説明

処置

本発明は、炎症要素を持つことを特徴とする医学的状態の予防または処置に使用することができる組成物に関する。本組成物は治療有効量のイソチオシアネート(ITC)を含む。本組成物はさらに抗炎症剤(例えば植物由来ポリフェノール)を含みうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症要素を持つことを特徴とする状態の処置、特に食用植物から得られる抽出物およびそれら植物から得られうる活性薬剤の処理に関する。
【背景技術】
【0002】
いくつかの医学的状態は炎症要素を持つことを特徴とし、この炎症要素は、白血球、血小板または内皮細胞から患部組織への炎症性メディエーター(例えば毒性の高い反応性酸素中間体(ROI)または顆粒酵素もしくはサイトカイン)の不適当な分泌として現れうる。炎症は、多くのがん(例えば腸がん、前立腺がんおよび白血病)の発生と病状に寄与する主要因子であり、真性糖尿病(1型および2型)およびアテローム硬化性疾患の特徴でもある。炎症特徴を持つ他の状態の例には、次に挙げるものがあるが、これらに限るわけではない:炎症性腸疾患(IBD)、慢性関節リウマチ(RA)、ベーチェット病、ANCA関連血管炎、全身性血管炎、嚢胞性線維症、喘息、皮膚炎および乾癬。
【0003】
炎症性腸疾患(IBD)は消化管の特発性慢性炎症を記述するために使用される用語であり、これには2つの主要表現型、すなわちクローン病(CD)と潰瘍性大腸炎(UC)とが含まれる。クローン病は肉芽腫性炎を特徴とし、これは消化管のあらゆる部分を冒すが、特に回盲部を冒す。潰瘍性大腸炎は大腸特異的であり、広範な上皮損傷、陰窩膿瘍および大量の粘膜好中球を伴う。広範なUCまたは大腸クローン病を持つ患者は、直腸結腸がんを発生させるリスクが約10倍高く、これがIBD関連死の主要原因になっている。IBDの消耗的性質およびIBD関連死を考慮すると、これらの状態に対して新しい改良された処置を提供する必要がある。
【0004】
さらなる例として、慢性関節リウマチ(RA)は、炎症滑膜関節を特徴とする炎症状態であり、この炎症滑膜関節は、組織損傷につながり、最終的には関節の破壊をもたらす。炎症性損傷を減少させることができれば、それは魅力的である。しかし、疾患の活動を十分に抑制するその能力の点でも、許容できないその副作用の点でも、現在行われているRAの治療法は不十分である。現代の処置は、伝統的(従来型)治療および生物学的治療であるとみなすことができる。「伝統的」薬物は、概して、全く異なる状態のために開発された薬物がRAにおいても有益であることが見いだされたという偶然によって発見されたものである。生物学的治療薬は製造コストが高く、生物製剤の製造能力は需要についていくことができない。
【0005】
イソチオシアネート(ITC)は、植物から得られうる有機分子であり、化学基-N=C=Sを含む。ITCはイソシアネート基の酸素を硫黄で置き換えることによって形成される。アリルイソチオシアネートは、カラシ油に見いだされるITCの一例であり、その辛味(pungency)を担っている。
【0006】
アブラナ属(brassica)の植物はITCに富む場合がある。例えばブロッコリーは4-メチルスルフィニルブチルグルコシノレートと3-メチルスルフィニルプロピルグルコシノレートをその小花に蓄積する。これらのグルコシノレートは、組織損傷後に植物チオグルコシダーゼ(「ミロシナーゼ」)によって、あるいはミロシナーゼが加熱調理または凍結前のブランチングによって変性されている場合は、その植物を摂取した対象の大腸内で微生物チオグルコシダーゼによって、それぞれITC、すなわちスルフォラファン(SF)、エルシン(erucin)(ER)およびイベリン(iberin)(IB)に変換される(図1参照)。SFおよびIBは、腸細胞によって受動的に吸収され、グルタチオンに抱合され、体循環に輸送された後、メルカプツール酸経路によって代謝され、主にN-アセチルシステイン抱合体として尿に排泄される。ブロッコリー摂取後に、血漿中のSFの45%は、チオール抱合体としてではなく遊離SFとして存在し、SFおよびそのチオール抱合体のピーク濃度は2μM未満であって、数時間以内には低(nM)レベルになる。
【0007】
フェネチルイソチオシアネート(PEITC)やSFなどのITCは、発がんおよび腫瘍形成を阻害することが示されており、したがってがんの発生と増殖に対する有用な化学予防剤である。これらはさまざまなレベルで作用しうる。最も注目すべきことに、これらは、ベンゾ[a]ピレンその他の多環式芳香族炭化水素(PAH)などといった化合物をより極性の高いエポキシジオール類に酸化するシトクロムP450酵素(生成したエポキシジオール類は突然変異を引き起こし、がんの発生を誘発することができる)の阻害を介して、発がんを阻害することが示されている。PEITCは、一定のがん細胞株においてアポトーシスを誘導することも示されており、現在使用されている化学療法薬のいくつかに対して抵抗性である細胞においてアポトーシスを誘導することさえできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
炎症要素を持つ医学的状態の予防または処置に役立つ新しい改良された組成物を開発する必要性は依然としてあり、この必要性に対処することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1態様によれば、炎症要素を持つことを特徴とする医学的状態の予防または処置に使用するための組成物であって、治療有効量のイソチオシアネート(ITC)またはその前駆体を含む組成物が提供される。
【0010】
本発明の第2態様によれば、炎症要素を持つことを特徴とする医学的状態の予防または処置を目的とする医薬として使用するための、治療有効量のイソチオシアネート(ITC)またはその前駆体が提供される。
【0011】
本発明の第3態様によれば、炎症要素を持つことを特徴とする医学的状態を処置するための方法であって、そのような処置を必要とする対象に、治療有効量のITCまたはその前駆体を投与することを含む方法が提供される。
【0012】
「炎症要素を持つことを特徴とする医学的状態」とは、炎症性メディエーター(例えば毒性の高い反応性酸素中間体(ROI)または顆粒酵素もしくはサイトカイン)の不適当な分泌を少なくとも一つの特徴とする、任意の医学的状態を意味する。そのような状態の例には、次に挙げるものが含まれるが、これらに限るわけではない:炎症性腸疾患(IBD)、慢性関節リウマチ(RA)、ベーチェット病、ANCA関連血管炎、全身性血管炎、嚢胞性線維症、喘息、皮膚炎および乾癬。炎症は多くのがんの発生と病状に寄与する主要因子でもある。したがって炎症要素を持つがん(例えば腸がん、前立腺がんおよび白血病)も、医学的状態の定義に含まれる。炎症は真性糖尿病(1型および2型)ならびにアテローム硬化性疾患の特徴でもあり、これらの状態も、この用語に包含される。
【0013】
「イソチオシアネート(ITC)」とは、化学基-N=C=Sを含む有機分子(これは植物から得られうるものであってもよい)を意味する。ITCはイソシアネート基の酸素を硫黄で置き換えることによって形成される。「ITC」には、容易に代謝されてITCを形成しうるグルコシノレート前駆体も包含されるものとする。好ましいITCは、アブラナ(Brassica)(例えばブロッコリーまたはロケット(rocket)から得ることができ、好ましいITCには、スルフォラファン(SF)、イベリン(IB)およびエルシン(ER−4-メチルチオブチルイソチオシアネート)が含まれる。好ましいITC、例えばSFおよびIBは、一部の食物ITC(例えばカラシ由来のアリルイソチオシアネート)に付随する辛味質を持たない。
【0014】
「その前駆体」とは、活性ITCに変換されうるフィトケミカル(phytochemical)(これは植物が自然に産生するものであってもよい)を意味する。特に本明細書では、ロケットまたはブロッコリーなどのアブラナに見いだされうるグルコシノレートおよびグルコシノレート誘導体(例えばグルコシノレートのインドール誘導体)を意味し、それらは、植物チオグルコシダーゼによって(例えば植物組織損傷後に)、またはその前駆体を含有する組成物を摂取した対象の大腸において微生物チオグルコシド(microbial thioglucoside)によって、ITCに変換されうる。
【0015】
ITCの供給源
本発明に従って使用されるITCは、化学合成されたものであってもよいし、任意の天然または非天然(例えば遺伝子改変微生物または細胞株)供給源から得られたものであってもよいことは、理解されるだろう。
【0016】
しかし、本発明の好ましい実施形態によれば、ITCまたはその前駆体は、植物から、好ましくはアブラナ科(Brassicaceae)またはフウチョウソウ科(Capparaceae)から、得られる。ITCは、アブラナ属の植物から得られうることが好ましく、ITCがカラシ、ブロッコリーまたはロケットから得られることは、さらに好ましい。ITCは、ロケット(例えばキバナスズシロ(Eruca)属およびエダウチナズナ(Diplotaxis)属)から得られうることが、最も好ましい。
【0017】
ITCがアブラナから得られる場合、それらの化合物を植物から単離し、精製しうることは、理解されるだろう。いくつかの状況では(例えば活性ITCが医薬用純度を必要とする場合は)、そのような精製が望ましいだろう。しかし、多くの状況では、例えば食品、飲料または栄養補助食品(nutraceutical product)などの場合は、ITCに富む植物抽出物を製造することが好ましいだろう。
【0018】
植物抽出物は本発明の重要な態様を表し、本発明の第4態様によれば、炎症要素を持つことを特徴とする医学的状態の予防または処置に使用するための植物抽出物であって、ITCまたはその前駆体に富む植物抽出物が提供される。
【0019】
本発明の第5態様によれば、炎症要素を持つことを特徴とする医学的状態の予防または処置を目的とする医薬として使用するための、ITCまたはその前駆体に富む植物抽出物が提供される。
【0020】
本発明の第6態様によれば、炎症要素を持つことを特徴とする医学的状態を予防または処置するための方法であって、そのような予防または処置を必要とする対象に、ITCまたはその前駆体に富む植物抽出物の治療有効量を投与することを含む方法が提供される。
【0021】
「ITCに富む植物抽出物」とは、ITCおよびその前駆体が活性な形で抽出物中に維持されるように、植物が加工されていることを意味する。植物は、抽出物中のITC濃度が未加工植物中の濃度と比較して増加するように処理することができる。あるいは、抽出物は、実質的に活性なITCまたはその前駆体であって、その濃度が未処理の植物に見いだされる濃度とほぼ同じ濃度(さらには、実質的に希釈された場合には、それより低い濃度)であってもよいものを含有しうる。
【0022】
どんな仮説にも束縛されることは望まないが、本発明者らは、この科学分野に関する本発明者らの知識に基づいて、特に実施例1に記載する研究を考慮して、本発明の化合物、抽出物および組成物は、炎症要素を持つことを特徴とする医学的状態の処置および予防に有用であると考えている。本発明者らは、ITCがサイトカインに結合し、抗炎症シグナリングパスウェイ(例えばSmad活性化)を促進し、炎症誘発性サイトカインIL-6の発現を減少させることを立証した。これは、ITCおよびその前駆体、ならびにITCおよび/またはその前駆体に富む植物抽出物が、本発明にいう状態を調整するのに役立つことを証明している。
【0023】
ITCに富む植物抽出物の製造
ITCに富む植物抽出物はアブラナ科またはフウチョウソウ科の植物(グルコシノレート含有植物)に基づくことが好ましい。好ましくは、植物抽出物はアブラナ科及びアブラナ属から得られる。
【0024】
好ましい抽出物は、カラシ、ブロッコリーまたはロケットなどの植物から得られる。植物抽出物はロケット(例えばキバナスズシロ属およびエダウチナズナ属)抽出物であることが最も好ましい。
【0025】
植物の葉、茎または種子を(好ましくは25℃までの温度で)破砕することによって粗植物抽出物を製造できることは、理解されるだろう。次に、破砕された葉を水性溶液中でホモジナイズして、本発明の液状植物抽出物を形成させることができる。遠心分離によって植物固形物をペレットにし、その上清(ITCを含有する)を本発明の抽出物として使用することができる。
【0026】
植物抽出物は、若い植物体(例えば28〜42日齢のロケット植物体)から得られる新鮮な葉および/または若い新芽(例えば14日齢までのロケット植物体)から製造されることが好ましい。
【0027】
ITCを含む好ましい抽出物は(例えば風乾によってまたは瞬間凍結および凍結乾燥によって)乾燥させた新鮮な葉または若い新芽から得られる。次に、乾燥された材料を、以下の工程によって加工することができる。
(a)微粉末に粉砕すること。
(b)固形分が最低10%かつ最大50%である混合物が得られるように粉末を水または他の水性溶液と混合することにより、この粉砕した粉末の懸濁液を作ること。
(c)次にその懸濁液からITCを抽出する。これは、溶液中に抽出された揮発物を保持するための蒸気トラップを装備した向流抽出器を使って、または還流冷却器を装着した、減圧下で稼働するソックスレー型抽出器を使って、達成することができる。抽出は、ロケット由来の天然グルコシノレートの最低50%、好ましくは>70%が天然酵素の作用によってITCに変換されるまで続けるべきである。
