説明

凹凸模様形成性粉体塗料組成物

【課題】本発明は、特定の基体樹脂/硬化剤系に限定されずに任意の公知の粉体塗料に適用可能で、製造工程を何ら変更することなく容易且つ安価に得ることができ、上記のような要望に応えるため、意匠性の高いリンクル調の凹凸模様塗膜を形成する粉体塗料を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、粉体塗料成分100重量部に対し、平均粒径10〜100μmのエポキシ樹脂粉体塗料を0.5〜10重量部混合することを特徴とする凹凸模様形成性粉体塗料組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、意匠性の高いリンクル調の凹凸模様を有する塗膜を形成する粉体塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体塗料の用途開発が進歩する中で被塗物への装飾表現の多様化に伴い、意匠性を有する粉体塗料に対する要求が高まっている。このような状況の中で、素材の基調を変化させる、例えばマット調、ビロード調、スエード調、ちじみ調、御影石調、ハンマートーン仕上げ等の凹凸模様を形成させて意匠性を付与する粉体塗料が提供されている。
【0003】
このような凹凸模様を形成させる方法としては、例えば、シリコーン化合物等の添加剤を利用することにより、塗膜表面に独特のハジキ状の凹凸模様を形成し、意匠性を付与する方法(特許文献1参照)がある。
【0004】
また、別の方法として、粉体塗料中に特性の異なる樹脂を混合することにより凹凸模様を形成させる方法(特許文献2参照)が挙げられるが、この方法は、塗装条件や回収粉利用時において、得られる塗膜の表現模様が変化する欠点を有している。
【0005】
さらに別の方法として、粉体塗料中に樹脂ビーズ等を混合することにより凹凸模様を形成させる方法(特許文献3参照)が挙げられるが、この方法も、塗装条件(膜厚)や回収粉利用時において、得られる塗膜の表現模様が変化する欠点を有している。
【特許文献1】特開2001−214129号公報
【特許文献2】特開2001−311045号公報
【特許文献3】特開平9−302272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの方法により得られた意匠性塗膜は、被塗物表面に連続した不規則な凹凸模様の形成による意匠性表現に限られており、異なるトーンの模様は得られていない。ところが、OA機器、計測機器などを中心にデザイン指向が高まり、ソフトな潤いのある意匠性の高い塗膜が求められている。
【0007】
本発明の目的は、特定の基体樹脂/硬化剤系に限定されずに任意の公知の粉体塗料に適用可能で、製造工程を何ら変更することなく容易且つ安価に得ることができ、上記のような要望に応えるため、意匠性の高いリンクル調の凹凸模様塗膜を形成する粉体塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、公知の樹脂及び硬化剤系を含む粉体塗料に、所定量のエポキシ樹脂粉体塗料を加えることにより、意匠性の高いリンクル調の凹凸模様を有する塗膜を形成できることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明の凹凸模様形成性粉体塗料組成物は、粉体塗料成分100重量部に対し、平均粒径10〜100μmのエポキシ樹脂粉体塗料を0.5〜10重量部混合することを特徴とする。
【0010】
また、粉体塗料成分が、ポリエステル樹脂−エポキシ樹脂系粉体塗料組成物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の粉体塗料組成物によれば、意匠性の高いリンクル調の凹凸模様塗膜を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において使用される粉体塗料成分は、通常熱硬化型粉体塗料に使用される配合物、例えば樹脂、硬化剤、顔料、添加剤等を特に制限することなく使用することが出来る。
【0013】
