔質とする工程]
本工程では、上記工程で得られたpH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜を多孔質とする。
【0072】
上記工程で得られた乾燥後のpH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜は、未反応モノマーや造孔剤を除去するために、水中に静置することが好ましい。この際、pH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜は含水膨潤するため、(1)含水膨潤したpH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜から水分を除去した後減圧乾燥する;または(2)含水膨潤したpH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜を凍結乾燥することにより、pH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜は多孔質となる。なお、上記(1)および(2)の方法は併用してもよい。
【0073】
上記(1)の方法において、減圧乾燥の前に含水膨潤したpH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜から水分を除去する方法としては、例えば、アセトン、メタノール、エタノールなどの親水性の有機溶媒中に含水膨潤したpH応答性水膨潤性高分子材料を分散させる方法が挙げられる。
【0074】
その後の減圧乾燥の方法も特に制限されず、例えば、汎用の真空乾燥器、ロータリーポンプ、液を撹拌しながら加熱減圧乾燥できる装置、液を加熱減圧した管中に通すことによって連続的に乾燥ができる装置などを用いて行う方法が挙げられる。
【0075】
減圧乾燥の温度は特に限定されず、例えば、好ましくは20〜40℃程度である。減圧乾燥の圧力も特に限定されず、例えば、好ましくは5〜20Pa程度で行なうのがよい。減圧乾燥の時間も特に制限されず、例えば、好ましくは2〜12時間である。
【0076】
上記(2)の含水膨潤したpH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜を凍結乾燥する方法についても、特に制限されず、当業者が利用可能な方法であればいかなるものを採用してもよい。例えば、冷媒直膨方法、重複冷凍方法、熱媒循環方法、三重熱交換方法、間接加熱凍結方法が挙げられる。また、用いる装置も特に制限されず、例えば、小型凍結乾燥機、FTS凍結乾燥機、LYOVAC凍結乾燥機、実験用凍結乾燥機、研究用凍結乾燥機、三重熱交換真空凍結乾燥機、モノクーリング式凍結乾燥機、HULL凍結乾燥機などが挙げられる
凍結乾燥の温度は特に限定されず、例えば、好ましくは−20〜−5℃程度である。凍結乾燥の圧力も特に限定されず、例えば、好ましくは5〜20Pa程度で行なうのがよい。凍結乾燥の時間も特に制限されず、例えば、好ましくは2〜48時間である。
【0077】
[生体組織接着剤を含む分散液を塗布または含浸する工程]
本工程では、上記工程で得られた多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料に対して、生体組織接着剤を含む分散液を塗布または含浸する。
【0078】
生体組織接着剤を含む分散液に用いられる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、アセトンなどが挙げられる。分散液中の生体組織接着剤の濃度は、特に制限されないが、5〜50質量%となるように調製することが好ましい。
【0079】
分散液を塗布する場合の方法は、特に制限されず、例えば、マイクロシリンジポンプ、マイクロディスペンサー、インクジェット、スプレーなどを用いて、多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜に塗布し、その後、分散液に用いられている有機溶媒を真空乾燥または加熱乾燥する方法が挙げられる。
【0080】
分散液を含浸する場合の方法も特に制限されず、例えば、上記範囲の濃度を有する生体組織接着剤を含む分散液中に多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料を浸し、好ましくは0〜10℃で含浸する方法が挙げられる。
【0081】
分散液を塗布または含浸した後は、必要に応じて酸処理、洗浄を行うことにより、人工硬膜が得られる。
【0082】
こうして得られる人工硬膜の厚みは、特に制限されないが、100〜200μmであることが好ましい。かような範囲であれば、生体硬膜、脳や脊髄を傷つけにくく、また、脳や脊髄を圧迫することが少ないあるいはない。
【0083】