(d)抽出が完了したら、遠心分離またはデカンテーションによって固形物を懸濁液から除去することができる。ITCリッチ(ITC-rich)上清は、化学的手段もしくは酵素的手段によって、または濾過(例えば限外濾過)によって、除タンパクし、低温高真空蒸発によって、または逆浸透による水の除去によって、濃縮することができる。
(e)最終抽出物は液体として凍結するか、粉末が得られるように噴霧乾燥するか、安定性を強化するために(例えば脂肪マトリックス中、または多糖マトリックス中、またはポリマーマトリックス中に)カプセル化して、貯蔵することができる。
【0028】
もう一つの好ましい実施形態では、種子(例えばカラシまたはロケットの種子)を出発材料として使用することができる。種子の場合は、準備は風乾で十分であり、次に、乾燥種子を水の存在下で(例えば密閉型圧搾機(sealed press)を使って)破砕することにより、高固形分のマッシュ(例えば固形分75%〜90%)を得る。破砕は均一なマッシュが形成されるまで続けるべきであり、その後は、抽出を上述のように続けることができる((c)〜(e)参照)。
【0029】
幅広く多様な構造を含有するITC抽出物が製造されることを保証するために、新芽/葉/種子の混合物を出発材料として使用しうることは、理解されるだろう。葉および新芽は種子よりも高レベルの4-メルカプトブチルGLSを含有し、4-メチルチオブチルGLSのレベルは種子の方が高い。
【0030】
上記に代わる本発明の好ましい植物抽出物は、グルコシノレート(すなわち本発明のITC前駆体)を豊富に含みうる。上述のとおり種子、新芽または葉(好ましくは抽出前に乾燥したもの)を出発材料にすることができる。次に、乾燥し粉砕した出発材料の懸濁液を、固形分が最低10%、最大50%である混合物が得られるようにエタノール溶液(例えば70%〜80%エタノール)中に作ることができる。使用するエタノールは好ましくは食品用である。次に、そのエタノール溶液を、天然グルコシノレートの70%〜90%がエタノール溶液中に抽出されるまで、反応器(好ましくは向流連続抽出器または揮発物を捕捉するための冷却器を装備したソックスレー型抽出器)中、約70℃で加熱する。次に、遠心分離またはデカンテーションによって固形物を除去し、その上清から、例えば減圧下での蒸留によって、またはまず最初に上清を<40%エタノールまで希釈した後、(ダイアフィルトレーションを使った)逆浸透によって、エタノールを除去することができる。最終溶液が含有するエタノールは<5%にするべきである。このグルコシノレートリッチ(glucosinolate-rich)溶液は凍結保存するか、噴霧乾燥してエタノールフリー(ethanol-free)粉末を得ることができる。グルコシノレートをITCに変換するには、グルコシノレートリッチ抽出物を20〜30℃の水に溶解することができ、変換は、ミロシナーゼ酵素を純粋な形で添加するか、粗ロケット種子/カラシ種子マッシュの一部として添加することによって、行われるべきである。混合物のインキュベーションは、天然グルコシノレートの最低50%、好ましくは>70%がITCに変換されるまで行うべきである。固形物およびタンパク質は、濾過(例えば精密濾過または限外濾過)によってITCリッチ溶液から除去することができ、次に抽出物を前述のように濃縮することができる。
【0031】
本発明の組成物の製剤
臨床上の必要から、上述の植物抽出物を実質的に「ニート(neat)」で使用することまたは単に水溶液に希釈して使用することが必要になる場合があるだろう。その場合は、栄養上の理由で、または医学的理由で、さらには処置対象が摂取するために抽出物の口当たりの良さ(palatability)を調節する目的で加えることができる他のいくつかの薬剤と、上清(希釈されているかどうかを問わない)とを混合してもよい。
【0032】
例えば、抽出物は、乳製品(diary product)(例えば乳、ミルクセーキまたはヨーグルト)または果汁(例えばぶどう果汁、オレンジ果汁など)と共に製剤化することにより、ITCまたはその前駆体を含有するので炎症状態の罹患者のための軽飲食物(refreshment)として極めて適切であるだろうという利点が加わった、口当たりのよい(palatable)飲み物/飲料を製造することができる。
【0033】
あるいは、経腸栄養のための栄養液に植物抽出物を含めてもよい。例えば、上清を、対象の経腸栄養のための食塩水または水性溶液(他のビタミン、ミネラルおよび栄養素を含めることができる)と混合することができる。
【0034】
ITCを含む液体は1〜1000μM、好ましくは10〜100μMのITC濃度を持つことが好ましい。
【0035】
本発明の組成物は、カプセル剤に組み入れるための粉末、顆粒または半固形物として製剤化することができる。半固形物の形態で提供するには、ITCまたはITCに富む植物抽出物を、ポリエチレングリコールなどの粘性液状媒体もしくは半固形媒体に溶解または懸濁するか、あるいは液状担体、例えばグリコール、例えばプロピレングリコール、またはグリセロール、または植物油もしくは魚油、例えばオリーブ油、ヒマワリ油、サフラワー油、マツヨイグサ油、大豆油、タラ肝油(cold liver oil)、ニシン油から選択される油などに溶解または懸濁することができる。次にこれを、硬ゼラチンタイプもしくは軟ゼラチンタイプのカプセル、または硬もしくは軟ゼラチン均等物(gelatine equivalent)で作られたカプセルに充填することができる(粘性液状充填物または半固形充填物の場合は軟ゼラチンまたはゲル化均等物(gelating-equvalent)カプセルが好ましい)。
【0036】
本発明のITCを含む粉末またはITCに富む植物抽出物を含む粉末は、炎症を少なくとも一つの特徴とする状態を予防または処置するために使用することができる医薬製品または栄養製品を製造するのに、とりわけ有用である。
【0037】
凍結乾燥または噴霧乾燥は本発明の粉末を製造するための好ましい方法を表す。噴霧乾燥は、良好な流動性と迅速な溶解特性とを持つ易流動性の顆粒粉末混合物を与える。
【0038】
上述のプロトコールによって製造される噴霧乾燥粉末または凍結乾燥粉末が本発明の好ましい粉末状組成物を表すことは理解されるだろう。好ましい粉末は、ITCに富む再構成植物抽出物から、それを凍結乾燥または噴霧乾燥することによって得られる。
【0039】
粉末組成物は透明/半透明の低粘度の飲み物/飲料として再構成することができる。再構成は、上述のように、水または乳製品もしくは果汁への再構成であることができる。粉末を分包(sachet)に包装し、必要時または所望時に、それを対象が飲料として再構成させうることは、理解されるだろう。
【0040】
粉末混合物は本発明の好ましい実施形態を表す。そのような混合物は、粉末状ITCまたはITCに富む粉末状植物抽出物を含み、それがさらなる成分と混合されている。そのような成分は、栄養上もしくは医学上の理由で、または口当たりの良さを改善するために、加えることができる。粉末状組成物は、さまざまな甘さの易流動性粉末混合物が得られるように、さまざまな粒径を持つグラニュー糖と混合することができる。
【0041】
あるいは、低カロリー/カロリーオフ(reduced calorie)の甘味飲料として再構成するために、天然甘味料または人工甘味料(例えばアスパルテーム、サッカリンなど)を粉末状組成物と混合することもできる。粉末混合物はミネラルサプリメントを含んでもよい。ミネラルは、カルシウム、マグネシウム、カリウム、亜鉛、ナトリウム、鉄、およびそれらの組合せのいずれであってもよい。
【0042】
粉末混合物は、クエン酸緩衝液およびリン酸緩衝液などの緩衝剤や、炭酸水素塩(例えば炭酸水素ナトリウムまたは炭酸水素アンモニウム)などの炭酸塩と固形の酸(例えばクエン酸または酸性クエン酸塩)とから形成される発泡剤も、含有することができる。
【0043】
ITCまたはITCに富む植物抽出物は、栄養補助食品(food supplement)または食品添加物として提供するか、食品、例えば機能性食品または栄養補助食品(nutriceuticals)に組み入れることができる。そのような製品は必需食品(staple food)として使用することもできるし、臨床上の必要がありうる状況下で使用することもできる。
【0044】
粉末は、スナックバー食品(snack food bar)、例えばフルーツバー(fruit bar)、ナッツバー(nut bar)およびシリアルバー(cereal bar)に組み入れてもよい。スナックバー食品の形態で提供するには、粉末を、干しトマト、干しブドウおよびスルタナなどの乾燥果実、南京豆(ground nut)、または燕麦および小麦などの穀類から選択される任意の1つまたはそれ以上の成分と混合することができる。
【0045】
医薬(処方せんを必要とするものまたはそうでないもの)として使用するために、本発明の組成物を医薬製品として有利に製剤化しうることは理解されるだろう。
【0046】
ITCに富む粉末状組成物または濃縮液状抽出物は、経口摂取のために、タブレット(tablet)、トローチ(lozonge)、甘味菓子(sweets)または他の食糧に組み入れることもできる。経口摂取することができ、腸内に長期間にわたってITCを放出することができる、徐放性カプセルまたは徐放性器具に、上記粉末状組成物または濃縮液状抽出物を組み入れることができることも、理解されるだろう。
【0047】
本発明の組成物はマイクロカプセル化することもできる。例えばカプセル化はアルギン酸カルシウムゲルカプセル形成によることができる。カッパカラギーナン、ジェランガム、ゼラチンおよびデンプンをマイクロカプセル化用の賦形剤として使用することができる。
【0048】
併用療法
本発明の組成物、医薬および抽出物は単独で使用することができ、あるいは本発明の組成物、医薬および抽出物を他の抽出物、組成物または化合物と(それらの化合物が本発明のITCの抗炎症特性を阻害しない限り)混合することもできることは、理解されるだろう。したがって本発明は、有効量のITCと他の活性剤とを含む組成物も包含する。
【0049】
本発明の組成物、医薬および抽出物は、本発明にいう医学的状態を処置するための既知の治療剤と組み合わせることができる。したがって本組成物は、極めて有効な併用療法に使用することができる。溶液中の組成物が、前記状態を処置するための他の治療剤にとって理想的な媒体として作用しうることは、理解されるだろう。
【0050】
本発明の組成物、医薬および抽出物と組み合わせることができる他の活性剤の例には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびコルチコステロイドなどがある。組成物、医薬および抽出物は、ある特異的状態を標的とする他の治療剤と組み合わせることもできる。例えば、本発明に従ってRAを予防または処置する場合、併用療法には、経口活性型「疾患修飾性」抗リウマチ薬(DMARD)またはRAを処置するために使用される生物製剤(例えば抗サイトカイン抗体およびサイトカイン受容体アンタゴニスト)を含めることができる。
【0051】
ITCまたはITCに富む植物抽出物は、プロバイオティック(probiotic)部分を含む併用療法/シンバイオティック(synbiotic)療法にも含めることができる。
【0052】
本発明の最も好ましい実施形態では、ITCを含む組成物またはITCおよびその前駆体に富む植物抽出物をポリフェノールと組み合わせることができる。本発明者らは、驚いたことに、ITCおよびポリフェノールが、本発明にいう医学的状態を処置するための併用療法において、極めて有効であることを見いだした(実施例4参照)。ITCとポリフェノールとを含む組成物、またはITCに富む植物抽出物とポリフェノールとを含む組成物は、本発明の重要な特徴を表す。したがって、本発明の第7態様によれば、治療有効量のITCとポリフェノールとを含む組成物が提供される。そのような組成物は、本明細書で議論する医学的状態を処置するのにとりわけ有用である。
【0053】
ポリフェノールは、好ましくは、果実から、より好ましくは果皮または果実の種子から得られうる。果実はブドウ属(Vinus spp.)であることが好ましい。したがって、ポリフェノールの好ましい供給源として、ブドウの皮またはブドウの種子を挙げることができ、ポリフェノールの最も好ましい供給源は、ブドウの皮および種子に由来するポリフェノールが果汁中に保持されるように加工されたブドウ果汁である。
【0054】
ポリフェノールは好ましくはプロシアナジン(procyanadin)である。あるいはポリフェノールは、フラバノイド(例えばフラバン-3-オール)であってもよい。
【0055】
最も好ましい併用療法はITCに富むロケット抽出物とポリフェノールに富むブドウ抽出物とを含む。
【0056】
ポリフェノールを含む好ましい植物抽出物はプロシアナジン類を含み、ブドウの皮および/またはブドウの種子から得られる。粉末状のブドウ皮/種子抽出物は、当技術分野で知られる方法を使って製造することができる。そのような粉末は、本発明に従って使用する前に、さらに加工することができる。例えば粉末状ブドウ皮/種子抽出物は、MeOHに溶解し、約70℃に(例えば10〜30分間)加熱し、遠心分離し(例えば約4500rpmで15分間)、0.45μフィルタで濾過することができる。これにより、プロシアニジンを含む溶液が得られ、それを(必要に応じて)濃縮、粉末化または希釈して、本発明に従って使用することができる。
【0057】
ポリフェノールを含む最も好ましい植物抽出物は、抽出の出発材料として赤(fed)または白ブドウの皮(理想的にはその種子および果梗(stalk)を含む)を使って製造される。ワイン醸造プロセスの固形廃棄物は、理想的な出発材料を表す。新鮮なブドウ、好ましくは種ありブドウは、もう一つの適切な出発材料である。最も理想的な出発材料は種子および果梗を、割合として皮よりも多く含有する。
