説明

凹凸を有する経編物

【課題】
優れた形態安定性を有し、ムレ感や静電気の発生の少ないソフトで、爽やかな清涼感に優れ、高級感のある光沢と鮮明な発色性を有する、快適な着用感と高級感に優れた意匠性の高い衣料用の凹凸を有する経編物を提供する。
【解決手段】
経編物は少なくとも水分率(R)が8%以下のセルロース系フィラメント糸を含み凹凸を有する多層構造からなる。経編物が少なくともブラインド・ラップ組織を用いて編成され、水分率(R)が8%以下のセルロース系フィラメント糸が編物の少なくとも凸部を構成し、セルロース系フィラメント糸の混率が50%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸を有する経編物に関し、更に詳しくは爽やかな清涼感と快適な着用感があり、高級感のある意匠性に優れた衣料用の凹凸を有する経編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合繊フィラメント糸を用いた凹凸を有する編物は多種多様な編組織で表現されており、意匠性や機能性に優れ、資材分野や衣料分野で広く用いられている。
【0003】
例えば、特開平9−137380号公報(特許文献1)によれば、外面層を単糸繊度1〜5デニール、総繊度30〜150デニールの合成繊維マルチフィラメント、中間層を単糸繊度15〜30デニールの合成繊維モノフィラメントで形成する。ここで、中間層のモノフィラメントを、外面層のマルチフィラメントに対して3〜30倍の単糸繊度を有し、一方の外面層に表面をフラット構造にして撥水加工を、他方の外面層に表面を凹凸構造にして吸水加工を施す。通気性が100cc/sec・cm2 以上、圧縮率が20%以上、カサ比重が0.3g/cm3 以下にする。編地に抗菌防臭加工を施すと衛生的である。スポーツ衣料、寝具、医療用、農林業用や包装用布帛などに適用される。
【0004】
また、例えば特開2003−113562号公報(特許文献2)及び特開2003−183957号公報(特許文献3)には、表裏2枚の地組織部とこれらを連結する連結糸Rとからなるダブル・ラッシェル地において、表側に帯状細幅部を適宜の間隔をもって並列配設し、この帯状細幅部を連結糸で裏地組織部に連結して畝状凸部Tを形成した畝状ダブル・ラッシェル地と、表裏少なくとも一面の地組織を高低差の大きな凹凸部と、凸部については明瞭な断面曲率を有する湾曲形状に形成できる程度に、地糸が適宜間隔をあけて振られ、且つ凹部については地糸が適宜間隔をあけて糸抜きされた開口部が形成された凹凸を有する立体編物とが開示されている。
【0005】
しかし、これらの凹凸面をもつ多層構造からなる経編地は、いずれも合繊フィラメントだけで構成されており、編地として合繊フィラメントの風合いが強く、これらの編物を衣料分野で使われると、高ヤング率からくる硬い風合い、石油由来のワキシイな風合い、低吸湿性からくるムレ感や静電気発生、屈折率が高いことからくる金属感のある光沢があり、更には鮮明な発色性に欠けるなどの問題がある。
【0006】
一方で、前述の問題を解決するために、レーヨンのフィラメント糸を用いることが考えられるが、通常のレーヨンは水膨潤性による収縮が問題となり、洗濯収縮、形態安定性、湿潤堅牢度などの問題や保水性が高く乾燥速度が遅いなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−137380号公報
【特許文献2】特開2003−113562号公報
【特許文献3】特開2003−183957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は優れた形態安定性を有し、ムレ感や静電気の発生の少ないソフトで、爽やかな清涼感に優れ、高級感のある光沢と鮮明な発色性を有する、快適な着用感と高級感に優れた意匠性の高い衣料用の凹凸を有する経編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は、少なくとも水分率8%以下のセルロース系フィラメント糸を含む凹凸を有する経編物にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、形態安定性に優れ、ムレ感や静電気の発生の少ないソフトで爽やかな清涼感に優れ、高級感のある光沢と鮮明な発色性を有する、快適な着用感と高級感に優れた意匠性の高い、衣料用の凹凸を有する経編物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1,2及び比較例1に使用した経編物の組織図である。
【図2】本発明の実施例3に使用した経編物の組織図である。
【図3】本発明の実施例4及び比較例2に使用した経編物の組織図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における水分率(R)が8%以下のセルロース系フィラメント糸とは、セルロースを原料として再生或いは半合成された繊維のフィラメントであればよく、再生繊維としては例えばビスコースレーヨン、リヨセル、等が、半合成繊維としては例えばセルロースジアセテート繊維、セルローストリアセテート繊維等が挙げられるが、その製法や種類を特に限定するものではない。