本発明の人工硬膜等の処置用シート材は、放射線不透過性粒子をさらに含んでもよい。これにより、X線透視下で人工硬膜等を認識できるため、人工硬膜等の処置用シート材を容易にかつ正確に所定の位置に配置できる。ここで、放射線不透過性粒子の材質は、放射線に対して不透過であれば特に制限されず、公知の放射線不透過性物質が使用できる。具体的には、タンタル、金、白金などが挙げられる。これらの放射線不透過性物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0084】
また、本発明の人工硬膜等の処置用シート材は、放射線不透過性粒子に代えてまたは放射線不透過性粒子に加えて、生理活性物質をさらに含んでもよい。ここで、生理活性物質の導入方法は、特に制限されず公知の方法で生理活性物質を処置用シート材に含ませることができる。例えば、多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料の被膜に生理活性物質の溶液または分散液を塗布することにより、当該被膜に生理活性物質を含ませる方法などが挙げられる。なお、生理活性物質としては、特に制限されず、処置用シート材の種類によって適宜選択できる。例えば、ストレプトキナーゼ、プラスミノーゲンアクチベーター、ウロキナーゼなどの、血栓もしくは血栓複合物の融解もしくは代謝を促進する物質;アセチルサリチル酸、チクロピジン、ジピリダモール等の抗血小板薬やGP IIb/IIIa拮抗剤、ヘパリン、ワルファリンカリウム等の抗凝固薬などの、血栓もしくは血栓複合物の増加を抑制する物質;抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症剤、抗炎症剤、インターフェロンなどの、内膜肥厚を抑制する物質や内皮化を促進する物質もしくは不安定プラークの安定化を促す物質などが好ましく例示できる。これらの生理活性物質は単独で使用されてもあるいは2種類以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0085】
上述したように、多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料および生体組織接着剤を含む本発明の人工硬膜等の処置用シート材は、生体組織や髄液、血液などの体液と接触する前は、膨潤せず適度な強度を有し、生体内に容易に固定できる。処置用シート材を所定の位置に固定した後は、生体組織や髄液、血液などの体液と接触することにより膨潤し、フィブリン糊の溶解、硬化および接着が起きるため、非常に簡便な操作で、処置用シート材の固定が可能となる。
【0086】
加えて、本発明の人工硬膜等の処置用シート材は、膨潤後は柔軟であることから、切開部と隙間無く密着することができる。また、前記多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料は網目構造を有しており、組織修復の足場となることから、治癒が早い。さらに、前記多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料は、PTFEのような異物とされにくく、感染源となりにくい。
【0087】
本発明の人工硬膜等の処置用シート材は、経鼻的下垂体腫瘍摘出術に特に好適に用いられる。
【実施例】
【0088】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0089】
(実施例1)
褐色サンプル管に、アクリルアミド(和光純薬工業株式会社製) 3.8g、アクリル酸ナトリウム(合成品) 2.13g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製) 0.013gを秤量し、蒸留水 19.9gを同じ褐色サンプル管に添加し、マグネスチックスターラーで溶解する。塩化ナトリウム(ナイガイ社製) 5.4gを同じサンプル管に加えマグネスチックスターラーで攪拌し、モノマー溶液を調製する。ポンプを用いて減圧した真空デシケーター中で、5分以上脱気する。過硫酸アンモニウム(和光純薬工業株式会社製) 0.2gを試験管に秤量し、全体重量が1.0gになるように蒸留水を添加し溶解させ、20wt%過硫酸アンモニウム重合開始液を調製する。マグネスチックスターラーで攪拌しながら、調製したモノマー水溶液にN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(東京化成工業株式会社製) 0.127mLを添加する。さらに重合開始液100μLを添加し、そのうち1mLを直径が3cmのポリスチレン製シャーレに展開する。25℃で2時間重合後、55℃のオーブン内で12時間、減圧乾燥する。乾燥重合物を蒸留水中に静置し、未反応モノマー、塩化ナトリウムを除去し、円板形状のハイドロジェルが得られる。アセトン中でハイドロジェル中の水分を除き、さらに減圧乾燥することで、円形形状の乾燥したハイドロジェルのシートが得られる。減圧乾燥の条件は、温度は25℃、圧力は5Pa、時間は12時間である。シートを2.5Nの塩酸中に入れ、55℃で46時間加熱後、水洗する。フィブリノーゲンおよびトロンビンの粉状物をエタノールに分散させ(分散液の濃度:20質量%)、ハイドロジェルのシートにふきつけて、人工硬膜を得る。なお、得られた人工硬膜中のフィブリノーゲンおよびトロンビンの含有量は、乾燥したハイドロジェルに対して4質量%の量であった。