【0058】
新鮮な、例えばワイン醸造の固形廃棄物を得たら、そのブドウ皮/種子混合物を風乾によって、例えば加熱ベルト乾燥機上で乾燥させることができる。次に、その乾燥出発材料を、粒径が<250ミクロンである粉末が得られるように、細かく粉砕するべきである。プロシアニジンの含有比率が高い高ポリフェノール抽出物の製造は、連続抽出によって、好ましくは向流抽出器によって、エタノール/水混合物、またはアセトン/エタノール/水混合物で行うことができる。ブドウ皮の存在比率が高い場合は、回収率を改善するために、例えば塩酸、クエン酸または酒石酸を、pH域が1.5〜4になるように添加することによって、抽出剤を酸性化してもよい。これは、常に必要なわけではなく、種子の比率が高い場合は特にそうである。抽出剤は45%〜65%のエタノールを含有すべきであり、15%までのアセトンも含有することができる。抽出は一回通しで行ってもよいが、好ましくは、回収率を最大化するために、2段または3段の逐次抽出段階を使用することができる。抽出が完了したら、遠心分離またはデカンテーションによって、固形物を懸濁液から除去することができる。プロシアニジンリッチ(procyanidin-rich)な上清は、化学的手段もしくは酵素的手段によって、または濾過(例えば限外濾過)によって、除タンパクし、低温高真空蒸発によって、または逆浸透による水の除去によって、濃縮することができる。最終抽出物は液体として凍結するか、粉末が得られるように噴霧乾燥するか、安定性を強化するために(例えば脂肪マトリックス中、または多糖マトリックス中、またはポリマーマトリックス中に)カプセル化して、貯蔵することができる。
【0059】
好ましい抽出物は、0.1〜10g/L、好ましくは0.5〜1.5g/Lのプロシアニジン濃度で、ポリフェノールを含む。
【0060】
本発明の第7態様による好ましい組成物は、プロシアナジンなどのポリフェノールに富むブドウ果汁と、SFまたはERに富むロケット抽出物とを含む。本発明者らは、そのような組成物が炎症反応を予防または軽減させるのにとりわけ有効であることを見いだした。
【0061】
あるいは、ポリフェノールを含む液状製剤および粉末を、本発明の第7態様に従って利用することもできる。
【0062】
本発明の第7態様による最も好ましい組成物は、ブドウ皮またはブドウ種から得られるプロシアナジン類の治療有効量と、ITC(例えばロケットから得られるもの)の治療有効量とを含む。そのような組成物は、プロシアナジンおよびITCを含有する粉末を含む食糧または飲料を含みうる。しかし最も好ましい組成物は、プロシアナジンおよびITCを含有する、カプセル化された液体、半固形物または粉末(上述のもの)を含む。最も好ましい組成物は、1〜1000μM、好ましくは10〜100μMのITC濃度と、0.1〜10g/L、好ましくは0.5〜1.5g/Lのプロシアニジン濃度とを含む、ゼラチンカプセル化された液体である。
【0063】
ITCリッチ抽出物/プロシアニジンリッチ抽出物のカプセル化は、a)酸化反応に曝されるのを防ぐことにより、抽出物の安定性を強化するため、およびb)抽出物/混合物の知覚特徴を変化させるため(例えば匂いを低減するため)に、企てることができる。カプセル化は、まず、乾物の濃度が50%〜70%であるエタノール溶液中の抽出物溶液を調製することによって行うことができる。エタノールの濃度は0%〜10%であることができる。ITC抽出物対プロシアニジン抽出物の比率は、3:1または5:1または10:1であることができる。調製した溶液を、適切なカプセル材料シェルマトリックスと、等体積ずつ混合すべきである。例えば脂肪の混合物、またはアルギナートなどの多糖類の溶液、またはキトサンなどのポリマー材料の溶液。混合物は、90℃を超えない温度で十分にホモジナイズし、噴霧乾燥によって、またはエアロゾルを形成させて冷却することによって、または他の既知のカプセル化技法によって、粒子を形成させるべきである。最終的粒径は100ミクロンを超えないようにすべきである。得られたカプセル化物はハードシェルでもソフトシェルでもよく、最低でも10%(w/w)の抽出物を、好ましくは20〜50%(w/w)の抽出物を含有すべきである。
【0064】
投与レジメン
本発明の組成物は、
(a)本発明の第1〜第6態様で定義した、所定の濃度のITC(またはその前駆体)またはITCもしくはその前駆体を含む植物抽出物;または
(b)本発明の第7態様で定義した、所定の濃度のITC(またはその前駆体)またはITCもしくはその前駆体を含む植物抽出物および所定の濃度のポリフェノールまたはポリフェノールを含む植物抽出物
を含有する単位剤形の形態で提示することができる。
【0065】
そのような単位剤形は、所望するレベルの生物学的活性が達成されるように選択することができる。
【0066】
対象が必要とする本発明の組成物の量は、生物学的活性およびバイオアベイラビリティによって決定され、それはまた、製剤、投与様式、ITCまたは植物抽出物の物理化学的性質、およびそのITCまたは抽出物が単剤療法として使用されているか、併用療法として(例えば本発明の第7態様に従ってポリフェノールと共に)使用されているかに依存する。一般に、ヒト成人の場合、1日量は、0.1〜100gの凍結乾燥または噴霧乾燥粉末(製剤化の方法を問わない)であり、より好ましくは1日量は1〜30g(例えば必要に応じて約5g、10g、または15g)である。
【0067】
本発明の固形または半固形剤形は、ITCまたはその前駆体を含有する約1000mgまでの乾燥抽出物を含有することができる。
【0068】
投与の頻度は、上述の因子と、特に、処置される対象におけるITCまたはその前駆体の半減期およびポリフェノール(使用する場合)の半減期の影響も受けるだろう。例えば半減期は、対象の健康状態、腸の運動性および他の因子による影響を受けるだろう。
【0069】
本発明の組成物(domposition)は錠剤またはカプセル剤などの医薬組成物に含めることができる。そのような製剤は、バイオアベイラビリティ上の要求があれば、腸溶コーティングを施すことが必要になるかもしれない。製薬工業で従来から使用されているもの(例えばインビボ実験、臨床治験など)など、既知の手法を使って、医薬組成物の具体的製剤および詳細な治療レジメン(例えば1日量および投与の頻度)を確立することができる。
【0070】
従来からある栄養補助食品の手法を利用して、本組成物を含む液状飲料、粉末混合物および食糧を作り出しうることは理解されるだろう。
【0071】
1日量は、1回の投与で(例えば経口摂取用の1日1回錠剤または単一の液状飲料として)与えることができる。あるいは、1日に2回またはそれ以上の投与が必要とされるかもしれない。一例として、0.1〜20gの噴霧乾燥植物抽出物(好ましくは0.3〜10gの噴霧乾燥ロケット抽出物、より好ましくは0.5〜3.0g)を含有する100mlのオレンジ飲料またはブドウ飲料を使って、終日、定期的間隔で喉の渇きをいやし、それによって推奨される用量を送達することができる。ブドウとロケット抽出物の組合せが本発明の第7態様の最も好ましい組成物を表すことは理解されるだろう。
【0072】
本発明のITC(および/またはポリフェノール)または植物抽出物が補足された栄養製品が、炎症要素を有する医学的状態を持つ対象またはそのような医学的状態を発生させるリスクがある対象に保護有効量または治療有効量のITCを提供するための理想的手段を表すことは理解されるだろう。したがって本発明の第8態様によれば、炎症要素を持つことを特徴とする医学的状態の予防または処置に使用するための栄養製品であって、ITCまたはその前駆体が補足されているか、ITCまたはその前駆体に富む植物抽出物が補足されている栄養製品が提供される。
【0073】
本栄養製品は
(a)本発明の第4態様の植物抽出物を含有する、透明で、粘度が低く、水様で、安定で、直ぐに使用できる、瓶詰めされた、炭酸もしくは非炭酸飲料、または再構成用の濃縮透明液;
(b)本発明の第4態様の植物抽出物を含有する、水または他の任意の経口摂取可能な液体で飲料液として再構成するための粉末/顆粒混合物;または
(c)食糧(例えばチョコレートバー、トローチなど)に混合された粉末/顆粒混合物
を含みうる。
【0074】
本栄養製品は上述のとおりであることができ、水溶性ビタミン、追加のミネラルサプリメント、栄養化合物、酸化防止剤または矯味矯臭剤(flavouring)を含有しても含有しなくてもよい。
【0075】
好ましい栄養製品は、本発明の第7態様によって定義される活性成分を含みうる。
【0076】
一例として、以下に、添付の図面を参照して、本発明をさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】4-メチルスルフィニルブチルグルコシノレートおよびスルフォラファンの代謝を図解する概略図である。腸細胞内に進入すると、スルフォラファン(SF)は迅速にグルタチオンに抱合され、体循環へと搬出され、メルカプツール酸経路によって代謝される。血漿の低グルタチオン環境内では、SF-グルタチオン抱合体は、おそらくGSTM1が媒介する切断を受けることができて、それが血漿中の遊離SFの循環をもたらす。この遊離SFは、TGFβ、EGFおよびインスリンなどのシグナリング分子を含む血漿タンパク質を修飾することができる。
【図2】良性(Be)、原発性がん(PCa)および転移がん(MCa)試料からなるレーザーキャプチャーマイクロダイセクションで採取された(laser-capture microdissected;LCD)上皮前立腺細胞試料(GEOアクセッション:GDS1439)をクラス分けするためのトレーニング試料(training samples)として、実施例1で言及する良性(B)および悪性(M)TURP前立腺組織を使用して行った、独立した前立腺マイクロアレイデータセットの線形判別分析(LDA)を示すプロットである。実施例1の方法の項で述べるように、良性および悪性TURP試料を識別する遺伝子リストに対して、LDAを行った。ここでは、第1線形判別(LD1)を示す。
【図3】実施例1に記載する遺伝子転写に対する食事介入の効果をグラフ表示したものである。(a)良性(Ben)および悪性(Mal)前立腺から得たTURP組織、ならびに介入前(Pre)、6ヶ月間のブロッコリーリッチ(broccoli-rich)食後(Broc)および6ヶ月間のエンドウ豆リッチ(pea-rich)食後(Peas)にボランティアから得たTRUSガイド生検組織における、GSTM1陽性遺伝子型とGSTM1ヌル(null)遺伝子型の間で異なるプローブの数(P≦0.005、Welch変法二標本t検定)。(b)介入前TRUSガイド生検試料と、6ヶ月間のブロッコリーリッチ食(6B)後、6ヶ月間のエンドウ豆リッチ食(6P)後、12ヶ月間のブロッコリーリッチ食(12B)後および12ヶ月間のエンドウ豆リッチ食(12P)後との間で異なるプローブの数(P≦0.005、対応のあるWelch変法二標本t検定)。陰影は、実施例1で述べるように適用した異なる倍率カットオフ(fold cutoff)に対応する。
【図4】実施例1で述べるように、ヒト血漿中で、SFと共におよびSFなしで、インキュベートしたインスリンのLC-MSトレース(trasce)を表す図である。保持時間6.46分と7.08分に2つの異なるインスリン-SF抱合体の出現を示す、(A)ヒト血漿対照中の無修飾インスリン(20μg/ml)ならびに(B)インスリン(20μg/ml)および50μM SFと共に37℃で4時間インキュベートしたヒト血漿における、インスリン-SF MH55+の抽出イオンLC-MS クロマトグラム(m/z 1183.6〜1184.1)。これら2つのインスリンSF抱合体の高感度プロダクトイオン(enhanced product ion;EPI)-MSスペクトルを図5に示す。
【図5】実施例1で説明する2つのインスリン-SF抱合体の高感度プロダクトイオン(EPI)-MSスペクトルを表す図である。ウシインスリンおよび50μM SFと共に37℃で4時間インキュベートしたヒト血漿のLC-MS分析で得られる(A)保持時間6.46分のピークと(B)保持時間7.08分のピークのMS2プロダクトイオンスペクトル。(A)および(B)においてm/z 1183.9はインスリン-SF MH55+に対応し、(A)におけるm/z 235.0は、Gly-SF(インスリンA鎖のN末端アミノ酸)に対応し、(B)におけるm/z 325.2はPhe-SF(インスリンB鎖のN末端アミノ酸)に対応する。
【図6】実施例1で述べるように、SFと共におよびSFなしでインキュベートしたTGFβ1のLC-MSを表す図である。TGFβ1の無修飾N末端ペプチド(m/z 768.5)および修飾N末端ペプチド(m/z 877.2)を表す、前駆体質量の抽出イオンクロマトグラム(MS)。A(DMSO処理したTGFβ1から得られるm/z 768.2〜769.2)、B(SF処理したTGFβ1から得られるm/z 768.2〜769.2)、C(DMSO処理したTGFβ1、m/z 876.7〜877.7)、およびD(SF処理したTGFβ1、m/z 876.7〜877.7)を表す、前駆体質量の抽出イオンクロマトグラム(MS)。