粉体塗料に使用される樹脂として、従来から粉体塗料の製造に用いられている各種の樹脂を使用することが出来る。このような樹脂としては、例えば、ポリエステル−ウレタン硬化系樹脂や、エポキシ−ポリエステル硬化系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、アクリル−ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル−ウレタン硬化系樹脂、アクリル−メラミン硬化系樹脂、ポリエステル−メラミン硬化系樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、アミド樹脂、ABS樹脂、ノボラック樹脂や、フェノキシ樹脂、ケトン樹脂、ポリエステル樹脂、ロジン等の改質樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を2種以上組み合わせて使用することが出来る。
【0014】
硬化剤としては、例えば、熱硬化性樹脂に通常使用される硬化剤を特に制限なく各種使用することが出来る。このような硬化剤としては、例えば、アミド化合物や、酸無水物、二塩基酸、グリシジル化合物、アミノプラスト樹脂、ブロックイソシアネート、ウレトジオンイソシアネート、ヒドロキシアルキルアミドなどを挙げることができ、代表的な硬化剤としては、ジシアンジアミド、酸ヒドラジド、トリグリシジルイソシアヌレート、イソホロンジイソシアネートブロック体などが挙げられる。例えば、二塩基酸としては、アジピン酸や、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,20−エイコサンジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、マレイン酸、フタル酸、シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸等が挙げられる。
【0015】
顔料としては、例えば、二酸化チタン、ベンガラ、酸化鉄、亜鉛末粉、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン系顔料、アゾ系顔料、イソインドリノン系顔料、各種焼成顔料等の着色顔料、シリカ、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ガラスフレーク等の体質顔料、アルミニウム顔料、アルミニウムペースト等のアルミ粉、白色〜銀色に濁った色を示すホワイトマイカまたはシルバーマイカと称される光輝顔料等がある。
【0016】
その他の添加剤としては、例えば、タレ防止剤、表面調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、抗酸化剤などが挙げられ、任意に必要に応じて配合することができる。
【0017】
粉体塗料はこれらの原料をナウターミキサーやヘンシェルミキサー等の混練機によって、室温で混合した後、1軸または2軸エクストルーダー等の粉体塗料製造に使用される溶融混練機を用いて混練する。混練して形成されたペレットをピンミルやジェットミル等の粉砕機を用いて粉砕を行い、篩などを用いて任意の粒度分布に調整する。
【0018】
本発明の粉体塗料成分としては、特に以下に説明するポリエステル−エポキシ硬化系樹脂を用いた粉体塗料が特に有用に使用することができる。
【0019】
本発明において使用されるポリエステル樹脂(A)は、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、β−オキシプロピオン酸等のカルボン酸類とエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール類とを常法に従って反応せしめた、従来から通常粉体塗料用として使用されているポリエステル樹脂またはその変性ポリエステル樹脂が利用出来る。
【0020】
また、ポリエステル樹脂(A)は、酸価約10〜50、軟化点約60〜150℃のものを使用するのが好ましい。酸価が前記範囲より小さいと、架橋密度が不十分となり、得られる塗膜の物理的強度、耐食性等が低下し逆に前記範囲より大きいと、得られる塗膜の平滑性が悪くなるので好ましくない。また軟化点が前記範囲より低いと耐ブロッキング性が悪くなり、逆に前記範囲より高いと焼付温度を高くしないと得られる塗膜の平滑性が悪くなるので好ましくない。
【0021】
また本発明において使用される硬化剤としてのエポキシ樹脂(B)は、ビスフェノール型エポキシ樹脂;ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂等の通常粉体塗料用硬化剤として使用されているエポキシ樹脂が利用出来る。またエポキシ樹脂(B)は、エポキシ当量約100〜500のものを使用するのが好ましい。エポキシ当量が前記範囲より小さいと、得られる塗膜の物理的強度等が低下し、逆に前記範囲より大きいと、エポキシ樹脂を多く配合する必要があり、得られる塗膜の耐候性等が非常に悪くなり好ましくない。