【0013】
また、セルロース系フィラメント糸は、単糸の断面形状、表面形状、艶、繊度等を特に限定するものではなく、得ようとする編物表現を考慮して任意に選定すればよい。
【0014】
セルロース系フィラメント糸の水分率(R)が8%を超えると水膨潤性が大きくなり洗濯収縮、形態安定性、湿潤堅牢度などの問題や保水性が高く乾燥速度が遅いなどの問題が生じる。また、合繊フィラメント糸と混用する場合には、これ等の問題を改善するために合繊フィラメント糸の混率を高める必要があり、本発明の目的とするものは得られない。
【0015】
本発明における経編は少なくともブラインド・ラップ組織が用いられ、他の編み組織との組み合わせ、密度、目付け等は特に限定されるものではなく、得ようとする編物表現を考慮して任意に選定すればよい。ブラインド・ラップ組織自体は公知技術であり、例えば、ニットファブリック(株式会社センイ・ジャーナル発行)292〜294ページに記載されている3枚筬ブラインド・ラップ組織等でありヒダが美しく表現出来るので好適に用いられる。
【0016】
本発明の凹凸を有する経編物の特長を発揮する為には、少なくともブラインド・ラップ組織を用いた経編物で、編物の凸部を構成する水分率(R)が8%以下のセルロース系フィラメント糸の混率が50%以上であることが好ましい。セルロース系フィラメント糸の混率が50%未満では、爽やかな清涼感やソフトな風合い、優雅な高級感のある光沢、蒸れ感や静電気発生の少ない快適な着心地等のセルロース系フィラメント糸の特長が充分に発揮され難く好ましくない。また、凸部を有する面側は布の表として用いられることが多く、更に、凸部は手で触れた時に最初に触れるので、凸部を構成する組織部分にセルロース系フィラメント糸を多くすることによりこれ等の特長が得やすくなる。尚、編地の混率はブラインド・ラップ組織を構成する部分を除く凸部分について、繊維混用率試験法(JLSL1030)を用いて算出した。
【0017】
本発明における水分率(R)が8%以下のセルロース系フィラメント糸としてはセルロースジアセテート繊維フィラメント糸やセルローストリアセテート繊維フィラメント糸が好ましく用いられる。これ等は低屈折率による優れた発色性、高級感のある光沢、セルロース由来のソフトで爽やかな清涼感に優れた風合い、更には分散染料可染性、熱セット性などを有しており好ましく用いられる。因みに、セルロースジアセテート繊維フィラメント糸の水分率(R)は6.5%、セルローストリアセテート繊維フィラメント糸は3.5%であり適度な吸湿性と速乾性を有している。また風合いや光沢の高級感の点からセルローストリアセテート繊維フィラメント糸の使用が更に好ましい。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
水分率(R)は、試料約20gを採り、その標準状態の質量及び絶乾質量を量り、次の式によって算出し、小数点以下1桁にして得られる。
R(%)=[(m−m’)/m’]×100
m:試料の標準状態の質量(g)
m’:試料の絶乾質量(g)
なお、標準状態の質量は、予備乾燥(試料を相対湿度10〜25%、温度50℃を超えない環境で恒量にすること)した後、標準状態(温度20±2℃、相対湿度65±4%)の試験室に放置し、恒量になった状態の質量である。また、絶乾質量は、試料を温度105±2℃の熱風乾燥機中に放置して恒量になった状態の質量である。また、洗濯収縮率はJIS L1018、F1法に従って測定し、風合いや外観、発色性等はハンドリングと目視によって評価した。
【0019】
(実施例1)
経編機に28ゲージのカールマイヤー社製のトリコット機を用い、図1に記載の組織図を用いた凹凸を有する編地を編成した。糸使いとしては、フロント筬にポリエステルフィラメント糸の仮撚加工糸であるセミダル56dtex24f(fはフィラメントの略。以下fで記載する。東レ社製、2ヒーター、丸断面、水分率(R)0.4%)を、ミドル筬にはセルローストリアセテートフィラメント糸ブライト66dtex40f(三菱レイヨン社製、菊型断面、水分率(R)3.5%)を、バック筬にはポリエステルフィラメント糸セミダル33dtex12f(東レ社製、丸断面、水分率(R)0.4%)をそれぞれ用いた。フロント筬にフルセットで配列しブラインド・ラップ組織部分を編成し、ミドル筬、バック筬各々フルセットで配列し凸部組織部分を編成した。凸部を構成するセルローストリアセテートフィラメント糸の混率は70%であった。
【0020】
この生機を常法により精練、染色仕上げを行い、色は黒色に染色し、仕上げ巾112cm、33ウエール/2.54cm、178コース/2.54cmに仕上げた。この仕上げ反の風合いはソフトで爽やかな清涼感があり心地の良いものであった。また凸組織部分は膨らみが大きく、表面に大きく浮き出した明瞭なヒダを形成し、立体感と意匠性に優れた凹凸を有する編地であった。また、優雅な光沢と深みのある発色性に優れた黒色が得られた。洗濯収縮率はタテ−1%、ヨコ−1%であり、形態安定性にも優れるものであった。
【0021】
(実施例2)