【図7】SFによるTGFβ1のN末端修飾を表す図である。保持時間23.43分のTGFβ1の無修飾N末端ペプチドを表すm/z 768.7(A)およびSF処理した試料にのみ見いだされる保持時間30.85分の修飾型TGFβ1を表すm/z 877.2(B)のMS/MSスペクトル。yイオン系列が同じままであるのに対して、bイオン系列はシフト(Δ)して質量217±0.8DaのN末端修飾を示すことに注目されたい。図S2は、177ではなく217の質量付加であることの説明になっている。
【図8】実施例1で説明するSFによるTGFβ1/Smad媒介性転写の活性化を表す図である。CAGA12-lucプラスミドを含有するNIH3T3細胞を、TGFβ1のみ、TGFβ1と活性なTGFβ1二量体を破壊する10mM DTT、またはTGFβ1と2μM SFで処理した。全ての試料を30分間プレインキュベートし、SFの最終濃度が34nMになるように、さらに4時間透析した。さらにもう一つの陰性対照として、細胞を処置しないか、34nM SFだけで処理したが、これらはどちらもルシフェラーゼを誘導することができなかった。化学発光を各試料のタンパク質濃度に対して規格化した(詳細については「方法」の項を参照されたい)。これは、全部で4つ実施した類似する実験のうちの代表的実験である。表示するデータは3重に行った測定の平均(s.e.m.)である。
【図9】実施例2(実験1)で述べるようにSFと共に0時間および21時間インキュベートした後の波長220nmにおけるEGFのUVスペクトルを表す図である。*無修飾EGFは、0時間試料(24.630秒)では、21時間試料(23.822秒)と比較すると、カラム平衡ゆえに遅れて溶出する。
【図10】実施例2(実験1)で述べるように0時間における無修飾EGFおよび修飾EGFに関する抽出イオンの質量スペクトルを表す図である。*無修飾EGFは、0時間試料(図10上パネル)では、21時間試料(図11上パネル)と比較すると、カラム平衡ゆえに遅れて溶出する。
【図11】実施例2(実験1)で述べるように21時間における無修飾EGFおよび修飾EGFに関する抽出イオンの質量スペクトルを表す図である。
【図12】実施例2(実験1)で述べるように無修飾EGFの質量スペクトルを表す図である。複数の荷電EGF分子が示されている。
【図13】修飾EGFの質量スペクトルを表す図である。実施例2(実験1)で述べるように、複数の荷電修飾EGFが示されている。
【図14】実施例2(実験2)で述べる(a)ゲルの写真および(b)棒グラフで定量化したデータ(これは表6に記載のデータに対応する)を表す図である。このデータはITCがSmad活性をどのように調整するかを示している。この実験は、TGFβ1をスルフォラファン(SF)と共におよびSFなしで30分間プレインキュベートしてから、PC3細胞を1時間処理し、次にSmad2リン酸化(すなわちTGFβ1活性の機能)を測定したものである。
【図15】ゲルの写真を表す図であり、実施例2(実験2)で述べるように定量した表7に記載のデータに対応する。このデータはITCがSmad活性をどのように調整するかを示している。この実験は、TGFβ1をエルシン(ER)と共におよびERなしで30分間プレインキュベートしてから、PC3細胞を1時間処理し、次にSmad2リン酸化(すなわちTGFβ1活性の機能)を測定したものである。
【図16】実施例2(実験3)で述べるようにBPH1細胞(過形成前立腺細胞)におけるリン酸化EGF受容体(p-EGFR)の発現を示す棒グラフである。この実験では、BPH細胞を10μmol/Lスルフォラファンと共にプレインキュベートしたところ、10mg/L EGFによって10分間で誘導されうるEGF受容体リン酸化が、約3分の1に減少した。
【図17】実施例3で述べるように、HUVEC細胞を高プロシアニジン抽出物およびエルシンと共にインキュベートすることがIL-6発現に及ぼす効果を表す棒グラフである。
【実施例】
【0078】
実施例1
本発明は、アブラナ科植物の摂取が、前立腺がんの出現リスクおよび侵襲性前立腺がんを発生させるリスクの両方、そして特に、そのようながんにつながる基礎的作用機序に及ぼす効果を調べた、本発明者らによる研究に基づく。この研究において、本発明者らは、12ヶ月間のブロッコリーリッチ食の前、途中および後に、ヒト前立腺における包括的遺伝子発現パターンの変化を定量化し、それらを分析した。その結果、本発明者らは、野菜中に存在するITCが、前立腺がんの進行を調整するだけでなく、炎症反応を制御するシグナル伝達機構を調整したことを理解した。この理解に基づいて、本発明者らは、本明細書に記載する組成物および植物抽出物と、炎症要素を有する状態の処置におけるそれらの用途を開発するに至った。
【0079】
ボランティアをブロッコリーリッチ食またはエンドウ豆リッチ食にランダムに割り当てた。6ヶ月後に、エンドウ豆リッチ食では、グルタチオンS-トランスフェラーゼ・ミュー(mu)1(GSTM1)陽性個体とGSTM1ヌル個体の間で、遺伝子発現に差がなかったが、ブロッコリーリッチ食では、トランスフォーミング増殖因子β1(TGFβ1)および上皮増殖因子(EGF)シグナリングパスウェイに関連して、GST1遺伝子型間で有意な相違があった。介入前に得た生検試料と介入後に得た生検試料を比較したところ、ブロッコリーリッチ食の個体では、エンドウ豆リッチ食の個体よりも多くの遺伝子発現変化が起こることが明らかになった。アンドロゲンシグナリングには食事制限とは関係なく変化があったが、ブロッコリー食の男性では、mRNAプロセシングならびにTGFβ1、EGFおよびインスリンシグナリングに、追加の変化があった。本発明者らは、スルフォラファン(SF:ブロッコリー中に蓄積する4-メチルスルフィニルブチルグルコシノレート(4-methylsuphinylbutyl glucosinolate)から誘導されるイソチオシアネート)がTGFβ1、EGFおよびインスリンペプチドと化学的に相互作用してチオウレアを形成し、TGFβ1/Smad媒介性転写を強化することも立証した。
【0080】
前立腺がんは西洋諸国の男性集団では最も診断されることの多い非皮膚がんである。疫学的研究により、ブロッコリーなどのアブラナ科の野菜に富む食事は、前立腺がんのリスクを、他の部位のがんおよび心筋梗塞に加えて、低下させうることが示唆されている。いくつかの研究により、週に一皿(one portion)以上のブロッコリーを摂取すれば、前立腺癌の出現率を低下させることができ、限局型前立腺がんから高侵襲型前立腺がんへの進行も減少させうることが、具体的に示されている。リスクの低下はグルタチオンS-トランスフェラーゼ・ミュー1(GSTM1)遺伝子型によって調整されうる。この場合、少なくとも1つのGSTM1対立遺伝子を有する個体(すなわち人口の約50%)の方が、GSTM1のホモ接合型欠失を有する個体よりも多くの利益を得る。したがって、この研究の目的の一つは、ブロッコリーの保護効果の機構的根拠およびGSTM1遺伝子型との相互作用を調べることだった。
【0081】
これらの発見により、本発明者らは、ブロッコリーの摂取がGSTM1遺伝子型と相互作用して、前立腺における発がんだけでなく、炎症に関連するシグナリングパスウェイにも、複雑な変化をもたらすことを理解した。これらの変化は血漿におけるITCとシグナリングペプチドとの化学的相互作用によって媒介されるのだろうと、本発明者らは考えている。この研究は、アブラナ科の野菜に富む食事によって炎症要素を持つ状態の発生リスクを低減させかつ/または炎症要素を持つ状態を処置しうるという観察研究を裏付けるために、ヒトで得られた実験的証拠を初めて提供するものである。さらにまた、本発明者らは、ITCを含む製品またはITCに富む植物抽出物を含む製品が、そのような状態の処置に有用であることも立証した(下記実施例参照)。
【0082】
1.1 方法
1.1.1 被験者および試験計画
前浸潤上皮内段階の前立腺腺癌である高グレード前立腺上皮内新形成(HGPIN)との診断を過去に受けた年齢57〜70歳の男性22人(表1)を、ブロッコリーに富む食事とエンドウ豆に富む食事が前立腺遺伝子発現に及ぼす効果を調べるための食事介入治験に採用した。
【0083】
組織学的診断は前立腺病理学に特別な関心を持つ2人のコンサルタント組織病理学者によって行われた。治験に関する倫理的承認を取得し、全ての参加者から文書でインフォームド・コンセントを得た。ボランティアが化学予防療法を受けている場合、テストステロン補充薬物療法もしくは5αレダクターゼ阻害剤の投与を受けている場合、処置を必要とする活動性感染症を持つ場合、ボディマス指数(BMI)が<18.5もしくは>35である場合、または糖尿病である場合、そのボランティアは除外した。被験者を、次に挙げる2つの食事介入群からなる12ヶ月間の並行食事介入治験に割り当てた:それぞれの通常の食事に加えて(i)週に400gのブロッコリーを摂取する群または(ii)週に400gのエンドウ豆を消費する群。治験は2005年4月から2007年4月にかけて行われた。血漿中前立腺特異抗原(PSA)レベルが、介入試験の前と6ヶ月後および12ヶ月間後に、総PSAイムノアッセイを使ってNorfolk and Norwich University Hospitalで定量された。急性効果を避けるために、ボランティアは、各生検予定の前48時間は、グルコシノレートを含有することが知られている食品を避けた。
【0084】
介入試験の直前と6ヶ月後および12ヶ月後にボランティアから採取した前立腺の経直腸超音波スキャン(TRUS)ガイド針生検試料に加えて、18の良性および14の悪性経尿道的前立腺切除(TURP)組織も、Norfolk & Norwich University HospitalのPartners in Cancer Research Human Tissue Bankから入手した。
【0085】
1.1.2 食事介入
野菜は月単位でボランティアに届けた。野菜は蒸し器と共に提供され、ボランティアには、野菜の加熱調理方法について、Institute of Food Researchにおいて、調理人(diet cook)による実演を見せた。ブロッコリーは4〜5分間蒸し、エンドウ豆は2〜3分間蒸した。冷凍エンドウ豆(Birds Eye Garden Peas、http://www.birdseye.co.uk/)は地元の小売店で購入した。ボランティアに提供される凍結ブロッコリー中のグルコシノレート含有量の一貫性を保証するために、介入試験に必要なブロッコリーは、英国キングズリン近郊のテリントン(Terrington)にあるADAS実験農場(http://www.adas.co.uk/)で、1度にまとめて栽培され、Christian Salvesen(英国リンカーンシャー、ボーン、http://www.salvesen.co.uk/)によって加工された。ブロッコリーは90.1℃で74秒間ブランチングし、-30℃で凍結し、100gずつ包装した後、ボランティアが蒸すまで、-18℃で貯蔵された。ブロッコリーは高グルコシノレート品種を使用した。4-メチルスルフィニルブチルグルコシノレートおよび3-メチルスルフィニルプロピルグルコシノレート(それぞれSFおよびIBの前駆体)のレベル(平均(SD))は、それぞれ10.6(0.38)および3.6(0.14)μmol・g-1(乾燥重量)だった。これに対し、地元の小売店で購入したブロッコリーは、4.4(0.12)および0.6(0.01)μmol・g-1(乾燥重量)だった。グルコシノレートのレベルは標準的なブロッコリーより高かったが、凍結前のブランチングによって植物ミロシナーゼが変性したので、高グルコシノレートブロッコリー食から得られるSFおよびIBのレベルは、機能的なミロシナーゼを持つ新鮮なブロッコリーから得られるものと類似しているか、それより低かった。インドールグルコシノレート類のレベルは高グルコシノレートブロッコリーでも標準的ブロッコリーでも類似していた。
【0086】
1.1.3 コンプライアンスのモニタリングと食事評価
ボランティアは、いつ野菜を食べたか確認するために、12ヶ月の介入期間中は毎週、点検表(tick sheet)に記入した。2週間ごとにボランティアに電話で連絡し、食事制限を守っているかどうか尋ねた。ボランティアは、ベースライン時および6ヶ月後に、家庭用度量器をポーションサイズの目安として、7日分の想定摂食食事日誌(a seven-day estimated food intake diet diary)に記入した。それらの日誌から摂食内容をDiet Cruncher v1.6.1(www.waydownsouthsoftware.com/)に入力し、ベースライン時と介入6ヶ月後における2つの介入群の間の栄養組成の相違について分析した。
【0087】
1.1.4 遺伝子型別
Qiagen QIAamp DNAミニキットを使用し、製造者の指示(http://www.qiagen.co.uk/)どおりにRNase処理を行って、ゲノムDNAを全血または組織試料から抽出した。CovaultらによるリアルタイムPCR法を使用し、遺伝子特異的プライマーおよびプローブを使ってGSTM1(NM_000561)遺伝子型を決定し、定量は、2コピー遺伝子対照、すなわちbreast cancer 1, early onset(早発型乳がん1)(BRCA1、NM_007294)遺伝子のIVS10中の一領域との比較で行った(Covaultら (2003) Biotechniques 35:594-596, 598)。プライマーおよびプローブはApplied Biosystems Primer Express(http://www.appliedbiosystems.com/)を使って設計した。それらを表1にPCR条件と共に記載する。データはApplied Biosystems Absolute Quantificationソフトウェアで解析した。