【0022】
本発明の粉体塗料組成物は、これらポリエステル樹脂とエポキシ樹脂からなる組成物に、トリグリシジルイソシアヌレート(C)を配合したものである。すなわちトリグリシジルイソシアヌレート(C)配合することにより、ポリエステル樹脂−エポキシ樹脂系粉体塗料の耐食性等の塗膜性能を低下させずに、その問題点である耐候性を向上させることができる。
【0023】
本発明の粉体塗料組成物は以上説明したポリエステル樹脂、エポキシ樹脂及びトリグリシジルイソシアヌレートを必須成分とするが、さらに着色顔料、体質顔料、改質樹脂及び流動調整剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤等を必要に応じて配合することができる。
【0024】
なお、ポリエステル樹脂100重量部に対し、エポキシ樹脂は、1〜10重量部配合するのが適当であり、配合量が前記範囲より少ないと、得られる塗膜の耐食性等のエポキシ樹脂の優れた特性が十分発揮出来ず、逆に前記範囲より多いと、得られる塗膜の耐候性が悪くなり、いずれも好ましくない。
【0025】
またポリエステル樹脂100重量部に対し、トリグリシジルイソシアヌレートは1〜7重量部配合するのが適当であり、配合量が前記範囲より少ないと、得られる塗膜の耐候性を改良する効果が十分発揮されず、逆に前記範囲より多いと、得られる塗膜の耐食性が低下する傾向にあるので、いずれも好ましくない。また、本発明においては、ポリエステル樹脂中のカルボキシル基とエポキシ樹脂及びトリグリシジルイソシアヌレート中の合計エポキシ基との当量比が(1:0.7〜1.3)となるような範囲が、本来の塗膜性能を発揮するので望ましい。
【0026】
本発明で使用するエポキシ樹脂粉体塗料は、常温で固形のエポキシ樹脂、該エポキシ樹脂用硬化剤、更に必要に応じて、各種顔料、添加剤等からなるものである。前記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの縮合物に代表されるグリシジルエーテル型樹脂、グリシジルエステル型樹脂、グリシジルアミン型樹脂、脂環式エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂などの常温で固形の通常の粉体塗料用エポキシ樹脂が使用できる。ただし、エポキシ樹脂は、例えば、軟化点60〜150℃、エポキシ当量400〜3000、のものが適当である。軟化点が60℃より低いと、或いはエポキシ基当量が400より小さいと、粉体塗料が貯蔵中固まり易くなり、一方軟化点が150℃より高いと、或いはエポキシ当量が3000より大きいと、溶融粘度が高くなり、それ故平滑な塗面が得難くなり、ピンホール等が発生し易くなる傾向にある。
【0027】
前記エポキシ樹脂用硬化剤としては、通常用いられている酸無水物系、ジシアンジアミド系、芳香族アミン系、有機酸ジヒドラジド系、BF−アミン錯塩系、イミダゾール系、多価フェノール系等が代表的な硬化剤として挙げられる。なお、エポキシ樹脂と硬化剤との配合割合は、各硬化剤の特性に応じて、エポキシ樹脂本来の塗膜性能が発揮することができる公知の範囲内で決定される。例えば、多価フェノール系硬化剤を使用した場合、硬化剤中の水酸基対エポキシ樹脂中のエポキシ基の当量比は(0.7〜1.3:1)の範囲が適当である。酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、シリカ、タルク等の各種着色顔料、もしくは体質顔料、ガラス繊維等の充填剤、更には分散剤、表面調整剤等の各種添加剤を必要に応じて配合してもよい。
【0028】
本発明で用いるエポキシ樹脂粉体塗料は、平均粒径10〜100μmの粒径のものである必要があり、平均粒径30〜70μmのものが好ましい。エポキシ樹脂粉体塗料の平均粒径が、10μm未満の場合、所望するリンクル模様の塗膜とはならず、逆に平均粒径が100μmを超えた場合、塗膜の凹凸差が大きく、意匠的に不都合である。
【0029】
また、上記粉体塗料成分及び上記エポキシ樹脂粉体塗料の色は、同色であっても異なった色であっても所望とするリンクル模様が得られるが、異なった色を用いた場合により意匠性の高いリンクル模様が得られる。
【0030】
上記粉体塗料成分100重量部に対し、上記エポキシ樹脂粉体塗料は、0.5〜10重量部配合する必要がある。配合量が前記範囲より少ないと、意匠性の高いリンクル模様が得られず、逆に前記範囲より少ないと、意図する色調の塗膜が得られない。
【0031】