【0090】
(実施例2)
褐色サンプル管に、アクリルアミド(和光純薬工業株式会社製) 3.8g、アクリル酸ナトリウム(合成品) 2.13g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製) 0.013gを秤量し、蒸留水 19.9gを同じ褐色サンプル管に添加し、マグネスチックスターラーで溶解する。塩化ナトリウム(ナイガイ社製) 5.4gを同じサンプル管に加えマグネスチックスターラーで攪拌し、モノマー溶液を調製する。ポンプを用いて減圧した真空デシケーター中で、5分以上脱気する。過硫酸アンモニウム(和光純薬工業株式会社製) 0.2gを試験管に秤量し、全体重量が1.0gになるように蒸留水を添加し溶解させ、20wt%過硫酸アンモニウム重合開始液を調製する。マグネスチックスターラーで攪拌しながら、調製したモノマー水溶液にN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(東京化成工業株式会社製) 0.127mLを添加する。さらに重合開始液 100μLを添加し、そのうち1mLを直径が3cmのポリスチレン製シャーレに展開する。25℃で2時間重合後、55℃のオーブン内で12時間、減圧乾燥する。乾燥重合物を蒸留水中に静置し、未反応モノマー、塩化ナトリウムを除去し、ディスク状のハイドロジェルが得られる。ハイドロジェルディスクを凍結乾燥させ、スポンジ状のハイドロジェルディスクを得る。凍結乾燥の条件は、温度は−10℃、圧力は10Pa、時間は48時間である。スポンジ状のハイドロジェルをフィブリノーゲン、トロンビンの粉が分散したエタノールに入れ(分散液の濃度:7質量%)、スポンジの孔の中に含ませる(含浸温度:4℃、含浸時間:1時間)。乾燥後、塩酸酸性エタノールでスポンジを酸処理する。スポンジの外面に付着したフィブリノーゲン、トロンビンは、エタノールで除き、人工硬膜を得る。なお、得られた人工硬膜中のフィブリノーゲンおよびトロンビンの含有量は、乾燥したハイドロジェルに対して1質量%の量であった。
【0091】
(試験例)
実施例1および2で得られた人工硬膜について、生体組織への接着性能を確認するため、ヨークシャー系食用ブタから採取した新鮮外皮(ブタ皮)を使用して in vitro 接着試験を行った。ブタ外皮に実施例1および2で得られた人工硬膜を載せ、10gの荷重で15秒間圧迫したとき、実施例1および2の人工硬膜は、いずれもブタ外皮に強く接着していた。さらに、そのブタ外皮をリン酸緩衝液(pH7.4)中に30分間入れた時、含水膨潤していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが7以上の条件下で水膨潤する多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料と、
生体組織接着剤と、
を含む処置用シート材。
【請求項2】
前記多孔質pH応答性水膨潤性高分子が、(メタ)アクリルアミド系単量体に由来する構成単位および不飽和カルボン酸に由来する構成単位を含む共重合体を、架橋剤により架橋した高分子である、請求項1に記載の処置用シート材。
【請求項3】
前記多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料が薄膜形状である、請求項1または2に記載の処置用シート材。
【請求項4】
pH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜を形成する工程と、
前記pH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜を多孔質とする工程と、
得られた多孔質pH応答性水膨潤性高分子材料に対して生体組織接着剤を含む分散液を塗布または含浸する工程と、
を含み、
前記多孔質とする工程は、前記pH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜から水分を除去した後減圧乾燥する工程か、または前記pH応答性水膨潤性高分子材料の薄膜を凍結乾燥する工程を含む、処置用シート材の製造方法。

【公開番号】特開2011−143165(P2011−143165A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8203(P2010−8203)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】