【0088】
表1には、GSTM1遺伝子欠失を決定するためのフォワードプライマー(F)およびリバースプライマー(R)ならびに発蛍光プローブ(P)の配列および濃度を示す。プローブは5'レポーター色素FAM(6-カルボキシフルオレセイン)および3'クエンチャー色素TAMRA(6- カルボキシテトラメチルローダアミン)で標識した。三つ一組の反応を、Universal Master Mix、プライマーおよびプローブならびに50ngのDNAからなる25μL/ウェルの総体積で行った。95℃で10分間のAmplitaq Gold活性化に続いて、95℃で15秒間の変性および60℃で1分間のアニーリング/伸長というPCRを40サイクル行った。
表1.遺伝子型解析用のプライマーおよびプローブ
【表1】

【0089】
22人のボランティアのうちの一人は試験ベースライン生検時に前立腺癌と診断され、この試験から除外された。ベースライン生検で得た11試料、6ヶ月生検で得た2試料、および12ヶ月生検で得た3試料からは、良好な品質のRNAおよび/または十分なcRNAが得られず、ハイブリダイズしなかった。さらにまた、ボランティアの1人が6ヶ月生検時に前立腺癌を示したので、その後の試料はこの試験から除外した。各アレイの蛍光強度はGeneChip(登録商標)Scanner 3000 7Gでキャプチャした。Affymetrix GeneChip(登録商標)Operating Software(GCOS)を使って、各U133 Plus 2.0アレイを定量化した。この文書に記載のマイクロアレイデータは、MIAME(minimum information about a microarray experiment)基準に準拠しており、Array Expressに登録されている(http://www.ebi.ac.uk/microaray-as/aer;アクセッション番号E-MEXP-1243)。
【0090】
1.1.5 RNA抽出およびマイクロアレイハイブリダイゼーション
QIAGEN(登録商標)RNeasyミニキットを製造者の指示(http://www.qiagen.co.uk/)に従って使用することにより、TURP組織バンク試料と、ボランティアから採取したTRUSガイド生検試料とから、全RNAを単離した。得られたRNAの量は分光測光器(Beckman)を使って測定した。RNAの品質はAgilent 2100 Bioanalyzer(http://www.agilent.co.uk/)を使って決定した。良性前立腺および悪性前立腺のTURP生検試料から得たRNA試料、ならびにベースライン時、介入6ヶ月後および介入12ヶ月後の両被験者群(エンドウ豆およびブロッコリー)のTRUSガイド生検試料から得たRNA試料は、Nottingham Arabidopsis Stock Centre(NASC、http://arabidopsis.info/)により、Affymetrix Human U133 Plus 2.0マイクロアレイ(http://www.affymetrix.com/)へのハイブリダイゼーションに付された。
二本鎖cDNA合成およびビオチン標識cRNAの生成は製造者のプロトコール(Affymetrix、http://www.affymetrix.com/)に従って行われた。フラグメント化とアレイへのハイブリダイゼーションの前に、最終cRNAの品質をチェックした。
【0091】
1.1.6 マイクロアレイデータ解析
生データファイル(CEL)を、規格化、発現値の生成および統計解析のために、DNA-Chip Analyzerソフトウェア(dChip、http://biosun1.harvard.edu/complab/dchip/、作成日2006年9月)にロードした。Invariant Set Normalization法を使って規格化した後、PM-onlyモデルを使ってプローブ発現レベルを計算した。群間で変化している遺伝子を同定するために、dChipにおいてWelch変法二標本t検定によって計算される、異なる両側P値閾値を適用した。適宜、対応のあるt検定または対応のないt検定を行った。多重検定の補正を行うために、dChipにおけるパーミュテーションによってFalse Discovery Rate(FDR)を推定し、各比較について100回のパーミューテーションの中央値を報告した(選択した試料について1000回のパーミュテーションを行ったがFDRの計算にはほとんど影響がなかった)。良性試料および悪性試料に対し、3697プローブの遺伝子リストでの距離メトリックとして1順位相関(1-Rank correlation)を使って、教師なしクラスタリングを行った。これらのプローブは次に挙げる2つの基準を満たした。第1に、変動係数(CV)が0.5〜1000であること。そして、第2に、存在コール(Presence call)のパーセンテージが、全てのTURP良性および悪性試料にわたって20%を上回ること。
【0092】
試料分類のために、19のレーザーキャプチャーマイクロダイセクション採取(LCD)上皮細胞マイクロアレイ(GEOアクセッション:GDS1439、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/)ならびに32のTURP良性および悪性マイクロアレイを一緒に規格化し、モデルベース発現量(model-based expression)をdChipで上述のように計算した。LCD試料は、6つの良性前立腺組織試料、5つの臨床限局型原発性前立腺腺癌試料、プール後の5つの原発性がん試料の2つの複製試料、4つの転移前立腺腺癌試料、およびプール後の4つの転移前立腺がん試料の2つの複製試料から得られた(Varamballyら (2005) Cancer Cell 8: 393-406)。次に、トレーニング試料としてのTURP良性および悪性試料に基づいて、線形判別分析(LDA)を使って、LCD上皮細胞試料の分類を行った。LDAは、TURP良性試料とTURP悪性試料の間で100単位より大きいシグナル強度の相違を持ち、Welch変法二標本t検定においてP≦0.01で有意に相違する、442個のプローブを使って行った。差異的発現遺伝子のリストにおいて最も過剰提示(over-presented)されるパスウェイを同定するために、MAPPFinderおよびGenMAPP v2.1を用いる機能解析を行った(http://www.genmapp.org/)。
【0093】
1.1.7 ペプチドとイソチオシアネートとのインキュベーション
SFまたはIBを、ウシインスリン(P01308、Sigma-Aldrich)、組換えヒト上皮増殖因子(EGF、P01133、R&D Systems、http://www.rndsystems.com/)および組換えヒトトランスフォーミング増殖因子β1(TGFβ1、P01137、R&D Systems)と共に、リン酸ナトリウム緩衝食塩水溶液(pH7.4)中、またはヒト血漿中、37℃で0.5〜24時間インキュベートした。高分子量タンパク質を除去するために血漿を限外濾過によって前処理した(Microcon Ultracel YM-30フィルター、MWCO 30,000)。試料は、LC-MS/MSで直接分析するか、ゲル電気泳動バンドのトリプシン消化物のLC-MS/MS分析によって分析した。
【0094】
1.1.8 イソチオシアネートと共にインキュベートしたペプチドの直接LC-MS/MS分析
使用したLCシステムは島津10AD VPシリーズ(島津製作所、http://www.shimadzu.com/)である。カラムはACE 300 C18、150×2.1mm(粒径5μm)を40℃で使用した。移動相Aは0.1%ギ酸/水、移動相Bは0.1%ギ酸/アセトニトリル、流速は0.25ml/分とした。0分から5分までの間は25%Bから35%Bまでの直線的勾配を使用し、次に6分間で35%Bから99%Bへのさらなる勾配の後、99%Bを4分間とした。カラムを合計3分間、再平衡化した。注入体積は5〜20μlとした。MS実験は全て、正イオンエレクトロスプレーモードで使用するTurboIon源を装備した4000 QTRAPハイブリッド三連四重極リニアイオントラップ質量分析計で、Analystバージョン1.4.1ソフトウェア(Applied Biosystems、http://www.appliedbiosystems.com/)を使って行った。プローブキャピラリー電圧は4200Vで最適化され、脱溶媒和温度は400℃に設定し、カーテンガス、ネブライジングガスおよびターボスプレーガスは、それぞれ40、10および20に設定した(任意値)。デクラスタリングポテンシャルは、50〜120Vで傾斜させた。衝突誘起解離(CID)には窒素を使用した。全てのMSおよびMS/MS実験について、Q1およびQ3でピーク幅を1.0Thに設定した(半値高さで測定)。m/z 800〜2000の範囲にわたって1〜2秒のスキャン時間でスペクトルを得た。LITモードで運転して、Q0トラッピングを作動させ、ダイナミックフィルタイム(dynamic fill time)を使用し、高感度プロダクトイオン(EPI)スキャンではスキャン速度を250Th/sに設定し、励起時間は150msec、励起エネルギーは25Vおよびエントリーバリア(entry barrier)は4Vとした。EPIスペクトル収集には、SFとインスリン(m/z 1183.9 MH55+)、EGF(m/z 1088.8、MH56+)およびTGFβ(m/z 1981.9、MH513+)との抱合体に関して、関心対象の前駆体イオンを選択し、衝突エネルギーを30〜120Vで傾斜させ、m/z 100〜1500の範囲にわたって、1.9秒のスキャン時間で、スペクトルを得た。MS3設定は、衝突エネルギーを50〜80Vとし、デクラスタリングポテンシャルを50〜80Vとした点以外は、MS2と同一とした。
【0095】
1.1.9 電気泳動およびトリプシン消化後の、SFと共にインキュベートしたTGFβ1のLC-MS/MS分析
担体としてのウシ血清アルブミンと共に供給されたTGFβ1タンパク質を1μgずつ、DMSOまたは1.2μmolのSFと共に、37℃で30分間インキュベートし、変性4-12%ビス-トリスNuPAGEゲル(Invitrogen、http://www.invitrogen.com)で泳動した。バンドを切り出し、ジチオスレイトール(DTT)による還元とヨードアセトアミド(Sigma-Aldrich、http://www.sigmaaldrich.com/)によるアルキル化の後、トリプシン(Promega、http://www.promega.com/)で消化した。抽出されたペプチドを凍結乾燥し、質量分析による分析のために1%アセトニトリル、0.1%ギ酸に再溶解した。LC-MS/MS分析はLTQ質量分析計(Thermo Electron Corporation、http://www.thermo.com/)およびナノフローHPLCシステム(Surveyor、Thermo Electron)を使って行った。セルフパック(self-packed)C18 8cm分析カラム(BioBasicレジン、Thermo Electron;Picotip内径75μm、先端15μm、New Objective、http://www.newobjective.com/)に接続したプレカラム(C18 pepmap100、LC Packings、http://www.lcpackings.com/)に、ペプチドを適用した。40分で2→30%アセトニトリル/0.1%ギ酸の勾配により、約250nL・分-1の流速で、ペプチドを溶出させた。MS/MSのデータ依存的収集は各サイクルで最も豊富な5イオンの選択からなった:MS質量荷電比(m/z)300〜2000、最小シグナル(minimal signal)1000、衝突エネルギー25、5リピートヒット(repeat hits)、300秒排出(exclusion)。いずれの場合も、質量分析計は、正イオンモード、ナノスプレー源およびキャピラリー温度200℃で運転し、シースガスは使用しなかった。イオン源電圧および集束電圧は、アンジオテンシンのトランスミッションに関して最適化した。BioWorks 3.3(Thermo Electron Corporation)を使って生データを処理した。検索は、Mascot(Matrix Science、http://www.matrixscience.com/)を使って、SPtrEMBL(4719335配列)に対し、分類をヒト(Homo sapiens)(68982配列)に制限して行い、酸化メチオニン残基およびカルバミドメチルシステイン残基を非確定的修飾(variable modification)として、想定されるSFと同様に許容した。親イオンの許容誤差(error tolerance)は±1.2Daとし、フラグメント質量許容差(fragment mass tolerance)は±0.6Daとし、1つの誤開裂(missed cleavage)を許容した。TGFβに対するMascotにおけるエラートレラント検索(error tolerant search)はルーチン的に行い、抽出イオンクロマトグラムおよびスペクトルのマニュアル検査は、Qual BrowserおよびBioWorks 3.3(Thermo Electron Corporation)を使って作成した。
【0096】
1.1.10 ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイ
Smad活性化に応答するCAGA12-lucプラスミドで安定にトランスフェクトされたNIH3T3細胞(Dennlerら (1998) Embo J 17:3091-3100)は、10%ウシ胎仔血清(FCS)、1%ペニシリン、1%ストレプトマイシン、1%L-グルタミンおよび0.4mg/mlジェネティシンを補足したDMEMで培養した。細胞を6穴組織培養皿の完全成長培地に24時間播種した後、次に挙げる3つの処理の1つを含有する低血清培地(0.5%FCS)で培地を置き換えた:
(1)PBS緩衝液中のTGFβ1(2ng・ml-1の最終濃度が達成されるように)、
(2)PBS緩衝液中のTGFβ1+10mM DTT、
(3)PBS緩衝液中のTGFβ1+2μM SF。
【0097】
SF薬物動態をシミュレートするために、全ての試験試料を37℃で30分間インキュベートしてから、Slide-A-Lyzer Dialysis Cassette MWCO 3.5K(PIERCE、http://www.piercenet.com/)を使って、PBS緩衝液中で4時間の透析を行った。透析により、SF濃度は34nMに低下した。さらなる対照として、細胞をTGFβ1を含まないPBSおよびSF(34nM)を含むPBSで処理した。ルシフェラーゼ活性を処理の16時間後にLuciferase Reporter Geneアッセイ(Roche Applied Science、http://www.roche.com/)を使ってPerkin Elmer Wallac Victor 2 1420マルチラベルカウンタープレートリーダー(http://las.perkinelmer.com/)で決定した。簡単に述べると、細胞をPBSで2回洗浄し、上記アッセイと一緒に提供される細胞溶解緩衝液中で溶解した。ルシフェラーゼアッセイ基質の添加後、直ちに、化学発光を定量した。ルシフェラーゼ値は、BCAアッセイ(Sigma-Aldrich、http://www.sigmaaldrich.com/)を使って定量したタンパク質濃度に対して規格化した。実験は4回繰り返し、1回の実験につき各処理を3重に行った。統計解析は、統計ソフトウェアR(http://www.R-project.org)により、一元配置ANOVAを使って行った。
【0098】
1.2 結果
1.2.1 良性および悪性TURP組織試料の遺伝子発現の比較
本発明者らは、不均質組織(本発明者らが介入試験で使おうとしたものなど)から抽出されたRNAを使って、外科的に切除された良性および悪性前立腺TURP組織における包括的遺伝子発現プロファイルを比較した。教師なしクラスタリングにより、良性試料と悪性試料とが明確に識別された(データ未掲載)。2つの群間で有意に異なる遺伝子に関するパスウェイ解析を、GenMappソフトウェアを使って行い、発がん中に摂動を受けるとしばしば報告されているパスウェイを同定した(表3aおよび表4a)。本発明者らのデータ解析方法をさらに検証するために、また不均質組織全体から得られるマイクロアレイデータがLCD上皮細胞から生成されるデータに匹敵するかどうかを決定するために、本発明者らは、良性、限局性よび転移前立腺がんから得られたLCD上皮細胞の独立データセット(GEOアクセッション:GDS1439)を分析した。本発明者らは、自分たちの良性および悪性試料を線形判別分析(LDA)のトレーニングセットとして使用し、独立データを試験セットとして、LDAモデルが良性、限局性および転移LCD上皮試料を正しく識別したことを見いだした(図2)。したがってこの予備研究により、アレイデータの統計的解析に対する本発明者らのアプローチの妥当性が立証される。
【0099】
1.2.2 血漿PSAレベルの変動
介入前のPSAレベルは、HPGINと診断された対応する年齢範囲の男性について先に報告されたもの[25]と類似する範囲内にあった。GSTM1遺伝子型との有意な関連はなく、介入試験のどちらのアーム内でも6ヶ月または12ヶ月後のPSAレベルに一貫した変化はなかった(表2)。
【表2−1】

【表2−2】

【0100】
22人のボランティアのうちの一人は試験ベースライン生検時(介入前)に前立腺線癌と診断され、この試験から除外された。*このボランティアは介入6ヶ月時点で前立腺癌を発生したので、この試験から除外した。
【0101】
【表3−1】

【表3−2】

【0102】
EGFR、上皮増殖因子受容体;GPCR、G-タンパク質共役受容体;IL-2、インターロイキン2;TGFβ、トランスフォーミング増殖因子β:TURP、経尿道的前立腺切除;Wnt、ウイングレス型MMTV組込部位。群を識別する遺伝子リストに富むGenMAPP中のパスウェイを示す。調整P値≦0.05のパスウェイだけを示す。また、これらのパスウェイに属する群間で変化している遺伝子の数も、そのパスウェイを構成する遺伝子の総数と共に示す。パスウェイ解析は、2つの群間で統計的に有意な(P≦0.05、対応のあるまたは対応のないWelch変法二標本t検定)dChipで生成された遺伝子リストに対して行った。倍率カットオフは使用しなかった。遺伝子リストに関する詳細は表3を参照されたい。*P値は、データの2000回のパーミュテーションに基づき、ノンパラメトリック統計を使ってGenMAPPで計算し、さらに、Westfall-Young調整によって多重検定に関する調整を行った。**GSTM1陽性ボランティア、n=4。
【0103】
1.2.3 GSTM1陽性個体とGSTM1ヌル個体の間の包括的遺伝子発現の相違
本発明者らは、まず最初に、切除されたTURP組織試料を遺伝子型別し、良性試料内および悪性試料内でGSTM1陽性遺伝子型とGSTM1ヌル遺伝子型の遺伝子発現プロファイルを比較した。遺伝子型間の相違はほとんど見つからず、中央値FDR(median false discovery rate)は同様に高かった(図3a、表4b)。同様に、本発明者らは、過去にHGPINと診断されたことのあるGSTM1陽性男性およびGST1ヌル男性の前立腺の針生検試料から得られた遺伝子発現プロファイルも比較したが、相違はほとんど見つからなかった。
【表4−1】

【表4−2】

【0104】
表4:倍率変化(fold change)およびP値カットオフの比較基準を満たすプローブ数を示す。括弧内の数は、試料の100回のパーミュテーション後にdChipで計算される中央値FDA(median false discovery rate)を表す。*P値はWelch変法二標本t検定によってdChipで計算された。良性についてはn=18、悪性についてはn=14;GSTM1(+)良性についてはn=4、GSTM1(-)良性についてはn=14;GSTM1(+)悪性についてはn=5、GSTM1(-)悪性についてはn=9;GSTM1(+)介入前についてはn=7、GSTM1(-)介入前についてはn=3;GSTM1(+)6ヶ月ブロッコリーについてはn=6、GSTM1(-)6ヶ月ブロッコリーについてはn=5;GSTM1(+)6ヶ月エンドウ豆についてはn=3、GSTM1(-)6ヶ月エンドウ豆介入についてはn=5。**P値は対応のあるWelch変法二標本t検定によりdChipで計算され、各食事介入についてn=4である。
【0105】
次に、本発明者らは、食事介入試験に採用した男性21人の針生検組織における遺伝子発現プロファイルをGSTM1遺伝子型間で比較した。この試験では、男性のうち8人に、蒸した冷凍エンドウ豆を週に400g摂取するように依頼し、他の13人には蒸した冷凍ブロッコリーを週に400g摂取するように要求したが、その他の点では、それぞれが通常の食事を取るように依頼した。食事内容を介入前および6ヶ月後に7日分の食事日誌で評価した。ブロッコリーとエンドウ豆の摂取を別にすれば、食事成分に有意差は見いだされなかった(表5)。本発明者らは、6ヶ月間ブロッコリー食をとっていたGSTM1陽性男性とGSTM1ヌル男性との間で、前立腺遺伝子発現に多くの相違を見いだしたが、エンドウ豆食をとっていたGSTM1陽性男性とGSTM1ヌル男性の間では、遺伝子発現の相違が(あったとしても)ごくわずかしか見いだされなかった(図3a、表4b)。ブロッコリーリッチ食に続いて起こるGSTM1遺伝子型間での遺伝子発現の相違の潜在的帰結を調べるために、本発明者らは、これらのデータをGenMappで解析した。偶然を上回る頻度で遺伝子が見いだされる3つのパスウェイ、EGF受容体、脂肪生成およびTGFβ受容体が同定された(表3b)。
【0106】
【表5−1】

【表5−2】

【0107】
表示の変量は1日あたりの平均(sd)単位で記載する。GSLは、スルフォラファンおよびイベリンのそれぞれのグルコシノレート前駆体(すなわち4-メチルスルフィニルブチルグルコシノレートおよび3-メチルスルフィニルプロピルグルコシノレート)を指す。GSTM1陽性個体とGSTM1ヌル個体の間で同様の分析を行ったが、ブロッコリーリッチ介入内またはエンドウ豆リッチ介入内において、6ヶ月後の摂食に相違は見られなかった。*P値は対応のあるt検定を使ってMinitabで計算された。
【0108】
1.2.5 食事介入前後の遺伝子発現の変化
対応のあるt検定を使って、介入の各アーム内の個体から得た生検試料において、0ヶ月と6ヶ月の間および0ヶ月と12ヶ月の間で、発現に変化があった遺伝子を同定し、時間による発現の変化を定量化した。ブロッコリーアームでは、解析をGSTM1陽性個体に限定した。本発明者らは、6ヶ月後と12ヶ月後の両方で、ブロッコリーリッチアーム内の方が、エンドウ豆リッチアーム内よりも、発現に大きな変化があることを見いだした(図3b、表4c)。0ヶ月と12ヶ月の間で発現に変化があった遺伝子を使ったパスウェイ解析により、エンドウ豆リッチアームではアンドロゲン受容体パスウェイにおいてのみ変化が同定されたのに対し、ブロッコリーリッチアームでは、アンドロゲン受容体パスウェイが、インスリンシグナリング、TGFβおよびEGF受容体パスウェイを含む他のいくつかのシグナリングパスウェイと共に同定された(表2c)。ブロッコリーアームにおいて0ヶ月と6ヶ月の間で発現に変化があった遺伝子を使った解析でも、TGFβ受容体パスウェイ(調整P=0.001)、インスリンシグナリング(調整P=0.035)およびEGF受容体シグナリング(調整P=0.068)における変化が同定された。
【0109】
こうして、ブロッコリー摂取がTGFβシグナリングよびEGFシグナリングの調整に及ぼす効果の証拠が、次に挙げる2つの独立した解析で得られた:第1に、ブロッコリーリッチ食を6ヶ月間摂取したGSTM1陽性個体とGSTM1ヌル個体の遺伝子発現プロファイルの比較、そして第2に、ブロッコリーリッチ食を摂取したGSTM1陽性個体から0ヶ月時および12ヶ月時に採取した生検試料から得られる遺伝子発現プロファイルの対応のある解析。これらの解析はアレイデータセットを共有していないことに留意することが重要である。
【0110】
1.2.6 TGFβ1、インスリンおよびEGFペプチドとブロッコリーイソチオシアネートとの間の化学的相互作用
ブロッコリー摂取がいくつかの細胞シグナリングパスウェイを調整することが実証されたので、本発明者らは機構上の説明を探究した。インスリン、EGFおよびTGFβ1ペプチドをイソチオシアネートSFまたはIBと共にPBS pH7.4中、37℃で0.5〜24時間インキュベートすると、各ペプチドとITCとの共有結合型抱合体の形成を示す一貫した証拠が得られた。さらにこれを、生理機能との関連について、ヒト高分子量タンパク質を枯渇させたヒト血漿で同じインキュベーションを行うことによって調べた。LC-MS/MS分析により、SFまたはIBをペプチドと共にインキュベートした場合には、1つまたはそれ以上の追加LC-MSピークの出現が示された。例えば図4では、抽出イオンクロマトグラム(m/z 1183.9、インスリン-SF MH55+に対応)が、対照インキュベーションと比較して、2つのインスリン-SF抱合体の出現を示している。これらのピークのMS2分析(図5)により、m/z 235とm/z 325に、インスリンの2つのN末端アミノ酸へのSFの付加Gly-SFおよびPhe-SFに対応する、2つの特徴的(diagnostic)フラグメントイオンの存在が確認された。同様の結果を得て、インキュベーションにより、Gly-IB(m/z 221)およびPhe-IB(m/z 311)が同定された(データ未掲載)。EGFのN末端アスパラギン残基へのSFの付加(m/z 309)に対応する、ヒト血漿におけるEGFのSFとの抱合体の形成についても、匹敵する証拠が得られた。
【0111】
TGFβ1の修飾に関してさらなる情報を得るために、本発明者らは、補完的アプローチを採用した。タンパク質を1μgずつ、DMSOまたは1.2μmolのSFと共に、37℃で30分間インキュベートし、SDS-PAGE電気泳動で分離した。バンドを切り出し、トリプシンで消化してから、LC-MS/MSによる分析を行った。TGFβ1は、活性二量体に対応する25kDaのバンドにロバストに(robustly)同定された。DMSO(対照)処理試料でも、SF処理試料でも、N末端ペプチドALDTNYCFSSTEK(配列番号7)が親イオンm/z 768.5から同定された(図6)。前駆体イオンm/z 877.2は、SF処理試料にのみ観察された。両前駆体イオンのMS/MS分析により、両方(図7)の前駆体ピークに共通する強いフラグメントピーク系列が明らかになった。これらのフラグメント化パターンは、ペプチドALDTNYCFSSTEKの無修飾yイオン系列(カルバミドメチルシステイン+57を含む)と合致し、SF処理試料ではbイオン系列が217.4±0.8Daシフトした。これらの結果はSFによるTGFβ1のN末端修飾を強く裏付けている。SFの付加は、上述の完全なTGFβ1のLC-MS分析で観察されるように、177の質量付加をもたらすだろう。177ではなく217の付加であるのは、生じたチオウレアが、還元されたジスルフィド結合をアルキル化するために反応混合物に加えられるヨードアセトアミドと反応して、カルバムイミドイルスルファニルアセトアミド異性体の混合物をもたらし、それが環化とNH3の喪失を起こして、対応するイミノチアゾリジノンを与えることによるものである可能性が高い。