本発明の粉体塗料の製造方法は、従来から通常行なわれている方法、例えば、各成分の混合物を各成分が架橋反応しない程度の温度にてエクストルーダー、熱ロール、ニーダー等で溶融練合し、冷却後粉砕することにより製造されるが、これらに限定されるものではなく、従来から公知の他の製造方法も採用出来ることは言うまでもない。
【実施例】
【0032】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、実施例中、「部」は重量基準で示す。
【0033】
<エポキシ−ポリエステル樹脂硬化系粉体塗料の調整>
ポリエステル樹脂 注1) 92.8部
エポキシ樹脂 注2) 2.8部
トリグリシジルイソシアヌレート 4.4部
二酸化チタン 45.0部
流動調整剤 2.0部
注1)「ER−8106」(日本エステル社製商品名;酸価35、軟化点98℃)
注2)「YD−128」(東都化成社製商品名;エポキシ当量190)
【0034】
上記各成分をヘンシェルミキサーにて約1分間混合した後、100〜120℃の温度条件下で、押出機(ブスコニーダ−PR46)を使用して溶融練合し、冷却後、バンタムミルで粉砕したものを、150メッシュの金鋼で篩い、エポキシ−ポリエステル樹脂硬化系粉体塗料を調製した。
【0035】
<エポキシ樹脂系粉体塗料の調整>
エポキシ当量900g/当量のエポキシ樹脂(油化シェルエポキシ社製:エピコート 1004F)55部に、硬化剤としてビスフェノールA骨格フェノール硬化剤(ダウケミカルズ社製:DEH−81)12部、表面調整剤としてアクリル酸共重合物(モンサント社製:モダフローパウダー2000)1部、顔料として硫酸バリウム16部、酸化チタン15部、カーボンブラック0.3部を混合し、120℃でエクストルーダーを用いて混練し、出てきた粉体塗料混合物のペレットをピンミルを用いて粉砕を行い、分級機で平均粒径40μmのエポキシ樹脂系粉体塗料を調整した。
【0036】
<実施例1>
上記エポキシ−ポリエステル樹脂硬化系粉体塗料100部に対し、上記エポキシ樹脂粉体塗料2部をヘンシェルミキサー用いて混合し、150メッシュの金鋼で篩い、凹凸模様形成性粉体塗料組成物を作成した。
【0037】
厚さ7mm、大きさ300×300mmの熱間圧延鋼板(SS−400材)を210℃に調整した恒温機中に40分間投入し、被塗物表面温度が190℃になった状態で凹凸模様系精製粉体塗料組成物を粉体塗料静電塗装機(松尾産業社製:MXR−200)を用い、80kvの負電荷をかけ被塗物に対し膜厚が200μmになるよう塗装を行い。その後、200℃に調整した恒温機中に5分間放置し約200μmの塗膜を形成した。
【0038】
<比較例1>
エポキシ樹脂粉体塗料を添加しないことを除いて実施例1と同様に塗膜を形成した。
【0039】
<比較例2>
エポキシ樹脂粉体塗料を15部添加する以外は、実施例1と同様に塗膜を形成した。
【0040】
本発明の粉体塗料である実施例1は、目的とする、意匠性の高いリンクル調の凹凸模様を有する塗膜を形成した。
【0041】
エポキシ樹脂粉体料を添加していない比較例1は、通常の塗膜となり、エポキシ樹脂粉体塗料を過剰に添加した比較例2は、全体的にグレー色の塗膜となった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明で得られた意匠性の高いリンクル調の凹凸模様塗膜の一例である。
【図2】本発明で得られた意匠性の高いリンクル調の凹凸模様塗膜の他の一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体塗料成分100重量部に対し、平均粒径10〜100μmのエポキシ樹脂粉体塗料を0.5〜10重量部混合することを特徴とする凹凸模様形成性粉体塗料組成物。
【請求項2】
粉体塗料成分が、(A)酸価10〜50、軟化点60〜150℃のポリエステル樹脂100重量部、(B)エポキシ当量100〜500のエポキシ樹脂1〜10重量部及び(C)トリグリシジルイソシアヌレート1〜7重量部を含有する粉体塗料組成物であることを特徴とする請求項1記載の凹凸模様形成性粉体塗料組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−91802(P2007−91802A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279946(P2005−279946)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】