実施例1のセルローストリアセテートフィラメント糸をセルロースジアセテートフィラメント糸ブライト61dtex16f(三菱レイヨン社製、菊型断面糸、水分率(R)6.5%)に変えた以外は組織も、仕上げ密度も同じにしたものを作成した。得られた編物は実施例1同様で、更に清涼感に優れた凹凸を有する編地であり、洗濯収縮率はタテ−1. 5%、ヨコ−2%であり、形態安定性にも優れるものであった。
【0022】
(比較例1)
実施例1のセルローストリアセテートフィラメント糸をブライト56dtex36fのポリエステルマルチフィラメント(三菱レイヨン社製、丸断面糸、水分率(R)0.4%)に変えた以外は組織も、仕上げ密度も同じにしたものを作成した。得られた編物は実施例1に比べて風合いが硬くワキシイで、光沢が強く高級感に欠け、爽やかさや清涼感にも欠けるものであった。また実施例1の黒色に比べ深みや鮮明性に劣るものであった。洗濯収縮率はタテ−0. 5%、ヨコ−1%であり、形態安定性にも優れるものであった。
【0023】
(実施例3)
実施例1と同じ編み機を用い、図2に記載の組織図の用いた凹凸を有する編地を編成した。糸使いは実施例1と同じにした。
フロント筬に3イン7アウトで配列しブラインド・ラップ組織部分を編成し、ミドル筬に4イン1アウトで配列し、バック筬にフルセットで配列し凸部組織部分を編成した。凸部を構成するセルローストリアセテートフィラメント糸の混率は65%であった。この生機を常法により精練、染色仕上げを行い、色は黒色に染色し、仕上げ巾112cm、38ウエール/2.54cm、123コース/2.54cmに仕上げた。この仕上げ反の風合いはソフトで爽やかな清涼感があり心地の良いものであった。また凸組織部分は膨らみが大きく、表面に大きく浮き出した明瞭なヒダを形成し、立体感と意匠性に優れた凹凸を有する編地であった。また、優雅な光沢と深みのある発色性に優れた黒色が得られた。洗濯収縮率はタテ−1%、ヨコ−1%であり、形態安定性にも優れるものであった。
【0024】
(実施例4)
実施例1と同じ編み機を用い、図3に記載の組織図を用いた凹凸を有する編地を編成した。
糸使いとしてはフロント筬にポリエステルフィラメント糸の仮撚加工糸であるセミダル56dtex24f(fはフィラメントの略。以下fで記載する。東レ社製、2ヒーター、丸断面、水分率(R)0.4%)を、ミドル筬とバック筬にはセルローストリアセテートフィラメント糸66dtex40f(三菱レイヨン社製、菊型断面、水分率(R)3.5%)をそれぞれ用いた。フロント筬に7アウト7インで配列しブラインド・ラップ組織部分を編成し、ミドル筬に7イン7アウトで配列し、バック筬にフルセットで配列し凸部組織部分を編成した。凸部を構成するセルローストリアセテートフィラメント糸の混率は100%であった。
【0025】
この生機を常法により精練、染色仕上げを行い、色は黒色に染色し、仕上げ巾112cm、30ウエール/2.54cm、183コース/2.54cmに仕上げた。この仕上げ反の風合いはソフトで爽やかな清涼感があり心地の良いものであった。また凸組織部分は膨らみが大きく、表面に大きく浮き出した明瞭なヒダを形成し、立体感と意匠性に優れた凹凸を有する編地であった。また、優雅な光沢と深みのある発色性に優れた黒色が得られた。洗濯収縮率はタテ−1. 5%、ヨコ−1. 5%であり、形態安定性にも優れるものであった。
【0026】
(比較例2)
実施例3のセルローストリアセテートフィラメント糸をブライト84dtex24のビスコースレーヨンフィラメント糸(エンカ社製、異型断面、水分率(R)11.0%)に変えた以外は組織も、仕上げ密度も同じにしたものを作成した。得られた織物は実施例1に比較してドライ感はやや劣るもののほぼ近い風合いや外観、発色性が得られた。しかし洗濯収縮率はタテ−5%、ヨコ−7%であり、形態安定性にも欠けるものであった。
【符号の説明】
【0027】
F フロント筬
M ミドル筬
B バック筬

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の測定方法で求めた水分率(R)が8%以下のセルロース系フィラメント糸を含み、かつ少なくともブラインド・ラップ組織を用いて編成される多層構造の経編物。水分率(R)は、試料約20gを採り、その標準状態の質量及び絶乾質量を量り、次の式によって算出し、小数点以下1桁にして得られる。
R(%)=[(m−m’)/m’]×100
m:試料の標準状態の質量(g)
m’:試料の絶乾質量(g)
なお、標準状態の質量は、予備乾燥(試料を相対湿度10〜25%、温度50℃を超えない環境で恒量にすること)した後、標準状態(温度20±2℃、相対湿度65±4%)の試験室に放置し、恒量になった状態の質量である。
【請求項2】
上記測定方法で求めた水分率(R)が8%以下のセルロース系フィラメント糸が編物の少なくとも凸部を構成し、セルロース系フィラメント糸の混率が50%以上である請求項1記載の経編物。
【請求項3】
上記測定方法で求めた水分率(R)が8%以下のセルロース系フィラメント糸がセルロースアセテート繊維フィラメント糸である請求項1又は2に記載の経編物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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