【0112】
1.2.7 スルフォラファンとのプレインキュベーション後のTGFβ1シグナリングの強化
本発明者らは、細胞外シグナリングタンパク質のSF修飾が機能的帰結を持つかどうかを評価しようと試みた。TGFβ1シグナリングは細胞の増殖および挙動を制御することによる組織ホメオスタシスの維持に重大な役割を持つので、本発明者らは、TGFβ1シグナリングに焦点を合わせた。Smadタンパク質が活性化されるとルシフェラーゼ活性が測定可能になるCAGA12-lucプラスミドで安定にトランスフェクトされたNIH3T3細胞において、TGFβ1誘発性Smad媒介性転写を定量した。細胞をTGFβ1に曝露すると、予想どおりルシフェラーゼ活性が誘導された。生理学的に適当な濃度のSF(2μM)と共に30分間プレインキュベートした後、SFの血漿薬物動態をシミュレートするために透析を行ったTGFβ1に、細胞を曝露したところ、TGFβ1のみへの曝露と比較して、Smad媒介性転写の増加が認められた(図8)。残存SF(34nM)への細胞の曝露は強化された転写をもたらさなかったことから、SFがリガンドそのものに結合するという本発明者らの過去の観察と合致して、SFはSmad活性化を間接的に誘発することが示唆される。SFが受容体の細胞外ドメインと相互作用して下流シグナリングを変化させうることも考えられる。
【0113】
1.3 考察
これは、12ヶ月間の介入の前後でターゲット組織内の包括的遺伝子発現プロファイルを解析し、遺伝子型によって遺伝子発現プロファイルを層別化するための、初めての食事介入試験である。本発明者らは、12ヶ月間の介入期間に血漿中PSAレベルの一貫した変化を観察しなかったが、遺伝子発現には広範な変化を定量することができた。
【0114】
ブロッコリーの摂取によってがんのリスクを低下させうるという観察データを説明するための動物モデルおよび細胞モデルから導き出される潜在的機構を裏付ける証拠はほとんどなかった。しかし、本発明者らは、驚いたことに、炎症に関連するいくつかのシグナリングパスウェイの摂動を示すかなりの証拠を得た(表2bおよびc)。本発明者らは、これらのパスウェイの摂動の正味の効果が、細胞増殖のリスクを低下させ、細胞および組織のホメオスタシスを維持するのだろうと考えている。しかし、遺伝子発現の定量およびパスウェイ解析によって、どのパスウェイが時間または食事による修飾を受けうるかに関する情報は得られるものの、これらのパスウェイが受ける摂動の正確な性質に関する情報はほとんど得ることができない。これには、シグナル伝達パスウェイの要素および下流ターゲットに関して、mRNAおよびタンパク質のターンオーバー、ならびにリン酸化などの翻訳後タンパク質修飾を、さらに解析する必要があった。ブロッコリー介入が、前立腺発がんにも、他の部位における発がんにも、炎症(例えば心筋梗塞に関連するもの)にも関連づけられているTGFβ1、EGFおよびインスリンシグナリングの摂動に関係することは、かなり興味深い事実だった。ブロッコリーの消費がmRNAプロセシングの改変とも関連したことは注目に値し、これを現在さらに探究しているところである。
【0115】
本発明者らは、ブロッコリーに由来する抗炎症性生物活性産物は、イソチオシアネートであるスルフォラファンおよびイベリンだと考えている。これらは、細胞モデルにおいて、抗発がん活性と合致する多くの生物学的活性を持つことが示されている。しかし、これらの研究は、ほとんどの場合、ブロッコリー摂取後の血漿中で一過性に生じる濃度をはるかに上回る濃度のSFおよびIBに細胞を曝露することを含み、ITCの細胞内活性により、例えば細胞内酸化還元状態に摂動を起こすことによって、グルタチオンの枯渇によって、およびKeap1-Nfr2複合体の摂動によって媒介されるものである。本発明者らは、これらのプロセスが食事から得られるITCのレベルで生体内で起こるかどうか疑問に思う。細胞に入ったITCはいずれも、比較的高濃度で存在するであろうグルタチオンとの抱合により、直ちに不活化されるだろう。そこで本発明者らは、ITCの生物学的活性が、低いグルタチオン濃度を持つ血漿の細胞外環境でITCがシグナリングペプチドと化学的に相互作用することによって媒介されうるかどうかを調べた。本発明者らは、ITCが、血漿中のシグナリングタンパク質と、N末端残基との共有結合により、容易にチオウレアを形成することを明らかにした。ITCは他の血漿タンパク質とも化学的に相互作用すると思われ、ITCによる血漿タンパク質修飾は包括的に解析するに値する。例えばシステイン残基およびリジン残基による共有結合など、ITCによる血漿タンパク質の他のタイプの化学修飾が起こり得る可能性もある。
【0116】
これまでの研究により、イソチオシアネートから誘導されるチオウレアは、親タンパク質の物理化学的性質および酵素的性質を修飾することが示されている。したがって本発明者らは、前立腺におけるシグナリングパスウェイの摂動が、細胞外環境で起こるタンパク質修飾によって媒介されることは可能であると考えている。この研究は、TGFβ1と生理学的に適当な濃度のSF(2μMで30分間)とをプレインキュベートした後、SF薬物動態をシミュレートするために4時間透析すると、Smad媒介性転写の強化が起こることを実証することにより、この仮説の証拠を提供するものである。TGFβ1/Smad媒介性転写は非トランスフォーム細胞において細胞増殖を阻害するので、SFによるSmad媒介性トランスフォーメーション(Smad-mediated transformation)の強化は、ブロッコリーの抗発がん活性および心筋梗塞リスクの低下と合致し、この研究で初めて理解されたように、炎症反応を阻害する機構を表す。したがって、ITCリッチ植物抽出物はSmadパスウェイを活性化することができ、それゆえにITCが抗炎症剤になることを、この研究が示しているということは、理解されるだろう。
【0117】
シグナリングパスウェイの摂動は、GSTM1遺伝子型によっても決定される。遺伝子発現に対する食事とGSTM1との相互作用は、食事評価を欠き、GSTM1ヌル遺伝子型を前立腺がんリスクの増大と関連づけたり、関連づけなかったりする症例対照試験から得られる相反する結果の、一つの説明になりうる。GSTM1酵素活性は、SF-グルタチオン抱合体の形成と切断をどちらも触媒する。腸細胞から血漿中に輸送された後に、GSTM1活性(肝細胞ターンオーバーに由来するか、末梢リンパ球からの漏出に由来するもの)が、血漿の低いグルタチオン環境ではSF-グルタチオン抱合体の切断を触媒することにより、上述のタンパク質修飾に利用されうる、そしてメルカプツール酸代謝によって排泄されない、遊離SFの程度を決定するのだろうと、本発明者らは考えている(図1)。したがって、ブロッコリーの通常の摂食から予想されるような低レベルのSFでも、細胞シグナリングのかすかな変化につながり、それが、時間をかけて、遺伝子発現の著しい変化をもたらしうる。このようにして、GSTM1陽性である場合は週に一皿のブロッコリー、GSTM1ヌルである場合はそれ以上のブロッコリーを摂取することが、がんリスクの低下の一因になり、炎症状態を発生させるリスクの低下の一因にもなりうる。
【0118】
ブロッコリー摂取が遺伝子発現に及ぼす効果に関してこの研究から得られる洞察に加えて、この研究はさらに幅広い意味を持ちうると、本発明者らは考えている。ITCに富む植物抽出物によって調整されるシグナリングパスウェイに関する知識が得られたことから、ポリフェノール誘導体などの他の食物フィトケミカルも、ここに提案するイソチオシアネートの作用機序と同様にして、血漿中のシグナリングペプチドと化学的に相互作用しうることが理解される。さらなる研究(下記実施例参照)により、ITCおよびITCリッチ植物抽出物は、炎症要素を持つことを特徴とする医学的状態の予防または処置に、確かに役立つことが立証された。さらに(本発明の第7態様で定義するように)ITCをポリフェノール類に富む抽出物と組み合わせて、本発明にいう状態の発生を予防しまたはそのような状態を処置するために極めて効果的に使用しうる相加的および相乗的効果を持つ組成物を得ることもできる。
【0119】
実施例2
相互作用がITCおよびITCに富む植物抽出物の間でどのように起こるかを示すために、一連の実験を行った。これらの相互作用が炎症パスウェイにおけるシグナリングに及ぼす機能的効果と、相互作用が炎症マーカーに及ぼす総合的効果を明らかにした。
【0120】
以下の実験では(別段の表示がある場合を除き)実施例1で利用したプロトコールおよび方法を使用した。
【0121】
実験1
図9〜13は、ITCが炎症性シグナリングペプチドとの抱合体を形成できることを図解している。ITCとTGFβおよびEGFとをインキュベートすると、ペプチドのN末端修飾が起こって、チオウレアが形成される。
【0122】
記載のデータは、シグナリング分子TGFβおよびEGFと、自然界に見いだされるITCの代表例を表す一連のITCとの間で形成される抱合体を示すものである。
【0123】
実験2
ITCとTGFβ1との相互作用の機能的帰結の一例を2つの細胞タイプについて示した。TGFβ1は抗炎症性サイトカインとして作用する。これは、核に移行(translocate)して抗炎症活性に関連する遺伝子発現を誘導するsmadタンパク質のリン酸化を誘発する。本発明者らは、ITCは、TGFβ1がなければpSmad2を誘導しないが、この増殖因子と組み合わせると、pSmadの有意な誘導を引き起こすことを見いだした。したがってITCは抗炎症性メディエーターとして作用する。
【0124】
表6では、TGFβ1およびSFへの共曝露が、PC3細胞株におけるpsamd2の発現を、TGFβ1単独での効果と比較して、強化することがわかる。同様に表7では、TGFβ1およびエルシン(ER)への共曝露も、A549細胞株におけるpsmad2の発現を強化することがわかる。さらにこのデータを、それぞれ図14および図15にも示す。
【0125】
表6:PC3細胞におけるpSmad2タンパク質の定量。実験は3重に行った。データをカウント/mm2で示す。全タンパク質の負荷量をGAPDHに対して規格化した。
【表6】

【0126】
表7:A549細胞におけるpSmad2タンパク質の定量。データをカウント/mm2で示す。同じタンパク質負荷量をGAPDHに対して規格化した。
【表7】

【0127】
実験3
ITCとシグナリングペプチドの間の相互作用の機能的帰結のさらなる一例を記載する。この例は、ITCとEGFとの相互作用が、過形成前立腺組織のモデルであるBPH細胞において、EGFシグナリングを抑制できることを示す。EGFは、EGF受容体に結合し、EGF受容体をリン酸化して、下流のシグナリングパスウェイを活性化する。図16は、EGFを4-メチルスルフィニルブチルITCと共に、ペプチド修飾を引き起こすことがわかっている条件下でプレインキュベートすると、リン酸化された受容体の量が、EGF単独の場合と比較して減少することを示すデータを表している。これは、EGFシグナリングパスウェイの阻害をもたらすことになり、ITC処置の抗炎症的な帰結をさらに例示している。
【0128】
実施例3
ITCおよびITCに富む植物抽出物が、TNF-α誘発性IL-6産生量を低下させることによって抗炎症効果を示すことを証明するために、実験を行った。
【0129】
本発明の第7態様に従ってITCをプロシアニジンと混合すると、ITCの効果が増加することを証明するために、さらなる実験を行った。
【0130】
ITCとしてのエルシン(ER)とプロシアニジン抽出物(GE)とを使った結果を図17に示す。ERとGEはどちらも、HUVEC細胞によるTNF-α誘発性IL-6発現を抑制する効力を示す。驚いたことに、ERとGEとの組合せは、同じ濃度で個別に試験した場合にどちらか一方の試験混合物で認められるものよりも大きなIL-6生成の減少を引き起こした。
【0131】
この実験で使用した抽出物GEは次のように調製した:
40mgの粉末ブドウ皮/種子抽出物を1mlの70%MeOHに溶解し、70℃に20分間、加熱し、4500rpmで15分間、遠心分離し、0.45μフィルタで濾過することにより、11.016mg/mlのプロシアニジン濃度を持つ溶液を得た。濾過した溶液を、使用前にPBSで1:100希釈して、110.16μg/mlの保存液を得た。混合物は、最終濃度が100μmol/L ITCおよび20mg/Lプロシアニジンになるように調製した。
【0132】
実施例1〜3は全体として、ITC全般、特にロケット種(rocket spp.)のITCが、複数の炎症パスウェイを修飾できることを例証している。重要なことに、それらの抗炎症効果は、プロシアニジンとの組合せによって強化することができ、これは、複数の生物学的ターゲットを持つ抗炎症製剤をもたらす。
【0133】
実施例4:本発明に従って使用するためのITCリッチ抽出物の製造
製造例1
(i)若いロケット植物体の新鮮な葉(28〜42日齢)を((a)風乾によってまたは(b)瞬間凍結と凍結乾燥とによって)乾燥した。次に、粒径が<100ミクロンになるように、乾燥葉を微粉末に粉砕した。
【0134】
(ii)固形分が最小10%かつ最大50%である混合物が得られるように、粉末をpH7の水と20〜30℃で混合することにより、この粉末の懸濁液を製造して、。
【0135】
(iii)次に、溶液中に抽出された揮発物を保持するための蒸気トラップを装備した向流抽出器を使って、または還流冷却器を装着した、減圧下で稼働するソックスレー型抽出器を使って、抽出物を製造することができる。抽出は、20〜30℃で最低1時間、および/またはロケット由来の天然グルコシノレートの最低50%、好ましくは>70%が天然酵素の作用によってITCに変換されるまで続けるべきである。
【0136】
(iv)抽出が完了したら、遠心分離またはデカンテーションによって固形物を懸濁液から除去することができる。ITCリッチ上清は、化学的手段もしくは酵素的手段によって、または濾過(例えば限外濾過)によって、除タンパクし、低温高真空蒸発によって、または逆浸透による水の除去によって、濃縮することができる。
【0137】
(v)最終抽出物は液体として凍結するか、粉末が得られるように噴霧乾燥するか、安定性を強化するために(例えば脂肪マトリックス中、または多糖マトリックス中、またはポリマーマトリックス中に)カプセル化して、貯蔵することができる。最終抽出物は10〜100μmol/Lの総ITCを含有するように規格化すべきである。
【0138】
新鮮な葉の代わりに、若い新芽(14日齢まで)を出発材料として使用することもできる。
【0139】
製造例2
種子を出発材料として使用することができる。種子の場合は、準備は風乾で十分であり、次に、乾燥種子を水の存在下で(例えば密閉型圧搾機を使って)破砕することにより、高固形分のマッシュ(例えば固形分75%〜90%)を得る。破砕は、250ミクロンを上回らない粒径を持つ均一なマッシュが形成されるまで続けるべきであり、その後は、抽出を上述のように続けることができる((iii)〜(v)参照)。
【0140】
幅広く多様な構造を含有するITC抽出物が製造されることを保証するために、新芽/葉/種子の混合物(すなわち製造例1および製造例2)を出発材料として使用しうることは、理解されるだろう。葉および新芽は種子よりも高レベルの4-メルカプトブチルGLSを含有し、4-メチルチオブチルGLSのレベルは種子の方が高い。
【0141】
実施例5:本発明に従って使用するためのグルコシノレートリッチ抽出物(すなわち本発明のITC前駆体)の製造
出発材料は、実施例4で述べたように、種子、新芽または葉(好ましくは抽出前に乾燥したもの)であることができる。
【0142】
乾燥し粉砕した出発材料の懸濁液を、固形分が最低10%、最大50%である混合物が得られるようにエタノール溶液(70%〜85%エタノール)中に作ることができる。使用するエタノールは食品用にすべきである。反応器(好ましくは向流連続抽出器または揮発物を捕捉するための冷却器を装備したソックスレー型抽出器)中、約70℃で、最低20分間、または天然グルコシノレートの70%〜90%がエタノール溶液中に抽出されるまで、加熱する。遠心分離またはデカンテーションにより、好ましくは防爆条件を使って、懸濁液から固形物を除去する。上清から、例えば減圧下での蒸留によって、またはまず最初に上清を<40%エタノールまで希釈した後、(ダイアフィルトレーションを使った)逆浸透によって、エタノールを除去する。最終溶液が含有するエタノールは<5%にするべきである。
【0143】
このグルコシノレートリッチ溶液は凍結保存するか、噴霧乾燥してエタノールフリー(ethanol-free)粉末にすることができる。グルコシノレートをITCに変換するには、グルコシノレートリッチ抽出物をpH7および20〜30℃の水に溶解し、ミロシナーゼ酵素を純粋な形で添加するか、粗ロケット種子/カラシ種子マッシュの一部として添加することによって、変換を行うべきである。混合物のインキュベーションは、1〜7時間、または天然グルコシノレートの最低50%、好ましくは>70%がITCに変換されるまで行うべきである。固形物およびタンパク質は、濾過(例えば精密濾過または限外濾過)によってITCリッチ溶液から除去することができ、次に抽出物を前述のように濃縮することができる。
【0144】
実施例6:本発明に従って使用するための粉末混合物の製造
2.0gの凍結乾燥粉末(実施例4または5)を0.5gのクエン酸粉末、27.3gのマルトデキストランおよび0.2gの矯味矯臭剤の標準的な噴霧乾燥混合物と混合した。
【0145】
この混合物は、分包に包装するのに適した易流動性粉末製剤(2.0gの植物抽出物を含有するもの)である。この粉末混合物は、炎症要素を持つ状態を患っている対象が必要とする時に、希釈して飲食することができる。
【0146】
実施例7:本発明に従って使用するためのブドウ飲料の製造
0.02gまたは0.2gの凍結乾燥粉末(実施例4または5に従って製造したもの)を含む2つの飲料製品を形成させた。100mlのブドウ果汁(あるいは(a)ブドウ果汁濃縮液と水;(b)ブドウ果汁を含んでもよい果汁の混合物)に溶解した。
【0147】
ブドウ飲料調製物は、対象によって直ちに摂取されるか、後で摂取するために冷蔵されるか、さらに長い貯蔵寿命が得られるように瓶または紙箱中に密封される。
【0148】
ブドウ果汁がポリフェノールを含むであろうこと、そしてこの実施例に従って製造される飲料が本発明の第7態様による好ましい組成物を表すことは、理解されるだろう。
【0149】
ブドウ果汁を、口当たりのよい代替物(例えばオレンジ果汁など)で置き換えて、容易に、本発明の第1〜6態様による好ましい組成物を形成させることができる。
【0150】
実施例8:ブドウ皮/種子抽出物を製造するための方法
赤または白ブドウの皮を、その種子および果梗と共に、抽出の出発材料と使用した。
【0151】
ブドウ皮/種子混合物を加熱ベルト乾燥機で風乾した。次に、その乾燥出発材料を、粒径が<250ミクロンである粉末が得られるように、細かく粉砕した。プロシアニジンの含有比率が高い高ポリフェノール抽出物の製造は、連続抽出により、向流抽出器を使って、エタノール/水混合物で行った。ブドウ皮の存在比率が高い場合は、回収率を改善するために、例えば塩酸、クエン酸または酒石酸を、pH域が1.5〜4になるように添加することによって、抽出剤を酸性化してもよい。これは、常に必要なわけではなく、種子の比率が高い場合は特にそうである。抽出剤は45%〜65%のエタノールを含有すべきであり、15%までのアセトンも含有することができる。
【0152】
抽出は一回通しで行ってもよいが、好ましくは、回収率を最大化するために、2段または3段の逐次抽出段階を使用することができる。
【0153】
抽出が完了したら、遠心分離またはデカンテーションによって、固形物を懸濁液から除去する。プロシアニジンリッチな上清は、化学的手段もしくは酵素的手段によって、または濾過(例えば限外濾過)によって、除タンパクし、低温高真空蒸発によって、または逆浸透による水の除去によって、濃縮することができる。
【0154】
最終抽出物は液体として凍結するか、粉末が得られるように噴霧乾燥するか、安定性を強化するために(例えば脂肪マトリックス中、または多糖マトリックス中、またはポリマーマトリックス中に)カプセル化して、貯蔵することができる。最終抽出物は0.5〜1.5g/Lのプロシアニジンを含有するように規格化されるべきである。
【0155】
実施例9:ITCおよびプロシアンジン(procyandin)のカプセル化混合物
実施例4または5のITCリッチ抽出物および実施例8のプロシアニジンリッチ抽出物のカプセル化は、まず、乾物の濃度が50%〜70%であるエタノール溶液中の抽出物溶液を調製することによって行うことができる。エタノールの濃度は0%〜10%であることができる。プロシアニジン抽出物対ITC抽出物の比率は、3:1または5:1または10:1であることができる。
【0156】
調製した溶液を、適切なカプセル材料シェルマトリックスと、等体積ずつ混合すべきである。例えば脂肪の混合物、またはアルギナートなどの多糖類の溶液、またはキトサンなどのポリマー材料の溶液。混合物は、90℃を超えない温度で十分にホモジナイズし、噴霧乾燥によって、またはエアロゾルを形成させて冷却することによって、または他の既知のカプセル化技法によって、粒子を形成させるべきである。最終的粒径は100ミクロンを超えないようにすべきである。
【0157】
得られたカプセル化物はハードシェルでもソフトシェルでもよく、最低でも10%(w/w)の抽出物を、好ましくは20〜50%(w/w)の抽出物を含有すべきである。
【0158】
実施例10:ITCとプロシアンジンの粉末混合物
実施例4または5のITCリッチ抽出物(1%〜10%のITCを含むもの)および実施例8のプロシアニジンリッチ抽出物を(噴霧乾燥によって)粉末にした。次に、それら2つの粉末を、プロシアニジン抽出物対ITC抽出物の比率が3:1または5:1または10:1になるように合わせた。
【0159】
この粉末混合物は、本発明の第7態様に従って医薬製品、栄養補助食品、飲料、食品などに一成分として加えることができる、もう一つの好ましい組成物を表した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症要素を持つことを特徴とする医学的状態の予防または処置に使用するための組成物であって、治療有効量のイソチオシアネート(ITC)を含む組成物。
【請求項2】
ITCがアブラナ属の植物から得られうる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
植物がロケット種(rocket spp.)である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
ITCが、スルフォラファン(SF)、イベリン(IB)またはエルシン(ER:4-メチルチオブチルイソチオシアネート)の少なくとも一つである、前記請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
ITCがITCまたはITCの前駆体に富む植物抽出物に含まれている、前記請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
植物抽出物がアブラナ属の植物から得られたものである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
植物がロケット種である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
もう一つの抗炎症性薬剤と一緒に使用するための、前記請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記薬剤がNSAIDまたはコルチコステロイドである、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記薬剤がポリフェノールである、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
前記薬剤がポリフェノールに富む植物抽出物である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
ポリフェノールがプロシアナジンである、請求項10または11に記載の組成物。
【請求項13】
ポリフェノールがフラバノイドである、請求項10または11に記載の組成物。
【請求項14】
フラバノイドがフラバン-3-オールである、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
ポリフェノールが果実の皮または種子から得られたものである、請求項10〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
ポリフェノールがブドウ属(Vinus spp.)から得られたものである、請求項10〜15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
慢性関節リウマチの処置に使用するための、前記請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
炎症性腸疾患の処置に使用するための、請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の組成物を含む飲料。
【請求項20】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の組成物を含む栄養製品。
【請求項21】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の組成物を含む医薬製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2011−526613(P2011−526613A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515591(P2011−515591)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001593
【国際公開番号】WO2010/001096
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(507273068)プロヴェクシス ナチュラル プロダクツ リミテッド (3)
【出願人】(500039647)プラント・バイオサイエンス・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】